新ダンジョンへの案内してるっす。
新人の班長が6名で彼らの班はそれぞれ15名のチームとなってる。
後は純粋な応援部隊として全世界の各地から集められたベテランの聖騎士団団員の幹部候補を40名程連れてきていて、団長のフリッツを含めると総勢137名からなる聖騎士団マイアートン応援部隊。
ベテランの団員がある程度弓が扱えるアーチャーというメチャクチャ特殊な部隊編成になってるようだ。
新人部隊も今朝から全員で弓を練習してるみたい。
弓はある程度まで習得しないと実戦では使い物にならないが、逆にいきなり実戦投入することで才能のある隊員を探してると教えてもらった。
既に新人の5名はアーチャーとしての素質を開花させたらしい。
そもそも応援部隊の隊長のフリッツはアーチャーのマスタークラスで、指導者としての素質も高く教師スキルもマスタークラスだ。
アマテラスもマイアートンで聖騎士団のアーチャー部隊を育成するみたいだな。
この動きもマイアートンの宣伝となるのでありがたいと言える。
聖騎士団の新人班長も含めてみんなで珈琲を飲みながら雑談してると、ようやく船の準備が整ったと連絡員がやって来たようだ。
連絡員を先頭にしてここにいる全員でマイアートンの町の中を歩く。
フリッツは新人班長達に指令を出して不測の事態に備えるように指示。
フリッツ自身もマイアートンに残るので船まで俺達を送るだけだ。
新人班長が連絡員としてマイアートンの各地に散らばる部隊へと走っていく。
桂浜蔵人、エミール・アウレッタ、サウロ・ガリツカヤの3人とそれぞれの秘書、後は護衛の聖騎士団の団員10名。
俺を含めた17名の選抜チームでマイアートン郊外にある新ダンジョンを目指そうとしたら、るびのの眷属達に挨拶を終えたワシントンが俺といたいと駄々をこねてると聞いたのでアマテラスに頼んで転送魔法で送ってもらった。
まぁ、俺がいるマイアートンは銀大熊がいる大草原よりもワシントンが大好きな『ちょっと田舎の農村のような町』だと聞いたからには仕方がないわな。
逆にバッキンガムは大好きな大草原ではしゃいで走り回っているらしい。
カントは銀大熊のリーダー『アキューブ16世』と、俺の嫁のクラリーナと3人がなぜかウマが合うようで相当仲良くなって、ずっと3人でおしゃべりしていると聞いた。
パッと俺の周囲に光があふれるといきなり猫魔獣のワシントンが現れたので緊張が走るが俺が制止して説明した。
「驚かせてごめんなさい。皆に説明してませんでしたが、俺の従魔獣で猫魔獣のワシントンと言います。俺と一緒にマイアートンにやって来ていたのですが町中を歩き回りたいと言ってたんで紹介するのを忘れてました。」
「言ってたんですか?」
「皆さん初めまして。僕はワシントンという名前の猫魔獣です。ボスの早乙女さんの従魔獣です。」
「「「魔獣がしゃべった!!!」」」
ヨークルからきてる聖騎士団の団員は当たり前という普通の状態だが、マイアートンの首脳陣や秘書達は、あまりに驚愕して叫び声のような大声を出してビックリしていた。
警備隊ヨークル支部での大黒豹の取り調べ以降、ヨークルでは『魔獣とは会話ができる』ということが一般常識となりつつあるが、他の都市にには徐々にだか伝わってきつつあるのだが、マイアートンのような農業メインの町では人の流れが少なくてまだ伝わってなかったみたい。
ワシントンの紹介ついでに魔獣は会話できるという事も説明しておいた。
まぁ、実際にワシントンと会話しながらなので説明もクソもないがな。
みんなはワシントンの目の回りの銀色のクマドリを不思議がっていたが、るびのという『白帝』の眷属になったなんて説明したくもないから、見たことない珍しい毛並みですよねって無理矢理に誤魔化した。
マイアートンも白帝によって堀と町の外壁以外は、住民を含む建物など全て消滅させられた町だから仕方がない。
全て原因は争い事を嫌う白帝を狂気に取りつかれて暴走するまで追い込んだシーパラ帝国のせいなんだか、シーパラ連合国となった今でも白帝は恐怖の対象となってる人々も大勢いるし。
17名+ワシントンで船まで歩く。
町を歩いていると住民から挨拶と御礼を言われるが、ちょっと照れ臭いのだが嬉しいもんだな。
俺が大量のポーション類を提供したことで教会関係者が感謝していると住民は聞いて噂になっていたようだった。
今後は桂浜が新ダンジョンの発見者として、また新たな町長として町の発展に貢献することになるから、俺の事は時間の経過と共にそのうち忘れるだろう。
まっ、今感謝の言葉を言われるだけで前町長のクレバとの言い争いで、クレバと共に見捨てようとしていたことを思い出して罪悪感が少しわいてくるが、こうやって平和になった町を歩いているだけで住民に感謝の言葉を言われていると、クレバの秘書に請われてマイアートンの町と住民を見捨てないという選択をして良かったと思った。
まぁ、クレバが私利私欲に走らなければ・・・友人のトリーが世話になってるマイアートンの町を見捨てるつもりも元々なかったけどな。
船にたどり着いてみると・・・俺達の為に用意された船は双胴船。
俺が作ったハウスボートと似ている。
動力もウォータージェット推進で一緒だし。
小さなフェリーのような作りになっていて、フェリーの前後にゲートウェイがついてる船で、大型ゴーレム馬車が今現在2台乗っているのに船の甲板の上はまだ半分以上は空いてる。
甲板の上に簡易的なベンチが固定されていて、人が移動するための船でなく、ゴーレム馬車などを移動させるための船なんだろうというような作りになってる。
俺達が乗り込むとゲートが上に上げられて発進する。
甲板の上は前後が空いたトンネル状になってる。
トンネルを船の上に乗せて上の2階に操縦席をくっ付けたみたいな船だな。
ウォータージェット推進はかなりスピードを上げて、あっという間に俺がゴーレムに作らせた道の、川から見て削り取られている部分に接岸する。
前部のゲートが下ろされてゴーレム馬車が2台ガラガラと走り出す。
前を走るゴーレム馬車の動力部の上に俺とワシントンが座って、俺達を最前列にしてそのまま進む。
一本しか道がないので道案内の必要はないが、結界を張った道路ではないので目の前を普通にアリ魔獣が横切ったりするので、俺が魔法で退治した方が手っ取り早いのでこんな変な場所に座ってる。
俺の太ももの上にワシントンが横たわり甘えているので、俺はモフモフを堪能するかのようにワシントンの全身を撫でまくりながら、時折現れる昆虫魔獣を雷弾で退治してる。
ワシントンも俺に甘えながら雷聖霊を操り退治する練習をしてる。
信号もカーブも何もない一直線の平らな道は2kmの距離ぐらいだと直ぐに到着。
俺も新ダンジョンは暗くなってから遠見魔法でしか見ていないので、目の前まで来るとその要塞型ダンジョンの大きさに圧倒される。
ゴーレム馬車の動力部分に寝そべるワシントンを残したまま、俺は降りて巨大な要塞型ダンジョンを覆う結界の目の前にまでやってくる。
こりゃ凄いわ。
大量のアリ魔獣などの昆虫魔獣がワサワサいる。
Gはいないという報告は聞いていたが、ここまでワサワサしてるとアリでも気持ち悪いな・・・アリと言ってもデカいしな。
白扇子をアイテムボックスから取り出して雷魔法の範囲攻撃『轟雷』を放つ。
バリバリバリバリという空気を引き裂く轟音とともに砂埃が舞い上がり、辺り一面を覆い尽くしていた昆虫魔獣が即死する。
ブランディックスダンジョンの地下10階のボス部屋を攻略したときにも使った魔法だけど、昆虫魔獣にはもったいないぐらいの威力を誇る。
桂浜達に見せる魔法だと『アマテラス様から頂いた神器』なのでという言い訳がないとな。
轟音が治まると全員がゴーレム馬車から降りてきて、先頭にいた鰐獣人のサウロ・ガリツカヤが話しかけてきた。
「いやぁ、凄まじいまでの威力ですな。噂では聞いていたのですが、実際に目の当たりにすると言葉が出なくなりますよ。そちらが噂のアマテラス様から頂いた神器『白扇子』なんですか?」
「はい。どうぞご覧下さい。」
サウロがとても見たそうにしていたので白扇子を閉じてから手渡した。
使用者が俺のみと限定されている神器で、俺以外には嫁達も無理だし神ですら使用する事は出来ない。
装備する事すら俺以外は誰も出来ない・・・安心・安全・安定な仕様となってるので、何も気にしないで渡した。
サウロが扇子を開けて白扇子の表裏に描かれた風神と雷神の絵を興味津々という感じで繁々(しげしげ)と眺めてる。
神器には独特のオーラが出ていて、凄いという事だけはド素人ですら直ぐにわかる。
俺は歩き回って落ちているドロップアイテムを拾う。
アリ甲殻が多い。
サウロ以外のメンバーも拾うのを手伝ってくれた。
辺り一面どころか・・・かなり遠くの方にまで轟雷が広がっていたみたいで、結界と要塞型ダンジョンの外壁をあれほどまで埋め尽くしていた昆虫魔獣は今は全く見なくなってる。
いつもなら転送魔法で根こそぎアイテムボックス送りにしてるが、このメンバーの前では使えない魔法だから自分で歩き回って拾うしかない。
全てドロップアイテムを拾い終わる頃にサウロがやってきて白扇子を返してくれた。
「早乙女さん、すみません。夢中になってしまいました。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい。」
「しかし、誠に素晴らしい品物でした。風神と雷神の絵に躍動感があって・・・見事としか言いようがありません。」
などと会話しながら他のメンバーに白扇子を渡し、全員が見終わるまで立ち話を続けた。
ダンジョンに全く興味のないワシントンをゴーレム馬車の見張りを頼んで結界の入り口まで全員で歩く。
るびのの眷属となったワシントンに対抗できる生物はこの付近には存在しないので、例えマイペースな猫魔獣のワシントンと言えど安心して任せられる。
結界は賢者マスタースキルを持つ俺が張った特別製なので全ての魔物は通れなくなっている。
全員には新ダンジョンの結界はアマテラスにお願いしたと説明してあるので誰も疑う人はいない。
実際のところ封印結界はアマテラスの得意分野なので疑う余地はないが。
僅かに白く輝く幕のような結界に沿って歩いて行くと巨大な石の柱が2本立つ入り口にたどり着いた。
石の柱の間にだけ黒い色の幕になっており、ここが入り口だと分かりやすい。
道と結界入り口を離したのはこの周辺を今後開発して、建物やゴーレム馬車の駅を作るスペースを設けたかったからだとメンバーに説明する。
「早乙女さん、本当に至れり尽くせりでありがとうございます。しかし、何もしていない私が発見者となっても本当に良いんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。俺はマイアートンの発展に陰ながら応援してますって位の立ち位置で丁度良いんです。発見者の名誉を桂浜さんが持ってくれていた方が、評議会や最高評議会を動かしやすくなりますし。冒険者ギルドなどとの今後の交渉もかなりやり易くなると思いますよ。」
「そこまで読んで・・・本当に申し訳ない。」
「まぁまぁ、気にしないで下さい。」
「それなら感謝の気持ちを込めて新ダンジョンには早乙女さんの名前を入れて・・・」
「ごめんなさい。マジで勘弁してください。俺の名前が入っちゃったら発見者を譲った意味がなくなっちゃいますんで。」
「あっ、それは失礼しました。」
・・・あぶねぇ。
昆虫魔獣がワサワサいるダンジョンに早乙女の名前を入れられたら・・・永久に残ってしまうのは精神的にもたないよ。
後で俺の知らないところで勝手に名前を入れられないで良かったわ。
「皆さんはここで新ダンジョンの名前を考えながら待機していて下さい。俺はアマテラス様から結界内の昆虫魔獣をある程度まで間引くようにと頼まれたんで・・・今から行ってきます。」
メンバーが新ダンジョンの名前の話で盛り上がってるところに断りを入れてから、俺は新ダンジョンの入り口から結界内に入っていく。
俺は黒い幕を通り結界内に入っていく。
白扇子を右手で上に掲げて雷幻獣『鵺』を召喚する。
「早乙女の名をもって召喚する! 鵺よ来い!」
バリッ!
空気を引き裂く雷の閃光とともに全長5mを超す巨大な鵺がフワリと俺の目の前に降り立つ。
猿の顔、虎の胴体、背中は狸、しっぽは蛇というキメラの一種の幻獣・・・雷を纏う雷獣とも言われている。
ピューーーピューーーという綺麗な笛のような鳴き声をあげながら近づいてきて、俺に頭を擦り付けて甘えてくる。
3点セット魔法を使わなくてもフワフワのモフモフなので触っているだけで気持ち良い。
いやぁ、この子もモッフモフだわ。
触っているだけでトリップ・・・
いかんいかん、仕事の途中だったわ。
鵺の頭をポンポンと軽く叩くとピュイーーーっと甲高い声をあげながら空中へと飛び上がる。
雷を踏んで空中を走り回り、空を飛んで襲ってくる昆虫魔獣を口から紫電を吐き出して狩りはじめた。
俺も挑発スキルを広範囲に使って結界内に響き渡らせて叫ぶ。
『おらおら、どっからでもかかってこんかい!』
俺の挑発スキルによって触発された大量のアリ魔獣を筆頭に昆虫魔獣がワラワラと突撃してきた。
外から見て結界内は砂埃が舞い上がり視界が悪くなったのを良い事に、アイテムボックスから作りおきしてある忍を10体取り出してドロップアイテムの回収を任せる。
俺が右手に持った白扇子をパッと指し示した方向に雷を飛ばして、飛んだ先の昆虫魔獣の命を奪うだけでなく、敵にヒットした雷が周囲に広がり広範囲の昆虫魔獣を道連れにする。
転がるドロップアイテムを忍が拾い集めるなか次々と狩りまくる。
鵺が狩った昆虫魔獣は退治されて地面に落ちてからダンジョンに吸収されるので、ドロップアイテムは地面に転がってるので忍の回収するアイテムは多い。
昆虫魔獣のレベルが低いのでレアアイテムも昆虫魔獣の甲殻しか出てこないようだな。
まぁ、俺の場合はレアアイテムの比率が通常と比較にならない量となるので、結界の外にいる選抜メンバーに見学されている状況でバレにくいのはありがたいが。
元々新ダンジョン誕生の昆虫魔獣の大量発生。
その中でも外壁の外に出きているのは、中にいる強力な魔獣から逃げる為に弾き出されて、最終的に押し出されてきた雑魚だけ。
なので量が多いだけの雑魚にそんなに時間はかけてられないから鵺まで召喚して一気に狩った。
定期的に挑発スキルを使って集めているし、何体かの忍が要塞型ダンジョンの正面入り口とは反対のダンジョンの裏側まで行って昆虫魔獣を集めてきてくれたので、30分もしないうちに外壁の外側に出てきた全ての雑魚を狩り終わった。
砂埃が薄くなる前に忍は忍術スキルの中の隠者スキルで見えなくなり、気や魔力などの探査魔法ですら発見できにくいほど薄い存在になる。
俺が作ったゴーレムは元より魔力や気はほとんど漏れ出ない作りになってるので発見しにくくなってるから、隠者スキルを使用すると忍者のマスタークラスでないと発見することは不可能だ。
鵺も作業を終えたので目の前に降りてきて頭を擦り付けてきた。
少し撫でてやると満足げにピューーーと鳴くと幻獣界に帰還。
鎌鼬もモッフモフだったけど鵺もかなりレベルが高いモフモフだったわ。
これで新ダンジョン内からの雑魚の大氾濫はなくなるだろう。
俺が退治したダンジョン魔獣の魔力などはダンジョンに吸収されて、ダンジョン最深部のコアに蓄積されダンジョンを維持するためなどに使われる事になる。
仕事を終えて新ダンジョンの結界入り口から外に出ると、選抜メンバーが口を開けたままポカンとして固まっていた・・・目の前で起きていたことがあまりにも衝撃的だったんだろう。
仕方がないわな。
小さい声で・・・
「上級幻獣の鵺を召喚?」
「雷魔法を乱発?」
などと呟いているのが聞こえたので言い訳しとく。
会話が出来たのは1番立ち直りの早かったエミールで桂浜は最後までポカンとしたままだった。
「アマテラス様から頂いた白扇子は風神と雷神の力が使い放題になるんですよ」
「あぁ、なるほど。やっと理解出来ました。」
「それで新ダンジョンの名前は決まったのですか?」
「散々悩んだあげく『マイアートンダンジョン』が1番無難ってことで決定しました。」
「奇をてらったネーミングって意外と浸透しにくい事がありますからね。」
「それなんですよね。変な名前を付けて後で後悔したくないってのが1番の理由なんですけど。とにもかくにも先ずは新ダンジョン発見ということを全世界に発表しないと。」
「とりあえずは俺の仕事はここまでなんで、後はよろしくお願いします。どうしようもなく困った事があればトリーに言って下さい。俺に話が通るようになってますので。」
「早乙女さんに甘えっぱなしになってしまわないように頑張りますよ。」
「最後になってしまいましたが、アマテラス様から頂いた魔結晶です。結界の予備としてこれを渡すのを忘れてましたよ。」
俺がアイテムボックスから取り出したのは、俺がマイアートンダンジョンに張り巡らせた結界と同じのが入っている魔結晶。
これを地面に叩きつけて割れば同じ結界が張り直せる。
アマテラスに渡したのはあくまでも緊急事態に備えてのものなので町の教会で管理してもらう。
町の行政部も同じモノが持っておいた方が良いだろうし。
俺の仕事はこれで完全に終わり。
みんなでゴーレム馬車にまで戻るとワシントンが出発の時と同じ体勢で寝てた。
本当はゴーレム馬車に近寄った昆虫魔獣を全て退治していたが、ワシントンの隠された能力は選抜メンバーが知らなくていいことなので態々(わざわざ)説明するまでもない。
普通の猫魔獣は魔獣退治なんてしないし。
ロータリーをぐるっと回って船に帰りマイアートンまではゴーレム馬車に乗ったまま船で帰った。
俺とワシントンはゴーレム馬車の屋根の上で寝そべってた。
教会に戻るまで少しの時間、町の中を散策させてもらう事にしたので、選抜メンバーとは船を降りた時に別れた。
ワシントンを連れてマイアートンを歩く。
マイアートンは変わっている町で・・・町の中心にある中央広場を中心にして放射状に広がる円形の町。
中央広場付近は行政部や教会、冒険者ギルドや農業ギルドなどの主要ギルド。
その周囲に住宅街が取り囲んでいて、外壁と一体化した倉庫と商店街が外縁部となっている。
外壁の回りは田んぼと畑が川まで続いている。
古びた桟橋の回りは手付かずとなっている空き地が広がっていた。
ここは今は全く使用していないところと聞いている。岩盤が硬い場所みたいでかなり苦労して畑を広げたらしいが、町の門から遠い場所で昆虫魔獣の被害が多過ぎて数年前から空き地となっているようだ。
ここを護岸工事をして新たな港を作りたいと行政部は考えているようで、行政部の職員が何人かで紐を使って色々と計測しているみたいだな。
邪魔をしないように会釈してから立ち去る。
ワシントンが真後ろを歩いているが、時折俺の手のひらに頭を擦り付けて甘えてくる。
周辺を見ながら被害状況を確認して歩くが、桂浜も俺とは少し離れた場所を秘書を連れて畑の中に入って野菜や果物の状況を目でみて手で直接触って被害状況を確認してる。
予想通り田んぼはまだ耕して水を引き込んでいる最中。
苗を植える前だったので被害と言えるものは何もないだろう。
ただ・・・野菜や果物などは相当な被害だ。
齧られていない野菜や果物を探すのが困難なほど大なり小なり齧られている。
これは売り物にはならない。
自家消費できるモノですら僅かな部分しかないだろう。
2・3ヵ月ほど野菜は商売的には全滅と言える。
こりゃ急いで植え替えるしかないわ。
桂浜も同じ結論になったようで秘書が町まで走って行った。
農業ギルドマイアートン支部が全力で即対応しなきゃいけない問題だからギルド員の応援を呼びに行ったのだろう。
桂浜も腕を組んで思案にふけっているようだな。
俺も見終わったので、こっちも邪魔をしないように離れた。
今回のマイアートンでの騒動でアイテムボックスに昆虫魔獣の甲殻が大量にある。
使い道を考えないとな・・・なんて思案にふけって歩いてマイアートンまで戻る。
熱に弱いが柔軟性が相当高く、ある程度の固さ、そして何より金属類とは比較にならないほど軽量な昆虫魔獣の甲殻の使い道か・・・
クラリーナの弟やジュンロー・ユマキの隠し子だったマークタイトにあげた護身用のナイフなんかには最適だな。
アイテムボックス内で様々なサイズの護身用のナイフを1000本ほど、再生の魔法を仕込んだ鞘も一緒に作ったが・・・使用量は1%ぐらい?
・・・全然減ってねぇよ。
誤差の範囲って位しか使ってねぇな。
マジかよ。
無限サイズのアイテムボックスだからできる芸当だよな。
アイテムボックス内の加工では素材を原子単位で分解して再結成させてるから、削りカスとか全くでないから素材がなかなか減らないんだけどな。
昆虫魔獣の甲殻は刃物の側よりも鞘のほうが向いてるんだけど俺は重さとか関係ない。
木製や骨製の鞘だと重さはほとんど変わらないしな。
こりゃ放置するしかないわ。
今も目の前に農家の子供が畑に大量に落ちてる昆虫魔獣の甲殻を拾っている。
値崩れ必死なので市場には流せないし。
商業ギルドマイアートン支部が全て買い取って市場で値崩れを起こさないようにコントロールしてくる筈だし。
屋根や外壁の表面にタイル張りするなどして、需要はあるはず。
それにマイアートンでも護岸工事で使用するから、住民へのサービスも込みで行政部が定価で買い取ってくれるだろう。
俺の後ろでノンビリしていたワシントンが急にダッシュをして畑の野菜の残骸に隠れていたネズミ魔獣を前足でパンチして退治。
咥えて俺の前に差し出す。
たとえネズミと言えども魔獣なだけあって結構デカい。
色も少し紫の模様が入ってるから強そうに見える。
ネズミ魔獣をアイテムボックスに入れると少しドヤ顔をしてるワシントンの頭を撫でる。
口に出して言わないけど・・・犬みたいだな。
しっぽは振ってないがピンと立っていてユラユラとゆっくり揺れてる。
満足したらしく今度は目の前を違うネズミ魔獣が横切ったが、既に興味を失っているようで知らんぷり。
俺が退治してよそ見をしてる間にプイっとどこかに歩いて行った。
俺は気にしないで町の入り口まで歩いていく。
猫はこんなもんだろ。
警備隊のパトロールをしているチームと、すれ違うときに会釈されたので頷きながら会釈をかえす。
半分の5人はアーチャーの格好をしていたが・・・ステータスを覗いた限りでは2人はアーチャーに向いてるので成長は早そうだが、後の3人は少し時間がかかりそうなステータスをしている。
ノンビリ育てていく計画なんだろうな。
正門入り口にはトリーがやってきて、御礼を言われた後に握手をかわす。
「早乙女さん、誠にありがとうございました。早乙女さんのお陰で犠牲者にならなくて済みました。」
「意外とギリギリで間に合ったんだけどね。トリーもマイアートンも全部救えて全部良かったわ。」
「早乙女さんのお陰で俺まで御礼を言われてます。返事に困っちゃうんですけど・・・」
などと話ながら並んで歩きだす。
170cmで華奢な見た目な俺と190cmを超える身長で元からゴツかったトリー・・・警備隊教育を受けて早朝からのトレーニングを欠かさない生活となっている今では、かなりムキムキになっているので・・・見た感じが全然違う雰囲気の2人が仲良く話しをしながら並んで歩いてる姿は結論アンバランスだな。
「それはそうと、トリーって装備を見ると・・・小太刀の二刀流なの?」
「はい。ここマイアートンに来て初日にサウロさんから『スピードと手数で勝負しろ』って言われました。」
「へぇー、他ではあまり見ない珍しい装備をしてるからな。ビックリしたよ。」
「俺自身まだ練習中なのでよくわかりませんけど。」
「この装備なら俺があげたリザードドッグファイターのバックラーは装備できないな。」
「ですんで今は警備隊教育センターで一緒にトレーニングしてる同僚に貸してます。」
「それなら新しいのを作ってあげるよ。バックラーはダンジョンのドロップアイテムだから、そのまま同僚にあげて良いよ。」
「本当ですか? 同僚も喜びます。」
「小太刀の二刀流なんていう珍しい装備をしてるから、俺の創作意欲に火がついてしまったよ」
先ずは籠手を変更だな。
手の甲から肘までをカバーする籠手でアイテムボックス内に余りまくってる昆虫魔獣の甲殻を使用。
拳を握ると拳の先に3cmほど飛び出ていて、この飛び出ている部分だけオーガ鋼を使っていて、拳を握って殴り付けたりする時に刃物のように使える。
腕の外側の部分にリザードドッグファイターの革を張り付けているので魔法耐久力もかなり高くしたモノができた。
小太刀も今トリーが使っているモノを作り替える事にした。
握った感覚を変えないようにするために、刃と鞘の部分を変更して軽量化をすることにする。
刃も鞘も昆虫魔獣の甲殻に変えると鞘を含めた重さは半分以下となった。
籠手の取り付け方を説明しながらトリーに装備させた。
「これは確かに軽いですね。今までの革鎧よりもかなり軽いのはなんでですか?」
「警備隊の制式革鎧って頑丈にするために革と革を貼り付ける時に内部に金属片を仕込むんだよ。それもあちこちに。一つ一つは小さくて軽い金属片なんだけど、量があるから結構重くなるんだ。昆虫魔獣の甲殻だと金属並の固さがあるわりには重さは革よりも軽いからな。ただ、昆虫魔獣の甲殻には欠点があって熱に弱いんだ。革とは比べ物にならないぐらいに。だから籠手の半分、腕の外側にだけリザードドッグファイターの革を貼り付けた。こうすることで熱に対する耐久力は革以上になるけど重さは軽く抑える事ができるんだ。」
俺がトリーに装備の説明してると周りに人だかりができた。
気にしないで説明を続ける。