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こんなに長い式典になるだなんて想像すらしてなかったっす。

しかも何か理由すらよくわからないが・・・今までパイプオルガンが奏でていた曲までもが突如として変更された。

今まで流れていた幻想的な音楽からうって変わって簡略化されたような、行進を促すようなリズムの良い音楽となっている。


どういうことだ???


ここでアマテラスホットラインからアマテラスからの声が聞こえてきた。

それと同時に俺の意識の一部がアマテラスのいる神の世界へと導かれる。

大礼拝堂内に入ったことで神の世界への入口のドアが開いたような感覚がして、そこに俺の意識の一部が吸い込まれていくような感じがした。


ニコニコの笑顔でアマテラスが飛びついてきた。


「うおっと危ない」

「ねぇ~真一お兄ちゃん、私が金の光の粒子を舞わせたら急に式典の様子が変わったことに驚いた?」

「そりゃ・・・今までダラダラ進行してきた行事が急にサクサク進み始めりゃ驚くよ。なんか理由があんの?」

「SSクラスの昇進を私が認めたときは『白金プラチナ』の粒子を舞わせるのが今のイーデスハリスでのしきたりなの。金の粒子の時は『アマテラスはSクラスは認めていても、SSクラス昇進は認めていない』っていう証拠なの」

「なるほどね。そこまで教えてもらってやっと理解できたよ。とはいえ、今の流れからするとSSクラス昇進も時間の問題だろうな」

「私や主神ゴッデス様の要求しごとをこなしまくってるからね・・・ごめんね」

「黙って押し付けられた事に腹を立てていたけど、俺も自分の受け継いだ能力・スキル・経験・・・受け継いだ様々なモノなんかを考えると、やらなきゃいけない事だって理解してるから、前もって教えてくれてることに関しては怒ってないよ」

「ありがとう、真一お兄ちゃん」

「それと先ほど頼まれた仕事の件について俺が独自に調べた情報なんだけど・・・」


俺はヘルプさんがゴーレムを使って集めてきてくれた情報を、惜しげもなくアマテラスに情報複製魔法を使って全部流した。


「う~~ん、私が考えていた以上にひどい組織みたいね」

「ボクスベルグ商会の首都シーパラにある支部とウェルヅリステルに隠された本部、その両方を今夜中に抹消する方向でいいんだよな?」

「うん。両方いっぺんにでも大丈夫?」

「それは俺が単独でやってもゴーレムたちに任せても、どうとでもできるから、なんの問題もないんだけど・・・つーか、今後のことを考えると・・・シーパラの方は聖騎士団と露草桜のチームで壊滅させた方がよくないか? って思ってさ。」

「??? どうゆう意味?」

「今後の為にも『目に見える形の成果』ってのを残した方が聖騎士団の為になるだろうし、アマテラスの信仰力を高めるうえで必要じゃないかってことさ。今回の経験をたことによる聖騎士団の今後の為にもね。逆に・・・秘匿されているウェルヅリステルの地下本部の方は俺が闇から闇に葬り去ればいいって事の方が俺たちにとって都合がいい・・・本部で得た極悪非道な情報は聖騎士団と教会関係者には知らなくても良いことだからな。それに俺が桜につけたゴーレムの『シェリアス』と『コースケ』なら聖騎士団の突入チームを守り通すことが可能だ。シーパラ支部の方は厄介な敵はいなそうだし」

「なるほど・・・シーパラ支部の方は守りも緩いし、しかも名目上は”ボクスベルグ商会本部”ってなってるから可能だね。魔薬の違法取引現場に桜ちゃんも同行するなら私の加護が付与する事ができるるから守りも堅くなって・・・これはいける」

「そうゆうこと。影ながらの護衛の意味で俺のゴーレムも何体か同行させれば失敗する確率はほぼないだろう。」

「真一お兄ちゃん、ホントにありがとう。今まで私が作りたかった『聖騎士団の突入専門チーム』の育成まで考えてくれて」

「それは知らない事だったから、ホントのただの偶然だな。それと・・・今回の突入チームにシーパラ連合国聖騎士団総長『ミハリス・ウィンターボトム』を中心に幹部候補の若手を何人かつけて・・・って考えてる?」

「うん」

「今回は絶対に安全とはいえ・・・危険な部分は多いから突入するチームのメンバーを今からでも変更したほうが良い。敵が魔薬を使って反撃してくる可能性は高いから、ある程度は自己判断で臨機応変に動くことが可能な経験豊富な”ベテラン”をチーム編成の中心にした方が良いだろう。若手は次回に回すか後詰で周辺警備に回した方がいいよ。俺が付ける護衛のゴーレムは最悪の場合を除けば、なるべく活躍しないほうがいいし」

「なるほどね・・・」

「俺のもらった経験と知識からの助言だな。それに今回のボクスベルグ商会突入後に得た情報によっては、シーパラ連合国のみならず、イーデスハリスの世界各地に突入するべき状況は増えそうな予感がする・・・というヘルプさんの意見もあるし。教育は初回のみは安全最優先にして経験稼ぎは後回しでもOKだろう」

「あ、そうか。」

「それでももし万が一、無理をしなきゃいけない場面なら俺が必ず助けるし、最悪の場合を想定して影ながら護衛の忍と徒影を同行させるんだから・・・今回は育成の場というのは後回しにして第一目標を目に見える形として、まずは”成果”を得るべきだよ」

「そうだね。うん、準備するね。」


そんなアマテラスとの神の世界での会話と同時に俺の冒険者Sランク昇進記念式典は着々と進行してる。

先ほどまでの行進のスピードが嘘のようにスイスイ進んでる。

・・・進んでるのは良い事なんだが、俺はこの行事の進行表も知らないのであとどれぐらいかかるのかもしらねぇ~んだけど。


『自分の昇進の記念式典で自分が一番何にも知らないってのは問題じゃないのか?』

などとくだらない思考が並列する思考の中で繰り返されていく。


マイアートンに派遣してるゴブリン組のゴブリン三郎から『マイアートン昆虫魔獣大量発生被害対策本部』から視察に来た若手(イケイケの情報が入ってきた。

自分たちのいる場所からマイアートン川の対岸にいる2・30m先のアリ魔獣を中心とする大量の昆虫魔獣のあまりの量に絶句してるようで、俺が繰り返し話していた事を自分なりに想像していたらしいのだが、想像をはるかに超える昆虫魔獣の大量発生という事態を、実際に目の当たりにしたことで絶句している。

彼らが絶句して大人しくなっている間に、天然の川をお堀とする防御陣地の持つ防御力ってのを同行したサウロ・ガリツカヤがわかりやすく説明している。

それと俺の派遣したゴブリン組のゴブリンアーチャーを中心とした空を飛ぶ飛行昆虫魔獣の撃退を目の当たりにして、今回の偵察に警備隊の面々も俺の説く・・・


『対昆虫魔獣においてのアーチャーの重要性』

ってのを実感してるだろう。


これこそ百聞は一見に如かずだな。

・・・俺の予想通りの反応となってるようだ。

この最前線での『現地視察の重要性』も今回の騒動で得た経験となるだろう。

これでまずはマイアートン周辺が落ち着くまで無理な出撃は提案できないと思う。

その間に俺は部下の魔獣たちとゴーレムを使って新ダンジョン発見と封印を施せる。

新ダンジョンの発見の名誉そのものはマイアートン副町長『桂浜かつらはま蔵人くらひと』に譲ろうと俺は勝手に計画してる。

その方が桂浜蔵人に名誉と人望が集まりやすいし、俺が密かに計画する『クレバ・コンドリフ』マイアートン現町長の排除がしやすくなるだろうし・・・

エグイ作戦となるが、自分の利益のために俺の抱える秘密の開示に異常なまでにこだわるクレバは俺の周りどころか、俺の友人・知人の周りにも必要のない存在となった今では、当たり前と言える措置だろう。


反逆の目はできるだけ早期に発見し、どうやって早くむことができるのか?

というのが肝心だと、俺のもらった経験と知識も訴えている。

反逆どころかただの出歯亀デバガメかな?

それでも『敵の敵は味方』ってのを実践する計画になってる。


それと・・・たった今、早乙女工房にいるユーロンドからの一報で、複数の賞金稼ぎチームがやってきて早乙女工房のゴーレム馬車駐車場にゴーレム馬車を停車して、おにぎり販売に並ぶ大勢のギャラリーに向かって大声で騒いでいるようだ。

俺の遠見魔法と地獄耳スキル魔法をユーロンドにセットして観察することにした。


「・・・つーわけで、ゴーレムを欲しがってるクライアントがたくさんいてなぁ? このゴーレムには大金がかけられてるんだ! そんなわけで我らシーパラ連合国最強の賞金稼ぎチーム『突撃暴風隊』と!」

「我ら『スコーピオン・スティンガー』!」

「我ら『スプデッドゲイル』!」

「この3チーム49人が共同してこのゴーレムをいただいてく!」


えっと・・・はぁ?

正々堂々とした泥棒宣言ですか?

そこからは見てるだけで可哀想になってくるレベルの戦い・・・いや、戦闘レベルに違いがありすぎるので『おしおき』もしくは体育会系の『説教』ってレベル。


ユーロンドに鋼線を巻きつかせて引っ張ろうとするも未遂。

ユーロンドが少し体をひねっただけでプチプチ切れる鋼線じゃあなぁ・・・もうちょい高級で頑丈な鋼線を使おうや・・・まぁ、それでも通用しないけどね。

ユーロンドに隷属の首輪を巻いてる・・・そんなんロボに巻くなよ! 効くわけないやん。

案の定、装備しようと何度も挑戦してるが装備できるはずもなくポロポロ外れる・・・

せやろな・・・そんな感じ。


ユーロンドを力自慢らしき男たちが引っ張るが微動だにせず。

えぇっと・・・ここまでくると、どこからツっこめばいいんだろうか・・・


観客から乾いた笑いと失笑すらもここらあたりで消えかかってきたところで・・・自分たちが計画していたことが何一つ通用しないので破れかぶれで剣を抜きユーロンドに切りかかってくる。

が・・・意味が分かんねぇ。

略奪の依頼をされた商品を強奪しに来て傷つけんなよ!

クライアントが怒るか罰金モノじゃね?

っていっても、傷すらつけられないほどの低レベルなんだけど。

旧紫村道場の奴らといい・・・この程度の実力で問題行動の前の前口上でこれだけ威張りちらせるのは、違う意味で感心する。

奴らにとっての最後通牒のユーロンドの言葉が発せられた。


『貴方達を襲撃者とみなしてこれから強制排除を行います』


ユーロンドたち(と言っても2体のみが動いた)が攻撃を始めると俺とヘルプさんの見立て通り、49人もいて1分も持たなかったな。


と、そこに俺が予想してなかった事態が起きた。


聖騎士団のゴーレム馬車が次々表れて49人のバカを無言のまま、手配書らしき紙と確認しながらゴーレム馬車に放り込んでいき、最後にユーロンドのサインと聖騎士団が取り出した魔水晶にゴーレムの登録カードをかざして手続きまで完了。

そして・・・早々に立ち去ったのだった。

ユーロンドの最後通牒が発せられてからまだ5分もたってない早業に、おにぎりを買い求めに来た客のなかでも『国軍』『警備隊』『最高評議会』などに勤める人達すら、思わず拍手してしまってるほどの早業だった。


「おおおお・・・用意周到だな、アマテラス」

「さっき真一お兄ちゃんが言ってた突入チーム見習いの聖騎士団の見習いの子達よ。中々のモンでしょ?」

「確かに優秀な若手だな。まぁ・・・後は実戦経験だけってところかな?」

「うん」

「こんなにも将来有望の人達には、なおさら今夜の突入はやめたほうがいい」

「うん。それはもう今夜の計画からは外したから今が浮いていてね。真一お兄ちゃんに見てもらうためにも今の回収作業をさせたの」

「確かにアマテラスのお気に入りっていうのも納得の若手だな。それと・・・俺のにとっては煩わしい本人確認作業からすでに解放されてるし、ユーロンドで対応できる事をさらにスピードアップ出来るのはありがたいけど・・・無理はしないでいいよ」

「これは真一お兄ちゃんに今の若手を見せたかっただけで今回だけのサービス。シーパラ本部の聖騎士団も忙しくなりそうだし、早乙女工房は今まで通りにいくつかのパトロールのコースに組み込まれてるから、今後も退治した暴漢たちは帰り際に回収する手はずになってるよ」

「俺にとってはそれだけで充分ありがたいよ・・・暴漢を退治しても放置してるだけで聖騎士団や警備隊の連中がこっちに寄ってくれて処理できるだけで充分だよ」


「そういえば、真一お兄ちゃんにお礼を言わないとね。シグチスでアマテラスの名前を使っていろいろしてくれたおかげで、シグチスでの私への信仰心がレベルアップして、私の力でも色々とできるようになりました。ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」

「それに真一お兄ちゃんが潰してくれた『亡命政権の残党』から奪い取って本国に送り返した”金”と”多くの武器や防具やアイテム”などで、本国の方も私への信仰心がものすごく伸びてきてるの」

「それはよかったな」

「真一お兄ちゃんがレオーン・ゲッペンスキーに話した『本国とシーパラ連合国の国交復興で本国に大至急食料を!』って事で魔導テレビを使った極秘会談が成功して、すでに緊急支援食糧って形の支援が決定したのも大きいの」

「まぁ、あの腐れ外道どもの情報複製魔法で得た大量の情報を整理したヘルプさんからの助言を元に考えたら・・・緊急の支援が必要なほど本国の食料事情は逼迫ひっぱくしてるってのは、簡単に想像できることだしね。国を治めるうえで『慢性的な食料不足』ってのはハンデが大きすぎるだろうし」

「だからこその信仰心のレベルアップが大きいの。早急に国としても落ち着きを取り戻す為にも・・・真一お兄ちゃんに教えてもらった『本国の食料不足による政治不安』を解消するためにも、私の転送魔法でシーパラ大聖堂に蓄えられていた救援物資と、シグチスでの籠城用に蓄えられた食料を本国に送って無償で炊き出しを開始したのも大きかっよ」


「人って腹が満たされてると『無謀な事』をしようとは思わなくなる人が大半だからな。将来に光が見えるって思うだけでも不平不満の大半は解消されるもんだ」

「うん、そうみたいね」

「腹が減って絶えずイラついてるってのは危険極まりないもんだ。それが日常化した社会はどこかで限界を迎えて爆発・・・そんな政権交代の歴史ってのは地球上でも繰り返し行われてきた現実がある。国を治めるうえで一番大切な事と言っても過言じゃない」

「・・・そうね。真一お兄ちゃんに指摘されるまで見落としていた部分・・・恒常的な食料不足による政情不安っていうのが、真一お兄ちゃんに指摘されるまで私もゴッデス様も完全に抜け落ちてました」

「10年も食料不足が続いてて、よくも今まで持ったな・・・っていうのが俺の率直な感想だ。普通は政情不安で社会が混乱してもおかしくない状況だし」

「真一お兄ちゃんに殺された4人の神が、自分たちが楽しむためだけに仕組んだ策略だったの。だから本来なら革命が起こって革命政権が誕生したのをきっかけに、シーパラ連合国との国交断絶から食料不足がおこって政情不安で政治的にも社会的にも大混乱が起こって国は崩壊していたと思う。ただ・・・真一お兄ちゃんが4人の神によって仕組まれたシナリオごと全部ブッ潰しちゃったから、革命直後から革命政権内でも主導権争いは話し合いによって行われ暗殺や潰しあいもなく、革命政権に対する反対勢力が1つにまとまることもなく、宙ぶらりんな状態のまま10年という月日を維持できてたみたい」

「ムッチャクチャじゃね~か。アマテラスは仕事してないのか?」

「私の神の奇跡を使って豊作続きにして・・・私なりにがんばっていたんだけど、大口の食料輸入先であるシーパラ連合国に逃げ込んで全ての混乱の元凶であった『’元’独裁政権』が逃げ込んだ先が、私の神の力が充分に発揮できない場所の『シグチス』で、元凶の独裁政権の中枢部を、信仰心不足で私の力が充分に発揮することができなくて潰すことができなかったの。それに私とゴッデス様には『食料不足による政情不安の危険性』はある程度は危険視してはいても、『わたしたちは食事しない』ってことで深刻な問題だって真一お兄ちゃんに指摘されるまで気づけなかった」

「なるほどね。それなら仕方がないわな」

「真一お兄ちゃんが止まっていた歯車を強引に回してくれたおかげで、シグチスでも本国の革命政権もこれから良い方向に回っていくことになりました」


「今後はこの件を参考にして・・・もうちょっと自分たちでできるようにしてほしい! ってのが俺の率直な感想だな。豊作続きにしたって本国の人口と作物の収穫状況を考えれば、本国のみの生産量では限界を軽く超えてるというのは理解できたはず。農作物の生産量には国ごとに限界があるけど、本国の場合は元々の食料の生産量が少ないっていう環境の中で、我慢し続けていたんだから・・・そうとうに我慢強い国民性だったってのが1番大きいだろうな。そうじゃなかったら10年も食料不足の状況が続き、その先に光が見えない状況だったら政治不安ってレベルでなく、すぐに政局不安定の状況になった後、クーデターが何度も起こって国家そのものが存続できないレベルだろう・・・俺が消滅させた4人の神が描いた最悪のシナリオ通りにね・・・」

「最悪の状況から脱出できてホントに助かりました。本国の人々が望んでいた『安定した食生活』は、かなり良い方に進む事が出来たから、今後は私の手助けはそこまで必要なさそう」

「それはそうと・・・」


俺とアマテラスの雑談は進んでいってるように、俺のSランク昇進記念式典も順調に進んでる。

さっきアマテラスが教えてくれたように、俺のSSランク昇進がアマテラスに否定してもらったおかげで、SSランク昇進記念式典とは変わって、Sランク昇進の記念式典用の進行スケジュールに変更されたのが主な原因だな。

やっとここにきてメインステージの自分の席に座るように誘導されて、仕事を終えた聖騎士団の面々はステージを降りてステージ脇に並ぶ。


司会者らしき人がステージ脇に魔動マイクを持って立ち・・・ようやくSランク昇進記念式典の本番が開始されたようだ。

冒険者ギルドのAクラス昇進の時の大観衆の前での記念式典とは違って、司会者も観衆を盛り上げようというそぶりさえなく、淡々と式典は進行していく。


まっ、本来の昇進記念式典というものはこんな厳然たる雰囲気の中で行われるものなのかもしれない。


司会者から俺の名前をいきなり呼ばれたのでびっくりしたが・・・舞台中央に行って冒険者ギルドカードが交換されるようだ。


進行表をもらってないとこういう時に困るな。


椅子から立ち上がり左腰に装着している早乙女儀剣の鞘を左手で握ったまま舞台中央まで歩んでいく。

舞台中央まで来ると左手を鞘から離し、すでに舞台中央に立っている冒険者ギルドのシーパラ連合国本部ギルドマスター『アクセル・ビッタート』に向かって騎士のように優雅に一礼。

アイテムボックスから取り出した自分の銀色の冒険者ギルドAランクカードを、左手と右手をそろえて差し出した。

代わりにビッタート卿から手渡されたのが、金色に光り輝くSクラスの冒険者ギルドカード。

俺が手を伸ばしてSクラスカードを上に掲げると、昇進記念式典会場となってる大聖堂内で万雷の拍手が沸き起こる。

拍手が数分続いた後に司会者の指示で自分がいた元の席に戻って着席して、司会者の発言によってこれで記念式典の前半戦のパートが終了したようだった。


今から30分ほどの休憩をはさんで記念式典は再開されるという司会者の声とともに、観覧席やステージ上の人まで立ち上がってワイワイと雑談が始まったり、新たな挨拶がはじまったりしてざわつき始めた。


すると真っ先にイワノスが2人を連れて俺に挨拶にやってきたので、俺の周囲に群がろうとしていた人々を一歩引かせる事になった。


「早乙女君、冒険者ギルドSランク昇進おめでとう」

「こんにちわ、イワノスさん。ありがとうございます。ところでそちらの御二方おふたかたは?」

「早乙女君にぜひ紹介したい二人でね・・・『角館裕仁』君と『ライモンド・ケミライネン』君だ」

「初めまして早乙女さん、まずは謝罪から先にお願いします」


一人がそう言うと二人で腰を深く折って謝罪をしてきた。


「角館家を”代表して”謝罪させていただきます。角館裕仁と申します。この度はどうも申し訳ございませんでした」

「ケミライネン家を”代表して”謝罪させていただきます。ライモンド・ケミライネンと申します。この度はどうも申し訳ございませんでした」


二人のとても丁寧な謝罪に俺は了承して受け入れる。

しかもケミライネン家と角館家の両家を『代表して』という言葉を強調してきた・・・これは周囲に聞かせるための舞台になった・・・これもイワノスの脚本だろうな。

ここで両家と俺が公式の場において正式に和解をしたという事も盛り込んでいるんだろう。

俺は一方的に迷惑をかけられ続けていたが、トップが変わって今後迷惑さえかけられないのであれば和解に異存はないし、この二人には俺の直感では『信用できる』と思えるので了承することにした。

謝罪の後ぐらいに俺の4人の嫁やおやっさんたちも近くにやってきたので、それからは全員の自己紹介・・・人数が多いので長々と挨拶が続くなか、その後も俺が以前から知ってるシーズの各家や最高評議会の面々も加わり長い長い挨拶合戦が終わると、会話は雑談に移行していこうとした時にはすでに休憩時間は終わりを告げた。


俺だけが周囲にいる大勢の人達の挨拶とおめでとうとの言葉を受け取っただけで周囲では雑談話に花がさきほこっていた。

それと会話の途中でカレンに教えてもらったのだが、カレンが冒険者をやめる前によく依頼を受けていたのは・・・昔から海外からやってくる盗賊が多すぎて収拾がつかなくなっていたシグチスに馴染み深いシーズの『フォンマイ商会』らしい。

まぁ、カレンが転生してきた場所がシグチスに近い『イニエスタ』の町に転生してきたんだし、イニエスタ家やイニエスタ商会と関係が深く親戚関係のフォンマイ商会の依頼を数多くこなしてきたのは、まぁ当然の事と言えるだろう。


カレンがフォンマイ商会から請け負う仕事はカレンの本業ともいえる『盗賊退治』が専門で、他の商会から時々請け負う『産業スパイ』はしてないという事もついでに教えてもらった。

カレンが時々していた『産業スパイ』の仕事は、冒険者ギルドを通じた別の商会からの依頼だったようだ。

フォンマイ商会の依頼はシーパラ湾内の海賊退治を始めとした・・・海賊の根城に襲撃する専門の海賊退治と、大森林の河川周辺に潜む川の盗賊退治をしていたらしい。

フォンマイ商会はシーパラ連合国の流通の『川を利用した海運(ヨークルへの河川を利用したコースが一番被害が多かったようだ)』と『馬車を使った陸運』の絶対的な安全性が必要不可欠。

運輸においての安全性を確保することは会社にとって必要不可欠なモノだから、カレンが街道沿いなどに出没する盗賊を片っ端から潰しまくった影響はかなり大きいだろう。

特にシグチスからヨークルへと続く河川周辺の大半が大森林の中にあるので、生半可な軍隊や冒険者チームでは逆に撃退されてしまったりして、カレンが盗賊を潰しまくるまでは『盗賊に金を払うしか安全に通行できる方法がない』状態だった。

無論、緊急時のみの対応であって、多額の運賃が発生してしまうために通常時には使えない。


シーパラ湾内だとシーパラ国軍も随時見回りを行ってるし、シーパラ湾内の漁師による監視の目もあって、すぐに国軍が撃退できたようだが・・・大森林に潜む盗賊の退治は骨が折れる依頼だったとカレンに教えてもらった。

何しろ外国を追われてきた盗賊連中がシグチスから次々と入り込んでくる状況。

しかもカレンの場合は盗賊連中から賞金を懸けられているので、シグチスやイニエスタの町中といえど安心できないような状況下での盗賊退治。

それに偽情報も数多くあって、何度も待ち伏せにあって盗賊から襲撃されることも多かったようだ。

まぁ、待ち伏せ襲撃してくる奴らも盗賊関係者なので退治する方針に変更はない・・・むしろ一石二鳥でまるごと潰すことができるので楽だったようけど。


カレンの話では・・・カレンのチームは『少人数による敵の拠点への潜入からの撃滅ゲリラ戦』に特化したチームなので、逆に町中などでゲリラ的に襲われてる時の方が苦労したらしい。

それだけでなく・・・4人の神による悪意がしばしば、カレンをより過酷な状況での仕事へと追い立てるので、カレンのチームは鍛えられまくった結果になったので・・・結果からすれば良かったんだろう。


それと・・・挨拶ついでに、イワノスの嫁である『リュドミラ・ゲッペンスキー』に「旦那イワノスと一緒に君とスパーリングがしたい」と頼まれてしまった。


リュドミラはイワノスと背格好が少しスリムなだけで年齢もほぼ変わらない『ヒョウ獣人』。

イワノスから軽く説明を聞いたのだけど・・・中央大陸にある獣人王国から流れてきた格闘家で専門はキックボクシング。

目をキラキラさせながらのお願いだったので上手く断ることができないまま・・・昇進式典の後にイワノスと一緒に冒険者ギルドシーパラ支部の雨天用の屋内練習場(ミーの決闘騒ぎがあった場所)で公開スパーリングになってしまった。

周囲にいた野次馬連中までついてきそう・・・っていうか、会話中に偶然隣にいたアクセル・ビッタートまで便乗して加わった、イワノス・リュドミラ・ビッタート卿の3人と公開スパーをする羽目になってしまったよ。


フッフッフ、歩いて旅する最中に荷物がどんどん増えていくような感じがするなぁ・・・


次から次へと荷物が増えていってる事に頭を悩ませながらも、俺の冒険者ギルドのSランク昇進記念式典は再開された。

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