マイアートン周辺に新ダンジョンが発生したんすか?
マイアートンを救出することに手助けすることは何の異議もないが・・・クレバが部屋の中からギャーギャー喚いてウルサイので部屋に音漏れ防止の封印とドアの開閉禁止結界を張り、マジでクレバを監禁してやることにした・・・俺からすれば邪魔でしかないからな。
話を続ける。
「まぁ、俺からすれば『余計な詮索は止めてね』って程度の話でしかないんだけど」
「それは大丈夫です。このマイアートンが・・・マイアートンに住む市民が生きていけるのであれば、こちらは何の文句もありませんし充分です」
「早乙女さん、私から謝罪させてください。私の不注意から困らせてしまって申し訳ありません」
エミール・アウレッタ警備隊教育センター長が丁寧な謝罪してきたので受け入れる事にする。
それでマイアートン町長『クレバ・コンドリフ』を町長室内に監禁したまま、ドアの前で今後の協議を始めた。
俺からの要求として、まず・・・警備隊は全力でマイアートン内に侵入している昆虫魔獣を殲滅することに集中してもらう。
早乙女ゴブリン組にはマイアートンの外で町の中に侵入してくる昆虫魔獣の排除を中心に行動させるという提案をする。
これはすぐに受け入れられて、エミールは部下に命じてマイアートン警備隊の全軍をマイアートン内に侵入した昆虫魔獣の殲滅に全力を注ぐように指示を出す。
2名の部下が指示書を持って走っていった。
そこにマイアートン教会の聖騎士団が到着して話し合いに加わってきたので、場所を移してマイアートン緊急作戦本部が作られる事になった。
とは言っても・・・さっきのマイアートン町長室の隣の部屋『マイアートン大会議室』なんだけど。
会議を続けながらも俺は並立する思考の中でヘルプさんにも手伝ってもらいながら、ゴブリン達に指示をだして、今やマイアートン正門前だけでなく、残りの2つの門の前からも昆虫魔獣は殲滅できた。
マイアートンの外に出ていた人達が怪我を負っているとはいえ、無事に帰還出来た事と一緒に、マイアートン内に侵入してくる昆虫魔獣の数が明らかに減ってきてる状況の中で次第に落ち着きを取り戻しつつある町の中から、多くの情報が続々と大会議室に集まり始めた。
合流した聖騎士団には市民の治療を優先して行ってもらえるように、会議に出席中の忍のアイテムボックスから大量のポーションとMPポーションを取り出してテーブルの上に並べ提供させた。
聖騎士団の団員がアイテムボックスの中に入れて運んでいく。
もともと昆虫魔獣による被害は警備隊隊員や聖騎士団の活躍もあって、マイアートン市民の被害者は軽傷のみという報告だし、元々攻撃力の低い昆虫魔獣のみの襲撃なので、これだけの量のポーション類があればしばらくは聖騎士団のみでも治療可能だろうから、頑張ってもらうためにMPポーションを多めに渡しておいた。
俺やゴーレムが治療して活躍するよりも、今後の事を考えると聖騎士団や司祭などの教会関係者が治療を担当して、警備隊の職員や教官、警備隊の訓練生や冒険者見習いなどが昆虫魔獣退治に活躍する方が健全と言えるだろうし、あくまでゴーレムは陰から支えるバックアップ要員の方がいいだろう。
町の外の事は町民には分からないのでゴーレムとゴブリン組に任せさせてもらう。
マイアートンの町の外で活動している忍やゴブリン組からの報告、そしてまたフォクサの指示と転移魔法による急襲で新たに活動し始めた森林タイガー達からの報告が続々と上がってきて、ヘルプさんによって整理されているが・・・今のところ、何らかの黒幕らしき影は見えないようだった。
ただ少し気になる情報があって・・・マイアートンの町の周囲にあって昆虫魔獣から守るためにあるように作られ堀の役目を果たしているマイアートン川から離れた場所にはアリ魔獣の姿が大量にいるようだった。
昆虫魔獣を操っているのは昆虫魔獣の最上位主なんだろうか・・・さすがにまだ原因究明にまでは至ってないが、シーパラ連合国に敵対する外部勢力によって起こされたテロ行為とかではなさそうだが・・・これは引き続き調査を頼んでおく。
今のところアリ魔獣の姿が濃すぎて調査は難航しそうだという報告をヘルプさんから受ける。
それとサソリ魔獣やカマキリ魔獣などの普段は群れて活動しない魔獣も多く混じってるという。
ヘルプさんから・・・昆虫魔獣は特殊なフェロモンを放出して群れを統率する習性があり、特殊な上位種は他の種族をも統率できるという過去のデータがあると教えてくれた。
う~~ん、このデータを考えるとアリ魔獣の中で特殊な上位種が発生したのか、という疑問が浮かび上がってくる。
それに関しては別の疑問もある。
トンボ魔獣やバッタ魔獣のように空を飛んでマイアートンに襲い掛かってきてる魔獣がアリ魔獣を運ぼうとしてない。
アリ魔獣の特殊な上位種が命令を下している、もしくは蟲使いもしくは昆虫魔獣テイマーが陰で暗躍していいる場合、主力であるアリ魔獣を渡河させていないのは大いなる疑問だろう。
アリ魔獣の脅威の主なる部分はその『数の多さ』にたどり着くからな。
ブランディックスダンジョンが10F・20F・30Fが最近まで全く攻略されていなかったのは、昆虫魔獣の数の暴力で数多くの冒険者たちを葬ってきたからだ。
その数の暴力に任せて女王アリ魔獣の希少魔獣や皇帝アリなどの存在が疑われるが・・・ここからではよく分からない。
今ある情報も少なすぎて・・・予想するだけならまだしも、判断できる段階になってない。
アリ魔獣の大半は羽のない魔獣なので マイアートンの周囲の水田の外周部にある用水路を飛び越えられない。
早乙女ゴブリン組もまだ今はマイアートンの町を取り囲んでいる外壁周辺しか展開していないし、忍はマイアートンの外壁の外にいる生存者の救出を最優先にしてるので・・・まだ調査できる状況ではない。
だがしかし、仮に何らかの組織や勢力が黒幕にいたと仮定しても・・・なぜマイアートンを最初の襲撃地点に選んだのかは回答に困りそうだ。
マイアートンの町の歴史は古くても街そのものには何の旨味もない場所なんだけど・・・でも、それを言ったら裏の奴隷販売組織に狙われていたバイド村の方がもっと辺鄙な場所にあるな。
バイド村に比べたらこのマイアートンは川で繋がっているので、シグチスにもヨークルにも首都シーパラにも繋がってるし・・・シグチス湾内にある島で外洋船に乗りかえられれば、マイアートンから全世界へと船で繋がれるから、コッチの方が魅力は大きい。
しかしバイド村と違って都市ヨークルとは船で半日も掛からない場所にあるので、国軍からの反撃はバイド村の比ではない。
そもそも警備隊の訓練学校と冒険者養成学校があるこのマイアートンは、防衛力のみに関しては下手な地方都市を遥かに凌駕する。
それに・・・例え襲撃に成功してマイアートンを乗っ取ることができたとしても、数日後にはシーパラから国軍が乗り込んでくる場所だから、今度は防衛戦で何日持たせることができるのか甚だ疑問が残る。
マイアートンの防御力は町の周囲を取り囲む水田と、さらに外周に位置する場所にマイアートン川と取り囲まれるように作られた用水路で『堀の役目』を果たしているからだ。
船から攻められると逆に逃げ場を失うし、防御力の大半を奪われる事となる。
もしかして・・・そんな分の悪さを遥かに凌駕するレベルの旨味がマイアートンを乗っ取ることで得られる”何か”が眠っているのかもしれない。
が、俺の貰った記憶や知識・・・それにゴッデスやアマテラスから貰ったMAPにもそんな情報は無い。
念のためにヘルプさんに確認してみたが・・・何も答えは無かった。
ヘルプさんの中にあるデータは・・・俺が何十人もの転生者から貰った知識や記憶、ゴッデスとアマテラスからもらった知識しかないので俺の持ってるデータとたいした違いはないが、忍や徒影が『ヨークル』『首都シーパラ』『ドルガーブ』『シグチス』そしてここ『マイアートン』などで情報収集してきたデータも加わってるので、俺が知らなかったデータがあるかもと思ったのだけどなかったようだ。
ってことは・・・今回の事件に既存の裏組織は係わってないのかもしれない。
だけど海外から侵攻してる可能性もあるので否定できる要素は少ないな。
マイアートンの場合は市長が向上心が強すぎてつけ込む余地は多いのだろう。
などと色んな事を試行錯誤して悩んでる間にもマイアートンの町の内部の昆虫魔獣の駆除は進んでいるとの報告が、次々と対策本部に寄せられてくる。
対策本部の中で不在の町長の替わりは副町長が代わりに務める事が決定した。
マイアートンの副町長は長年マイアートンに住んでいる町の有力者で、農業ギルドマイアートン支部の支部長を務めているクマ獣人の『桂浜蔵人』が俺に挨拶をしてきた。
「早乙女さん、初めまして。副町長をしている桂浜蔵人です。桂浜とお呼びください」
「早乙女です。以後、よろしくお願いします」
「早乙女さんにお聞きしたいのですが・・・今回の昆虫魔獣の大襲撃での農業ギルドが受ける被害なんですが・・・」
「まだ水田には田植えをする前なので被害はほぼないと言えますが・・・今のところ野菜の被害はかなり大きいとしか言えません。果実類はまだ実がなる前の状況なので・・・いえ、葉っぱ等の被害が大きすぎて、かなりの被害だとしか言えません」
「今回の大襲撃は人命最優先で間違いないのですが、被害はあちこちに及びそうですな・・・正直に教えていただきありがとうございます」
「いえいえ、被害は正確な数字が出てくるまでには時間は掛かりますが・・・」
「それはこちらで請け負う仕事なので、早乙女さんは昆虫魔獣退治に集中して下さい。我々、農業ギルドの考える事は・・・その先の事ですね。『今後の昆虫魔獣の襲撃をいかに未然に防ぐか?』これだけです」
「確かに・・・未然に防ぐことができないと、このマイアートンでの農業は壊滅してしまいますからね」
「そういう事です。不躾なのですが早乙女さんは何か良い案はありませんか?」
「うーん・・・昆虫魔獣の襲撃を未然に防ぐ案ですか・・・昆虫魔獣に対しては『アーチャー』の弓攻撃がかなり効率がいいんですよね。しかもこのマイアートン周辺には初心者が使いやすい弓や矢を作るのに最適な樹木が多く植生してますし、竹の大産地であるシグチスとも船での輸送が可能です。麻弦を作るための麻も周辺に多く生えてます。なので、警備隊の訓練校よりも・・・弓師を育成できる職人を集めて弓師とアーチャーを同時に育てていく『アーチャーと弓師を育てる町』として大々的に方針変換をして、国にも協力してもらった方が良いのかもしれません」
「アーチャーを育てるという事に関しては問題はないのですが、なぜ昆虫魔獣にアーチャーが有効なのか儂には理解できないのですが・・・」
「それは簡単です。昆虫魔獣は外骨格生物で火以外の魔法は効果がかなり減少するのはご存知ですか?」
「それは知ってます。昆虫魔獣の甲殻はある意味で、このマイアートンの特産品ともいえる商品ですので」
「昆虫魔獣の甲殻には火魔法が劇的な効果を及ぼすのですが・・・その反面、このマイアートンのようにジャングルで覆われたような地形では、周囲に水分を多量に含む樹木の効果で火魔法は威力が制限されるのに対して、強力な火魔法を使用すると大火事になって今度は火事を消すことに魔力を余分に消費するような・・・無意味な魔力消費を強いられます。なので魔法使いにとって・・・正確で最適な攻撃力を絶えず要求されるので魔法使いにとっては鬼門ともいえる様な状況なのです」
「魔法使いにとってはそうですね。ではなぜアーチャーなのですか?」
「アーチャーは昆虫魔獣の弱点と言える甲殻の隙間を射る・・・しかも昆虫魔獣は素早い動きをするので、その動きはかなり早いのですが複雑な移動はしませんので簡単に予測できます。スピードは速くても単純極まりない動きを予測する練習相手とするなら最適ともいえる敵・・・いえ、『的』と言えます。それらの理由で・・・アーチャー初級者の敵としては最適な訓練相手と言えるのです」
「なるほど・・・そういう理由があるのでしたら最高評議会や評議会に訴えて賛同を得やすいですね」
「シーパラ連合国において『ヨークルのアゼットダンジョンはシールダーと盾職の育成地』と言われてるのはシーパラ連合国のみならず・・・このイーデスハリスの世界中に鳴り響くほど有名な言葉ですが、このマイアートンもアーチャーの育成地としては環境は最適と言えますし、弓師の育成場所としても環境は整ってる場所です。そこら辺を上手くアピールできれば・・・マイアートンの悩みの種とも言える『昆虫魔獣の絶え間ない襲撃』ってのは短所から長所に変更できる余地はありますね」
「早乙女さん、貴重で美味しい情報をありがとうございます・・・この情報をもたらしてくれた早乙女さんに対する非礼の数々でクレバ町長を休職に追い込んで・・・エミール校長、とりあえず儂はマイアートン行政部の掌握に動かさせてもらう。早乙女さん、また逢う日まで・・・」
マイアートン副町長の桂浜蔵人は俺への挨拶もそこそこに足早に去っていった。
「エミールさん・・・桂浜さんはかなり慌てていたようなのですが・・・」
「桂浜さんの『マイアートンを愛する心』とクレバ町長の『向上心』は最近のマイアートンの名物ともいえるぐらいにバチバチやりあってましたからねぇ・・・早乙女さんへの対応で今後の明暗はハッキリ分かれる事となりました。かたや軟禁状態、かたやマイアートンの未来に光を示す・・・クレバさんの軟禁状態が解かれるのは町長としての実権を剥奪された後となりそうですね・・・早乙女さん、狙ってますか?」
「偶然ですよ、偶然。まぁエミールさん・・・そういう事としておいてください」
「了解です」
「俺の性格的な問題です。一方的な搾取は・・・例え最高評議会議員と言えども受けるつもりはまったくありませんし」
「もしかして・・・トリーの事ですか?」
「そういう事です。クレバ町長は俺の友人のトリーの命を私利私欲の為に利用しようとしました。そんな輩は俺や友人の周囲に必要のない存在です。状況によって変化はしますが今回の場合は・・・必要ないモノは排除する事が最善だと判断しました。俺の・・・そして俺の友人達の周辺にクレバ町長のような輩は必要ない」
「う~~ん。クレバ町長と桂浜副町長は誰もが知ってるほど表でも裏でもバチバチやりあう様な天敵どうしですけど・・・クレバ町長の向上心というのも短所ではあるのですが長所でもあります。少なからずマイアートンを発展させた功労者の一人なんですが・・・」
「エミールさん、俺が何度も言ってるので貴方も薄々気づいている様に・・・俺はマイアートンを救う義理は無いのです。マイアートンの未来を手助けする事も俺のすべきことではありません。ですが・・・俺と敵対するクレバ町長の敵は俺の味方ともいえる存在なので、自分の味方を手助けすることはあるでしょうね」
「あぁ、なるほど・・・そういうことですか。私からすれば町長との諍いの後で副町長との会話を聞くと、両者の間に早乙女さんの情報提供の量に凄い差があるなとは感じていたんで、疑問に思って聞いてみたのです」
「両者の俺への対応と会話にこれだけの差があるのですから、こちらとしても差をつけざるを得ないですね。それに俺からすれば・・・このマイアートンの問題もとっとと終わらせたい事項ですので」
「早乙女さんから見たらこの昆虫魔獣の一大攻勢というのも早期解決が可能なんですか?」
「俺自身が現地に乗り込めることが出来るなら、もう少し早く解決できそうなのですが・・・今回の場合は俺は巻き込まれた形で応援を送り込む事しかできない状況です・・・が、それほどの時間は掛からないでしょう。ヨークルからの国軍や冒険者ギルドなどの応援も明日の早朝には間に合いそうですし」
「それらの計算も込みで『マイアートンの防衛』を考えてるのですか?」
「それはもちろんです・・・優先順位の違いですね。俺の優先順位とエミール校長の優先順位、桂浜さんの優先順位、クレバさんの優先順位・・・一つの物事でも人それぞれで考え方も捉え方も、すべてが違うってのが個性ですからね」
「それは理解できます。ただ私が言いたかったのは・・・クレバさんもそこまで悪い人間ではないんです」
「俺にとっては・・・クレバさんの人間性こそ優先順位は低いですよ。ただのアカの他人なんですから。その他人によって引き起こされる問題の方が重要ですね。それは俺や俺の仲間に直接でなくても被害が引き起こされる可能性の方が重要です」
「そうですね・・・」
そんなことをエミール校長と会話しながらも、町の住民たちからの情報やマイアートンの町の中の被害状況がここの対策本部に続々と集結してきてる。
町の住民の被害は今のところ怪我のみで重傷の住民はいない模様。
なので・・・さきほど俺が渡したポーション類で賄えるだろう。
早乙女ゴブリン組の活躍で町の中に侵入してくる昆虫魔獣の量が劇的に減ってきてるし、聖騎士団も組織がまとまって精力的に活動しだしているのも大きい。
さらに俺がマイアートンの上層部・・・というよりも、クレバ町長と揉めて上層部の判断でクレバ町長を軟禁状態にしてしまった後に対策本部を設置した事で効率が飛躍的に上がり・・・今までの混乱状態を抜けて組織の上層部が安定し歯車が順調に回り始めた結果だろう。
・・・もしかして混乱していた原因もクレバ町長の・・・それは言わないことにしておこう。
組織のトップとしては、あまりに惨めな事だからな。
今となってはどうでもいい事だし。
上がってきた情報の中に興味深い、面白いモノがいくつかあった。
『町の中に入り込んでいた昆虫魔獣の死骸の魔石量』
これは早乙女ゴブリン組から届く報告からもあがってきている事実だ。
昆虫魔獣の死骸から回収した魔石量から計算しても・・・元々魔石のほぼ出ないブランディックスダンジョンの昆虫魔獣とは全く違ってるし、今まで大森林や大草原での狩りで昆虫魔獣から得られた魔石量からも計算が大幅に合わないほどの量の魔石が出てきてる。
魔石を複数持ってる昆虫魔獣の方が多いってレベルだろう。
それで気になる事の追加で・・・
『昆虫魔獣の亜種』
も、あげられるだろう。
明らかに群れを統率して襲撃している昆虫魔獣の中に複数の昆虫魔獣の亜種の存在が明らかになってるという事だ。
つまり・・・このシーパラ連合国において、今までフィールドには出てこなかった昆虫魔獣の亜種がマイアートン周辺に突然大量発生したという事だ。
これらの事を考えて俺の貰った知識や経験から推測、想像できるのは・・・誰かによって人為的な襲撃でマイアートンの町に昆虫魔獣が襲ってきたのではなく、『新たなダンジョン』がマイアートン周辺に出来たのではないかという事だった。
この仮設対策本部の中で、俺の推理と同じような結論に至ったものが1人いたようだ。
エミール・アウレッタ警備隊教育センター長のサポートをしている獣人で、警備隊で教官の教師をしていた経験豊富な人なのだろう、俺の顔を見てアッという顔をしてきた。
「早乙女さん、もしかしてこれらの情報から推理すると・・・新たなダンジョンの発生の疑いがありませんか?」
「今、私自身も同じことを考えてましたが・・・えっと失礼ですが・・・」
「これは失礼いたしました。申し遅れましたが拙者は鰐獣人で警備隊教育センターで教官育成の講師をしています。名は『サウロ・ガリツカヤ』と申します。サウロとお呼びください」
「ご丁寧なあいさつをありがとうございます。早乙女真一です。早乙女とお呼びください。サウロさんの予想ではダンジョン誕生によって生み出された昆虫魔獣の進撃が、今回のマイアートンでの昆虫魔獣被害だという事ですか?」
「拙者の経験からの話なのですが・・・過去から連綿と続いてきた新ダンジョン発生時の周辺被害の状況が今のマイアートンの状況に当てはまるのではないかと考えられるのです」
「私も同じように考えています。ハッキリした結論はもう少し情報を集めてからとなりますけど、今まで集まってきた情報から、マイアートンの昆虫魔獣大量発生の原因は・・・『新ダンジョンが出来た事による魔獣大量発生』と考えられますね」
「やはり早乙女さんも同じことを考えてましたか・・・」
俺はサウロさんと会話しながら、別の事を並立する思考の中で考えていた。
以前、セバスチャンが解決した都市ヨークル近辺の森林モンキー大量発生の原因は・・・魔水晶が魔力を暴走させたことによって植生の変化が起こり、森林モンキーの餌の植物の異常発生によって森林モンキーの大量発生となった。
ウェルヅリステル南側の大森林でのオークや森林モンキーの大量発生は聖獣みかみが、地底湖内に迷い込んできた事による魔獣の大量移動が原因だった。
それに大森林南側奥地でのトロールの大量発生は、トロールの天敵である大黒豹が食べる量を減らしたことが原因。
るびのとフォクサ、それに嫁達も参加した1000頭を超すオーク軍団の殲滅戦はオークキングに率いられたものだったし・・・
このシーパラ大森林の中で何かのサイクルや魔素の流れが変わってきてるのか?
それと戦闘を始めてから1時間近くを経過しゴブリン組のメンバーに疲労が出始めていたので、ゴブリン二郎と三郎にそれぞれ100頭のゴブリン組の配下をつけて、今戦ってる四郎と五郎のチームを応援に行かせる。
一気に交代はできないので徐々に交代させて、ついでに増強したゴブリン組の集団でマイアートンの外周を取り囲む用水路まで昆虫魔獣を退治・・・一気に防衛ラインを広げるように指示を出す。
用水路の外ではフォクサの転移魔法で送られた森林タイガーの軍団が昆虫魔獣の大集団の中に突撃を掛けている。
昆虫魔獣の攻撃力では森林タイガーを傷つける事は不可能なので一方的な殺戮となるが、サポート&指示役として10体の徒影を付けたので何も心配はしてない。
徒影からの情報として挙がってるのはやはり初めからの報告通り・・・
『アリ魔獣の異常なまでの多さ』だった。
女王アリ魔獣はそれぞれ100~1000ほどのアリ魔獣を従えている。
その女王アリ魔獣を1時間を超えない間に何体もの女王アリ魔獣を退治してるほどで、アリ魔獣の多さが想像できてしまうな。
アリ魔獣や女王アリ魔獣の死骸をアイテムボックス経由で送ってもらって詳しく調べてみたが、この種類のアリ魔獣はシーパラ連合国の大森林フィールドでは発見されたことのない種類。
新種のアリ魔獣っていう訳ではなく、ダンジョンに多く住んでいる種類のアリ魔獣だった。
フィールドには少ないアリ魔獣の亜種も多数退治されている。
このイーデスハリスの世界では・・・
ダンジョンから生まれた魔獣はダンジョンの生み出す魔力によってポップアップして発生するが、ダンジョンの勢力圏内から外れるとフィールドの魔獣となり、殺してもドロップアイテムが出てくるわけでなく、その他のフィールドの魔獣と同じように死骸しか残さない。
ダンジョンの勢力圏内に入ると魔獣の死骸はダンジョンに吸収されてしまうが、そのかわりドロップアイテムが出てくる。
逆は存在しない・・・フィールドの魔獣がダンジョンの勢力圏内に入ってもフィールドの魔獣がドロップアイテムを落として死骸が魔素に返還されてダンジョンに吸収される事はない。
ダンジョンで生まれた魔獣のみに起こる現象であり、変化のない法則となってる。
一般的にこの法則を利用してダンジョンを探っていくのがセオリーで、新ダンジョン発見するためには近道がない。
魔力探査では魔素が濃すぎて難しいし、気配探査や上空からの探査ではそもそも大量発生している魔獣が邪魔で調べにくい。
とにかく森林タイガーにはしばらく頑張ってもらって新ダンジョンの入り口を探してもらうしかないな。
俺とサウロさんの話の中にある『マイアートン周辺に新ダンジョン発生』という言葉で、対策本部内の中はより活況を帯びてくる。
田舎町周辺の新ダンジョン発生は町に新たな富を生み出してくれることが確定した様なモノだからな。
今を乗り切って新ダンジョンに入り口を冒険者ギルドで安全に管理できるようになれば、今までの昆虫魔獣被害も減らすことが可能になって、農家の被害が減って収入が増える事となる。
自分達だけでは昆虫魔獣の撃退も出来ない状況だったが、今は俺のゴーレムと俺の配下のゴブリン組が町の外で奮闘しているので、近い将来のマイアートンの発展が現実味を帯びて目の前にぶら下がってるのが分かったのだろう。
目の前の絶望的な暗黒の状況、から目に見える光の世界が見えたら・・・人は『ヤル気』まで変化してくる。
元々優秀な人達が多そうなので、私利私欲に走りがちなクレバ町長という『障害物』がいなくなった事も関係してるのかもしれないな。
無能な上司が上で権力を使って組織を押さえつけてる場合、組織は変化できずに硬直しがちだ。
クレバの場合は無能ではなくて組織を自分の私利私欲の為に権力を使って『我が物』として使っていたのだろう。
そこに”マイアートンの発展”は優先順位は低い・・・と、先ほど秘書の人が教えてくれた通りだったんだろう。
マイアートン行政部の優秀な職員が生き生きと活動を始めたおかげで、俺や首脳陣が細かいところまでいちいち指示しなくても良くなった。
それに対策本部に入ってくる被害状況など情報も少しずつまとめられたモノがあがってきてるのを見れば、町の行政本部の機能は桂浜蔵人副町長が掌握した事で回復してきてる。
町民たちも聖騎士団と司祭が治療にあたり、町の中に入ってきていた昆虫魔獣達も警備隊の訓練生達や冒険者見習いたちの奮闘で町の中も秩序を取り戻しつつあり、桂浜蔵人副町長の指示で農業ギルドに保管していた食料を使って炊き出しが始まっているのも、マイアートンの秩序回復の大きな部分を補ってるようだ。