表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/214

マイアートンの危機っす。

襲撃が終わったのでオーガ6頭から話を聞くことにしたが、腹をすかしている様なので先にご飯を食べてもらう事にする。

とはいえ襲撃現場でノンビリとご飯食べてても、もうすぐ聖騎士団がやってきて捜査が始まってしまうので・・・さんざん悩んだがこの時間でも起きてる魔獣は数が限られるから、大黒豹の『水影みずかげ』のところにオーガ6頭を連れて行く事にした。


念輪で連絡すると水影は今夜、オークの住処の探索に出向いてると教えてくれた。

2つの襲撃で2時間近く掛かってしまって今は午後10時前になってしまったが、水影達は後1時間ほどで調査を終わらせてから巣に戻ってくるようなので、水影の住処の大樹で待つことにする。

6頭のオーガを連れて大森林の中央南側の大黒豹の集団が住んで暮らす一帯の中でも一番大きな大樹の近くに転移魔法で跳ぶ。

すでに周辺探査を終わらせた居残り組の大黒豹が数頭やってきてる。

俺はオーガの為に焼いた骨付きトロール肉を振る舞ってあげる。

飯を食べさせながらまだうまく話せないオーガ達に念輪のネックレスを渡して、念輪で会話を試みたら成功した。

ステータスを見てるのですでに知ってはいるが名前から確認する。

名前とは言っても生まれてすぐに親とは引き離された環境で育ってきたし、テイマー魔獣なのでテイマーから勝手につけられた名前もあったが、俺が強引にテイマーから奪い取ったために、自分達で呼び合うように勝手につけた名前らしくて瞳の色からとったりと外見的な特徴の名前だった。


1組目の夫婦は『ツブル』と『チャイ』という名前でツブルはブルーい角が額から2ツー生えてるからツブル。

チャイは目が茶色の女性だった。

2組目は『赤牙あかきば』『クロ―』・・・赤い牙をもつ旦那と両手が黒い爪の妻の夫婦。

3組目は『白髪はくはつ』『翡翠ヒスイ』白髪の旦那と緑色の角を持ってる女房。


今は食事中の6頭のオーガと話すために俺も地べたに座って念輪で会話。

アイテムボックスからタンブラーを取り出して、中に冷えたアイスコーヒーを注ぎ・・・香りも楽しみながらオーガ達との雑談を楽しむ。

オーガの特徴としてカップリングができた時はお互いに少し離れた場所で暮らしたくなってくるという習性があるのは、俺の知ってる情報でもあったので別段驚きはしないが・・・なぜ離れたくなるかというと、巣を作って子作りをするための習性が関係してる様だった。


う~~ん、って事は6人で行動するのがイヤというわけではなくて、洞窟のように隔離されて離れた空間で夜を過ごすだけのスペースがあればいいって事か・・・


水影が戻ってくるまでにはまだ20分以上は掛かるので、時間つぶしがてらにオーガから直接聞いた生の情報をたくさん仕入れておく。

オーガはオークやトロールと違って繁殖力はそこまで高くない。

群れも炎虎や森林タイガーたちと似てて、家族単位で住み暮らしてて、何か騒動が起こった時は一致団結して協力して事に当たるというのは、俺が転生者達からもらった情報。

ツブル達は魔獣ギルドから購入された街育ちの魔獣だから仕方がないが、オーガとしての当たり前な情報自体の方は親と話した事もないので知らない。

親から子へと受け繋がれた情報が皆無らしいので仕方がない。

ただテイマーから命令されて戦う事だけを学んできていただけ。

その分年齢も若くてまだ全員が18歳・・・これはステータスからわかる事。

カップリングの組み合わせは・・・人間に強制されてカップルになったわけでなく、10年ほど一緒に過ごすうちに自然とこのカップルになったと教えてもらった。


オーガはツガイとはいえ生涯を共に過ごすというような地球の結婚のような契約はなく、あくまでも魔獣同士のツガイであって、強い個体はハーレムを築くことも可能ではあるが、人間のような社会を形成しているわけではないのでただ強いだけではダメで『狩りが上手』など、力だけでは解決できない様な賢さなんかも必要となってくるので、ここは人間の結婚と同じようになかなか難しいようだ。

とはいえ赤牙たちはテイマーの魔獣であるので強い個体や賢い個体は種付けに回されると教えてくれた。

フィールドに生きるオーガとは違ってテイマー魔獣では人類によって管理されてる魔獣だから、自分達で選ぶ権利はないとテイマーに教えられていたようだった。


そんな事を話していたら水影が帰ってきたので水影も交えて今後の話をする事にした。

俺達だけで話してもそもそもオーガの情報がなく、仕方がないので念輪で連絡を取って・・・るびのに話をしてフォクサと一緒に来てもらう事になった。

るびのとフォクサも交えての話し合いの結果、オーガ達は眷属にしてもらうのではなくて早乙女軍団の一員という事で魔獣達と提携していく事が決定した。

オーガ達が暮らしていくのは、この大黒豹のテリトリーからさらに南に200kmほど行ったところにある場所で、オーガ達が暮らしやすそうな洞窟が入り組んでる場所があり、フォクサが『大森林洞窟群』と昔から呼んでる場所があるようだ。

そこには大量のオークが住んでいて、前回のオークキングを狩った時のオークキングはここの周辺から出没していた事が判明していたらしく、るびのの魔獣会議で周辺のオークを何日か後に間引くことが決定していたんだと教えてもらった。


最近はトロールの大量発生で追われていたので、オークは後回しになっていたとフォクサが教えてくれた。

なので水影達が今夜探っていたのもオークキング発生場所周辺の調査をしていた。

それで・・・洞窟の中にオーガ達に住んでいてもらおうというのが今回の相談の結論にたどり着く。

オーガ達も俺のテイマー魔獣となった事で飛躍的にレベルアップして、オーク如きには後れを取る様なレベルですらないし、最悪の時は早乙女ゴブリン砦と連携してもらえれば俺達が駆けつけるまでの時間稼ぎぐらいは余裕だろう・・・もしオーガ達の手に余る様な状況になればすぐにでも駆けつけて手助けすることができるので、実際はオーガ達に”最前線監視者”としての働きを期待している。

オーガ達には明後日まで水影達の大黒豹の住む大樹の近くにある空き地に、俺がログハウス風の仮設住宅を3軒建築して暮らしてもらう・・・雨風さえしのげればいいとの事だったので、簡単に屋根と塀を付けた丸太小屋を作って3組の夫婦に渡した。


扉の使い方に少し戸惑ったようだが、すぐに慣れてくれたのでゴブリン一郎たち並みに習得力が高そうだ。

それと驚く事なんだが・・・以前にも俺がビーストテイムマスターの力で強制的に味方にした大黒豹の『エドガー』『アラン』『ポーズ』の3頭はオーガ達の顔見知りらしい。

深夜の襲撃の時に夜目が利くオーガ達も大黒豹達も深夜の襲撃にはもってこいだしという事で、色んな組織の深夜の襲撃にツブル達もエドガー達も貸し出されていて、何度か協力してシグチスやヨークルでの深夜の襲撃事件にかかわっていたと教えてもらった。


るびのとフォクサはそろそろ本格的に眠くなったと言っていたので、俺は2頭に礼を言ってここで早乙女邸の自分の部屋に転移魔法で送ってあげた。


その後はエドガー達も加わって雑談をしていたが、エドガー・アラン・ポーズ達の3頭は俺のテイム魔獣になったことから飛躍的にレベルが上がっていて、今では大黒豹たちの幹部補佐にまで昇進してるようだ。

それとすでに妻まで娶っていて・・・リア充? リア獣? 

まぁ・・・優秀な魔獣はメスから求愛されるんだろう。

エドガー達の能力が予想以上に高かったことで、水影には礼を言われている。

俺が強引にテイムして敵から奪い取った炎虎やグリーンウルフも押し並べて、全員が高レベルの魔獣になってるのは・・・1200を超える俺自身のレベルが関係していて、ゴブリン一郎たちのように隠された能力まで引き出す事ができるというのが、今までの結果を見てると感じる事だ。


何しろ『ビーストテイムマスター』というのはイーデスハリスの世界でも太古の時代にまでさかのぼっても俺しか持ってないスキルで、さらにそのスキルマスターなので・・・俺の貰った知識にもこのスキルの詳細な事が分からない謎なスキルになってるので、今後もデータが無いのがこの隙つの特徴なので実験で得られたデータはもっと必要になってくるだろうな。


このことからも分かるんだけど・・・このイーデスハリスの世界にはまだ俺の知らない、未知なるスキルや魔法は数多く存在しているんだろう。

魔族にしか使えないスキルや魔法もあるし、獣人が先天的に持ってる鋭敏な危機察知能力・・・『野生のカン』なども俺にはないスキルだ。

似たようなスキル『第六感』とかは持ってるけど・・・名称もまったく違うし、スキルの働きも『似て非なるモノ』でしかないんだけど。

俺の知識にあるスキルや魔法で使えないモノだけでなく、全く知識のないスキルや魔法も数多くあるんだろう。

特定の種族しか使えない『特別製』の魔法も多くある。

こちらの方は俺の知らないモノが多いだろう。

俺が知ってるのは貰った知識にあるモノだけだしな。


なんてことを考えてると3組のオーガがけっこう眠くなってきたようなので、後の生活のフォローは旧知のアラン達に任せて俺はAとBの2つの商会の襲撃も終了したので、ひとまず魔力パワーボートに戻りステータスから普段着に着替えて少し寛ぐことにした。


嫁達はすでに風呂も終えて就寝してしまったので、今夜はエッチな事が出来そうもない。

俺も風呂に入るためにまた帰宅することにした。

早乙女邸のお風呂の横の更衣室に直接転移魔法で移動してステータスから裸になって露天風呂を楽しむ事にする。

今夜は雨が降ってるわけではないが雲が多くて天気が良くないので、星も月も楽しむ事はできないが、暗闇の中で自宅で味わう露天風呂の居心地は最高。

俺の場合はステータスが天元突破してるのでスターライトスコープのように光が増幅されて見えやすくなるし、本物の暗闇と言えど忍者スキルマスターになると発現する魔眼『忍び魔眼』が発動して、闇の中の影とかげの中のかげが見えるようになる。

熱から発する赤外線を見る事の出来る探査魔法を使えば魔眼どころか目を瞑っていても脳内に熱源が表示されるんだが、温泉に入って温まってる現状では見づらいだろう。


そんな事をボンヤリと考えながら暗闇の中の露天風呂を楽しむ。

それから俺も自宅の寝室に行って寝る事にした。

魔力パワーボート自身がゴーレムとなってて、俺がいちいち指示しなくても目的地さえ設定すれば、自動操縦でシーパラに向かって航行出来る。

何らかのトラブルが発生したら緊急連絡が入ってくるだろう。

例え魔力パワーボートを乗っ取るつもりで追いかけても、海中だろうが空中だろうが超スピードで自由に移動できる魔力パワーボートに追いつく事すら、イーデスハリスの世界において神以外には不可能なんだけどな。

認識阻害の魔法で包まれた魔力パワーボートは目で直接見る事が出来ても、脳内では認識することが出来ないようになってるので、目の前で目撃してもそれを脳内において認識できないようになってるので、『見る』ということすら不可能な仕様になってる。

俺と嫁達とチーム早乙女遊撃隊の面々、そして俺の製造したゴーレム以外では魔力パワーボートの結界が発動している今は中に乗り込む事も出来ない。


そんな事を考えながら、眠りについていく。




明けて転生してから45日目の5月15日の朝は自宅のベッドの上で迎えた。

今日は朝から小雨が降ってるあいにくな天気。

午後からは天気がすこし回復するという予報がヘルプさんから教えてもらえる。

回復すると言っても雨が止むだけで曇りが続くらしい。

天候の回復は深夜を超えてからという予報が俺の脳内に表示される。


俺が起き上がると同時にカレンとクラリーナが目を覚ました。

3人で並んで主寝室の洗面台に向かい俺・カレン・クラリーナの順番で顔を洗ってサッパリとして、寝室の自分専用のソファーに向かう。

アイリは相変わらず寝ぼけてフラフラとしてるし、ミーはいつものようにアイリの世話で洗面台に寝ぼけてフラつくアイリを先導して連れて行ってる・・・世話ってより介護か?


朝食は寝室のソファーで嫁達と一緒に食べる事にした。

給仕は早乙女邸専属メイドゴーレムのクロがしてくれて、マリアとセバスチャンは庭の畑の様子を見に行ってるようだった。

俺の朝食は今日はご飯が食べたかったので『お茶漬け&漬物』にした。

俺がお茶漬けを食べてるのを見てカレンも同じ物が食べたくなったらしく、初めはコーヒーを飲んでサンドイッチを食べていたんだが、途中からお茶漬けの朝食に切り替えたようだった。

クラリーナはいつものように野菜多めのクロワッサンサンドとミルクティー。

アイリとミーは朝からボリュームたっぷりなトンカツサンドとブラックコーヒー。

食べながら嫁達と雑談していたが、今日の嫁達は予定通りシーパラで買い物をして回るそうだ。

るびのとフォクサは今日はまだ寝てるし、今日の予定は何も入れて無くて、一日中のんべんだらりと過ごすと聞いてる。

俺は魔力パワーボートが夕方にはシーパラに到着する予定なので、到着後にシーパラ教会大聖堂で執り行われる予定の・・・『早乙女真一の冒険者ランクSへの昇進式典』に参加する予定だ。

この式典には嫁達も参加する事になってるが・・・こればかりはどうなるかまだ分からない。


リーダーの俺とカレンがSランクとなるので、早乙女遊撃隊のチームランクは『A』に上がる事になるだろうとカレンから教えてもらった。


冒険者のAランクチームともなるといろんなしがらみが増えて依頼が増えてきそうだけど、俺の場合は冒険者ギルドに守られてる様なので全部の依頼が排除されて、依頼受付すら拒否されているのはありがたい。

俺の場合・・・アマテラスにゴッデスという面倒の塊のような依頼? 強制労働? が多すぎて、普通に冒険してる暇なんてないという事なんだけどな・・・クソっ。

そろそろ何か依頼でも受けて冒険者らしい活動でもしてみようかな、なんてことを朝食を食べながら夫婦で話し合ってた。

カレンには付き合いの長いクライアントの商会とかがいくつもあるようなので、そちらからの依頼を受けた方が俺の為に依頼を制限してくれている冒険者ギルドに対しても言い訳ができるだろうし・・・悩みは尽きないな。


旅の目的も一段落ついたようなのでここらで本格的に冒険者としての活動を始めてみるのも、これはこれで楽しそうだ。


だけど・・・問題はどういう依頼を受け付けるのかって事だろう。

長期にわたって拘束されるような調査とかは論外だし、かといってAランクの冒険者チームなのにしょうもない依頼を受けるのも問題外だろう。

指名依頼を数多くこなしてきたカレンに訊ねたが、カレンも『盗賊退治の専門家』としての名声が高すぎて、盗賊退治ばかりの依頼が多くて・・・指名依頼をこなした数は多いが、依頼の種類は盗賊関係のモノが多くてあまり参考にならなかった。

アイリとミーはアゼットダンジョンで稼ぐことが多く、指名依頼を受けたのはほぼない。

ただ、10年以上もの年月を1つの都市を中心に冒険者活動をしていたので、顔が広く知り合いが多くいて・・・どちらかというと指名依頼を受ける知り合いのチームに助っ人で呼ばれる事が多く、それにアイリとミーはタイプが違うので受けた仕事の系統がかなり違う。


アイリはシールダーとして拠点防衛や人物警護の助っ人を数多くしてきたし、ミーは同じ仕事の助っ人でも攻める方(魔獣の巣への突入チームなど)の組に入っての助っ人仕事だという。

カレンも個人的なクライアントの商会からの依頼も、知り合いの冒険者チームからの助っ人として仕事を頼まれた場合も・・・忍者スキルの特性を生かして単独潜入による先行調査&情報収集がメインだった。


なるほどなぁ・・・みんなバラバラの仕事を担当していたんだな。

嫁達の特性を生かすとこういうことになるのは当たり前なんだけど、早乙女遊撃隊の場合も同じような状況だろうな。

俺の場合は何でも出来るんだけど・・・いかんせん、特殊な状況の経験しかもらってないし、普通の冒険者として活動する事ってそんなに経験がない。

4人に神によって迫害を受けていた経験とかは数多くあるんだけど・・・

折角異世界に来て暮らしていくんだから・・・この冒険者としての活動こそが望んでいた仕事なんだけどな。


だからこそ、こうやって嫁達と今後の冒険者としての活動方針を話し合ってるだけという状況でも、俺の中でワクワクした気分が盛り上がってきてる。

だけど俺の場合はゴーレムを使いこなせるので・・・カレンには悪いが、潜入捜査なら俺が一歩も動かなくても忍や徒影を動かす事でどうとでもできる。

人物警護もゴーレムに『守護者ガーディアン』にさせればいいだけだし。

魔獣の巣は夜な夜なセバスチャン達と巣の中に蓄えられていた戦利品を総ざらいをしに、今でもチョコチョコ行ってるし、大草原と大森林の魔獣の大半はすでに俺の子分だ。


昆虫魔獣とは交流はないなぁ・・・なんてことを考えてたら、その昆虫魔獣の事で緊急連絡がヘルプさんよりもたらされた。


「早乙女様、配下の忍からの緊急連絡が入りました。早乙女様のお知り合いの『トリスティックス・アグスライト』通称トリー様が、ヨークル近郊の町『マイアートン』にある警備隊教育センターでの昆虫魔獣退治の早朝訓練中に、昆虫魔獣の大量発生による襲撃事件で少々怪我を負ったようです。怪我の具合は忍の防御が何とか間に合って軽症で済んだのですが、マイアートンはただいま昆虫魔獣の大量発生による大混乱によって町の機能が停止中です」

「マイアートンにまで忍を送り込んでいたのか?」

「トリー様を陰ながら見守らせていたんですが、今回ばかりは1体の忍ではトリー様の怪我を軽くする程度にしかできませんでした」

「それはしょうがないよ。昆虫魔獣の大量発生による襲撃なんて予想できる事じゃないんだから・・・それで今の状況は?」

「忍による簡易結界で昆虫魔獣からの防御でトリー様を守る以外の事はできませんし、マイアートンの混乱から救う術は早乙女様が乗り込む以外には・・・」

「俺は今日の午後に首都シーパラにいないといけないんだよなぁ・・・俺がマイアートンに向かうのは時系列的に無理がありすぎる。そもそも今現在もシーパラに向かって航行中の船の中にいるという設定中だし・・・昆虫魔獣と言えば、ゴブリン達に動いてもらった方が早いかもしれん・・・その前にトリー達に防衛に専念してもらおう・・・忍との回線を繋いで遠見魔法の補完でトリーとの会話回線を繋いでくれ」

「了解です・・・早乙女様どうぞ!」


「トリー、聞こえるか?」

「その声は・・・もしかして早乙女さんですか?」

「あぁ、このゴーレムは俺が作ったゴーレムなんだ。マイアートンでの情報収集の為にトリーと共に行動させていたんだ・・・っていう裏話は今はどうでもいいな。とりあえず今回の昆虫魔獣大量発生によるマイアートン襲撃事件で町は混乱の極みにある。今はトリーの周囲に俺のゴーレムから発生させた簡易結界によって防衛中だが、これも何日も持つわけではないので、トリーは周囲の同僚をまとめて町中に帰還しろ!」

「早乙女さん、昆虫魔獣の大量発生している中で同僚と一緒に町まで無事に帰れるとは思えない!」

「パニックになるな! とりあえず落ち着け! 俺は理由があって動くことができないが、頼りになる俺の仲間たちを大至急送る」


並列する思考で俺はゴブリン一郎達に念輪で連絡を取り、四郎と五郎のチーム100体ずつのゴブリン軍団と、俺のアイテムボックス内にある忍100体を転送魔法でトリーの周囲に散開させて送った。


「どわぁー、ゴブリンまで大量に発生した!」

「だから落ち着けって、そのゴブリンは『早乙女ゴブリン組』の所属で味方なんだから」

「え・・・なに、これ・・・」


トリーが驚愕して思考が停止するのも無理はないな。

突然やってきたゴブリンが自分の周囲にいた昆虫魔獣を次々と狩り始めて、自分の周囲に空白地帯が生まれたんだからな。

追加で送った忍の一部にはゴブリン達が狩った昆虫魔獣の回収をメインに命じてある。

トリーの目の前にいる忍以外の忍は隠者スキルによって誰の目にも見えていない。


空中の昆虫魔獣にはゴブリンアーチャーからの矢の攻撃で次々と撃ち落されていく。

早乙女邸にいるフォクサに念輪で話をしたら、森林タイガーが昆虫魔獣が大好きという事で100頭を超す森林タイガーを応援に向かわせるらしい。

ただ、これは別方向からのアタックになるのでトリーからは見えない。

それに雑多な種類の昆虫魔獣が組織だって動いている様子もうかがえるし、もしかして糸を引く黒幕がいるという可能性すら今は否定できない状況なんで、森林タイガーには脅威的なパワーを持って引っ掻き回してもらう。

森林タイガーの行動チームには徒影を帯同させて情報収集と昆虫魔獣の遺体回収に努めてもらう。


ゴブリン組の作り出した空白地帯を数分で大幅に広げてからトリーに指示して、怪我をした同僚も一緒にマイアートン内に帰還させた。

俺からの指示は・・・ゴブリン達は町の中に入らない様に支援をさせるから町の中にいる昆虫魔獣は警備隊で何とかしてくれって事を上司に伝えさせる。

ただし『早乙女組のゴブリンに攻撃はするな』って事は厳命させないとな。

警備隊の教官レベルの攻撃ではゴブリンの装備する俺特製のワイバーンの革鎧に傷つける事さえできないが、ゴブリンを攻撃した時点でこの話は無かった事にして全員撤退させるから、その後はマイアートンが滅びようとも手助けしないからなと『命令』する必要がある。

俺がマイアートンを守る義理なんてないし、トリーさえ無事ならそれ以外はどうでもいいんだけど・・・っていうのは流石にまずいだろうな・・・

警備隊学校でトリーの担任をしていた教官は外にいたらしくまだ帰還してない様なので、トリーは別の教官に話しかけて外の状況と戻ることができた説明をしていると、警備隊教育センター長とマイアートンの町長が部屋にやってきてトリーに向かって話しかけてきた。


「トリー、心配していたぞ! よく無事に戻ってきてくれたな」

「君が外から戻ってこれたトリーという若者かね。君が連れて戻ってきてくれたメンバー以外で町の外で昆虫魔獣撃退訓練をしていた者たちはいまだに連絡さえできない・・・というよりも、君たちはどうやって戻ってこれたんだ?」


トリーは2名にもわかるように説明をした。

忍の説明と俺の説明もしてる。

俺は並立する思考で四郎と五郎と念輪でマイアートン正門近辺の昆虫魔獣を中心に狩らせるように命令した。

忍には外にいる生存者の救出を命令する。

その最中にもヘルプさんが忍を使って集めていたマイアートンの人物や町の地図などの情報を俺の脳内に送ってくれる。


「早乙女さん、こちらはマイアートンの町長をしている『クレバ・コンドリフ』さんと、私の上司にあたりますマイアートン警備隊教育センター長の『エミール・アウレッタ』さんです」

「初めまして早乙女様、クレバと呼んでください。ヨークルの英雄と名高い早乙女様にマイアートン防衛の支援をしていただけるとは有難いです」

「私も初めまして早乙女さん、エミールとお呼びください。マイアートンは今現在、混乱の極みにあります。状況が状況なんで先ほど、私とクレバさんの連名で『マイアートン非常事態宣言』を発令しました。ヨークルをはじめ、周辺の全ての街や村に救援要請をお願いいたしましたが・・・今後の状況は不明としか言いようがないです」

「御二方とも初めまして。Aランク冒険者の早乙女真一です。それで・・・」


二人と話す前に俺の要請を先に言っておく・・・『早乙女ゴブリン組に手出ししない事』これだけは最優先の最重要課題として先に伝えておかないとな。


会話を始めたばかりだがエミールとクレバから各部署に伝令を走らせて全てに通達を出してもらう。

その間にもゴブリン組が作り出したマイアートン正門前の空間の手前まで、続々と町の外に散らばっていた生存者たちが忍によって運ばれてきていて、正門前の空間まではゴブリン達が運んでくる。

ケガ人は多いが重症者まではいないようだ・・・全員気絶していてどうやって正門まで戻ってこられたのかすら分かってないが。

マイアートンの町の外に散らばっていたケガ人をどうやって連れ戻す事が出来たのか、詳しい説明をクレバとエミールに求められたが俺には話せない秘密が多いし、情報を与える相手は俺が選んだ相手のみって事で2人が納得できなくても話すつもりもないって事で『内緒です』とか『ご想像にお任せします』と言って説明もしない。


「それでは報告書を作ることができないんですけど・・・」

「エミールさんに忠告しますけど、俺はマイアートンを助けてくれって言う事をアマテラス様のご神託を受けたわけでもないし、正直に言うと『救出する”義理”すらない』んですよ」

「そ、そんな・・・」

「俺はマイアートンの救出が目的ではありません。仲の良いトリーを救う事が目的でマイアートンに何の思い入れもないし」

「それが正義のヒーローとしての言葉ですか?」

「クレバさん、俺はこのシーパラ連合国で正義のヒーローになりたいなんていまだかつて一言も言ってません。アマテラス様とゴッデス様の神託によって動いただけです。それにクレバさんにとっての正義のヒーローって無償で戦い続けなきゃいけないんですか?」

「ここで金の話ですか?」

「だ・か・ら、現金資産で200億G以上の金を持ってる俺、もうすぐ冒険者ランクがSランクに上がるって事が決定している俺に金の話でどうやって用心棒をさせるんだ? お前らが思う正義のヒーローって何だ? 一般市民の平和を守るために何もかもなげうって敵と戦い続けなきゃならないのか?」

「これが正義のヒーローなんて世間の噂も眉唾物だな」

「じゃあクレバ、お前が正義のヒーローになれよ」

「逃げるんですか?」

「逃げるも何も救う価値もないモノに何で俺が労力を使わねばならないんだ? というよりもお前が早く戦えって言ってるの俺は」

「じゃあこうするしかないな」


クレバが自身の親衛隊に指示を出してトリーを拘束しようとして忍に排除された。

3人の親衛隊が忍のジャブ3発で糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。


「フザケンナよクレバ。俺が言ってるのは俺の秘密を詮索すんなって事なんだよ。詮索しない限りにおいてマイアートン救出の手伝いをしてやるって言ってるんだ。それをお前の金儲けの為に俺の情報を話すわけないだろカス。言っとくけどこのゴーレムの表皮はワイバーンの革製だからな? おまえら程度の攻撃を一切受け付けないから。トリーに触ることも出来ないように結界を張ったから。シーパラ連合国程度の結界師が1000人集まってもこの結界を解除することができないと言っておくよ。それでここにいる全員に問う・・・俺の秘密を暴くためにマイアートンを滅ぼすか?」

「早乙女さんちょっと待ってください。クレバさんも落ち着いて」

「トリーはちょっと待っててくれ。エミールさんにも問いますよ。報告書に書くために俺の秘密を暴く・・・これがマイアートンを救おうとして部下を活動させて、実際に町の外にいた人達を救った人に対する仕打ちか? 混乱してるからっていう言い訳なんかは通用しないからな?」

「そういう意味ではないんですけど・・・」

「ではなんで『報告書の作成の為に詳しく教えてください』なんて言うんだ? それに俺の部下たちはゴブリンとはいえ命を懸けてマイアートンの外で正門前の空白地帯を作り出すために活動してるのは、お前の報告書作成の為か? 報告書作成するために俺は全部の情報を開示しないといけないのか?」

「・・・すみません。報告書の事というよりも今現在も混乱してて、まったく必要のない報告書の事で早乙女さんに聞いてしまいました」

「エミール、報告書以上に大事なのは早乙女さんがどんな手を使ってるのか究明する事の方が、マイアートンの将来の為に必要な事なんです」

「クレバお前、マジでいい加減にしろよ? クレバが追及してるのは俺の情報を少しでも引き出そうとしてだろ?」

「言うと困る事でもあるんですか?」

「このカスは話になんねぇーな。もういいよ。勝手に滅びろ。ゴブリンは全部撤退させるし・・・トリー、マイアートンの外に出ろ! この町は救出しない事が決定した」

「早乙女さん、どういう事なんですか?」

「トリーの安全はゴブリンが保証する。警備隊の連中で一緒に行きたい奴だけ連れて行け」

「早速逃げるんですね。逃がすわけないんだけどな」


しかし今度はクレバが合図をしても誰も動く者がいなかった。

当たり前か・・・戦闘力に違いがありすぎる事は先ほどの忍の動きを見る事さえできなかったのだから、戦闘訓練を多く積んだ者ほど、その能力差を実感してるんだろう。

それだけでなく忍に背中を押されて部屋の外に出るトリーに、部屋の中にいるクレバ以外の全員が後を付いて出ていく。

ビックリしたのはクレバの秘書が部屋の中で叫んでるクレバを無視して、クレバが残る部屋に鍵を掛けてクレバを密室軟禁状態にしてしまった。

トリーが驚いて声を出す。


「え”? 秘書さん、良いんですか?」

「クレバさんはマイアートンを発展させる事しか興味がないっていうか・・・マイアートンを使って自分自身がのし上がる事しか興味がないというか・・・出世欲と権力欲の塊なんですよ」

「それで俺の情報開示に異常なまでにこだわってたんですか・・・」

「申し訳ありません。こんな状況になってまで私からお願いするのもなんですけど・・・早乙女さん、マイアートンを救ってください。ここは私の生まれ育った故郷なんです」


今度は秘書だけでなく、部屋の外に出てきた全員がトリーの背中を押す忍に腰を折って頭を下げてお願いしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ