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ドリンクギルドと別の角度からのヒーローっす。

1・25修正しました。

「ドリンクギルドに契約を無効だと訴え出ると契約を破棄する事が本当に出来るのですか?」

「シーパラ連合国の場合はよく分からないのですが、世界的には解約ができない契約そのものが違法な契約になりますね。なんだったら今から一緒にドリンクギルドに行きますか?」

「ふ~~む、さきほど早乙女様がおっしゃられていた契約している全業者というのは、100以上はありますし今すぐというのは不可能なんですが、どうした方が良いでしょうか」

「それでしたら今からここの店の解約手続きに向かいましょう。その後に店主が知り合いを集めてきて次々に解約させればいいのですよ」

「私たちは襲撃されないのでしょうか?」

「相手が手を出してきたり、脅迫してくればこっちのモノです。ギルドごと叩き潰せる口実が手に入って、しかも強制捜査もできますよ」

「私たち全員を早乙女さんが守っていただけるのですか?」

「そこまで手間はかけたくないのですが・・・大丈夫です。コイツラに守られせます」


俺がアイテムボックスから取り出したのは徒影だ。

190cmの巨体&ワイバーンの革を全身に纏ったリザードマン&和装の裃と白足袋と雪駄という強烈な威圧感に、鬼まんじゅう屋の店主は後ずさりしていた。


「私は徒影513号、任侠ギルドに所属してるゴーレムです、よろしくお願いします」

「は、初めまして。私、この鬼まんじゅう屋『萬屋よろずや』を経営している14代目の萬屋よろずや船十郎せんじゅうろうと申します。以後、お見知りおきを」

「すげえ名前だな・・・もしかしてここ萬屋さんの初代って転生者なの?」

「転生者だと言い伝えられていますね。女性を口説くのが大好きなおしゃべりさんで・・・」

「ふむふむ」

「口癖が『トマトアレルギーの俺はイタリア人じゃねぇ、ニッポンジン(日本人?)だ!』とか『カブキ最高! ちっぱい最高! モエ~~!』だったと伝承されています。全く意味不明で申し訳ありません』

「で・・・ぐっ・・・」


ふぅ、危うく大声で『伝承すんなよ、そんな言葉!』ってツッコミを入れそうになった。

何とか呑み込めてよかった・・・危ねぇ、あらゆる意味で危ねぇヤツだ。


つーか、任侠ギルドバージョンか・・・あっちは黒人の任侠映画ヲタクだったな。

コッチは名前からするとイタリア人の歌舞伎ヲタクのアキバ系かな?

なぜか、聞いてる俺の頭が痛いな。

頭痛が激しくなってきたような気がする。

なんか日本文化が激しく間違った方向でイーデスハリスの世界にきてるのではないだろうか。

どおりでこの14代目の親父も話好きなのかもな。

見事に血を受け継いでると思える。


それと転生者の過ごした時代というのはどういうことなのか。

『萌え』とか知ってる人間はあきらかに現代のイタリア人だろうと思うが、500年以上前の転生者?


そういえば・・・露草つゆくさ康助こうすけも過ごした時代がおかしい。

露草康助は転生前の日本にいた時は『自動車整備士』だった。

康助の持っていた自動車の車種の知識からすると、康助が日本を離れて転生したのは・・・俺が日本を離れる数年前だろうと考えられる。

その露草康助はイーデスハリスの世界で”200年以上前”に亡くなっている。

4人の神は過去にも未来にも転生させることができたのか?


『未来は予測不可能だ』といったゴッデスの発言もある・・・それとも過去にだけ送ることができたのか?


しかしカレンは日本で300年以上前に寿命で亡くなっていて、このイーデスハリスの世界に転生してきたのは今から20年ほど前だ・・・時間軸がよく分からない。

今のところ情報不足過ぎて結論が出せない。

これは調べておかないとな・・・

でないとチート能力を持った転生者が目の前に現れるという事も、ひょっとしたら今後は起きうる事なのだろうか。

ゴッデスは問いかけてもその質問には一切答えてくれないからな、話を濁しておしまい。


「それで私共はいかがすればよろしいのでしょうか?」

「まずは一緒にドリンクギルドの本拠地に行って契約解除の話し合いですかね。俺は萬屋さんと一緒に行く萬屋の見習いって事にしましょうかね。その方が手っ取り早そうだ・・・手っ取り早く終わらせる強引な方法でいいんですよね?」

「できるだけ早く解放されたいです」

「では、店の見習い用の制服を貸してください」

「話が見えないんですけど・・・」

「俺がいかにも早乙女真一です! って格好でドリンクギルドに行ったら逃げそうじゃないですか。それだったら正規の手順で警備隊に訴えて処理した方がいいですよ、俺は必要ないですね。ただその場合は解決に時間が掛かっても警備隊が監視してくれることになるので安心ですよ」

「そんなことをおっしゃらずに、早い解決でお願いします」

「萬屋さんがおっしゃるように早く済ませたいなら・・・俺は弱々しいフリでついていきまして、デカい口で相手を挑発しますので相手に暴力をふるわせましょう」

「えぇええええええ! 痛いのは勘弁してください。無理です」

「へ? ・・・あぁ、殴られるのは俺ですので大丈夫ですよ」

「早乙女様は平気なんですか?」

「えぇまぁ、おい徒影」

「はっ」


俺の命令を受けて徒影が隣のテーブルを掴むと、椅子に座っている俺の脳天に向かって全力で振り下ろしてきた。

テーブルを縦にして叩きつけてきた攻撃だった。

轟音を立てて文字通り木端微塵になって砕け散る1枚板の大きなテーブル。

もちろん俺はまったくの無傷で座ってる。

飲んでいたお抹茶にテーブルの破片が入らないように手で蓋をしていたが。


「まぁこういう事なんで、ではテーブルを直しますね」


飛び散ったテーブルの破片をアイテムボックスにすべて回収し、全く同じテーブルに再生させてから取り出してみせると周囲から『おおおお~』という歓声が沸いた。

大きなテーブルを砕くほどの衝撃を受けても無傷な俺にも驚いていたが、テーブルを即座に再生してみせた俺の早業とそのスキルにも驚愕していたみたいだった。


「そういう事なんで、俺が代わりに殴られますよ。殴った手の方が木端微塵に砕け散りますけどね」

「アッハッハッハ、そんな馬鹿な・・・って早乙女様、本気でおっしゃってます?」

「もちろん本気ですよ。萬屋さん、なんだったら試してみますか?」

「いえいえいえ、怪我だけはゴメンこうむります。それでは私はどういう風に対応すればよろしいのでしょうか?」

「できるだけドリンクギルドの人達が我慢できなくなるぐらいに挑発してください」

「え? そんな事をしたら相手が怒ってしまいますけど」

「ワザと! あえて! 怒らせるんですよ。向こうも脅迫してきたときは傍若無人な振る舞いをしたはずです。やり返すどころか100倍返しでいきましょう!」

「いいのですか?」

「発狂させるぐらいがベストですね。そうしたら売られたケンカを俺が代理で買うだけです。あとは俺が料理した後で聖騎士団と警備隊がドリンクギルドを始末してくれますよ。それで萬屋さんの体には指一本触れさせないように徒影に守らせますので。萬屋さんは最前列でショーでも見ててください」

「そこまで早乙女様におっしゃっていただけるのなら・・・気持ちが少し楽になってきましたし、早乙女様の暴れっぷりも是非近くで見てみたいですね」


俺がニコニコ笑いながら物騒な話を続けてるんで萬屋も少しは気が楽になってきたんだろう。

あれだけ強張こわばっていた顔の表情が、徐々に柔らかくなってきて、血色が良くなってきた。


「デカい態度で『そろそろお前らみたいなクズを養ってやるのも飽きたから契約解除な?』って上から目線で言ってやればいいんですよ。演技でいいんです」

「ほうほう」

「遊んでやりましょうよ。ドリンクギルドに手を出させるための遊びです」

「それは・・・楽しそうですね」

「実際に楽しいと思いますが・・・行ってみますか?」

「はい・・・え~っと徒影様はどこに行かれたのですか?」

「気配を消させてるだけですよ。ここにいますよ」


俺は徒影をバシバシ叩くと、徒影が姿を見えるように2秒ほど姿を見せてから、またゆっくりと消えていく。


「おおぉ~ 素晴らしいですね。魔法か何かですか?」

「まぁ似たようなものですけど説明する時間がもったいないので、秘密って事で。こうやって姿を消させて徒影に守らせますので、萬屋さんは安心してショーをお楽しみください。それとも契約解除の話も俺がやって萬屋さんは後ろでふんぞり返ってるだけにしますか?」

「そうですね・・・私の演技の場合はすぐにボロが出そうなので、早乙女様にお願いしたいですね」

「わかりました。ではドリンクギルド本部の場所を教えてください」


紙とペンを渡して地図を14代目に書いてもらう。

場所は忍からの報告ですでに知っているし先行させて調べさせているのだが、今日初めてその存在を知ったドリンクギルドの本部の場所を、俺がすでにもう知ってるというのはおかしな話だろうから14代目に地図を書いて教えてもらった方がいいだろうと判断した。。

シグチス食料品市場付近の現在地からほど近い場所にあるドリンクギルドは徒歩で行ける距離にある。

14代目はここ萬屋からの道に沿って丁寧に書いてくれた。

その間に14代目が近くで話を聞いていた店員に指示をして、俺の分の制服を持ってきてくれたので、地図を貰ってからトイレに行って手早く着替えて出発することになった。

・・・緊張してまた14代目が強張ってきたので、いざとなったら俺は傀儡師かいらいしスキルを発動させて俺が14代目を操って敵を発狂させるサポートをさせることにする。


萬屋を一歩出ると俺は14代目の後ろを目立たない様に隠密スキルを発動させて後をついてゆく。

ドリンクギルドにすぐに到着して中に入らずに外から大声で俺が話し始めると、周囲のギルド職員たちがいきりたち始める。


「すみません。ドリンクギルドの不法契約の解約にきました」

「おい坊主、なんて言ってるのかわかってるのか?」

「こんなクソみたいな契約でお前らみたいなカスを養うのは飽きたって言ってんの。早く解約手続きさせろやクソボケ」

「クソがきゃー、てめーブチ殺すぞ?」

「できもしない事言ってる暇があるなら、さっさと解約せ続きをさせろって言ってるの。あんまり大騒ぎすると君たちの味方じゃなくなった警備隊が来て脅迫で逮捕されて執行官が来て強制捜査させられるけどいいのかな?」

「でめ~、ぐらぁ・・・」

「お前達、やめねぇーか!」


雑魚が俺の襟首を掴んできたところでドリンクギルドから大男がデカい声で喚きながら出てきてやっと本番開始だな。

俺の後ろにいる14代目はすでに俺の傀儡師スキルによって、青くなっていた顔は通常に戻り、額に流れてた脂汗も止まって俺のやりとりを見ながらクックックと笑ってる。

幹部が聞いてきたので傀儡師スキルで少しは14代目にも話をさせることにした。


「これはこれは萬屋の旦那、いったいどういう事なんですか? 我々のギルドに文句があるとでもいうのですか?」

「私はこの坊主の言ってる通り、お前達みたいな薄汚い野良犬にエサを与えるのは止めますと言ってるのですよ。言葉が通じませんか? 貴方みたいな雑魚では話にならないんで、早くギルドマスターとか自称してるジジィを呼んできてください。役立たずの大幹部さん・・・っクックック」

「旦那様のおっしゃる通りですね。バカな野良犬には理解できないようです。ささっ、早く野良犬親ビンを呼んできてください」

「いい度胸してるじゃねーか、よっぽど死にたいらしいな」

「それは脅迫ですか? 野良犬ごときが俺を噛んでも死にませんけど」

「そんなようなデカい事を言ってこの前火事になった店が2件ばかしあったなぁ、ねぇ萬屋の旦那」

「それは萬屋を燃やすという強迫ですね。では今から警備隊と教会に行って訴えさせてもらいますね。解約続きに応じないどころか、店も家も燃やすと脅されましたと言ってきます。どうします?」

「テメェ、それがどうしたっていうんだ? たとえ俺が捕まってもまだいっぱいドリンクギルドには人がいるんだぞ?」

「完全に脅迫です、ありがとう。それでは・・・話になりませんね、解約できない契約は無効です。この街中の店の契約が解約できないのであれば、すべて無効という事ですね。今から全部の解約できないか警備隊にも相談させていただきますね。今は正義の執行官『早乙女』様も滞在してる事だし、さぞ面白い見世物が見られるでしょうねぇ」


俺達が外で騒いでるのは訳がある。

昼の休憩時間の終わりかけの時刻に、今まで食事をしていた勤め人たちが大量に移動する大通りで、大声で大騒ぎすることによって警備隊も呼ばれるし、聖騎士団も呼ばれてくる。

すでに周囲にいる野次馬の外に警備隊は到着していたし、真偽官と司祭を連れた聖騎士団もやってきた。

そこで俺は14代目を使ってとどめを刺しに行く。


「貴方達みたいな野良犬でも腕っ節の強さだけは自慢らしいですね。それなら決闘しませんか? ここの坊主も腕っ節には自信があると言ってるので私の代わりをさせます・・・萬屋の全財産をかけても良いですよ。だけど貴方達ドリンクギルドはギルド職員全員の命を賭けてくださいな」

「本気かよ、クックック、いいぞ、やってやるよ!」

「という事ですね。ドリンクギルドの野良犬さん達は異存はありますか?」


警備隊と聖騎士団が騒ぎの中心部にやってきたときには決闘の舞台が整った。

警備隊に立ち会ってもらってルールを決める。


今回の決闘において賭けるモノ・・・

萬屋側は『萬屋』を賭ける・・・職人も全部含める。ついでに俺から賞金で2億Gも賭けてやった。

ドリンクギルド側はギルドに所属する全員の命とドリンクギルドの持つ全部の契約の無効。

決闘を行うのは俺一人とギルド職員94人全員でギルマスのジジィも当然入ってる。

ルールはない、ただの殺し合いということで決定した。

警備隊の最後の確認をしてる時の声でこの場にいる全員の顔が凍りついた。

萬屋14代目が青い顔になって震えだしたのは、俺が傀儡師スキルでの操作を打ち切ったからだけど。


「という事で決闘を始めます。ドリンクギルドの皆さんよろしいですね?」

「アッハッハ、警備隊と聖騎士団の見てる中で合法的に殺人できるとわな! 準備はOKだ! 行くぞお前ら!」

「おおお~!」

「早乙女真一さんもよろしいですね?」

「うん、いいよ~!」

「「「え”?」」」

『うぉおおおおおおおお』


俺がステータス画面から一瞬にしてサイラスの甲殻鎧にチェンジしたら、ドリンクギルド全員が驚愕しているな。

野次馬の中からは歓声があがる。

これで俺の強さが噂通りだったら契約もドリンクギルドもなくなるからと、周囲の野次馬さん達は大騒ぎになってるんだろうな。


「やめやめやめぇ~、こんなの無効だ! 警備隊、これは詐欺じゃねぇーか!」

「無効に、は、出来ないYO~,やめたいな、ら、YOU達全員、自殺しチャイナYO~」

(誰も向かってきてくれないのでHIPHOP風に返事してやった・・・ウザく感じてしまうのは挑発スキルの仕様です)

「ドリンクギルドさん、決闘契約はお互いが了承して始まり結果はお互いが納得してのモノです。片方が契約を排除したいなら相手の要求をすべて呑む必要があるのですけど・・・つまり、早乙女さんが納得しない限り、貴方達には死ぬ運命しか残ってないのですが」

「・・・ぐぬぬっ」

「早く来いYO~、来ないならこっちからイクYO~ちぇけらっちょ~」

(ウザく感じるのは・・・以下略)


(いや~、どうやって契約を解除させて、どうやってコイツラを皆殺しにしようか悩んでたけど、超絶楽勝コースだったわ。さんざんあおってやったら、簡単に決闘に応じてくれた)


俺がスタスタと歩きながらそんな事を考えてた。

決闘契約に契約の無効だけでなくドリンクギルド全員の命まで賭ける事が出来たのは意外だったけど、賭けられる事が出来て決闘が開始されたらコッチのものだ。

決闘契約は双方が納得しない限り終結はない。

俺を納得させるには死ぬしかない。

コイツラが全員死ねば俺は萬屋を守る事もしなくていいから、これで解決だな。


俺にヤケクソで大剣を叩きつけてきた攻撃をサイドステップであっさりと躱してから、踏み込んだ一歩で左腰の天乃村正を居合抜刀術を使って攻撃してきた男の首を落とした。

今日は2刀流ではなくて久しぶりの剣客。

首を斬り落とした後は『チン』という金属音を残して納刀させてる。

抜く手も見えぬ光芒によって首も命も落ちる・・・って、ところかな。

俺は歩む足を止めずに次の獲物に向かっていく。

後ろから切りかかってきた剣を横にいた奴の体を盾に使って攻撃を受けて、頭部に味方の攻撃を受けて死体となった奴の体を攻撃してきた奴に蹴り飛ばした。

俺の蹴りで飛ばされたギルド職員は俺が決闘を始めたと同時に展開させた封印結界の壁にブチ当たって絶命した。

1人ずつ確実に殺している中で、恐怖に負けて逃げ出そうとした奴は、見えない結界にはばまれて、ドリンクギルドの建物の中にも逃げこめない。


ヤケクソになって14代目に斬りかかろうとした奴も同じように見えない壁にぶち当たってる。


「クソっ、どこにもいけねぇ」

「逃がさないYO~・・・ってバカ相手に馬鹿な事すると疲れるな。では・・・剣客、早乙女真一、いざ参る!」

「急にマジになるなんて聞いてないYO~」

「意外と余裕あるんだな・・・俺に殺されるしか選択肢が残ってないくせに」


今まではふざけて居合抜刀術で遊んでたけど、時間がもったいないので真剣になって殺戮し始める。

敵の攻撃は剣客スキル上級の初歩『髪切かみきり(神の見切りと掛かってて髪の毛1本だけ敵の攻撃で切らせるほどの見切りが必要となる上級スキル)』で必要最小限の体捌きで躱して敵の首を次々とねて、敵の攻撃を横へのサイドステップしてギリギリを半身で避けながら眉間に天乃村正を突き込んで殺害していく。


敵の攻撃を躱す動作と自分がする攻撃が一体となってこそ活きるのが剣客スキル。

瞬時に飛び込んで攻撃して避けて下がって躱してまた攻撃・・・流れるようにスムーズに滑らかな舞を舞っているかのような動きに周囲の警備隊や聖騎士団の人達や、近くを歩いていた冒険者の野次馬から感嘆の声が漏れる。

大型のシールドを構える盾職タンクには剣客スキルの『天駆あまかける』を使って空中を走り、後頭部に突きを叩き込んだり首を刎ねたりして殺害・・・オーガなどの魔獣達と違って一撃必殺だな。

コイツラには大型魔獣並みの生命力の強さはない。

ゴブリンのどっこいどっこいだろう。

もともと天駆スキルは壁の後ろや盾の陰から攻撃してくるアーチャーなどを狩るためのスキルなので、この程度のスキルしか持たない、たかが冒険者くずれの盾職は一瞬で終わりだ。

俺が動くたびに足元に転がる死体が増えていくのだが、俺には血飛沫ちしぶき1つかかってない事に気付き始めた周囲の野次馬から『おおおお』という喚声があがり始める。


5分後にはドリンクギルド全職員を抹殺し終えて、天乃村正に付いた血を3点セット魔法で浄化した後で納刀させて完了。

戦う相手がいなくなったので周囲に張り巡らせてあった結界は自動的に消滅した。

場所を指定してかけた封印結界ではなくて、戦う相手を対象に封印結界を施したから敵が死ねば自動に消滅する運命だ。


決闘前にドリンクギルドの幹部達とギルマスから奪った知識を使って、警備隊の隊員にドリンクギルド内に隠されていた違法契約書を持ってきてもらう。

警備隊の調書作成に応じて真偽官立会いのもとに契約書の無効にさせて決闘手続きを終了させる。

これで・・・今日からシグチスでのドリンク料金は下げられるだろうな。

好きな値段設定ができるようになったしな。

俺のもふもふ天国も開店準備は終わってるのでそろそろ開店できる・・・イヤ、無理だな。

俺が賞金首の間はもふもふ天国もモフモフマッサージ天国も開店は無理だろう。


そういえばドリンクギルドやコイツラの全部の資産の取り扱いはどうなるのか警備隊の隊長に聞いたら、隊長は知らなかったようで、みんなに聞いて回ると真偽官が教えてくれた。

決闘には賭けられなかったドリンクギルド関係の全資産は違法契約の被害者に分割して支払われるようになるだろうとの事。

もとは違法行為で集めた資産なので全財産が一度国に没収されて、全資産(自宅も含む)が国の管轄下に置かれるようになる。

違法行為を証明するための裁判が開かれて、裁判で違法行為が確認された後、次の裁判で慰謝料が決定されて没収した資産から、違法行為契約によって奪われていた金額の一部が帰ってくる仕組みとなってると説明までしてくれた。

この言葉を聞いた野次馬から警備隊に質問が相次ぎ俺は少し離れる。

ここの契約書にある全業者には支払った金額に応じて戻ってくるという真偽官の言葉なので、周辺にいた野次馬には聞き捨てならない事なのだろう。


俺の仕事は終わりだな。

後ろで見てた14代目萬屋船十郎に話しかける。


「これでドリンクギルドを全滅させた。あなたが望むようにね」

「・・・ひっ」

「俺の想像通りの反応をありがとう。貴方が言ってた俺の暴れっぷりを最前列で見させてあげたのに・・・まぁ貴方の言いたい事もわかります『何も殺さなくても・・・』っていう事でしょう?」

「え、えぇ、まぁ・・・」

「甘すぎるな・・・俺はそこまでこの問題にかかりっきりになってる時間はないんだよ。それとも一生涯をかけて俺は連中の襲撃を撃退し続けなきゃならないの?」

「そん、そんなわけでは」

「では、どうやって襲撃を撃退して萬屋さんたちを守って怪我一つさせないようにするというのでしょうか? 向こうは殺しに来てるのに?」

「・・・」

「俺は殺しに来てる連中全てを殺さずに傷つけずに撃退し続けるのですか?」

「・・・」


「そもそも、俺ってAランクの冒険者なんだよ? その俺を襲撃から萬屋の店と店員・家族を守り続けるために雇い続けるにはいくら払うつもり?」

「・・・そ、それは・・・」

「それとも俺は永久にタダ働きしなきゃならないのか? 萬屋が安全に商売できるように俺にはタダ働きをしろって事? 俺を人殺しと批判する資格は貴方にはないって事すらも理解できないのかな?」

「・・・」

「ぜひ教えていただきましょう! 今回貴方は俺に制服を貸し出した以外に何をしたんだ? 一切関係がないはずの俺が自らの手を汚してまで、何のために解決してあげたんだ? 貴方達が汚さずに押し付けた汚れを、俺が綺麗にしてやって解決してるんじゃないのか? 俺の汚れた手にはたくさんの人殺しをした血がついてる。貴方が汚いと思うほどにね。だから最初に言っただろ? 『自分達で合法的に解決しろ』って」


俺は貸してもらっていた制服をアイテムボックスから取り出して地面に投げつける。


「・・・」

「・・・早く答えろよ。俺は初めに言ったよな? 合法的な手順を踏まないとやってる事は犯罪者組織と変わらないことになりますよと。アカの他人に汚れを押し付けて自分達はキレイのまま・・・それが貴方の望んた事なんでしょうに。俺が言いたかった事はそれだけだ。では、貴方はこの戦いは何で起こったと思ってますか?」

「え?」

「俺は誰のために戦ったのでしょうか? 貴方の答えを教えてください。黙ってたらあなたの考えが分からないよ」

「そ、それは・・・」

「・・・」

「でも・・・」

「もういいや・・・俺はせめて”助けてくれてありがとう”って言葉ぐらいは聞きたかったけどな。これ以上は貴方の言葉を聞く価値はないよ。じゃあな・・・今後一生会う事はないだろうさ」


俺は萬屋に別れの言葉を最後に残して、このまま立ち去る事にした。

俺の言葉を周りで聞いていた警備隊の隊長、聖騎士団の隊長、真偽官と別れの挨拶と握手をしていく。

彼らは俺と同じような立場だから俺の言葉を真剣に聞いてた。

俺と握手をしてる時に『俺の思ってた事を言ってくれてありがとう』とまで俺に言ってくれた人もいる。

汚れ仕事を押し付けられて薄給で働いてる彼らも、やっている仕事の割には住民からの理解が得られていないと、実感していたのだろうな・・・特にこのシグチスという街の中では。

だからこそ警備隊はストレスをためて賄賂などの金の誘惑や、女を使った接待にやられてしまうような人も数多くいるんだろう。

聖騎士団なんてほぼ名誉職だ。

アマテラスの監視付きのな。

俺みたいに毎回のように寄付してくれる人は、聖騎士団やアマテラスに助けられた人以外ではこのシグチスの街では少ないだろう。


ただ全部わかって接してくれてる人もこの街には数多くいる。

俺が歩いていくと『これでシグチスがまた平和になったよ、ありがとう』とかの声をかけてきて、握手を求めてくれる人もいる。

『お礼としては少ないけどこれとっときな』と言って串焼きをくれる屋台の親父もいる・・・コレ、さっき食ってあんまり美味しくなかったから、いらないんだけど・・・いやがらせ? もしくは罰ゲームか?

俺の後ろには下に落ちている制服を眺めながら、誰からも話しかけられることなくポツンとたたずむ14代目の姿がある。

まぁ守ってやったんだからもういいだろう。


俺はこれ以上、彼を責めるつもりはない。

日本にいた時の俺だったら同じような事考えていたはずだし・・・それだけここの世界の考えに染まってきてるんだろうな。


先行して内部調査をしていた忍の情報からも、俺が幹部連中から集めた情報からも、俺が殺害した94人以外にはドリンクギルドに所属していた奴は誰もいないという結論だった。

根こそぎ俺がブチ殺したから遺族から逆恨みを受けるのは俺になるだろう。

忍にはしばらくの間、この商店街を警戒させておくがまず大丈夫だろうな。

ドリンクギルド側の遺族も自宅の資産なども『不正蓄財された財産』として全財産没収されてしまうので、嫌がらせをしに来たりだとか、ヒットマンを雇ったりしてる暇も金もないだろうし。

・・・歩いて離れてから思い出したが、金を払って購入した『鬼まんじゅう』100個と『紫イモの鬼まんじゅう』100個、まだ受け取る前だったな・・・悔しいけど今更取りに戻れないしな、自作するしかないんだろうな。


途中までけっこう格好つけて歩いていたが鬼まんじゅうを忘れた事でショボーンとなってきた。

な、泣かないから・・・やべぇマジで涙出そうになってくるぜ。

カッコよく去って行きたかったな・・・これが俺のクオリティ―だから仕方がない。


肩を落としながら少し足早になって去っていく早乙女の後姿を後ろから眺めていた人達は、みんなしきりに首をひねって同じ事を考えていた・・・

『ヒーローの後姿? それよりも”ケンカに負けて半べそで去っていく子供”の後姿みたい』だなと。

スキル『天駆』は、「てんく」でも「あまかける」でもどっちもOKです。

ご自由にお読みください。

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