表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/214

ヒーローってなんなんだ? っす。

1・20修正しました。

20分もしないうちにディアナさんが戻ってきた。


「早乙女さん、本部と確認をさせていただきましたが、早乙女さんからの提案があったように冒険者ギルド側も安全を考慮すると通常のSランク昇格の記念式典は不可能だという結論になりました」

「だよな・・・最高評議会に丸投げしちゃえば?」

「冒険者ギルドシーパラ本部も同じ判断をしましたね。『早乙女氏のSランク昇格にギルド側は賛成します。早乙女氏の了解も得られたのですが・・・早乙女氏の首に賞金をかけた人がいるので、現状では出席するとパニックになることが予想できる記念式典は危険だと判断しました』という公式文書を最高評議会の方に送らさせていただきました」

「それがギルドとしたら一番無難な選択だよな。俺がSランクに昇格しても今の状態を放置したままのSランク昇格の記念式典を開催するというのは、シーパラ連合国最高評議会は悪戯に混乱を呼び込んでる様にしか思えない。式典を開催しろっていうのも最高評議会なら、俺を賞金首にしたのも最高評議会議員なんだからな」

「そこで冒険者ギルドシーパラ本部ギルドマスター『アクセル・ビッタート』から新たな提案がありまして・・・どうせ教会で式典をするなら早乙女氏のSSランク昇格できるのか、アマテラス様にお願いするというのはどうだろうか? という議題が出てきてるのですが・・・」

「マジかよ、そんなんでSSクラスになれるの?」

「本部の幹部会ではすでにその流れが出来つつありまして、一緒にシーパラ教会大聖堂で執り行うというのはにかなってますし、この場合・・・決定を下されるのはアマテラス様ご自身となりますので」


嫌な予感がしたと同時にアマテラスの声が俺の脳内に鳴り響いた。


【イイ! それで行こう! 真一お兄ちゃんはSSランクに私がさせる!】

~ちょっと待てコラ、何勝手に決めてんだ。それにアマテラスほっとラインを俺はまだ繋いでないぞ?~

【さっき真一お兄ちゃんが教会に来た時に勝手に改造しました!】

~おいコラ、いつの間にいじくってんだって・・・マジじゃん、アマテラスほっとライン(改)になってやがる~


アイテムボックスの中にあるアマテラスほっとラインが勝手に改造されて(改)となってた。

こんにゃろぅ、いつの間に。


【フッフッフ、ゴッデス様に教えてもらって勉強したの! これで真一お兄ちゃんのアイテムボックスは私のモノ・・・ぐふふふ】

~いい加減にしないとアマテラスほっとラインを海に捨てに行くぞ?~

【すみません調子に乗ってしまいました。ほんの出来心なんです】

~ったく、全く反省してねぇじゃねぇーか。はぁ~、SSランクになるんかよ。なんか特典でもあるのか?~

【SSランクになると世界中の政府・冒険者ギルド・教会に通達されて登録される事と、教会総本山から使者が訪れて『太陽神アマテラスの聖印せいいん』として太陽の紋章が送られます。さらに今ならアマテラスの神託制覇記念の『風光ふうこう騎士きし』として教会総本山からナイトの称号が送られる事もセットでお付けするこのお買い得商品はいかがですか?】

~テレビショッピングかよ・・・何の勉強をしてるんだお前は。断ろうかな・・・~

【え、ウソ、何で!】

~理由は、アマテラスがウザいから。うん、立派な理由だな。そうと決まればじゃあ、さっそくディアナに断りを~

【ちょ、ちょっと、え、ウソ・・・ごめんなさい、冗談なんです、ふぐぅ・・・びぇええええん。ごべんだだいぃいい、うぇえええん】

~泣くなら、するなよ・・・ったく、それに泣けば許されると思うなよ?~

【ごべんだだいぃ、でもぉ、でもぉ、わだじわぁ~、おでぃじゃんどぅ~・・・】

~ったく、しょうがないな。俺と遊んで楽しいのかもしれんけど、冗談はほどほどにな~

【おでぃじゃん、ぐしゅぐしゅ、あでぃがどぅ~、うわぁああああん】


アマテラスの鳴き声があまりにもうるさくなってきたのでアマテラスほっとラインの回線を切った。

ディアナたちとの会話はアマテラスと遊んでる間も続いてる。

でもSランク昇格にしろSSランク昇格にしろ結局のところ、冒険者ギルド・最高評議会・評議会などの関係各所と充分に話し合ってからの結論となるので、ここで俺達が決められない事柄だから意見を言うぐらいしかできない。


そのまま少し雑談してから俺達夫婦はギルドマスター室を出て次の目的地に向かう。

カレンを早乙女商会の副代表に追加登録する為には、商業ギルド・シグチス支部に行って申請を出さないといけない。

ただ、早乙女商会シグチス支部、シグチス教会、冒険者ギルドシグチス支部、商業ギルドシグチス支部も全部が中央行政区域内になるので、セバスチャンの運転するキャンピングバスに乗り込んですぐに到着してしまう。

商業ギルド・シグチス支部に入っていって今日は窓口に俺が専属窓口契約をしたエラディオの姿が無かったので、総合受付でエラディオの専属カードを提示して呼び出してもらう。


受付横にある衝立で仕切られた相談窓口に座っていると別の部屋で事務処理手続きをしていたと言うエラディオがやってきた。

相変わらず頭部も存在感も薄いな・・・存在感をあえて消してるんだったら忍術が使えそうなレベルだ。

やってきたエラディオをみんなに紹介して挨拶をかわしてから、カレンの早乙女商会への加入登録手続きをする。

エラディオは無駄口も冗談も一切ないのですぐに手続きは完了。

カレンに商業ギルド発行の早乙女商会カードを手渡されて、カードの内部情報に間違いがないか自分の目で確認した後でアイテムボックスにカードを仕舞って終わり。

商業ギルドに到着して10分もかかっていない早業だった。

この9分未満の間にゴーレム馬車駐車場から受付に歩く時間と、エラディオを呼び出す時間とカレンに書類の説明をする時間が含まれてるんだから驚愕だ。

手続きとしては理想的ではある。


今日は嫁達はアゼットダンジョンに行く予定になってる。

るびのとフォクサが一緒に行く予定なので早乙女邸内にいて、さっきまでは待ちくたびれて露天風呂に入って遊んでいたようだが、今は出て裏庭で日向ひなたぼっこしていて・・・すでに暇を持て余しているという念輪連絡を受けている。

キャンピングバスに乗り込んで早乙女商会シグチス支部へと戻ると、正門が閉じられ俺が降りたと同時に、アイリ・ミー・クラリーナ・カレンの4人の嫁とセバスチャンとマリアは、マリアの転移魔法で乗っているキャンピングバスごとアゼットダンジョン付近に跳んでいってしまった。

アゼットダンジョン近くの大森林内のいつもの空き地でフォクサの転移魔法でやってくる、るびの・フォクサ・ユーロンド1号達と落ち合うように念輪で連絡してた。


俺は暇になったな・・・今の時刻は午前10時を回ったところだ。


俺がキャンピングバスで出かけてからいなくなっていたらしい賞金稼ぎはキャンピングバスが戻ってきたときに一斉に30人ほどのチームで襲い掛かってこようとしたが、正門前にいるユーロンドのショック魔法で何もできずにその場で崩れ落ちて、早乙女商会シグチス支部の正門前にあるゴーレム馬車駐車場の端っこに今でも放置されている。

それ以来、賞金稼ぎは来なくなった・・・やっと諦めてくれたかな?

そういえばキャンピングバスが1台しかないと、もしかしたらこの先不便になってくるかもしれない。

今のうちに同じものを2台ほど作ってストックしておくことにする。

一度自分で作ったものは材料さえあればアイテムボックス内で、すぐ作ることができるので大変ありがたい機能だ。


昨日の夜から仮眠ばかりであんまり熟睡できてないが、もともと俺は規格外のステータスの数値をしてるし、今はそこまで眠くないな・・・なんて考えていたら、早乙女商会シグチス支部に来客があった。


評議会の連絡官でシグチス行政本部に派遣されてきている『クサム・チャンイー』が訪れてきて、先日俺が道場破りで潰した『戦斧道場』の資産引き渡しについての話であった。

そのまま資産引き渡しで俺に渡すつもりなんだろう、ヒヒ獣人でシグチス警備隊の上桐係官を連れてやってきてる。


そういえばそんな道場潰してたな・・・すっかり忘れてたわ。

そういえばついでに思い出したのだが・・・用心棒として雇われて俺に勝負を挑んできた双子の小人族兄弟は戦斧道場の資産を上手く運び出して稼ぐことは出来たのかな?

まぁ・・・そんなことは後でいい。

今は訪ねてきてくれた客人をシグチスメイドゴーレムに指示を出して応接室に案内させる。

俺も執務室から隣にある応接室に移動して待ってると、メイドゴーレムの案内でクサムがやってきてまずは挨拶をしようと、ソファーから立ち上がった瞬間に、クサムの闘気が瞬時に膨れ上がったので、わざと明るい声で呼吸を外す様に話しかけて気勢をそいだ。


「無駄な事はやめた方が良いですよ。貴方にもわかってますでしょうに・・・」

「ですね・・・さすが紫村流侍剣術道場をたった一人で潰したお方ですね。私も武人として生まれた以上、強い相手を見て挑戦したい気持ちはありますが、正直ここまでとは思ってもませんでした」

「貴方は俺になにか不満があるようですけど、クサムさんがここにいらっしゃったのは公務ではないのですか?」

「もちろん、評議会から送られてきた連絡官ですし、道場破りの資産譲渡の公務です」

「それでしたら、俺への不満は後で聞きますよ。それとも公務を離れて俺と決闘でもしてみますか?」

「いえ、そういったお願いをするつもりはありません。というよりも私は早乙女さんに弟子入りしたいぐらいですよ」

「それこそ俺は全く関係のない話ですね。俺は流派を立ち上げる気も弟子をとるつもりも一切ありませんので、丁重にお断りさせていただきますね」

「そうですか、残念です」

「ま、上桐係官には関係のない話でしょう! お久しぶりですね」


俺は上桐係官と握手を交わすことで強引に話題を変えた。

2人にドリンクの注文を聞いて俺の隣に立って待機してるシグチス・メイドゴーレム2号に用意をさせた。

俺はアイスコーヒー、上桐係官はアイスティー、クサムはアイスミルクだった。

メニューはモフモフ天国で使用しているメニューがあるので見せただけだ。

クサムが自分のアイテムボックスから評議会認定の『道場破り認定書』を取り出して俺に見せてくれる。

戦斧道場の資産はここの近所にある道場の土地と建物のみで、中にあったはずの武器・防具・アイテム類は一切なかったので、評議会側は確認できていない。持ち去られた後ではないかと明記されていたのを確認した。

認定書にサインして今から道場の土地建物を貰うために、シグチス警備隊のゴーレム馬車に乗って移動することにした。

近くなのですぐに到着。

上桐係官が封印結界を解除して内部に誰もいないか確認してから土地の権利譲渡書をクサムが出して、全員で内容を読んで確認した後に3人でサインをして譲渡終了。

と思ったら、クサムが話しかけてきた。


「早乙女さんは何で道場を開かないのですか?」

「1番の理由は面倒だからです。俺にはやりたい事がある・・・この広いイーデスハリスの世界を旅してまわりたい。俺は必要を感じて冒険者登録をしましたが元々は『旅人』なんです。道場破りをした理由も売られたケンカを買っただけです。旅人が流派を立ち上げて道場を開くっておかしな話でしょうし」

「早乙女さんだけが一方的に道場破りの制度を利用しているという批判はどう考えますか?」

「法律を変えればいい・・・ただそれだけですよ。俺が作った法律じゃないですし、俺に言う事でもないでしょう。俺は売られたケンカを利用して合法的に殺戮をしただけです。そもそも何で道場関係者が旅人の俺にケンカを売る必要があるんですか?」

「そ、それは・・・」

「俺が何かしましたか? 名前が売りたいのなら俺には全く関係ないですよね? 紫村流侍剣術だって俺が嫁達を連れて見学していただけで一方的にケンカを売られたのが原因です。その後の道場破りだって呼び出されて俺は一人で道場に行ってるんです。それで俺に何をしろって?」

「・・・」

「道場を開く側がケンカを売るって事は全部をなくす覚悟が必要なのが、この国にある道場破り制度なんですよ。それを後から卑怯だのなんだのって・・・俺から言わせれば”甘えた事言ってんじゃねぇーよ。あんまり笑わすなよ?”・・・ただそれだけですね」


「・・・この国の全ての道場を敵に回してもそれを言えますか?」

「アッハッハッハッハ、クサムさん、笑わせないでくださいよ。俺にケンカを売りたいなら全てをなくす覚悟でこいと言ってるじゃないですか。自分達が負ける覚悟もないのにケンカを売る・・・子供の論理ですね。そもそも道場ってなんの為にあるんですか?」

「武を学ぶ為です」

「もうすでに間違ってますよ・・・殺す技を身につけるためですよね? 殺し合いって冒険者の方がよっぽど殺し合う事だけを考えてます。もし違うと言うのであればクサムさんも道場を出て、冒険者になってダンジョンを歩いてみてくださいよ、そこには生か死かそれしかないですから。クサムさんにとって道場で学ぶ事というのは大切な事かもしれません。けど、精神を鍛えるって事とジャングルで生き抜くって事は全く違う事だし、そこにはルールなんて存在しない。『戦う事』『勝つ事』『強くなる事』『生き抜く事』それぞれ全部似てる様な部分もあるけど、本質的には全く違う事だって事を冒険者はみんな知ってます。けど道場にいる人達は区別がついてない・・・なぁ上桐係官、貴方も元冒険者だったらわかるだろう?」

「・・・あぁ、俺が今のクサムに言いたい事も同じだ。道場の価値観って世間一般では全く通用しない独特なモノだよ。早乙女さんも言ってるような事と同じような事を、俺もクサムに対して思ってる。道場の人達って戦う事の大切さとか精神的な高潔さとか言ってるけど・・・それは道場の中だけだ。大自然の中にいる魔獣を目の前にして高潔な心と言っても食われて終わりだ」

「・・・」

「それとなクサム、友人として忠告しておくが・・・都合がいい時だけ道場ルールを他人にまで押し付けるのは道場の中だけにしておけよ?」

「上桐・・・」

「クサムがいつも言ってる『武』にしたってそうだ、価値観の違う人に自分の価値だけを押し付けて『自分が正しい』ってのは子供の考えだ。その考え方に武なんてないだろ?」

「確かに・・・」

「クサムが言ってる武というものが不変のものであるとすれば、まずは自分自身が矛盾してるって事に気付かないとな。それと道場組織というものが俺にはそこまで必要に思えてないんだよ。それは冒険者のほとんどが知ってても”言わない”事なんだけどな。道場という組織に入ってると組織で対応しようと考えてる時があるだろ? 仲良くじゃれあえとは言わないが、なんで他の道場にそこまで牽制しあってるんだ? どうしていがみ合ってるんだ?」

「・・・」

「それって武に関係ないし、教えるべき技術に関係がない事だろ? 道場で教える武という精神論は他の道場に対して『攻撃しろ』とか『蹴落とせ』なんて事じゃないだろうが。むしろ道場で教える武という論理では、全く逆のことを言ってないか?」

「・・・くっ」

「クサム、逃げるなって俺の話を最後まで聞けよ! 武で精神を鍛えると友人の疑問にも答えられなくなるのか? おい、待てって」


クサムが歩いてゴーレム馬車の方に戻っていったので走って上桐係官が追いかけていった。

俺からクサムに言いたい事は言った。

俺や上桐係官の言葉を聞いてもクサムがどうしても納得できないならまた話は違ってくるが、クサム自身がどう受け止めるかは俺にはどうすることもできない。

イワノスが言っていた道場制度の弊害ってのは精神論にまで及んでいるのだろうか・・・


そんなことを考えながら俺は譲渡された元戦斧道場の敷地内に入っていって改築準備に入ろうとして動きが停まった・・・ここに建てる予定のモノなんて何もないや。

早乙女商会シグチス支部が近所にあるし任侠ギルドはすでにシグチス内にいくつか拠点を手に入れてる。

店を出すにしたって周りは1階部分が商店街になってる団地で、今更ここに入り込んで売りたい物すらない・・・更地で保留するしかないか。

塀と門を外観を変えずに全部作り直して中身は完全に解体して更地にした。


大きな穴が開いたので確かめてみたら元々地下室があった場所だった。

面倒なので全部埋めて完全な更地にしようとしたら・・・地中に結界が張ってあって手紙が隠されていた。

俺がアイテム類を譲渡した双子の小人族が俺にあてた手紙だった。

地中に結界を張って隠しておけば俺以外には発見できないであろうと言う計算でこの地下室の壁の中に結界を張り隠していたんだろう。

手紙の中身は後で読むことにして地下室に土を盛り込んで重力魔法で固めてから固定化を施して頑丈な更地にしておいた。


魔石付きミスリル棒を塀の内部に埋め込んだので半永久的に結界で更地が守られる。

住宅街の中にある土地なので家として売った方が良かったのかな?

けど、高級住宅街にある土地でもない癖に家としては中途半端な敷地面積で、周囲の家の土地の広さから考えると、一般的なサイズの住宅にするには4つに分割しないと売れないだろう。

完全に更地にして敷石だけ広げてゴーレム馬車駐車場を作り、早乙女式馬車の屋台村とかの方が安定収入ができそうだけど・・・面倒だし、もう更地でいいや。

結界だけ張って家族とゴーレム以外は侵入できないようにして放置することにした。

・・・セバスチャンに伝えたので数日後には畑になる更地だ。


せっかくここまできた事だし、また今日も団地の中の商店街に足を運ぶことにする。


小さな商店が軒を連ねているので、ここは食料品市場の様なワクワク感がある場所だ。

弓矢の矢だけを専門に販売してる店もあるし、鉈だけを取り扱ってる店など多種多彩だな。

刃物の研ぎ師もここで商売してる。

生活魔法のライトだけを販売してる店もあった・・・正確にはライトの魔法が封入された魔石を売ってるだけなんだが。

隣には聖水が売ってるので一緒に売ればいいのにと思って販売してる店員に聞いてみたら、この2m×2mの販売スペースなら家賃は月1000Gで済んじゃうけど倍のスペースを借りるには月1万Gの家賃が必要になるんだと。

格安の個人的な販売スペースとして利用してるのか・・・だからここには様々な専門店が軒を並べてるんだな。

家賃が月に1000Gなら個人的な趣味で好きな日だけ商売しても負担にはならない。


個人だけでなく冒険者が集めてきたアイテムを怪我をして働けない冒険者や、引退した冒険者が売ってたりすることもあるんだとか。

冒険者チームで経営してる店もあって、みんな商業ギルドにチームで登録しているようだ。

これは面白い発想だ・・・地球だとコンテナショップにちかいのだろうか。

狭い店が狭い通路に立ち並んでる様はジャンクな匂いがして嫌いじゃない。


今日見て一番ビックリした店は石を売ってる店だった。

魔石、魔結晶・魔水晶・宝石・鉱石など、そういう類いのモノでなく、ホントにそこらへんに落ちてる石が売られてる。

サイズによって大中小で1万G・千G・百Gと値段設定が壁の張り紙に書かれてる。

ただ単に模様が珍しかったり、誰かの横顔の様な変な形をしていたり・・・謎だ。

俺には分からない世界だった。


今日は何も購入しなかったが小さい店を見ながら巡ってるだけでちょっと楽しかった。

それで巡ってるうちに教えてもらったのが、シグチスで最近の食の名産品は『揚げパン』だ。

確かにこのジャンク街にも外の屋台にも揚げパン専門店が多くて、シナモンやら抹茶やら紅茶味もあって多種多彩だ。

小さいサイズとかも売ってて個性を出そうと必死になってるのは感じた。

店の人に聞いたら数年ぐらい前からシグチス周辺で酪農が盛んになってきてる。

シグチスにはミルクが多く出回るようになり、乳製品が出回って色々なバターやチーズが開発されている。

それでパンブームが数年前から広がっていて、揚げパンは去年シグチスにおいて爆発的なブームが起こり揚げパン専門店も増え、さらにメニューが豊富になっている。

最近やっと落ち着きを取り戻してきたところなので、これから淘汰されていくだろうと言う冷静な意見まで教えてもらった。

俺にはそこまで美味しそうに見えなかったので、結局見てまわっただけで買わなかった。


そろそろ昼食の時間なのでシグチス食料品市場の方に向かって歩き出す。


団地から食料品市場へと向かう道は両側に食事をできる店が並んでいて、フードコートのように小さな店が並んでいる区域もあるし、屋台村のようにちょっとした広場にいくつかの屋台が並んでいる場所もある。

持ち帰り専門店も多いので今日は食べ歩くことにする。

俺が以前作った焼きおにぎりと五平餅の中間の様なモノも売ってたので購入して食べてみたが、ただのしょうゆ味で味に工夫もなくて、そこまで美味しくない・・・なんか”惜しい”という感じの味だった。

串焼きにした魔獣の肉もあるので何本か買って食べてみたが、少し固くなってて焼き過ぎだな・・・串焼きの肉なのに1本の中に何種類かの肉が混じってるし、これも失敗作だろうか・・・

ただ値段だけは安い。

最初に食べた五平餅もどきも、串焼き肉も1本100Gだし・・・シグチスではおにぎり販売は苦戦しそうな気がする。

こんな安売りの店がたくさん並んでて、シグチス住民の中にあるであろう安い=不味いという固定観念を覆させるまでに時間が掛かりそうだ。

シーパラでも使った美人を使う手段が有効なのかもしれないけど。

どっちにしてもまだシグチスにおにぎりは進出してきていない。


ホットドックやサンドイッチも数種類購入して食べてみたがそこそこ美味しいモノはそこそこの値段、美味しいモノは結構な値段という感じで、金額による棲み分けがされているようだ。

コーヒーやジュースなどのドリンク類はなぜか高かった。

水もくだものも豊富にとれるし、コーヒー豆や紅茶などの茶葉も普通に船で運ばれてきていて、ヨークルなどと環境はほぼ変わらないのに、ドリンク類だけはコップ一杯1000Gとかなり高額商品となってる・・・意味不明だな。

カルテルでも結んでいるんだろうか・・・俺がもふもふ天国を開店させたら何かしらの動きがあるかもしれない。


それとここまで歩き回っていろんな店を見てきたが面白い発見があり、それについて教えてもらったこともあった。


シグチスには木製の看板が多数あって、各ショップの販売されているものを一目でわかるように上手に表現されている看板を数多くみかける。

店員の何人かに話を聞いて教えてもらったのは・・・

シグチスから船でヨークルの方に向かって移動していくと、片道5時間ほどで到着できる場所に、木工職人が数多く住んでいるとある村がある。

そこの見習いや新人が腕を競い合っていて、練習がわりにと格安で看板を作ってくれるようだ。

自分から注文しに行って受渡し期日に引き取りに行く必要があるけど。

村に宿泊するとさらに割り引いてくれるという・・・一種の村おこしの様な事をサービスでしている。

その村はジャングルの中を開発した区域にあって開発が始まったのは10年ほど前だが、特産品が”木”しかないので苦肉の策が結構うまくいってるパターンだろう。


村の中に温泉もあるので保養所として作った村が客を呼ぶために、木工職人を集めて始めたサービスだと言っている人もいた。


・・・面白い村があるんだな。


タコの看板があってたこ焼きでも売ってるのかと思って中に入ってみたら、鉄板でタコを押しつぶして焼く『たこせんべい』の店だったし。

いくつかパターンが決まってる看板もあるな。

コッペパンの看板は揚げパン専門店でイギリスパンの形の看板がパン屋さん。

串焼き屋の看板とか寿司屋の看板に丼物のお店の看板は、多少のデザインの違いはあれど、同じパターンの分かりやすい看板の形をしている。


何を売ってる店なのか、何を看板として表示している店なのか意味不明な看板も結構多くある・・・職人のセンスがないのか?

レタス・にんじん・玉ねぎの看板でサンドイッチ専門店とか意味不明すぎる。

逆にシンプルに文字でそのまま看板になってるところも多い。


通りすがりで見つけた鬼まんじゅうの店はここが本店らしく『鬼まんじゅう本店』と大きな道場の看板の様な、巨大な木製の板に達筆で書かれており・・・達筆すぎて読みにくいパターンだな。

鬼まんじゅうを買い求めた時に店主がいたので聞いてみたら、これはシグチスに300年以上前の大昔から住んでるドワーフのボウガン職人が暇な時だけ注文を受けてる看板で、1枚で1000万G以上もするらしく数年待ちの状態になってると教えてくれた。

鬼まんじゅう本店の看板はこのドワーフから購入していない。

ドワーフがこの店の常連で200年以上前にドワーフの方からくれたらしく、この店の看板が原因でボウガン職人というよりも木工看板職人として有名になってしまったようだ。


店内の休憩所の様な場所で鬼まんじゅうを食べながら、ヒマを持て余していた店主が挨拶に来たついでに色々教えてくれた。

鬼まんじゅう1個100Gなのにお抹茶セットで注文すると1000Gになってる。

目の前の店主に聞いてみたら周囲をキョロキョロして確認した後に、小声で教えてくれた。


「シグチスってなんでドリンクは1000G以上するのですか?」

「えぇ~~っとお客様、それはですね・・・ここシグチスには『ドリンクギルド』というものがありまして、ドリンク類の販売はすべてドリンクギルドが管轄するという事を勝手に言ってるんですよ」

「もしかして、嫌がらせ・恐喝・みかじめ料の三点セットなんですか?」

「お客様のおっしゃる通りでございます・・・行政も警備隊もすべてグルになってドリンク販売はすべて1000G以上で売って売り上げの半分はドリンクギルドが『契約マネージメント料金』という意味不明な話で持っていくんですよ」

「・・・」

「冒険者ギルドが革命を起こして冒険者ギルドマスターが替わった後で、天上天下商会が中心になってこんなことを始めたのですが・・・完全に実力行使できますし、訴えるべき警備隊がグルですからねぇ。それでも先月までは600G以上で販売しろって話だったんですけど、5月に入ってから急に1000G以上で販売しろって話になりまして・・・」

「文句言った店がいくつか潰されたとか?」

「はい、見せしめで2つの店が燃やされました。そのほかにも店がもう一つ強盗に入られたと言われてますが・・・一家6人と従業員5人が全員虐殺されてます」

「ひどいな・・・取り締まる側が向こうの味方だからやりたい放題か・・・」

「でも私共にもちょっとは希望が見えてきました。ヨークルのヒーロー早乙女様がシグチスにお入りになって警備隊と行政と駐留軍を粛清し始めたんです。今頃ドリンクギルドの連中も戦々恐々として震えてるんじゃないですかね?」

「え? 俺が潰した方が良いの? 俺の名前は早乙女真一です、どうぞよろしく」


俺がそう言って握手をしようと右手を差し出すと、鬼まんじゅう屋の店主は俺の顔を見たまま固まってしまった。

どうしたもんかな・・・といっても、このまま帰る訳にはいかないので話しかけ続けるしかないのだが。


「すいませーん、おーい、聞いてますかー? 聞こえてませんか~?」

「ふわっ! 失礼しました。早乙女真一様って本当の事なのでしょうか?」

「もちろん本当ですよ。はい、どうぞ」


俺が冒険者ギルドの銀色に輝くAランクカードを見せてあげると感激してかなり喜んでくれた。


「それで俺にドリンクギルドを潰せって事ですか?」

「できればお願いしたいのですが・・・」

「不可能ですね。彼らはどんな犯罪なんですか?」

「我々は脅されて契約させられているのですよ? それは犯罪であると思います」

「それだったらシグチス警備隊はすでに生まれ変わったのですから、警備隊に訴え出て、まずは契約無効の手続きをしないと・・・手順が違いますね。俺が今から行ってギルドを潰すのは簡単ですが、それをすると俺が捕まります。それとも自分達が苦しんでるんだからヒーローが罪をかぶれとおっしゃるのですか?」

「そういう訳ではないのですが・・・」

「では契約している全業者を呼んできてください。俺もついていきますので契約解除してもらいに行きましょう!」

「・・・」

「自分達は一切表だって動くのはイヤ。全部ヒーローに任せれば解決できると思ってませんか?」

「そういう訳では・・・」

「確かにドリンクギルドは違法行為によって契約させていたんでしょう。でも契約は契約です。まずは契約を解除してください。全契約を打ち切った後に嫌がらせに来た敵は責任を持って潰しますよ。みんなを守る事は可能なんですと言ってるんですよ。そこまで言っても動く気がないとおっしゃるのであれば、俺にはどうすることもできません」

「そんな・・・」

「俺は捕まりたくないのです。あなたのおっしゃる『ヒーロー』って何ですか? 便利屋ですか? 犯罪者ですか?」

「・・・」

「俺は全部合法的に動くか、証拠も残さずに何もかも全てを消滅させるかしか動く気はありませんよ。俺は太陽神アマテラス様のご神託をうけて犯罪組織をいくつも潰してきましたし、主神ゴッデス様のご神託でこのシグチスの犯罪組織を叩き潰してきました。それは明らかな犯罪をおこなってる最中だとか、もしくは俺を襲ってきた連中だけですよ? 自分達は脅されて契約しているんだから不条理だ! というならまずはドリンクギルドを訴えましょう。その犯罪性が認められれば強制執行ができるようになります。こういう場合は合法的に手順を踏まないと、やってる事は犯罪組織と変わらなくなりますよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ