ビーストテイムマスターの真価っす。
1・12修正しました。
最後に龍人族の美作兄弟も聖騎士団と一緒に教会の方に行く。
彼らの様に誘拐で奴隷にさせられてイーデスハリスに輸送させられてきた裏奴隷と呼ばれる人達は、正規に入管を通っていない場合がほとんどなので、教会の真偽官立会い元で身分保障をおこない入管の手続きを簡略化した方が手続きが早く終わる。
その後で奴隷にさせられていた人達は教会に保護されてから、警備隊の捜査陣が教会に出向いて捜査の為の調書作りに協力する形となる。
俺は資料の目録をシグチス警備隊の隊長に渡して終了だな。
念輪回線をカレンに繋ぐとシャテルの家族から是非とも直接にお礼が言いたいのでイニエスタ家本宅に戻ってきてほしいとの事だった。
裏奴隷ギルドの中で旅人の服に着替えてから外に出て歩いて戻る。
・・・なんか久しぶりにステータスからの装備変更じゃなくて自分で着替えたような気がする。
ブーツは以前作った銀色に鈍く光るリザードドッグジェネラルの革のブーツにした。
いくら冒険者だからとはいえ初めて会う人達にあまり威圧感を与えても仕方がないし、かといってあまりにラフすぎるのも常識を疑われるしな。
シーパラ連合国に限らず正装ってこれぐらいしか持ってない。
腰には早乙女儀剣が装備してある・・・これなら装備してても威圧感も与えずに、失礼にもあたらない装備だろう・・・というか街中でも同じような格好をした人が多いしな。
シグチスの街の中でも今まで通ってない裏道を歩いていく。
ちょっとした広場のようになっていて屋台が多くある場所もあるし、場所によっては薬の売人らしき人間もチラホラしてる様な裏道。
マヅゲーラの猥雑さとドルガーブの港町特有の活気を持ってるのがシグチスの雰囲気で、こういう裏道にはマヅゲーラの様な猥雑さが浮き彫りになる。
裏通りにはエッチな店も多いし薄汚れたカジノ・・・ってより『賭場』って感じの店もある。
俺の身なりを見て、もっとからまれるのかと思ったが俺の姿を見て歩いて近づいてきて、顔を確認して離れていく奴が非常に多い。
俺の顔も裏社会で売れてきたのかな? 今のところ俺と敵対して残っている裏組織は存在してない。
全て潰されるか任侠ギルドに吸収されて組織は崩壊した。
生き残ってるのはシーズの2つの家ぐらいだ。
とある裏通りに入って人影が無くなった場所に入っていった時に、俺は急に歩みを止めて夕方でも暗い場所に向けて話しかける。
「出てこいよ。ここなら誰にも見つからないから」
「・・・」
「服部山城守さんでしたっけ? 俺とかくれんぼしても、貴方では勝てませんよ?」
「・・・」
「面倒臭いなぁ・・・スパイギルドは俺と敵対することを選択するのか?」
「・・・なぜ、なぜわかるのですか?」
「それを教える義理はないですね。まぁ貴方にも目と耳がある様に俺にも遠くを見る目と耳があるんですよ・・・という事だけ教えておきます。それで・・・エルドラドグループから離脱して難を逃れたスパイギルドシグチス支部ギルドマスターの服部山城守さんは、なぜここであえて危険を冒してまで俺と接触を試みに来たんですか?」
「じ、実は正直に言いますと・・・早乙女さんに迷惑をかけないようにと私自らお知らせをしに来たんですが既に終わってたんです。我がスパイギルドは早乙女さんの関係者に『係わらない』という方針をシーパラにあるスパイギルド総本部の決定で決まりました。そこで私が直接出向いてエルドラドグループから離脱したんですけど・・・総本部の決定に不服とする幹部2名を含む9名がスパイギルドシグチス支部から離脱して裏の組織と合流したと確認が取れたんですけど・・・」
「もしかして俺が潰した裏スパイギルド?」
「はい。それで早乙女さんにお知らせしようと早乙女さんを探してる途中で、すでに早乙女さんに壊滅された後でした」
「今更裏切り者を返してもらいに来たとか?」
「いえいえ・・・総本部の決定に従わずに離脱した裏切り者の末路として『どこかに消えた』それだけで十分です。それで裏切り者9名はすでに早乙女さんが確保してたんですけどイニエスタ家に2名の・・・」
「もしかして裏奴隷ギルドに逃げ込んだイニエスタ家を監視していた2名って・・・」
「それはまだ確認できていないのですが・・・早乙女さんがイニエスタ家に向かったという情報があったので、イニエスタ家の監視する契約をスパイギルドはしていましたから、撤退してスパイギルドシグチス支部に帰還するか大人しく捕まる様にという指令を出した頃には・・・すでに連絡できないようになっていたのです。消息不明となっておりまして現在は連絡もつきません」
「俺が3名確保して2名はあえて逃がした。確保した3名は裏スパイギルド所属の3人だったから裏奴隷ギルドに逃げ込んだのがスパイギルド所属のヤツラじゃないのか?」
「しかしスパイの鉄則として追われている時にクライアントに逃げ込まないという鉄則をここで破るとは・・・イニエスタ家に派遣したスパイはベテランコンビのスパイだったはずなんですが」
「2人のスパイにとってクライアントじゃなくなってたんだろう」
「もしかして・・・」
「あぁ、裏切り者だって証明だな。彼らにとってスパイギルドは潜入先であった可能性もある」
「なるほど・・・状況を考えると早乙女さんの説明の方が信憑性が高いですね」
「消えた2名が捕まってるのであれば隷属の首輪を装備されて自分達が犯してきた犯罪を洗いざらいシグチス警備隊本部での捜査で話している頃だろう。スパイギルドに関係があるんであればそっちに話が行くのは後日だろ?」
「それはそうですね・・・何かすみません相談してる様な事になってしまって」
「・・・」
「それでお礼代わりの情報を・・・今から30分ほど前に都市シグチスの行政長官が『侵略者”早乙女真一”』との戦争状態に突入したとの厳戒令と抹殺命令も合わせて出しました」
「いよいよ追い詰められて気が狂ったか?」
「早乙女さんの読み通りで、長官自身が相当に追い詰められていて最後の権力行使に踏み切ったのだと思います。それで国軍と警備隊と聖騎士団を含む教会関係者が反発、冒険者ギルド・商業ギルド・農業ギルドを始めとする主要ギルドも反発していますが・・・ドサクサに紛れてテイマーギルドと奴隷ギルドが同時に早乙女さん捕獲及び抹殺に賞金をかけました。両方で20億Gです」
「俺が賞金首になったのか? アッハッハッハ。それにしても俺の持ってる資産を考えると20億Gってずいぶん安いな」
「笑い事ではないと思うのですが・・・それで最高評議会と評議会がシグチスの行政長官を罷免する動きに出てました。最高評議会から先程出された発表では『シグチス行政長官の気が狂った』『シーパラ連合国は冒険者早乙女真一を敵として見ていない』として行政長官のもつ権限をすべて凍結、厳戒令と抹殺命令の解除、そして賞金を懸けたテイマーギルドと奴隷ギルドの非難を合わせて発表しました」
「カオスになってきてるな・・・クックック」
「我々の情報網からの報告ですと・・・テイマーギルド内も奴隷ギルド内も、早乙女さんを敵とするか味方とするか、はたまた傍観するべきか・・・いくつかに割れて内戦状態になってるという報告です」
「面白い情報をありがとう」
「このシグチスの裏社会でも同じような状態ですね。追い詰められた組織のいくつかは早乙女さんを狙って蠢いていますし、早乙女さんに掛けられた賞金の20億Gを狙ってる組織もあります。それで情報を早乙女さんに売って私達のスパイギルドのように、早乙女さんに敵対しない様な組織になるのか・・・」
「それも含めて”人道にもとる奴ら”を壊滅させるようにという主神ゴッデス様からのご神託によって俺はここシグチスで・・・いや、違うな・・・シーパラ連合国で活動をしてるんだよ」
「分かりました。早乙女さんの噂の一つとして以前からあった『主神ゴッデス様の正義の代行者』というのは本当だという事を私はスパイギルドを使って噂を流すのですね?」
「時間が無くなってきたからな、話が早くて助かるよ」
「それと・・・今ここで待ってるのは待ち伏せですか?」
「そういう事だ。じゃあ服部さんは行ってくれ。俺の戦いを見てても構わないけど、逃げ遅れて捕まるなよっと!」
俺は服部の腰のベルトを掴むと横に建ってる5階建てのアパートの屋根の上まで放り投げて飛ばした。
俺を賞金首として狙う組織が俺の所在を発見してここに集まってきたようだった。
夕陽が傾いてきた午後4時前、路地裏の暗がりで立ってる15才の男の周りを賞金稼ぎ共が群がってきてるようだな。
俺は罠に向かって突き進む様に、さらに奥の暗がりへと続く隘路を進んでちょっとした広場にやってきた。
広場で子供が遊んでるかと思ったら、ゴブリンが10体で飛び掛かる様にして俺に向かってきた。
戦闘開始の合図代わりに俺は一瞬にしてステータスからサイラスの闇属性甲殻鎧セットに着替えてから、左腰に差してある天乃村正を抜いて居合切りを一閃させて飛んできたゴブリンを一刀両断にした。
返す刀で右後方から攻撃してきたゴブリンの首を落として、左から迫ってきたゴブリンには右腰の雪切正宗を抜いて斜め下から両断。
正面から迫ってきたゴブリンの顔面に前蹴りを放って吹き飛ばして、その後ろにいたゴブリンごと吹き飛ばして殺害。
あっという間のゴブリン半減で恐れをなしたテイマーの気分が伝わったのか、ゴブリンの動きが停まったのを幸いに、俺の持つ『ビーストテイムマスター』の権限を使ってゴブリンのテイマー権限を俺に移管した。
『ゴブリンは俺の後ろに回れ』
『グギャ』
生き残った5匹のゴブリンが俺の命令に反応して俺の後ろに回る。
驚愕しているテイマーに話しかける。
「お前らは知らんと思うけど・・・召喚師の最上位スキルとテイマーの最上位スキルの、さらに上に『ビーストテイムマスター』というのがあってな。精霊王も悪魔王も使役させられて召喚できるようになるんだよ」
「な・・・」
「それでな・・・ビーストテイムマスターのマスタークラスになると、他人がテイムしている魔獣や使役させているゴーレム、エルフとかが契約している精霊の解除までが可能となる伝説でも聞いたことがないスキルなんだよ。このイーデスハリスの世界で俺しかいない新たなスキルらしいから、知ってなくても仕方がないんだけどな」
「・・・」
「そういう事でな・・・そこに隠れてる炎虎に命ずる『テイマーを連れてこい』」
『ガルゥ』
炎虎1頭がテイマーの襟首を咥えてきてポイッとオレの目の前に捨ててきた。
俺の目の前にデカい頭を近づけてきたので2本のカタナを納刀してから撫でてやると嬉しそうに目を細めてる。
周囲にいた全員が固まったのが気配で分かるので追い込みをかける。
「お前らテイマーが頼みにしている魔獣は俺が一瞬で横取りできるんだけど・・・どうする?」
「・・・」
「何10年という絆すら一瞬で書き換えられるんだ、どうするんだ?」
「ぐっ・・・」
これで立場が完全に入れ替わったな。
俺をここに追い詰めたと思ったが追い詰められてるのは自分達だったと理解できたようだな。
突如として『クソがぁ~!』と叫んで俺にボウガンから鋼鉄の矢を放ってきたが、俺の前に回り込んだ1匹のゴブリンが易々と掴んでしまった。
「そんな、ゴブリンがボウガンの矢を掴むなんて・・・」
「アッハッハ、テイムされたゴブリンだってなぁ、指示する人間のレベルによって能力が飛躍的に上がったりする事もあるんだよ。そんなことも理解できないテイマーって・・・レベルが低すぎるだろ」
「ご主人様、それでコイツラはいかがいたしますか?」
「炎虎がしゃべった!」
「魔獣が話せることも知らないなんてホントにレベルが低すぎるわ。殺す価値もないよ・・・さっさとテイマーギルドに帰って事実を報告して来いよ」
「クソッ、覚えてやがれ!」
「最後の捨て台詞まで雑魚だったな・・・服部さん、見てたんだろ? という事だ。俺はコイツラを解放してくるから貴方とはこれ以上遊んでる時間はないよ」
「失礼しました」
服部の気配が遠ざかって行ったのを確認してから念輪でニャックスと連絡を取り、新たな仲間は大歓迎してくれるという話を取り付けたので強引に確保した炎虎をニャックスの元に転送魔法で送った。
困ったのはゴブリンだな。
俺の名前をテイマーの名前に強引に書き込んだことでゴブリンのレベルが上がったのは、今まで強引にテイムした魔獣達と同じなんだが・・・このゴブリン5頭はレベルの上り幅がかなり大きかったようだ。
隠されていた才能が開花したみたいでゴブリンエンペラーのステータスレベルを凌駕してる。
名前も変化していて『早乙女・ゴブリン・一郎』から五郎までの名前がついてる。
試しに話しかけてみたら普通に会話できるようになってるし・・・どうしたもんか悩むな。
俺の名前がついてしまったのに野に放つのもなんだし、かといって俺らを街に閉じ込めるのもどうかと思うし・・・
とりあえず服装がボロボロだったので、ワイバーンの革鎧を作ってあげて見た目が全く同じゴブリンなので、革鎧の胸の部分と背中に名前の一郎と入れて区別できるようにした。
革鎧の装備の仕方がわからなかったようなので教えてあげるとすぐに習得してしまう・・・吸収力も高いようだな。
ワイバーンの革製のブーツを履くのもすぐに覚えてしまった。
ステータスを見るとナイフ使いスキルが全員に付いているので、ダマスカス鋼製でオリハルコンコーティングをした特別製のナイフを作ってあげて腰のベルトに鞘とホルダーを付けて装備させた。
それとステータスに木魔法の欄があって魔法まで使えることにビックリする。
そういえばセバスチャンが大森林地底湖の近くに畑を作っていたという事を聞いてたな・・・彼らに育ててもらおうかな。
セバスチャンに念輪の回線を繋いで話を聞いたら畑の近くにゴブリンの集落があってたまに畑を荒らされてて、ゴブリンに見張ってもらえるのは助かりますという意見だったのであそこでゴブリン村でも作ってもらおう。
とりあえずは俺の名前が入ってしまったので冒険者ギルドシグチス支部に行って魔獣登録をする事にした。
裏道を通って近道したので15分程歩くと冒険者ギルドシグチス支部に到着。
すぐに名前を登録して早乙女遊撃隊の所属になった5匹のゴブリン。
登録プレートをネックレスに取り付けたついでに念輪機能とアイテムボックス(中)も取り付けてあげた。
冒険者ギルドを出てから近くの早乙女商会シグチス支部に入って、転移魔法でゴブリン達を連れて大森林地底湖に跳んだ。
セバスチャンの作った畑の近くにあるゴブリン集落を一郎たちに襲わせて集落にいた46匹のゴブリンを配下にさせ、以前に盗賊たちから奪った武器や防具の資材で新しく加わった配下たちに鉄製の簡単な武器と防具を作ってプレゼント。
これでこの大森林地底湖近くに早乙女ゴブリン村が誕生してしまったな・・・少しうれしくなってきて、集落の洞窟に固定化魔法を使って頑丈に作り変えて、オークなどに襲われても逃げられるように出入り口も小さく複数作った。
グリーンウルフダンジョンを参考にして作ったけどこれで大量のオークやトロールに襲われても、反撃可能になっただろう。
配下になったゴブリンは『グギャグギャ』と言ってて直接会話することはできないが、一郎たちの通訳で簡単な会話ならできるようになった。
もしかして・・・人間とゴブリンの友好な関係構築に進歩してる。
一郎たちのネックレスがキラキラしてて羨ましいという事だったんで早乙女ゴブリン村の村民には俺のお手製の魔道石英ガラスの欠片が1つついたネックレスをプレゼントしてあげたら跳び上がって喜んでる。
直径2cm程の1つの魔道石英ガラス球にひもを通しただけの簡単なネックレスで、ここまで喜んでくれるとあげた方も嬉しくなってくる。
森林モンキーとゴブリンは光り物が好きってのはマジだな・・・ちょろすぎ。
後はセバスチャンと相談して自給自足が可能な早乙女ゴブリン村の建設を任せることにする。
一郎たちに畑作について簡単に説明してる最中に確認したら・・・ゴブリンは雑食なんだけど『米』とか『小麦』などの穀物は不味くて食いたくないようだ。
まぁ、人類も穀物って加工して食べる食品だしなぁ、でも・・・これは新たな商売の予感がするな。
ちなみにオークは豆類が苦手なんだけど食欲の方が強すぎて我慢して食っちゃうらしい。
シャテルとカレンをそんなに待たせると心配してくるだろうし、俺には時間がないので一郎たちから得られる魔獣情報はセバスチャンに任せて、早乙女商会シグチス支部に転移魔法で帰還した。
執務室でステータスから旅人の服とリザードドッグジェネラルのブーツに一瞬で着替えた。
歩いて外に出てからホップボードを久しぶりに取り出してイニエスタ家本宅に向かった。
るびのから念輪連絡が移動中に入って今日の森林タイガーと行っていた大草原の馬狩りの成果で大量の馬肉と馬の革が、るびののアイテムボックス経由で送られている事を教えてもらった。
狩りが終わったんでこれから食事会が始まるという話を聞く。
しかし・・・馬がデカいな。
肉の量がハンパじゃないほどあって驚いてしまう・・・単位がトンだし。
荷馬車を引いていた馬も1tぐらいある様な巨大な馬だったけど、このイーデスハリスの世界では小さい方の品種かもしれん。
野生の馬の魔獣はさらにデカいとは思ってもみなかった。
イニエスタ家本宅の正門前に到着してホップボードをアイテムボックスに入れていると、通用門が内側から開けられて中から門番が出てきて挨拶されたのでそちらの方から入っていく。
中に入ると門番詰所から親衛隊が1人出てきて本宅の正面入り口まで案内してくれるようだ。
邸内の庭の様子を眺めながら歩いていく親衛隊の後ろを付いていく。
早乙女邸の庭と違って花畑となってるな。
色とりどりの花が咲いてて、熱心に手入れをされて愛されている様な庭の作りになってる。
正門から母屋の正面入り口までは歩道の方は入り組んだ小路になっており、色とりどりの花が季節ごとにお客に楽しんでもらえるような、計算し尽くした植え方をされている。
ゴーレム馬車は通れるような広い道はガレージに続いていて、違う道になってるのは早乙女邸と同じだが・・・うちの場合は植えてあるのは全部食用で花壇ではなく畑になってる。
早乙女邸の場合は裏庭の方に樹木が植えられている・・・関係ないか。
正面玄関に近づいて分かったのは・・・イニエスタ家の母屋は『純和風』の邸宅だった。
広くて豪邸ではあるんだけど、外観は和風以外の何物でもない瓦の屋根と土壁・・・どういう事なんだろうか・・・ゾリオン村・バイド村・ヨークル・シーパラ・ドルガーブと色々と旅してきたが、ここまで純和風な家というのは初めて見た。
温暖なシグチス周辺では和風の家の方が良いのだろうか・・・俺には想像もつかない。
転生者が過去に伝えているのだと思うが。
鑑識魔法で母屋を調べて分かった事だが、この家は建てられてから2年と経過していない。
という事は、この家を建設した大工がいるという事となる。
これはイニエスタ家に興味が湧いてくるな。
庭は10年以上の歳月をかけて作り込まれているのに、母屋の方は新築というのはどういう理由なんだろう。
日本で大工経験者が転生してきて技術を伝承してきたのか・・・興味が尽きないな。
そんなことを考えながら出迎えてくれたカレンの顔を見て思い出した・・・和風建築物に最も詳しい人物がここにいるな。
カレンと一緒にいるシャテルにも挨拶をする。
「お待たせしましたカレンさんとシャテルさん。どこかのクソ馬鹿の行政長官のせいで遠回りをさせられて、遅くなってしまって申し訳ない」
「またあの人ですか・・・ユンチャルさんがシグチスの行政長官になって25年がたちますけど、シグチスの治安は乱れに乱れて、その中心にユンチャルさんがいるという噂が絶えた事はありません」
「私はこの街にきて20年でございますが、ユンチャル行政長官は私にとって天敵ともいえる人物でございますね。何度罠にハメられ窮地にたったことやら・・・何度、警備隊に直訴して証拠不十分という意味不明な理由で逮捕されないどころか、私の方が名誉棄損って言われて逮捕させられる羽目に・・・」
「ユンチャル行政長官にもう先はないよ。すでに犯罪に係わっているという証拠は充分に聖騎士団の手によってシーパラ連合国の最高評議会に手に渡ってる。最高評議会からの通達が下され聖騎士団がシグチス行政本部に乗り込んだようだ。副長官は俺に成敗されて長官は逮捕・・・凄いなシグチスの行政は」
「これによってシグチスは平和に近づいてるのでしょうか?」
「事件も犯罪も何も起きない事が平和という概念であれば、百年たってもシグチスは平和にたどり着くことは出来ないでしょう。外国から犯罪者が次々やってきてますからね。ただ非人道的な犯罪は俺が大幅に減らしますよ。シグチスの陰に隠れてる裏社会は壊滅させますから」
「そんな夢みたいな事が実現できるのでしょうか?」
「シャテルさん、やるんです。すでに警備隊に蔓延っていた犯罪者は撲滅しましたし、国軍のシグチス駐留軍からも犯罪者は壊滅して排除されました。シグチス行政本部にからもこれから犯罪者は排除されていくでしょう」
「早乙女様、こんなところで立ち話もなんですし母屋の中に入ってお話の続きをしませんか?」
「それもそうですね」
カレンが促してシャテルが先に立って案内してくれるのでここまで俺を連れてきてくれた親衛隊の人は、庭のパトロールの任務に戻りますと言って歩いて出ていった。
シャテルの後ろについて歩きながら思ったのは『この家は変わってる』だな。
イニエスタ家の内部で働いている親衛隊も門番もメイドも男性使用人も先ほど捕まったスパイも全員が『犬獣人』だったからだ。
全員の頭にケモミミ(犬)がついてる。
ケモミミの長さは一定ではなくて長くてペタンと垂れ下がってる人もいるが、みんな種類も毛色も違う犬のケモミミがついているし、俺の鑑識の魔眼から入ってくる情報でも、先行して情報収集をしていた忍からの情報でも敷地内部で働く人達は庭師も含めて全員が犬獣人らしい。
地球の犬と一緒で群れて集まって生活する習慣でもあるのだろうか・・・和風の建物といいこのイニエスタ家には俺の興味を沸かせるモノは多い。
家の内部は土足厳禁で玄関でブーツを脱いでアイテムボックスに入れてから入っていった。
早乙女邸と似てるのは土足厳禁と玄関と廊下は板張りなところだけだが、イニエスタ家は部屋の内部は全室が畳の部屋だった。
藁は天然のモノが大量に俺のアイテムボックスに余っているけど、畳表になる『藺草』がまだ発見できてないんだよな。
それに製法もしらない俺にはまだ作り出せなかったんだけど・・・ここにこれだけの量の畳があるって事は製品があるって事だし、早乙女邸にも畳が導入できる日は近いかもしれん。
それと完成品の畳を鑑識の魔眼で調査させてもらったので藺草さえあれば同じ物なら製造可能だろう。
出来れば完成品の本物を1度アイテムボックスの中に入れて解体してみたい。
そうすればいろんなバリエーションの畳も作り出せる。
今に到着して座ることをすすめられた場所は掘りごたつ式の座椅子だった。
畳のいい匂いのする部屋でメイドによってお抹茶が運ばれてきた。
お茶請けは饅頭だったのでビックリしたが、そういえばシグチスは砂糖の流通でヨークルと川で繋がってるんだったな。
それともここはカレンからの情報でアンコが発達していたのか?
抹茶を飲みながらの雑談の中で2人に教えてもらって分かったのは・・・畳はイニエスタ町がまだ村だったころの特産品でイニエスタ家がサトウキビの大成功を収めるまではイニエスタ村周辺で藺草を収穫して畳職人が畳を手作りで作って最高級の畳として販売。
今はイニエスタ町の特産品は砂糖になったので畳職人はシグチスに移り住んで、イニエスタ商会の支援で畳工房を作りシグチスで販売を始めた。
藺草はイニエスタ町以外の周辺の村の特産品なので、方々から藺草と藁がシグチスに集められて畳が生産されている。
職人も周辺の村からもシグチスの工房に続々集まってきて、職人の人数が集まったことで職人の若手を育成することが可能になり、職人の人数も生産量も大幅に増やして品質を下げることなく価格を下げることに成功した。
イニエスタ商会のサポートでシグチス畳工房が上手く回転し始めているようだ。
それでアンコもカレンからの知識でなくヨークルから最近伝わってきたもので、砂糖の消費量を上げるお菓子ということでシグチスでも拡散できるようにレシピを貰ってきて知り合いの料理人の全てに無料で配っている。
それで出来たのがこの饅頭・・・食べてみたがオーソドックスの味で無難なものだな。
特色がなかったけどまずはこんな感じでアンコが広まると良いな。
大福とかもそのうち出てくるだろうし、イーデスハリスの世界ならではのスイーツなんかも俺が知らないだけでどこか他の国にはあるのかもしれん。
それらの未知のデザートと融合した新たなスイーツが誕生して欲しい。
と、そんなことを考えながらカレンたちと雑談しながら客間で抹茶を楽しんでるとシャテルの旦那と旦那の両親が挨拶に来たので立ち上がって、まずは自己紹介から。
「これはこれはご客人、妻を窮地から救っていただいて誠にありがとうございます。申し遅れましたが、私はシャテルの夫の『チェスター・イニエスタ』といいます。チェスターとお呼びください」
「チェスターさん、アマテラス様から救ってほしいと言われて俺は当然の事をしただけですよ。俺の名前は早乙女真一です。真一って発音しにくいようなので早乙女とお呼びください」
「当然と言われましても、イニエスタ家に嫁いできてくれた嫁を救出していただいた後に、イニエスタ家の中に入り込んでいたスパイまで捕まえてもらいまして、なんとお礼を申し上げればよいものやら・・・失礼いたしました。私はチェスターの母の『ミケーレ・イニエスタ』です。ミケーレとお呼びください」
「私の名前は『セドリック・イニエスタ』といいましてイニエスタ家の現当主をしております。お気軽にセドリックとお呼びください。それから私からもお礼を言わせてください、義理とはいえ我が娘の命を救っていただき誠にありがとうございます。それと共にイニエスタ商会の窮地も救っていただき本当にありがとうございます」
挨拶が終わってからも何度も何度もお礼を言われてしまった。