転生者『劉・ステファニア・カレン』との出会いがありましたっす。
1・7修正しました。
俺に降りかかるウザい視線は2つ。
1つは遠見魔法によって監視されている。
監視の元をたどるとシグチスにある中央行政区域の中にあるビルの中の1室。
いくつかの結界がビル全域に掛けられているが俺には意味がなくて、遠見魔法によって丸見えになる。
遠見魔法で探った情報を脳内MAPで照合するとシグチスの行政長官の執務室にヒット。
行政長官と腹心の部下がいて目の前に遠見魔法で俺を監視してる人物がいた。
アホかこいつは・・・自分の尻に火がついてるのに俺を監視してるのは意味がわからん。
ショック魔法&ダイイングメッセージ(ショック魔法なので死んでません)で脅迫だけにしておく。
浮かび上がるメッセージは血文字で・・・『次は殺す』だけどな。
目の前で遠見魔法で監視していた男が突然倒れて、腕が動いたと思ったらメッセージが床の上に血で浮かび上がって出てくる。
書いてある内容を読んでシグチスの行政長官が『ひいぃ~』と叫んで口から泡を吹きながら失神。
秘書は小便を撒き散らしながら逃げていったので少し笑いそうになった。
もう一つのウザい視線は食料品市場の中にある。
早乙女商会シグチス支部の前からストーキングしてきてるようだがまだ目的がハッキリしないから放置中。
連絡を取ってる様子がないので・・・念話スキルでどこかと連絡してる可能性が高い。
さすがに俺の探査魔法でもスキル魔法でどこと会話してるのかまでは探ることができない。
諦めずにこちらも監視を続けている。
俺が食料品市場の中で雑踏に紛れて行動し始めたので大胆にも接近してくるのを待ってるが、敵もさる者だな・・・なかなか近づいてこない。
これはプロの監視者の可能性が高い。
しかし俺を追跡しているのが1人というのが少し引っかかるな。
並列する思考で周辺に気を配り、監視者の動向をこちら側からも監視しながらシグチスの食料品市場の中を歩き回る。
シグチスの食料品市場はドルガーブの食料品市場と似ている。
海外から輸入されてくる商品が非常に多くて、並んでいる商品の半分以上は海外からの輸入品。
シーパラではそれほど多くの品種は作られていない小麦・大麦・小豆などもここでは、世界中からの輸入品が格安で手に入れる事が出来る。
シグチスの特産品である砂糖と綿花も原材料をそのまま購入する。
小豆も大量に購入したのでアンコも大量に製造可能になった。
俺が探してたメンマも竹も大量に安く販売されているので購入しておく。
竹も青竹や乾燥させた竹、珍しいのは竹炭なんかも販売されていて片っ端から購入していくが、食料品市場なのに竹が売ってるので珍しさにあちこちと見まわる事となった。
俺がフラフラ予測不可能な動きになって先ほどの監視者の警戒心が緩んだのか・・・初めて目で見える位置まで接近してきたので鑑識魔法で素性を探ると、他国のヤツだという事がやっとわかった。
人族でなくてエルフ・・・それもシーフとしての能力がかなり高い。
エルフの王族で亡命してきたヤツラの斥候担当かな。
風の精霊を自分の周辺に纏わせて認識阻害結界と似たような精霊魔法で自分の存在感を消してる。
危惧していた亡命者たちがとうとう接近してきたかもしれん。
精霊の守護を纏った状態なので俺の魔法は効きにくいだろうし、俺の動きを監視するのも精霊に手伝わせているから遠距離での監視となってるんだろう。
・・・向こうから来ないなら俺から行ってやるか。
ソイツをジッと見つめながら近づいていくと監視者は不審な動きにならないように俺から距離を取ろうとするが、俺が一直線に向かってくるので恐怖を感じたのか走って逃げはじめる。
食料品市場を飛び出て本格的に走って逃げるが、俺のスピードを持ってすれば軽く走ってても徐々に追いつき始める。
とある高層ビルとビルの隙間の通路に入り込んで風精霊を20体以上展開させてエアカッターを連発で打ち込んできた。
左手でアイテムボックスから白扇子を取り出してバン! と広げると風魔法もシルフィも全部白扇子に吸収されてしまった。
「な、シルフィを強制帰還させる風神の扇子だと!」
「太陽神アマテラスのご褒美でもらった神器だからな。この程度で驚いてもらったら困るよ! っと」
扇子をフワリと下から上に仰ぐと監視者の体が1mほど浮かび上がり空中で固定された。
宇宙遊泳のように周囲に足場になるものがないと逃げる事は出来なくなる。
「早乙女の名をもって召喚する来い! 『シルフィード』」
「早乙女様、ご召喚していただきありがとうございます」
12歳ぐらいの美しい顔をした金髪の美少女が薄い黄緑色のベールの様な布を体に纏わりつかせて風になびかせて俺の目の前に出現した。
「風の精霊王シルフィード様を召喚するだと!」
外野がウルサイが気にしない。
「コイツの精霊の加護を一時停止してくれ」
「ハハッ、早乙女様の仰せのままに」
シルフィードが俺に向かって優雅に一礼した後、監視者にフッと投げキッスをすると監視者を覆っていた風の精霊の加護が一時的に解除され、その隙に監視者の知識と記憶を情報複製でヘルプさんに全部コピーする事が出来た。
「ありがとうシルフィード。目的は達成したからコイツの精霊の加護を戻してから帰っていいよ」
「私めに御礼などと、もったいないお言葉・・・ではまたお呼びください」
シルフィードが頬をピンクに染めながら左手を監視者に向かってフワッと風を送り込むかのように手のひらでそよぐと、監視者の周りから消えていた緑の小さなシルフィ達まで元に戻りシルフィードは精霊界に帰って行った。
「さぁ、ここまですれば俺と君達のレベルの違いを理解できたかな?」
「くっ・・・」
「だから逃げられないって」
「な・・・」
監視者を空中に固定していた魔法を解除して白扇子をアイテムボックスに入れ、監視者を空中から降ろしてやると・・・後ろを向いてダッシュした先に俺が立ってるのを見て驚愕して固まった。
後ろを振り向いて俺が立っていた場所を確認するが誰もいない。
「後ろを振り向いても誰もいないよ。お前程度のスピードは凌駕しちゃうレベル差だって事に気付けよ」
「クソッ、何が目的だ」
「それはお前に監視されていた俺のセリフだろ?」
「俺が話す事なんて何もない。俺から話すことは何もない。俺はシーフマスターだからどうやっても情報は引き出せないぞ?」
「お前から情報はすでに引き出し終わったよ。分かりやすく言うと情報複製魔法って知ってるか?」
「何だそれは・・・」
「知らんのだったらいいや。所詮お前は”エサ”なんだし」
「エサだと!」
「エサだよ雑魚。早く仲間を念話で呼んでくれよ・・・おっと、まぁこんなの効かないんだけどな」
「な・・・」
俺に向かって後方から飛んできた矢を目にも止まらぬスピードで右手を動かして5本掴んだ。
5人の襲撃者の後ろにいて指示を出してるエルフに鑑識の魔法をかけて風精霊の加護を持っているのを確認してそのまま情報複製の魔法をかけると、周りにいる精霊が避けて魔法を通してくれるところまで俺には見えた。
やっぱり、先ほどシルフィードを召喚したのがシルフィたちには見えてたみたいだな。
情報複製で得た情報がヘルプさんによって整理整頓されて監視者から奪った情報と統合されて俺に報告された。
俺は歩いて近づきながら声をかける。
「これはこれは、『新緑エルフ・オストラン王国』のエウリペデス王子様でしたか・・・初めまして早乙女真一です」
「なんだと! 貴様どうして」
「しッ」
「今更だろ・・・エウリペデス・オストラン王子。して、ワザワザ俺に会う為にここに出向いてまで何の用ですかな?」
「・・・」
「しゃべらなくても俺に話わかるから。お前の国の再興に俺の力が必要だなんて俺からすればどうでもいいことだよ。怨むならお前の祖父を怨めよ・・・400年以上前にドワーフ王国に戦争を仕掛けて国を滅ぼしたクソジジィを」
「貴様! たかが人間ごときが!」
「その人間風情の力を借りないと国を再興出来ないお前らは何だ?」
「若様! だから私は反対したのです。このような下賤な者の力など必要ないです」
「下賤ねぇ・・・たかがエルフ風情の、しかも国も持たない若様ねぇ。こういう雑魚で口ばかり達者で何の力もないクズのくせに、権力欲だけは旺盛でプライドだけは山よりも高いカスと一緒に行動してると、俺は話を聞く気にもならないって事だけはエウリペデス王子に言っとく」
「うっ・・・」
こういう上から目線の王侯貴族に対する反逆心と、権力を振りかざそうとする権力者を憎む心が、俺の貰った知識と記憶の中から殺気となってあふれ出てきて周囲にばら撒き始める。
俺の体から濃密な殺気が周囲にあふれ始めて・・・ここでやっと俺の恐ろしさを実感し始めたエウリペデス王子の取り巻き連中が息をのんで押し黙る。
「そもそもエウリペデス王子自身はオストラン王国を復活出来るなんて思ってもいないだろ?」
「そ、それは・・・」
「王子! それはいったいどういう事なのですか?」
「お前ら取り巻きの貴族連中が自分達の権力欲しさに王国再建を唱えてるだけで、王子自身は王国の再建以上に欲しいものがあるって事さ」
「・・・そ、そんな」
「王国の再建以上に欲しいモノとはなんですか? 王子、教えてください」
「・・・早乙女様の言う通り、私にはオストラン王国再建よりも欲しいものがあります。それは・・・自由です。私は生まれる前から滅びてる王国の王子として育ち、世界中で定住できない流浪の日々を過ごしてきました。古代から伝わる新緑エルフの王族の直系の系譜のエルフとはいえ、私にとってはは王国の何もかもが知らない事なのです」
「・・・」
「知らない事を再建するって・・・私には理解できません。むしろここにいる皆様は私の親族ですから先祖を辿れば新緑エルフの王族にたどり着けるのですから、誰でもいいのではないのですか? なぜ私でないといけないのでしょうか?」
「そ、それは王子は直系の系譜に連なって・・・」
「俺から言わせればお前達はエウリペデス王子を利用して権力の甘い汁がまた吸いたいだけなんだろ?」
「ぐっ・・・」
「王様に自分でなった方が権力が握れるだろ? もともとすべての王族と呼ばれるヤツラは初めに始祖がいるんだから自分でやれよ」
「・・・」
「そうだよな、お前達は権力の中心に自分達の操り人形を置いて甘い汁だけ吸いたいだけなんだよな?」
「そんなことない! 我々は心からオストラン王国の再建を願って・・・」
「それならなぜ王様になる気持ちがない男を中心に据えようとする必要があるんだ? 自分でなくて他人なんだ? そもそも国を作るには絶対必要なモノがお前達にはないんだよ」
「必要なモノとは・・・」
「国民だよ。国民を盾にして見捨てて逃げたお前達についてくる国民はどこにいるんだ?」
「ぐぬぬ・・・」
「生き残った国民は別の王様を立てて腐敗して伝説の魔王『露草康助』に全国民ごと滅ぼされたんだろうが。国を再建するって国民はどうするんだ? どこから集めてくるんだ? お前らが国を作ったら国民がどこかから湧き出てくるのか?」
「・・・」
「お前らの妄想は中身がなさすぎるよ。エウリペデス王子だけが現実を見てるんだよ」
「では、我々の悲願はいったいどうなさるおつもりなのですか? 王子! 答えてください」
「自分の悲願なんだったら自分でやれよ。エウリペデス王子を巻き込むなって言ってるんだよ」
「くそがぁ、お前は黙れ!」
取り巻きの一人が腰のサーベルを抜いて俺の額を突き刺す。
サーベルは結構な業物なんだがもちろん俺に刺さることもできずに額に当たったまま止まってる。
「見ろ、エウリペデス王子・・・これがコイツラの正体だよ。他人を下賤な者と見下ろして自分達の権力のみを追い求め、甘い汁を求めて権力と武力を使って他のモノからたかり、自分達のいう事を聞かない奴は殺そうとする。それでいて自分達は矢面に立つことなく他人の人生を弄び、自らは責任から逃れ続けて美味しい部分だけを独占する」
「な・・・な・・・」
「早乙女様、申し訳ございません・・・それに、大丈夫なのですか?」
「この程度の腕のこの程度の剣が刺さるようではAクラスの冒険者なんてなれませんよ(ウソ)」
「ウソって・・・ふふっ」
「おおお! 王子様がお笑いなさった・・・初めて見た・・・」
俺の後ろにいた監視者が驚愕の声をあげている。
「お前達は王子王子と持ち上げといて、人から”笑う”という感情まで取り上げていたのか?」
「そ、そんなはずは・・・」
「ではエウリペデス王子が笑っただけで驚愕してるお前らはなんなんだ? それとも操り人形は自らの意志で笑う事すら出来ないのか?」
「・・・」
「いい加減にエウリペデス王子をお前達の自分勝手な縛り付けから開放してやれよ。そこまでして操り人形が欲しいなら、自らの意志でもって操り人形になりたい奴を探してこればいいだろう。操り人形じゃないというのであれば、自分達で話し合って自分達で王様をやればいい。王子を縛りつける理由はないはずだ」
「・・・」
「そもそも再建する王国なんて国民すら存在しないんだから不可能だろ。もうすでにお前達が願ってる権力なんて存在しないことをそろそろ自覚しろよ。自分達の妄想に他人を巻き込むな」
「・・・」
「それを含めて現実を見ながら、みんなで今後を話し合えば良い・・・俺の言いたい事はそれだけだ。じゃあな」
呆然と立ちすくむ6人のエルフと俺にお辞儀するエウリペデス王子を残して俺は立ち去る。
これ以上付き合ってられない。
コイツら取り巻きを説得して解散させる事に納得させるのは俺の仕事ではなく王子のする事だからな。
自分の意志で説得すればいい。
俺は今来た道を戻り食料品市場に足を運ぶ。
監視する奴がいなくなったので買い物を楽しむ事が出来る。
シグチスの食料品市場で売っている魚介系の中で種類が多いのは貝類とエビだな。
たくさんの種類の貝類が置いてあるのだが・・・大きさがデカいモノが多い。
地球のいた時に見慣れている小さなシジミが大アサリサイズな事に『これがシグチス湾産のシジミだよ』と店主から説明を受けるまで気づけないほどデカかった・・・大アサリなんてもはや野球のグローブになってるし。
シーパラだと少し大きいかな? ぐらいのサイズだったので気が付かなかったが・・・シーパラ湾内とシグチス湾内では成長度合いに違いがありそうだ。
まぁ美味しそうなんで大量に購入するのは一緒なんだけど。
俺があちこちの商店から大量に購入してるのを見て、カスどもが蠢き始めるのが俺の気配察知に引っ掛かり始めた。
買い物を終えてシグチス食料品市場の巨大な建物の外に出ると後ろから30人ほどがついて出てきて俺に大声で話しかけてきた。
「おぅおぅ、クソガキぃ。誰に断ってここを通ってるんだぁ?」
「・・・(ガン無視して嫁と念輪で話してる)」
30人の集団が前に回り込み、さらに俺の周囲を取り囲む。
「何ですか貴方達は・・・これ以上借金奴隷を作るのも飽きたし、警備隊の牢屋もいっぱいなんだから帰れよ」
「誰に断ってここを通ってるんだぁ? 通りたきゃ金を払え!」
「いまどき通行料ってなぁ・・・お前らは山賊かよ。なんなんだ・・・この典型的な雑魚キャラのセリフは。モブの雑魚に払う金なんて1Gもあるわけないだろ」
「貴様ぁ! 俺達にケンカ売ってんのかぁ? よし、決闘だな。お前の全財産を貰ってやる」
「・・・32vs1で決闘しますか。なら戦闘開始だ!」
「ガッハッハ、そんなド派手な色の木刀で何をするつもりなんだい坊ちゃん!」
「そうだな、おまえら程度を殺すのに武器を使ったらハンデが減っちゃうよな。分かった分かった可哀想だから素手でやってやるよ」
俺は腰のホルダーに付けっぱなしになっていた早乙女木刀をアイテムボックスに入れて片付けた。
馬鹿軍団のリーダーらしき男に右手の人差し指で『おいでおいで』と分かりやすい挑発をする。
「素手になってやったぞ? さっさと来い」
『ウガァ~~!』
後ろから大剣を振りかぶった男が突撃してきて俺に向かって振り下ろしてきた。
俺は左回りの反時計回りに振り返り、左手で上から振り下ろされた大剣を掴んで受け止めると、大剣を引き寄せて空中にいる敵の顔面に右ストレートを入れて頭部を粉砕した。
掴んだままの大剣を持ってる敵ごと振り回して周囲の敵を薙ぎ払う。
逃げようとした敵に大剣ごと投げつけて殺害。
食料品市場の近くにある警備隊の支部から警備隊が駆けつけてくるまでの間には全部終わって死体を並べ終わってた。
決闘だったと証明してくれる人も大勢いたし、もともとこの山賊のような連中は食料品市場の鼻つまみ者で通っていたので、この場で調書を書いて終了。
死体、と言っても残骸しか残ってないが・・・は、警備隊が引き取っていき、ヤツラのアイテムボックスに入ってた隷属の首輪と魔石と魔結晶だけもらって残りは処分してもらうようにお願いした。
時刻は11時前、中途半端な時間になっちゃったな。
早乙女商会シグチス支部の専用執務室に帰ってきて自分専用の肘掛け椅子に腰かける。
さっき嫁達に念輪で確認したけど今日の昼食はシーパラの食料品市場で買い物中に教えてもらった店で外食するとの事だった。
そこに懐かしい黒電話の音が俺の脳内に鳴り響き『アマテラスほっとライン』の回線がつながる。
【やっほ~♪ 真一お兄ちゃん】
「やっほー、アマテラス。何かまた緊急事態でもあったのか?」
【昨夜からの騒動で私がしていた『シグチス裏社会探索』に引っかかった転生者がいたの。それでゴッデス様に聞いてみたら・・・彼女は真一お兄ちゃんに似て”お人好し”だから罠に引っかかったか、詐欺にでもあったんじゃないのかって事なの】
「お人好しで悪かったな・・・ほっとけ」
【別にお人好しを責めてるわけじゃないの。それで彼女の名前は『劉・ステファニア・カレン』カレンさんがゴッデス様に与えられた能力は”ラッキーメイカー”アイテムに幸運を付与する力ね】
「なんだその微妙な能力は」
【なんでもいいから人と違う能力が欲しいと言ってラッキーメイカーに決まったって聞いてる。それに戦闘能力は転生前から薙刀と柔術はマスタークラスを持ってるの・・・】
その他のアマテラスからの情報では・・・
彼女は台湾から日本に嫁いできたお姫様で日本の大名家の側室となって天寿をまっとうした。
そこに俺が殺した4人の神によって時代を変えられて20年前のイーデスハリスの世界に犬獣人の忍者マスターとして転生してきた。
カレンが4人の神に貰った能力は2つ。
忍者マスターのスキルと幸運増加の祝福。
さらに元々持っていた戦闘能力に加えて犬獣人としての察知能力に、忍者マスターとしての危険回避能力で・・・4人の神が手玉に取られるほどの逃げ足と忍術スキルで戦闘奴隷にされることなく楽々と逃走してしまうし、たとえ捕まっても元々持ってる幸運の強さに幸運増加の祝福までついてるので易々と逃走、もしくは協力者によって救出。
4人の神に悲惨な人生にさせられることもなく、自由気ままに好き勝手にこの世界で生きていたようだった。
10年前にゴッデスが会いに行った時も、まだ遊び足りないからという理由でイーデスハリスの世界に残る選択をした。
今回カレンが裏社会に捕まった理由は・・・裏組織に誘拐された友人を救出しようとして罠にハマってしまったようだ。
たとえ捕まってもすぐに救出されるのがラッキーメイカーとしての能力なのかな?
アマテラスに場所を教えてもらって今すぐ救出に向かう事にする。
裏組織なので徒影を一緒に連れていって、奴隷として任侠ギルドに吸収させて労働力を確保する事にした。
場所はシグチスの北側の門の近くで脳内MAPで建物周辺を3D表示させると、地下の最深部に牢屋があって、そこに監禁されてるっぽいな。
遠見魔法で裏組織の敷地をくまなく監視してみるが・・・そんなに大きくない組織の様で、探査魔法で探っても20人ほどしかいない。
犬獣人の気配&臭気察知に引っかからないような罠の所在を調べたら・・・牢屋の内部に睡眠結界が張ってあるな・・・これかな?
カレンもカレンの友人らしき犬獣人も一緒に牢屋のベッドで寝てる。
罠ってより・・・魚が自分から網に引っ掛かりに行ってるような気がしないでもない。
任侠ギルドの襲撃スタイルである『サイラスの闇属性甲殻鎧セット』にステータスから着替えて、隠者スキルによって俺の存在感を封印して早乙女商会シグチス支部から転移魔法で裏組織の敷地内に跳んだ。
俺の特別製の封印結界で敷地を覆ってから敷地内に掛けられている封印・結界・施錠などは全部解除。
敷地全域を俺の監視下に置いた後にシグチスの街を探索していた徒影達が姿を現す。
・・・襲撃開始だな。
俺は地下2階の最深部にある牢屋に転移魔法で移動すると牢屋で同じような格好で寝てる犬獣人2名と、突如現れた俺に驚愕して警笛を吹き鳴らそうとする見張りがいた。
うるさいのは嫌いなんで警笛を咥えようとして見張りに左のボディーアッパーで鳩尾を突き上げてやる。
胃に入っていた内容物を撒き散らしている見張りのゲロを右へのサイドステップで避けた後で、追撃の右の前蹴りで見張りの左膝を粉砕してやった。
隷属の首輪をはめてからボッタクリ治療契約をしてエクストラヒールで借金奴隷の完成。
今頃は徒影達も敷地内で暴れまわって裏組織の人間を瀕死の重症を負わせているだろう。
牢屋の睡眠結界は解除したんだけど2人とも幸せそうに寝てるし彼女たちはこのまま寝かせておいて、先に21名の借金奴隷を作ることにする。
21名はエクストラヒールで完全復活したが全員が3億Gの借金を背負わされて、この土地の権利も全部俺のモノにした後で任侠ギルドに奴隷契約ごとセットで31億Gで転売。
新たな借金奴隷はマヅゲーラの街に転送魔法で送った。
マヅゲーラの街からビルドゴーレムが来てこの敷地の建て替えを始める。
俺は用事が済んだので熟睡中の犬獣人2名を空中に浮かせてから、2名を連れて早乙女商会シグチス支部に転移魔法で帰還した。
まだ熟睡中の犬獣人2名は早乙女商会シグチス支部の応接室のソファーに寝させてあげた。
2名とも犬獣人なので俺と身長は同じぐらいの170cmほど。
頭には獣人特有の犬耳がついてる。
襲撃スタイルから元のサイラスの甲殻鎧セットにステータスから変更。
犬獣人2名は熟睡中なのでアマテラスに連絡して神託で俺に救出させたことを説明しておいてもらう。
・・・いきなり俺の言う事は信用できないだろうしな。
アマテラスからの神託で俺が救出しに行った事を、アマテラス自身から説明されたらさすがに信用してもらえる。
丁度時刻は12時を少し回ったところだったので、今日はこの応接室で昼食をとることにする。
こないだのオークキング退治でオーク肉が大量に余ってる状態なので、オーク肉のステーキにロールパンの昼食にした。
俺がナイフとフォークを使って昼食をしてる匂いで、くんかくんかしている犬獣人2名の目が突如として開いた。
目は開いたんだが・・・肉しか見てないな。
「食べますか?」
「・・・(コクコクと頷く)」
「パンでいいですか?」
「・・・(フルフルと首を振る)」
「ご飯が良いですか?」
「・・・(コクコクと頷く)」
肉しか見てない・・・2名のハラ減り具合もヤバイんだろう・・・涎も垂れてきてる。
大盛りのご飯と大きめの500gほどにカットしたオーク肉のステーキを2名の目の前に出してあげると、無言でナイフとフォークを振るいハムハムと食い始めた・・・餌付け成功か?
まぁそんな冗談は置いておいて俺もハラ減ってるので昼飯を食べ始める。
2個目のロールパンにバターを塗って食べてる時に気付くと、2名の皿の上の食事が消えていて無言で俺の皿の上の肉を身を乗り出してガン見してる。
無言の圧力に負けて、また大きめの肉のステーキを出してあげた。
・・・それにしても幸せそうに肉を食べる2名の女の子達だな。
今度は俺のロールパンをガン見してくるので大きめのバスケットに大量のパンを入れて、小皿に山盛りにしたバターの皿と一緒に出してあげると、これも美味しそうにハムハムと食ってる。
食後にマッタリとコーヒーを啜るまでに目の前の犬獣人2名はそれぞれ2kgのステーキを食べた。
腹一杯になってやっと落ち着いたようなのでまずは自己紹介から。
「早乙女真一です。早乙女とお呼び下さい。年齢は15歳で一応こんな頼りない見た目でもAクラスの冒険者です」
「まずは助けていただきましてありがとうございます。『シャテル・イニエスタ』と申します。シャテルとお呼びください。年齢は35歳で見たままの犬獣人よ。今回は私の為に早乙女さんにもカレンにも、皆さんに迷惑をかけてしまいました」
「わ、私も助けていただきまして誠にありがとうございます・・・名前は『劉・ステファニア・カレン』と申します。カレンとお呼びくださいませ。年齢は私も35歳ですが・・・早乙女様は年上はお嫌いですか?」
「はぁ? 年上が嫌い? 別にそんなことはありませんけど。シャテルさんもカレンさんも御怪我はありませんか?」
「怪我は特にありません。アマテラス様から助けてもらった理由は聞きました。今回は私が招待されたお店で外食してるときにまさかワインや料理の中に睡眠薬を入れられているとは・・・少量ずつ混ぜられて不覚を取ってしまいました」
「私はシャテルが誘拐されたとシャテルのお父様に話を今朝になってお聞きしまして、シャテルが誘拐された店を探り出しまして店舗を襲撃。少々強引な手段ではございますが隷属の首輪を使用し、犯罪者の後の処置をイニエスタ商会の親衛隊にまかせ、あの犯罪者グループの拠点に乗り込んだまでは良かったのですが・・・まさか牢屋に罠が仕掛けてあるって事は見抜けませんでした。早乙女様にはご迷惑をかけてしまって申し訳ございません」
「しかしシャテルさんが誘拐にあうって事はお金持ちのお嬢様なんですか?」
「早乙女様は知らないのですか? えぇっと・・・実は・・・」
シャテル・イニエスタはカレンの20年来の友人で、シーズの『フォンマイ家』分家に嫁いでおり、イニエスタ商会の次期当主の嫁となって1男1女を儲けている。
イニエスタ商会はフォンマイ家のサトウキビの生産と流通を賄ってる大きな子会社で、シグチスよりもさらに船で1日ほど南に下ったイニエスタの町に生産拠点を構えて、砂糖を全世界に輸出して大儲けをしているらしい。
イニエスタ商会の発展のキッカケは腐ってる生ごみすら食える雑食のくせにサトウキビだけ食べない、魔獣”トロール”の存在を発見したことでして・・・魔獣テイマーによってトロールに管理させて一大サトウキビ農園を築いた事。
普通はゴミか肥料にしかならない魔獣の内臓などの生ごみを格安の料金を”貰って”大量に引き取り、トロールの餌にしてるんで給料はテイマーの給料だけ。
毒を持つ魔獣の肉でも食べて消化できる強靭な内臓を持ってるトロールだからこその有料引取り。
テイマーもトロールしかテイムできない様な”テイマーギルドにおいては”オチコボレとなってる人々を雇ってるし、イニエスタの町では”テイマーギルド非公認”のテイマー育成の学校を併設しているので人件費も格安で済ましてるので商売が成り立ってる。
何しろサトウキビ農園の雑草すらトロールがおやつ代わりに食ってるし、ごくまれに農園に入ってくる昆虫魔獣もトロールのオヤツでしかない。
トロールの繁殖もイニエスタの町では始まっていて・・・イニエスタ商会の編み出した『トロール活用&都市の生ごみ処理&農場拡大&労働力確保』は最高評議会の決定により、シーパラの対岸にある巨大すぎる農場のウェルヅリステルでも活用され始めている。
どおりでシグチスの湾港の荷積み・荷卸しなどの労働は奴隷でなくトロールがしていたんだな。
イニエスタ商会には莫大な富が将来にわたって約束されたも同然と言えるような環境になってきていて・・・それを妬むヤツラから脅迫や誘拐未遂などが相次いでいたようだった。
食後のまったりとした時間は雑談であっという間に過ぎていった。
雑談の中で分かった事だが・・・カレンはこのシーパラ連合国には数少ないSランクの冒険者で、アイリとミーは何度も一緒に冒険者ギルド依頼をこなしたり、アゼットダンジョンに一緒に潜ったこともあったようだ。
ヨークルで活動していた時期も5年以上あってフィアルカート防具店のドワーフの防具職人『ガルパシア・ウルス』・・・通称”おやっさん”も旧知の人物らしい。
シャテルも結婚する前はカレンと一緒に冒険者をやっていて冒険者ランクはC。
おやっさんやアイリやミーとも何度か会って話をしたことが会って面識があるそうだ。
カレンもシャテルも、おやっさん特製の甲殻鎧を愛用してる。
俺の購入したサソリオオクモやサイラスの甲殻でなく素材として、さらに高級で軽い素材の『クロサイラス』の甲殻を使用してるらしい。
ただ甲殻鎧の基礎になってる革の部分は俺の甲殻鎧はワイバーンの革を使用しているのに比べて、シャテルとカレンの甲殻鎧は軽さと動きやすさ追及の為にオーガの革を使用してるので防御力そのものには、2つの鎧にそこまでの差はないようだった。
アイリとミーにも念輪で確認したがシャテルとカレンの2人には初心者の頃に世話になっており、おやっさんと引き合わせたのはアイリとミーが世話になった人としておやっさんに紹介したからだと教えてもらう。
アイリもミーも気付いてないようだったが意外なところで転生者とつながりがあったようだ・・・