シグチスの夜明けの風景を堪能したっす。
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深夜の早乙女商会シグチス支部の襲撃騒動はここで終わり。
教会に死体を運んだユーロンドを通してだが・・・教会関係者は応援が来るまでの間、しばらく激務が続くだろう。
なのでモフモフマッサージ天国を教会関係者にのみ無料開放するので仕事の後や休憩時間に気軽に来てもらうように伝えてもらう。
隠された俺の真意は教会関係者が早乙女商会シグチス支部の店にいるのは大変ありがたいからな。
俺の敵は警備隊だけでなくシーパラ連合国国軍シグチス駐留軍の1部、さらに都市シグチスの行政側にもいるので、難癖をつけてきて権力を行使してくるような奴らが多い。
俺が権力で拘束されるような可能性は極力潰しておいた方が良いだろう。
俺はこれから愛する嫁達を連れて『日の出イベント早朝デート』の時間だ。
先程ミーからモーニングコールがあって嫁達は全員起床しているようなので、俺も普段着のロンT・デニムにステータスから着替えて転移魔法で早乙女邸の寝室にある自分専用ソファーに跳んだ。
ソファーについてるドリンクホルダーにマグカップを置くとマリアが熱々のホットコーヒーを注いでくれる。
「やぁみんな、おはよう。昨夜心配していたミーは良く眠れた?」
「昨日はよく眠れたよ。みんなでお風呂に入ってる時にお月様を眺めながらホットワインを飲んでたら、寝室に戻った時には上手い具合に眠気が来て・・・そのまま朝まで眠れてよかったよ」
「私も朝までぐっすり眠れたわね。露天風呂に入りながらホットワインを飲んでつまみにはウナギの白焼きを食べて月を見て・・・気分が良くなって3人で歌っちゃってたのよね」
「おぉ、3人の歌は聞きたいなぁ・・・クラリーナは眠れた?」
「私は飲み過ぎちゃいまして、3時ぐらいにトイレに行きたくなって目覚めちゃいました。それからはあまり眠れませんでした」
「まだ眠いのかな?」
「眠気は完全になくなっちゃったんです。なので私だけ先に起きてここでホットミルクを飲んでました」
「なるほどな。そいういえばさぁ・・・主神ゴッデス様からこんなのを貰ったんだよ! っと」
みんながまだ着替えをしてなくてガウンだけの状態だったので、俺がステータス画面から自分で作った旅人の服と下着に嫁3人を瞬時に着替えさせてあげる。
昨日の夕食後の雑談で話した壇ノ浦家騒動の顛末でゴッデスから貰った特典だという事を説明した。
ステータス画面って事は説明しても理解してもらえなかったので、俺だけが持ってる能力だという事を初めて知った。
その後は嫁3人の希望でファッションショーになってしまったが今日は時間ががあまりないので途中で終了して、嫁3人を連れて転移魔法で早乙女商会シグチス支部の屋根の上に跳んだ。
外は少しずつ明るさが出てきてるがまだ日が昇ったわけではない。
嫁3人と自分に認識阻害や空調などの結界を掛けてから飛翔魔法で浮かび上がって、シグチスの裏にある小さな山の山頂にある小屋上空へと飛翔魔法で翔る。
確かにここは絶景だな。
山小屋の200mほど上空で周囲を見渡してるが山の反対側は綿花の畑があたり一帯を覆い尽くしていて、風でほのかに揺れている綿花が地平線の向こうまで続いている。
・・・地球では5月の綿花畑は種まきだったような気がしたが、これもイーデスハリスの時期感は地球と違っているようだな。
ヘルプさんの情報では綿花は日本の茶畑のように次々と新芽が出てきて花をつけてくるようだ。
土魔法で年に3回ほど栄養をつけるのが条件なようだが、月に1回は綿花の乾燥した綿毛を収穫できるとか。
さらに綿花も10年近く持つらしい・・・
徐々に太陽が昇り始め地平線から綿花の畑に金色に輝く色を付け始めてゆっくりと広がっていく。
畑の間のあぜ道にある石畳は黒くて金色に輝く綿花の畑とのコントラストが美しい。
地平線から太陽が姿を現し始めると今度は石畳に含まれるガラス成分がキラキラと輝き始めて、息をのむほどの美しい景色が出来上がる。
ミーとアイリが『絶対に忘れられない風景』と言っていたのもよく分かる。
下にあるシグチスの街も先程までの汚れたヤツラ全部を洗い流すかのように金色に輝き美しい街並みの姿を見せている。
後ろに広がるシグチス湾の波も白く光り輝き、シグチス湾の中にある大小様々な小島も、湾を行き交う船達にも光が当たり始めて・・・何もかもが美しい風景だ。
後ろが見にくいという嫁達のリクエストでホップボードを改良して、上空まで自力で上がることはできないが空中で停まれる様にしてあげたら、移動は出来ないが方向変換は自分でできるので周囲を見渡せて大満足してくれた。
下の山小屋には今日は誰もいない・・・そういえば忍からの報告でエルドラド・グループの私兵がここで待ち伏せをしていたはずだったが。
ヘルプさんに確認を取ると、ここに待機していたエルドラド・グループの私兵は早乙女商会シグチス支部への襲撃に加わっていたようで、すでに生きてないようだ。
まぁ例え下に誰かいて上を見上げても認識阻害の結界によって、目で見えても何かあるという認識ができなくなるので、何も見えいていない事と同じになるから安心できる。
今日は雲一つない晴天で南側の海の上に少し雲があるだけの天気。
感動的で壮大な風景に満足できたので嫁達を連れて早乙女邸に帰還する。
嫁達は朝食を食べにダイニングに、俺は朝湯を楽しむために風呂場に直行した。
まずは全身を洗ってから外の露天風呂へ。
俺がノンビリ露天風呂で朝湯を楽しんでる間に、嫁達は朝食を済ませて首都シーパラ南側の食料品市場にセバスチャン・マリア・ユーロンド1号を連れて買い物に行ってしまった。
なので俺が風呂をあがると誰もいなくなってた。
早乙女邸専属メイドゴーレムのクロに頼んで、今朝の朝食は和風にする。
和風朝食を食べながらヘルプさんの報告を聞く事にした。
警備隊の大騒動はすでに警備隊の生き残りの人達と教会関係者の手によって収束に向かってる。
警備隊は上層部と上層部のグループで最大派閥だった200名が、早乙女商会シグチス支部の襲撃者として合法的に殺害されている事が、聖騎士団によってすでに処理されている。
それに対して警備隊本部に所属するしている職員の中で襲撃に加わらずに生き残った160名の職員がいる。
シグチス警備隊本部に踏み込んできた聖騎士団と真偽官によって一斉捜査が先程から始まり、支部の人間が捜査をサポートする形となってる。
支部に派遣されていたスパイはすでに聖騎士団に引き渡された。
東西南北の4つの支部を束ねていた4人が副支部長に支部を任せて部下数人を引き連れてシグチス警備隊本部に入ってきて聖騎士団の団長と握手。
これによってシグチス警備隊は初めて犯罪職員を全部排除することに成功できた。
シグチス警備隊本部の中は出勤してきた人間との間で怒号が飛び交っている。
賄賂も受け取らず窓際や下働きなどで働かされていた職員100名は真偽官と司祭によって面接を受けた後で、支部の人間に引き取られて通常業務に戻っていったのだが、40名ほどは面接で引っかかって余罪を追及されている真っ最中であった。
20名ほどは居場所不明で・・・逃走したと思われている。
聖騎士団団長の承認によって暫定的にだがシグチス警備隊の臨時本部が立ち上げられて本部長代理が決められ、支部の4人のうちで最年長者だった北支部長がシグチス警備隊臨時本部長に選出された。
残りの3人は本部長補佐に就任。
上層部となった4人の初めての仕事は行方不明となった警備隊隊員20名を逃亡罪で指名手配すること。
すぐさま20枚の手配書が作成されて街中に配布される事になった。
そこにこの都市最大のギルド『傭兵ギルド』のギルドマスターと国軍のシグチスに駐留する部隊の副将軍が現れた。
聖騎士団の要請で都市シグチスの治安維持に全面協力をこの3人で行う事が、すでに昨夜からの水面下の動きの中で決定していて、詳細な取り決めがこれから会議される。
国軍も警備隊と同じで真偽官が協力して今は粛清の真っ只中となってる。
シグチス駐留軍の将軍が先頭に立って指揮してる最中で自分の代理として副官の副将軍を派遣してる。
傭兵ギルドはシーパラ連合国内で最大の人数をこのシグチスが管理していて、傭兵ギルドの総本部もこのシグチスにある。
傭兵ギルドは『信用第一』なので不正をしたものは即時排除される。
だからこそ犯罪に手を染めたり、不正をして傭兵ギルドの看板に泥を塗ったものは即クビとなる。
裏稼業に落ちていったカスどもをゾラン・マッケインがまとめて裏傭兵ギルドを作り、犯罪を重ねながら金を稼いで世に出る機会を探っていたのだろう。
ここにきて、やっと都市シグチスの中にあって今まで隠れていた”正常な部分”が活動を始めたようだな。
犯罪者の数に比べて取り締まる側の人数にまだ余裕はないだろうが、とりあえず形は出来つつあるようだ。
あぶれている犯罪者が奴隷の首輪を装備させられて国軍のシグチス駐留軍の管轄する牢屋にも送られて、少しは地下の牢屋に余裕ができたようだ。
レオーン・ゲッペンスキー率いるシグチス制圧軍がくるまでの暫定的な処置とはいえ、犯罪者を取り締まる事のできる警備隊が出来上がったのは俺にはありがたい。
朝食を食べ終えた俺は早乙女邸のダイニングから、早乙女商会シグチス支部の執務室に転移魔法を使用して移動する。
執務室の自分専用の肘掛椅子に座り、ステータスからサイラスの甲殻鎧とサイラスの甲殻ブーツに着替え、引き続きヘルプさんの報告を聞きながらコーヒーを啜る。
このシグチスにある地下闘技場は2つ。
両方とも任侠ギルドによってすでに制圧しているが、表の闘技場もある。
表の闘技場は国に登録されている闘技場で、1つの商会で運営されている2つの闘技場があるのだが・・・ここはあまりにも”ヤラセ”が多くて闘技場ではなく『見世物小屋』だとマティアス・ゲンズブールからの報告があり、忍を複数使って探らせたがマティアスの報告を裏付けるだけだった。
2つの闘技場とも固定客のマネーロンダリングとして使われる部分と売春による接待で、巨額の儲けを得ているという事だった。
運営している商会は俺が昨夜叩き潰したエクステリア商会の子会社になってるので、今日中にでも手入れが入ることになるだろう。
エクステリア商会は他にもカジノを経営する子会社、バトルアックスの道場など複数の子会社を傘下に収めていた。
忍を使って探らせるがすでに幹部連中はバトルアックスの道場に集合して逃亡する準備をしている。
この道場には警備隊から逃亡してる5人も逃げ込んでる・・・これは逃がす前に潰す必要があるな。
しかもここの早乙女商会シグチス支部からほど近い場所にあるので、今から道場破りに行きますかね。
執務室の肘掛け椅子から立ち上がると転送室に移動して外へと歩いていく。
モフモフマッサージ天国は教会関係者が既に何人か来ている様だ。
そのまま歩いて通用門から出ていくが、ドアの開閉はユーロンドがやってくれるので俺にとっては自動ドアの様で楽でいい。
今は通勤ラッシュの時間である午前8時過ぎ。
アイテムボックスから早乙女木刀を取り出して左腰に差してるように左手で持つ・・・竹刀と同じような持ち方をしてる。
このまま歩いてるのは何か変なので・・・早乙女木刀専用に森林モンキーの尻尾で固定できるワイバーンの革製の腰のベルトをアイテムボックス内で作り、歩きながら腰のベルトを新しいものに装備し直して早乙女木刀を腰に差す。
歩きながらそんなことをしてるうちに目的地のバトルアックスの道場に到着した。
道場の正門前に立つが紫村流侍道場程の大きな道場ではないが、斧の道場なので日本における学校の体育館ほどの大きさはありそう。
立地も中央行政区域からは離れているし周囲は住宅街になってるので、ここの道場は騒音で周囲に迷惑をかけていそうだな。
こんな時間からガキンガキンという金属同士を叩く音が周囲に鳴り響いてる。
正門は閉じられており隣にある通用門は開いてるのだが、通用門の奥には門番がいるので中に入っていって話しかける。
話しかけながら同時に道場の敷地全域にいつもの襲撃時用の封印結界を施す。
「どうもおはようございます」
「うむ、おはよう。どうした坊主、入門者か?」
「いえ、道場破りです」
「そうかそうか・・・って道場破りだと!?」
「ハイ、道場破りですよ。何度も言わせんなよハゲ」
「ははははハゲじゃねぇ! ・・・こ、これは剃ってるだけだ。貴様ぁ、名を名乗れ!」
「早乙女真一という名前だ。もうすぐここの道場はなくなっちゃうけどよろしくな!(キラーン)」
「キラーンじゃねぇ。貴様、我が戦斧道場をナメやがって・・・ブッ殺してやるから、ついて来い」
「ハイハイ」
ハゲの後ろをついていくと俺の後ろで通用門が閉じられて閂で施錠された。
扉を閉め終えると俺の後ろにもう一人の門番が走って追いついてきて、背中に背負っていた両手持ちのバトルアックスを取り出して・・・走ってきた勢いそのままに跳び上がってから俺の頭上に振り下ろす。
俺は当たる寸前に左に半回転しながら右横にステップをして斧を避けて、右のショートアッパーでバカの顔面を吹き飛ばす。
爆散する脳漿や血をかぶらないようにそのまま後ろにバックステップをして避け、左の裏拳を前を歩いていた門番の顔面に叩きこんで殺害。
散歩してるかのようにまた歩き出して道場の入り口前で『道場破り』を宣言してから、ずかずかと入っていって腰の早乙女木刀を抜く。
「たのもー、いい天気なんで道場破りに来ました~~!」
ここの道場は日本でよく見る剣道場のような造りではなく、大きな体育館のような建物になっていて床は無くて、下は踏み固められている土の地面となってる。
建物の高さもかなりあって・・・7mぐらいはありそうだな。
俺が道場破り宣言をした事で中では怒声が飛び交ってざわついていたが・・・
怒りに任せて飛び出してきた2人のオオカミ獣人が両手に持っていて振り上げた大きなバトルアックスを下に振り下ろす事すら出来ずに俺の早乙女木刀に餌食になったのを見て静まりかえってしまった。
「おいおいおい、もしかしてこの2人が最強だったとか? レベルひくっ!」
「ガキが、舐めるなよ。こっちには切り札ってモノがあるんだよ・・・では先生方、お願いします」
「そのセリフから察するに・・・もしかして用心棒か?」
「フッフッフ、今更怖気づいてもおせぇけどな・・・」
道場主らしき大男の後ろから現れたのは魔法使いのローブを着た身長110cm程の小人族が2名。
まったく同じ顔で茶髪と赤毛の双子の小人族だった。
「おぉ、他国から流れてきた2人組の魔法使いか?」
「はぁ、俺達の久しぶりの仕事がこんなクソガキを殺すというくだらない事だなんてな」
「兄者、油断しない方が良い・・・コイツの何もかもが見えない・・・」
「お、って事は弟が赤毛で兄貴が茶髪か」
「所詮は魔法後進国シーパラの雑魚よ。ゆくぞ!」
『土柱』
2人の小人族の足元が直径1mほどの円柱になって4mの高さにまで上がっていった。
『巌の戦士』
身長が170cmの俺と同じぐらいの大きさの赤レンガで詰み上がって出来た様なゴーレムが地面から10体浮きあがってきた。
前列と後列が3体ずつで真ん中は4体というフォーメーションで待機している。
移動スピードは通常の人間レベルだな。
「ふ~~ん、なるほどねぇ。茶髪は土魔法使いの煉瓦ゴーレム戦闘師か・・・」
「クソガキのくせに結構詳しいな。だがこれは貴様が死ぬまで終わりの来ない『終末円舞』となるんだよ」
茶髪が俺に向かって上から叫ぶと赤毛が新たな魔法を繰り出す。
『土精霊召喚』
15cm程の大きさの小人のノッカーが30体ほど現れて茶髪に魔力を供給し始める
・・・なるほどね。
こうやって魔力を回復させることで煉瓦ゴーレムを動かして戦闘させる為の必要な魔力を維持するわけか。
10体の煉瓦ゴーレムがフォーメーションを組んで攻撃してくるが、俺は全部避けながら攻撃を観察しているが・・・繰り出す攻撃は単純なパンチとキックで格闘というよりも、子供のケンカより少しましなレベルだな。
「さすがにゴーレムをただ動かすのみで格闘技の素養や経験はないんだな」
「フフン、そんなの必要ないからな避けるばかりじゃいつまでも先はない」
「ではちょっと手を変えてみますか」
俺は避けるスピードを少し上げて早乙女木刀でゴーレムの攻撃の軌道を変えて何度も繰り返し同士討ちを起こさせる。
が、壊れても瞬時に元に戻り攻撃がやむ事はない。
「なるほどな。茶髪がゴーレムの攻撃を維持できるのが10体、そんでもって赤毛が召喚した30のノッカーで維持&回復できる量も10体という事か」
「いまさら分かったところで貴様が死ぬまで終わりはない。ハッハッハ、死ぬまで踊り続けろ」
「遊ぶのはここまでにしますかね」
『3倍重力』
俺が重力魔法をゴーレムに掛けると煉瓦ゴーレムはベチャっと地面に叩きつけられて全く身動きが取れなくなった。ボロボロと崩れていくがそのたびに再生をしてるので消えることがなく、地面で動くこともできずに崩壊と再生を繰り返してる。
「な、なに! 重力魔法だと!!」
「兄者、ヤバイ。ゴーレムを解除してくれ! このままだと何もできなくなるぞ」
「お、おう」
赤毛の助言で茶髪はゴーレムを土に返して態勢を整える。
「ほうほう、熱血な兄貴とクールな弟でバランスを取ってるんだな。で、得意なパターンに持ち込んで全く通用せず・・・茶髪と赤毛はこれからどうするんだ? 底が知れない相手との戦いを続けるつもりか?」
「どういう意味なんだ?」
「俺は道場破りをしに来たんであって道場に関係のない奴を殺す趣味はない。俺はこれからこの道場関係者を皆殺しにするから見学してろってこった」
「うぐぐ」
「わかった。兄者、これ以上は意味がない。我々は用心棒だが命を懸けるほど金を貰ってるわけではない」
「おまえら裏切るのか!」
「裏切りはしないさ。ただ契約分の戦闘は終わったんだから、この人が言ってるように”見学者になる”それだけだ。裏切って敵になる訳じゃない」
「クソが!」
「まぁ、お前ら兄弟は見学してこの道場破りが行われた後に警備隊に行って見学者として報告すればいいだけだ。お前ら兄弟の名前すら聞かないでやる。ただ俺の名前は早乙女真一だ・・・今後は俺の敵に回らないように気をつけろ」
「「分かった」」
最後の返事はハモってたな・・・さすが双子。
俺は双子の小人族兄弟が土の円柱の上から見下ろしてるなかで道場破りを再開させる。
挑発スキルを発動させてワザとムカつくような挑発の言葉を投げかけると次々に襲い掛かってくるが、全員から斧の技術も強さもそこまで感じない。
敵の斧攻撃をかわしながら破れかぶれの様な攻撃を捌いてると『待て待て! お前ら落ち着け!!』という道場主の怒声が響き渡る。
ここに来てやっと俺の挑発による怒りで我を失っていた道場生達が落ち着きを取り戻した。
「クソガキどもが、舐めやがって・・・戦斧道場の強さの真骨頂を見せてやる。お前らは全員皆殺しにしてやるからな」
『戦斧投獄』
道場主らしき人間が大声で号令をかけると俺から10mほど離れた場所で10人が横に並び、真後ろに10人がついて、残りの30人ほどが地下から箱をバケツリレーで運んでくる。
後ろに立つ人から手渡しで渡される投げ斧を10人がバラバラに投げまくるという・・・単純極まりないが数の暴力で敵を殺す技だな。
俺は早乙女木刀を縦横無尽に走らせて、俺に向かって投擲された投げ斧を捌く。
真っ直ぐ飛んでくる投げ斧だけでなく上から降りかかってくる投げ斧もあるので、やべぇ・・・ちょっと楽しくなってきちゃった。
とはいえ、このまま遊んでても仕方がないので俺も反撃を開始する。
飛んできた投げ斧に早乙女木刀を強くたたきつけて敵に正確に弾き飛ばし始める。
まずは後ろに隠れている道場主のさらに後ろにいるエクステリア商会子会社の幹部連中。
逃げ出そうと地下道を辿ってたようだが俺の封印結界の前には逃げ道は意味がないからここに上がってきたようだ。
俺の位置からは敵は見えないけど気配探査で正確な位置がわかってるので簡単だな。
俺が上に弾き飛ばした投げ斧は正確に敵の上に降りかかり体の傷つけていく。
後ろで悲鳴があがり始めるが投げ斧は止まらないので、俺の攻撃もまた止まらない。
『お前達何をやってる!』
警笛のピーピーという癇に障る笛の音と怒号が聞こえて、ここに逃げ込んできた警備隊5人が姿を現す。
道場生達はニヤニヤと笑い始めてるな。
「早乙女! 貴様を殺人の現行犯で逮捕する!」
「誰が何の権限を持って誰を逮捕しようというのか・・・ちゃんちゃらおかしいな。警備隊逃亡犯の5人が誰を逮捕するんだって?」
「え・・・なっ・・・」
「なんなら警備隊に確認してもいいよ。ここで逮捕されるのはお前達5人なんだから」
「ば、バカな・・・そんなに早く警備隊の体制が整えられるはずがない」
「事実なんだから仕方がないだろう。俺がここでお前ら5人を殺しても道場破り時の関係者って事で処理されるんだよ」
「クソがぁ」
警備隊5人が腰に付けてある投げ斧を投げつけてきたが、俺が早乙女木刀を目にもとまらぬスピードで振るうと弾き返されて顔面に突き刺さって死亡した。
「さぁさぁ・・・次の手は?」
「・・・」
「もしかしてもう終わりかよ・・・言っとくけどこの道場の敷地は俺の封印結界で塞いであるからな。逃げ道は俺を殺すしかないよ」
「・・・ぐぐっ、お前達、戦斧投獄を再開しろ!」
「ホントにこれ以上の攻撃はないんだな・・・ガッカリした。じゃあもう見る価値もないな。バイバイ」
俺に向かって次々と飛んでくる投げ斧を片っ端から弾き飛ばして、後ろに隠れてる奴から殺し始める。
後ろで投げ斧を供給する奴も被害が出てるし、投げ斧を投げる奴の体力も投げ斧も底をつき始めて、飛んでくる投げ斧の数も目に見えて少なくなってきた。
それからは散漫な投げ斧攻撃があるたびに誰かが死んでいくという状態で最後は道場主だけが生き残った。
自分の周囲にいた味方も弟子も死体で転がる中で呆然自失している道場主を、早乙女木刀に溜めた剣気で薙ぎ払って首を落し道場破り完了。
道場内で転がる死体の全てに浄化魔法かけてアンデッド化を防ぎ、古代から伝わる道場破りの作法に則り・・・道場の看板を破壊して道場主の首の横に並べる。
「俺の用事はこれで終わったから、あとは警備隊への報告だけだ・・・任せたぞ小人族兄弟」
「あ・・・それはもちろんなんだが、地下室にある武器や防具類とかはどうするんだ?」
「お前達の好きにしていい、お前達にやるよ。ここにある投げ斧も含めて全部叩き売ればそれなりの金になるだろ」
「いいのか?」
「見たところ・・・他の大陸から逃れてきた小人族なんだろ? これだけの金があれば中央大陸に行って地底王国に行けるだろう。土精霊の召喚ができる君らならドワーフ王に保護してもらえるさ」
「わかった・・・無礼をして済まない、恩に着るよ。早乙女さんと言ったな・・・名前忘れないよ」
「俺からも謝罪させてくれ、申し訳なかった」
赤毛と茶髪が腰を折って頭を下げる謝罪を受け取り、俺は全部任せて帰宅することにする。
全身に降りかかっていた返り血をいつもの3点セット魔法で浄化して、敷地内に残る死体の浄化も同時におこなう。
道場の敷地全域に掛けられてる封印結界を解除してから、敷地の外に歩いて出て行った。
結界のせいで道場内で行われた惨劇は音も匂いも全く漏れていない。
血の匂いが周囲に広がらないように半日ほど続く『匂い結界』のみをかけ直して道場を後にした。
帰る途中で早乙女商会シグチス支部とは違い方向に向かって歩き始めたのは、こちらの方向に食料品市場があるからだ。
昨日の夕方にシグチスに到着してからまだ街歩きをしてなかったなと思いながら、街並みを眺めながらの街歩きを楽しむ。
戦斧道場は住宅の多い地区にあり、周辺は5階建ての煉瓦造りの団地の様な建物が10棟以上並んでいて・・・団地の1階部分は全部小さな店となっている。
早乙女商会シグチス支部のある中央行政区沿いには大きな店舗が多かったが、こちらは屋台を少し大きくしたような店舗がずらりと並んでいる。
雑貨屋・喫茶店・アクセサリーショップ・武器屋・防具屋などだけでなく、槍の専門店であったりサーベルのみを取扱う店などという専門店も数多くある。
サンドイッチ専門店や釣り道具専門店まであったのは驚きだな。
釣り道具専門店は中に入ってみたが竹竿と麻糸と針だけの店で・・・ここだけ中世っぽいな。
道具も銛とか投網、腰に巻く重りなどもあって釣り道具ってよりも漁業専門店と言った方が良いかもしれん。
投網と銛は面白そうだったので買っておいた。
サンドイッチ専門店も入ってみていくつか購入するが中に挟んであるものは白身魚のフライとか魚介系が多いが、鶏肉・ウサギ肉・牛肉・豚肉までも豊富にあるようだな。
シーパラ連合国の南部はシーパラ半島のように大森林とは切り離された空間となっており、大森林との境界線上にあるのが1000m級の岩で出来たシグチス山脈となってる。
この岩山で出来た山脈の中にペガサスの巣があるという情報がヘルプさんによって教えてもらえた。
岩山にいたワイバーンは森林タイガー達によってすでに1000年以上前に滅ぼされていて、ワイバーンたちが暮らしていた巣穴がペガサスたちが暮らしている。
ワイバーンも時々ここまで迷い込んで南下してくることもあるが、ペガサスに巧みに誘導されて最後は森林タイガーによって狩られてしまう。
オークやトロールなどの魔獣も大森林にいる昆虫魔獣達はシグチス山脈の北側の麓に暮らすゴブリン達の餌になってる。
シグチス山脈の南側は大小様々な池が点在しているペガサスとユニコーンの聖地の草原となってる。
ペガサスとユニコーンは魔獣でも禁獣とされていて聖地の中に入る事すら許可がいる。
ここには肉食の魔獣がいなくてモウギュー・乳牛・猪魔手醉・デカウサギ・爆走鳥などが放し飼いで育てられており、酪農が産業として成り立ちつつある。
川がシグチス山脈の合間を縫うようにいくつか流れていて、ヨークルとは支流を通じて繋がっているので船で内陸部の村や町と行き来できるのも今後の発展ができる余地がある。
食料品市場に到着して肉屋で養殖された肉を購入しながらそんな説明をヘルプさんから聞いていると・・・ウザい視線が俺に絡みついてくるのにうんざり。