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今日は夕方4時を過ぎてから新展開になったっす。

陽が傾いてきて時間は16時を回ったところ・・・おやっさんから念輪連絡が入った。


「早乙女聞こえるか?」

「おやっさんどうした? 何かあったのか?」

「早乙女は今どこにいる?」

「今は首都シーパラからシグチスに向かって船で移動してるところだよ」

「って事は当分帰ってこれないのか?」

「おやっさんも知ってる通り・・・俺は転移魔法で自由に行き来できるからどこでも自由に現れることができるよ」

「ああっ! そういえばそうだったな忘れていたよ」

「そんな事よりも・・・何かあったのか?」

「実はお願いしたい事があってな・・・早乙女とのパイプ役をお願いされてしまったんだ」

「ああぁ、そういう事ね。おやっさんの頼みなら会う事は構わないよ」

「早乙女にそういってもらえるのはありがたいんだけど、俺が知ってるのは先代のだんのうら三千景みちかげであって当代の義景よしかげとはほぼ交流がないんだよな」


「壇ノ浦三千景は昨日の最高評議会で会ったけど普通の武人系のクマ獣人にしか見えなかったけど・・・当代とは何で付き合いがないの?」

「壇ノ浦家は米・野菜・果物などを作ってる農家を大量に抱えている『農業ギルド』を牛耳ってて、農業に携わる人間には格安で融資してもらえる『金融業』がメインの仕事だな。農業関係の仕事柄、金属を取り扱う職人とも付き合いが深くて武器や防具の職人達とも交友があって、職人が工房を立ち上げるときとかに資金援助や仕事斡旋などの仕事もしている関係で職人ギルドとの付き合いも深いんだけど・・・今の当代とは古い職人たちとは距離を取っての付き合いになってるし、当代は若い職人との付き合いを大事にしてるから俺みたいにすでに顧客を大量に抱えて仕事が軌道に乗ってる職人とはほぼ面識がないんだよ」

「先代との作業の差別化だろ? 別によくあることじゃないのか?」

「ああぁ、そこには文句もないし当代が引退して最高評議会の議員になると受け継がれていくんだから、全く問題はないんだけど・・・先月ぐらいから街の噂で良くない噂があってな『壇ノ浦義景はゴーレムキチガイだ』って」

「もしかして・・・俺に会いたいって義景の方から言ってきたのか?」

「ああ、普通で考えると俺と付き合いのある三千景を通してではなく義景が今日直接うちの店にやってきて、いきなりお願いしてきたんだよ『早乙女氏と直接会えるようにしてくれ』って」


「三千景さんとは連絡つかないのか?」

「それが今、俺の目の前に・・・店に義景がいて俺も動けないんだよ。困っててな・・・ピニリーがいてくれれば何とかなっただろうけど・・・今日に限って午後から商業ギルドに視察に行っててな。このままでは連絡をすることもできんし三千景に状況を聞くこともできないんだ。今はやっとトイレに逃げて早乙女と連絡できるようになったところだ」

「了解。俺が直接会って話をするから・・・おやっさんの家の近くの早乙女商会事務所に連れてきてくれ」

「すまんなぁ、恩に着る」

「気にすんなよそれぐらい。ただ壇ノ浦義景の態度と状況によっては俺の敵に回る可能性があるけど・・・おやっさんはいいのか?」

「そこまでのバカではないと言いたいんだけど・・・付き合いが無くてよく知らない以上は自信をもって言えないな。俺は義景を早乙女のとこに送ってから店を閉めて壇ノ浦商会ヨークル支部に直接行って話を聞いてくるよ。どうも話の内容だと義景の独断による暴走に思えてならんのだ」

「そっちはおやっさんにまかすよ。それだと俺はダラダラ話を引き延ばすことにするから・・・何か情報があったらまた念輪で連絡してくれ」

「分かった。じゃあ、今から連れて行くよ」

「俺の会社の場所に連れて行くけど、いるかどうかは分からんぞって言っておいてね」

「分かった。ありがとうな早乙女」


念輪を切って俺は早乙女商会ヨークル支部に転移魔法で跳んでから、事務所の内装を俺専用の執務室に一瞬で作り変えた。

事務所にして従業員が働くことができるようにしておいたけど、俺以外でここで働くのは全部ゴーレムなので俺専用の執務室の方が都合がいいので作り変えた。

内装は早乙女工房などで作ったのと全く同じような造りなので、素材さえあればスキル魔法で一瞬で出来上がる。

これも魔力のゴリ押し&慣れだな。

早乙女商会ヨークル支部専属メイドゴーレムのグレーに客がきたので応対に向かわせる。

応接室に通させておやっさんとの反応の違いを遠見魔法で伺うが・・・応対をしたメイドゴーレムのグレーにおやっさんまでも釘付けになってるようだ。

滑らかな動作でアイテムボックスから取り出したコーヒーと紅茶とハーブクッキーを出してる優雅な姿はベテランメイドレベルだから仕方がない。


壇ノ浦義景はウォーカー家長男の『フィルマン・ウォーカー』に似てる反応をしているな。

子供みたいにキラキラした目でゴーレムを見てるところはソックリだ。

最高評議会で何度か見た先代の壇ノ浦三千景とは体型が違うだけで凄く似てるし、クマ獣人特有の丸いケモミミが頭にある。

俺も遠見魔法を打ち切って応接室に向かう。

俺が入るとおやっさんと壇ノ浦義景が座っていたソファーから立ち上がって挨拶を交わす。


「久しぶりだな早乙女、ちょうど良いところにいたからありがたい。こちらは俺知り合いの息子さんでな、壇ノ浦義景君だ。33歳の働き盛りで息子が5歳・・・早乙女も知ってる通り子供ができたら当主交代をするシーズの壇ノ浦家を5年前に引き継いだ現当主だな」

「ガルパシアさん、ご紹介ありがとうございます。初めまして早乙女さん。壇ノ浦義景です。義景とお呼びください」

「お久しぶりです、おやっさん。それと初めまして義景さん。早乙女さおとめ真一しんいちです。早乙女とお呼びください」


俺が年下だからとか侮ったところは一切見られず、礼儀は出来てるし話し方も別段変なところはないな。

おやっさんはここで店に戻ると言ってコーヒーを急いで飲み干しいそいそと帰っていった。

おやっさんが残したコーヒーカップはグレーによって3点セット魔法で浄化されてアイテムボックスに片付けられる。

ゴーレムが動くのを一部始終ガン見している義景の様子を伺って俺は質問する。


「それで今日のご用件はどういう事なのでしょうか?」

「早乙女さんのゴーレムを売っていただきたい」

「無理ですね。例え100億以上のお金を積まれようと売る気はありません」

「なぜですか? 理由を教えてください」

「俺になぜ売ってもらえると思ってるのか不思議でたまりませんが・・・趣味だからです。ゴーレムはする商売はしますけど、ゴーレムそのものを売る気はありませんし、誰かにゴーレム製造技術を教える気もございません。もし俺がゴーレムを売る気であるならとっくに売ってると思いませんか?」

「それはそうなんですけど・・・」

「それに俺の作るゴーレムは兵器でもありますので・・・」


ここで俺の念輪指令によって瞬間的にグレーがソファーに座る義景の後ろに回り込んで、義景の喉を軽く絞める。

グレーを見ていたのに全く反応できない義景が驚愕で悲鳴を上げようとするが、グレーのもう一つの手が今度は瞬時に義景の口に移動して『モガモガ』と、くぐもった声しか出ない。

俺が『待て』と声を出して右手を軽く上げるとグレーは瞬時に元いた俺の座っているソファーの横に移動する。


「こういう事なんですよ。これは兵器として使う事が容易な技術であって、それを貴方達に渡すのは信用がないんです。私が信用する人間にしかゴーレムは渡せないですし、ゴーレムの製造技術なんてもってのほかの問題外なんですよ」

「それは・・・」

「そもそも昔からあった転生者からもたらされたゴーレム製造技術を君たちは殺し合いの末に無くしてしまったのに・・・それを持つ人間が現れたら売ってくれっていうのはどうかと思いますけどね」

「・・・」

「俺は同じことをウォーカー家の長男フィルマン君に教えたら彼は自分で作ると言いましたよ」

「・・・それでは、母上の病気が・・・間に合わないんだ」

「はぁ?」


頭を抱える義景の最後の言葉が意味不明だったので詳しく説明させる。


義景の母親は壇ノ浦ラシェル、58歳で同じクマ獣人。

寿命の長い獣人にとっては老け込むような年齢でもなく、多産なクマ獣人に例外はなく義景の弟と妹は合計9人もいる。

そのラシェルが先月末に突然倒れて一昨日から意識不明の重体が続いてる。

発作的に何時間か意識不明の重体が続いてやがて回復して意識を取り戻してというのを、何回も繰り返しているそうだ。

しかも意識不明の時間っが徐々に長くなってきて、かなり肉体的に衰弱してきてるので・・・後、何日持つのかすら分からない。

原因は不明。

似たような症状すら見た事ないと医者も教会の司祭も打つ手がない状態らしい。

意識を取り戻した時に飲むハイポーションによって命を長らえてる状態らしい。

さらに一昨日から世話をしていたメイドが倒れて同じ症状で意識不明の重体になってるんで、壇ノ浦家本宅の先々代が住んでいた離れに隔離している状況らしい。

それでどうにもこうにも打つ手が無くて昨日の早朝から教会で祈っていたらアマテラスから神託がおりて・・・『ヨークルのフィアルカート防具店のガルパシア・ウルス様を訪ねて早乙女真一様を紹介してもらいなさい。それで早乙女真一様にゴーレムを売っていただきなさい』という言葉を聞いて高速連絡船をチャーターしてヨークルにやってきたんだって。


俺はうーーんと声を出して唸り・・・お前かアマテラス。

アマテラスほっとラインで回線をつなぐ。


【やっほー♪、真一お兄ちゃん】

「だ・か・ら、やっほー♪・・・じゃねぇ!」

【ひゃう、ごめんなさい。でも私にも治療法が分からなくて太古の歴史までさかのぼって調べてみたけど、壇ノ浦ラシェルの症状を持つものが存在しないの】

「当たり前だ! これは十中八九、呪いによるものだ。今から壇ノ浦義景を教会まで連れて行くから、アマテラスの神(?)の力で俺と義景をシーパラに転移させろ」

【違うもん! 私は神(?)じゃなくて正真正銘の太陽神なの!】

「はいはい、そーですね(棒)」

【ブーブー、真一お兄ちゃんがイジメるって業務日記に書いてやるんだから】

「あ? それで?」

【ごめんなさい。調子に乗ってました。それで私はどうすればいいの?】

「ヨークルの教会からシーパラの教会に送ってくれるだけでいい。処理は俺がやる。全部終えてからまたシーパラから魔力パワーボートに送ってくれ」

【分かった。じゃあお願いします】


よしこっちは準備できたな。

俺は壇ノ浦義景に教会に行くように話をする。

意味が分からないまでも俺の真剣な表情から何かを感じ取り素直についてくる。

義景が乗ってきたゴーレム馬車で教会まで移動する途中におやっさんから念輪連絡が入る。

義景が言っていたことはホントの事で壇ノ浦商会ヨークル支部に行って、シーパラにある壇ノ浦商会本部にいる三千景の第二秘書と連絡ができて真相を知ったそうだ。

ラシェルは相当ヤバい状態らしく・・・おやっさんから壇ノ浦ラシェルは少し系統は離れているが、間違いなくおかみさんと血の繋がってる親戚なのでよろしく頼むとお願いされる。

ゴーレムを売る気はないが治療は任せろと言っておく。

ヨークルの教会に到着したら壇ノ浦義景を連れて礼拝堂に急ぐ。

礼拝堂の中に入った俺と義景を光が包み込み予定通りシーパラの教会へとアマテラスの神の奇跡の力によって転移する間に、義景に対してアマテラスから今回の神託の説明をさせた。

俺にもアマテラスが話をしに来た。


【真一お兄ちゃんごめんなさい。真一お兄ちゃんに頼らないで何とか自分で解決できると思ってたんだけど・・・結局いつもみたいに真一お兄ちゃんの力を借りるしかなくなっちゃったの】

「まぁ仕方がないって言えば仕方がないんだけど、これは以前から何度も言ってるように”早めに教えてくれ”って。アマテラスが自分で解決しようと頑張ったというのは評価に値するけど、その後の対応が不味いから23点ってところだな」

【ごめんなさい】

「今後はゴッデスに頼んで呪術について勉強しておいてくれ。それで呪術が得意な神様に頼むようにしてくれよ」

【わかった。ゴッデス様にお願いして勉強出来るように頼んでみるね。呪術が得意なのは月読つくよみちゃんかなぁ・・・月読ちゃんにも聞いておく】

「今回は俺が処理しておくから次回からはゴッデスに相談して対処しておいてくれ。それと報酬は・・・今は欲しいモノがないから”貸し”だな」

【真一お兄ちゃんありがとう、借りておきます。それと壇ノ浦義景には私からの説明で、私の依頼で真一お兄ちゃんを壇ノ浦家に派遣するようにしたと話をしたから】

「まぁ次からは本当に前もって依頼してくれよ」

【そうだね・・・ごめんなさい】

「ったく・・・俺との話はこれぐらいかな?」

【うん! あとはお願いします】


俺の全身が光に包まれてから周囲の色彩が戻り、シーパラにある大聖堂礼拝室に俺と義景が姿を現す。

それからは義景の案内で壇ノ浦家本宅に移動。

教会でゴーレム馬車を貸してもらう事が出来たのはシーズの家だからでなく用意するようにと神託があったようだ・・・こういう準備は抜かりないのになぁ。

壇ノ浦家本宅に到着してから俺は正門で冒険者ギルドカードの確認をされただけで、そのまま離れの部屋で隔離されているラシェルの元に向かった。

2人の親衛隊が周囲を警戒していたが俺は義景と親衛隊を引き連れてラシェルとメイドの元に行く。

そこは異様な光景であった・・・

大きなベッド2つに挟まれて小さくて豪華なイスが置いてあり1mほどの人形が腰かけている。

2つのベッドの上にはラシェルとメイドが寝てうなされていて老メイドが2人の世話をしている。

まるで3人から生気を吸い取ったかのように美しい人形がきらめいていた。


俺が『呪い封印』を人形に施すとうなされていたラシェルとメイドが息を吹き返すかのようにして目を覚ました。

起き上がろうとする2人を制して生命力が弱り切っているラシェルにはエクストラヒールを掛けて、メイドと老メイドにはメガヒールを掛ける。

血色が見違えるように良くなった3人にオマケにMPハイポーションを渡して飲ませて・・・治療はとりあえず終了だな。

メイドは即座に立ち上がって仕事を始めようとするのを止めて今日1日は安静にするように伝える。

義景も了承して2人の親衛隊に連れ添わせて2人のメイドを家まで送らせるように手配する。

これでこの部屋にいるのは俺と義景とラシェルになったので、まずは自己紹介を交わしてから詳しく話を聞くことにした。


「という訳でその人形には今、呪い封印を掛けてあるんですけど・・・この人形ってもしかしてDOLLドールですか?」

「はい。私の家の女系に伝わるDOLLですけど・・・呪いなんて聞いた事がないのですが・・・」

「そのDOLLには最近になって呪いが施されてる様なんですが・・・もしかして先々月あたりに修理に出されました?」

「はい、幼馴染のゴーレム職人がもしかしたら直せるかもと連絡してきてくれたので、彼にお願いしました。DOLLとしては復活することができなかったのですが、こうして美しくなって戻ってまいりました。もしかして・・・彼が?」

「早乙女さん、ちょっと待ってください! DOLLって何ですか? 私にも教えてください」

「DOLLというのは簡易ゴーレム人形の事ですね。ゴーレムとして動くことはできませんが子供の遊び相手として簡単な受け答えができる会話機能を持つ人形をDOLLといいます」

「早乙女さんって、お若いのにお詳しいですね。我が家に何百年も前から伝わる家宝となってます」

「なるほど・・・わかりました。話の腰を折ってしまって申し訳ありません」

「いえ、どういたしまして。それでDOLLの事なんですけど、中身を調べさせてもらっても良いですか?」

「はい、一目でDOLLと見抜いた早乙女さんですから。それと・・・私も見せてもらっても良いですか?」

「それは構いませんけど・・・ベッドからは明日の朝まで出ないでくださいね?」


そういって俺はアイテムボックスから取り出したモフモフマッサージ店で使用している大鹿魔獣のもふもふクッションを義景に渡す。

ラシェルは義景に手伝ってもらってベッドで半身を起して背中にクッションを入れた。

もふもふの肌触りに喜んでくれているのでクッションをプレゼントしてあげた。

俺はラシェルの寝るベッドではなくさっきまでメイドが寝ていた隣の布団をめくり、そこのシーツの上にDOLLを横たえる。

俺は手馴れた作業でDOLLの服を脱がす。

アイテムボックスから耳かきを取り出してDOLLのへそに入れてクリクリっと回すと、DOLLは上半身が観音開きのようにパカっと開き内部が丸見えになった。

俺が知ってるDOLLの知識のままの構造で内部の構造もそのままだが・・・中心部の魔結晶部分に黒い塊が粘土で取り付けられていて、その隣にはお札が2枚貼られている。

これが呪いの元だろうな。


DOLLの内部の様子を初めて見たラシェルと義景が『おおぉ~』と感嘆の声をあげた時に・・・この部屋へ義景の弟と妹達が雪崩れ込む様にして入ってきたので、自己紹介のやり直しになってしまった。

さすがに文句を言いたくなったがラシェルの事が心配でたまらなかったかのような、目の下のクマの状態と嬉しくて抱き着いて泣いてしまってる様子を見ると文句も言えなくなってしまった。

入ってきた義景の弟と妹たちは4人。

残りは働きに行ってしまってるので、夕方にならないと帰ってこられないらしい。

最高評議会議員の三千景は今日も議員としての仕事があって・・・遅くなるという話だった。


そんな話はさておき、まずはDOLLだな。

俺が中に丁寧に貼られているお札に魔力と生命力を込めると、数秒でオーバーロードして黒い塊と2枚のお札は消滅した。

3点セット魔法で人形全体を浄化するが、先ほどまでの光り輝いていた状態は消えてしまって・・・多分、元の状態に戻ったのだろう・・・色あせてみすぼらしい状態になってしまった。


「早乙女さん、先ほどまで『モントレゾール』は光っていたんですけど・・・どうして消えてしまわれたのですか?」

「あの光はラシェルさんとメイドの生命力と魔力を吸い込んで他の場所に送る時に漏れ出た生命力がDOLLを光らせて綺麗に”見せかけていた”だけですよ。そういう呪いの力です」

「の、呪いですか?」

「呪いの・・・いえ、正確には呪術としてではなく間違った使用方法で呪いが発生してしまったと考えられます。彼は何らかの方法で手に入れた古代文書をDOLLを再生させる術式だと誤って使用してしまっているのでしょう。呪いを施すにしてはあまりにも丁寧に作りすきてますし、逆に悪意を持って敵を呪うにしては不可解で不十分な処置がされていますので、それから考えると・・・不十分な研究結果で施された修理といえるでしょうね」

「でも、母上が倒れられてからゴーレム職人に会いに行ったんですが彼自身も寝込んでましたよ?」

「なるほど・・・不安定な術式の呪い発動で彼自身が受け取るはずの生命力や魔力までどこか別の場所に転送させられている可能性も・・・急いだ方が良いですね。ゴーレム職人の元へまいりましょう」


俺が修復のスキル魔法を施してからDOLLの胸部を閉じて服を着せる。

ついでにアップデートして魔結晶と魔石を新たに加えて魔力が尽きない様な工夫を加える。

DOLLを起動させると話し始める。


「モントレゾールγ(ガンマ)、再起動いたしました。マスター、修理をありがとうございます。それと・・・お久しぶりですね、ラシェル」

「モントレゾール!」


俺がDOLLをラシェルに渡すとラシェルが抱きしめる。

義景を促して部屋の外に出てゴーレム職人のところに向かう事にする。

親衛隊2人がメイド2名を住んでいる家にそれぞれ送ってから、ちょうど戻ってきたのでゴーレム馬車に乗り込んでゴーレム職人の家に送ってもらう。

到着して分かったことは・・・この屋敷は悪魔が住んでいる。

やっぱり奪い取った魔力で魔界の悪魔を召喚しちゃったみたいだなぁ。

俺がゴーレム職人の屋敷正門の前にミスリル棒を立てると封印が屋敷の敷地全体を覆った。

屋敷の敷地内には生命反応は痕跡も残ってなかった・・・間に合わなかったな。

ミイラが徘徊してるのは悪魔によって呪いを使った人間で願いが叶わなかった人間の無念がミイラに転生させてしまったのだろう。

そこにアマテラスの神託を受けた聖騎士団がゴーレム馬車に乗って到着。

俺はみんなを正門の前に待機させて1人で入っていく。

聖騎士団もアマテラスに聞いているのか、ゴーレム馬車から降りてきて義景と親衛隊をガードするように周囲に展開する。


正門を開けて俺だけが何の抵抗もなく入ってくと赤黒い肌を持つ悪魔がやってきた。

ヨークルにいた上位悪魔よりもさらに上位の『魔将ましょう』の様だ。

額の上部両端から竹のように節目のある銀色の角が出ていて後ろに沿って流れていて、髪の毛のようになって頭部を守っているようだ。

見た目は赤黒い肌と銀色の角と尖った耳があるだけで、その他は白髪の人間と何も変わらない。

身はが俺とほぼ変わらないんだが、物凄いイケメンなんで・・・ちょっとムカついてしまうのは俺が小さな男だからだろう。

屋敷に住んでいたゴーレム職人とその弟子3名の生命力全部と、ラシェルとメイドの生命力と魔力を吸い取ってイーデスハリスの世界で完全に実体化出来ているようだ。

右手に持ってる本は『知識の泉』だろう・・・悪魔将大公爵ダンタリオンだな。

周囲をキョロキョロと見まわした後、俺の顔を見てフフンと鼻で笑い話しかけてきた。


「これはこれは、小さき者よ・・・なかなかいい結界を使えるようだが、何の用かな?」

「悪魔将大公爵ダンタリオンか・・・もっと面白い奴が来てるんかと思ってたから拍子抜けだな」

「たかが人間風情が悪魔将大公爵ダンタリオンと知って偉そうな口をきくものだな」

「たかが悪魔将だろ? アマテラスに服従を誓って魔界で生きながらえてる魔王や魔神が出てきてもどうってことないのに、魔将”程度”はコソコソと魔界で遊んで過ごしてればいいものを・・・調子こいて俺の前に現れるとはな」

「クックック・・・小僧は余程、我に殺されたいようだな」

「お前”ごとき”には不可能だからできない事は言わないようにな。恥ずかしい事になるぞ?」

「フン、小僧が抜かしよるわ・・・な、なんと・・・知識の泉で何も読めない・・・だと?」


ダンタリオンがおもむろに右手で持つ知識の泉を広げて俺を鑑定したらしいが・・・俺の弱点どころか年齢すら『不明』となる俺とのレベル差に、ようやく気付いてワナワナと震えだした。

悪魔には自分以上の存在に戦いを挑むという考え方は皆無に近い。

戦闘の好きな悪魔もいるがそれはルールを決めた中での戦い『闘技』が好きなだけで殺し合いをする事はないし、ダンタリオンは知識派の悪魔であって戦いを好んでいるわけではない。

なので・・・

『申し訳ございません。非礼をお許しください、失礼いたしました』

といって頭を下げて右膝を地面に付けて左膝を立てて騎士のように敬礼した。

ダンタリオンも敵がどういうタイプなのかとか情報があれば策を弄することもできるが、知識の泉でも俺の全てが計り知れない状況では逆らう事にメリットがないと読んだダンタリオンは素直に頭を下げる。

力のみが悪魔の世界での唯一のルールだから俺以上の力を得ない限り2度と逆らわないのが悪魔の戒律。

俺はダンタリオンが首都シーパラの街に放った5体の上位悪魔も転送魔法でこの敷地におびき寄せる。

自分の上司のダンタリオンが俺に膝をついて敬礼している姿を見て、上位悪魔もダンタリオンの後ろに並び同じように右膝を地面につけて敬礼をする。


「お前ら上位悪魔はシーパラで何をしてたんだ?」

「はっ、ダンタリオン様の命で『残忍・狡猾・薄情で傲慢な貧乏人』を探しておりました」

「あぁ、そういえば悪魔は強欲を肥え太らせてから奪う魂が大好きだったな」

「ハイ。でもこちらに召喚されてまだ10日ほどで・・・めぼしい人はまだ発見できていませんでした」

「という事はまだ誰とも契約してないのか?」

「はっ、まだ契約に見合う対象者すら発見できておりません。ダンタリオン様から時間をかけても良いので最上級な奴を探せと言われてましたので」

「なるほど・・・そういう事なら君らにもう用事はないな。それでダンタリオンはどういう手口でこのイーデスハリスの世界に召喚されたんだ?」

「それはこれを使いました」


左手でダンタリオンが取り出したのは所々破れて破損してるので解読しにくい古代書であった。


「こちらに書いてあるのは所有者が一番欲しい情報に似せて呪いが発動し私を召喚する方法が何通りも書かれています。ついでに呪いの対象者と周囲の人間から私に生命力を流れ込む様に施されていますし、使用者の魂は私の本の後ろに名前を書いた後で契約書となって呪いが発動した後で私がいただきます」

「本の表紙の裏に『本の最終ページに名前を書いた者は知識の深淵と古代の技術が得られる』か・・・上手い事考えられてるな。イーデスハリスの世界にはあと何冊本は残されてる?」

「後6冊です」

「そうか・・・俺の用事は終わった。ダンタリオンには悪いがこの本と残り6冊はこちらで処分させてもらう。つーわけで君たちは悪魔界に帰りなさい」

「「はっ」」


5体の上位悪魔と悪魔将大公爵ダンタリオンは俺の命令に従い悪魔界に帰還した。

俺は並立する思考でアマテラスほっとラインを繋いでアマテラスに指示をする。


「そういう事だアマテラス。聞いていただろう? 分かったよな?」

【真一お兄ちゃんありがとう。後は教会で始末させてもらうね】

「まぁ任せるよ。それじゃあ俺は今から義景たちに簡単にだけど説明してくるよ」


俺は今までいた屋敷に神聖浄化で屋敷の敷地内全部に浄化をしてから外で待ってる義景のところに歩いていった。

さすがにダンタリオンがこの屋敷に住み始めて1ヶ月も経過していないので、短期間しか経過してないよどみは簡単に除去できるけど、逆に澱みから生まれる魔結晶などは何も出てこない。

俺は敷地の外に出て結界を解除してミスリル棒をアイテムボックスに片付けた。

俺が出てきたのを見ていた義景たちがやってきたので簡単にだが説明する。

高位の悪魔が間違って召喚されてしまったのでアマテラスの力で悪魔界に跳ばしたこと。

俺は持っていたダンタリオン召喚本を聖騎士団に引き渡してこれが悪魔の召喚本となってる事。

アマテラスが直々に処分するので教会に運んでほしい事。

屋敷の中にはすでにミイラ化してるゴーレム職人と弟子が5人いたのだが、俺の浄化魔法ですでにミイラは浄化して干からびた死体が残っているだけだと説明した。


それで壇ノ浦義景には説明を加える。


「多分ですが・・・ゴーレム職人さんはラシェルさんの事を同郷の幼馴染ってだけでなく、ラシェルさんが初恋の相手だとか・・・愛していたんだと思います。なので義景さん、あなたと同じように彼も方々の伝手を探して、出てきたあの本にすがってしまったのでしょう」

「・・・」

「彼にはラシェルさんへの愛しかなかったと思います。それほどまでに綺麗に作られていましたから。ただ・・・そういった人の善意を利用する悪魔のアイテムはまだ世界には残ってますとしか言えないですね」

「・・・なるほど。そういう事でしたか」

「なので、ラシェルさんも回復しましたのでゴーレム職人さんを怨まないであげてください」

「了解しました。ワザワザ教えていただきありがとうございます。それと今日は突然お邪魔してしまって申し訳ありません。実は母上の願いが『ゴーレムと話がしたい』という事だったので・・・焦るあまり早乙女さんの迷惑も考えずに失礼なことをしてしまいました」

「それは大丈夫ですよ」


ダンタリオン召喚本は超危険書物なので・・・俺が封印してアマテラスにのみ開封できる『神技封印』を施してから聖騎士団へと渡したので誰にも開封できないようになってる。

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