最高評議会の会議で味方が増えていくっす。
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最高評議会の会議は議論が進んで結局、今日の午後1時までに角館商会とケミライネン商会の2つの試算案が提出される事が正式に決定される事になり、試算金額の検証は午後から執り行われることとなった。
それには俺は参加しなくてもいいとの事だ。
最高評議会の職員が両家の秘書を呼んできて時間までに資料を集めるように議長から命令された。
秘書はこのまま会社に帰って資料を集めてくるのだが・・・苦労しそうだな。
両家の秘書と議員の表情を見てて感じた事は・・・明らかに両家の主張した金額が幾らか秘書には伝えられてなさそうだ。
マツオ達の狙いはこれなんだろう。
ろくに計算すらされていないであろう金額の証拠となる資料を最高評議会の議会開催中に提出しろというのが上手いしエグい攻撃だろう。
自分達は会議に出席し続けながら午後から秘書達が計算して出される金額と、自分達が出した金額の差をどうやって説明しようかと顔色が青い色を通り越して土色になってきてる。
自分達の指示のもとの計算によって導き出される金額ではなく、秘書達がどういう計算で金額を出してくるのかすら分からない恐怖と戦って・・・それから3名は早く会議を終わらせて会社に戻ろうと計算をしたようだ。
会議を早く進むように何度も促してくるのだが、逆に会議はこれからナディーネの提出した資料の金額算定の説明と俺の結界の説明があるので12時までには終わりそうもない。
他の議員もマツオ達の意図が見えたようだな・・・ナディーネの深い考察から導き出された計算で出された資料に唸りながらも、さらに突っ込んだ疑問・質問をぶつけてくる。
それを答えるのにナディーネが自分のアイテムボックスから資料を取り出して、全員に配りそれを見ながらまた説明をして・・・長くなりそうだな。
ちなみに俺はここまで資料を読みながら話を聞いてるだけで一言も話をしていない。
発言権はあるので質問は出来るようだが俺が聞きたいと思うような事もなかったし、他の議員の質問を聞いて『なるほどね』と感心していた。
2名は気が気じゃない様な顔でイライラしてるのがわかるな。
イワノスがトドメを刺しに来た。
「リカルドさんと将仁さん、何をイライラしてるのかは想像がつくが会議の邪魔はしないでほしいものだな。それとも会議を途中退出して資料作りにご自身の商会の方に帰られたらいかがですか? むろんご存知のように会議において正当な理由なき途中退出は、その会議の議決権も発言権も今後は失ってしまう『白紙委任状』を提出していただきますが・・・」
「・・・ぐぬぬ」
「うぐぅ・・・」
2名は顔を真っ赤にして唸っていたが、意を決したようで白紙委任状を提出して退出する。
ケミライネン家はなぜか先代のエンリコも連れられて行ったので3名の退出者が出ることになった。
1名は残せばいいのにな・・・資料作りを手伝わせるんだろうか? 意味不明だ。
『さぁ、遊びはこれぐらいしにして会議を進めよう』
議長の発言で会議は進行し始める。
同時に職員がドリンクメニューを渡してきたので俺は紅茶を注文した。
予算関係の話はその後30分ほど続き俺の結界の説明話に到達できたのは午前11時近かった。
議長から指名されて俺の説明を始める。
前にナディーネに説明した事と同じなので話は早い。
質問された事にも手早く答えていくが、やはり俺の『魔石の自然回復量で結界の魔力を維持し続ける』という事に驚いているようだ。
実際にナディーネは俺の持ち込んだ魔石付き結界棒だけでなく、数種類の魔石を使って色々実験をしてみた結果が魔石によって魔力回復量はまちまちではあるが、魔力を回復できたことは証明されているという実験
データ資料がナディーネから全員に配られた。
この資料を見ながら俺の知らない議員から手が挙がって質問される。
ネームプレートには『デューク・メンドーサ』と書いてあるのでメンドーサ家の先代のようだ。
メンドーサ商会はこの最高評議会のメンツの中で一番俺を恨んでいるだろう・・・シーパラ連合国の結界師ギルドの元締めと呼ばれるシーズの家になるという忍からの報告があるが・・・詳しく調べたわけじゃないので実際はどうなのだろうか。
「早乙女君が持ってきてくれた魔石には使用した時間の分だけ魔石を”休ませる”と元に回復するという実験データがあり、ナディーネさんが実験したその他の魔石では回復量には魔石によって回復量には大きな違いがあるという・・・これはどういう事ですか?」
「私と皆さんが1人ずつ性格や能力も違うように魔石や魔結晶にも多種多様に違いがあるという事ですよ」
「うーーむ」
「これは学問で証明できる事なので実験を繰り返し行えば結果として出てくる”結論”でもあります。ですが・・・魔石に『魔力固定化魔法』を封入すれば使用する魔力と回復する魔力を一定した数字に固定する事ができるんですよ」
「な、なんだって・・・」
「これは転生者によってイーデスハリスの世界に持ち込まれた技術なんです。本来であれば一般的に知れ渡っているはずであったんですが、世界中の結界師達が莫大な富を自分達のモノとするために結託して結界師ギルドを作りました。”門外不出”の技術として莫大な富を結界師と結界師ギルドにもたらしたのでは?」
「儂は父上に聞いたよ。全世界結界師ギルド内で富を得るために内部抗争が何度も勃発して権力闘争が繰り返されて・・・結界師ギルドは莫大な技術とデータも殺し合いと燃やし合いで、データも人も知識もすべてが灰となって消えたと」
「・・・そのようですね。技術を教えた転生者が聞けばさぞやガッカリするでしょうね」
「それについては儂達には謝罪することしかできないな」
「謝罪して終わりですか?」
「というと?」
俺はナディーネの資料を指さしながら返答をした。
「ここにたった1日ほどで俺が教えた事を様々な角度から実験して検証したデータがある。貴方達結界師ギルドでなぜ同じことができない?」
「・・・あっ!」
「失われたと嘆いているだけでは何も生み出されることもなく時間だけが過ぎていく。人員は過去よりもたくさんいるんだ。研究に研究を重ねて今後に発展させる体制を今から作ればいい。商売の事だけを考えるのは商会の職員に任せればいい」
「・・・そうだな」
「しばらくは金にならない実験に明け暮れることとなるだろうが・・・基礎データも実験で得ることができれば商売しやすくなるだろう。冒険者には冒険者に必要な結界は存在するし、商人・農業・漁業などなど様々な場面で様々な結界が必要になるんだから・・・失われたデータも知識もこれから取り戻すには実験して検証していくしかない。太古に実験を繰り返した時と違って答えが分かってるんだから、これから進みゆく未来に光は見えているはずだ」
「あぁ、分かった。これから忙しくなるだろうが頑張るとするよ。それと早乙女君・・・済まないな。儂の弟が迷惑をかけたようで」
デュークは白髪で髭まで真っ白でガタイの良いおじいさんなので外見はサンタクロースの様だ。
そのデュークが俺にペコリと頭を下げたので、反射的に俺もペコリと頭を下げ返してしまう。
「・・・弟さんですか?」
「儂の弟は結界師ギルド・シーパラ本部のギルドマスターをしておった。今は逮捕されてギルドマスターは末弟に変わったが・・・」
「それはそれは・・・」
「そんな話は後でもいいですな。議長、それと他の議員の皆様方、会議の進行を妨げてしまい申し訳ない。失礼した」
デュークが議長に頭を下げたので会議はまた再開。
俺は説明を始めるのだが俺の説明する事なんてそこまで大量にあるわけではないのですぐに終わる。
質問に答える方が時間は掛かる。
一番鋭い質問を投げかけてきたのはイワノスの息子で長男『レオーン・ゲッペンスキー』からの質問だった。
「先ほどの早乙女君の話では結果師ギルドに技術が集められて独占した事が滅亡を招いたというニュアンスだったが、今の現状では早乙女君に技術が集まってるようにしか思えない。それはダブルスタンダードではないのかな?」
「それの答えは簡単ですよ。皆さんが俺を信用しきれないように俺も皆さんを信用しきれません。現に転生者がもらたし知識・技術などいくつものあるのに・・・もたらされたモノで発展してるのはいくつありますか? 失われたモノの方が多くないですか?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
「そういう事ですよ。それに技術を独占しようと、得られる富を独占しようとして”結界師ギルドの組織内で”殺し合いをして失われたと先ほどデュークさんも仰ってたではないですか。俺がもたらした技術を得るために殺し合う事をされても困る」
「うーーん・・・」
「何かを得るために何かをしようとするならば、誰かに頼るのではなく自分達で苦労して得る事が出来るのであれば・・・学ぶ為には実験の失敗すら必要だとおもう。学んだことが”技術の革新”へと繋がって発展していくのではないのでしょうか? それに学んだ知識の有難さを実感するには苦労して作り上げないとね」
「分かった。早乙女君済まない」
「まぁそうは言っても結界師ギルドが発展するためには膨大な時間が掛かり過ぎることになるので・・・今回だけは特別にご提供しますけどね」
最後にアイテムボックスから取り出したのはアタッシュケース型の専用転送器だ。
俺の隣にいる最高評議会の職員に全員分を渡して、現物を使いながら使用方法まで説明する。
最高評議会の議長も含めた議員全員で使い方を教える・・・と言っても説明書すらいらないほど簡単で、セットして1時間弱待ってるだけだ。
アイテムボックスから残りも取り出して40台全部を取り出した。
注意事項としては24時間使用したら専用転送器の魔力が枯渇する。
枯渇すると計算では3日間72時間ほど魔力補給機で魔力を補給しなければならなくなるので、できれば1日の6時間を使用して4交代で残りの18時間を魔力を補給し続けた方が効率が良さそうだと思う。
これは実際に実験したわけではないので正確ではないが・・・計算上は耐久性で1年後ぐらいに回復量に差が出てくるだろう事。
それに人が魔力の補充をする事はできるが、かなりの量を必要とするのでやめた方が身のためなこと。
それにこのアタッシュケース型専用転送器は伝説級の装置なので解体出来ないようになってるが無理に解体すると、中のデータも魔法も全部消去されるような安全設計となってるのでと注意しておく。
全員に魔石付きのミスリル結界棒を10本ずつ渡して、実際に使わせながら説明していく。
会議室にいる記録係がメモを取っていて、後で議事録がまわってくるとは言っても熱心に自分の手でメモを取ってる人も多くいるので、使いながらの説明だと時間がかかるようだな。
11時半を過ぎたころに今度は昼食のメニューをもって職員が注文を聞きに来た。
俺は海鮮丼を注文したが、他の人も丼モノばかり注文してるので同じように考えてる人が多いんだろう。
12時前に終わった実験の結果は間違いなく専用転送器が使えたという事だった。
鑑定魔法を使えるメンバーが確認し終えた12時チョイ過ぎには注文した海鮮丼が届けられたので会議は一時中断となった。
美味しい海鮮丼だったし付いてる味噌汁が魚のアラなどが入っている漁師汁になっていて・・・海鮮丼よりも漁師汁の方が激ウマだったのは新たな発見だろう。
食後にはスモーカー達は喫煙ルームにタバコ休憩に行ってしまったので、俺は座ったままデザートで出てきたカットフルーツを食べる。
シーパラ連合国にきて一番嬉しいのは・・・どこでもフルーツが格安で売られていて、旬な時期とか関係なく美味しいフルーツがいつでも頂ける事が嬉しい。
冷やして食べるだけでこんなに美味しいフルーツがどこでも手に入るのだから、シーパラ連合国ではスイーツは発展しなかったのではないかと妄想してる。
ニコニコの笑顔でカットフルーツを食べてると、部屋の外に出かけていたデューク・メンドーサが歩いてきて隣に座って話しかけてきた。
「先ほどは貴重な意見をありがとう。凄くやる気が漲ってきてて、この熱が冷めない間に結界師ギルドの再興を誓って結界研究所を設立することに決めてきたよ」
「それは良かったですね。しばらくは金が掛かると思いますが頑張ってくださいね」
「儂に気合と情熱を注入してくれたお礼と弟の不始末のお詫びがしたいので、一度我が家で食事にでも誘わせていただきたいのだが・・・」
「うーんと・・・明日の朝からはシグチスに向かって旅立つことになりますので今夜以外だと、帰ってきてからになりますけど」
「儂の方がお願いする立場なんだから日程はいつでもいいですよ・・・勿論、今夜でも。今夜の18時に早乙女工房に迎えに行くというのはいかがですかな?」
「俺の方は構いません・・・ですが、さすがに家族同伴は出来ませんけど」
「さすがにそこまでの無理は言いませんよ。自分達に信用がないのは重々承知してますので。こちらとしては御礼とお詫びさせてほしい」
「分かりました。では今夜よろしくお願いします」
デュークと握手をしてると会議が再開する時間となって外に出ていた議員たちも続々戻ってきた。
その中には午前中に資料作りの為に退出したリカルド・ケミライネンとエンリコ・ケミライネンの親子と、角館将仁の3名が両手に荷物を抱えた秘書を伴って戻ってきたようだった。
俺とデュークが握手をしているのを見て明らかに軽蔑した眼差しをして角館将仁がデュークに話しかける。
「シーズの人間として下賤な者共と気軽に握手なんて・・・メンドーサ家の家格も地に落ちたもんだな」
「儂は握手したおかげで早乙女君との会食を約束できだが君達は断られた。この事実からは逃れることはできんよ」
「ふふん・・・そこまで落ちぶれたか。そんなに卑屈になってまでこのみすぼらしい下賤な者と仲良くして、お零れをあずかろうとは・・・いやはや見下げたモノだ」
酷い言われようだな俺・・・でもちょっと笑ってしまった。
コイツが俺をさげすんだ表情が遠見魔法で見た自慢の孫娘にクリソツだったからな。
「クックック、よりによってお零れかよ・・・下賤だのみすぼらしいだのとか、高貴な生まれだと勘違いしたエセ貴族みたいなカスよりはましだよ。下賤な人間にすら見放されたブサイクな娘のパーティーに出なくてホントに良かったよ。傲慢で不細工な女なんて何の価値もない”粗大ゴミ”だろ。粗大ごみの為のパーティーって何なんだよ」
「下賤な者がワシに口をきくな! カー・・・ペッ」
『フッ』
『ビチャ!』
「おのれ・・・貴様ぁー!」
将仁が俺の顔に唾を吐きかけようとしてきたので、鼻息で吹き飛ばして将仁の顔面に戻してやった。
顔を真っ赤にして将仁が喚いているが俺にはどこ吹く風だな。
ブチ切れし過ぎでもはや言葉にならない大声で喚いてるが無視してフンフンと鼻を鳴らしながら、耳をホジホジして『アー、うるさいなぁ』ってほぼ聞いてない俺。
一連のやり取りを見ていた周囲の議員連中は爆笑し始めた。
向かい側に座っているイワノスと息子のレオーンは机をバシバシと叩きながら腹を抱えて爆笑してるし、ナディーネの母親と祖母も下を向いて肩を震わせて笑ってる。
マツオなんてヒーヒーと呼吸困難になりそうなほど大爆笑してる。
隣に座っていたデュークは俺の肩をバシバシ叩いてガッハッハと大口を開けて爆笑してる・・・痛いんですけど。
議長をしているクリス・アギスライトの祖父は飲んでいたお茶をブーーっと盛大に噴出して、今はゲホゲホとむせながら秘書が背中をさすってる・・・鼻水垂れてるよ。
・・・さすがにここまでおちょくっても手は出してこないな。
最高評議会の会議場の中で手を出したらきついペナルティでもあるんだろう、怒鳴ってるだけで手は出そうともしてこないな・・・残念。
唾が飛んでくるのでそれも鼻息で吹き飛ばして顔面に返してあげる。
5分ほどカオスな状況が続いてから議長の声と共に会議が再開される。
『休憩はこれで終えて会議を再開する!』
と言っても専用転送器の実証実験も終わり、あと残ってるのは俺の報酬を決めるだけ。
面倒なんで専用転送器は早乙女商会からシーパラ連合国の最高評議会に対して貸し出す形にした。
何か・・・『早乙女家をシーズの家にしよう』だとか『Sクラスの冒険者にしよう』だとかの議論が始まってしまったので、全部面倒そうなのでお断りさせてもらった。
金額の話になっても色々と揉めたがアタッシュケース型専用転送器1台あたり1年レンタル料金が税抜き金額で2500万Gで落ち着いた。
40台のレンタルなので年間で10億Gが税抜きで毎年の5月10日に早乙女商会に支払われ、口座に振り込まれる事となった。
壊れることはないだろうけど俺以外に修理もできないだろうから、メンテナンスの料金はサービスで俺が請け負う事に。
金額も決定したのでこの議会を預かる議長と正式な契約書を交わし、職員が運んできた魔水晶に俺の商会ギルドカードを登録して契約完了。
40台のアタッシュケース型専用転送器が最高評議会の職員たちの手によって別の場所に運ばれていった。
最高評議会の会議の参加はこれで終わった。
立ち上がって全員の前で3人のバカに見せつけるように貴族のような優雅さで一礼して去っていく。
最後まで3人は強烈に俺を睨んでるが完全に無視して案内をする職員の先導で会議場を後にした。
女性職員の後ろについて最高評議会の建物の中を歩いていくのだが、外に出て行くまでに結構な距離があるので多くの人とすれ違う。
俺って・・・自分で言うのもなんだが注目度が高いのか?
最高評議会にいる職員や客までも、ほぼ全員が歩いてる俺を好奇の目で見てくる。
最近の俺の状況から考えると首都シーパラでは様々な噂が乱れ飛んでいるだろうから仕方がないな。
そんなことを考えながら歩いてると正面から懐かしい顔が見えた。
今はバイド村の村長となった『バイド・シーズ・ガルディア』が最高評議会にやってきていたようだ。
俺から話しかけて挨拶をする。
「バイドさんお久しぶりです。今日は珍しい場所で会いましたね」
「早乙女さん、お久しぶりです。私は今日やっと『バイド村』の正式登録が可能になりましたんでここまでやってきたんです。この後は教会・冒険者ギルド・商業ギルドなどに出張所の開設をお願いしに回ることになります」
「へぇ~、村づくりって大変だなぁ。作ってからも村として機能させるためには様々なシステムが必要になってきちゃうからなぁ」
「そうなんですよ。昨日の夕方に首都シーパラに到着したんですが今日は朝から手続きで大変となって秘書と執事と部下と走り回ってます」
「大変だな・・・まぁ、頑張って」
「ありがとうございます。早乙女さんもまたいらしてくださいね。大歓迎でお迎えしますよ」
「そうだな。機会ができたら伺わせてもらうね。じゃあ・・・」
バイドと握手をして別れる。
待っててくれた案内係に謝罪して歩き出そうとすると、今度は俺が後ろから話しかけられ呼び止められる。
大きな声で俺を呼び止めて小走りに近づいていたのは、イワノスの次男でシーパラ連合国警備隊総長『アイザック・ゲッペンスキー』だった。
「早乙女さん、申し訳ないですが少し時間をいただけませんか? 最上階のレストランで個室を取りましたので話を・・・いえ、謝罪をさせていただきたい」
「良いですよ。では今から行きますか」
案内係さんに再度謝罪して最上階展望レストランに向かう事になった。
レストランに到着すると俺とアイザックは個室の方にウェイターに案内されて、俺とアイザックをここまで案内していた案内係さんは出入り口近くのカウンター席に案内されている。
彼女達にはここで好きなメニューを頼んでくださいとアイザックが言っていたので奢りなんだろう。
レストランの個室の中はそこまで広くなくて入っていくと4人掛けのテーブルとイスがあるだけの個室になってた。
結界が始めから張られていて個室の外とは音が切り離されているようだな。
メニューもなくてパティシエが直接運んできたのは俺が以前、アイザックに教えた『おはぎ』だった。
中にアンコを入れて牡丹餅で包み抹茶の粉末が振り掛けられていて抹茶味に挑戦しているものまであって驚愕してしまった。
パティシエはアイザックに教えてもらって実験的に昨日から知り合いにお出ししている段階らしい。
泡立てしたお抹茶をおはぎでいただく・・・日本ですらあまり見かけなくなった風景にファンタジー感は皆無だが、お抹茶もおはぎも抹茶味のおはぎも美味しいので文句はない。
パティシエがいたのでついでに『ずんだ』と『きな粉』も教えてレシピを書いて渡してあげた。
両方ともシーパラ連合国では手に入りやすい素材だし、キッチンにもある様な素材なので今からでも作ってみると言ってパティシエは足早に去っていった。
「おはぎを教えてくれた早乙女さんに、いち早く食べてもらおうと思ってここに連れてきたのですが・・・またさらに美味しそうななモノを教えていただきましてありがとうございます」
「後は独自のモノを編み出してね。俺もそこまでネタ持ってるわけじゃないし、料理のプロの独特の発想ってやつを見せてもらいましょう」
「分かりました。知り合いの料理人全員にレシピを公開して今後は発展できるようにハッパをかけておきますね。それと・・・先日のドルガーブ警備隊の事ですが、明日にでも最高評議会で証人喚問が開かれることが決定しまして、私も出廷することになりました。その呼び出しで私は最高評議会に来ていたんです」
「旧紫村道場のウザさは格別だな。警備隊にもかなりいるんじゃないの?」
「今朝1番に私名義でシーパラ連合国警備隊に所属する隊員全てに通達を出させていただきました。『警備隊は早乙女氏に対して報復をするための組織ではない事。不服あるものは警備隊規則に則り隊を去れ』という簡単な通達です。それをもって旧紫村道場出身者の洗い出しと監視を強化している最中なんですが・・・首都シーパラの警備隊幹部が1名と隊員が14名の計15名が退職願を提出して姿をくらましました」
「知ってるよ。先ほど紫村道場跡地のモフモフマッサージ天国シーパラ店に突撃をかましてきて、うちのゴーレム達に制圧されて25名が警備隊に引き渡されてる・・・仲間をかき集めて連れてきたんだろう」
「またですか・・・申し訳ないです」
「警備隊を退職してるんだからアイザックが謝ることじゃない。俺と旧紫村道場出身者の闘争なんだから。全員の全身の骨を砕いて借金奴隷が増えるだけなんだから国としても美味しいんじゃないのか?」
「そのことなんですが・・・『旧紫村道場出身者の襲撃犯罪者予備軍としての側面が強過ぎるから今後は犯罪者予備軍として監視対象とするように』という事を、先ほどの最高評議会からの証人喚問出席の通達を受けた時、同時に警備隊・国軍・聖騎士団などの監視対象者を洗い出しておけという”命令”が最高評議会から出されています」
「大事になってきてるな」
「彼らはそれだけの事をしてますしね。早乙女さんが回収した旧紫村流道場の跡地で残っているのはシグチスのみで、そこで待ち構えていれば必ず現れると紫村流道場出身者がシグチスに集結してると言う噂もありますし・・・先代の5代目紫村上総介に見切りをつけ紫村流道場を離れて別の流派を立ち上げてる反紫村流派の方たちを中心にした別の動きがあるとの情報もありますので、早乙女さんには是非とも気を付けていただきたい」
「うちは大丈夫だよ。それに明日からシグチスに旅立つ予定だから・・・何もかも全部まとめて叩き潰す事にするからな。むしろ・・・ガルディア商会のようにうちのゴーレム駐車場で販売している従業員と購入しに集まってきてくれるお客様に迷惑が掛からないか心配だな」
「それはそうですね。今からもう一度戻って最高評議会の職員にその件の話をしてきます」
「あぁそれじゃあ、お願いしますね」
アイザックとの会談はこれぐらいにして握手をしてから別れることにした。
カウンター席で待ってくれていた案内係さんに話しかけて俺は最強評議会を後にする。
最高評議会の建物を出るとホップボードに乗って早乙女工房に向かう。
モフモフマッサージ天国シーパラ店に現れた不審者の治療費は、以前と同じ早乙女商会に振り込むようにマッサージメイドゴーレムから契約書にサインさせて終了できたようだ。
完全に俺の手を離れて退治が可能になったのはありがたいな。
カスどもを退治していちいち俺のサインが必要だとかは面倒臭すぎて外に旅にも行けなくなりそうだったので危惧していたが、マッサージゴーレムのネームプレートとサインでも可能なのは今日初めて知った。
早乙女工房のゴーレム馬車駐車場は大盛況となっている。
昨日までは販売員は4人体制だったのだが今日から見習いも含めて8人体制での販売になってる。
俺が到着すると以前に会ったことのあるガルディア商会の秘書と、ユマキ商会の秘書&工房の職人が来ているとユーロンドから報告を受ける。
彼らが俺に相談したいという事が想像つくので一緒に応接室に通させる。
一通り話を聞いたがやはり俺の想像通りの様だな。
おにぎり販売は今日の早乙女工房の外の状況を見ればわかるように、客が客を呼び口コミで倍々で増えてきて、今の早乙女式馬車1台の販売で捌くことのできるギリギリの状況になってきてる。
それで俺の設計図通りに動力部分は完成し早乙女式馬車は完成したかに見えたが試乗をした職員から『試作車両と違っていつまでも揺れてるので不快感が強い』という苦情が出た。
早乙女式馬車の販売開始まで時間がないので俺の製作した試作車両を調べたがよく分からない。
さんざん悩んで・・・出来ないという報告をジュンローにしてマツオの指令で俺の助けを借りに来たみたいだな。
・・・ダンパーのショックアブソーバーの部分の説明をしなかったから想像通りの結果になった。
俺が目の下にクマをつくって不眠症のような顔をしてる職人に丁寧に説明してあげる。
板バネだけでは衝撃を吸収することはできるのだけど振動は吸収できないどころか、衝撃からおきる振動からも揺れが収まるまでに時間が掛かり過ぎて・・・よりひどい状況となる。
なので板バネの振動を吸収することが絶対に必要になる事。
俺の試作品には振動を緩和するために板バネと本体の間に森林モンキーの尻尾とゴムが間に挟んであり、ゴムと森林モンキーの尻尾で振動を吸収して少なくするような工夫をしたことを教えた。
キャンピングバスのように魔法で浮かす事は出来ないと思ったので苦肉の策でしかないが、適当に作ったはずなのに乗ってみてなかなか成功したと思っていた部分だな。
ゴムが混じってるので経年劣化は避けられないが取り換えは簡単にできるだろう。
ここまで説明したら職人が涙を流しながらお礼を言ってきた。
・・・俺に対してやらかしてたことがかなりトラウマになってたようだ・・・脅し過ぎたかな?
でも俺を頼りすぎるのもよくない傾向なのでこれぐらいで丁度いいだろうと思い直す。
それで目的を達したユマキ商会の秘書と職人を帰らせる事にする。
あとは自分達で最適なダンパーを作ればいいからな・・・そこまでは面倒見きれない。
ガルディア商会の秘書とは、もふもふ天国シーパラ店と早乙女工房のゴーレム馬車駐車場使用契約でまだ話があるようなので残ってもらう。
両方とも1台分だけなので2台分の契約をしたいそうだ。
それに俺が先日手に入れたモフモフマッサージ天国シーパラ店の話をして場所を教えると、こちらでも契約がしたいという話になった。
今から視察に行ってその後ガルディア商会本部に向かいゾリオンと直接会って契約をすることに。
秘書が乗ってきたゴーレム馬車でモフモフマッサージ天国シーパラ店を見て回り、秘書はここなら売り上げも安定して稼げそうだとハッキリ確信できると、自信を持った顔で教えてくれる。
確かに周囲には道場が多くて食事する場所は10分以上歩かないとないからな。
周囲の大きな道場には住込みの道場生もいる事だし始めから2台の契約でお願いしますと頼まれる。
秘書と会話しながらゴーレム馬車に乗ったままでガルディア商会本部に入っていく。