紫村流道場との抗争っす。
俺は執務室の肘掛椅子に座ったまま紫村流侍剣術道場からの使者を出迎える。
早乙女工房専属メイドゴーレムの紺もソファーには誘導せずに執務机の前までしか案内しない。
・・・俺からすれば客じゃないし。
あえて偉そうに座ったままのおちょくった応対で反応を確かめてみた。
俺の応対ぶりから明らかに少し怒気をはらんだ目で俺を見下す使者の口上を聞く。
「これはこれは、超一流の紫村流侍剣術道場のお方がこんなところに何の用ですか?」
「ふん、手前どもの手違いで早乙女さんには大変ご迷惑をおかけしてると聞きました。つきましてはぜひ直接謝罪がしたいという道場主第6代目『紫村上総介』様よりの伝言を持ってまいりました。ぜひ今より当道場へ来てください」
「謝罪ねぇ・・・」
これは重症だな・・・謝罪する態度ですらない。
謝罪をする相手に挨拶もしないで上から見下ろして相手を”さん付け”で呼び、自分の道場主を様付けするバカが使者だとはな。
あえてバカを送ってきたとみるか、弟子のバカ数人が勝手に暴走してるとみるか・・・判断に迷うほどのバカっぷりだ。
俺はあえてバカを挑発してみたのだが簡単に引っかかる奴だったので、どこまでプライドが高いのかすら分からない。
謝ってやるから来いってか?
俺の中にも怒りの感情というものはある。
それを利用して呼び出しに来たんだろうけど・・・藪をつついて蛇を出そうという行為は俺にしてはいけない行為だという事を知らしめる必要があるな。
俺をつついたら古代龍の逆鱗に触れた事と同じような悲劇に見舞われるという前例を作らないとな。
「(俺を呼び出したことを後悔してもらうために)・・・行かないといけませんね」
「ふん、ではこちらにゴーレム馬車を用意しましたので」
嬉しそうにニヤニヤする紋付羽織袴の使者の後ろについて道場まで連れて行ってもらう。
冒険者ギルドシーパラ支部のすぐ近くにある馬鹿デカい道場だった。
様々な人種の人間が100人以上もいる一流の道場らしいが、中身はクソだな。
全員が俺をニヤニヤして出迎えてる。
道場の訓練場の上座に座ってるのは何の特徴もない中年男で明らかに道場主ではない。
俺は胡坐をかいて道場の中心に座り謝罪らしきものを受けた。
俺は返事もしないで暇そうな顔で後ろの壁の一点を見続けるが反応がない。
のぞき穴を直視する俺に動揺した気配がうかがえるが・・・へぇ、あれでも隠れられてると思ってるのかな?
上座に座るオッサンの謝罪らしきものが終わると上座の横に一列になって並んで座っている高弟達からの怒りの罵声が入る。
俺が壁しか見てないので冷や汗をかいてる高弟だった。
「貴様っ、紫村上総介様よりの謝罪言葉をありがたく聞く気はないのか?」
「だらだらだらだら、長い口上を言ってるだけで謝罪の言葉なんてないじゃん。そもそもいつから道場主は隷属の首輪を装備した下働きの下男の借金奴隷がしてるんだ?」
「わが道場を愚弄してるのか貴様っ!」
「まぁ、待ちたまえ。我が道場には早乙女さんのマグレが信じられないという弟子も多数いてな。できれば貴方の技の冴えをご教授願いたいのだがいかがなものかの?」
「はぁ~、くだらない茶番だったな。良いよ、やってやるよ”道場破り”をな。俺がここの全員をブチのめしてそこの壁の隠し部屋で俺を観察しているジジィを叩きのめせば、看板を貰っていっても文句ないんだよな? 古式に則って正式な道場破りでやってやんよ」
「クソガキが! もう我慢ならん、ワシから行くぞ! いざ尋常に勝負だ!!」
俺を迎えに来た使者だった高弟が自分の持ってる木刀を俺にポイッと投げつけてきて自分は右手の木刀を上段に構える。
俺はそれを空中で掴むと大声で笑い始めた。
「アッハッハッハ、尋常に勝負だって? アッハッハ。そうだな・・・貴様たち程度では真似することもできない、本物の技というものをお見せしよう」
俺は木刀をつかんでわかったがこれは張りぼての木刀だ。
俺は体内で練った剣気を木刀の中に充満させて中の空洞を埋める。
俺に殴り掛かってきた木刀を一薙ぎで一閃させて斬る。
ガインっという音を出して斬られた木刀の真実が明らかになった。
俺には張りぼての木刀を渡して問答無用で上段から殴り掛かった自分の木刀は表面を薄い木片を張り付けただけのオーガ鋼でできた棒。
カラクリを知ってる高弟たちは驚愕して固まった。
見学をしててカラクリを知らなかった道場生たちはザワザワと騒ぎ始める。
自分の鉄棒を斬られてお口ポカーン状態で自分の手元を眺めて固まってる使者の男に向かって俺はスタスタと歩いていって上段から振り下ろした木刀で頭から真っ二つに斬った。
血が吹き出たりはしない。
倒れた体が割れてドパッと二つに割れた体から血があふれ出ただけだ。
俺が『フン!』という気合声を発すると固まっていた高弟たちが動き出す。
「さぁ、道場破りがスタートしたんだ。俺はお前等みたいな甘ちゃんじゃないから、木刀でも殺せるという事を証明してやった・・・張りぼてでもな。みんな一斉でもいいぞ? アイテムボックスの自分の愛刀を抜いてもいい、早くかかってこい」
「・・・」
「なんだ・・・この程度でビビってるくせに俺をどうにかできると思ってたのかよ。がっかりだな」
俺は道場生たちが騒いでる目の前に剣気を抜いた木刀をヒョイッと投げると砕け散る張りぼて。
『何だこれ、中身はが何もないぞ!』
『でもこれで先ほどのオーガ鋼の棒を斬って、綾瀬さんの体も真っ二つに斬ったのか?』
見学者達は大騒ぎだ。
「可哀想だから素手でやってやんよ。もしかしてビビってるのか? わかったわかった仕方がない。両手も使わないでやるよ」
俺が腕を組んで立っていると残りの9人の高弟たちは俺の挑発にブチ切れて、アイテムボックスから自分の愛刀を取り出して次々に飛びかかってきた。
俺は手は使わないと言ったが攻撃しないとは言ってないので、敵の刀を避けながらローキック・回し蹴り・胴回し回転蹴りのような大技も織り交ぜて、多彩な足技で高弟たちの骨をへし折って殺していく。
4人の蠢く芋虫を作り出し・・・体内の損傷が激しいので、もうじき死ぬこととなる芋虫。
生き残りはあと5人という時になって隠れてた場所からジジィがおりてきて声をかける。
「・・・それまでじゃ! お前たち何をやっておる!」
「・・・(俺はあきれて声も出ない)」
「せ、先生、申し訳ございません。このような失態を見せてしまいました」
「お主達は免許皆伝の師範代として弟子を導く立場にいながら何たることだ」
「早乙女殿、ワシの不詳の弟子たちがご迷惑をおかけしたようじゃ、重ね重ね申し訳ない」
「先生! 私たちのせいで申し訳ございません」
「・・・ジジィとバカ弟子、茶番はもういいよ。それに全員で声を震わせながらビビりながら演技しても無駄だろ。ジジィは今まで全部そこの隠し部屋から一部始終見てじゃん」
俺が指さしながらエアーカッターの魔法で壁の一部を破壊したら・・・のぞき穴は大きい穴になって広げられて、隠し部屋の中の様子が丸見えになった。
道場生たちは見学しやすい様にすべての扉を開け放って中にゾロゾロ入ってきていて、大騒ぎに発展してきてる。
面白い見世物を見るかのような見学者達もいるし、俺に手も足も出ない高弟たちを見限って大声で罵ってる人、先生が来たから安心だと胸をなでおろす人、紫村流の剣道着を投げ捨てて『これのどこが史上最強なんだよ! 今まで払った金を返せ!』と怒っている人、もはやこんな道場に用はないと帰っていく人々・・・様々な見学者が騒いでるので道場の訓練場は大騒ぎだ。
『静粛に!』
俺が気合とともに大声で叫ぶと騒ぎが収まって全員が俺を注目する。
「まずはやっと隠れてた黒幕が出来てきたことで話が進むな・・・第6代紫村上総介に問う。そこの上座に座っているオッサンはなんだ?」
「お、お主は下働き奴隷のゴンザ・・・こんなところで何をしておる。下がりなさい」
「ははっ」
オッサンが下がって外に出ていった。
なんかあまりの茶番劇っぷりに1周回って楽しくなってきたな。
悪ノリを楽しんでしまうという俺の悪い癖が出てきてしまいそうだ。
「それでジジィ、今頃出てきた理由を言えよ。まぁ想像はつくけどな。どうやっても俺にかなわないので知らなかったふりして謝罪して逃げようってハラだろ?」
「・・・それは」
「理由も言ってやろうか? 計画が全部崩れたから茶番劇をするしかないんだよな?」
「・・・」
「くだらないよお前等・・・まったくもってくだらない。何が最強の侍だ? 卑怯ワザと姦計しか使ってねぇじゃねぇーか。言っとくけど俺はもう道場破りに変更したんだから、今更『弟子の不手際だった、これで許してくれって』道場主のあんたが土下座して謝っても許さんよ」
「なっ・・・」
「言っただろ? 想像つくって。おまえら程度のパターンは簡単に読めるよ。おおかた後日、闇討ちでも企むって事も想像がつくよ。何が6代目紫村上総介だか・・・先祖もそうやって卑怯ワザと姦計で最強なんて言ってきたのか? 恥ずかしい集団だな」
「貴様! ご先祖様まで侮辱するのか!」
「さっきからずーっと言ってるだろ『道場破りに来た』って。俺は道場破りに来たんだからお前は紫村道場の全てを賭けて俺を倒さないと先はないんだよ。かかってこないならこの道場は俺に惨敗した印として道場の看板ごと道場の建物を破壊されるからな?」
俺はおちょくり続けて右手で”さっさと来い”と何度も何度もジェスチャーを続ける。
ジジィの身長は俺が見上げるほどだから190cm程だな。
上座にいるので2mちかい。
真っ黒い30cmほどありそうな長い髭がきれいに手入れされていて自慢な髭なんだろう。
赤黒い肌で三国志に出てくる関羽公の様だ・・・頭はハゲてるけどな。
今はその禿げ頭に血管が浮き出まくって怒りに震えてる。
もうひと押しかな?
俺は足元に転がってる一番初めに斬った鉄棒の切れっぱしを道場の奥の床の間に飾られてる花瓶に投げつけて木端微塵に砕いた。
俺の武器を気にしてるようだったので失くしてあげてからジジィが攻撃しやすい場所まで歩いて近づいていく。
「ほらほら、お前は俺の道場破壊を見学しに来たのか? 耄碌しすぎだろ・・・もう逃げ道なんてないよ」
「クソガキが! もう殺す! 絶対に許さん!」
「俺もそう思ってるよ。御託はいいんだよ早くこいや」
「しゃっ! ・・・なんだと、クソっなぜ動かん!」
ジジィが一っ跳びで3mほど離れた場所から腰の愛刀を抜いて居合抜刀術をしてきたが・・・巨体の割には素晴らしいスピードで、確かに道場主レベルで素晴らしい技の冴えだが、俺にはこの程度では話にもならない。
簡単に左手の人差し指と親指でつまんで止めてしまった。
ジジィが巨体を生かして何とか力を込めるが微動だにしないので、今度は飛び離れるために引き抜こうとするが・・・全く動かない。
「クソっ・・・なんだと!」
「クックック、ざぁーんねんでした。カタナも2刀あるけど俺の手も2本あるからな、クックック」
ジジィが微動だにしない大太刀を諦めて、もう1本ある小太刀を右手で抜き俺の腹をえぐろうとしたがこれも右手の人差し指と親指でつまんで終了。
俺がそのまま両手でつまんでる2刀を押すとジジィがゴロゴロと後ろに転がって道場の壁に当たって止まった。
俺は道場の中心に戻って周囲全員に挑発を繰り返す。
「おらおら・・・どうした、師匠のピンチだぞ? このまま黙って見てるのか? お前たちに残された道は全員で一斉にかかってでも俺を殺さないことには、名誉の回復なんて出来ないぞ?」
「仕方がない、全員だ! 紫村流魔獣殺陣だ!」
「はっ、お前たち行くぞ!」
「ここまで追い詰められて、やっとかよ。危機管理能力があまりにも低すぎるな。よくここまで潰れずに済んでたほどのカス道場だな」
「五月蠅い、黙れ!」
俺の周囲を包み込むような半径8mほどの円が高弟と師範代クラスと子飼いの道場生、合計25名ほどで作られた。
俺はアイテムボックス内で長さ1mのオリハルコン製の木刀の形をした棒を作って、中段の普通の姿勢で構えた。
「まずは1の陣、その後ろから2の陣かかれ!」
ジジィの合図で5人ずつが5つの方向から走り寄ってきて同時に攻撃をかけてきた。
これが侍の集団による攻撃だ。
集団による同時攻撃や波状攻撃で対集団や対個人を狩っていくのだ。
まぁ悠長に喰らってやってもいいが、俺はドMでもホモでもないので5人の中の一番”強そうな”奴に向かっていって、前蹴りで後ろにいた人間の3人ほども吹き飛ばして包囲網を簡単に突破した。
ほぼ同時に襲い掛かるカタナの攻撃を前後左右の細かいステップで最小限の動きで、かわしてはオリハルコン棒を叩きつけ避けては棒を突き入れて、時には敵のカタナごとへし折る。
降りかかる上段攻撃をかわした敵を俺に突きを入れてきた敵の前に押し付けて同士討ちも積極的に行う。
「ガキが・・・3の陣も4の陣も5の陣もかかれ!」
「アッハッハッハ、やっぱ侍は集団戦じゃないとな! ドンドンこいや! ほらほら、おかわりだ!」
「なん、だと・・・クソっ全員で波状攻撃だ! ものどもかかれ! かかれ!」
10分後には道場の50人以上の死体が転がってる。
俺は全身に返り血を浴びてオリハルコンの棒を右手でだらりと持って幽鬼のように立っている。
恐れをなして動けなかった練習生たちが見学する中で後は第6代目紫村上総介のみが腰を抜かして震えてる。
『た、助けて・・・』
腰を抜かしたまま後ろに後ずさってるが周囲には死体で溢れてるので上手くいかないようだ。
俺は手に持っていたオリハルコンの棒を振りかぶって最後通牒を告げジジィの頭部を叩き潰した。
「ジジィ、バイバイ。俺にケンカ売ったことを『死んで詫びろ』だな」
俺は最後の作業に取り掛かる。
全部の死体に浄化魔法をかけてここ土地に幽霊が残らないようにさせた。
そして床の間に飾られてる道場の看板・正門入口の上に飾られてる看板・道場入口右側に飾られてる看板の3つを集めてきて、紫村上総介の死体の横にへし折って並べておいた。
これがイーデスハリスの世界に古代から伝わる道場破りのマナーだからな。
こうしておけば俺は合意の下の道場破りという事になり、殺人も罪には問われなくなる・・・これは道場を構える者の古代からの宿命となってる。
俺は全身を3点セット魔法で返り血を洗い流して浄化させ帰ることにする。
帰ろうと歩き出すと見学してた練習生から話しかけられた。
「あの、早乙女さん俺達はどうすれば・・・」
「俺に聞くなよ、そんなの知るかよ。お前たちもデカい道場の人間だからってさんざんデカい面してきたんだろ。俺に聞くなよカス」
「・・・」
「俺が入ってきたときは全員が俺が叩きのめされるのを見学しようとニヤニヤしながら集まってきたヤツラで、俺に向ってくることも出来ずに震えていたカスの面倒を何で俺が見なきゃならんのだ?」
「・・・」
「お前等に忠告しておくけど、今までデカい面してきた相手から今後は”復讐されるかも”って考えておけよ? お前たちが威張っていたバックは今日限りで消滅したんだからな」
「え・・・そんな・・・」
「今頃気づいたのかよ・・・カスの極みだな。まぁ散々威張ってきたんだから残りの人生を怯えて震えながら暮らせ」
何人かが『弟子入りさせて下さい』と言ってきたが『カスの弟子なんていらん。自分の尻は自分拭け』と一刀両断で断る。
正門まで付いてきてうっとうしかったのだが門の外にいた、近所のいくつかの道場生たちが話しかけてきた。
「すみません、紫村流の看板がないってことはもしかして・・・」
「あぁ、お前達のお待ちかねの”仕返しの時間”だな。俺の道場破りで紫村流侍剣術道場はたった今崩壊して消滅したから”元道場”だけどな」
「あ、ありがとうございます。よし、若い奴は仲間を呼んで来い。誰一人逃がすんじゃないぞ!」
「まぁ、好きにしてくれ。俺の用事は終わったから帰らさせてもらう」
「ええっと、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「早乙女真一だよ」
「あ、ヨークルの救世主の・・・」
門の外にいた人達の中から12・3歳ぐらいの外見の男の子たちが5人ほど周囲の道場の門へと走っていく。
門の外にいる30人ほどは門を固めて俺以外の人間が出ていかないように固めている。
俺が帰ろうとすると俺の後ろを弟子面をして一緒に付いていこうとするカスが3人がいた。
「俺の後ろを弟子の面して付いてきてるのは他人だからな。コイツ等は全員紫村道場の人間だ。俺はここに1人で来たんだから」
「そんな先生・・・」
「誰が先生なんだよ・・・じゃあ、俺の流派を教えてくれ」
「え・・・早乙女流・・・剣術?」
「疑問で先生と呼ぶ人間の流派を聞くなよカス」
「そ、そんな・・・」
「そもそも俺の職業欄に『道場主』『師匠』なんてないよ」
俺に話しかけてきた他の道場の代表者のような人間に俺のステータスカードの職業欄を表示して見せてあげた・・・俺の職業欄にはメイン職業が『旅人』としか書かれてなく、サブ職業欄で『Aランク冒険者』『早乙女商会代表』『職人』『早乙女工房代表』としか表示されていない。
「確かに道場主も師匠もないですね」
「だろ? だからコイツ等は無関係の”元”紫村流侍剣術道場の人間ってこった。見ての通り似ても似つかないから家族でもないし、ホモでもないから恋人でもないよ。あとはご自由にどうぞ」
「クソっ」
「逃がすか!」
俺の後ろを弟子面して逃げようとしていたカスが3人すぐに捕まって、ついでにボコボコに殴る蹴るをされて道場に投げ込まれる。
周囲には続々と応援が集まってきてる中、俺はアイテムボックスからホップボードを取り出して早乙女工房に帰宅する。
帰り道にホップボードを操縦しながら・・・
『やっぱ、こうやって力でゴリ押ししてた方が楽なんだよな。例えシーズの家のようなデカい組織でもな・・・』
という事を考えてた。
まぁ、バカのおかげで暴れまわって、かなりスッキリできたのは間違いなかったが。
早乙女工房前のおにぎり販売は好調なようだな。
あれほどまで美人で愛想の良いエルフ『ナディア・グラナド』が”素手で”握ったおにぎりを販売してるんだから人気が出て当たり前だろう。
販売員は4人いて3人で販売して交代で1人休憩してるのだが、4人全員が『顔で選びました』って言えるぐらい全員美人だしな。
これは早乙女工房の販売員だけでなく、もふもふ天国シーパラ店でおにぎり販売をしてる4人もガルディア商会本部ビル内で販売している4人も全員美人揃いだと忍から報告が入ってる。
おかげで口コミで客は増えに増えてる状況で、16時半という中途半端な時間にも係わらず行列が出来ている。
いかにガルディア家が本気でブームを起こそうとしているのかわかるほどの販売員のレベルの高さだ。
周囲を6名の親衛隊が遠巻きにして警護してる。
俺がホップボードを降りて入り口に近づくと親衛隊の責任者らしき人が、アイテムボックスから手紙を取り出して渡してきた。
裏を見ると『ゾリオン・シーズ・ガルディア』『グレゴリオ・シーズ・フォレストグリーン』『サトシ・シーズ・ユマキ』の3人のシーズの家の当主の連名の手紙が入った封筒だった。
俺が受け取って軽く頷くと親衛隊の人は持ち場に戻っていった。
俺が先ほどここから出ていくときは紫村流道場の使者の後ろについていってたので渡せなかったからな。
戻ってくるのを待っていたんだろう。
早乙女工房の受付横のソファーには休憩中の販売員と2人の親衛隊が座って休憩をしてた。
俺が通りかかったので立ち上がって挨拶をしてきた。
「早乙女さん、中で休憩させていただく許可をありがとうございます。お言葉に甘えてゆっくりさせてもらってます」
「いえいえ、今は休憩中なんですから座ってください。私もおにぎり販売の協力者ですからこれぐらいはお安い御用ですよ」
立ち上がってくれてた3人をソファーに座らせる。
昨日の夕方にユーロンドから報告があってゴーレム馬車駐車場の端っこで休憩しようとしていた販売員がいたで、俺が中で休憩させるように指示を出したのだ。
どうせ受付横のソファーは誰も使っていない。
なので今朝は新しく親衛隊も交代で休憩できるようにとユーロンド達が案内をしたようだ。
この程度の事は俺がイチイチ指示を出さなくても、次回からはゴーレム達は自身の判断で行動する。
ゴーレムと違って人間には集中力を保つために休憩はいるからな。
ノンビリ休憩できるようにもふもふ天国で出してるドリンクとクッキーはサービスだ。
「美味しいコーヒーなどのドリンクとクッキーまでいただいて申し訳ないです」
「この程度は大丈夫ですよ。早乙女工房のゴーレム馬車駐車場の使用料金はこれも含まれるぐらい大目にいただいてますので」
「もう1つのお店ではもふもふ天国でタダで休憩できるって事で今日は朝から販売員同士でじゃんけんをして争奪戦になってます」
「それなら販売員のみなんさんで話し合いをしてもらっててローテーションを組んでもらった方が不平不満が溜まらなくて良くないですか?」
「明日まではじゃんけんで明後日以降はローテーションを組んでるのはもう決定してます」
面白いことになってるようだな。
まぁこちらとしてもこんな美人たちが、どの時間帯でも必ず誰かが店で休憩してるとなると、宣伝効果はデカいからタダでもおつりがくるレベルだ。
実際・・・今日はもふもふ天国シーパラ店は客の入りが良く、過去最高の売り上げをすでにこの時間で更新しているという報告は来ている。
店内では仕事中には見せないニヤけた笑顔で愛玩ゴーレム達と戯れる美人が見れるんだから・・・俺でも店に通いたくなるわな。
話が済んだので後はメイドゴーレムの紺に任せて俺は空を伴って執務室に戻った。
「ご主人様、ドリンクは何を飲まれますか?」
「抹茶を頼む」
「了解しました」
俺はアイテムボックスの中からアンコのたい焼きとウグイス餡のたい焼きを取り出してオヤツをつまみながら抹茶をのみ、今貰った手紙を開封して読み始めた。
・・・中身は俺への報告だな。
ガルディア家・フォレストグリーン家・ユマキ家に加えてウォーカー家の4家連名で正式にケミライネン家と角館家に苦情を出したこと。
さすがのシーズの家4家合同の正式苦情に顔を青ざめながら謝罪して今後は迷惑をかけないと言っていたが、おにぎり販売時間以外にまだ動きがありそうなことを注意事項として書いてある。
それで5月10日にユマキ商会から正式に早乙女式馬車の販売が始まることも書いてある。
同じ日に早乙女式魔道コンロと早乙女式魔道冷蔵庫も販売が始まる。
明日の5月8日は都市ヨークルで早乙女式馬車でおにぎり販売を始めて、5月9日にはドルガーブでも始まる。
ヨークルでは2台の早乙女式馬車をガルディア商会ヨークル支店・ユマキ商会ヨークル支店で販売が決定。
港の労働者などが多くいて24時間作業員が働くドルガーブでは一気に5店舗を作って販売が決定してるらしい。
他の都市には順次広げることも決定してるし、早乙女式馬車の全世界展開と同時におにぎり販売も販売員の教育終了と共に増やしていく計画だと書いてある。
このまま周囲を巻き込んでどんどん大きくなっていく様は雪山を転がり落ちていく雪玉の様だな。
おにぎりは周囲を巻き込んで俺の手を離れて転がっていってしまってる。
グレゴリオは海産物の加工品増強計画を前倒しで行っている最中らしい。
職人を育てながら一定レベル以上の商品を大量に生産できないことには、おにぎり販売はストップしてしまう可能性があるからな。
売り上げ倍増が見込まれてるから一気に攻勢に出る事が出来るようになった。
簡単で作りやすいおにぎりだからこそ類似品は数多く出てくる。
手紙の内容はそんな報告が多かった。
それにユマキ商会の当主がサトシに変わったのでマツオはユマキ商会の第一線から退いてジュンローのサポートが付いたサトシがこれからユマキ商会を引っ張っていくと書かれて手紙が終わっていた。
う~~ん・・・嫌がらせは深夜に移行するかな?
ユーロンドからの報告では偵察らしき人間は10人以上来ているようだが、おにぎり販売の方を注視してるので、多分近所の弁当屋からの偵察ではないかという事が伝えられる。
なるほどな、それは理屈に合ってるだろう。
ここで売れた分はよそで買うのをやめた人達だからな。
それはそれで一悶着ありそうだが・・・これも親衛隊が付いた理由かもしれん。
モフモフ天国シーパラ店のゴーレム馬車駐車場には周囲を徘徊する偵察が多いので、こちらにも親衛隊が常時6人の8人体制で警護してるようだ。
モフモフ天国シーパラ店の場合は少し離れた場所で横柄な殿様商売をしていた飲食店や喫茶店が多くて、そちらからの威力偵察とも呼べる行動の様だな・・・ガラの悪そうな人間を周囲で徘徊させる・・・これも嫌がらせだろう。
工房で昼夜働く逞しい人達には男女を問わず一切効き目がなさそうだけど。
実際のところ・・・背の低いネコ獣人の職人の女の子に肩がぶつかったなどと絡んできたオッサンは『さわるんじゃねぇ、エロハゲ』と女の子に逆にボコボコにされて、最後は周囲のオッサンの『後ろに並べ、邪魔すんな!』の一言で外の道路に放り投げられている。
似たようなことが朝から3回ぐらいあって今では強面のオッサン連中の方がビクビクしながら職人たちの顔色を伺いながらも周囲を徘徊している状態らしい。
・・・職人のみんなは逞しいな。
だが相手が刃物を使用してくる可能性もあるので引き続き注意をさせておく。
刃物の取り扱いすら職人の方が手馴れてそうなのはわかってはいるが、おにぎりを購入しに来たお客やモフモフ天国にやってきたお客からケガ人を出すわけにはいかない。