じわじわ攻撃拡大中っす。
11・7修正しました。
「お待たせして申し訳ありません」
「昨日は暴力から助けていただきありがとうございました」
「弟を危険から助けていただきありがとうございます」
俺が話しながら応接室に入っていくと『コーレン・シーズ・ウォーカー』と『フィルマン・ウォーカー』の2人がソファーから立ち上がってお辞儀をしてからお礼を言われた。
・・・なるほど男の子が工房に籠る訳は・・・ウォーカー家の男の子は噂通りドワーフの血を濃く受け継いでいくようだな。
フィルマンも見た目は赤黒い筋肉質な体格で身長は150cmほどのドワーフだ。
女の子は俺と身長が変わらないが少し筋肉質な体格をして、美形なのだがキツイ顔だちを持っているため『シーパラ連合国の女帝』の血を受け継いでいるんだろう。
・・・さらに人物鑑定の魔眼持ちか?
俺の人物鑑定結果は”お人好し”しか出ないから戸惑っているようだな。
レベルが200以上離れてるとこういう結果になるってのは今の時代では知ってる人はいないらしい。
自己紹介をお互いにしてからソファーをすすめ座ってもらい話をしようとするが、コーレンは俺の人物鑑定の結果を見てはかりかねる顔で俺を見ているし、フィルマンは俺のソファーの隣に立って指示を待つメイドゴーレムの空に興味津々だな。
顔立ち以外は似ても似つかない・・・面白い兄弟だな。
「コーレンさん、俺を人物鑑定の魔眼で見ても何も見えませんよ」
「え・・・どうしてですか?」
「それは内緒ですね。世の中には知ってもどうにもならない秘密はあるんですよ」
「それは常々母から聞いてはいるのですが・・・」
「って事は経営哲学などの英才教育の一環でしょう。一言でいえば”魔眼は便利だが世の中の全部を見通せるものではない”ですね」
「・・・それはウォーカー家初代のお言葉ですね。早乙女さんはお若いのによくご存じで」
「1000年近く前の伝説の方ですからね。話を噂で聞いただけですよ」
俺とコーレンが軽く腹の探り合いをしてる時も弟のフィルマンは一切話を聞かずに、体をいろんな角度に傾けて空を色々な角度で見ている。
俺の創るゴーレムは歯車をまったく使わずに魔力で森林モンキーの尻尾を筋肉のように伸び縮みさせて動かしてるので機械音は一切しない。
今はイーデスハリスの世界では失われた技術となってる古代の秘法ってヤツだな。
なのでこれを察知するのは魔力探査マスタークラスでないと無理という・・・暗殺し放題な狂気を呼んでしまいかねないゴーレムなので市場に流すつもりは一切ない。
ゴーレム達は俺が暇を見つけては改良を施しているので、今ではゴーレムを制御する魔結晶は俺の脳内と念輪でリンクさせてるので、情報のアップデートも離れていても可能となってる。
国家機密以上の秘密の塊なので製造方法もゴーレム制御データも一切世間には出さない。
なのでフィルマンがガバっと立ち上がって土下座をして俺に弟子入りさせてくださいとお願いしてきたが、即答で断らさせてもらった。
断った理由も聞かれたので俺はフィルマンに聞いた。
『お前はこのゴーレムを作って何がしたいんだ? これは殺人マシーンにでもなる”兵器”なんだぞ?』
俺の問いかけに何も答えられなくなるフィルマン。
『殺人マシーンを作って大量虐殺者の仲間入りがしたいなら暗黒魔法の”禁呪”を研究をした方が早いよ』
『ただゴーレムを作りたいだけなら自分で作り上げろ。俺は一切協力するつもりはない』
『研究者が平和のために作り上げたといくら口で言っても使用者が”兵器”として使えば研究者の意志なんて欠片も残らない。残るのは兵器作成者として大量虐殺者としての名誉だけだな』
『兵器の研究になりかねないゴーレムをお前は本当に製造して販売したいのか?』
俺の言葉の攻撃にぐうの音も出ないほど叩きのめされて土下座をしたまま下を向いて頭を抱えてるフィルマンに、俺も屈みこんで肩を叩きながら最後に伝えた。
『だから俺はゴーレムを誰にも売らないし信用できる人間にしか渡さない。俺のゴーレム作りは”趣味”なんだからな。兵器として知らない人間に使われるぐらいなら壊す。それが製造者の悲願だ』
今の廃れた技術でも同じ形のゴーレムは作り出せるだろうけど、ゴーレムを動かすには複雑に組み上げられたゴーレム制御データがないとただの人形でしかない。
俺にゴーレム製造の技術を伝えた転生者の悲願が俺がフィルマンに最後に発した言葉だ。
明けども明けども毎日毎日戦争で使う兵器のゴーレムを作らされて研究をさせられて、転生させた4人の神を呪い続けて死んだ転生者の重い言葉だった。
俺自身が面倒で教育したくないっていうのもあるが、俺に知識と経験をくれた人の悲願を無視するつもりもない。
フィルマンが顔を上げて決意を込めた目を俺に向けて俺に向かって宣言する。
「早乙女さんありがとうございます。ゴーレムの研究のテーマが今決まりました”兵器にならないゴーレム作り”これを僕は生涯をかけて研究しますよ」
「協力はしないけど自力で頑張るなら俺は応援させてもらうよ」
「早乙女さん、弟の教育までありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして。それにフィルマン君の師匠になりそうな人なら今はシーパラの教会で療養中ですよ。『ゴーリク・カイズ』と『ゴーリク・サラ』の2人で裏の世界では超有名なゴーレムつくりの天才。奴隷にさせられて裏の世界で嫌々ゴーレムを作らされてるところを最近救出された。ゴーリク夫妻という名前を言えば君たちのお母さんなら知ってるだろうから、すぐにでもスカウトしに行った方が良いよ」
フィルマンは俺との挨拶をそこそこに握手をすると走って行ってしまった。
あわててコーレンが立ち上がって謝罪するが俺はまだ伝えたいことがあるので引き留めた。
「コーレンさんちょっと待った! ゴーリク夫妻のスカウトが成功したら出来ればお母さんもゴーリク夫妻も一緒に早乙女工房にきてくれ。俺は拾い物をしてゴーリク夫妻に渡したいものがあるからといえば多分来てくれるよ」
「わかりました、母に伝えます。では御礼はその時にでも改めて」
「あぁ、スカウトは弟のフィルマン君に任せて君と母親は年棒・契約金などの金銭面の提示だけにした方が良い。何しろ100年以上もの間、無理やり兵器のゴーレムを隷属の首輪で奴隷にさせられて強制的に”兵器のゴーレム”を作らされてきた夫婦なんだ。ゴーレム作成の考え方を根本から変えたフィルマン君の情熱がないと多分断られるよ」
「なるほど・・・母と相談します。ではまた・・・」
「ああ、みんなが来るまでは俺はここにいるから、気長に待ってるよ」
コーレンが立ち去ろうと席を立った時に、フィルマンが応接室に戻ってきて『姉ちゃん早く!』と急かしに戻ってきた・・・ホントに面白い兄弟だ。
俺は二人を空に送らせてからソファーに座りなおした。
ゴーリク夫妻が早乙女工房に来る前に準備を終わらせないとな・・・
俺のアイテムボックスにはゴーリク夫妻が無理やり作らされた犬型ゴーレム2体が入ってるが俺が完全停止させるために強引に所有者の欄に早乙女真一と俺の名前を書き込んだので”所有者 未定”と空欄状態にした。
俺は暇なので応接室の隣にもう一つ同じサイズの応接室をパーテーションで仕切って作り、さらに隣には執務室&大型の応接室を作った。
ここでの客対応が今後は増えそうな予感がしたから時間も余ってるので作っておいた。
執務室用の机と肘掛の付いた豪華なイスを作って並べて、来客の応接用に8人ぐらいは座れそうな豪華なソファーセットを並べる。
早乙女商会の事務所の応接室は俺の趣味でシックにまとめたが、ここは来客用なので仕方がないと諦めてちょっと成金趣味のような装飾を入れる。
俺が執務室の肘掛椅子に座りウトウトしてたら1時間後の昼の3時になって、ウォーカー家の3人とゴーリク夫妻の5人がやってきたとのユーロンドからの念輪が来て目覚める。
執務室を作ったことはすでに連絡済みなので俺は自分の全身に3点セット魔法をかけてスッキリとさせる。
『シーパラ連合国の女帝』のお出ましだな。
先代と先々代は最高評議会の証人喚問の時とサトシの当主就任記念パーティーとで2回ほど見かけたことはあるが・・・当代は初めてだな。
ウォーカー家はいろんな人種の血が混じっていて女性は150歳ぐらいまで生きて、男性はドワーフの血が色濃く出て300歳ぐらいまで生きると聞いたことがある。
早乙女工房専属ゴーレムの紺に案内されて全員やってきた。
軽い挨拶と自己紹介をしてソファーに全員座ってもらう。
ゴーリク夫妻は俺が助けて教会まで送ったことをアマテラスの神託を受けて知っているのだが、お礼が言いたそうだけどウォーカー家の3人がいるこの席では言えない。
女帝ナディーネ・シーズ・ウォーカーから先にお礼を言って頭を下げてから話し始めた。
「早乙女さん、まずは息子の危機を救ってくださりありがとうございます」
「いえ、フィルマン君はおにぎりを買いに来られたお客様なんですから当然ですね。むしろこちらから謝るべきことですよ。ご迷惑をおかけしました」
「ご丁寧にありがとうございます。それに優秀な技術者夫婦を紹介してくださり誠にありがとうございます」
ここでゴーリク夫妻の話になったのでゴーリク夫妻と挨拶と自己紹介をかわす。
俺は夫妻をここに連れて来てもらったのは、マフィアギルドマスターから強奪した犬型ゴーレム2体を返すためだ。
アイテムボックスから取り出して2人に返した。
「これは私共が作ったクラッシャー・ハウンド331号と332号・・・」
「まぁ事のついでに”拾いまして”ね。持ち主はすでにこの世にいないようですし製造者にお返しするのが筋かと思いましたんで、誠に失礼ではありますがここまでお越し頂きました」
「ありがとうございます。諦めていた主人と私の子供たちが帰ってきたようで大変うれしいです」
「それは良かったです。”拾ってきた”甲斐がありますね。また今後よそで”拾ったら”ウォーカー商会にまでお届けしますよ」
「よろしくお願いします」
「まぁその話はおいおいするとしまして・・・」
そのまま雑談に入った。
ゴーリク夫妻はこのウェルヅ大陸の出身ではなく他の大陸から誘拐されて奴隷にされて流れてきた夫婦だ。
本人たちも言ってるのだが夫婦が共に類い稀な才能を持ってるからこそ100年以上もの年月を裏の奴隷としても生き残ってこれたのだろう。
誘拐されて奴隷とされた裏奴隷はゴミほどの価値しかないという現実を聞いて驚愕してしまって、言葉を発することも出来なくなってしまったウォーカー家の3人の親子。
人族にしろ亜人にしろ獣人にしろ人の命の重みに何も感じないだけでなく、金で売り買いしておもちゃのようにしか感じてない奴が少ないが確実にいるのだ。
俺が潰したいくつかの外道どもは逆に奴隷にされてて、今は奴隷が大量に余っている現実があるみたいだな。
雑談の中でナディーネはシーパラ南部にある鉄道を再開させたいと熱く語ってきた。
首都シーパラの南部にある旧都ウェルヅリステルから南部の都市シグチスまでの海岸線沿いにある線路を復旧させたいというのがナディーネの、ウォーカー家の悲願らしい。
しかも最近の俺の悪徳商会撲滅で犯罪者奴隷と借金奴隷が飽和状態で余っているらしい。
それと俺は戦ってないんだが従魔も数多く没収されてきていて余ってるんだと。
なので角館家とケミライネン家は国に対して・・・引き取ってやるけど余ってて市場に流せないから逆に維持費用として纏まった金を払えって強気で言ってきてるのが現状。
最高評議会側の一部の議員は『今まで散々儲けをかすめ取ってきてこの状況でそんなことを言うのか?』と激怒していて、どうせだったら今飽和状態の奴隷を大量に導入して国家事業をおこなおうという動きになってきてる。
そこでナディーネが散々周囲に漏らしてた悲願『線路復活』が昨日から現実にどれだけの時間と労力が必要なのか、結界師はどれぐらいの・・・って調査段階まできている。
ウォーカー家でも政府に資金援助してもらって本格的に調査をしよう、先にウェルヅリステル駅を作ってしまった方が良いんじゃないかと昨日からウォーカー商会の幹部会議が本格的に始まっているという説明を熱く語ってくれた。
女帝ってクール系な外見で中身はかなり熱い女なんだな・・・でも、こういう熱さは俺は嫌いじゃない。
今までは体力以外は使い物にならない犯罪者奴隷や借金奴隷は鉱山送りにされていたが、政府が直轄する鉱山でも奴隷があふれてる状態なので運河を再開発させようかという動きも以前から評議会の中からあったようだ。
ナディーネが言葉を濁した。
「でも獣系の魔獣の行き場がないんですよね」
「国軍で引き取ればよくないですか? テイマーの素質がある兵士も、元テイマーの兵士も探せばいるでしょうに。以前から不思議に思ってたんですけど”何でこの国には魔獣兵団がいないんだろう”って」
「それはシーズの家のケミライネン家が関係してますね・・・」
ケミライネン家が500年程前のシーパラ連合国建国当初からテイマーギルドを掌握していて、国軍による魔獣兵団の案はことごとく潰していた。
それでいざ戦争状態の時にはテイマーギルド全面協力として国から大量の補助金をゲットしてきた。
俺がナディーネにアドバイスするのは悪魔のささやきだな。
「こういう風に1つの企業なり1人の人間が独裁をしている組織には・・・真面目だからこそ組織からイジメられてる”冷や飯喰らい”がいるものですよ。その人たちを国軍にスカウトして新組織を立ち上げさせれば事は簡単ですよ。えてしてそいういう人達は能力も人望も高かったりしますからね」
「なるほど・・・」
「この場合はゲッペンスキー商会とガルディア商会の協力が必要になりますね。魔獣の餌となる『肉』の確保です。ケミライネン家は確実に嫌がらせで国軍に肉を流さない行動を取ってくることが考えられますので・・・食用肉を大量に扱っているゲッペンスキー商会と、冒険者ギルドに太いパイプを持って魔獣の肉を直接購入が可能なガルディア商会の協力があれば事は成ったも同然です」
「確かにケミライネン家からの嫌がらせは考えられますが・・・なるほど、ゲッペンスキー商会とガルディア商会は今回の騒動でケミライネン家と角館家に対して最も怒っている2人ですので、協力は取りやすいどころか今後は国軍との結びつきを強めるために、本腰を入れてケミライネン家と角館家に対して敵対行動を取って協力しそうですね」
俺の”仲間を増やして真綿で首絞め作戦”の前に、もうすでに全方面にケンカ売りまくって敵を倍々ゲームってレベルで増やしてるのかよ。
しかもそのままの勢いで俺にケンカを売ってきてるようだな・・・調子に乗りすぎて自分で首絞めてるな。
俺の真綿ぐらいじゃ追いつかないかも。
ナディーネと話をした感触でも2つの家に好意を持ってるシーズの家はなさそうだな。
俺の性格上、傷口には塩と唐辛子を塗り込んで治りを遅くしないとな。
「こういう事は時間と正確な情報が勝負ですね。先にゲッペンスキー家とガルディア家の協力を仰ぎ3家合同で国軍の魔獣兵団編成を最高評議会で可決させて、同時進行でテイマーギルドの冷や飯喰らいを引き抜いた方が良いですよ。人望もある人間なら調べたらすぐにわかると思いますんで」
「順番的にはその方が良いですね」
「それで新設の魔獣兵団に実戦経験を積ませる事も名目に掲げた『公共投資』で線路拡大にも動けばいいんですよ。奴隷を大量に投入すれば資金も抑えられますし・・・新規に作る運河と違って線路はまだ残ってて、問題は結界の維持管理なんですよね?」
「そうです。私の線路拡大案が急に取り上げられ始めたのも早乙女さんが私有地で使い始めた結界が線路の結界に似てないか? ってところから始まったんですよ。なので早乙女さんを最高評議会会議に呼ぼうっていう案も具体的に話し合われてます」
「最高評議会の会議に出席するつもりはないんですけど・・・ワガママ言ってる場合じゃないか。俺の結界にはこんな物が必要になりますけど良いですか?」
俺はアイテムボックスから先端に魔石が付いた太さ1cm長さ15cm程のミスリル棒を取り出した。
みんなに1本ずつ渡して調べさせる。
「俺の結界も線路の結界と同じでこれが30mおきに1本必要になります。線路の反対側にも同じ数だけ必要になります」
「・・・」
「30mで2個必要なのでウェルヅリステルからシグチスまで約3000km。単純計算で20万個の魔石が必要になりますけど・・・それでもよろしいですか?」
「この魔石付きのミスリル棒ならば半永久的に結界は作動するのですか?」
「これはそのための魔石とミスリルです。線路の反対側もう一本必要なのは結界を交代で”休ませる”為に必要となるんです」
「休ませるんですって?」
ゴーリクが大声を出した。
「1日24時間交代で休ませるんですよ。ゴーレムなどの場合は魔力が”動力”として使用しているので大量に減った魔力は水力などで魔力を補充しないと満タンにできませんが、結界の魔力程度なら魔石がなくてもミスリル棒に蓄えた魔力で、24時間ぐらい維持できるのはみなさん理解できますよね?」
「・・・(みんな無言で頷く)」
「魔石には自力で魔力を周囲から吸い上げて魔力を元に戻そうという性質を持っているのも皆さんはご存知ですよね?」
「・・・(またもみんなで頷いてる)」
「24時間結界を維持する程度の魔力はミスリル棒に蓄えられるだけの極めて僅かな魔力で済みます。魔石が24時間で復活する魔力量よりも小さいんですよ」
「なんだって・・・」
実はこれはこの世界には残ってない技術だった。
というよりも封印で稼ぐために結界師ギルドが隠してきたことで、結界師ギルドのマスター達も子孫に伝達し切れずに100年以上前に消えて・・・龍布と同じ運命な技術はバカのせいでたくさんある。
「早乙女さん、話の途中ですみません・・・でもそうすると魔石に封入される魔法などはどうなるのですか? 早乙女さんしかできない技になってしまいませんか?」
「その疑問には今は答えることができません。が、解決方法は俺は知っています」
「もしかして専用転送器ですか?」
「・・・想像にお任せしますとしか言えません」
転送魔法には種類があって俺がよく使ってる『情報複製』も情報をコピーして”転送”する魔法だ。
なので俺が結界用で封入した魔法『認識阻害』『魔獣結界』など魔結晶に封入して魔水晶を使ってコピーして転送することが可能なのが専用転送器。
様々な企業・工房の中に専用転送器はあって魔石や魔結晶は魔法の使えないシーパラ国民にでも取り扱いができるようになっているので、この国では高額で取引されている商品だ。
今の時代では誰も作り出すことができないと言われていて『魔道具製作スキル』の最上級レベルでないと生み出せないと言われている。
正確には魔道具製作上級のマスタークラスでならスキル魔法ですぐに自分の自由な形に作り出せる。
「最高評議会が線路拡大を可決して今後は国の公共事業で進めていく事を選択したのだったら、今後は交渉次第で解決方法を教えますよって、最高評議会の会議で言っておいてください。これは大金をせしめようという目論見ではなく俺と家族の安全の為にこれ以上は言えません」
「安全の為と交渉次第はどういう意味ですか?」
「言葉のままですよ。この国に対して俺はそこまで信用できないと言い換えた方がよろしいですか? 現に2つのシーズの家から早乙女に対する嫌がらせは続いてる・・・現在進行形の問題ですから。それで交渉次第というのは最高評議会への俺からの牽制ですよ」
「そうですか・・・ではこれをお返しします」
全員からミスリル棒を返してもらってから2本をナディーネに渡した。
「これはどういう事なんでしょうか?」
「俺が今言ったことが本当かどうかこれで実証実験をするために渡しておきますよ。これを持っていけばゲッペンスキー商会もガルディア商会も線路拡大が可能なんだと乗り気になってくるでしょう。その他のシーズの家も乗り気になってくると思います」
「確かに実物付きなら交渉も早そうですね。ありがたく頂いておきますね」
「そういえばウェルヅリステルからシグチスって高速鉄道の線路幅なんですか?」
「ハイ。残ってる部分は高速鉄道用の線路幅ですね。大森林を伐採して結界を張り・・・何年かかることやら・・・」
「結界を張ってから線路の周囲をよく調べた方が良いですよ。白虎によって全ての結界を無効化されてしまったとはいえ、結界を張っていた魔石とミスリル棒は埋まっているはずですから。魔獣に持ち去られてしまってるのもあるでしょうけど、残っている数の方が多いでしょうから・・・資源再生できると思います」
「あぁ! それはそうですね。ありがとうございます。そこも資金削減案で提出させていただきます」
こうやって時々雑談も交えながらアドバイスをしておいた。
俺の自分の手を汚さずにケミライネン商会と角館商会の儲けを削り取る作戦は成功しそうだな。
ウォーカー商会は当主の悲願達成には俺の協力が必要不可欠になったから、完全に俺の味方側に引きよせるのに成功しただろう。
結界師ギルドは今後大幅に儲けを減らすことになるが、自業自得だからしょうがない。
商業ギルドヨークル支部の不動産部門責任者『リーチェル・ハナザワ』が愚痴っていた・・・使わない不動産の結界を毎日張り直す作業と手間賃でかなりの痛手となってる。
それで俺が購入した不動産の結界を解除するときに教えてもらったが、毎日結界を張り直す作業と言って魔石の付いていないミスリル棒に魔力を注入するだけで月契約で金を持っていく・・・ボッタクリだな。
こんな楽な”詐欺”をして今まで技術も磨かずに稼いできたんだから自業自得としか言いようがないな。
そんな事よりも線路の結界の研究でもしておけば今頃は魔石に結界を封入して販売するだけで儲けは出来ただろうに・・・誰にもボッタクリなんて言われずに。
話が終わったので5人のお客は帰って行った。
ナディーネはこれから忙しくなるだろうから少し慌ててた。
俺が昨日・今日と世間に出した情報で色々と流れが変わりそうだな。
俺にケンカを売って無様をさらしたいくつかの道場で1番恥をかいたのが『紫村流侍剣術』だ。
噂がまわって師範が俺にケンカを売ったことを後悔してるだろうな・・・今後は俺に絡めば”恥の上塗り”にしかならないし。
呼び出しして俺を抹殺するしか方法がないから、決闘状でも送られてくるかも。
俺を殺す事がまず不可能なんだけどな。
ケミライネン家と角館家は俺の想像以上に敵を増やしまくってるので、俺がじわじわ追い込みながら味方を増やしつつ、アドバイスという悪魔のささやきを使って儲けを削り取っていった方が面白そうだ。
テイマーギルドは優秀なのに冷遇されていた人達が国軍に引き抜かれて優秀な人材流出待ったなし。
人類の戦争がなくなった今では相手は魔獣との戦争で、国は自前で魔獣兵団をそろえてくる。
テイマーギルドの先行きが暗くなったな。
奴隷商ギルドは今後は格安で公共組織からの奴隷は回ってこないだろう。
国も今まで全く採算の取れてなかった鉱山の町グレンビーズなどに送っていた奴隷を線路復活に使えばいいだけになるので、奴隷の数が増えれば増えるだけ線路の復活も早くなる。
奴隷商ギルド側は割高で買いに行かないと今後は奴隷の数を揃えられなくなる。
このままだと潰れるかもしれないと親戚筋からシーズの家で内紛がおこってクーデターでもあるかもしれないけど。
線路沿いの町も活況を及ぼしてくるだろう。
経済的効果は計り知れない。
そこに2つの家は入り込めない事がこのままだと確定してしまう。
このまま俺に構ってる暇など無いと自覚して早急に最高評議会に働き掛けをしないと・・・と、焦って内部分裂するか?
フォンマイ家は自分達の主力商品の砂糖・綿花、共にシグチスに集まってきて現在は船で運んでいるが、鉄道が復活すれば流通の選択肢が増えて安定的に供給できるようになるので願ったりかなったり。
なのでフォンマイ家は間違いなく線路復活に応援する立場になって資金提供すら検討されるレベルだな。
アンコがヨークルでブームになってきてるのでヨークルを中心に今後は爆発的に砂糖の消費量は上がる。
フォンマイ家にはヨークルで砂糖の消費量が上がってる事はすでにつかんでいる情報だろう。
俺との関係を抜きにしてもフォンマイ家は今回の線路復活計画に賛成にまわる事は間違いない。
・・・こうやって自分の力をゴリ押ししなくても政治力で解決できそうになってきたな。
それだけ国に貢献してきた結果だろうけど。
などと客が帰った後は早乙女工房の執務室の藤掛イスに座って考えていたら来客があった。
メイドゴーレムの紺からの念輪連絡で分かったのだが紫村流侍剣術の使者。
早速来たな。
せっかくなので執務室に呼ばせて俺が直接応対することにした。