騒動は続く~よ~、ど~こま~で~も~~っす。
12・31修正しました。
終わってから自分達で使っていたイスやテーブルを片付けていると・・・青木がやってきて俺がダンジョン解放初回クリアー報酬のBR魔弓が見たいと言ってきた。
さすが弓使い。
話を聞いて興味津々だったんだろう・・・いいよと気軽に見せてあげようと、俺がアイテムボックスから伝説級の魔弓を取り出して青木に渡したので、片付けをしていた周囲の人が手を止めて周囲に群がってきた。
「早乙女君、これって試射させてもらってもいいかな?」
「それは構いませんが、多分撃てないと思いますよ? これは青木さんが持っている巌落の弓の内臓魔力を使用する魔弓とは違って、使用者が魔力を弓に溜めて増幅して使用する魔弓ですので魔法属性能力の低い青木さんでは試射しようとすると・・・多分、撃つ前に倒れますよ?」
「なるほど、それは残念だな・・・早乙女君が試射するのを見せてもらってもいいかな?」
「それは一向に構わないんですけど・・・的に撃ってもこの魔弓は意味がないですよ?」
「はぁ? どういう事なんだ?」
「それはですねぇ・・・」
俺はこのBR魔弓の特徴を青木に教える。
このBR魔弓を使用するためにはある程度の魔法の素質が必要ななこと。
魔弓に込める魔力も多く必要なので弓使いではなくて『魔導師』系の装備に向いてること。
矢の軌道も弓矢の軌道ではなく魔法使いが使う魔法に近い事。
冒険者ギルドにはドロップアイテムとして正式に登録して性能まで公表してるので、別に誰に聞かれても構わないと小さな声でなく誰でも聞こえる普通の大きさの声出話をしている。
説明をしていくが・・・試しに撃って見せた方が早いかな?
俺は瞬時にBR魔弓に魔力を込めると両端の魔水晶が淡くグリーン色に光り、光の弦がつながって魔弓が起動した。
俺は誰もいない斜め上の壁の方向に弓を向けて無造作に撃つ。
魔力の弦から放たれるピシュっという小さな音とともに放たれた矢は普通の矢ではありえない運動を起こして、壁に突き刺さる手前で真上に向かってカーブして飛んでいく。
壁沿いを上へと向かって飛ぶ矢は屋根の骨組みの上を複雑極まりない動きでグルグルと飛び回って・・・消えた。
矢が消えたと同時に骨組みの上にいたネズミがバラの蔦に縛られて3匹落ちてくる。
バラの蕾が出てくるまでネズミはもがいて暴れていたが、バラの蔦に絡まって動けない。
やがてバラの蕾が華となり咲きかけるととネズミが痙攣をおこしてビクビクし始め、バラの華が完全に開き切るとネズミは3匹とも絶命してバラの華も蔦も全部消える。
「こんな弓なんだ・・・まさしく魔弓という名前に相応しいほどエグいですよね」
「これは確かに俺ではここまでイメージできない。まさしく魔法使い専用だな」
「魔法使いでなくても、いわゆる『亜人』と呼ばれるドワーフ・エルフ・小人族などの”魔力を放出することに長けた人達”になら取り扱うことが可能だと思うよ、彼らは魔法の素質は人族とはレベルが違ってるからな」
「なるほどな・・・早乙女君ありがとう。確かにこれなら的に矢を当てても何の意味もない魔弓だな」
「口で説明してもこればっかりは理解できそうもないだろうから、ネズミを利用させていただいたよ」
「それにしても・・・まさしくBR魔弓、別名『吸魂魔弓』か・・・対生物においてエグすぎる威力だな」
「敵の動きを予想してイメージする事が相当に高いレベルで要求されますし、イメージができないと弓の威力が落ちるので中級者以上でしか取り扱うこともできないと思います」
雑談のさなかに俺がアイテムボックスに魔弓を片付けると、周囲の人達も決闘会場の撤収に戻って行った。
俺はネズミ3匹の死骸を光魔法の聖炎で焼き尽くして浄化させた。
「俺の貰った巌落とは威力に差がありそうだな」
「巌落とは方向性が違うんでしょうね。誰でも使いこなせる可能性を秘めてる”汎用性の高い”魔弓の巌落。かたや魔法の素質がないと使う事すらできないBR魔弓。周辺の土地の地の魔力を吸い上げて集める特徴がある巌落はより過酷な環境下で威力を上げるので、どっちが上でどっちが下というのはないでしょう・・・BR魔弓の場合は使用者の魔法属性値、巌落の場合は環境下で弓の威力が変わってきますので」
「確かにそれは言えるな・・・あぁ、それとありがとう。俺にとってはなかなか興味深くて面白い見世物を2つも見せてもらったよ」
「いえいえ、どういたしまして」
最後に握手をして青木と別れた。
自分の出したテーブルとイスを片付け終えて・・・帰宅する前に冒険者ギルドシーパラ支部にせっかく来たんだから見学して回ることにした。
雨なので屋内の道場しか行けないんだが。
道場が立ち並ぶ場所では・・・俺がいきなり公表したせいで合気道の道場からは身長2mを超すオッサンの入門者が通路に並んでいる。
シールダーも上級の守護者を目指すうえで色々なものを吸収していかないと上級職はいけないからな。
他の道場にも入門者が並んでて盛況しているようだな。
しかしここはあくまで冒険者の初心者用で無料の道場だから本格的に始めるには外に出るしかない。
といってもこの冒険者ギルドシーパラ支部の周りには大小様々な道場が数多くあって、青木の実家の道場もここからほど近い場所にある。
俺が説明した事で今まで無手に見向きもしなかった人達に無手の技の重要性が見直されていくだろう。
武器の上級職の発現にも必要なスキルが無手のマスタースキルってのも何種類かあるし。
・・・それにしてもたくさんの道場がある。
鎖鎌やら捕縛術やらマニアックなものも多い。
アイリとミーが説明してくれたのだが、ここで冒険者になりたての初心者はいろいろ体験してみて自分に合ったものを探すみたいだな。
武器と防具の工房が道場のバックについてるので格安で初心者用のフルセットが手に入るようなシステムで、道場が成り立っているという噂があるようだ。
・・・日本のパソコン教室の初心者囲い込み作戦みたいだな。
どちらも商売が成り立ってるんだから道場が経営できてるんだろうけど。
それと青木の実家の道場みたいな超有名道場の師範代クラスが無料指導に来て才能がある人間を探してるという噂もあると教えてくれた。
捕縛術は才能を感じる人間には警備隊と国軍にスカウトされる運命があるらしい。
にしても、俺がただ見学に回ってるだけなのにちょいちょい敵意のある視線を感じるのは・・・ケンカを売られてるんだろうか?
ロンT・パーカー・チノパン・ハイカットのスポーツシューズという、およそ冒険者に似つかわしくない格好が嫌われてるのかな?
アイリとミーに座学で読み書きなどはどこで習うのか聞いたら、金持ちは家庭教師を家に呼ぶ・それ以外は教会で学ぶみたいだな。
5歳から10歳までは『初級』10歳から15歳までが『中級』となって10年間で学ぶらしい。
ローグ真偽官の2人の息子のように魔法に才能のある子供は別枠の取り扱いになるみたいだ。
その中でも教師となる人の性格で教育方法に色々と差があるようだ。
アイリとミーの初級も中級も担当教師が”脳筋”だったので武器の取り扱いは一通りやったみたいだ。
クラリーナも意外と同じように初級は脳筋教師に教えられたんだけど、武器の才能が『杖術』以外に存在しないって言われて凹んだ経験があったようだ。
でもクラリーナの場合は中級からの教師は魔法系の教師だったので、クラリーナの魔法の才能を見抜かれて騒ぎになったようだけど。
色々な道場を見て回りながら多数の道場で騒ぎになったのは俺のせいじゃないと思いたい。
俺達早乙女一家が道場に入った瞬間から敵意丸出しでケンカ売ってくるんだもん。
この剣道場に入っていって練習風景を見学してたら嫁達から質問されたので答えてただけなんだけど。
「しんちゃんとなんだか動きが全然違うね」
「俺のは『剣客』こっちは『侍』正確にはもう2つあって『武士』と『居合術』っていうスキルもあるからな。全部カタナが武器だけど違いは大きいよ」
「同じカタナを使うスキルなのに4つもあるのですか?」
「剣客と侍はメイン武器がカタナ。武士はカタナはサブの人が多くて、メインは槍がほとんどだろう。青木さんのようにメインが弓でサブが薙刀っていう変わり種がいるのも武士の特徴だな」
「剣客と侍の違いというのは?」
「戦闘方法に違いがある・・・侍は個別の戦いもあることはあるが、あくまで想定してあるのが”集団vs集団”の戦闘が重要視されている・・・それで、剣客は全く方向が違って集団戦に参加もするけど自分個人がメインで、”自分vs集団””自分vs個人”と方向性も考え方もトレーニング方法も全く違ってくることになる」
「なるほどねぇ、だからああしてカタナを防具にして敵の攻撃を抑え込まないといけないんだね」
「そういう事だな。剣客で敵の攻撃を自分のカタナで受けるのは自分の命を守るための最終手段であって、自分vs集団ではこの後の攻撃は出来ないし他の敵からの攻撃を避けることも受けることもできないようになるから”絶対厳禁”とされてるんだよ」
「・・・」
「しかし侍の場合は集団vs集団になるので、目の前の自分への攻撃を避けたら味方に・・・」
と嫁達に俺の知っている情報を色々と教えていたら道場の師範代にケンカを売られた。
気にせず嫁達に教えようとしてたんだがしつこいからなぁ・・・
「さすがはAランク冒険者の早乙女さん、いろいろとお詳しいようですね」
「はぁ、まぁ知ってる事だけですけど・・・それでな、侍の場合は集団戦なので敵の攻撃で自分にきてるのを剣客のように避けられないからこそ・・・」
「でしたら、情報が間違ってるな。剣客なんて雑魚スキルではなく我々の『紫村流侍剣術』こそが最強であって、武士やら居合やらは邪道って正しい情報を言いませんと」
「あぁ、そうですか・・・侍では集団戦が主な戦闘技術となるから”敵の攻撃を受けて弾き返す”事に主眼を置かれてるんだ。弾き返すことで敵の体勢を崩させたりすることも重要になって・・・」
「ふっ、やはり、魔法技術だけで名をあげただけで超一流の剣客なんて嘘っぱちな情報だったみたいだな」
「(もはや無視)・・・なので、前後左右への自由奔放な動きで敵の攻撃を避けて隙をついて攻撃を加えていく剣客とは違って、侍では前へ前への攻撃が多くて戦場での集団行動で、戦線を維持したり戦線を押し上げたりと・・・戦う局面も違えば投入される場面も違う。剣客は俺の作ったチーム早乙女遊撃隊の名のごとく『遊撃軍』でこそ生きるスキルなんだよ」
「なるほどねぇ、じゃあ、しんちゃん武士っていうのはどうなの?」
「これも侍とはちょっと違ってくる。武士は武器の選択肢も広いようになってて1つの”ユニット”の存在になる。よくあるのが『武士団』だな。様々な武器やいろいろな組み合わせがあり、戦場やその局面で変化させることで多種多様な戦術が可能となってる”ユニット”なんだよ。だから正確に言えば武士の中には剣客も侍も含まれているんだ。弓を使う武士もいるし陣地を形成するための黒鍬衆のような土木工事専門の武士もいるん・・・」
「クソッ、貴様ぁ! いい加減にしろ!! それとお前等、練習の手を止めるな!」
俺が師範代をガン無視して嫁と話してると・・・道場で練習していた道場生たちが練習の手を止め俺の話に聞き入り始めてた。
それでも気にせず話をしていると師範代の隣に立って俺を見下して見ていた髭モジャのオッサンが俺に木刀を振り下ろしてきた。
俺は一切避ける動作も攻撃を受けようとする行動もとらなかったので・・・オッサンが勝手に攻撃を外したのはビビった自分がいただけの話で俺には関係がない。
しかしそれが悔しくて大声を上げたようだ。
全部を見ていた嫁達は声を上げることも悲鳴を上げることもない。
髭モジャのオッサンが本気でブチ切れて腰の刀を抜いて俺を切りつけたとしても、俺の髪の毛1本たりとも切ることができないって事を知ってるからな。
師範代も道場生たちも全員オッサンがワザと木刀を俺の頭すれすれを振ったと思ってるようだ・・・と思ったが、俺が避けずにオッサンがビビって逃げたと1人だけは理解したようだな。
急に興味が湧いて面白そうな顔をして俺を見てる奴がいる。
俺がそいつに気付いたようにそいつも俺が見てる事に気付き・・・お互いがニヤッとする。
クラリーナは俺に攻撃しようとしたオッサンを注視してるが、アイリもミーもニヤッとした奴をニヤッと見てる。
「貴様、先生がおっしゃってる言葉をありがたく聞け」
「あー、はいはい」
「貴様ぁ、もう許さん。俺と勝負しろ!」
「はぁ? やだよ面倒臭い」
「逃げるのか!」
「逃げたのはお前だろーが。逃げたくないならその腰の剣でも抜いて俺を切ればいい。出来る事なら先ほどしてるか?」
俺は左右の手を広げて地球の白人がよくやるポーズ”はぁ、ヤレヤレ”と首を振ってやると、さすがにブチ切れたようだ。
手に持つ木刀を放り投げて腰の刀の鯉口を切って居合の構えになって足を広げて腰を落とした。
俺が無造作にスタスタ歩いてオッサンに近づいていくと、オッサンは恐怖を感じたのが後ろに大きく跳びさがったので、俺は歩みを止めて嫁達に説明を続けだした。
「今、このオッサンがしているのが『居合』だな。正式名称は”抜刀術”となっててカタナを使用した居合抜刀術だ。このスキルの特徴は敵に自分の武器の長さを見せてないので間合いをつかませにくい事。それを利用するためにも必要なのが・・・攻撃をする際の踏み込みの速さだな。このように『てい!』っと」
「うわっ!」
俺が一歩でオッサンに肉薄して頭に軽くチョップをすると踏み込んだスピードと同じスピードで元の位置に戻った。
「こういう具合だから抜刀術ってのは実は剣客スキルと相性がいいんだよ。抜刀術も居合も最も重要なのは”足運び”にあるからな」
俺が既に嫁だけでなく俺を見てニヤッと笑った男性にも説明してるのが周囲には丸わかりだった。
俺の説明しながらの実演に熱心に聞いてるのは嫁3人とその男性のみだ。
師範代も道場生も騒ぎを聞きつけて集まってきたギャラリーも呆然としながら眺めてるだけ。
俺を殺そうとしていた髭モジャのオッサンは、俺とのレベルの差をまじまじと魅せられて先程まで周囲にばら撒いていた殺気も霧散して・・・膝から崩れ落ちた。
師範代も俺とのレベルの差にさすがに気付いて顔を下げたままあげられない状態になってしまった。
これだから何もしたくなかったんだけどなぁ・・・この後道場主に決闘状でも送られるかな?
・・・ウゼェな。紫村流侍剣術かぁ・・・
もうすでに手遅れ感満載だがとっとと帰ることにする。
『失礼しました』と小さな声で道場を出ていってしばらく歩いてると後ろから声をかけられた。
「早乙女さん、私を弟子にしてください」
「ヤダ」
「即拒絶? 今の道場やめてきたんでお願いします」
「つーかお前さぁ・・・カタナ向いてないよ。君が向いてるのは薙刀。青木さんの道場に行けよ」
「え? そうなんですか?」
「うん。君が向いてるのは薙刀の次が槍だから長物の方だな。通う道場が始めから間違ってるよ。それに青木さんはギルドマスター引退したら武士団を作るって言ってたから、早めに鍛えておけば目もセンスも良い君なら入れてもらえるかもな。今すぐにでも道場に行った方がいいぞ?」
「わかりました。ありがとうございます」
その男性は名前も言わずに御礼だけ言って頭を下げてから俺の目の前から走り去っていってしまった・・・まぁいいか・・・青木は道場に練習生が増えて喜ぶだろう。
才能もなかなか良さそうなモノを持っているようだったし、数年後にはマジで青木武士団に入らせてもらえるかもしれん。
面倒臭い事に巻き込まれたがその後は平和に・・・回れる訳がないな。
俺の見た目が普通すぎて簡単に勝てるとでも思うんだろうか。
ケンカ道というの名前の道場だけは逆に平和について語られてしまったのでちょっと笑えたが、太平道という短剣術の道場は全員で跳びかかってきたので全員叩きのめした・・・俺ではなくユーロンドとマリアが。
俺は短剣二刀流の体捌きが意外と剣客に似ているという話を熱心に嫁達に語っていて忙しかった。
このバカども言い分を聞いてわかったのだが・・・
『なんでケンカを売られまくってるのか』
・・・俺の見た目うんぬんではなく俺のAランク冒険者・救世主・ヒーロー・正義の執行官などという名声を利用して自分の名を挙げようだとか、所属する流派の名声を挙げようだとかしている・・・くだらない理由だった。
しかも元々俺に勝てるなんて思ってるのは極僅かのアホタレだけで、俺に叩きのめされるのは想定していて少しでも俺を苦しめようだとか、俺を少しでも傷つけられればOKという意味不明な罠を仕掛けてきたり、問答無用で切りかかってきたりと手を変え品を変えで・・・1周回って逆に楽しくなってきた。
途中からは俺の後ろでギャラリーが面白い見世物を見ているかのような感じでついてくるので余計にケンカを売られてるという・・・悪循環が間違った方向に全力で加速しているな。
昨日からの大雨で暇を持て余した冒険者たちが多いのも原因だろう。
ケンカを売ってくる人間よりも目をキラキラさせて『ご教授下さい』って言われるのが一番面倒だったりした。
何しろコイツ自身が俺からこのスキルの何を学びたいのかも知らないし、コイツ自身がどこまでそのスキルを習得できているのかもよく分からないから・・・返事に困ってしまう。
『○○を教えてください』ならわかりやすいんだけどなぁ。
ご教授くださいだと”叩きのめして下さい”って意味なのかなって勘ぐってしまうほど気分がヤサグレてきてる。
・・・実際に何人かは叩きのめしたけど。
柔術家の体を体捌きだけで投げ飛ばしたりボクサーの全部のパンチを音もさせずに受け止めたり、双剣の嵐のような攻撃を白扇子1本で防いだりした。
全員がプライドを木端微塵に砕かれたような顔をしてるんだが・・・初めからご教授くださいなんて言わなければいいのに・・・あわよくばなんて考えていたんだったら自業自得だろ。
今日の冒険者ギルドの見学はここらで終わりだな・・・アイリとミーは元々買い物に行くついでに冒険者ギルドに寄ったんだろうから、これから近くの北の食料品市場で買い物をしに行くことにした。
北の食料品市場のチョコレートブームはさらに過熱しているようだった。
パン屋ではドーナッツ生地にチョコレートを練り込み、さらにチョコチップを入れてドーナッツを作って最後にチョコレートをかけて冷やして固めた『チョコ参上(3乗?)』なるものを販売して行列を作っていたり・・・こういうおやじギャグセンスは俺に似てるな・・・
バナナチョコもすでに販売が始まっていて、様々なフルーツとチョココーティングで挑戦的な商品も多く並んでる。
驚くことに『ホワイトチョコレート』がアギスライト商会からすでに販売が始まってた。
俺がホワイトチョコレートに抹茶を混ぜて抹茶チョコレートの作り方を教えると、販売店の店主が抹茶業者の販売所に走って行った。
抹茶チョコまで市場に投入してやったので抹茶・チョコ・アンコでスイーツ帝国の建設成功かな?
・・・次は生クリーム系かな?
シーパラ連合国は元々食の充実が海鮮も含めてかなり充実してる国なんだけど、デザートはパンやフルーツなどでそこまで発展されてなかったので・・・これからまだまだ伸びしろは大きいだろう。
おにぎりも順調に勢力を拡大中。
携帯食や夜食の様なモノもまだ市場に参入できる余地がありそうだな。
今日の買い物はこれで終了。
食料品市場を出ていくと雨も止んで雲も晴れ間が出始めてる。
ちょうど夕方で夕陽が美しい時間だった。
北の食料品市場の近くにあるシーパラ駅や冒険者ギルドシーパラ支部の巨大な建物が夕陽でオレンジ色に染まっていて、美しい街並みをさらに美しく仕上げている。
俺達早乙女一家だけでなく俺達と同じように食料品市場から出てきた人達も、道行く人も建物の中からもみんな仕事の手を休めて美しい夕陽に彩られた街並みの風景に見惚れてるようだ。
朝日と違って夕陽って少しだけ物悲しくなってしまうのはみんな同じだろうな・・・
俺・アイリ・ミー・クラリーナ・マリア・ユーロンド1号の前にキャンピングバスが停まる。
まだ雨が降ってるかもと思って迎えに来るように呼んでいたセバスチャンだ。
セバスチャンの運転で早乙女工房へと全員で帰っていく。
キャンピングバスから見る夕陽も同じようにセンチな気分になってしまう。
まぁそんなセンチな気分をぶち壊すヤツラってのは必ずいるもので早乙女工房に到着する前に、早乙女工房専属メイドゴーレム『空』から念輪連絡が入ってきた。
「ご主人様、角館家より秘書の方がお見えになってますがいかがなさいますか?」
「何と言ってるんだ?」
「それが、ご主人様に直接伝えると言われまして・・・ゴーレムごときに話す内容ではないと」
「帰らせろ。我々早乙女家に対する敵対行動とみなしてもよろしいですね? と伝えておけ」
「はっ、了解しました」
早乙女工房にキャンピングバスが到着した頃に1台のゴーレム馬車が出ていこうとして、1台のゴーレム馬車が入ってきた。
キャンピングバスの後ろに続いて早乙女工房1F内部ゴーレム馬車駐車場に入ってこようとするが、2台のゴーレム馬車はユーロンドに強制的に停められる。
外のゴーレム馬車駐車場ではおにぎり販売の早乙女式馬車とお客が行列を作っている目の前で、大型のゴーレム馬車がユーロンドによって音も立てずに強制的に停められて微動たりとも動けなくなっているのを見て騒然としている。
俺は気にもしないでキャンピングバスごと早乙女邸のガレージまで転移魔法で帰還する。
時間は18時を超えているのですぐに晩御飯を食べることにした。
今夜は北の食料品市場でオーク肉の生ハムを発見して大きなブロックで購入したので、生ハムを使用したパスタとピザでイタリアンなディナーだな。
材料をクロにアイテムボックス経由で渡してあるので帰宅して手と顔を洗ってダイニングテーブルに行くと、既にテーブルの上には食事が並んでいた。
みんなで食事をして雑談をしながら・・・俺に話をさせろとウルサイのが2組が早乙女工房のユーロンドに絡んでいるみたいだ。
ブチ切れして帰ったはずの角館家の秘書と新たに加わったケミライネン家の秘書が、周囲の人目も気にしないで大騒ぎしているみたいなんで、別のユーロンドに警備隊を呼びに行かせようと指示を出した直後にバカが暴走したようだ。
ユーロンドからの報告で・・・
おにぎりを購入するために並んでいた近くの工房で下働きをしている13歳の男の子が『あくび』をしただけで、笑われたと逆上した秘書2名に殴りつけられそうになってユーロンドが間に入って庇う。
”金属製”のユーロンドを全力で殴りつけた秘書2名は右手が複雑骨折で木端微塵に砕け散った。
秘書に付いて来ていた護衛3名ずつの計6名が腰のロングソードを抜いたところに、周辺を夕方のパトロールをしていた警備隊10名が悲鳴の響き渡る騒ぎを聞いて駆けつけてきた。
・・・報告を聞いてるだけで『カオス』だな。
秘書は大怪我で大騒ぎしているけど周囲に20名以上の目撃者がいる中で護衛がウソをついていたが、周囲の声で全部のウソを否定されて逮捕になった。
並んでいて一部始終を目撃してた人間の中に『真偽官』がいたんだからぐうの音も出ない。
俺が起こした『昇竜商会摘発』『元枢機卿詐欺』の膨大な事件の捜査で警備隊本部に出勤する前に夜食を購入しに来た人達で・・・まぁ目撃者としては最高の人物だろう。
真偽官ギルドのカードを見せられて、その後は本物の真偽官だと知って、ウソが通じないとわかると逃げようとした護衛6名を警備隊10名が追っかけて、さらにユーロンドによって呼ばれてきた15名の警備隊も加わって全員が逮捕されて連れて行かれた。
ったく・・・毎回毎回、何がしたいんだコイツ等は・・・
またも今回もお持ち帰りになってしまったので、何で俺にそこまで会いたいのかという理由も目的も結局わからないままだった。
子供が意固地になってヒステリーを起こしてドンドンと墓穴を広げられるだけ広げようとしてるようにしか見えない。
もはや当初のパーティーの事など忘れて俺を誘拐しに来てるようにしか思えない行動だ。
るびのとフォクサが食事後になって狐魔獣達を連れての挨拶回りを終えて帰宅した。
リビングにやってきて全員で雑談して過ごしていた20時過ぎに早乙女工房の専属メイドゴーレム『紺』から念輪連絡が来て、先ほどの騒動の秘書達を引き連れていった警備隊の隊員がまたやってきて調書作成に協力してほしいとのことだった。
またもせっかくの家族の団欒を邪魔しやがってと思いながらも嫁達に説明して出かけることに。
早乙女工房の応接室のソファーの上まで転移魔法で移動して、そのまま靴を履いて1Fに降りていく。
警備隊のゴーレム馬車に乗ってシーパラ警備隊本部ビルの中に入っていく。
本部入口に待ち構えていた4人の警備隊員に案内されて連れて行かれた部屋が”取調室”だった。
今現在は応接室が混雑していてここしか空いてないと言う・・・物凄く苦しくて支離滅裂な言い訳だったんで、聞いてる俺が笑ってしまった。
俺が笑ってると俺の両手を隊員が引っ張り中に引きずり込もうとするが俺がこの程度で動くはずがない。
2人で両手を引っ張った状態で俺の前に回った1人が俺の首に隷属の首輪を装備しようとするが、俺には装備できないアイテムなんで何度やってもポロリと外れて下に落ちる。
もう一人が俺の後ろに回って俺の腰に隷属のベルトを装備させようとしてるが、首輪と同じように装備がキャンセルされてしまうのでポロリと外れて落ちるだけだ。
俺に隷属グッズを装備させるのを諦めて4人で俺の手を取り押さえながら胸にぶら下がってるホイッスルを吹き鳴らして周囲に助けを求めた。
次から次へと警備員が現れて俺を引きずり倒そうとするが・・・2mを超す獣人が真っ赤な顔をして俺を引っ張っても微動だにしない。
俺の着ている服も龍布製なので伸びるのだが、手を放すと元の状態に戻りビロビロに伸びたりはしない。
俺はこのシーパラ警備隊本部敷地内にいるすべての人の脳内に直接聞こえるように魔法で増幅させた念話で話しかけた。
「シーパラ警備隊本部に告ぐ、俺は早乙女真一でAクラスの冒険者だ。先ほど我が早乙女工房の敷地内で暴れた男達の調書を作成するために警備隊本部に呼び出されたのだが、いつから”被害者”の調書作成は取調室で行うようになったのか説明してくれ」
俺が話し始めると俺をここまで連れてきた4人が物凄く狂ったようにホイッスルを鳴らすのが目立つが彼らは何をやっても無意味なように脳内に念話スキルで直接語りかけたんだからな。
まぁこの程度は想定内。
俺を取り囲んでいた人間達でいまだにホイッスルを狂ったように吹き鳴らす4人を取り囲んで説明するように言うが、4人が隙を見て逃げていって捕まった。
バカがドンドンと膿を撒き散らしているのは・・・滑稽だな。
コイツ等は角館家とケミライネン家に雇われた人間か内通者だろう。