冒険者ギルドでの決闘騒ぎがあったっす。
シーパラで情報収集させるためにシーパラの陰に放った忍20体と徒影15体に指示を出して、今まで以上に3つの下部組織を注視させることにする。
ついでにフォンマイ家・ケミライネン家・角館家の3つのシーズの家も探らせていたのも強化する。
ユマキ家のサトシが第12代目当主就任記念たパーティーで俺の強さを見せたはずなのに、理解できていない家が2つもあったのは少し驚いてるし・・・ガッカリしてる部分もある。
金で組織でどうにでも出来ないレベルの強さの片鱗位は見せてやったつもりなんだけど・・・バカに絡まれると面倒なので・・・それでも絡んでくるとわな。
そんな意味でガッカリしていた。
ユマキ家の先代当主と正式な次期当主を俺が合法的に殺害したのも知ってるだろうになぁ・・・
しかもその次の12代目の当主就任記念パーティーに俺が呼ばれてることを理解できてないんだろうか。
早乙女の敵に回る可能性を考えて先手を打って探らせてはいたんだけど、今後の動向次第ではどうなるのかわからないので人間関係などもすべて探らせることにした。
誰にでも悩みや弱点がどこかにあるだろうし、探ってるうちに俺に絡んできた理由が見えてくるかもしれん。
俺が早乙女工房の2F応接室でコーヒーをすすりながら今後の方針について悩んでいたが・・・今のところはこちらから動く場面じゃないな。
相手がどういう意図なのかもわからない今の状態で悩んでいても結論は出ないだろう。
任侠ギルドのシーパラ進出は早急に進める必要がありそうだ。
時刻が11時半を回ってそろそろおなかも空いてきたので早乙女邸に帰宅して昼食をとることにした。
今日の昼食はウナギの白焼きをクロに出してもらう。
俺がダイニングで食べ始めると嫁達がシャワーを浴びてサッパリしてからダイニングへとやってきた。
嫁達も思い思いの食事をクロに出してもらって食べ始める。
食後もリビングに移動して俺は番茶をすすりながら夫婦で雑談。
13時を過ぎたのでそろそろ昨日のチーム早乙女遊撃隊がブランディックスダンジョン地下10階のボスをクリアーして新たなるエリアが解放された事が正式に発表されている事だろう。
チーム早乙女遊撃隊という名前と早乙女一家全員の名前をダンジョン解放者の中に刻み込み、数万人以上いるシーパラ連合国の冒険者の中で名を挙げた瞬間になる。
俺には特別な感情はなかったけど10年以上もの長い間冒険者をしているアイリとミーにはかなりうれしい出来事のようだな。
午後からは買い物ついでに冒険者ギルドにも行って友人達と話をしてくると言ってアイリとミーはマリアとユーロンド1号を連れて出かけて行った。
クラリーナは今から20分ほど昼寝をしてから午後も弓のトレーニングを続けると言って寝室に行ってしまった。
俺は午後からはどうしようかなと悩んでいると・・・早乙女工房の来客がユーロンドによって報告された。
「ご主人様、早乙女工房にマスカー・フレデリックが所属して管轄している『最高評議会特別捜査隊』の隊長と幹部2名・・・マスカー様と部下2名がみえられまして、お主人様にと手紙を持ってきてるのですが、いかがいたしますか?」
「手紙を今から読むからアイテムボックスで送ってくれ」
「了解しました」
手紙を読んだが・・・この前の事件の落としどころを探ってる感じだな。
ケミライネン家・角館家の言い訳が色々と書いてあるんだが簡単に一言で済ますと『まぁ焦って強引とも、とられかねない行動をしたようだけど許せ。けど何でこの程度の事で大騒ぎしてるんだ?』って感じで謝ってる感がないな・・・ゼロだ。
こいつらの『上から目線』は何とかなんねぇーのかな?
お前が偉いんではないのに、先祖が大金を投じて国家誕生の足掛かりを作っただけで、どうして他人を見下せるんだろうか・・・
ユーロンドにケミライネン家・角館家への返事をマスカーに手紙を渡して、ついでに念輪でユーロンドと回線を開き直接俺の声で会話を始める。
『俺に頭を下げて謝罪したいなら聞いてやる。たかがシーズごときが調子に乗るな。俺と戦争がしたいのか仲良くしたいのかどっちだ?』
「・・・早乙女さんの声で直接話せるのか、凄まじい技術力だな・・・しかし、シーズの家はその言葉を伝えると戦争を選びかねないぞ?」
『ならば戦争すればいい。俺との戦争で1時間以上持ちこたえられたら褒めてやるよ。マスカーは俺のやってきたことを今まで調べて知っているんだろう? 昇竜商会ビルにいる1500名以上の人間をショック魔法一撃で半日気絶させた・・・あれが限界ってわけでもないぞ?』
「それを言っても聞かないのがシーズなんですけど・・・」
『それは自ら進んで争いの間に入ったマスカーの責任だ。それにケミライネン家はテイマー、角館家は奴隷商束ねる立場なんだよな・・・俺が全世界に格安でゴーレムを製造販売したら1年も持たずに2つのシーズの家は収入を全部断たれて潰せるよ。まぁ予想では半年持たずに内部の反対派から当主は暗殺されるけどな』
「そんなことできるんですか?」
『余裕だよ。俺とゴーレム販売したいって考える商人なんて山ほどいるさ・・・それどころか、俺の個人経営でゴーレムを製造するためのゴーレムすら余裕だよ。24時間休みなしで壊れもせずに素材がある限り作り続けられるんだ。この国の労働ってモノの歴史が変わるぞ?』
「そ、それは・・・」
『まぁこの前のパーティーで俺個人の戦闘能力は存分に見せてやった。あの場にいたイワノスに聞いてみればいい”シーパラ連合国の全部の国軍を使って早乙女と戦争を始めたシーズの家族を守りきれますか?”ってな。面白い答えが返ってくるよ』
「それはイワノスさんに聞くまでもなくわかってます・・・理解してもらえないんですよ」
『では国軍もまとめて引けばいい。”個人的なケンカがしたいなら勝手にやれ、どうせ滅びるのはお前等なんだし、最高評議会も多分早乙女側に付いて、とばっちり受けない事を考えるだろう。シーズの名前を剥奪されるだけ”って最高評議会の人間に言わせればビビるんじゃないのか?』
「へぇー、なるほどなぁ」
『シーズの家の特権階級意識の根本にあるのが”自分達こそが国の中枢””自分達が法律”ってことだろう。それがなくなった瞬間からただのバカ商人だ。ユマキの先代当主の末路を話せば充分だろ』
「その線で攻めます・・・早乙女さんに愚痴を聞いてもらって気分が楽になったよ」
『そういう時、今後は”相談したい”とか”悩みがある”って言ってくれ。ケンカを売られているのかと勘違いしそうだ』
「あぁ、そうだったな。伝えきれなくて申し訳ない」
俺の直筆の手紙を持ってマスカーと部下2名は帰って行った。
マスカーに間に入られた時から予想はしてたが・・・冒険者や軍人だけでなくシーズの家で商人として長年に渡り交渉事をこなしてきたイワノス・ゲッペンスキーが間に入ったのならともかく、元の軍人のマスカーが間に入るとこうなる様な気がしてた。
直情型の人間が多い軍人には言葉巧みに誘導してくる商人との交渉にはそもそも向いてない。
マスカーも初めは一方的に犯罪を起こしたシーズの家2つに有利に話を進めて自分の存在感を広めたかっただろうが・・・商人はそんなに甘いもんじゃないし、それがシーズともなって権力の中枢側の人間達という事を利用しつくしてきた商人達からすればすぐにひっくり返されるのは当たり前だろう。
なので、ここで上手くイワノスの名前と最高評議会を絡ませマスカーと国軍を一歩ひかせることに成功したようだ。
この背後関係から考えると国軍を自分たちの陣営に引き込んで交渉しようとしていることが2つの家の手紙からありありと見えたので、あえて今回の問題を複雑化させる前に国軍と最高評議会特別捜査隊をまとめて交渉事の舞台から降ろさせて傍観者に回し、”謝罪してから交渉をする”のか”戦争”するのかと誰がどう見てもわかりやすい展開にしてやる。
俺からすればます公式に謝罪しないことには交渉もしないと突き放してやったからな。
謝罪するには自分のプライドが邪魔するし、そうかといって商会が人を雇って戦争しようにも敵はAクラスの冒険者で『ヨークルの救世主』とまで言われてる”英雄”だかららな。
むしろ俺の味方をした方が楽して稼げると思うだろうから、雇われる交渉をした組織は率先して俺に情報を売りに来るだろう。
裏の組織を使おうにも・・・裏の組織を圧倒的武力で全部叩き潰してから明るみに引きずり出して、『救世主』『正義の執行官』と呼ばれるようになって、最高評議会・評議会・教会側からの働き掛けでAクラスの冒険者になった相手が敵の俺。
そもそも・・・シーパラとヨークルの裏組織には大きな組織も中堅どころもすでに存在すらしてない。
俺から言わせればすでに『詰み・チェックメイト』だな。
マスカーが間に入った事によって国との交渉事に使う事が出来そうだと思ったが、そんな必要すらなくなってきた。マスカーからの話をイワノスが聞いたら即座に手を引くことを選択するか、早乙女側に回って俺に恩を売ろうと考えるだろう。
さぁ、マスカーから受け取った俺からの手紙を見て・・・ケミライネン家と角館家はどうするかな?
俺の予想だと・・・
誰が今回の騒動の原因と誰が責任者なのかは知らないが、今回の交渉事のさらに上が出てきて謝罪を”今回の騒動の責任者”という執事・秘書とか下の人間にさせて自分は交渉人として、俺と仲良くしようとは考えてるような気がする。
いかにも商人が考えそうな手だからな。
始めの謝罪だけ受け入れて、交渉する気もなく突き放してやったらどんな反応するのかがちょっとみたいような・・・面白そうだし。
そんな事をヨークルにある早乙女邸のリビングのソファーに座ったまま思案していると、アイリ・ミー・マリア・ユーロンド1号から緊急の念輪連絡が入り始めはマリアからの報告。
「冒険者ギルドにて奥様方を侮辱する行為がありまして、私とユーロンド1号と敵の冒険者10人のチームとの決闘システムによる戦闘に入ります。ご主人様はどうされますか? 見学なさいますか?」
「見たい! 時間と場所を教えてくれ、今すぐ行く」
時間は30分後、場所は首都シーパラの北部にある冒険者ギルドシーパラ支部の方だ。
ここにある様々な訓練施設の雨天用訓練場での決闘になるみたいだ。
俺は早乙女工房に転移魔法で跳んでからホップボードに飛び乗って決闘場所に急ぎながら決闘に至った経緯を聞く事にした。
~~ ミー視点 ~~
しんちゃんから今日の13時に冒険者ギルドで発表があると聞いて、いてもたってもいられなくなるほど興奮したのは親友のアイリも同じだった。
実の両親の記憶はほとんど残ってないけど、私もアイリと一緒にモルガン父さんの背中を見て育った。
家の裏庭で盾の練習をするモルガン父さんの大きな背中が逞しくて頼り甲斐があって・・・何よりカッコ良いと思って育ってきた私とアイリが冒険者を目指すのは必然であっただろうと思ってる。
そんなモルガン父さんの願いは、私の実の両親と同じ願いだった。
『冒険者の歴史に名を刻みたい』
名を刻む前に3人は他界してしまったけれども、私とアイリが冒険者として名を刻めば両親の願いも叶うんじゃないかと頑張っては来たけど・・・甘い世界じゃないよね。
しんちゃんと出会う頃にはそんな夢なんて、日々暮らし行く現実の生活の中に消えていってた。
先行きに不安を抱えていたことも衰えていく自身の肉体の事も全部を吹き飛ばしてしまったのが・・・しんちゃんとの結婚だ。
1ヶ月で劇的に生活は変化して”トラブルを引き寄せる体質”以外には未来は光に満ち溢れてるね。
そんな私たちの起こった変化は『Bランクへ冒険者ランクアップ』出来た事と今回の『ダンジョン解放者』として正式に冒険者ギルドで発表させる事・・・歴史に確実に名を刻んでいることだ。
しんちゃんとクラリーナは私とアイリの説明にもよくわかってないみたいだったけど、私とアイリは興奮した・・・夢が叶った瞬間なんだから。
アイリと話をして直接発表の瞬間は時間的に無理だけどギルドで友達達と話がしたかったので、午後も訓練する予定をやめて冒険者ギルドシーパラ支部に行くことにした。
私・アイリ・マリア・ユーロンド1号の4人でホップボードでひとっ走り。
今日は朝からの大雨でも、しんちゃんからもらった雨避けの指輪があれば何も関係なくなっちゃう優れものだね。
冒険者の友人が数人いたので挨拶して話を聞くと今日はあまりの天候の悪さにブランディックスダンジョンに行くのをやめて、ここの訓練場で一汗流して夕方から美味しいお酒を飲もうと企んでいたらしい。
ボス部屋の話を聞かれたんで詳しく話してあげた。
ギルド2階の食堂でコーヒーを奢ってもらいながら話に花を咲かせる。
5cmの肉食スチールバッタ500匹の恐怖を話してあげたら・・・ボス部屋クリアーしてクリア報酬を狙ってるらしかったが、私の『魔法が使えないとあの部屋は入らない方がいい』という、しんちゃんの受け売りを教えてあげたら・・・さすがはベテラン冒険者、瞬時に危険性を察知してやめると言ってた。
これもしんちゃんの受け売りだけど・・・
あのフロアーは解放されてリザードマンが大量発生してるから、ボス部屋に行かなくてもリザードマンのドロップアイテム『リザードマンの尻尾』で安定的に荒稼ぎできるし、MAPはまだ出来そうもないほど広いと教えたら・・・しばらくはそれで荒稼ぎできるなとギッシッシと笑ってる。
私たちの周りの冒険者も私とアイリからの生の情報を聞いて方向変換したみたいだ。
ベテランほど、5cmという超小型昆虫魔獣500匹が引き起こす『数の恐怖』ってのを言葉だけで理解したみたいね。
それにあとで教えた『リザードマンの尻尾』は冒険者ならば一度は聞いたことがある海外から輸入するしかない『輸入品』ってぐらいは知ってる。
高額で取引されていていつでも品薄なアイテム。
明日からは早速ギルドの依頼票に大量に並ぶことになるだろうから、しばらくは・・・大至急欲しいから大金を払うっていう業者が列をなすし、転売ヤーまでもが集まってくるだろう事まで見えるでしょうね。
話に割り込んできたのが見た事もない集団で・・・と言ったらアイリに叩かれて怒られた。
「ミネルバ久しぶりだな」
「久しぶりって・・・誰? 『バシン!』アイタっ!」
「ミー、『誰?』じゃないでしょう・・・この人はあんたのストーカーでしょうが!」
手をポンっと叩く。
「あぁそういえば! でもこんなオジサンのバカ面だったっけ?」
「最後に見たのが5年前だから・・・老けたんじゃないかな?」
「ストーカーじゃねぇ! ふざけるなよクソ女」
「あら、やだわ。元ストーカーらしきオジサンにクソ女なんて言われちゃったわ」
「ミーも災難ね。老け顔のストーカーなんかに絡まれちゃって」
「ふざけるなテメェ、ぶち殺す!」
元ストーカーが腰のロングソードを抜こうとロングソードの柄に手を手に持って・・・抜けない。
マリアがロングソードの柄の先端を指一本で抑えている。
マリアが一切の音も立てずに座ってる私の後ろから移動して、ロングソードを抜くために後ろに飛びずさった元ストーカーの刀の柄を抑えてるという凄さは周囲の人達にはわかったみたいだけど・・・お馬鹿さんには理解できてないみたいねぇ。
コイツは私に5年前に振られた腹いせに私が『アバズレ女』だという噂を陰でバラまいた張本人。
こういう男だとわかってるから振ってるのに、散々私をつけまわして逆に私をストーカーのアバズレなんて噂を出した張本人を許すはずもなく、裁判までやって罰金刑まで喰らわせたのに・・・まだ絡んでくるとはねぇ。本物のバカかもね・・・
噂が消えるまで1年以上も掛かったことはまだ忘れられないんだけど・・・
ここで追い込むことにしちゃう。
「あら、残念ね。うちのクマちゃんにすら勝てないなんて・・・元ストーカー・老け顔のオッサン・クマ以下の根性なし・・・哀れねぇ」
「プププッ、もう、ミーったら・・・こういう人達に真実って禁句だったりするのよ。真実って残酷だから」
さすがにアイリのセリフで周囲の冒険者が爆笑し始めた。
我慢できなくなっちゃったみたいね・・・大雨で暇を弄んでた人達から囃し立てられた元ストーカーがプルプル震えながら大声で叫ぶ。
『俺と決闘しろ!』
「ヤダ」
即座に断ってやった。
「キサマー、逃げるのか?」
「私、弱い者イジメって嫌いなの。私のゴーレムたちに勝ってから言ってね?」
『貴様ら! 決闘しろ!』
~~ ミー視点終了 ~~
って事を笑いながら教えてもらった。
クラリーナに念輪で連絡すると一緒に見たいという事だったので、冒険者ギルドシーパラ支部に到着して会場になってる場所に向かって歩きながら暗がりに入って、出てきたときには転送魔法で一気に引き寄せたクラリーナが隣を歩いてる。
俺が決闘会場に到着すると野次馬で凄いことになってる。
冒険者ギルド本部で忙しいはずの旧ギルドマスター『青木勘十郎』と新ギルドマスター『アクセル・ビッタート』まで見学に来てやがる。
冒険者ギルド本部幹部の犬獣人『ニール・オスキャル』がやってきて教えてくれた。
『本部も暇だったからビッタート卿の発案で各部署の2名まで見学OKってなった』んだと。
ニールも熾烈なじゃんけん勝負に勝ち抜いて見学に来たらしい。
思わず声を上げて笑ってしまった。
雨天練習場は・・・体育館のような巨大な屋根と壁があり、下は土の地面となってる。
青木の指示で急遽15mほどの正方形が描かれ四隅にミスリル棒が刺されて結界が張られた。
その周囲には椅子が並べられて観客席まで出来上がる。
マリアとユーロンド1号に指示を聞かれる。
「ご主人様、どういった戦い方を望みますか?」
「ミーはどうしたい? アイリもリクエストがあれば言って! どんなリクエストでも可能な2人なんだけど」
「私の希望は”出来るだけ惨めな最後”ってところだわね。私はミーと違って直接な恨みはないからね」
「私は借金を背負わせるって出来ないかな? できるだけ長く苦しませたい」
「両方のリクエストに応えるのは上級シールダーだな。殺さずに治療費を負わそう。敵10人全員からできるだけ多くの骨をへし折ってやってくれ」
「「了解です。ご主人様」」
マリアとユーロンド1号の2人が自身のアイテムボックスから自分用の盾を二枚取り出して左右に握って構える。
俺・アイリ・ミー・クラリーナは自分のアイテムボックスから自分用のイスとテーブルを出して、ドリンクとおやつも取り出した。
俺は今日はホットのハーブティーと芋の3種盛り。
アイリはビールとチーズを出して、15時を過ぎたんですでに酒を始めたようだ。
ミーはコーヒーとドライフルーツを食べてる。
クラリーナはホットミルクティーとカットフルーツにしたみたいだ。
俺は周囲の観客を見まわしてるが、すでに酒を飲み始めた冒険者の方が多い。
お祭り騒ぎを聞きつけた屋台が既に敷地内に入ってきていて冷えたビールやツマミの焼き鳥・何かの魔獣の肉の串焼きなんかも販売していて、いい匂いがここまで漂ってきてる。
そんな中で”見世物”決闘が始まった・・・アイリから早速質問される。
「しん君、マリアとユーロンドのシールダー用の盾の形状が違うけどなんでなの?」
「あれはシールダーの上級職『守護者』専用のシールドだからな」
「ウソっ!!!」
アイリが驚愕して大声を出すのは無理もない、俺の言葉を聞いた周囲の冒険者も固まってしまった。
俺の持つ忍術・賢者スキルに勝るとも劣らない伝説のスキルで過去に何人かいる転生者のみが持っていたとされているスキル。
おやっさんの師匠『春日部侠市』が持っていたスキルで、彼は俺の中に記憶と経験と技を全て残してるんだから俺が知ってて当たり前なんだけどな。
守護者専用のシールドは葉巻のようなオーバルタイプの楕円形で両端が先割れスプーンのように2つに割れてる。
基本のトンファー型なのは変わってないが付いてる盾の形状が違っていて、取り扱いも数倍の熟練度がいる。
「というよりも、アイリはおやっさんに聞いてて知ってると思ってたけどな」
「シールドの形状まで違うっていうのは聞いてなかったわ」
「あの形状にこそ守護者の強さの秘密があるんだよ。それに盾職・シールダーを極めても守護者のスキルは発現しないからな」
「うん。それはおやっさんから聞いてる。どうやっても出ないし、スキルの発現させるための条件が分からなかったって」
「条件は1つ・・・シールダーマスターになる事と無手の中の『合気道』のマスタースキルが必要だ」
ここでマリアとユーロンドの持つシールドの形状に気づいた唯一の人物・・・俺の後ろにまで来ていたアクセル・ビッタートが大声を出した。
「合気だと? あぁ! そうか。気を練る訓練が必要って事か?」
「ああ、そういう事だ」
「なるほどな、それで伝説の守護者『春日部侠市』が死ぬ間際に最後に残した言葉”ドワーフよりもダークエルフの方が守護者に向いてる”という意味は”無手・合気”へと繋がるのか・・・」
「そういうことさ。ドワーフは強靭で折れない心を持ってる代わりに無手術への理解度はない。ダークエルフは過酷な環境を生き抜くために無手の何らかの技術を持って生まれてくる・・・生まれながらに合気のマスタースキルを持つダークエルフも珍しくないからな」
「なるほど勉強させてもらったよ・・・ありがとう」
「おいおいビッタート卿、これからが本番なんだからまだ帰るなよ。俺が守護者の技を見せたい2人・・・アイリとビッタート卿がそろったんだ。いいものを見せてやるよ・・・目を離すなよ! その目に焼き付けろ。マリア、1号行け!」
「「はっ」」
俺のGOサインで今までの戦闘ですべての攻撃を受け流すだけだった2人が攻勢に出る。
動き出す前に気を練り上げた証拠で2人のゴーレムの体が薄く光る。
上から切りかかってきた大剣を先割れ部分で受けると捻って大剣をへし折る。
レイピアで突きかかってきた敵の攻撃を受け流して反対の盾で敵の利き腕をへし折る。
崩れ落ちそうになる敵の膝にも先割れ部分を入れて、膝を砕いてからもう一つの盾でシールドバッシュを行って後ろの敵にめがけて吹き飛ばす。
あまりにも圧倒的な実力差に周囲の見学者達にもゴーレムの強さが明らかにわかる・・・これでもこのゴーレムは明らかに手を抜いている事だけがハッキリわかるのだ。
見せやすい様にゆっくりにしか動いていない。
ゆっくりした動きで避けたはずなのに避けた先にはもう次の攻撃が来て待ってるんだからな。
敵の攻撃を先回りして攻撃すること・もしくは敵の攻撃を自分が優位になるように誘導していく事こそが守護者の真骨頂だからな。
アイリもビッタート卿も食い入るようにマリアとユーロンドの動きを注視してる。
ゴーレムたちが攻勢に移ってから10人の重症者が転がるまでに5分も掛からなかった。
「ま、こういう事だ。アイリが以前の雑談で言ってた『シールダーの先にあるもの』がこれだな。ビッタート卿が雑談で言ってた『シールダーとダークエルフの関係』その答えが守護者って事さ」
「しん君ありがとう。行き詰ってた事の先に光が見えたような気がするよ」
「早乙女君ありがとう。ワシの中に200年以上もの間引っかかって解くことのできなかった疑問が解消したよ」
決闘が終了したので近寄ってきていた青木が後ろから話しかけてきた。
「合気か・・・これからは親戚の道場も繁盛できそうだな」
「青木さんの親戚の悩み”合気道は子供しか通ってくれない”も解決してやっただろ? なぁ青木さん」
「これはこれで『厳ついオッサンばかりだ!』って文句言われそうだけどな」
「クックック、贅沢言うなっていってやるしかないな」
「アッハッハッハ、それはすでにもう言ってる。青木家の道場なんて嫁入り道具代わりなんだからな。嫁入り前の行き先の決まった女性ばかり・・・絶対に手が出せない御馳走地獄だ」
青木のこの言葉で周囲にいた人が全員笑い出した。
それは確かに地獄かもしれんな・・・目の前に御馳走が並んでるのに手を出そうと考える事すらできないなんて・・・生き地獄ってやつだろう。
確かにそれに比べたら道場の生徒が子供ばかり、次からの生徒が厳ついオッサンってのは地獄に比べたらぜいたくな悩みだろう。
結局・・・元ストーカーのチーム10人の骨折の治療は教会にさせて教会の儲けにさせてやったので俺の手間は省けた。
教会の借金を踏み倒そうとする冒険者はいないだろうしな・・・今後の治療がかかってくるから。
俺が回収をするんだったら任侠ギルドに売っちゃうのもいい作戦かなと思ってたけど、ビッタート卿にお願いされて譲ることにした。
俺との会話を終えて離れていったビッタート卿と青木のところにシールダーらしき人が親戚の合気の道場を教えてもらおうと話を聞きに行ってる。
「そういえばこの決闘って何を賭けたんだ?」
「・・・なんだったっけ?」
「う~~ん、覚えてないわね。マリア覚えてる?」
「特に何も賭けておりませんが・・・」
「しん様、そんな事ってあるのですか?」
「俺は聞いたことがないな」
「私は断ったしねぇ」
「私は始めから横で聞いていただけだからね。そもそも対象外だわ」
「ミネルバ奥様がお断りになられた時に、ゴーレムに勝ってから言いなさいと言われましたので、相手方は私・ユーロンド1号と決闘になりました。ですので、勝てたら奥様方と決闘という事になるのではないのでしょうか」
うーん。結局、相手の目的もよく分からないまま決闘騒ぎというお祭りは終了した。