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エルフの超絶美人が笑顔で怒るとすっげぇ怖いっす・・・おや、誰か来たようだ。

12・5修正しました。

食事の後の一服した時間も済んで・・・することがなくなったので1階の売店に全員でで掛けることにした。


部屋を出たところにある転送室から1階のフロント横の転送室に移動する。

ロビーを横切って売店に入ると・・・売店は想像以上にデカかった。

売店の半分は食料品市場のように小さな露天が軒を連ねているような感じだった・・・がしかし、半分は酒屋だった。

大きな樽からアンプルサイズの小瓶のお酒まで壁際には様々な酒のビンが所狭しと並んでいる。

目当ての漬物屋はエルフの美しい女性が販売してるのだが・・・まさか『ナディア・グラナド』の母方の祖母にして、極ウマのぬか漬けの製造者で、グラナド商会の創始者の2組の夫婦のうちの1人がこんな時間にこんなホテルの売店にいるとは思っても見なかったんでビックリした。


ナディアの父方の祖父はグラナド商会の代表者で祖母はグラナドホテル本店の支配人を担当している。

母方の祖父はグラナドホテル本店の総料理長で祖母が従業員の教育係をしているとナディアに聞いていた。

4人はナディアの両親が結婚したことで知り合ったのだが、それぞれがまったく違った性格をしているために惹かれあって仲良くなった。

それで話し合って新世界を求めて中央大陸のエルフの村を飛び出して世界を巡り、このドルガーブの豊富な食材を気に入り、ここで4人で旅館を開いたのだった。

4人で力を合わせてグラナドホテルの礎を築いたという雑談でのナディアの話を聞いてはいたが、それなのにここで漬物売っているなんて予想すらしてなかった。

驚愕して固まってる俺にナディアの祖母が話しかけてきた。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないです。ハイエルフの先祖がえりの女性が初めてだったので」

「あら、よくお分かりね」


驚愕していたことがもう一つあった。

ナディアの母方の祖母はハイエルフに先祖がえりした女性だった。

440歳を超えているとは思えない20才そこそこにしか見えないほどの美貌で、あまりの美しさに話しかけることも出来ずに遠巻きに眺めてる男性は売店の中に20人以上いる・・・ファンかな?


「あら、貴方も凄いのね・・・名前しか見えないけど、早乙女さんね。覚えさせていただくわ。何しろ私の精霊様が貴方を見たとたんに目がハートマークになってしまいましたわ」

「ハートマークになんてなってないもん!」


10歳ぐらいの女の子が蔦と葉っぱに覆われた姿で目の前に現れた。

木の精霊『デュアリス』だった。


なるほどな・・・デュアリスの精霊による秘術『熟成』を使って一瞬で漬物を極上の味にしていたんだな。

俺には木の精霊魔法は使えないのでこの魔法は使えないし、俺の神の創り手スキルでもぬか漬けをここまで美味しく熟成させるには試行錯誤を繰り返さないと微調整が難しい。

木の精霊なら簡単に出来るだろう。

後ろに立つ嫁3人に聞かれる。


「しん君、この子誰? 急に現れたけど・・・」

「木の精霊『デュアリス』様だ! 人間どもよ、ひれ伏せ!」

「まぁひれ伏す必要はないけど・・・これが木の精霊デュアリスだよ。こんなちんちくりんな見た目だけど、全ての草木に宿るといわれてる草木の精霊の頂点に位置する精霊だな。樹木の精霊や森の精霊とはちょっと違って、エルフに草木の祝福を与えたとも言われてる木の精霊王様だよ」

「そうだ! 私は精霊王で偉いんだぞ! だからひれ伏せ! ・・・ってちんちくりんってなんじゃい!」


『こいつめこいつめ』


俺の胸に飛び込んできてポカポカ胸を叩いてくる。

文字で書くと恋人同士のケンカのようだが、実際の見た目は130cmほどしかないデュアリスが親に反抗してワガママを言っているようにしか見えない。

周囲に見てる人達が夜の9時を過ぎているにも関わらず、ホンワカした気持ちになってしまってるようだ。

嫁達も微笑ましい風景を見ているような顔になってる。

しばらく続いてるが終わりそうもないので俺が困った顔をしているとナディアの祖母がデュアリスの襟首を後ろから掴んで引き離す。


「はいはーい、時間終了でーっす。デュアリス様、イチャイチャしようとしても無駄ですよ」

「ミルクル、その手をはっなっせ! それにイチャイチャなんてしてない!」

「あんまりワガママいうとメってしますよ!」

「あ・・・ごめんなさい」

「お! えらく聞き訳が良いな」

「うっさい、バカ早乙女!」

「まぁ、これでも440年以上も付き合いがありますからね。簡単で手馴れたものですわ」

「うっさい! ミルクルのババァ!」

「・・・何かいいましたか?」

「ごめんなさい。調子に乗って言い過ぎました」


おおお、何かゴゴゴってナディアの祖母の後ろに真っ赤な般若が浮かんだような気がしたが気のせいということにしておこう。

絶世の美女に笑顔で怒られる恐怖だといった方がいいのかもしれん。

恐怖で顔を青く染めた精霊王がペコペコとエルフに頭を下げてる・・・シュールだな。


デュアリスが叱られてショボーンと大人しくなってる間に、やっとナディアの祖母と早乙女夫婦で自己紹介を全員ですることが出来た。

『ミルクル・マキアート』

何か甘そうなエスプレッソっぽい名前だが440歳の先祖がえりハイエルフにして、長髪の金髪をなびかせた絶世の美女。

グラナド商会の3人の副代表の1人で、とある町で出会った転生者にホテル従業員の接客の基礎とぬか漬けのコツを教えてもらって、自身の手で研鑽して確立したホテルの接客も漬物も世界の歴史を変えたと言われてる”女傑”で間違いないだろう。

グラナドホテルが全国展開できるようになったのはミルクルが従業員教育係の指導員で接客マニュアルを全て1から作り上げたから、グラナドホテルはどこに行っても同じで最高級の接客がしてもらえるという評判を持ってるからだと言われてる。


漬物の知識は知らなかったがミルクルの女傑っぷりはナディアから聞いてる。

ナディアいわく・・・

『誰よりも優しくて誰よりも美しくて・・・そして誰よりも怖い存在』

なんだそうだ。

俺も話には聞いていたが今日、初めて実際に会ってみて物凄くわかりやすい例え話だと実感できた。


と、言ってもナディアの話はミルクルにはしない。

彼女のプライベートな問題でデリケートな部分に入ってくるからな。

ナディアが盗賊に誘拐されてもう少しで慰み者にされるところだったと俺が言ったら、怒ったミルクルに連れ戻されそうだしな。

おにぎり販売に情熱を燃やしていたナディアの邪魔はしないほうがいいし、俺が言わなければ誰にもわからない話だからな。

ミルクルも俺が伝えられない何かを隠してる雰囲気を少し感じとってるようだけど何も聞かないでいてくれたみたいだ。


・・・演技がヘタクソで済まないと心の中でナディアに謝罪して手を合わせた。


俺達が雑談をしながら漬物購入を済ませ酒屋の方に歩いていくとなぜかデュアリスが付いてこようとして、当然ながらミルクルにつかまって・・・『契約者のエルフに正座させられて説教をされる精霊王』というシュールな映像を最後に見せられて酒屋に歩いていく。

やっぱり絶世の美女が笑顔で説教してるのはちょっと怖いなと言うのは、誰も口には出さないが早乙女夫婦の共通した認識だった。

デュアリスも正座で半ベソかいてたし。


酒屋には世界中の珍しいお酒ばかりがここには一同に集められていた。

これはナディアの両祖父母4人全員の一致した趣味が高じて商売になってしまったようだった。

試飲もできるようなんで夫婦4人で味わいながらあれこれと談義して、店員は夫婦の会話を一切邪魔をしないように時々補足で説明をしてくれる。

ここのホテルの従業員は売店の店員ですら空気を読むのが上手いな。

ミルクルの教育の賜物なんだろう。


梅酒・芋焼酎・麦焼酎・シャンパン・ジン・ウォッカまであって物凄く種類も豊富で試飲して誰かが気に入った酒は全部購入したので500万G以上は使った。

幾つもの樽で購入しているし、輸入代金まで含まれているから高額に膨れ上がるのは仕方が無いし、美味しいモノに金に糸目はつけないという俺の習性が嫁達にも伝染していってるからだろう。

使う金以上に稼いでるっていうのもあるけど。


俺たち夫婦があれやこれやとしていると周囲にいたホテルの宿泊客が同じように試飲を始めて盛り上がり始めて、宿泊客だけでなく外から来たお客まで集まってきて、みんなで試飲して盛り上がってしまった。

他の売店の従業員も出張で販売しに来てつまみも飛ぶように売れ始めちょっとしたお祭りになったな。

俺たち夫婦以上に酒を買ってる家族もいるし、つまみはその場まで従業員が運んでくれるからな。

遠くからいつも以上の売り上げになってる売店の様子に満足げな表情をしてるミルクルと、祭りに加わろうとしてるがミルクルに首根っこを捕まれてジタバタしてるデュアリスの子犬感にちょっと笑ってしまった。


欲しい酒を買い終わったので俺たち夫婦は部屋に戻ることにした。

最後に遠くから見てるミルクルとデュアリスにバイバイと手を振ってから部屋に戻る。

2人はブンブンと笑顔で手を振り返してくれる。

こうしてみると仲の良い親子にも年の離れた姉妹にも見えるな。


部屋に帰ると4人で風呂に入る前に湯船にお湯をためてる間、北側の窓から見える巨大な半月を酒を飲みながら見ていた。

天気がいいので巨大な月の半分が輝いて眼下に広がるドルガーブの街の北側の屋根や石畳の道を金色に照らしてる。

半月ですらここまで明るいんだな・・・しかも半分ですら日本で見ていた月よりも大きいような気がする。

全員で風呂に入ってエッチはしないがキスや軽く前戯まではしてイチャイチャ。


風呂を出てもまだ少し月が見えたのだが嫁達は東側のベッドルームに移動して本格的に酒を飲み始めたようだ。

クイーンサイズのベッドが間にサイドテーブルを挟んで4つ並べられており、東側の朝日がベッドの中から見れるようになっているんだろう。

明日5月4日のドルガーブの日の出時間は5時2分・・・その前に起こすからなと嫁達に言って俺は出かける準備をする。


10時半を超えてアマテラスに頼まれた仕事の時間が近づいてきた。

嫁達を寝室に残して俺はリビングに移動。

まだ少しだけ見える半月の下、明かりを消されたリビングで以前のマフィアギルド襲撃の時に作った防具を装備し始める。

ガウンを脱いで素っ裸になり自作で真っ黒のアンダーシャツとアンダーパンツを下に着てから、闇の防御属性を持つ真っ黒で艶消しされたサイラス甲殻鎧を装備する。

手甲・ブーツ・ヘッドギアも特製で鬼が怒って吼えてるような表情のお面(鬼の目と口が怒った表情のままくり貫かれてる)までつける。


準備が完了したので今から襲撃する違法取引の現場建物の屋根の上に直接転移魔法で移動した。


屋根の上空に飛翔魔法で浮かびながら敷地内の全部を鑑識魔法で探りとる。

74名全員が間違いなくいる。

いつもの襲撃の時のように建物だけでなく敷地全部を結界で封印したので進入できても出られなくした。

そのまま正門の前に立つ・・・むろん正門は閉じた状態のままで俺は敷地の中だ。

俺はそのまま敷地内の全ての罠と封印・結界を全部完全に解除して襲撃をスタートさせる。


厳重に監視していたはずの正門の敷地ない側に突如現れた黒尽くめの威容の雰囲気に呑まれていた正門護衛の4人が動き出して攻撃してくるが、その全ての攻撃をかすることすらさせずに避け続ける。

4人が攻撃を諦めて全員が後ろに飛び去ってから首からぶら下がる笛をビービーと吹き鳴らす。


建物の正面玄関から飛び出てきた黒い影が3つ。

彼らが外国でスカウトされて雇われた3人の用心棒なんだろう。

デブ・ムッキムキの筋肉ゴリラ・ノッポというテンプレ体型3人衆だったから、アマテラスの情報のままで極悪非道らしいけど・・・実物を見てから、ちょっとがっかりしていた。

3人セットでも転生者で俺が任侠ギルドトーナメントで魂ごと消滅させた『卯月要市朗』にも遥かに及ばないほどレベルが低いっていうか・・・3人は盾職だ。

3人がかりで同じトーナメント出場者の『マナガルム・ブラム・アバルニア』がちょっと苦戦する程度。

同じトーナメント出場者でも『サトシ。シーズ・ユマキ』だとだいぶ時間が掛かって苦戦するだろう。

サトシとマナガルムは同じぐらいの強さだが武器の特性の差だな。

サトシはサーベルの二刀流で相手の防具の隙間から切りつけて弱らせていくスピード重視のスタイルなので、この3人衆のようなフルプレートアーマーと大きな盾とショートソードの組み合わせの盾職にはなかなか有力な攻撃が出来ずに時間が掛かるだろう・・・サトシが勝つことに変わりは無いが。

逆に大剣を扱うマナガルムはサトシみたいなスピードタイプの敵には苦戦必死だが、盾職はエサでしかない。盾ごと叩き潰してしまうからな。


俺が冷静に判断しがならそんなことを無言で考えてると、3人衆の中のリーダー格の真ん中に立つゴリラが話しかけてくる。


「おい坊主、どこから紛れ込んだんだ? 死にたくなかったら帰れ」

「出来もしないことをぬかすなハゲ。俺がここに来た瞬間からお前達74名全員はお前の毛根と一緒で、すでに死んでるんだよハゲ。それに坊主はお前だハゲ!」

「必ず殺す。いくぞおまえら! 隊列を組め」


ゴリラがフルプレートアーマーの頭部をかぶると盾を構える。

後ろのデブとノッポもフルフェイス兜をかぶり盾を構えて臨戦態勢になった。

今まで笛を吹いていた護衛達と笛の音を聞いて追加で集まってきた親衛隊達がゾロゾロ出てきて全員が剣を抜いて構えた。


ゴリラが俺との3mほどの距離が開いていたのを一歩で詰めて盾を全身全力でブチ当てる盾職の基本技で奥義『シールドバッシュ』をブチ当ててくるが、俺が片手で全部の衝撃を吸収してしまった。

俺から見ればサイラスの希少魔獣の突進の方が色々ヤバイレベルの衝撃力がある。

あいつら3t以上の体重で瞬間時速60kmを越えてくるからな。


「そんなバカな! 全く手ごたえが無い・・・しかもまったく動かないなんて」

「ま、この程度だわな。所詮は人間のシールドバッシュなんて高が知れてるし、お前らは恵まれた体格に胡坐をかいて上を目指して練習すらしてないだろ?」

「五月蝿い黙れ! 1度でダメなら連発だ!」

「だからきかねぇーって」


バスバスと連発でシールドバッシュをハゲがしてるが手で押さえたまま微動だにしない俺。

俺がガッカリしたのはこれが理由だった。

コイツラに多彩な技など無い。

盾職でも中の上レベルで胡坐をかいてる程度の人間達だ。

・・・確かにアマテラスが危惧したように聖騎士団に目の前に盾職3人並べられていて、正面玄関などで正面からしか攻撃できないような状況にされたら聖騎士団もヤバかったかもしれん。

3人衆の後ろに隠れていた護衛たちが驚愕してる横で親衛隊が恐怖で覚醒麻薬を飲み、いよいよ攻撃に移ってきた。

全員が俺への恐怖に負けてクスリを飲んでいく。

『ギャッハーーー』

『ヒイィーーーハーーー』

1人が叫んで驚愕のジャンプ力で俺に飛び掛って攻撃してくるが・・・もはや人間を止めてるな。


ロングソードを握っているが馬鹿力で叩きつけてきて、地面の石畳に叩きつけられたロングソードはガキンという音を残してへし折れた。

剣技もクソもまったくない・・・バックステップで避けた俺を追いきれていない。

ただただ力任せに叩きつけてきてるだけだし、明らかに反応速度は低下してる。

俺が後ろにバックステップしたのはある程度低レベルな冒険者ですら目で終える程度のスピードで、わかりやすいほど後ろに2mほど跳んだだけだ。


覚醒でバーサーカーになったときは思考能力が低下するが反射神経などの脳を使わない部分は、バーサーカー状態では劇的に上がるはずなんだが・・・これは”バーサーカーになるための覚醒麻薬”と言うクスリでなく・・・やはり『ゾンビ変化』となる『ゾンビパウダー』のようだ。


俺が振り下ろされた剣をバックスステップで避けてすぐに距離を詰めて、親衛隊の頭部を吹き飛ばすジャブを放ったが、動きを止めずに首から上がなくなった状態でそのまま攻撃してきた。

今度は避けずに前蹴りを放ってゾンビを消滅させた。

ゾンビになったと瞬時に判断できたし、俺がここに入る前に結界を解除したのでわかっているのだが・・・ここの敷地全域には光の魔法を1/5まで減少させて闇の生物を倍以上に活性化させる結界が張ってあったからな。

予想通りっていえば予想通りの確認作業。


聖騎士団が攻撃していたらパニックになっていただろう。

アマテラスが聖騎士団全滅を危惧していたのかこれだろうな。

自分達の光魔法は1/5にさせられる中でゾンビとも戦わないといけないしな。


3人衆はゾンビ変化を知ってたみたいだな。

3人はパニックになることも無く、冷静に盾を構えたまま後ろに下がっていって、決められた動きのように3人の盾で正面玄関を塞ぐ。

俺は冷静にゾンビになった目の前にいる25人の親衛隊や用心棒のゾンビを殺す。

俺の防具にはゾンビの攻撃は一切効かない。

武器による物理攻撃は別だが闇魔法の属性防御がついているサイラス闇甲殻鎧なんだから闇の生物の波動や攻撃は全部魔素になって魔力に換算されてサイラス闇甲殻鎧に吸収されてしまうだけだ。

吸収した魔力は自己修復などに使われて蓄えられていく。

気をつけるのは物理攻撃だけだ・・・俺には効かないけど。


3人衆は驚愕して俺を眺めながら正面入り口を塞いでいる。

全く傷付くこともなく俺の繰り出すパンチやキックでゾンビたちが消滅していって、俺の後ろに残るのは武器や防具といった装備品とステータスカードのみが転がっている。

何度もゾンビの攻撃が当たっているように見えるが攻撃したはずのゾンビの手足が消滅してるので、まったく理解できなくて固まっているんだろうな。

最後のゾンビの上から振りかぶった槍攻撃を俺は踏み込んでゾンビの手を受け止める。

掴んだ手は一瞬で消滅して槍が後ろに転がるとゾンビは蹴りを放ってくるが、横へのステップで俺はゾンビの後ろに回りこんで鎧の隙間から指を突き込んで、全身を消滅させると空になった防具とステータスカードだけが残される。

普通はステータスカードに殺害した人の名前が載ることになってるが、俺の場合は『アマテラスの代理人』としか表示されない。


それに俺はもうすでにステータスマネーに入っている個人資産がどれだけあるか見てないので知らなかったんだが、アマテラスの配慮で襲撃中に殺した人達のアイテムボックスの中身や資産は俺のアイテムボックスと金は別口の個人資産にゴッデス経由で送られてきていた。

前回のマフィアギルド襲撃で得た資産は200億Gゴルドルを越してし、今回も100億を越してる金額が送られることになる。


ここに来て3人衆の後ろに動きがあったようだ。

この敷地内の逃げ道の全部が俺の施した封印で塞がれていて逃げ場のなくなった45人がここにやってきたのだ。

もめてるようだな・・・理由はわからないでもないが。


「逃げ道が無い! どこもかしこも封印されている! 何とかしろ!」

「俺たちにアレを突っ切れと言うのか? そんな契約はしてない!」

「ふざけるな! 何億も契約金を払ったんだから、アレぐらいなんとかしろ!」

「アレは俺たち3人でどうにかできる存在じゃない。ゾンビ26人掛かりで怪我一つ負っていない、正真正銘のバケモノなんだぞ!」


パンパンパン! と、手を叩いて醜い争いを止めた。

馬鹿のケンカを見に来たわけじゃないし、俺は明日の天気のいい朝日が見たいので朝は早い。


「うるせぇよ、人を指差して『アレ』だの『バケモノ』だとか、やかましいわ!」

「・・・」

「お! ご静聴ありがとうございます。では君達にプレゼントだ」


『出でよ! 悪魔伯爵ファウスト兄妹ツインズ

「「早乙女様、お呼びですか?」」

「おう、コイツラ好きにしちゃって。時間が無いからいたぶるのは無しで」

「「了解しました。早乙女様の仰せのままに」」


俺と背格好が似た痩せた双子の兄妹が俺の召喚魔法によって現れる。

伯爵クラスの超上級悪魔の双子で見た目はズボンとスカートの違いだけで顔は全く一緒だし、髪の毛の色も長さも変わらない。

声のキーが若干違ってるので同じこと同時に話すとハモって聞こえる。

2人が腰の後ろから抜いた『死神ナイフ』を両手に装備して2人の悪魔は満面の笑みを浮かべながら嬉々として48人の集団に襲いかかった。


俺は最後まで見学してるだけだ。

超上級悪魔のファウスト兄妹は10年前に地上から姿を消して以来、伝説となった悪魔の兄妹だ。

極悪非道の名を欲しいままにして残虐に殺戮しつくす姿に悪魔伯爵という名に相応しい兄妹だ。

悪人をそそのかして手を貸して栄華を極めた頃にいたっぶって殺す。

その禍々しい悪魔を知らない悪人はいない。

パニックになって逃げ惑うしかない。

悪魔は召喚魔法で地上には召喚されてるので実体が薄い存在となってるから、物理攻撃はほぼ効かない。

効くのは光属性の魔法関係、闇属性の吸収のみだ。

両方ともが使えないのであれば出会った瞬間から『死』しかない。


悪魔伯爵の兄妹が戻ってきたときは劇的な変化が現れて見た目から変わっている。

兄の『アバリム・ファウスト』は着ていた黒のタキシードがバリバリになるほど破けているが傷一つついてる訳じゃなくて・・・どこかの世紀末覇者のように内側から盛り上がるムッキムキな筋肉で破けただけだ。

真っ黒だったタキシードは鮮血で赤く染まって凄惨な状況だ。

妹の『マシル・ファウスト』も同じように内側から盛り上がったおっぱいや筋肉で凄いことになってるな。


イーデスハリスの世界で悪魔という存在は人間の生命力を糧にして生きてるが、別になくなっても消えてしまうわけじゃない。

痩せて小さくなるだけで限界以上には小さくならない。

悪魔の大好物は欲望に染まった魂だ。

欲望に染まった魂が垂れ流す不幸の味がたまらないらしい。

他人の命を踏み台として不幸にしてでも自分の欲望に忠実に従って生きてきたヤツラの死に行くときに見せる不幸、欲望に汚れて染まった魂が見せる最後の絶望が極上だと言ってファウスト兄妹が説明してくれた。

今回はたった48人だったのでこの程度の成長しか出来なかったと言って笑う血まみれ兄妹。

悪魔界の世界も楽しい場所ですが・・・相変わらずに、ここイーデスハリスの穢れた魂は極上ですねとも笑って言ってる。


これで明日の突入捜査の前段階の俺に任された作業は完了した。


「ファウスト兄妹、手間が省けて助かったよ。ありがとな」

「「早乙女様のおかげで、とても良いご馳走をいただくことが出来ました。ありがとうございました」」

「じゃあ、かえっていいよ」

「「はっ」」


血まみれの兄妹が悪魔界に帰還した。


自分達が地上で好き勝手に過ごしていた所に現れて数十万いた悪魔の軍団を圧倒的な神力で亜空間の世界に封印したアマテラス以上の神力を俺から感じ取ってる兄妹が、召喚者の俺の言うことに逆らうことも一切無く悪魔界に帰還して消える・・・意外と礼儀正しい悪魔伯爵ファウスト兄妹だった。


普通の突入捜査ならここで証拠品とかを色々探さないといけないだろうが、俺の頼まれた仕事は殲滅のみなのでこれ以上はしなくていいだろう。

確認のためにアマテラスに連絡するが、捜査は聖騎士団でするのでやはりこのままでいいみたいだな。

聖騎士団の捜査で支障が無いよう出発前に教会でアマテラスが神託を隊員全員に告げる。

それと前回のマフィアギルド襲撃と今回の違法取引襲撃で殺した200名以上の悪人が、アイテムボックス内に持っていた事件の証拠物となるモノ以外のアイテム全部と、総資産300億G以上の金額が俺に振り込まれているということをアマテラスに教えてもらった。


どうすんだよこんな大金・・・これって税金払わないと脱税になっちゃうんじゃないの?

ってアマテラスに聞いたら、これは俺が隠蔽できる別口の口座になると教えてくれた。

いらねぇーよ・・・俺の資産が全部で400億を越してしまった・・・どうすんだよ。

使い切れないような金額はもう要らないから・・・今後はアイテム・素材・魔石・魔結晶・武器・防具だけでいいから、金は神の力を使ってでも国庫に戻せと言って今後は受け取らないとアマテラスに宣言する。


俺は全身を3点セット魔法で浄化をして現場の敷地に施した封印結界を全部解除して、血なまぐさい現場の消臭結界だけしてからグラナドホテル本店の自分の部屋に転移魔法で戻った。

今回の殺戮現場の浄化はアマテラスと聖騎士団が共同作業で明日の早朝の朝日と共に浄化をするそうだ。


・・・しかしステータスカードの死亡原因を聖騎士団が見たら何と思うかな。

俺が殺した26名のステータスカードは『アマテラスの代理人』って表示されるらしいけど、悪魔伯爵のファウスト兄妹が始末した方の死体は、いかにも悪魔が自分の趣味で惨殺しましたって凄惨な現場になってるし、殺害者が教会関係者には有名なファウスト兄妹なんだからな。

血の匂いに慣れていない人間だとトラウマになるレベルで間違いないだろうし。


まぁ、アマテラスが後は勝手にやれやって感じにナゲヤリになってどうでもいいさと思い直した。


ホテルの部屋のリビングでガウンに着替えて寝室に行って寝ることにした。

今日も長い一日だったな。

寝室に行って布団をはだけで寝てるクラリーナの布団を手足が出るように、おなかの上に掛けなおしてあげてから俺も眠りにつくことにする。

・・・実は一緒に寝るようになって気付いたんだがクラリーナの寝相が一番ヤバイ。

寝ていて体温が上がり暑くなると布団を蹴っ飛ばして寝て、寒くなると今度は布団を探してモゾモゾして布団がないと小さく丸まってる。

はたから見てるとカワイイが隣に寝てると厄介だ・・・他人の布団を奪ってから暑くなって蹴っ飛ばすを繰り返すんだからな。

寝てるだけに文句も言えない。

なので早乙女邸の寝室のクラリーナ専用の布団は特別制だ。

クラリーナの体温が上がると冷たくなって体温が下がると普通の布団になるという優れものだったりする。

その布団を導入してからクラリーナの寝相は劇的に良くなった。

そんなクラリーナのカワイイ顔して暴れまわってる寝相を思い出しながら熟睡した。




翌朝は朝日を見るためにまだ真っ暗な4時半に起床した。

今日は転生して34日目で5月4日の朝は日の出を見るために早朝の時間の起床となった。

天気は今日も良くて絶好の観光日和だろうが昨日よりは若干風があって少し涼しいかも。


起床とは言っても起き上がって洗面所に行って顔を洗って目を覚ましてまたベッドに戻ってくるだけだ。

外は少しずつ明るくなってきてるな。

15階建てのこのグラナドホテル本館の最上階はドルガーブの外壁の高さよりも、ゆうに高い位置にあって遥か遠くまで見渡せるようになってる。

太陽の昇る東側は寝室のベッドに寝たままでも楽しむことが出来るようになっている。

洗面台に行って顔を洗って戻ると嫁達はみんな起きたようだ・・・アイリはまだ半分以上寝てるけどな。


俺の後にクラリーナが洗面台に行って顔を洗い、クラリーナが帰ってくるとミーがアイリを連れて顔を洗いに洗面台に行く、いつもの朝の風景が繰り返される。

俺はアイテムボックスからコーヒーを出してベッドのサイドテーブルに置く。

クラリーナも自分のアイテムボックスからココアを取り出して飲み始めた。

昨日の『海に沈みゆく夕陽』は感動して少し涙ぐんでいたクラリーナも、今日は次第に明るく色付いてくるドルガーブの街に興味津々なようだな。


ミーもアイリを連れて戻ってきた。

いつも顔を洗えばシャッキリしてスタスタ歩いてくるアイリも、今日は流石に早過ぎる時間だったのか、まだ30%は寝ていそうだ。

アイテムボックスから出したブラックコーヒーをサイドテーブルに置いて飲み始めた。

今日はミーも少し眠そうで今朝はブラックコーヒーを飲んでる。


「しん様、今日の朝食はどうします?」

「朝日を見終わってからでいいだろうこのままだと見難いから・・・クッションを渡すよ」


全員にもふもふ天国で使用しているクッションを渡して背もたれ代わりにしてノンビリと朝日を待つ。

水平線から金色に光り輝く1本の線が天空に向けて走り線が帯となって広がって朝日が姿を現し始めると、流石の大自然の美しさに感動する。

ウェルヅ大草原の遠くにある丘の上を太陽が黄金に輝いて姿を現すまでの僅か数分の短い時間だが、美しい風景に感動して昨日の悪党どもの虐殺で参っていた心の中を洗い流してくれるかのようだった。

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