都市ドルガーブに到着したっす。
先に全員のトイレと手洗いを済ませてからメイドに案内されて個室を全員で出る。
なぜか並びはアイリ・クラリーナ・俺・ミーといつものような護衛とVIP夫婦みたいになってるな。
全員が俺が作ったラフな日本の服を着てるので今日はVIP感はほぼ無いが。
隣の個室は車両の後ろ半分を俺が使用してるし、間にメイド控え室&配膳室と右側に通路がある分狭くなってる。
メイドの後に続いて歩いて隣の車両に移動すると、こちらの車両は個室が3つある。
こちらの個室は全部同じ広さみたいだな。
メイドの控え室&配膳室が車両の最後尾にあってここでドリンクや軽食を作っているようだ。
シェフとドリンカーがいるのが見えた。
この車両を過ぎると個室利用者専用の食堂車がある・・・食堂車の1/3はキッチンだがテーブルとテーブルの間は広くスペースをとってるのは移動しやすくてありがたいな。
ここは個室利用客専用の食堂だからテーブルは個室の数と同じ5台しか置かれていない。
俺達が一番奥の広いテーブルまで案内されてテーブルに着くとメイドが嫁達のイスを引いてくれる。
俺達が着席するとウェイターによって衝立が運ばれてきて他のテーブルと目線があわなくなって助かった。
さっきから念輪で嫁達から『テーブルマナーなんてわかんないよ!』とヘルプが入っていたからな。
実は俺達があまりにもラフな格好をしているので”決まり”として衝立が置かれているとメイドさんにこっそりみんなは耳打ちされてホッとしていたようだった。
俺達が一番先に案内されてきたのもそういう理由だってさ。
どこにでも文句をつけてくる人間は上流下流を問わずに、どこにでもいるみたいだな。
昼食のプレートを全員で渡すと料理が運ばれてくる。
それで魚介系のイタリア料理のようなフルコースが出てきたんだけど、俺が念輪で簡単にレクチャーしながらの食事になった。
食後の3人の感想は『緊張し過ぎて味がよくわかんないよ』だったのはちょっと笑ってしまった。
食後のコーヒーをゆったり飲んで移動すると気に衝立が外されると他のテーブルも幾つか衝立があったので、結構みんなラフな格好で乗ってるみたいだな。
せっかく高い金を払って乗る個室をユッタリ乗れないなんてバカみたいだし。
老夫婦が2人でキッチリした旅人の服で乗って食事してるのを見て美しい風景の1部のような錯覚は覚えるが、そのこに自分が中に入りたいとは思わないな。
衝立の向こうには小さな子連れの声もかすかに聞こえるが衝立自体に消音効果があるみたいで、耳障りな雑音にはならないようだ。
「ここまで音が消えるなら普通に話しながら食事できたね」
ミーが小さな声でポツリと呟いたが全員一致の意見だな・・・みんなで頷いてるし。
隣の売店に連れて行ってもらってついでに土産を探した。
土産といっても誰かに渡すためでなく俺は自分の分しか買わないと考えていたけど・・・嫁達はカタリナとドミニアンの両親の分を購入しているみたいだ。
う~~ん・・・俺も誰かに買うか?
おやっさん達は旅行の土産よりもダンジョンのお土産の方が喜んでくれると思うけど・・・
俺はチーズを自分のステータスカードの個人資産で購入して渡された20kgのチーズをアイテムボックスに片付ける。
嫁達は冒険者ギルドカードのチーム資産でチーズ&クッキーの詰め合わせなどを購入していた。
この列車は先頭に蒸気機関の動力車両がありその次の車両から順番に1・2・4・5号車は一般乗客の車両となってて全席指定席で各車両にはトイレと洗面台が付いている。
真ん中の3号車はキッチンと一般車両利用客用の食堂車。
6号車は売店になっていて・・・ここまでは一般車両利用者が入ってこられる部分になってる。
7号車はキッチンと個室利用客専用の食堂で8・9号車は個室で最後尾が9号車。
俺達の買い物の会計が終わり帰ろうとしたときに酔っ払いの2人組のオッサンが絡んできた。
「おぅ坊主、美女3人も連れてメイド付きの個室なんて良い身分だな。何の苦労もなさそうなお坊ちゃんのクセに!」
「さぁ、みんな戻ろう。馬鹿が寄って来てしまった・・・酔ってきたから馬鹿なのかな?」
「ガキが!」
オッサンが俺の襟首と掴もうとした瞬間にメイドがオッサンお手を立ち関節技で捻ってネジリ上げる。
隣のオッサンも同様に売店の店員にネジリ上げられてた。
「お客様は飲みすぎで酔われてるようですね。酔い覚め室へどうぞ連れて行ってください」
メイドの最後通告で売店の店員に連行されていく。
一般乗客の食堂では有料で飲酒できるのでヒマを持て余した乗客によるトラブルが多いらしく、売店の店員はなぜか10人もいる。
俺たちはまたメイドさんの先導で個室に戻っていく。
聞きなれない単語があったんで先導してくれてるメイドさんに聞いてみる。
「酔い覚め室ってなんですか?」
「聞き覚えの良い単語ですがベッドのみの独房ですよ。シングルベッドの広さで高さは1mほどしかありません。それでドルガーブに到着次第警備隊に引き渡され連行されていきます」
「へー、凄いね。でもあんなオジサンって多いんだよねぇ・・・酒に飲まれるタイプの人。冒険者にも多くいて普段は良い人ってのが余計にたちが悪いんだよね」
「ミーの言いたい事がわかる・・・俺も故郷にいっぱいいたな」
「私はマヅゲーラの町であんなベロベロに酔っ払ってる人をたくさん見たわね。船員よりも商人が多かったような気がするわ」
「私はヨークルをほとんど出たことがなかったので余り見たことは無かったですけど、お祭りの時に数多く見ました」
個室に到着してメイドさんに直接注文をする。
俺とミーはビール、クラリーナは日本酒のお冷、アイリはワインで今度は白ワインに変更したようだ。
つまみはチーズの盛り合わせと刺身の盛り合わせとフライドポテトというバラバラなモノとお漬物の盛り合わせもあったので一緒に注文した。
どうせ到着まで後1時間ぐらいしかないし、雑談して過ごす。
「さっきクラリーナがお祭りって言ってたけど、ヨークルって何か特別なお祭りってあるの?」
「ありますよ。ヨークルで1番有名なお祭りっていえば今月の末5月30日に行われる『豊陽祭』ですね。太陽神アマテラス様に太陽の恵みをお願いする祭りで、水田の田植えが全部終わり一息ついた頃の5月30日に行われます。それと反対に稲刈りが終わって一息ついた後の10月30日に行われる祭りは『豊潤祭』となってますね」
「でもこれは周囲に水田の多いヨークル周辺だけの祭りなんで規模はそこそこぐらいですね。新年のお祭りは世界中で行われていて・・・凄いですよ?」
「10年前までは太陽神様に名前なんて無かったのですが、主神ゴッデス様が降臨されて世界を支配していた神を消滅させて地上に残っていた天使の軍団を亜空間へ封印し、地上で蔓延っていた悪魔ををアマテラス様が成敗されて封印し、6日間で地上に平和が訪れました」
「それで主神ゴッデス様のご神託で神が戦った6日間を『零月』と制定されました。この6日間は4年に1度とされてバカ騒ぎになる6日間でもあります。間の3年間は5日間とされて故郷に帰ったりして家族でノンビリ過ごすことが多いですね」
クラリーナが色々と分かり易く説明してくれるのでありがたい。
4人の神によって作られた従属神・天使・悪魔はゴッデスとアマテラスによって封印されたみたいだな。
従属神はもちろん、天使も悪魔も両方が共に正義なんて無い。
天使は4人の神のワガママの代行者であって悪魔も同じ目的で作られているんだけど、自分達の欲望に忠実に活動する。
人類や生物にとって天使は神の命令を忠実にこなすだけの代行者なので慈悲の心なんて始めっから存在してないので、悪魔の方が会話して時には取引が可能な分マシなレベルだろう。
どちらにしても害しか及ぼさないのでゴッデスとアマテラスによって次元空間に封印されてる。
その次元封印を一時的に解除して呼び出すことの出来る魔法使いが『召喚師』だ。
召喚師は天使・悪魔・精霊などを呼び出せるが上位クラスは上級召喚師のスキルが必要になる。
上級召喚師のマスターになると『従属神』すら呼び出す事ができるようになるが・・・これは賢者になった俺しかいない。
フォクサも賢者なんだけど今では自分自身が従属神という存在に転生してしまってる。
話が逸れてしまったんだけど・・・
アイリとミーも雑談で言っていたが、シーパラには商人の祭りがあるしドルガーブには漁業の祭りがあるみたいだ。
マヅゲーラの任侠ギルドのトーナメントっていうのも祭りの一種だろう。
その場所と地域によっても祭りの特性が出て色んな種類があってあれこれ違うみたいだな・・・その辺は地球に似てる。
アマテラスに頼まれたことは雑談中に説明しておいた・・・今夜は取引が行われる前に出かけないといけないからな・・・前もって説明しておかないと。
74人の犯罪者を誰一人逃がすつもりもない。
それで俺が貰った報酬を教えるとあまりの安さに絶句してるようだった。
74名もの犯罪者を皆殺しにして釣りのMAPだけって・・・と思考が止まってしまったみたいだな。
アマテラス、見てるだろ? これが世間一般の考えなんだよ。
雑談をしてると列車に減速がかかり速度がゆっくりとおちていく。
ドルガーブにそろそろ到着するみたいだ、空調で入ってくる風に少しだけだが海の匂いが混じってる。
そのままドルガーブの駅に到着して下車するのかと思ったが、ドルガーブの外壁よりもかなり手前で90度左に曲がりきって停車。
そのままバックでドルガーブ駅に入っていったところを先頭になったテラスで見ていた。
スピードが落ちた後にメイドさんが個室に入ってきて教えてくれたのだ。
テラスから見てると先頭で駅構内に入っていくことになるから、これはこの最高級個室でしか味わえない特権になってるようだ。
駅の建物はシーパラの倍以上の広さがある。
建物の右側にある北へと伸びる蒸気機関寝台列車のホームが奥にあって繋がっているからだろう。
線路のレール幅も向かう方向も全く違うのでホームは離れている分、駅の建物は大きい。
俺はメイドさんにルームキーカードを返しながらお礼の言葉を掛けてから外のホームに下りる。
嫁達は続いて歩いてくる。
そのまま駅のホームを出る時に今度は乗車券プレートを返却して今日の列車の旅は終了。
それで明日の帰りの列車のチケットを購入することにした。
チケット売り場へと歩いていくと同じように明日のチケットを先に購入する人が並んでくるが、こういう時は最後尾で出口に1番近い俺達が有利だろう。
列の始めに並ぶことが出来たので、明日の午後便の最高級個室のチケットを購入することが出来た。
今日は午前便の魚介系ランチにしたので明日の午後便の夕食は肉系変えてみた。
明日の夕方4時に出発する便なので、ドルガーブにはそれまでの滞在時間となる。
200万Gの料金を魔水晶に俺のステータスカードの個人資産から払って、また昨日と同じように乗車券プレート4枚と食事プレート4枚と個室利用プレート1枚を貰ってチケット売り場を後にする。
駅の外に出て周囲を見渡すが・・・シーパラともヨークルとも違う独特な雰囲気をドルガーブはかもし出している。
ヨークルには一切無くて、シーパラには薄くだけあった海の潮の香りというか・・・海の匂いがシーパラとは比べ物にならないほど強い。
それにシーパラと違って10階建てを超えるような高層建築物は数えるほどしかない。
その数少ない高層建築物の一つが俺達が今から向かう『グラナドホテル本店』だ。
4人で歩いていくが10分近くかかった。
駅の隣のビルなんだけど駅には食料品市場が隣接されていて、駅の敷地がメチャクチャ広いからだ。
グラナドホテル本店に入って行くと、さすがにラフ過ぎる格好なので警備員のマークがつく。
俺がフロントに真っ直ぐ向かっているのに遠巻きにマークしてるのがわかるだけで少しムカつくが、俺はこのドルガーブでは無名の15歳の冒険者でしかないからな。
フロントの従業員は流石にそんなことはおくびも出さずに接客してくる。
警備員がチームで少し近づいてきたので俺の後ろにクラリーナが立ち、左右はアイリとミーが立って少し警戒している。
気配察知と魔力察知のスキルを取得した3人の嫁は近づく警備員に気付いたようだ・・・いい傾向だ。
「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件でございましょうか?」
「今夜の宿を頼みたい。これが身分証明だ」
俺が銀色に輝くAクラスの冒険者ギルドカードをある程度の距離まで近づいていた警備員からも見えるようにアイテムボックスから取り出して提示すると流石に一目で気付いた警備員達は離れていった。
俺の行動のわざとらしさを察知した従業員が謝罪する。
「申し訳ございません。ここ最近はこのドルガーブの都市も物騒になっていたものですから」
「俺の高級ホテルに似つかわしくないラフな格好という・・・まぁ、そういうことにしておきましょうか。それで今夜の取りたい部屋は最上階で夕陽がきれいに見える場所」
「それでしたら最上階の特別スイートルーム『鳳凰』なら満足なされると思われますが」
「じゃあ、そこでいいよ。4名利用で頼む。それに明日の午後便の列車のチケットを購入したので、明日の16時までノンビリできるようにして欲しいんだが」
「それですと明日の夕方4時まで使用可能な『プランB』というコースプランがございまして・・・こちらで部屋をお取りしてもよろしいでしょうか?」
プランBだと明日の昼食までセットで付くタイプだったのでこれに決定する。
俺が全員の料金を纏めて冒険者ギルドカードで支払う。
料金は4人で1泊3食(今日の夜と明日の朝食と昼食となってるが時間設定が自由)付きで総額180万Gとなった。
15階建ての最上階は2フロアしかないうちの1つというのはシーパラの『クラッシック・グリフォンズホテル』と同じだな。
みんなを引き連れて部屋までいける転送部屋に入ってルームカードを全員で中央の魔水晶にかざすと部屋の玄関まで転送魔法陣によってひとっ飛びだ。
部屋の中に入っていって周囲を見渡すが数えるほどの柱と隣の部屋との境目の壁以外は全部が魔道石英ガラス張りでまさしく絶景だな。
俺がとった鳳凰という部屋は北側の部屋で朝日も夕陽も北へと続く海岸線も全てが一望できるみたいだ。
南側の部屋『朱雀』は冬は暖かくて北側の『鳳凰』よりも人気が高いのだが、この時期の天気のいい日から晩春・夏・初秋のシーズンは北側の方が人気が高い。
それに南側にはこのホテルよりも大きな高層ビルが数箇所あるので、海に沈む夕陽や朝日は障害も無く見られるが周囲を一望できるって訳じゃないらしい。
周囲を見渡して俺は全員にドリンクを渡しながら雑談。
このホテルはテラスは無いみたいだな。
ドルガーブの知識をアマテラスから貰ったのでみんなに雑談がてらに話す。
この都市ドルガーブの人口は40万人近くいて、俺の元々持っていた住民の数の知識に比べて倍近くに増えてる。
都市ヨークルの3倍近い住民が住んでいるが同じ物資の集積場として、ヨークルは農産物の集積場なので農業関係者は都市の外に新たなる水田や畑を求めて分散しそれに伴う商店や業者の商売人達は拡散する傾向にあるのに対して、ドルガーブは外国との玄関口であり海産物の集積場があるので、モノと一緒に人が集まってくる場所となってる。
住民は日々増えていってて面積も増えていってるのは・・・ここは元々小さな漁港があっただけのとても小さな村だったが、1000年ほど前にシーパラと北の最果ての街『エクステンド』への近道として駅が作られシーパラと蒸気機関高速鉄道によって結ばれた後からだ。
その頃はまだゴーレム帆船は無くて魔法による帆船を使用していたので海外からの輸入が北周り航路の場合、シーパラに直接運ぶよりも5日は短縮できるようになったらしい。
ドルガーブの敷地の半分は湾岸従事者の住居となっていて南北へ幅広くドンドンと伸びていってる。
ドルガーブを覆っていた外壁は外敵となる魔獣がほとんどいないので、10年前から毎日のように切り崩され、そのまま住居用の資材に替えられていっているので日進月歩の速度で都市が発展して広がっていってるる。
最北の都市エクステンドからの石材・鉄・鉱石も豊富に運ばれているし、シーパラ連合国で産出しない鉱石などは、ドルガーブに集積されて列車でシーパラに渡ってからシーパラ連合国内に渡るため材料費が安く仕上がる。
それで安価で大きな新築の家が持てると住民が増えて新築ラッシュがスタート。
多くの職人や商人の住民がさらに増えていってる。
国家間の大きな戦争がゴッデスたちの天罰で終了した10年前から活気を帯び、外壁の切り崩し作業がドルガーブ議会で採決されてから続く新築建設バブルは・・・まだしばらくは続きそうだな。
漁港もその中に入っており遠洋・近海などそれぞれの特色が出ていて、新たな漁の方法が開発されるたびに新たな食材がブームを起こすたびに、漁港は増えていってるとアマテラスから貰った資料にある。
シーパラ連合国から外国に輸出する農産物は種類も量も物凄く多くてシーパラに集められた農産物は荷造りされて封印。
南回り航路はそのままシーパラから輸出されるがシーパラは都市防衛上、これ以上広げることは不可能だったので、北回り航路の全ての施設や商人達の個別の倉庫が蒸気機関高速鉄道がつながれた後にシーパラから移設されている。
それをきっかけにドルガーブが発展したのだろう。
北回り航路の輸出商品は列車でドルガーブへ輸送されてから外国へ輸出されてる。
さらに外洋型の超大型ゴーレム蒸気帆船が外洋輸送の主流となった現在は、輸送船が出入り可能な湾岸施設がシーパラには無くてシーパラ連合国内にはこのドルガーブにしか作れなかったので『外国との玄関口』として大きく発展する要素となっている。
ドルガーブ駅から小型蒸気機関のトロッコ列車のレールがあって物資を港まで運んで走っていたのは上から見えた。
シーパラの港と駅の物資搬送は太い用水路によってゴーレム小型船で往復してる。
対照的な都市だな。
シーパラの用水路は北の町のブランディックスまで続いているんだが幅が狭くて、いかな小型ゴーレム船でも物資の輸送としては使えないらしい。
そんなことを雑談で話しながら時刻はまだ15時半、中途半端な時間となったな。
夕陽が見えるのは18時以降で今日の日の入り予定時刻は18時48分となっている・・・3時間以上もあるぞ?
「今日の日の入りの予定時刻は18時48分だから・・・18時15分ぐらいから30分ほど海に沈む夕陽を楽しめるとしても、それまでみんなどうしたい? 観光にでも回ってくる?」
「どこかにいい場所はありますか?」
「それがさぁアイリ、ここは歓楽街もあるけど船員と湾岸従事者の飲み屋と風俗ばかりで、観光になりそうな場所ってないんだよなぁ・・・『超大型ゴーレム蒸気帆船』を見に行くぐらいかな・・・」
「しん様、私は見てみたいのですけど・・・大きな船なんて間近で見た経験がないですし。シーパラに泊まっていた船の大きさに感動してしまいました」
「中まで入れるかわからないけど・・・あっ! 船舶博物館ってのがあって実際に外洋航路で使用されていた帆船の中に入れるんだって」
それで行くことが決定した。
俺も帆船の中になんて入ったこと無いしな・・・俺は飲んでいたコーヒーを飲み干してから3点セット魔法で浄化してマグカップをアイテムボックスに入れる。
嫁3人はそのまま飲みかけのままでアイテムボックスに入れたようだった。
全員で転送部屋に行って外に出る。
グラナドホテル本店の外にある広いゴーレム馬車駐車場でホップボードを取り出し、みんなで移動することにした。
目を見開いて俺達夫婦の移動するところを見てる人間が何人かいた。
ホテルから船舶博物館までは距離は2kmもない。
時速10kmしか出せないホップボードでも10分で到着した。
入り口で入場料を4人分払おうとしたら、グラナドホテルのルームキープレート提示で無料になっていると看板に書かれているのをミーが発見して、そのまま入り口で全員でルームキーを提示して無料で入っていった。
港の中の周囲を埋め立てられた水槽のような部分で大きな帆船が係留されていて浮かべられている。
帆船の中に様々な展示物や模型が飾られていて、船の歴史が子供でも分かり易く説明されている。
女性には退屈かもしれないなと思ったが精巧に作られた大型模型やジオラマに興味津々なようで、見たことも聞いたこともない初めて触れる知識を楽しんでるようだった。
俺も面白かったので色々とじっくりと見て周り帆船のマストの上の展望台に登った時は感動までしてしまったな。
これは10分貸切制で別料金だったが、ここもグラナドホテル本店宿泊客は無料だった。
空いていたし5人まで登れるようなので20分ほど貸切って上からの展望を楽しむ。
アイリもクラリーナもミーも俺に抱き付いてきて、注意の目線が無い状況でみんなでイチャイチャしてた20分だった。
外洋の超大型ゴーレム蒸気帆船は展望台から見ただけだが全長80m以上はあるスクーナー型の2本マストの帆船だった。
博物館の中の展示で知ったのだが3軸の大型スクリューを持っていてゴーレム動力と帆船の能力と蒸気機関の複合ハイブリット型となっていた。
無風の時で低速走行の時はゴーレム動力で直接シャフトを回して、高速走行の時は蒸気タービンでプロペラシャフトを回してる。
帆走するときにプロペラを回してゴーレム動力機関に逆に動力を伝えると、魔力タンクとなってる魔結晶に魔力が蓄えられるという方式が採用されている。
まぁ、この魔力補充の技術は確実に転生者だろうな・・・でもこの技術が確立したおかげで水車を利用した魔石&魔結晶の魔力補充施設が出来て、この魔法後進国のシーパラ連合国でも魔石や魔結晶を使ったゴーレム機関が発展したんだとジュンローに教えてもらった。
・・・物凄いECO社会だ。
このウェルヅ大陸の空気が美味しいのもガソリンなどの『燃料』が一切使用されていないからだろう。
船舶博物館を堪能し終えた頃は18時15分になってて、太陽は海のまだ上にある。
地球の場合は水平線から太陽が沈みきるまでは2分ぐらいだったが、イーデスハリスの世界でも似たようなものだろう。
そのまま寄り道しないでグラナドホテル本店の部屋に戻る。
肉眼では眩しくて見え難かった太陽もここまで傾けば赤く染まって見やすくなってるな。
海側に設置されたソファーに夫婦4人で腰を下ろして、ロマンティックで幻想的な風景に言葉も無くただ見とれてしまう。
俺は景色を眺めながらアイテムボックスからワインを取り出して静かに飲む。
嫁達も自分の好きな酒を取り出して飲み始める。
俺はスモークサーモンのスライスをつまみにしてゆっくりと味わってワインを傾ける。
別におしゃべりしても風景が壊れることは無いのだが、海の水平線のかなたに沈みゆく太陽の邪魔をしないように言葉を出さずに見とれていた。
太陽が沈み終わったのでオレンジ色に海が輝く薄暮の中を伝声管を使って晩ご飯の注文をした。
最上階のすぐ下の階に展望レストランがあって個室でもこの風景を楽しむことが出来るらしいが、スイートルームは部屋で食事ができるので運んできてもらう。
5名の従業員のカートワゴンによって運ばれてきた今夜の晩ご飯は純和食のフルコースって感じだな。
天ぷら・刺身・肉など様々な料理が出されるがメイン料理はしゃぶしゃぶだった。
お酒は純米の大吟醸だった。
日本の旅館方式で全部並べてから食後は教えてください後で取りに来ますと説明を受けた。
酒などの追加はまた連絡をくださいとメニューを渡されて、ダイニングテーブルに全部の料理が並び従業員は去っていく。
早速並べられた料理を味わうことにする。
どれもこれも全部美味しいし今日の昼食の列車内での食事と違って、ここでマナーも周りの空気も気にしなくてもいいので嫁達は味わって食べられたようだった。
しゃぶしゃぶのゴマダレは絶品だし天ぷらもサクサクだがぬか漬けが異常なまでに美味しかったのはビックリだった。
口休めで食べたはずなのにすぐに食べ終えてしまって伝声管を使って全員分を追加で頼んだ。
運んできてくれた従業員は手馴れたもので大盛りにして運んできてくれた。
「このぬか漬けのってムチャクチャ美味しいんだけどどうして?」
「こちらのぬか漬けはこのグラナドホテルの創業者グラナド夫妻が精霊魔法の秘術を使って作られてる漬物です。名も知らない転生者によってイーデスハリスの世界にもたらされた知識と、精霊魔術の融合がこの漬物の美味しさに入ってるとグラナド夫妻は常日頃おっしゃっています」
「へーなるほどねぇ。ここまで味がしみこむにはちょっと時間がかかりそうだけど」
「いえ、一瞬です・・・驚かれるのも無理は無いのですが、そこに精霊魔法の秘術が入ってるとしかお答えできないのです。ですので同じ味が再現できないために糠は販売されてませんが、漬物は大量に生産されてましてこのホテルの1階売店にお求めやすい金額で販売されています」
「そういえばホテルのフロントから見えた大きな売店があったな・・・売店の営業時間って何時までですか?」
「24時間営業されています。ホテルの正面玄関側とは別の出入り口からも出入り出来ますので外からのお客様も参られる大きな売店です。宿泊客の皆様はお会計の時にルームキープレートをご提示されますと全品10%オフとなるサービスも実施中です」
日本のスーパーみたいだな・・・船舶博物館といい上手く提携契約して商売しているのか、はたまた同じグループ企業なのか・・・どっちでも良いな。
漬物も買いたいし後で行ってみることにする。
従業員か部屋を出た後に食事を続けてるとアイリに聞かれた。
「しん君、転生者によってもたらされた知識と精霊魔術の秘術って何かわかる?」
「俺にもわからない。俺の中にある転生者の記憶や知識の中にはそういうものは無いな」
「しんちゃんの知らないこともあるんだね」
「俺は自分で勉強したりして得た知識じゃなくて全部貰った知識だからな。さっきの船舶博物館のような知識なんて知らなかったし、世の中に知らないことなんて山ほどあるさ」
「でも、あのハウスボートってしん様が作られたのではないのですか?」
「知識と経験がある物は作り出すことが出来る。でも俺の知識の元は転生者が持っていた知識と経験して得た知識しかないから・・・転生者が亡くなった後に進化した物は作り出すことは出来ないよ・・・」
ここで簡単にみんなに説明した。
ハウスボートや帆船は知識があるから造ることが出来るが、後世になって技術が発達した『ゴーレム蒸気帆船』は不可能。
逆に料理スキルやゴーレム製造スキルは歴史の影に消えてしまった技術なので現代のイーデスハリスにはほぼ消えかかった技術となってるが、俺の中には最盛期の知識と経験があるので作れる。
建築スキルも一緒だ・・・俺は材料さえあればシーパラ首都の商業ギルドのツインタワービルをすぐに作ることが出来る。
砦も建築スキル魔法を使えばすぐに作れるし、列車も線路も結界付きで製造可能。
「まぁ、賢者とは言っても知らないことはたくさんあるさ。クラリーナが説明してくれた祭りの話も、俺は全く知らなかったよ」