最高級個室を利用した蒸気機関高速列車の旅へようこそ・・・っす。
ガウンを着て寝室に戻ると少し酔ってる嫁達と乱痴気騒ぎになってしまった。
嫁達との久しぶりの一戦を終えて全員にガウンを着させてお姫様抱っこで一人ずつベッドまで運んで寝させた。
俺はガウンを着たまま、るびのの部屋に転移してワイバーン狩りから戻ってきたフォクサと、るびのから報告を聞いて大量のワイバーンの素材を、るびのの腕輪経由で俺のアイテムボックスに送らせる。
るびのとフォクサの2人とおやすみの挨拶をして俺は寝室に戻り嫁達の中に入って眠る。
裁判は俺の本体が寝た後でも続行中。
コイツラの目的から何から全部自分の口で話させた。
全ての処分を終わったのは深夜2時を過ぎたところ。
裁判を終えて2度と俺に関わろうとはしないと誓わせてから、商人と遠見魔法を使っていた2人の合計3人を解放してやったんだが・・・実は完全に解放したわけではない。呪いを封印してあるだけ。
一時停止して見えないようになってるだけで呪いのタネは残ってる感じだ。
俺が再び再生させるだけで元の悪夢に戻る。
今度やったら発狂しても精神が壊れても停めないと脅してあるし・・・保険だな。
バカ商人は『ゲッペンスキー家』シーズの家の執事で、俺を監視した理由は簡単で単純なもので・・・俺のゴーレム馬車を見てカッコイイと思い欲しくなっただけだった。
面倒だったんだが・・・
『ユマキ商会でもうすぐ似たような形の物が販売されるからそっちに問い合わせろ』
と、教えてやったら嬉しそうな顔をしながらバンザイ三唱してたんで、本物のバカかもしれん・・・俺を監視するという方法はいただけないがこういうバカは嫌いじゃない。
2人の遠見魔法の使い手は今後は俺に関わる依頼は一切受けないと固く誓ってる。
俺が見せた映像がよほど怖かったようだ。
遠見魔法の使い手なので細かいところまではっきり見えて・・・仲間らしき盗賊が俺に殺害される時に飛び散る肉片や脳漿や鮮血、自分が殺されるシーンのところも自分の顔面の中に入っていく俺の拳までハッキリクッキリ見えるのだそうだ。
この3人の解放は1時間も掛からなかったが3人の女を説得するのは骨が折れた・・・ではなく無理だったので俺のほうの心が折れた・・・説得を諦めて処分することにする。
呪いをかけなおして俺がゲルアー・シーズ・ユマキに絡まれているシーンを初めから何度も繰り返えさせたのだがそれでも・・・
『ゲルアーが正しいという自分の考えは一切間違ってない。悪いのは全部お前だ。全部お前に原因があるし、ゲルアーを土下座せたお前を許すつもりは無い』
との考えをまったく改めない。
ゲルアー自身が自分が悪かったと俺に謝罪しているのに・・・俺にはわからないが何らかの精神病を患っているレベルなので元の呪い状態にもどして3人の女性の精神が完全に壊れるまでエンドレスで流し続け、精神だけを完全にぶっ壊してやろうかと考えていたが・・・コイツラの場合は効かなそうで諦めた。
俺にはこのバカ女3人を救う術は無い、シーズ家の愛人や側室なのでなまじ美しく生まれた女性が権力と金を持ってるから始末に終えない。
コイツラは反省することなく今だけ謝って逃れてからまた同じことを永久に繰り返すだろうと判断した。
将来の不安の種を残したまま俺は解放する気は一切無い。
このバカ女3人はシーズの関係者としてスパイギルドにいつも仕事を依頼して小さな犯罪・・・他の愛人の弱みを探して追い込んだり脅迫したり・・・などを繰り返していたようだし、俺は敵に回り続けるヤツラに女といえど情けを掛ける気も無い。
転送魔法でそのままウェルヅ中央山脈のワイバーンの巣が密集する地域に3人の女性を飛ばしてやった。
パニックになって大騒ぎする女性たちを、子供のワイバーンがワラワラとあちこちから出てきて匂いを嗅いで探し回って3人の女性を発見。
ワイバーンの子供はバリバリと喰らい尽くしていって服の切れ端とステータスカードだけが残された・・・このワイバーンの巣が密集してる地域に足を踏み入れることはSSランクの青木勘十郎が国軍を率いても不可能だ。
最後に俺は残った衣服の切れ端とステータスカードを光の魔法の聖炎で焼き尽くして消滅させて完全犯罪完了。逆恨みを残させないためにも浄化もしておいた。
こうして廃棄処分が終わった後に完全に眠りに付くことにした。
明けて転生してから33日目の朝。
今日はドルガーブへの列車に乗って旅する日。
列車の出発時間が10時半で10時に早乙女邸をを出発すれば余裕で間に合うので9時起きの予定だったのだが・・・6時半に来客で俺だけユーロンド6号からの念輪で起こされた。
「ご主人様おやすみのところを申し訳ありません。『トリステックス・アルグライト』通称トリーとおっしゃる方がヨークル警備隊本部長補佐『ヨルグ・モハンメッツ』様と一緒に参られているのですが・・・」
「お! トリーか。そういえばそろそろザイモア商会の裁判も処刑もすんで開放された時期だしな・・・わかった客間に通しておいてくれ、俺は着替えてから降りていくのでそれまでの接客応対を頼む」
「「了解しました」」
嫁達を起こさないようにしてベッドから降りたのだが、俺の隣で寝ていたミーが目を覚ました。
「あれ? 早いわね。しんちゃん、今日って9時起きって言ってなかったっけ?」
「ああ、変わってないよ。来客があって今から話をしに行くところだ」
「それだったら私たちも挨拶に行ったほうがいいかな?」
「今日のお客は以前話したザイモア商会との騒動のときに一緒に行動していた二人だよ。なので強制はしないけど挨拶する必要もないからミーはノンビリしてていいよ」
「わかった。昨日はそこまで夜更かししてないし、もう起きちゃったから、私も起きるよ・・・って、クラリーナも起きちゃったみたいね」
「ミーさん、しん様おはようございます。どうかなされましたか?」
「今はクロが接客中だから、今朝の朝食はマリアに任せるよ。マリア!」
俺が呼ぶと庭でセバスチャンとともに畑作業をしていたマリアが転送魔法で飛んできた。
「お呼びですかご主人様」
「俺とクロはこれから接客するからマリアはみんなの朝食の準備を頼む」
「了解いたしました」
俺は洗面台に行って顔を洗い、ロンTとジーンズに着替えながら慌ててる理由をクラリーナに説明して1Fの客室に降りていく。
アイリは全く起きる様子も無く熟睡してた。相変わらず朝は苦手なようだな。
俺が降りていくと土足じゃない早乙女邸の解放された脚を伸ばし、足の指をグー・パーとして閉じたり開いたりしている2人がいたので横から挨拶する。
「久しぶりですねヨルグさんとトリー。クロ、俺にはコーヒーを頼む・・・ってトリーは、警備隊に就職したのか?」
あいさつ中に気付いたのだがトリーがヨルグと同じような警備隊の支給されている制服の革鎧を着ていた。
「お久しぶりです、早乙女さん。今日はその報告に来たんですよ」
「おはよう早乙女さん、そして久しぶりですね。俺のヒマな時間にヨルグさんと雑談ばかりしてましてね。事件の騒ぎが終わる頃にスカウトされたんですよ」
「まぁ、早乙女さんもご存知のようにトリーは元奴隷商人で警備隊には全く無いパイプを持ってますし、隷属の魔法やらの知識も幅広くて専門家並に深いです。なので今後どうするのか悩んでると相談されたんで、その場でスカウトすることしました。教育を終えた後は自分の直属の部下にする予定です」
それで色々と雑談してわかったのだが、今日からヨークルの南にあるビリザウム陸橋を渡って西に行くとある町『マイアートン』にある『警備隊教育センター』で1年間の警備隊訓練を受けてくることが決まったんだそうだ。
マイアートンはヨークルから荷馬車で1日掛かる距離にあり、今は人口4000人ほどの町だが元々はウェルヅリステルのように、るびのによって用水路以外は完全に消滅させられた巨大な砦があった場所だ。
今は再建されて外壁を持つ町に変わってるが用水路を利用した水田や畑などを広く持つ農業従事者のみが住んでいる。
それで大森林のど真ん中にあるマイアートンは幅が20m以上ある周囲の用水路を堀としているので魔獣の襲撃は少ないが、空を飛ぶ昆虫魔獣の襲撃は異常なまでに多い。
昆虫魔獣は数が多い割には旨味となるような素材が無いので冒険者に依頼を出しても誰も受けてくれないし、冒険者ギルドも無理な依頼は受け付けることが出来ない。
困ったマイアートンは最高評議会に相談すると警備隊教育センターを作って警備隊の練習で昆虫魔獣を狩る訓練をさせるようにした。
冒険者ギルドも金を出して同じ場所に冒険者養成スクールを併設させたので、今では住民が倍に膨れ上がって4000人になったらしい。
再教育を命じられた警備隊の人間も来るし、警備隊の幹部&教育者養成スクールもあるのでシーパラ連合国中から警備隊隊員が集まってくる場所でもあるんだそうだ。
用水路はシーパラ川の支流を利用して作られているのでヨークルやマヅゲーラからの定期便の船もあり、船だと3時間ほどで行けるみたいで、商業ギルド倉庫街出張所の隣にある連絡船ターミナルはここから近いので出発前に挨拶に来たようだ。
律儀に出発前の忙しい時間に俺に別れの挨拶にきたトリーに気を良くして、俺はこの前のアゼット迷宮攻略で夫婦で集めたアイテムの『ゴブリンリング+(プラス)』を2個とリザードドッグファイターのレアドロップアイテムの『バックラー』を2つを餞別として渡してやった。
トリーのサイズに調整してからプレゼントで渡してあげたら凄く喜んでくれたので渡した方も嬉しい。
2人は出発時間が近づいてきたので最後に立ち上がって挨拶と握手をするとそのまま立ち去った。
3人で30分以上は雑談していたようだな。
俺はそのままダイニングに移動して朝食を食べることにする。
朝食を食べ終わりリビングに移動した頃に着替えを済ませた嫁3人がリビングにやってきた。
みんな揃ったのだが・・・まだ時間は朝の8時になったばかりで流石に早い。
るびのに合いに行くと俺が言ったらみんな付いてきた。
それでみんなで玄関に行って初めて気付いたが・・・アイリもミーもクラリーナも俺が作ってあげた服装で、地球によくある格好をしてるのだが・・・靴は革製のローファーのみでカジュアルなものを持ってないみたいだった。
それでどうせ時間も余ってるし、るびのもまだ寝てるだろうから俺が全員分の靴を色違いも入れて10足ずつ作ってあげることにした。
パンプスやスニーカー、スポーツシューズなどを見本でいくつか作り、デザインもみんなの好みを聞きながらつくる。
これからの時期用でサンダルも作ってあげた。
アイリ・ミー・クラリーナの嫁3人による靴のファッションショーになっているが嫁が全員喜んでるようなのでこちらとしても作り甲斐がある。
今日の旅は暑くなりそうだったので全員がサンダルを選んで履いて行く事にしたみたいだ。
るびのに会いに行けたのは結局8時半をまわっていた。るびのは朝食を終えて毛づくろいの真っ最中。
フォクサが隣りでお座りして待機してるので有能な秘書か部下となってるな。
もともと3千年近く眷属をしていた部下だしな。
「あれ? とうちゃんとかあさん達どうしたの?」
「とうちゃん達は今日から都市ドルガーブに蒸気機関車に乗って1泊旅行してくるけど・・・るびの達はどうする?」
「うーーん。乗り物の旅は行きたくないからオレは別行動にするよ」
「るびの様、それでしたら私の故郷に一緒に行ってみないっすか」
「フォクサの故郷ってどこだっけ? この大陸の北の方だったよな?」
「はい。早乙女さんのおっしゃるように大陸の北の岩場で間違いないっす」
フォクサが空中に魔法で地図を描いてくれる。
フォクサは白帝の眷属としてこの大陸の中を転移魔法で飛び回っていたので物凄く詳しい地図を正確に描けるようだ・・・まぁ正確な座標が指定できないと転移魔法では移動することは不可能だから、当たり前って言えば当たり前なんだが。
「この周辺にワタシの子孫や同族たちが住んでるはずなんす」
「なるほどなぁ・・・るびのはどうする?」
「フォクサの子孫には会ってみたいから行ってみるよ」
「るびの様ありがたいっす。子孫達も喜ぶと思うっす。それにここ周辺は、るびの様や早乙女さん達が大好きな露天風呂も多くて気持ち良いっすよ?」
「それは俺も行きたくなってくるな。今度フォクサの故郷に連れてってくれ」
「それは問題ないっす」
「じゃあ、今度頼むよ。それに俺達も1泊してくるんだから、るびのとフォクサも同じように泊まってノンビリしてきたらどうだ?」
「外の温泉かぁ・・・うん、いいね。とうちゃんの言うとおりオレもフォクサと一緒にフォクサの故郷でノンビリしてくるよ」
るびのの予定もこれで決定した。
俺はアイリ・ミー・クラリーナの3人を連れて早乙女工房に転移する。
るびのにマリアとセバスチャンをサポートとしてつけて、ついでにフォクサの故郷を調べてきてもらうことにした。
生物・植生・土・魚介系の生態など調べるものはたくさんあり過ぎるほどなのでどちらか1人では手が足りないかもしれないと思い2人を連れて行ってもらう事にする。
時間はまだ少し早いが蒸気機関車に乗る前に北の食料品市場に行って酒と、るびの達に食べさせて量が減った魚介系の補充をすることに。
早乙女工房から4人でホップボードに乗ってゴーレム馬車が渋滞してる隙間を潜り抜けてシーパラ駅の隣に巨大な敷地を持つ北の食料品市場に到着した。
時間は9時近くで1時間ほどしか時間は無いが以前行ったことのある販売業者を中心に魚介系を買いあさり、るびの達が気に入ったとして食いまくったエビ・貝類を中心にを大量に購入した。
購入したものは全て〆てもらってからすぐにアイテムボックスの中に入れて運ばれてきてるので新鮮なままで保管されてる。
もしくは列車で生きたまま運ばれてきている物も数が多い。
それにしても並んでいる魚介系をみてると・・・季節感が無いな。
時期的にバラバラなはずのマグロ・秋刀魚・カツオの全部が美味そうなほど脂が乗ってる魚が並んでいる。
秋刀魚が発見出来たのはありがたいし、蟹なども並んでるので購入する。
今日はマリア達がいないので4人でくっついて雑談しながら歩き回ってる。
警戒網は広げて探査魔法で探ってるが俺達を商人たちが囲んでいる状態での移動なので逆に安全だろう。
俺の目利きのグルメ情報を聞こうとして業者が20人以上付いて回ってるしな。
チョコレートはすでにブームが起こりかけてるようだ。
幾つもの業者が販売していて各業者ごとに創意工夫が感じられる。
パン屋と提携を結んだ業者がとりあえず一番のヒットなようだ、今のところだけなんだけどな。
俺が今購入したフルーツを乱切りにして、チョコレートをナベで溶かせてチョコレートフォンデュにして食べるのをフルーツ屋の大将に実際に目の前で作りながら教えてあげると、俺が移動した後に業者の列がフルーツ屋にできていた。
時間になったので酒の購入をサッと済ませてから駅に歩いて行った。
今日は珍しい酒が入荷されてなかったので試飲させてもらって気に入ったワインを数種類ビンと樽で購入したらすぐに済んでしまった。
俺が食料品市場を出ると業者たちは散っていって、自分達の本来の仕事に戻ったようだ。
シーパラ駅内に入っていっていよいよ蒸気機関車による旅のスタートでワクワクしてくるな。
嫁達に食事のプレートと乗車券プレートをそれぞれ渡して改札を通って駅構内に入っていく。
シーパラ連合国にある蒸気機関車は首都シーパラと湾岸都市ドルガーブを結ぶ路線しか残っていないと思っていたが、昨日のパーティー中にグレゴリオからドルガーブから3000kmほど離れた北の最北の街『エクステンド』まで6日掛けて移動する蒸気機関の寝台列車の線路があると教えてもらった。
途中に12の駅があって各駅は2時間停車して点検と整備をしているらしい。
途中の村の数だけ駅がある・・・というか駅の数だけ村が増える。
こちらは余り人気がないようで線路幅が狭い関係で個室は日本にあるカプセルホテル並みの広さで、かなり狭く低価格の路線となってるので、そんな旅が好きなマニアと若者には大人気らしい。
他にはお金の余裕の無い冒険者や商人がよく利用しているそうだ。
この路線は高速鉄道ではなくて時速25km程度なので速度だけなら高速船の足元にも及ばないし、物資の輸送は大型輸送船がメインでもっぱら馬車の代わりの人員の低価格の移動手段でしかないそうだ。
途中の村も農村ばかりでフルーツを数も種類も豊富に産出しているが輸送は船がメインなので観光よりも仕事で移動するのに使う人が多い。
途中の駅で町が一つあるがその町が賑わってるのは近くにダンジョンがあるからだ。
最果てのエクステンドはウェルヅ大陸北部の山岳地帯に近い場所にあって、ここが栄えてるのは魔獣の被害がほとんど無いのに周囲を鉱山が取り囲んでいる。
良質で豊富な種類の石材も多く産出する場所だとゾリオンに教えてもらった。
こっちは乗る予定はなさそうだな・・・狭い個室に乗るぐらいなら時速100km以上を軽く出すことの出来る魔力パワーボートで移動した方が早いし、ゴーレムによって自動運転も出来るので楽だ。
それにしても駅構内に入ってから列車に乗り込むまでホームにも改札があって並んでいるのだが目の前にある蒸気機関高速鉄道の車両は巨大だ。
2階建てというのは知っているが高さは6mを超えてる。
幅も5mぐらいあって線路の幅も4m以上ある・・・知識や経験として俺の中にあるが、実際に目の前にしてみないと実感は無かったからな。
何しろ魔法で作られた線路は一直線で高低差もほぼ無い状態な線路。
元々大草原の真ん中を走っている線路なので途中に山間部など無く少し小高い丘がある程度なんだが、それも全て削られて一直線に200km以上もの距離を平らに作られている。
上下線の2本の線路の間が10mほど離れているがその全てを結界が覆っていて結界の中には虫すらも進入できないようになってる。
運転席があって操縦士もいるんだが、列車の操縦は半自動化されていて運転手は工程表に従い計算された時間に計器をチェックしてるだけらしい。
蒸気機関のタンクの水を温めているのも火の魔石を使用して魔力で沸かしているので、不要なガスも一切出ないし出るのは蒸気だけという自然に超優しいECO列車だろう。
俺が予約してた最高級個室は1番広い最後尾で最後部の部分は専用のテラスになってる。
この個室の最高収容人数は10名のところを4人で使う贅沢さだな。
従魔やゴーレムは個室の場合に限って自由に連れ込むことが出来ると聞いてる・・・食事は付けられないけど。
最後尾の車両は俺が予約した最高級個室ともう一つの個室しかない。
車両の半分は最高級個室で隣の個室との間には複数のメイドが控えている控え室があって、ここから部屋まで軽食もドリンクも運んでもらえる。
昼食は食堂車での食事になるがメイドが専用テーブルまで案内してくれる・・・超VIPだな。
まぁ、金額が最高級個室を4人使用で総額200万Gを超してるんだから当たり前だろう。
列車は後2車両は個室形態となっていてそれぞれ別口に階段があり出入り口まで独立してる。
俺達は最後尾の入り口で個室プレートを渡すと確認を終えた駅員から人数分のルームキーを貰い、駅員の隣に立っていたメイドが部屋まで案内してくれて部屋の説明を聞くことになる。
ここの個室にはトイレもあるし5人以上が座れる巨大なソファーセットが部屋の中央にあるだけでなく、両側の壁には並んで外を見るためのベンチシートまである。
屋根までの高さも3m近くあるし天井は1/3は魔道石英ガラスとなってて、天気が良過ぎる今日は青空しか見えない。
ブラインドの横についてるような紐が壁際の天井から下がっていて、まわすとレースの天幕が張られて直射日光を防げるようになってる。
入り口を入ってすぐのトイレの反対側には洗面台があってその隣には簡易キッチンまで設置されている。
キッチンの横には伝声管があって隣のメイド室に繋がっているのでドリンク・お酒・軽食の注文はここからできるようになってると、説明の最後にメニューを渡された。
全部の説明を終えるとメイドは隣の控え室に下がっていった。
その時に『ポーーー』という蒸気の笛の音が鳴り響き列車は動き出した。
説明時間まで測られているかのような時間設定だな。
いよいよ蒸気機関高速列車の旅が始まり駅のホームを列車は滑る様に走り出す。
俺達が乗り込んだ場所と反対側は1階部分の荷物の搬出と入荷が行われる場所、そして出発前の最終点検をする場所となっていたようで、今は荷物を運び終えた職員達が整備を終えた整備士達が走り出した列車に向かって手を振っている・・・日本の飛行場で見かけるような風景だった。
俺達は最後尾のテラスに出て手を振る職員たちに手を振り返してる。
シーパラ駅構内を抜けて10両編成の列車は加速しながらレールの継ぎ目もわからないほど滑らかに走る。
今日は暑くなりそうな天気だが今はまだギリギリで朝の爽やかな涼しさを残してるので、気持ちのいい風に吹かれて髪の毛を振り乱しながら、首都シーパラを取り囲む外壁を抜けシーパラ駅が見えなくなるまで周りの風景を楽しむ。
個室内に戻るとアイリからメニューを渡されて聞かれる。
「しん君、今日は朝から酒を飲むことにする?」
「昼食までは遠慮するよ。俺はホットミルクと軽食のクッキーを注文してくれ。みんなはどう?」
「私も同じものにします。ミーさんとアイリさんはどうしますか?」
ミーが壁際の天井から下がっている紐を引っ掛けてある壁から外してまわして幾つかの天窓にレースの天幕を張って、紐は天幕が張り終えた後に元の場所の壁に引っ掛ける。
アイリも俺にメニューを渡した後は違う紐をまわして、2人でソファーの上に当たる日光を遮ることにしたようだった。
戻ってきたミーとアイリが、立ち上がって伝声管のところに歩いていくクラリーナの背中に注文を告げる。
「私はもう飲むことにする。クラリーナ、私はビールをフライドポテトの注文をお願いね」
「私はこの特製ワインをお願いするわ。つまみはチーズの盛り合わせ」
「わかりました」
クラリーナが伝声管を通じて隣の部屋のメイド控え室に注文を出してから戻ってくる。
「へー特製のワインか・・・ふむふむ、この列車でしか販売されていないんだな。アイリ、特製のチーズもあるけど頼まないのか?」
「このチーズの盛り合わせには全部入ってるらしいからね、先にこっちを注文して美味しかったら追加で注文することにしたわ」
「へーなるほど。アイリさん上手く考えたのですね。確かにそのほうが効率が良さそうですね」
「しんちゃんは何でホットミルクにしたの?」
「昨日のパーティーで『クリス・シーズ・アギスライト』さんが言ってたんだよ。ここの列車には特別なミルクを卸してるんだって」
「私も聞きましたんで先に注文したかったんです」
そこで部屋がノックされてから注文した品を3人のメイドが運んで来てみんなが座るソファーの中央のテーブルに並べられる。
ここの個室は渡されたルームキーを持つ乗客と腕輪をつけたメイドしか通れないような厳重なつくりになってる。隣の車両にうつるのもメイドがいないとできないので、考え方によっては俺達は外に出られない半軟禁レベルだ。
みんなで雑談しながらドリンクや軽食を回して味わう。
特製チーズは想像以上に美味しくて早速追加注文してまた届けてもらう。
メイドに聞いたらこれは好評で列車内でお土産で販売もされているようなので食堂車の隣にある売店と駅のホームの売店で購入可能。
なので1kg1万Gと高級品になるがと説明されたので20kgほど注文しておいた。
個室の特権で食後に運んできてくれるらしい。
列車の右手側には大自然の大草原が広がっていて、左手側には同じ大草原でも魔獣のいない平和でのどかな風景だ。どちらにも牛や馬が草を食んでる。
どちら側も同じように丘があって草原が続いてる風景なんだが右手側には大自然の弱肉強食な自然があって左手側は管理された酪農の世界だ・・・どちらが幸せなんて人間には語る資格は無いが少し考えさせられてしまうな。
クリスおすすめのミルクはマジで美味かった。
牛? 馬? 羊? ヤギ? どれとも微妙に違っていて微妙に混じってるような不思議な味に驚いて、みんなで回し飲みして同じ注文を俺とクラリーナはもう1度した。
メイドにも聞いたが特製ミルクって言葉以外の情報が無くて答えられないらしい。
俺は鑑識魔法で調べたのでわかったが、牛・馬・羊・ヤギの全部が絶妙なバランスで配合されて魔法で融合されたのが特製ミルクみたいだ。
これはまったくもって不思議な味としか表現のしようがない。
味覚も全部がバラバラのようで美味く引き立てあっているかのように、全ての味が邪魔をしていないミルクが濃厚な味わいでバランスよくまとまっている。
鑑識で調べたので配分も製造法もわかってしまったので、材料さえあれば同じものが作れるようになった。
ヘルプさんにレシピを記憶させておく。
そういう意味では特製ワインが1番無難にまとまってて・・・逆に拍子抜けだった。
ここでしか飲めない味であってもクセを極力排除した万人受けするようなありきたりな味のワインだったので、かえってこれでは『この味が好き』って人は少ないだろう。
クセがあったほうが強烈に好き嫌いが分かれて、この味が大好きな人ってのが強烈なファンになってリピーターとして購入していくんだし。
注文した全部の品を味わった後はメイドを呼んでテーブルの上の皿やコップなどを全て片付けさせてる間に、まだ昼食まで時間があったので俺はもう1度外のテラスに出てみることにした。
髪の毛が舞うほどの強い風の中でも照りつける太陽の暑さで少し汗ばんでくるほどだ。
列車の旅として丁度いい季節なのかもしれん。
天気の良さそうな日を考えて選んだ旅だが正解だったようだな。
せっかく『海に沈む夕陽』を見に行くのに悪天候の日に行っても仕方がないしな。
シーパラに始めて来た時は天気の事を全く考えなかったので2日目は最上階の展望の意味が無いほどの悪天候だったしな。
などと考えているうちに脳内に黒電話の『ジリリリリン』という音が鳴ってアマテラスからの連絡が入る。
【真一お兄ちゃん、やっほー】
「おぅ、やっほーアマテラス」
【何で教会に来てくれないの?】
「まぁ、報酬を貰うだけだからな・・・後回しにした」
【ブーブー。すぐに来てくれると思ったのに】
「怒るな怒るな。それで今度はドルガーブの危機か?」
【うん。真一お兄ちゃんは明日帰る予定だけど今日の深夜に行われる闇取引の現場に踏み込んで欲しいの】
「なんだそりゃ、詳しく話せ」
俺は暑くなってきたので空調のきいた列車の個室に戻りソファーに座って嫁達と雑談をしながら昼食までの時間を潰していながら、脳内ではアマテラスとの会話を続ける。
こういった違法な闇取引での商品は奴隷と従魔とクスリが主だが・・・今夜のはクスリだ。
麻薬と毒薬らしい。
明日の早朝にアマテラスの神託を受けた聖騎士団が踏み込む予定なのだが、野生の感で危険を察知したのかわからないが闇組織が他国の冒険者崩れ3人を最近に雇って、その3人が昨日ドルガーブの街に到着した。
転生者ほどの戦闘能力は無いらしいのだが・・・戦闘時には麻薬で強化される20人の用心棒達と組み合わさると聖騎士団にも被害が出る可能性どころか100人程度の規模しかないドルガーブの聖騎士団では全滅する可能性まで出てきたので、俺にその前に叩き潰して欲しいんだそうだ。
「なるほどね。全滅させて良いの?」
【うん。真一お兄ちゃんにお願いしたいのは今回は買い付けに来る客も麻薬の販売業者で、売りに来る業者も麻薬の生産元の大物。主催者側・買い付け業者・生産元の全員の親衛隊・用心棒まで含めた総勢74名の全滅をお願いしたいの】
「ほいよ。んでもって報酬は?」
【釣りMAPってのはどうですか?】
「なんだそれ」
【このイーデスハリスの世界西方のウェルヅ大陸内と周辺外洋の釣りに適した時期・季節・最適なエサなど網羅した脳内MAPをご提供するの!】
「なんかバカにされてるかと思うほど安く済ませれてるような気がするけどな・・・まぁいいや。俺の脳内にある記憶や経験が麻薬業者と聞いただけで恨みが膨れ上がってしまってるからな。上手く利用されてしまってるが仕方が無い・・・踏み込む現場の場所など地図も教えてくれ」
【ちょっと待っててね・・・ゴッデス様経由で真一お兄ちゃんの脳内に送るから】
俺の脳内に様々なデータが送られてくる。
ドルガーブの詳細な地図・ドルガーブの違法取引の場所と敷地・建物の地図・今回の襲撃で退治する74名全員の顔画像を含む履歴書・前回の報酬の釣り道具の設計図・今回の報酬予定だった釣りMAPなどが全部俺の脳内のヘルプさんのほうに直接流れ込んできた。
「お! 今回は前払いか?」
【うん。そういうことでお願いします】
「了解、またな」
アマテラスの会話を終えたときに丁度メイドが入ってきて昼食の準備が出来たことを告げる。