冒険者ギルド後継者選びの騒動が終焉を向かえたっぽいっす。
まぁ、行く訳ないよなぁ・・・ここまであらかさまに怪しい集団は珍しいレベルだ。
「ユーロンド5号は引き続き正門の防衛任務。早乙女邸の1番近くにいるユーロンドは今すぐに来てくれ」
俺は隣にいるユーロンド5号に指示を出してついでに1番近くにいる応援を呼ぶ。
瞬間移動のような超スピードで後ろにユーロンド2号が立つ。
「1番近くにいたユーロンド2号です。手伝いますか?」
「いや、いいよ。手伝いはいらない俺が全部しとめるよ。ユーロンド2号は今すぐ、ここから1番近くにある警備隊詰所は・・・アリザウム大橋にあるな。そこに行って警備隊の応援を呼んできてくれ。全員を今から捕獲して警備隊に引き渡す」
「はっ!」
ユーロンド2号が姿を消すように飛び上がって早乙女邸の塀を軽々と越え、そのまま超スピードで警備隊詰所まで走って行った。警備隊が到着するまで10分弱ってところかな。
ユーロンドは数秒で到着するけど警備隊が装備と人数を整えて早乙女邸の前に到着するまでの予想時間が約10分。
俺はユーロンド5号が少しだけ開けてくれた正門の扉の隙間からスルリと早乙女邸の敷地の外に出る。
正門はすぐに閉じられて厳戒態勢になってる。
師匠ゴーレム達や魔獣ゴーレムも早乙女邸の庭や畑や裏庭に潜んでいて、いつでも戦争状態になれる。
今現在は俺が警戒レベルを最大に引き上げたままなので、もふもふ天国の各店舗や早乙女商会、早乙女工房の警戒レベルも最大になって厳戒態勢になってるだろう。
敵はゴーレム馬車3台に分乗してきた36人。
大型のゴーレム馬車3台のうちで少し離れた場所の暗がりに停車中の前後の馬車の影には抜刀してるヤツラが10人ずつ。
正面のゴーレム馬車の前にユーロンドに話しかけてきた人間が3人いてヘラヘラした笑顔を俺に向けていて、ゴーレム馬車の後ろには7人の抜刀した人間が息を潜めて隠れている。
そして正面のゴーレム馬車の中には3人の人間がいて鑑識魔法によれば、3人の職業が『結界師』となってるから・・・早乙女邸の厳重な結界の解除に呼ばれたのだが、俺の封印結界を主神ゴッデス以外が解除なんて出来るはずもなくて、作戦変更して俺を呼び出しでゴーレム馬車の中で俺に封印結界を掛けようと隠れているのだろうな。
それで驚くべき事だが大黒豹の魔獣が3頭、各ゴーレム馬車の天井の上に乗っていてテイマーもそれぞれ1人ずつ乗っている。
・・・ヨークルの街中でも首都シーパラでもグリーンウルフや炎虎、珍しいところだと森林タイガーをテイムしてる人は何人もいたし町を連れて歩いてるところも見たことがあるのだが、昼間寝てて夜にしか活動できない大黒豹をテイムしてる人間を初めて見たからだ。
目の前のヘラヘラしてる男が話しかけてくる。
「早乙女さん、大変なんですよ。先程首都シーパラにある冒険者ギルド本部から『ペスカト・ビッタートが謎の集団に襲われた』と緊急連絡がありまして大怪我を負っているので大至急、エクストラヒールを使いこなせる早乙女さんに治療していただきたいと・・・」
「あーもー、深夜に五月蝿いなぁ。バカのウソ話に最後まで付き合うつもりはないぞ。そもそもなんだけどさぁ・・・お前らみたいなカスが200人以上の集団で襲っても魔装術を使いこなせるペスカトを傷一つ負わせられないから。すぐにばれるようなウソはつくなよカス」
「なに! クソ、計画変更だ! 今すぐやれ!」
テイマーが大黒豹を俺に襲わせようとして大黒豹が立ち上がりかけた瞬間に、俺は気合の篭った大きな声を出す。
『ふせ!』
大黒豹がゴーレム馬車の上でふせをしたまま微動だにしなくなった。
テイマーが押しても引いてもスキルで命令しても全く動かない。
動くわけない、既に強引にだが3頭の所属は早乙女真一になってるからな。
俺の所属になったモフモフを傷つけるつもりは一切無い。
全く動かない大黒豹に計画の全てが狂ったみたいだな。
既に話しかけてきたリーダーらしき男の全知識を俺の脳内に『情報複製』の魔法でコピーしてあり、情報の整理はヘルプさんが担当して終了してる。
大黒豹を使って俺に襲撃して、俺が大黒豹と戦ってる間に早乙女邸内に全員で突入して女を人質に取り、財産を奪った後で皆殺しにしてペスカトの仕業に見せかけようって、くだらない作戦なんて即効でつぶしたった。
「お、おのれ! こうなったら全員で一斉にかかれ!」
「おいおいおい、もう作戦ないのかよ。ツマンネーの」
作戦がないことは知ってるがワザと挑発するためにあえて口に出して言う俺。
カタナを2本抜いて両方の峰を返す。
ボッタクリ治療費回収作戦のスタートだな。
俺はゴーレム馬車に封印を掛けて中の結界師は逃走出来ないようにした。
更に周辺にもスパイギルドを襲撃した時のように結界の中に入ることは出来るけど、外に出ることは出来ない移動禁止の結界を張り・・・それから笑顔で暴れ始める。
「大もうけ! 大もうけ! 治療費で大もうけ!」
のんきに歌いながら俺に迫りくるロングソードや槍の直接攻撃や、投げナイフ・弓矢などの遠距離攻撃も全て避け、カタナで逸らせたり時折カタナの刃を返して邪魔な大剣や盾などを斬りおとしたりしながら、返したカタナの峰で敵を叩き・・・手足・肋骨・鎖骨などをへし折っていく。
バカの治療費は国が後から回収してくれるし、俺には前払いで国から相場以上の高い治療費の倍の金額を請求した分だけもらえるんだからな。
逃げようとしたテイマー3人も同じように手足を折られて地面を蠢いてる。
差別はよくないしな。
大黒豹はふせの姿勢のまま呑気に眺めてるだけだ。
最後にゴーレム馬車に残った3人の結界師を始末しますかってところで時間切れになってしまった。
ユーロンド2号が警備隊の隊員10名を連れてきたからだった。
応援で周囲の倉庫街の夜間警備員も借り出されて来ているので30人以上が集まってきて最後に取っておいた3人が仕留められなかったな・・・ちっ、儲けが減った。
2本のカタナを鞘に戻して戦闘は終了。
今日の夜間担当のアリザウム大橋の警備隊責任者である警備隊副隊長が説明してくれって言ってきたので説明する。
ゴーレム馬車の上にいた大黒豹は俺が降りて来いって言ったらすぐに降りてきて、俺に頭を撫でられて嬉しそうな表情をしてる。
とりあえず蠢くカスの苦痛の声と助けを求める声の汚い合唱が五月蝿いから鑑定の魔法が使える隊員と一緒に33人の治療をしてやる。
メガヒールを30回以上も使いまくってるので警備隊のほとんど全員が俺を見て驚愕してるが、副隊長に俺の話を聞いて『彼が噂のヨークルの救世主か・・・』と納得してた。
近所の倉庫に勤めてる夜間警備員の人達はほとんどが顔見知りだし俺の噂は充分知ってるので驚きもしない。知らない人が数人いて驚いていたが仲間に説明されて納得してた。
治療費は1人500万Gで今回はなんと驚きの特別価格、そのまま倍の1000万Gです!
ボッタクリバンザイ!!
33枚の全員分の治療費請求書に金額を書いて俺のサインをして警備隊副隊長に渡す。
後日国から俺に3億3000万Gが渡されることになるだろう。
治療を終えた頃に警備隊がコイツラが乗ってきたゴーレム馬車をそのまま使ってヨークル警備隊本部に護送することになったので、俺もついて行って本部で説明することにする。
ゴーレム馬車を運転する3人以外は元の場所に帰っていった。
襲撃者を逃げられないように全員を裸にひん剥いてから、彼らのアイテムボックスに入っている全てを没収し、ゴーレム馬車の中に全員詰め込んで俺が扉を封印してから移動開始。
俺はゴーレム馬車の屋上に上って腰の2本のカタナをアイテムボックスに仕舞ってから寝そべり、大黒豹3頭に渡してつけさせた首輪についてる念輪機能で話をする。
大黒豹は走ってゴーレム馬車についてくる。
所詮時速10kmしかスピードが出ないゴーレム馬車の後ろなので、魔獣の大黒豹からすればちょっと早歩き程度だが。
名前を聞いたら『エドガー』『アラン』『ポーズ』と3頭の名前を足すと推理小説家のような名前だった。
3頭は兄弟でテイマーギルドで生まれてすぐに売られていた大黒豹。
小さな時からテイム魔獣として育ってきた。
これカタ自由になるから何かしたいことはあるかと聞いたら・・・
『わからない。命令された事しか、したことが無いです。自分でしたい事と急に言われても、わからないんです』
と3頭ともに同じ答えが返ってくる。
これはどうしたもんかな。
とりあえず魔獣に罪はないということで処分されてしまわないように動かないといけないな。
モフモフは正義だ。
命令されたことだけしか出来ない・したことがないという彼ら3頭を処分するという法律だと国が言うなら、俺は魔獣を率いてシーパラ連合国に独立戦争を吹っかけてしまいそうだ。
・・・確か過去にケンカを売ってきたバカを処分した時や犯罪者を捕まえた時に持ち物は自由にしても良いという法律があって、俺は盗賊とかの装備品を貰ったはずだ。今日も既に身包み全部奪ってるし。
それを盾に3頭を俺が引き取る方向で話を進めよう。
3頭の教育や今後の話はひとまず後回しだな。
20分ほどゴーレム馬車で走ってヨークル警備隊本部に到着する。
前にも来てるので正門前の出入り口で冒険者ギルドカードの確認だけで中に入っていける許可が出る。
後をついてくる大黒豹3頭も俺が口で簡単に説明しただけで咎められもせずにすんなり中まで入っていくのは・・・ここまで来ると逆にちょっと心配になるが、まぁそれだけ俺には信頼があるって事だろう。
中に入っていくと以前のザイモア商会事件の時に会った事がある警備隊本部本部長補佐のオッサンが出迎えてくれる。俺はゴーレム馬車の天井から飛び降りて本部長補佐『ヨルグ・モハンメッツ』と握手をかわす。
「ひさしぶりだな早乙女君。君の噂は益々広がってて、今夜もヨークルに潜む悪党を捕まえてきてくれたみたいだな」
「お久しぶりですヨルグさん。すまないが冒険者ギルドヨークル支部のギルドマスター『ラザニード・ヴェイケルシュタット』に連絡を取ってくれ、コイツラはペスカトの名を語る一連の騒動の関係者だ」
「私には意味がよくわかりませんが、緊急事態のようですし指示に従いましょう。おい!」
ヨルグが部下に指示を出して冒険者ギルドヨークル支部に1人、ギルドマスターのラザニードの私邸に1人の警備隊の隊員が連絡の為に走っていった。
俺はゴーレム馬車の封印を解くと中から裸の36人の男共がが出てきて、そのまま全員が囚人服を着せられて隷属の首輪を装備させられて牢屋に直行だ。
俺はヨルグに相談する。
「ヨルグさん話があるんだが、彼らがテイムしていた3頭の魔獣の事なんだ」
ヨルグは俺の隣でお座りして待っている3頭の大黒豹を驚愕して見る。
「はぁ? もしかしてそこにお座りしている魔獣って君がテイムしてるんじゃないのか?」
「ああ、彼らが連れてきた魔獣でテイムしてたのは俺ではなく、今連れてきたヤツラの中にいた3人のテイマーなんだ」
「・・・うそ、だろ・・・」
まぁ驚くだろうな。普通には絶対にありえない事だ。
育ててくれたテイマーを完全に無視して俺に甘えてきてるんだからな。
俺は確認でヨルグに聞いてみたが・・・テイムされた魔獣の場合はとりあえず取調べをしてから処分が別口で裁判されるのだが・・・今回の場合はムチャクチャ強引になんだが騒動の中で、3頭の大黒豹はテイマーから俺に”譲られた”形になってしまうので魔獣を鑑定で調べて所属が俺になっていることを確認して、事件の調書をとった後は俺の所有する魔獣になってしまうんだとか。
ふぅ~、良かった良かった。戦争しないで済んだな。
俺は安心して普通にエドガーの頭を撫でながら話しかける。
3頭は既に俺の3点セット魔法でモフモフ度が最大まで上がってるのでさわり心地が最高だな。
「エドガーもアランもポーズも俺の所有になる事が決定したよ。まぁ君らの将来はこれからゆっくり考えような」
「ありがとうございます、ご主人様」
「魔獣がしゃべった!!!」
俺が3頭の頭を交互に撫でながら普通に話しかけるとエドガーが当たり前のように返答する。
それを聞いていたヨルグの部下が大声を出して驚き、周囲は大騒動になる。
俺は以前、アイリたちに説明したように魔獣は話せる事を説明してエドガーたちも会話してくる。
これで魔獣には真偽官つきで直接調書を取ることが決定してしまった。
なにしろ過去に自分達が参加した事件などエドガーたちは全て詳細に記憶していたからだ。
『魔獣と会話できる』ということが一般常識になるまでは、これから長い時間を要することになるが・・・ここの『ヨークル警備隊本部』で行われた魔獣への取調べ調書作成から始まった。
何しろ真偽官が同席してる取調べ調書作成には『真実』しかありえないからだ。
それをウソだと証明するには真偽官の全てを否定することとなり、それを証明しないことには”戯言”でしかない。
俺はエドガー・アラン・ポーズの3頭の全部の調書作成の立ち会っている。
俺が所有者としてサインする必要があるし。
流石に同席する真偽官も神妙な顔をしてる。
全長が3m以上もある巨大な大黒豹を取調べした経験なんてないだろう。
今後は増えるカ可能性はあるけどな。
調書作成が終わって取調室から出てくると俺の取調べ立会いを終了するのを外で待っていたラザニードが興味津々な顔で挨拶してくる。
彼も魔獣からの調書作成って言うのは初めての経験だろう。
俺は時間も11時半をまわって腹も減っただろうエドガーたちを警備隊本部の中庭に連れ出して、芝生の上に大きな桶を3つ並べて骨付きトロール肉の焼いたものを10kgずつ食わせてやった。
凄く美味しいですと言いながら食ってる大黒豹3頭をそのまま放置して、俺は隣に立っているラザニードに話しかける。
「ラザニードさん、まだ今回の騒動の首謀者は見つかってないみたいだな」
「あぁ、また今回も早乙女君の世話になってしまって申し訳ない」
「俺はラザニードさんが冒険者ギルドシーパラ本部に掛け合って俺への無茶な依頼を冒険者ギルドは断るようにって本部の会議の議題に出してくれて、それが正式に認められて通達が出てくれたので凄く助かってるよ。本部ギルドマスターの青木さんに直接聞いた」
俺自身が不思議に思っていたことだった。
冒険者ギルドの指名依頼がゾリオンから1度入った以来誰からも指名依頼を受けてないからだ。
無名のうちならともかく『ヨークルの救世主』と呼ばれるようになった今でも指名依頼がないのはおかしいと思って青木さんに聞いた答えがラザニードの奔走にあった。
商業ギルドはヨークルではリーチェ、シーパラではマリスが俺の専属窓口になってるので彼女達以外から依頼されることはないし、何度か指名依頼が入ってると言われたが全部ゴーレム関係だったので断った。
何も対応してない・出来てない絶賛放置中の職人ギルドが今のところ一番ヤバイだろうな。
「それは冒険者ギルドから早乙女君に迷惑をかけた、せめてものお詫びだ。その代わりにAランクになってもらうってのが冒険者ギルドの総意となってしまったがな。明日の朝に正式な通達が出るから明日の午前10時にヨークル支部まで来て欲しい。Aランク昇級には昇級の記念式典があるのが、この国では通例となってるんだ」
「了解。明日の午前10時だな・・・必ずいくよ。そういえば今日の事件で『ペスカトが謎の集団に襲われた』って俺を自宅から誘い出しにきたんだけど、たぶん・・・事実だよな?」
「ああ、それは事実だ。ペスカトは10人の謎の集団に襲われた・・・やっぱりヤツラと繋がってるんだな今回の犯人も・・・これで首謀者が益々わからなくなってきた。あぁ、ペスカトは怪我一つしてないから安心してくれ」
「ペスカトの心配なんて初めからしてないよ。魔装術を使いこなせるようになったという話を聞いてるからな。魔装術は攻撃よりも防御に特化した特性魔法と言うべき『自分集中型の防御魔法』だ。伝説級の武器でも使わんと傷付けることなんで出来やしない」
「そうだな・・・流石の転s『シッ!』・・・スマン。ここは冒険者ギルドのギルドマスター室ではなかったな。不用意だった」
「ま、そんなことはいいさ。それでラザニードさん、今回の一連の騒動の首謀者はわかったのか?」
「それは今、必死に俺とペスカトとニールが捜査しているが、どうしても2人のうちから1人に絞り込むことが出来ないんだ」
「それの答えは簡単だ。俺はそれを伝えるためにラザニードさんをここに呼んだんだ。いいか? ・・・その2人は念話のスキルをお互いに持ってて、表面上はシーパラの幹部職員とヨークルの幹部職員として、いつもいがみ合ってるように見えるが、裏では念話で絶えず情報交換をしてつながってるんだ。だから2人ともが首謀者なんだよ。共謀してる主犯ってところかな」
「なんだって? ・・・あっ、そうか! それなら全ての辻褄が合うな。俺は急いでペスカトとニール達に連絡を取らないと・・・」
「あぁ、急いだ方がいい。ヤツラは今日の2つの事件と昨日の事件で自由に使えた子分たちの全ての手駒を失ってしまってるから、後は逃走しか道はないといずれ気づくだろう・・・後は時間との勝負だな。今夜中なら間に合うだろうから聖騎士団と協力して逮捕に向かったほうがいい。シーパラの警備隊本部にはヤツラの協力者が何人かいるから、情報は筒抜けになる。だからシーパラでの逮捕は聖騎士団の協力を知り合いにでも頼んだほうがいいよ。ヨークルの方はこれから俺が協力するから、今すぐ逮捕に向かおう。警備隊の人間もゴーレム護送車も今ここで借りればいい」
「わかった。では俺は今から警備隊の今いる責任者に話をして協力を頼んでくるよ」
ヨルグに協力を頼むと犯罪者を逮捕するのは自分たち警備隊の使命ですと喜んで協力してくれた。
ゴーレム馬車は俺が運転する事にする。
幹部の自宅を知ってるのは今日の襲撃者リーダーから知識をコピーした俺だけだ。
警備隊のゴーレム馬車と腕利きの隊員3名を借りて逮捕に向かう。
エドガーたち3頭はヨークル警備隊本部の裏庭でそのまま待機しててもらう。
エサの骨付きトロール肉の炙りはもう20kgを追加であげると、またバリバリと食い始める・・・よほど腹が減ってたみたいだな。
話を聞くと朝から何も食ってなかったらしい。
襲撃予定を組まれた日は朝からは毎回エサを抜きにされるって言ってるので更に10kgほど追加であげた。
魔獣は残して一連の襲撃事件の首謀者の片割れの逮捕に向かう。
近いので5分もしないうちに到着した。
ヨークルの中央付近に賃貸ではなく邸宅を構えて住んでるってことは、先祖からの裕福な家系なんだろう。
到着した家もそこそこの広さだったので、門の前で作戦会議しようとして集まってると門が開き始めたんで慌てて陰に隠れると・・・本人が出てきた。
ラザニード達はまさかの本人登場に驚愕して固まってるが、俺はすぐそこにいるのは知ってたがまさか出てくるとは思わなかったってぐらいで、そんなに驚いてはいない。
それに本人の装備してる格好を見て納得してる。
完全装備・・・たぶん早乙女家襲撃を失敗したと感じて最終確認に行こうとしていたのだろう。
それでそのまま逃走するために完全装備なんだろう。
コイツはシーフだな。
忍者のような格好で背中に弓を背負い、腰に10本のナイフを装備してる。
まぁ逃がすつもりもないし・・・歩いて近づきながら友達に出会ったかのような気軽な挨拶から、かましてみる。
「よぅ! オッサン。夜中にフル装備でどこに行くんだ?」
「誰だ貴様は!」
「シーフのクセに夜目も効かないのかよ・・・チッ、仕方がない。サービスだ」
俺は周囲にいつもより大きめのライトの魔法を10個ほど浮かべてやった。
「何だと! クソッ、貴様は早乙女、いったい何のようだ!」
後ろに2mほど飛んで俺との間合いを開けようとした瞬間に、俺が5m以上飛んで一瞬にして目の前に俺が現れて驚愕して俺の顔を近くで見て叫ぶ。
「うるせぇよ、夜中にデカイ声を出すなバカ。それに何の用だは俺のセリフだ。俺の家に襲撃を仕掛けておいて、そのまま逃げられるとでも思ってるのか? 俺はそこまで優しくないよ『死ね!』って、バカだなぁ、これで正当防衛が成立した。遠慮なくお前を壊させてもらう」
オッサンは俺の甲殻鎧の隙間に両手で装備したナイフを何度も何度も突きたててくるが・・・刺さりもしないし斬れもしない。おやっさんが俺のために作ってくれたサイラスの甲殻鎧だ。
甲殻を避けてナイフを刺そうとしても甲殻以外の革の部分はワイバーンの革だ。
この程度のナイフに、この程度の腕では1mmたりとも刺さらない。
「つーか、その程度の腕でよく俺の襲撃命令を出したな。まぁ後は取調室の中の真偽官の前で歌っていただきましょう」
俺は俺の体に突きたてようとしてるオッサンのナイフを持つ両手を掴んでナイフごと両手を握り潰す。
握り潰した両手を持ったままオッサンの口に向かって頭突きをして上下の前歯を木っ端微塵に。
何しろこれだけデカイ家だからな。
国も治療費の取りっぱぐれがないだろうから遠慮なく壊す。
握り潰した両手はナイフごと握りこんだまま、のけぞるオッサンの左右の足にローキックをかまして両膝をぶち壊した。
叫び声すらあげることが出来ずに、糸の切れた操り人形のようになったオッサンの両手をここで初めて離してあげた。離すときに腕を逆にひねり両肘と肩関節まで丁寧に砕いておくのも忘れてない。
「早乙女君、君は顔に似合わずに意外とえげつない事をするなぁ。もしかしてエクストラヒールをするつもりなのか?」
「ええ、その前に治療の鑑定をお願いします」
骨折や怪我の損傷箇所を警備隊の隊員の立会いの下でピクピク痙攣してるおっさんの体を全部調べてから俺がエクストラヒールをかけると、オッサンの体は全身が光の膜に覆われて・・・光る膜はオッサンの体に吸い込まれていく。
光が消えた後は完治しているオッサンが残る。
「流石はエクストラヒールか・・・凄まじいな。砕けた歯すらも元通りか・・・」
俺は警備隊の隊員の治療費請求書に3億Gと書いてサインを入れて完了。
1回1億5000万Gと言うのは最高評議会で支払われた金額なので、更に倍! という金額を書き込んでやった。
エクストラヒールに値段はつけられない・・・俺の言い値が値段になるからな。別に金が欲しいという訳じゃなくこのオッサンを困らせたいが為だけってってのが、俺の度量の小ささを現してるだろう。
またもオッサンの身包みを剥いでアイテムボックスに持っているもの全てを俺のアイテムボックスに移し変えて護送車で運ばれていく。
オッサンの知識を俺の脳内にコピーするのも忘れずにおこなう。
警備隊の1人がゴーレム馬車を操縦して素っ裸のオッサンに隷属の首輪を装備させてから運んで行った。
ラザニードは冒険者ギルドヨークル支部に戻って、今からシーパラ本部と連絡を取りもう1人の首謀者を捕獲するように提言しにいった。
俺は残った警備隊隊員2名とともにオッサンの邸内を強制捜査する。
今回はそこまで大きな家ではないし、出てくる犯罪の資料や証拠品も今までの強制捜査に比べれば格段に少なくて限られているので1時間も掛からずに終わる。
俺自身の慣れと言うものもあるのだろう。
邸内にいた執事やメイドなどは戻ってきたゴーレム護送車に参考人として運ばれていった。
俺のコピーした知識からすると執事は逮捕されて犯罪者奴隷へ、メイドは被害者でもあるので教会からの保護を受けるという流れになるだろう。
俺はヨークル警備隊本部にゴーレム馬車で戻りながら、アイテムボックス内で捜査資料の補足説明文と注意書きを書いて準備しておいて、最後に全ての資料の目録を作っておく。
後は説明して渡すだけの状態にしておいた。
警備隊本部に戻り全ての資料と証拠品を説明文と注意書きを渡して警備隊の隊員に説明していく。
最後の目録を渡して今日の捜査は完了だな。
大黒豹3頭を連れてまずは冒険者ギルドに行く。魔獣登録しないといけないからな。
冒険者ギルドヨークル支部に到着して中に入っていくと大きい方の会議室に誘導された。
会議室のイスに座ると俺の周囲にエドガー達はふせの体勢で待機する。
3頭の登録を済ませ首輪を俺の好みの紅色に変更させて念輪機能を追加でつけながら、3頭それぞれにネームプレートを装備させると会議室にラザニードが入ってきて話の続きだ。
「ラザニードさん、シーパラの方の幹部は上手く逮捕まで出来ましたか?」
「逮捕はしたが、こちらと違って逃亡しようとして揉めた際に応援に来てくれていた聖騎士団の方に怪我人が出てしまったようだ。逆襲してくる可能性が高いから注意しておくようにと通達はしてあったんだが・・・聖騎士団の団員に怪我まで負わせてるんだからな、参考人ではなく現行犯で逮捕して隷属の首輪を装備させて今はスムーズに邸内を捜索中との事だ」
「まぁそれも想定内だろうに。ワザと攻撃してくるように仕向けたんじゃないのか?」
「それは否定しない。こちらには表向きの『言い分』が必要だし、邸内を捜索するために隷属の首輪を強制的に装備させるわけにはイカンからな」
「それで今回の一連の騒動はとりあえず治まったと言えるのかな?」
「ああ、ギルドマスター交代に伴う裏の動きを炙り出すというこちらの目論みは達成したからな。将来の反逆者予備軍まで全て捕らえる事が出来た。明日の早乙女君のAランク昇級式典の時に同時に冒険者ギルドシーパラ本部ギルドマスターの後継者を発表する予定だ」
「クックック、ビッタート卿が『ラザニードに逃げられた』って怒ってるらしいね」
「それは仕方がないよ。タイミングの問題だな。先月の事だったら俺が本部のギルドマスターに就任させられていたことだろうな。まぁ俺は今回の騒動と同じように裏方に回るよ」
「ラザニードさん、ニールから貴方の本音を聞いてるよ。評議会など会議が大嫌いだって」
「ああ、あんな堅苦しくて面倒臭い会議のどこがいいのか俺は理解できないな。評議会に参加したいが為に殺人まで犯すヤツラの気がしれん」
「権力欲ってのは得てしてそんなもんじゃないのか?」
「だろうな。青木さんの手伝いで政治工作とか何度か手伝わされたけど面倒過ぎて気が狂いそうになるのに」
「権力欲・・・それは俺にも理解できないから全くわからない感覚だな」
などと雑談してるうちに深夜1時をまわってしまったので帰宅することにした。
ラザニードと握手をして別れ、大黒豹3頭を引き連れて深夜の帰宅となった。




