素直でマジメな生徒が多いと教師になってしまうっす。
鬼が出るか蛇が出るかと身構えて魔法学校の教室に入っていくが・・・見た目はほとんど俺と同じぐらいか少し若い子もいる。
13~18才までで魔法の素質がある者のみを国中から集められているのが、ここの魔法学校だ。
なぜ首都のシーパラでなく都市ヨークルに魔法学校があるのかというと白帝への配慮ではなく、恐怖の記憶からだと噂されている。
ウェルヅリステルで栄えた魔法文明は白帝戦争で失ってしまったので、再び首都を失うわけにはいかないとシーパラ連合国の最高評議会は判断し、首都シーパラに500年後の今現在までは魔法学校を開校する許可をおろさなかったからだ。
シーパラの住民の中に魔法が発展することに恐怖がある人達がいるので、その人達のための配慮なので予算的・人為的な国からの支援は得られているのだが。
教会の中にある魔法学校なので魔法の勉強しているのは教会関係者の子弟がほとんどで18才をを過ぎると他の国にある『魔法研究所』に留学しに行って更に修練と経験を積み重ねて30歳になって帰ってくるのが決まりなんだそうだ。
商人の子供が魔力が高く生まれてくると初めから外国に留学する人間ばかりだし、そのまま留学先に就職してしまう。
うん・・・正直言ってクソ生意気なガキがたくさんいるのかと思ったら、みんな超マジメで若干俺のほうが引いてるぐらいだ。
全員俺の事をよく知ってるみたいでキラキラした目で熱心に俺の話を聞こうとしてる・・・生意気なエリートも不良もいない・・・というか全然エリート感が無いな。
さぁ、何から教えればいいのかな・・・日常的なものからのほうが取っ掛かりやすいかな?
いつもの3点セット魔法から教えることにする。
魔法を使う上で1番重要なのは・・・『イメージすること』
必要な魔力を最適な量を使用して最適な効果を得ることが重要だ。
少ない魔力を使った練習方法に3点セット魔法は最適だろう・・・細かい魔法制御も必要なのでイメージも鍛えることが出来る。
3点セット魔法は『洗浄』『浄化』『乾燥』の3つの魔法が組み合わさって出来ている魔法なんだが、洗浄魔法だけでも実は水と風の複合魔法になってる。
空気中の水分(空気中の水分が足りない時は自分の水魔法で生み出す水)と自分の魔力で生み出した風を混ぜて微粒子のような小さな泡を作り出している。
その魔法の小さな泡を洗浄しようとしている対象物に風魔法で擦り付ける様にして汚れを落としている。
微粒子ような小さな泡に汚れを引っ付けて地面に落とすか、邸内などではゴミ箱に捨てている。
俺・マリア・セバスチャン・クラリーナの場合はアイテムボックスの中のゴミ箱に入れて後でまとめて捨てている。
魔法学校の生徒には箱を渡してゴミ箱にして自分のアイテムボックスに入れる練習をさせた。
汚れを洗い流した後にくるのが教会関係者の光魔法でよく使う『浄化』なんだけど、浄化の光そのものには聖なる力は宿っているが、浄化の淡い光では対象物を乾かす力は無くて浄化の光で殺菌しているだけ。
それで最後の魔法『乾燥』・・・これは風魔法と火魔法の融合で温かい風を”適量”送って対象物を乾かして終了する。
対象物を乾かせ過ぎてもダメだし乾かせなかったら問題外だ。
こうやって説明すると魔法のイメージがしやすくなるだろう。
後は脳内でイメージした通りに適切な魔力を使えば出来上がるから、初めはゆっくりと子供達に練習させる。慣れてきたらスピードアップしていけばいい。
使い込んでいけば一瞬で全てができるようになる。
さすがエリート集団だな30分もしたら全員が使いこなせるようになっていた。
今はまだ3点セット魔法の各工程に1秒ずつかかっているが慣れれば一瞬でできるようになるだろう。
この3点セット魔法で1番難しいのは本来は『浄化』で、生徒の全員が既に浄化を使いこなせているというのが、ここまで早く3点セット魔法が習得できた理由だろう。
それで全員が手こずったのは洗浄だった。
小さい泡というイメージがなかなか出来なかったみたいで、何度か水浸しになったりもした。
・・・優秀だなぁ、時間が余ったぞ。
それで魔法は魔法でも『生活魔法』の練習をさせる事にした。
最小の魔力のみで出来ないとか、もしくは使いこなせていない者がほとんどで、生徒の全員が魔力のゴリ押しで生活魔法っぽく使っているだけだったからだ。
最小魔力の使い方のコーチを始めると全員が嫌な顔もせずに真剣に取り組んでいる姿を見て少し嬉しくなって来て、俺も熱心に教えはじめるとユマキ商会で早乙女式ゴーレム馬車の動力部分を作った時のように俺の教師スキルが発動する。
最小魔力の使い方を覚えると魔法の威力に幅が出てきて、そこに複合魔法を絡めると大幅に威力を上げることが可能になる。
俺の隣ではローグの息子2人がイスに座らせてもらって真剣に話しを聞いているが魔法は使わないように言ってあるので今日は授業の見学してるだけだ。
それで自分なりにメモだけ取らせ後日練習するように言ってある。
10歳以下の小さな子供にしては今日は短時間で魔法を使いすぎだからな。
しかも今日、生まれて初めて魔法を使ったんだから無理のしすぎはよくない。
17時半になって授業が終わる頃には全員が生活魔法を最小魔力で使いこなせるようになっていた。
これで全員が魔力の効率のいい使い方を学び今後に生きてくるだろう・・・基本に忠実に・・・基本がしっかりしてこそ発展があるからな。
・・・実は俺も知らなかったのだが、こんな訓練は世界中でどこでもやってない画期的な授業だったりする。
何しろイーデスハリスの世界での魔法は効果を及ぼす範囲とか大きな威力に目を奪われがちで『より強く』『より広範囲に』という勉強しか、どこの国の魔法の学校でも魔法専門の研究機関でも研究してない。
効率の良さとか最小魔力で最大効果なんて研究は今日のこの授業から始まってたりする・・・
授業が終わると見学していた司祭から質問攻めにあう。
俺独自の魔法学習の授業スタイルに普段は教師をしているみんなも興味津々だったみたいだ。
様々な質問の中で俺が言った言葉
”シーパラ連合国は魔法後進国。だけどそこは商人の国らしく効率の良さを求めるようにすればいい。他国と同じことをしていても追いつくことは出来ない。むしろ他国の後を追うのではなくて・・・独自の『魔法を学ぶ効率』とか『最小魔力で最大の効果を及ぼす魔法』などを研究すれば良い”
これが俺の知らない間にこの国の魔法学校の基本方針になっていた。
質問を終わらせてから新居に帰るローグ一家のゴーレム馬車を見送ってから、そのまま教会魔法学校の前から俺はホップボードに乗って自宅に帰っていく。
15分ほどで自宅に到着して玄関で靴を脱ぎ3点セット魔法で全身・服・靴まで完全に浄化するとサッパリした気分になるな。
リビングに行くと、るびのはリビングの自分のクッションの上で、フォクサは隣にお座りして2人は寛いでいた。
俺はフォクサ専用のクッションを作ってあげるとフォクサもクッションの上で寝そべって寛ぎだした。
「あっ、とうちゃんおかえり」
「早乙女さん、おかえりなさいっす。クッションありがとうございます。クッションを作るスキルは持ってるんですけど素材がなくて作れなかったっす」
「お、2人とももう帰っていたのか早いな」
俺は話しながらクッションを作る素材をフォクサに渡した。
フォクサは自分のアイテムボックスに次々と入れていく。
「今日は狩りもしないでガウリスク・ニャックス・アキューブ・水影・ニャービスのところにフォクサと挨拶に行っただけだよ」
「お! 魔獣全部を呼び捨てにしてるって事は、るびのはみんなを眷族にしたのか?」
「うん。何か必死にお願いされちゃって、まいっかって思った。そしたらみんなに『私は白帝様の部下になったのですから呼び捨てで読んでくれないとダメです』って怒られちゃった」
「まぁそうなるわな。フォクサも眷属が増えて良かったのか?」
「元々彼らは白帝様に与えられた力で強くなった眷属の子孫ですから、これも自然な流れじゃないかとワタシは思ってるっす」
「それもそうか。確かに5頭とも先祖の元をたどれば眷属なんだから、るびのに眷属にしてもらうのが種族の悲願って言ってたしなぁ」
「それで明日は水影の提案で大草原のみんなを引き連れてトロール退治に決まったっす。ワタシが転移魔法で送る事になったっす」
「アキューブが大喜びしそうな遠征作戦だな。前も水影がトロールが最近増え過ぎて困ってるって言ってたもんな」
「明日の作戦には銀大熊が多くて300頭以上が参加するみたいっす。それで早乙女さんにもお願いがありましてまたセバスチャンさんを明日一日借りられないかと思ってます・・・ダメっすか?」
「わかった、いいよ。トロール肉の回収だろ?」
「ありがたいっす。ワタシもアイテムボックスの(大)は持ってるんすけど、何しろ明日だけで3000頭以上のトロールを狩るとアキューブが豪語するほど張り切ってるっす。流石に3000って数字は早乙女さんと繋がっているアイテムボックスを持ってるセバスチャンさんか早乙女さん本人がいないとどうにもならないっすから」
「3000って言うのは凄いな。そんなに増え過ぎてるのかよ」
「大黒豹も森林タイガーもそこまで大食いな種族じゃないっすからねぇ。それで眷属のみんなで相談したんすけど、これからはワタシが定期的に大森林の南側に銀大熊を送って間引くことにするって決定したっす」
「そうして貰うとありがたいな。ヨークルに増え過ぎたトロール軍団が戦争でも仕掛けられても困るしな。・・・わかった、毎回行く前に教えてくれればセバスチャンかマリアを貸し出すよ」
「いえ、次回から狩りの量は百単位になると思うんでワタシだけで大丈夫っす」
「それじゃあ、フォクサにお願いしたいんだけどトロールが増え過ぎてる原因を少し探ってきてくれ。明日はセバスチャンにも手伝わせるから」
「了解っす。私どもで解決できればいいんすけど・・・」
「手に余るようなら俺に教えてくれ。俺も手伝うからな」
「あざっす」
「ねぇねぇとうちゃん、今夜の晩ご飯なんだけどまた外の裏庭でバーベキューをしないかな?」
「今夜の晩ご飯は見ての通りまだ何も決まってないよ。るびのはバーベキューがしたいのか?」
「この前のエビとかカニとか殻ごと焼いて食べたのが凄く美味しかったから、フォクサにも食べさせてあげたいなーって思ったんだ。フォクサも焼いたトロール肉が美味しいって言ってたしきっと気に入ってくれるはずだよ」
「なるほどな。でもこの前焼いた材料がまだ残ってるから今すぐにでも食えるぞ?」
そういって前のバーベキューで食後にセバスチャンが焼いてくれてた伊勢えびやカニを桶にいっぱいフォクサに渡すと、いきなり一心不乱になってガツガツと貪り食ってしまった。
そういえば530年も眠らされててその間は何一つ食って無かったからな。フォクサから『腹がメチャクチャ減ってて”飢えてる”』って直接聞いた。
るびのも俺も取り残されてる。
桶の中にあった10匹以上の伊勢えび・車えび・カニも数種類あって桶にいっぱいあったのだが数分で全部フォクサが食ってしまった。
『焼いた甲殻類うめぇ~~!』
フォクサが食い終わってから叫んだ時はちょっとビックリした。
「気に入ってもらえたようで何よりだがまだまだたくさんあるけど、フォクサはどうする?」
「まだまだ食べられるんで、いくらでもくださいっす。今までは生でしか食ったことなかったんで、甲殻類は苦手だったんすけど、焼いた甲殻類がここまで美味くなるなんて知らなかったっす」
フォクサにも追加で桶に出してあげて、るびのにも桶にいっぱいの焼いたエビやカニを出してあげたら2人でバリバリ食べだした。
俺もアイテムボックスから取り出したエビとカニの刺身をつまみにビールを飲みはじめる。
嫁たちも帰ってきたので全員でそのまま晩ご飯になった。
今夜の晩ご飯はご飯と赤だしと漬物以外は今まで作って食べてきた料理の大量に余ってた分のおかずになった。
たくさんの種類のおかずが幾つもの皿の上に乗って所狭しとダイニングテーブルの上に並んでる状況は・・・カオスだ。
ウナギの白焼きの隣の皿に青菜炒めがあって、その隣の皿には豚トロの炙りが載ってたりする。
ダイニングテーブルの上はちょっとしたビュッフェみたいになった。
俺は今日はご飯と赤だしは無しにしてビールジョッキを片手におかずを食いまくる。
こうやって見ると、このイーデスハリスの世界にきてから約1ヶ月・・・たくさん食ってきたな。
たくさんの料理を見てると中々感慨深い。
・・・最初は米もなくクマ食ってたからな。しかもただ塩を振って焼いただけのシルバードのクマ肉。
いまだにシルバードの肉は余ってるし。
まぁ感傷に浸るのはこれぐらいにして俺も脳味噌の活動を停めて無心で食うことにした。
おかずはたくさんある。食欲もたくさんある。
食事が終わってダイニングからリビングに移動した頃には全員食いすぎで動けなくなってる。
フォクサが1番食ってたな。でも全員が満足げな顔になってるのは、こういう事でもストレス発散できるしたまには必要なんだろう。一心不乱に食べるって・・・楽しいし。
るびのが食後にいつもの3点セット魔法でセバスチャンにキレイにしてもらい、ネコのように前足で顔を洗ってる。
セバスチャンに3点セット魔法を教えてもらって練習してるフォクサ。
アレだけ食べてたのに、スイーツは別腹とばかりにリビングで生クリームたっぷりのクレープを満面の笑みを浮かべて食べてるクラリーナ。
蒸かしたジャガイモのチーズ掛けを食べてワインを飲んでるアイリ。
チャーシューをつまみにしてブランデーを飲んでるミー。
俺はいつもの芋の3種盛り(ポテトチップス・フライドポテト・ハッシュドポテト)をつまみにウイスキーを飲む。
飲みながら食べながらの雑談は夕食後も続く。一家団欒ってこの事だな。
るびのは夜9時ぐらいにフォクサとセバスチャンを連れて風呂に入りに行った。
「そういえば今日のみんなのアゼットダンジョンアタックはどうだった?」
「ユーロンド1号の防御が完璧なので気兼ねなく魔法を打ちまくりました。でも私の魔力回復の為に休憩を長めにしていただいたので攻略はそこまで進んでいません。今日は地下13階までです」
「私も大剣の実戦練習が進んでるわ。地下13階のオーガロードを一撃で上から下まで一刀両断できた時は感動しちゃったわね」
アイリが立ち上がって身振り手ぶり付きで嬉しかった出来事を表現してる。
・・・アゼットダンジョンはB1FからB10Fまでの魔獣の上位種がB11FからB20Fまで繰り返されるダンジョン形態だ。5階ごとのボスも同じように上位種が出てくる。
ちなみに・・・
地下1階は ゴブリン 地下11階はマッチョゴブリン
B2F オーク B2F オークロード
B3F オーガ B13F オーガナイト
B4F モウギュー B14F バクギュー
B5F サイラス(ボス) B15F サイラスファイター(ボス)
B6F ミノタウロス B16F ミノタウロスロード
B7F リザードドッグ B17F リザードドッグファイター
B8F キラービー B18F キラービーナイト
B9F バジリスク B19F バジリスクロード
B10F サラマンダー(ボス) B20F サラマンディスト(ボス)
となってる。
B20F以降はガラリと顔ぶれが変わるのだが・・・これもまたB30FからB40Fまでの魔獣はB20FからB30Fまでに出てくる魔獣の上位種が出てくるとアイリとミーに教えてもらった。
「なるほどなぁー。情報をありがとう勉強になったよ。それで今日はどうだったんだ?」
「今日はアイリの大剣の練習を兼ねていたし、クラリーナの魔力総量の問題もあったから長めに休憩しながらじっくり攻略してきて・・・今日はB13Fまでね。オーガの角がたくさん手に入ったよ」
「大量のオーガの角は俺のアイテムボックスにもマリア経由で送られてきてるから知ってるよ」
するとクラリーナがリビングの真ん中のテーブルにオーガナイトロードの金色の角が2本、オーガナイトの銀色の角が3本並べる。
「オーガナイトロードも1度ペアで出てきました。しん様、これがドロップアイテムです。それと魔結晶はマリアのアイテムボックスを経由してしん様に送ってあるはずです。それで地下12階でも上位種が出まして・・・私はもちろん、アイリさんもミーさんも見たこと無いアイテムなんですが・・・これはオークロードの上位種『オークファントム』のドロップアイテムです」
クラリーナが最後に自分のアイテムボックスからテーブルに取り出したのは何かのグリップみたいなんだけど、手に持つ部分のグリップしかないアイテム(?)だった。
鑑識魔法で調べてみると
鞭『オークウィップ』
所有者 早乙女ミネルバ
ダンジョン内でのみドロップする武器。
オークロードの上位種『オークファントム』のレアドロップアイテム。
普段はグリップのみだが使用する時は魔力をグリップに注入するとオーク革の鞭が出てくる。
最大の長さは注入した魔力に準じ所有者のみが使用出来る。
鞭の最大の長さは10m。
「もしかしてミーがこのアイテムを最初に拾ったの?」
「うん、そうだよ。よくわかるね、しんちゃん」
「これって武器の鞭『オークウィップ』で所有者の魔力が注入されると反応してオーク革の鞭が出てくるタイプだな・・・所有者がミーとなってるのは最初に拾ったからだろう。所有者がミーのままだと鞭が出せないから鞭を出すことが出来なかったんだろう」
ミーは魔力の放出方法を知らないからな。鞭を出すことすら出来ないし、所有者を変更しない限りは鞭として一切使えないな。
俺は1度オークウィップを装備して無理矢理ミーから俺に所有者を変更した・・・力技の強引な所有者変更は早乙女一家の中では俺しか出来ない。
俺の魔力をほんの僅かにだけ注入するとシュルシュルっとオーク革の鞭が1mほど出てきた。
1mぐらいの鞭を伸ばしてクルクルまわすとヒュンヒュンと音を出して回るオークウィップ。
鞭としてのバランスは上々だ。
俺が盗賊から取り上げた鋼鉄製のハーフプレートアーマーをアイテムボックスから出して空中に投げ、瞬時に3mほどに伸ばしたオークウィップを叩きつけると真っ二つに鎧が割れた。
今までソファーに座ったままだった俺が立ち上がって壊れた鎧を調べたが・・・たいした威力ではないな。
鞭の威力で切ったのではなく俺の持っている力とスピードで鎧を真っ二つにしたに過ぎない。
嫁3人はビックリしていたが俺が威力の実験をして・・・たいした性能がないと説明したら興味を失ったみたいだ。
「魔力で伸ばせる武器なんて面白そうだったから欲しかったけど、私じゃ鞭を伸ばすことも出来ないしね」
「ミーが使いたいなら改造してあげるよ」
俺はアイテムボックスから単1電池サイズの魔結晶を取り出してミスリルとオリハルコンでグリップも含めて全部コーティングと装飾を施してグリップを握りやすくしてから、魔結晶の中に魔力と敵の魔力を吸い取る闇魔法『マジックドレイン』を封入して、最後に早乙女一家以外には使えなくなる封印を施して完成。
鑑識で調べたら名称が既にミネルバオークウィップ(改)になってて笑った。
ミー専用になったな。
ミーがちょっと振り回してみたいと言ってるので全員で靴を履いて地下練習場に移動した。
初めのうちは自分の後頭部に当たったりして鞭に振り回されてる状態だったが、俺のアドバイスで初めはもっと短くした状態の2mほどに縮めて使用してからすぐに上達し始める。
30分後には上級の鞭使いレベルになってるのはさすがミーだな。
扱える長さは5mぐらいまでが限界だったが。
ミーの場合は脳内のイメージで鞭の長さを自在に変更できるようになるまでに、ちょっと時間が掛かったぐらいで鞭の動かし方はすぐにマスターできる。鞭の威力は今後の訓練次第だな。
ミーから少し借りて俺がミネルバオークウィップ(改)を3mほどの長さの棍のようにして振り回しても使える。
中国武術で使用する棒のようによくしなるので、棒術でヒュンヒュンと振り回してミーに変化の見本を見せてから返す。
正直言ってこれは使い勝手が良さそうだな。
ミーの場合はアマテラスに貰った祝福『属性攻撃』が上乗せできるのでミーの専用武器にすると自由度が上がるからこの武器はミー専用のものになったんだろう。
俺がミーの装備で使ってる腰ベルトの右側の部分にミネルバオークウィップ(改)のホルダーを作ってあげた。
それでセバスチャンから念輪連絡が来て、るびのとフォクサの長風呂が終わったみたいだ。
既に使いこなしている3点セット魔法で体を浄化させたフォクサが自分の巣に戻ってきたところで、地下ワインセラーの前で俺たちとすれ違う。
みんなでフォクサにおやすみの挨拶をする。
かなり眠そうで目をパチパチしておやすみの挨拶を返すフォクサにホッコリしてしまう。
俺達夫婦も今から風呂に入りにいく。
露天風呂に『あ”~~』って言いながら湯船に浸かって上を見上げて気が付いたんだが・・・今日は昨日と時間が違い過ぎて露天風呂からの角度だと月が見えないし、満月で星も見にくい。
外に出て裏庭の方に歩いて行けば満月は見えるんだろうけど露天風呂に入りながらの月見酒は今日はできそうもないな。
それに今日は夜暗くなってから雲が出てきたみたいで、裏庭が月明かりに照らされている中を雲の陰が移動してる・・・雲があって満月が見にくいようだ。
「それでしんちゃんは明日の予定はどうする?」
「明日かぁ・・・今のところ何も予定がないんだよね。とりあえず、もふもふ天国ヨークル2号店を今日の昼過ぎに開店したから見守ることとお客の動向調査ぐらいかな。後、久しぶりに買い物でも行ってこようかなって考えてるぐらいだよ。みんなはどうする?」
「私は一日中弓の練習をしようかと考えています。1度弓の事だけを考えて真剣になって練習してみたかったんです」
「私は午前中はクラリーナと一緒に地下練習場に篭ってレイピアと鞭の二刀流の練習しようかな・・・それで今日のアゼット迷宮の地下12階で拾ったドロップアイテムで『豚モツ』があったから、午後は豚モツの煮込み料理をやろうかと考えてるよ。だから午後からは本屋と食料品市場に買い物に行ってから夕方は料理しちゃおうと考えてる」
「ミーも? 私も明日は料理しようと考えてたわ。それなら明日は私が午前中に食料品市場に行って昼食は私が担当で夕食はミーが担当ってことにしましょう。私は午後から大剣の練習を地下練習場でやるわ」
話が落ち着いた頃に・・・急に俺が立ち上がってマジメな声を出す。
「明日の予定が決まったようだな・・・ってところで、外に来客だ。ユーロンド5号が対応してる。冒険者ギルドからの緊急連絡だって?」
「しんちゃんどうしたの? 何かの緊急連絡?」
「何かまだよくわからないが冒険者ギルドシーパラ本部の幹部ペスカト・ビッタートが謎の集団に襲撃されたようだ。全てのユーロンドと忍に命令を下す。警戒レベルを最大に上げろ」
俺のワイバーン襲撃以来の真剣な剣幕に嫁の3人が立ち上がる。
「しん君私たちも冒険者ギルドに行く?」
「みんなはゆっくりしててくれ。いつものように過ごしていてくれて構わないよ。冒険使者ギルドから迎えのゴーレム馬車が来ているらしいので俺が行ってくる」
まるで酔い覚ましの散歩をしてくるよって気軽な感じで風呂を出て更衣室に歩いていく間に全身を3点セット魔法で浄化して乾かしてから、更衣室でアンダーシャツとアンダーパンツを着てサイラスの甲殻鎧を装備する。
更衣室から玄関に歩きながら左右の腰には天乃村正と雪切正宗を装備して頭にはサイラスの甲殻から作ったヘッドギアを装備してるので、今日はサイラスの甲殻鎧の完全バージョンをフル装備している。
玄関で甲殻ブーツを履き外に出て行くと正門の外道に10人乗りの大型ゴーレム馬車が停車してる。
俺が正門までゆっくりと歩いていきユーロンド5号が正門を開ける前にユーロンド5号から念輪連絡が入る。
「ご主人様、もしかして本当にゴーレム馬車に乗っていかれるんですか?」
「行かないよ」