深夜の露天風呂での月見酒はクセになりそうっす。
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冒険者ギルドシーパラ本部に向かって歩いているが・・・ヨークルの3連続巻き込まれ事件の時と違って俺を尾行してくる人間はいないし、遠見魔法による監視も全くない。
上空にライトの魔法を2つ浮かべて歩いていると、ガウリスクとニャックスとアキューブから念輪のパーティー回線の連絡が入る。
「お久しぶりですボス。今、お話させてもらってもよろしいでしょうか」
「おう、久しぶりだなガウリスク。もしかして空狐のフォクサのことか?」
「ハイ。あの伝説の空狐様が復活されて明日、私共の巣にまで挨拶に来てもらえると聞いたものですから」
「ああ、間違いなく伝説の神獣で空狐のフォクサだ。実はな・・・」
俺はフォクサを拾った経緯を全部ガウリスク達に丁寧に説明した。
説明ってほどでもないがガウリスクやニャックス達の話を、るびのから聞いて挨拶回りをするってのはフォクサの意見らしいから、フォクサの方がみんなに会いたがってると説明しておく。
「それで俺にワザワザこんな時間にみんなで念輪で話しかけてきたのはどういうことなんだ?」
「ニャックスです。実はボスにお願いがありまして・・・我々3頭を白帝様の眷属にしてもらえるようにお願いできませんでしょうか?」
「それは俺じゃなくて、るびのと既に従属神にまでなっているフォクサに頼めよ」
「アキューブですけど・・・私どもはボスの部下なんですけど、るびの様に眷属にしてもらえるようにお願いしてもよろしいのですか?」
「るびのの眷属になっても、俺の部下をやめるのも自由にしていいよ。俺はみんなに人間と共存することをお願いした『誓い』以外に縛りつけるつもりはないし。るびのの眷属になってお前らは何かしたいことはあるのか?」
「うーーん」
3頭とも悩んでいたがガウリスクが代表して答える。
「我々のグリーンウルフ・炎虎・銀大熊達は全て太古の時代に起こった魔獣戦争で滅びた獣の種類の中から、白帝様のお力で獣から魔獣へと進化して生き残ることが出来た種族です。ですので種族の長となり白帝様にお使えすること、眷属にさせてもらうことが悲願であるとも言えるので、眷属になった後の事は今まで考えていませんでした」
「なるほどね。なら、なおさらのこと今俺に言ったそのままの言葉を、るびのに明日言ってみろよ。るびのも真剣に考えてくれるだろう。でも・・・たとえ眷属になってもみんなは俺達早乙女一家と一緒に行動するのは極力控えてもらうけどな」
「「「どうしてですか?」」」
「うちはお前らみたいな巨大な魔獣が3頭も住んで暮らせるほど広くないんだよ。それにそれぞれの種族のリーダーのお前達が種族をまとめてもらわないと、また大草原が戦国時代になるだろうが」
「それはそうなんですけど。ではボスは我々が白帝様の眷属になること自体は反対しないって事でよろしいでしょうか?」
「ああ、ニャックスの言うとおり俺は反対はしないよ。反対する理由も全くなしな。・・・眷属になるかどうか・・・それはお前らと、るびのが考えて話し合って結論を出せばいい。俺から言えるのは『家に来るなら小さくなれるようになってから来い』ってことだけだ」
「「「わかりました」」」
ここで真面目な話が終わって雑談になった。
俺のアイテムボックスに余っているトロール肉はアキューブ達『銀大熊』の大好物らしく大草原にトロールがいなくなったのは銀大熊がトロールの驚異の繁殖力を超えて狩りつくしたせいだった。
それでも10数年前まではなんとか生き残っていたみたいだけど。
トロールがいなくなったので似たような味の大陸王亀で我慢していたんだってさ。
上手くいかないもんだな・・・大森林ではトロールが増え過ぎて大黒豹や森林タイガー達では増え過ぎたトロールを狩るのに一苦労しているのにな。
銀大熊軍団を引き連れて遠征軍でトロール間引き作戦でもした方が手っ取り早いかもな。
るびのやフォクサと明日一緒に挨拶回りに行くセバスチャンにトロール肉を運ばせると言ったら『15年ぶりにトロール肉が食える!』とアキューブが狂喜乱舞して喜んでいた。
炎虎やグリーンウルフにとってはオークの方が美味しいといっていたので、俺もアイテムボックスにはオーク肉も食べつくせない量が入っているので、そちらも持たせると言ったらガウリスクとニャックスも喜んでいた。
冒険者ギルドに到着したので3頭に別れを言って念輪のパーティー回線を切る。
冒険者ギルド本部の中に入って受付で会議室を借りて師匠ゴーレムと魔獣ゴーレムのチーム早乙女遊撃隊の登録を済ませる。
俺のゴーレム登録は夜間の冒険者ギルドの責任者が担当してくれて、その人がペスカト・ビッタートの友人『ニール・オスキャル』というブロンドの髪をした犬獣人で俺と身長も体型も似てる人だった。
初めて会ったのになぜか馬が合いそうだと直感で感じる。
登録してネームプレートを装備させた後の雑談でさっきおきたことを話す。
馬鹿がペスカトの名前を語って早乙女工房に来たんだから、もしかしたら冒険者ギルドの幹部だったら情報を持っているかもしれないのでダメ元で聞いてみた。
「・・・ということが先程あっって警備隊本部に行っていたんですけど、なぜバカ連中の口からペスカトの名前が出てきたのか俺にはわからないんです」
「情報提供をありがとうございます。実は早乙女さんに言っておきたいことがありまして・・・ギルドマスター青木勘十郎様の後継者と噂されているのがペスカトなんですよ・・・」
ニールの話ではペスカトと青木勘十郎は小さな頃からの大親友で幼友達と言える間柄なんだそうだ。
それでペスカトも青木がギルドマスターを引退したら、一緒に冒険者ギルド職員を辞めて青木が作る武士団に入り、仲良く冒険者になってアゼット迷宮を完全攻略してやろうと誘われてるんだって。
今のペスカトは将来は青木と一緒にアゼット迷宮を攻略することを考えてて、もう既に冒険者ギルドには辞表も提出されているし、冒険者再登録まで済ませている事は親しい人達はみんな知っているのだそうだが・・・なぜかペスカトがシーパラ連合国の次期冒険者ギルド本部のギルドマスターに就任するってデマが蔓延している。
それでデマが広がってきたここ数日の間にペスカトの名を語るこのような事件が度々起こっていて、毎日のように警備隊や教会の聖騎士団に呼び出されているのだそうだ。
今回は逮捕者出たとのことで本腰を入れて公に冒険者ギルドを上げて捜査できるとニールに感謝された。
冒険者ギルド本部の新ギルドマスターの座を争って水面下でキナ臭い動きが目立ってきてるようだな。
・・・クソッタレ、醜い権力争いかよ。
俺が1番巻き込まれたくない争いに既に巻き込まれているじゃん俺・・・
俺のゲンナリしたしかめっ面に気付いたニールが苦笑しながら話してくる。
「ふふふっ、早乙女さんが権力者が大嫌いって言う噂はマジだったみたいですね」
「正確には『醜い権力者争い』と『権力を振りかざすバカ』が大嫌いなだけだよ。知恵を振り絞った高度な権力争いなら経験してみたいけど・・・無理だな。どうやっても金が絡んでくるから面倒臭いよ」
「ふふふ。思いっきり顔に出てましたよ」
「そんなに言うなよニール。それでホントのところの後継者って誰なんだ? ペスカトの名前を入れた噂をワザと流したのは青木さんだろ? バカを炙り出す為に親友を使って動いてるんだろ?」
「さすがですね。早乙女さんがおっしゃるようにバカが水面下で動くことを想定して、青木さんの指示で噂を流してるのは私とペスカトとラザニードさんの3人チームを組んで、裏に回って人と金を使って冒険者ギルド本部職員の中に『ペスカトが後継者争いに1歩リード』という噂をバラ撒きました」
「つーことはラザニードさんが裏方にまわったのか。俺はラザニードさんが次のギルドマスターになるかと思ってたよ。ラザニードさんとビッタート卿は高いカリスマ性も持ってるしな」
「青木さんも本気でラザニードさんをギルドマスターの後継ぎで口説いたみたいですけど、にべもなく断られたと苦笑してました。冒険者ギルドヨークル支部のギルドマスターに就任したばかりで、すぐに動けないって正式な理由もいちようあるのですけど・・・ラザニードさんから直接聞いた本音は『評議会に出たくない』ってことでした」
「なんだそりゃ・・・クククッ、ラザニードさんらしいって言えばらしいけど」
「ですね。ラザニードさんの会議嫌いは知ってましたが、俺も初めてホンネを聞いたときは笑ってしまいましたよ。それで次期ギルドマスターに就任する事に決定したのは『アクセル・ビッタート』さんです」
「マジかよ、あぁ、そういえば今月いっぱいでゾリオン村のギルドマスターの任から外れて冒険者ギルド本部に戻ってくるんだったな・・・明日が月末か」
「ハイ。すでにゾリオン村のギルドマスターの後継者はヨークルの幹部職員だった『ケンジ・ミールハイト』に決まってまして、昨日からケンジはゾリオン村に行って引継ぎ作業をしていると聞いてます」
「おおお、ケンジもビッタート卿も大出世だな」
「俺が聞いた話ではビッタート卿は『タイミングが悪かった。ラザニードに逃げられた』ってボヤきまくってると、ペスカトが言ってました」
「クックック、ビッタート卿ならそう言うだろうな、頭を抱えてる絵が浮かぶよ」
「まぁそういうことなので、また今回も早乙女さんに冒険者ギルドの迷惑を押し付けた形になってしまって申し訳ないです」
頭を会議室のテーブルに当たるまで下げるニールの謝罪を受け取る。
「今回の件は半分は俺が暴れたかったって言うこともあるし、そこまで迷惑には思ってないよ」
「ありがとうございます。早乙女さんにそう言っていただけると助かります。それで早乙女さんに国の最高評議会の方から通達が来ているんだすけどよろしいですか?」
「あれ? 最高評議会ってまだ俺になんか用があったっけ?」
「証人喚問で治療したエクストラヒールの2回分の料金の3億Gがまだ支払われてなかったので料金のお支払いの話です。今回は冒険者ギルドからの依頼で早乙女さんに証人喚問に出ていただいたという形になっていまして、料金のお支払いは国家予算から冒険者ギルド経由で早乙女さんのチーム『早乙女遊撃隊』の所持金に入金されてます。早乙女さんにはここで入金されているのかを確認していただきたいんですけど」
「・・・おぉ! そういえば証人喚問後の出来事が強烈過ぎてドタバタしてて、最高評議会にお金を受け取りに行くのを完全に忘れていたな」
「早乙女さんがそうおっしゃられると最高評議会も判断したようで、最高評議会自身も組織再編と元枢機卿の事件と昇竜商会の引き起こした事件とドタバタしてまして、今日の夕方になって冒険者ギルドに通達があったんですよ」
・・・シーパラ連合国の国会である最高評議会が組織の改変を余儀なくされるほど多発した事件・・・ほとんど全部の事件に俺が関わってるってのはちょっと怖いな・・・なぁアマテラスさんよ。
ニールがアイテムボックスから取り出した魔水晶に、俺の冒険者ギルドカードを当てるとピロンと機械音がしてチームの所持金に3億Gが入金されたのを自分の目で確認する。
そのあとも30分以上もニールと色々と噂話や俺に関する事など雑談していて・・・深夜で客も来ない冒険者ギルド本部の夜勤は睡魔との闘いらしい。
ヒマな職員が何度か俺とニールのいる会議室にコーヒーやらクッキーやらを運んでくれる。
動かないと寝ちゃいそうなんだろうな。
雑談の中でニールが言うには俺を冒険者ギルドのAランクに推す声がシーパラ連合国の最高評議会からの話もあって、毎日夕方にある冒険者ギルド定例幹部会議の中でも着々と進んでいるそうだ。
今まで闇にまぎれて隠れていたが、俺が絡んで解決した犯罪摘発の国への貢献度は近年まれに見るレベルだかららしい。
2日後にはたぶん本決まりになるとニールは言ってたが・・・面倒だな。
Aランクになると
また変なのが沸いてこなけりゃ良いんだけど、嫌な予感しかしないってのが既に厄介だ。
冒険者ギルド本部の建物を出たのは12時をまわって午前1時に近かった。
早乙女工房に帰ってから早乙女工房の居住区の主寝室と早乙女邸の寝室を簡易ゲートでつなげる工事をした。
工事を終えて問題なく転移できることを確認すると風呂に入りに行く。
今夜も天気が良いので露天風呂に入りに扉から外に出て行くと、今日のこの時間は雲のない夜空に巨大な満月が空に浮かんでいる。
本当にデカイ月だな・・・この大きな月を露天風呂に入りながら眺めてると自分が今、異世界にいるんだと改めて教えてくれる気がする。
アイテムボックスからウイスキーを出してロックで飲み始める。
つまみはローストクマとローストオークにした。
薄く切ったローストクマを更に食べやすい大きさにカットしてあるつまみサイズのローストクマは、味が濃くて噛み応えがあってチョイ生ジャーキーのようで美味しいし、ローストオークは正反対で少し薄めの甘い味付けにしてあり柔らかくて、小さなサイコロ状にカットしてある。
ローストクマとローストオークのウイスキーのつまみとしての相性もいい。
露天風呂の周囲に設置してある大きなイス代わりの石に腰掛けて縁に頭を乗せ、風呂の湯の中で手足を伸ばすように浮かべながら、浮かんでいる俺と同じように風呂に浮かべてある桶に入ったウイスキーとつまみを時折口に運んで即席の露天風呂からの月見酒を満喫する。
満足したら内湯の方に入って体を洗い久しぶりにマリアにお願いして全身マッサージをしてもらう。
エロの全くない筋肉をほぐすマッサージは素晴らしいな。堪能してから風呂を出る。
リビングで明日の予定をマリアとセバスチャンに話しながらハーブアイスティーを飲んで、月見酒の長湯で温まり過ぎた体を冷やしてから今夜は就寝。
明けて転生してから30日目の4月30日の朝、天気は快晴。
風は微風ってところかな・・・風がなくて天気の良いので外は少し暑くなりそうだ。
いつもの朝の風景は既にない。
朝の7時に起きた嫁達は俺が寝てる間に朝食と防具装備を済ませて既にマリアとユーロンド1号と共に5人でアゼット迷宮攻略に向かって行ってしまったし、るびのとフォクサを連れてセバスチャンも転移魔法でグリーンウルフダンジョンに行ってしまった、朝の8時過ぎ。
今日は早乙女邸専属メイドゴーレムのクロが入れてくれたコーヒーの香りで目覚めた。
ロンTとジーンズに着替えて顔を洗ってからダイニングまで歩きながら朝食のメニューをアイテムボックス内で作る事にするが・・・誰もいないので今日の朝食は『純和風朝食』にしてみる。
ご飯・アサリの味噌汁・アジの干物・菜花のおひたし・きゅうりの浅漬け・出汁巻き卵・海苔・とろろ・・・最後に『納豆』をつけた。
自分で作ったメニューをダイニングテーブルに並べて朝食。
クロに番茶を入れてもらう。
納豆はシーパラに普通に売っていて購入してあったのだが、アイリたちが納豆の匂いが苦手と言っていたので食卓に並ぶことはなく、アイテムボックス内で眠ったままだったのを今思い出してこんな朝食のメニューになった。
ダイニングで食べる朝食で久しぶりの納豆を味わう。
日本で食べていた納豆と微妙に味が違うような気がするが、パックではなく”藁”で包装されていたからだろう。香りも味も柔らかいような気がする。
俺は日本にいた頃から元々納豆は大好物でもなくてあれば食べる程度だし、日本で毎日納豆を食べていたわけではないのでそこまで納豆に詳しいわけでもないけど、日本でも藁で包まれて売ってる納豆は高級品だったような気がしてたからな、雰囲気が本格的で違うから味が違っていると思うだけかもしれない。
パックの納豆は今後は食べる事がないから味が比べられないのは残念だ。
朝食の後にコーヒーを飲んでしばしノンビリする。
今日は急ぎの用事はない。
待ったりと食後を過ごしてから早乙女商会ヨークル事務所に転移して今日はハイカットのスニーカーを履いて、まずは商業ギルドに行く前に早乙女商会の事務所から近いおやっさんの店に先に顔を出すことにする。
渡したいアイテムが溜まってきてるからな。
ガランゴロンと鳴る扉につけられたカウベルの音を鳴らしてフィアルカート防具店に入っていくと、今日はおやっさんもおかみさんも両方とも店にいた。
「おぅ早乙女、元気で頑張ってるみたいだな。シーパラでも色々してるようで、たくさんの噂が俺の耳にまで入ってきてるよ。それに早乙女が俺が作った防具を装備して救世主の活動をしてるおかげで、冒険者や警備隊の人間にこのフィアルカート防具店の人気は上昇中だ、ありがとうな。新しい顧客も増えてきてるし、ここ最近は凄く忙しくなってるよ」
「好きで救世主やってるわけじゃないんだけどね。でも冒険者や警備隊の人間も俺の防具の購入先を聞かれたから教えただけで、元々フィアルカート防具店の存在を知ってる人がほとんどだったよ。だから店の宣伝なんてしてない」
「早乙女が俺の作った防具を装備して活躍することが既に大きな宣伝だよ。それで今日は何の用なんだ?」
「また珍しいアイテムを集めたからおやっさんとおかみさんにお裾分けしに来たんだよ」
俺は今まで集めてきておやっさんに渡してなかったアイテムを店のカウンターに少量ずつ並べる。
いらないアイテムもあるだろうしな。
『サラマンディストの血』『キラービーナイトの甲殻』を取り出すとおやっさんもおかみさんも大きな声で感嘆している。
「早乙女、これは凄いアイテムだな。サラマンディストの血はサラマンダーの血よりも、火耐性が強力な防具を作ることが出来る。それにキラービーナイトの甲殻は火耐性は低いが周囲の温度を一定にする効果があるのでフルプレートアーマーなどの内張りに使うと効果が高い甲殻なんだ」
「へーー、なるほどね。アリ甲殻板も内張りに使うのか?」
「いや、アリ甲殻は熱に弱過ぎるし周囲の温度を下げる効果も低い。甲殻としての固さも低いから防具には向かないな」
俺のもらった知識・経験と同じことをおやっさんは言ってる。
俺も貰った知識の有能さを生かしきれてないので勉強になることが多いので、新しいアイテムはおやっさんやおかみさんに見せて反応を確かめたい気持ちが俺の中に強くある。
魔道石英ガラスは透明なシールドとしても使えるが魔法耐性は強くても衝撃にはそこまで強くないのでシールドの、のぞき穴の蓋とか一部に使用する事が多いと教えてもらう。
最後に見せたのは大量の『ドラゴン繊維』『龍糸』『龍布』だった。
コレにはおかみさんが身を乗り出してきた。
「早乙女君コレってあの伝説のドラゴン繊維なの?」
「ああ、発見はまったくの偶然なんだけどセバスチャンが発見した」
セバスチャンが発見した経緯を説明する。
流石のおやっさんとおかみさんもドラゴン繊維はワイバーンの素材と言うことは知っていたが、肉から抽出するのに料理スキルが必要になるなんてことは知らなかったみたいだな。
「料理スキルね・・・私もアマテラス様から子作り祈願で早乙女君達と教会に行ったときに料理スキルの祝福をいただいたみたいで私にも出来るかな?」
「すぐには流石に無理があるよ。料理スキルのマスターになってからだな。プロの料理人のように毎日大量に料理を作っているならともかく、普通の主婦だとスキル発現からマスターまで行くには15年以上は掛かると思う」
「そうなんだ、それなら知り合いのレストランのバイトにでも行ってこようかな」
「おかみさんの場合はまずは子供が育ってからだな。それで生まれてくる子供の為にドラゴン繊維を渡しにきたんだよ」
「早乙女、どういう事なんだ説明してくれ」
「俺も太陽神アマテラス様や主神ゴッデス様からの神託でなにかとトラブルが多くなってるからな、あちこちで逆恨みを受ける可能性がある。そのとばっちりは今後知り合いに向く可能性が少しあるんだ。だから売り物としてではなくおやっさんとおかみさんの『密かな防具』として下着を強化して作ってもらうために、ドラゴン繊維を渡しに今日は朝から店まで来たんだよ」
「私はドラゴン繊維の加工なんてやったことないよ。それに私たちと生まれてくる子供の下着分を含めてもコレは多すぎる量だわ」
「実はコレにはもう一つの訳があって・・・」
おかみさん達に説明をする。
元々ドラゴン繊維そのものがヤバ過ぎて流石におやっさんやおかみさんに渡すつもりはなかった事。
しかし最近の事件の大きさを考えると逮捕者は膨大な数になっており、処刑される人間も奴隷落ちする人間も膨大な数がいて、どこの誰が俺を逆恨みしてるのかまで把握出来ていない事。
そうした逆恨みする人間の心理で俺を苦しめようと思ったときに、俺の貰った経験や知識から考えると必ず俺の親しい人間に刃を向ける可能性が高いこと。
それで俺が今日から親しい人間にはこのフィアルカート防具店を紹介するので、おかみさんが手作りで龍布の下着作りをして欲しいことをお願いしに来たんだと説明する。
「なるほどなそれなら理解できたよ。流石にコレは売り物には出来無いからな」
「ウルスの言ってる事も早乙女君の言ってる事もわかるけど、私は龍布の加工はしたことないんだって」
「それの練習も含めてこの量なんだよ。おかみさんならすぐにコツを掴んで自由に作れるようになるから大丈夫だよ」
それからしばらくおかみさんの龍布を使った下着の作成練習に付き合う。
おやっさんがヒマそうだったのでアイテムボックスから余ってるワイバーンの骨と革をとりあえず5頭分の量を渡してあげた。
「おお、早乙女どうしたんだコレ」
「るびのが大量に狩ってきたから余ってるんだよ。ワイバーンは素材としては超絶の優秀さなんだけど、食えないから減っていかないんだよ。るびのや炎虎達が討伐したワイバーンだからそこまで品質は悪くないと思うけど・・・流石におやっさんもこんなにいらないか・・・置く場所がないもんな」
「それが大丈夫になったんだよ。俺もアマテラス様からの祝福を貰ってアイテムボックスが小から大にまでサイズが広がったんだ。だから俺もお遊びの全身革鎧のブーツセットを作りたいから、ワイバーンの素材が余っているならいっぱいくれ」
「お遊びって・・・俺が最初に購入したサソリオオクモの甲殻鎧みたいに安く売るのか?」
「まぁ、そういう事だな。初心者用で安く丁寧に、そしてみすぼらしく作ってやるよ。材料代は早乙女からタダで貰ったから相当安く作れるよ、クックック」
おやっさんが偏屈親父だってことを忘れてたな。
でも楽しそうなのでミスリルも50kgほどと森林モンキーの尻尾も200本、ワイバーンを20頭ほどおやっさんに渡した。うちの嫁たちの衣服を素材に戻した繊維物も50kgほどついでに渡す。
コレで後はこまごまとした僅かな材料で済むので加工手数料ぐらいだな。
安いからって購入をためらう、見る目のない人には気付かないトリックの安い鎧ができるだろう。
おやっさんは笑顔で自分のアイテムボックスの中に全部の材料を入れる。
新しいおもちゃを貰った子供のようなおやっさんの笑顔に苦笑してしまう。
しかし俺もそのイタズラに参加してる人間だから俺も悪巧みしてる笑顔になってしまう。
こういうイタズラは嫌いじゃない。
「あんたたち何の悪巧みしてるのよ」
満足できる下着を作れるようになったおかみさんがコーヒーを入れてくれて、苦笑しながら注意されるまで俺とおやっさんは静かに笑ってた。
「それで私達はどんな人になら龍布で作った下着を渡してもいいの?」
「それの目印はコレにしようと思う」
加工した魔水晶がついたありきたりなデザインのブレスレット、でも中身は全くの別物『念輪付きブレスレット』だった。
使い方をおやっさんとおかみさんに説明する。
2人ともが慣れるまで少し時間は掛かったが言葉に発しなくても念輪で直接話が出来るので合言葉も必要ないだろうから万全なセキュリティーだと思う。
隷属の首輪を付けて脅されて店にやってきても脳内で会話できる念輪ならホンネで話せるからな。
「コレで話しかけてきた人だけに普通の下着代金の倍の金額で売ってほしい」
「まぁ、早乙女君の知り合いばかりになるんだし、料金は構わないんだけどね」
「それはダメだろう。コレも商売だからな。それにおかみさんへの手間賃だよ」
「わかったわ。ありがたく受け取っておくよ」
それから3人で少し雑談を楽しんでから俺は外に出る。
もふもふ天国ヨークル店の中に今の時間を1人で満喫しているカタリナがいるとサル型メイドゴーレムのイエローに教えてもらったからだ。
もふ天に行きカタリナに先程おやっさんたちに説明した事を繰り返し説明して危険性を伝え、そのままカタリナをフィアルカート防具店に連れて行って引き合わせて下着やシャツなどを作ってもらう事になった。
カタリナの場合は服も下着も元々長年の知り合いのおかみさんがカスタム品を作っていて、カタリナは結婚以来おかみさんの手作りしか着てないのでサイズあわせも必要なく更衣室で着替えて終わりだった。
着替えている間におかみさんがカタリナの着替えの下着の分や予備の分まで含めて10着ほど作って袋に詰めている。
俺はカタリナ専用の念輪ブレスレットを作って装備させてあげる。
それにドミニアンやローグ真偽官の分、2本の念輪も作って渡した。
おかみさんやアイリ達とも念輪で会話する練習をしているカタリナさんを連れて、もふもふ天国の店舗に戻り俺は商業ギルドに出かけることにする。
ヨークルでホップボードに乗るのは初めてだが自重は既に捨てたので気にしないで、便利だからホップボードでの移動を楽しんでる。