午後の証人喚問で急展開っす。
イケメン枢機卿が必死な言い訳を始めるが全て真偽官に『ウソをついています』と言われて中断するを繰り返して中々進まない。
俺はエクストラヒールをとにかく見せてみろと煽る。
顔を真っ赤にさせてイケメン枢機卿・・・”元”枢機卿だな。・・・が、俺を睨みつけて呪いをかけてくるが俺には効かないって。
俺は『情報複製』の魔法でイケメン元枢機卿の脳内を俺にコピーさせた。やっぱり対象者に触れなくても情報複製は可能だったな。
吸い上げた情報の分類・仕分け・精査はヘルプさんにお願いしておく。
俺が『さっきからコイツが呪いかけてくるんですけど、俺には効かないから無駄だって。コイツは面倒だから殺してもいいですか?』と議長にチクるとイケメン元枢機卿が顔を青くさせて反論してくる。
その反論にも『彼はウソをついています』と真偽官からの訂正が入って少しカオスってきて思わず笑ってしまった。まさしく『イケメンざまぁ』な構図になってきたからな。
俺と同じように笑ったのは隣にいるゾリオンだった。
娘の事でかなり腹立たしく思っていたのだろう。ゾリオンは2回もエクストラヒールを娘にかけさせて私財を無駄遣いさせられているからな。俺はゾリオンに尋ねる。
「ゾリオンさん、貴方みたいにエクストラヒール詐欺にあってたくさんお金を無駄遣いさせられた人達への弁償はどうなるのですか?」
「それは教会が全て全額弁償を決定している。年利5%の利子もつけて返済するのだそうだ。ワシのところにも午前中に金額を確認しに、教会の新しい枢機卿がやってきて契約書の金額を確認していた」
俺とゾリオンの会話に加わってきたのが『クリス・シーズ・アギスライト』だった。
イケメン元枢機卿のウソはき具合に拍車がかかって証人喚問のカオスっぷりは更に混乱を呼んでいる。
「早乙女さん、初めまして。ゾリオンさん、お久しぶりです。早乙女さんに聞きますが・・・妻の不妊は本当に治るのでしょうか?」
「それに関して俺からもクリスさんに聞きたいことがあるのですが・・・ハイかイイエのみでお答えください」
「え? それはなぜでしょうか?」
「確認したいことがあるだけで、事実はこのような雑談の中でなく・・・真偽官の同席する証人喚問の中でで犯罪をハッキリとさせたいからです。よろしいですか?」
「犯罪? ・・・わかりました。早乙女さんが何を狙っているのか、私にはわかりませんが従います」
「では、質問を始めます。奥様のコマリ様はもしかして彼の治療を受けましたか?」
「ハイ」
「では次の質問です。彼の治療後に彼から腕輪を渡されてそれをクリスさんが装備をしてますね?」
「ハイ」
「では最後の質問です。また次に治療に来れば治ると言われてから、まだ治療は受けていませんね?」
「ハイ」
よし。これで下準備は完璧だな。
カオスになって大騒ぎの会議場で俺は手をパンパンと何度か叩きながら大声で叫ぶ。
『静粛に!』
威圧感も少し開放したので全員が押し黙る。
俺は先程クリスにした質問を全員の前でもう1度する。真偽官に確認を取るがウソをついていないことを証明する。
イケメン元枢機卿が騒ぎだそうとするのを俺は強烈な殺気をイケメン元枢機卿に叩きつけて黙らせる。
呼吸も困難になってパクパクしてるイケメン元枢機卿。
「彼がこうやって証人喚問を遅らせているのは意図的なもので晒したくない訳があるんですよ。彼がクリスさんに装備をさせた腕輪は『子種封印』と言う呪いが掛かった腕輪なんです。試しにクリスさん外してみてください」
「わかりました。あれ? では『解除』・・・なぜ、はずれないのでしょうか?」
ザワザワと会議場が喧騒に包まれる。俺が言葉を続けるとまた静寂に戻る。
「呪いの掛かった腕輪が呪いの対象者に外すことができるわけないじゃないですか。つまりこの腕輪は『呪いの腕輪』と言うことを証明できましたね」
「ウソだ! これはそこのクソガキのウソを証明しただけだ!」
「彼はウソしか言ってません。彼はイタズラに証人喚問を遅らせようとしてるだけです。議長、彼の言葉封印の許可を」
真偽官がイケメン元枢機卿のウソをまた大声で告げ怒りをあらわにする。
議長は真偽官に許可を与えてイケメン元枢機卿に真偽官から『言葉封印』のスキル魔法がかけられる。
「これでやっと静かに話が出来ますね。ありがとうございます。では腕輪を外すのと呪いの証明は彼女にお願いしましょう。彼女は露草桜、昨日誕生した伝説の聖母です」
俺が手招きをした先には傍聴席に座って全部聞いていた露草桜の姿がある。
議長が許可を出し警備員に連れられて桜が入廷する。
桜が魔法で封印を解除して呪いの腕輪の証明書を書き、ニッコリとしながら俺と握手をしてからまた傍聴席に戻っていく。
凛とした美しさと桜を守るべく付き従う2体のゴーレム『コースケ』『シェリアス』の滑らかな動きを俺以外の全員が見とれている。
イケメン元枢機卿まで見とれているのには笑ってしまうが。
これでこの国の中枢にも彼女の存在価値が上がっただろう。しかも彼女はこれから中央大陸で教会のトップになるのだ。何人かは何とかしてよしみを結びたい、パイプを繋ぎたいと思っていることだろう。
俺と握手をした意味は自分へと集まる視線に『この人は恩人だから』と無言のアピールで自分に群がる権力者を分散させようとして防衛本能が働いたのだろう。
商人として魅力的な相手は近いうちに中央大陸へと呼ばれて遠くに行ってしまう桜よりも、桜をコントロールできうる『恩人』という立場の俺と仲良くした方がいいだろうと考えることが想像できるな。
そうすると俺をむげに扱うことはできないと言うことまで考えてくれるだろう。
俺と桜のお互いが全部を見越しての笑顔の握手だった。
やっぱり桜は頭が切れるタイプで優秀だな。教会総本山でも大丈夫なほどのしたたかさを持ってる。
俺は最後の仕上げとばかりにクリスにエクストラヒールをかける。
「これで彼女の不妊治療は終了です。彼女には元から不妊なんてありませんよ。不妊の原因はコマリさんの方ではなくて、クリスさんが幼少期に風邪で高熱に掛かっていたのが原因なんですから。高熱によって子種が少なくなっていたのです。そこを元枢機卿につけ込まれてクリスさんにウソをついて呪いの腕輪を装着させていたのです」
「元枢機卿の狙いはコマリさんの体でしょう。おそらく治療と偽って薬で2人を眠らせてから事に及ぶ予定だったのでしょうね。ちなみに元枢機卿は同様の事を3回行っていてこの国には彼の子供が2人います」
俺の続けて発した言葉に会議場は静寂に包まれてから大騒ぎになった。
俺は元枢機卿からコピーした知識を全部話して、元枢機卿の部屋を徹底的に探るように提案する。
特に執務室のロッカーの奥の板をはずすと更に奥には隠し扉があってそこの棚の中には犯罪の証明になるものが山済みされている。
最重要なのは全て真実が書かれてる日記だ! と告げたので3人の警備員が外に走っていった。
警備が手薄になったところで元枢機卿がアイテムボックスからミスリル製の杖を取り出して、突然俺に火魔法のファイヤージャベリン10本をぶつけてきたが、俺が左手を右から左に軽く振るっただけで魔法は全て消滅してしまった。
驚愕している元枢機卿にイワノスが飛び込んでボディーブローで意識を刈り取って倒れそうになる元枢機卿の体を掴み転倒から救っている。杖は警備員が取り上げている。
会議場は大混乱になってしまった。
しかしさすが元Aランク冒険者だな。瞬時の判断と混乱を収める方法の選択が完璧だ。
イワノスが動かなかったら俺が騒ぎに便乗して殺していただろう。
イワノスの強さは任侠ギルドトーナメントの準々決勝で戦った『マナガルム・ブラム・アバルニア』と遜色がないレベルだろう。
手加減をしたボディーブローと一緒に衝撃波も叩き込んで瞬時に意識を刈り取っている。
虎獣人という種族的に格闘技系のパワータイプかな?
俺の顔を見てニヤリとするイワノスをみて、思わず俺もニヤリと返してしまった。
そこで証人喚問は議長提案により今から休憩を2時間ほど挟んで延期されることが決定した。
証人喚問の質疑は今はここまでで一旦中止に。
意識なく転がる元枢機卿の首に隷属の首輪を付けられている姿に最高評議会の議員たちが安堵の表情を浮かべて安心している。
コイツにまた犯罪が増えていくだけなのにな。
隷属の首輪を付けられたのは今までと立場が変わり詐欺疑惑のある元枢機卿の偉い人ではなく、今後は『犯罪者』として取り扱われることになったからだ。
最高評議会の証人喚問中に攻撃魔法を使ったからな。
元枢機卿のアイテムボックスの中身が全て取り出されて最新の日記がでてきた。
真偽官が確認をすると書かれていることは真実で、本当に俺が報告した場所に秘密の隠し部屋があることが確認されて連絡の警備員がまた走っていった。
議長から俺に情報の提供・クリスとイワノスの2人への治療・犠牲を出すことなく混乱を収めたお礼の言葉を受け取り、2時間後の再開する証人喚問までに証拠物を精査しておくことを約束してくれた。
俺は精査する担当の人数を増やして対応することを求める。
2時間で調べるには証拠がが多すぎるからな。
最高評議会の議員が人数を増やすことを約束してくれたので俺は退廷して休憩場所の会議室まで案内係の後に続いて戻る。
会議室では昼食中に引き続いて『ゴーレム屋台おにぎり販売計画』の話がより具体的な形になって進んで行く。
しかし部屋にはマツオの姿はない。
マツオは証拠物精査のための人員として別の部屋で奮闘中だろう。この証人喚問に最高評議会の委員として参加しているので、こういうときには強制的に参加させられて拒否権がなくなる。
俺が教えた場所から膨大な犯罪の証拠が出てきて別の会議室に運ばれていた。
何しろ長年もの間に就任していた権力者『枢機卿』でこのシーパラ連合国で唯一エクストラヒールが使える人間として好き勝手なことをしてきたのだからな。
今は最高評議会の事務員だけでなく評議会の人間まで借り出されて人海戦術で情報を精査している。
おにぎり計画の話にはマツオは参加出来そうもないとのことでマツオは自分の代わりにジュンローを出席させてる。
ジュンローがユマキ商会の本部に戻って使えそうなゴーレム馬車のデータを持ってきてくれたので話はドンドンと進んでいるのだ。
現在のゴーレム馬車の開発にもジュンローは初期から加わっていたらしく内部構造にも詳しかったので俺はエンジンとなるゴーレムの部分にある構造上の無駄をいくつか指摘する。
内部構造の設計図を2枚書いて今までの無駄の部分を指摘しながら書き付けて、新しい構造にすればパワーも航続距離も稼げるようになると実際に新しい設計図を書いて指摘していく。
俺の指摘を受けて計算しなおすとトルクは倍にする事が出来て航続距離は3倍にまで伸ばせることが可能になった。しかも街乗りの場合は魔石の数を1/3まで減らせるのがわかったので半額にまでコストを削減できるようになる。
今までのゴーレム馬車よりも魔石を少し増やし、2倍以上のトルクが出れば山間部は不可能だが大草原や大森林の丘ぐらいは越えられるようになるので、ゴーレム馬車は今後の研究しだいで街の外に飛び出すことが出来るようになる。
今ではまだ重いモノを運ぶにはトルクが足りないのでアイテムボックス頼りにならざるをえないが。
これでも俺の作ったキャンピングバスの半分の能力もないんだけど、長年停滞していたゴーレム馬車の新規開発の研究が劇的に進んでいくだろう。
俺が書いてあげた設計図を持ってジュンローは走って出て行ってしまった。
俺と新ゴーレム馬車製造の契約を結ぶためにマツオから許可を貰ってくると告げて走っていってしまった。
俺は同席しているゾリオンとグレゴリオにビターホットチョコレートとチョコレートをオヤツに出してジュンローが戻ってくるまでノンビリと過ごす。
ホットチョコレートとチョコレートのレシピを教えてくれとゾリオンとグレゴリオに懇願されたので2人のためにカカオ豆からの製法をレシピに書いて渡した。
その場でグレゴリオは俺とゾリオンの3人でチョコの契約を結ぼうと提案してくるが俺は反対する。
チョコレートのレシピはオープン情報にして広く職人に配布して様々なチョコレートを生み出し、シーパラの特産品にした方が今後のチョコレート文化の発展には良いと、すでに食料品市場のオバちゃんにレシピを教えた後だしなと俺は強くグレゴリオを説得する。
ゾリオン村でおにぎりが流行ったことをソースに出して説得するとグレゴリオも納得してくれた。
様々な人が加わって開発競争をした方が豊富なアイデアが出てくる。
グレゴリオにはウェルヅリステルの余っている土地を有効活用してカカオの木の栽培を研究してみた方が良いと、栽培して安定供給を考えた方が今後のブームが起きた時の儲けにつながると提案しておく。
大森林の恵みには限度があるからな。ミルクさんの二の舞は避けておきたい。
グレゴリオもフォレストグリーン商会はウェルヅリステルに多くの土地を持っていて今後の開発で悩んでいたようだったので、さっそく本部に持ち込んで研究すると興奮している。
ジュンローが帰ってきてユマキ商会と仮契約を結ぶことになった。
すでにマツオによって新しいゴーレム馬車には『早乙女式馬車』というネーミングまで決まってるのには恐れ入る。ゴーレムの名前が消えてしまってるけどいいのかな。
売り上げの1割が俺への報酬になるそうだ。
はぁ・・・そんなに金はいらねぇーんだけど。
でも始めは売り上げの3割が妥当な金額といってきて交渉してきたので強引に下げさせた。
俺の取り分を値引きしていいから早乙女式馬車はさらに安く販売してくれとお願いして決定したのが10%だった。
おかげで俺はこの最高評議会の証人喚問が終わったら待ち合わせをしてジュンローたちに連れられて『職人ギルド』に登録しに行かなければならなくなった。
職人・早乙女真一の誕生だ。
早乙女工房も設立しなければならないらしい。
更にユマキ商会の持っている中古の土地と建物を契約金代わりに差し上げますので早乙女工房で使用して欲しいとお願いされてしまった。
地図を渡されたのでよく見ると、この商業ギルド本部近くの1等地で中央行政区内にある。
不動産の地図をみたら・・・商業ギルド本部の不動産部門責任者マリスに1番始めに見せてもらった物件の地図の場所よりも良い場所に立ってるし敷地面積も大きなビル・・・7階建てなので8億以上はしそうだな。ゴーレム馬車駐車場も5台ぐらいは停められる広さがある。
ここでもゴーレム馬車おにぎり販売計画が出来そうなのでゾリオンと仮契約を結ぶ。ゾリオンの持つガルディア商会シーパラ本部でもおにぎりを販売する予定だが売り上げ次第では分散する必要があるしな。
すぐに使うかどうかはまだわからないが1台分だけ確保しておきたいようだった。
それにしても・・・面倒クセェ・・・
手作り屋台を製作していた職人から絡まれそうな気がするよ。
今までの屋台に比べるとゴーレム馬車が3/5の値段で3倍ぐらいの大きさでしかもゴーレム馬車で販売されてしまうからな。ボッタクリで荒稼ぎしていた連中は壊滅するだろう。
ゴーレム馬車なので屋台と違って手で運ばなくてもいいのでより大量に持ち運びできるし、簡単な調理だけでなく様々な機材を持ち運べるので本格的な料理すら可能になる。
ボッタクリ業者の壊滅なんて自業自得なんだけど・・・逆恨みする馬鹿が出てくるのが簡単に予想できてしまうな。
早乙女式馬車の生産・販売方法も俺は紙に書いて提案をする。
後ろの馬車の部分も食料品販売用・加工食品販売用・料理できる馬車などと幾つかのオプションをつけるパッケージで売ってブロック部品ごとに付け替えるだけで簡単に売ることを提案する。
手作り屋台との差別化だな。
こっちは出来るだけコストを削減して誰でも簡単に組み上げられるようにすることで経費を抑える。
ジュンローが頷きながらメモを取っている。
手作りの良さ、高級屋台は小さな工房に任せて大規模工房で経費を抑えて価格を削減する。
工房には若い職人の見習いを多く雇い経費を削減して、職人が育ったら工房を俺のように独立して立ち上げさせてカスタム品の作成販売や新商品の提案などをプレゼンさせて新たに契約させれば良い。
気付くと俺のアイデアにゾリオンとグレゴリオもメモをとっている。
そのまま話をしていると案内係が俺とゾリオンとグレゴリオを呼びにきた。証人喚問の再開だな。
ジュンローはまたユマキ商会シーパラ本部ビルにまで帰っていく。
早乙女式馬車の試作機を作ってくるそうだ。




