俺が行けば事件解決っす!
7・17修正しました。
「おー、そうだ。早乙女に紹介しよう」
そう言ってウルスの親父が両手に花状態で女性を俺の前に連れてきた。
女性はどちらも180センチを超える長身。
ウルスの親父は150センチぐらいのドワーフ。
これじゃあ、両手に花じゃなくて『宇宙人』だな。筋骨隆々のムッキムキで赤黒い宇宙人だが。
「こっちの赤髪の穣ちゃんの名前は『アイリ・クリストハーグ』」
アイリが俺にぺこりと頭を下げる。
「見てのとおりの冒険者で職業は『シールダー』。俺のお得意様だな。そんでもって28歳のいき後れ『おいコラ! バン!!』だぎゃ」
余計な一言を最後に言ってしまい、盾で頭を叩かれたウルスの親父。
けっこういい音がした。
頭をさすってるだけだ。頑丈な親父だな。
「ったく、盾でたたくなよ! 『シールダーは盾で叩くのも仕事だ! ってあんたが教えたんだろ』そういえば、そうだな」
ウルスの親父、かんたんに納得するなよ。
いいのか?
「そんでもって、こっちの茶髪の穣ちゃんが『ミネルバ・アリアーノ』」
ミネルバが俺に頭を下げる。
「こっちも冒険者で『ランサー』だな。で、こっちもいきおk『私もかい! ビシッ!!』ごふぉ」
あ、後頭部にチョップを入れられるウルスの親父。20代後半の女性に年齢の話は禁句なのに・・・ムチャしやがって・・・。
「えーっと、アイリさん、ミネルバさん、はじめまして。シンイチ・サオトメです。15歳になりました。この国に来て5日目です。3日ほど前に冒険者登録をしたFランクの新人のです」
「15でFランクの新人!」
アイリとミネルバは絶句してる。
「ったく、バカどもが! 相手をランクで見るんじゃないって何度も言ってるだろ!」
と言って二人のお尻を叩く。
「冒険者のランクをあげるのは大変だ。だがな世界は広い。冒険者になってない強者もたくさんいるっていつも言ってるだろ!」
「「! ゴメンね早乙女君」」
「で、お前も海の果てにある島国に住んでて、洞窟の古代遺跡によって飛ばされてきたくちか?」
!!!
そういえばビッタート卿に言われたな。
昔から転生者は今ウルスの親父が言ってるような言い訳をして転生してきたことを隠してるって。
ウルスの親父も300歳超えしてる人だから、そういった言い訳話を知っててさらにアイリとミネルバに聞かせてるのだろう・・・と、理解した。
だがな、ウルスの親父よ・・・ウインクはやめろ! 筋骨逞しい親父のウインクは・・・正直キモい。そういうことが許されるのは女だけだ。
「それで早乙女君にお願いがあるんだけど、いいかな?」
「は?」
「大森林にあるダンジョン『アゼット』に私達と一緒に行ってもらえないだろうか?」
「ええ?」
「「頼む、このとおりだ」」
二人が頭を下げる。
「ちょっと待ってください。・・・理由を教えてもらえませんか?」
「わかった。少し焦っていて。・・・始めから話すよ」
理由はダンジョンの地下10Fに出るボス『火蜥蜴』がレアドロップするアイテムで『サラマンダーの雫』というアイテムがある。
先週、アイリの母親がいきなり働いていた役所で倒れて診断された病気が『森林黄熱病』。
この病気の特効薬が『サラマンダーの雫』なんだと。
だからどうしてもサラマンダーの雫が欲しいらしい。
先週から高熱が続いているので体力もそんなに余裕が無くて焦ってる。
サラマンダーのレアドロップ品なのでなかなか出てこないから、何度も倒さなければいけない。
サラマンダーの通常ドロップ品は『サラマンダーのかけら』。
このかけらを100個、新鮮なうちに医者などの調合スキルで調合するとサラマンダーの雫になるのだ。
サラマンダーの雫は市場にほとんど出回らないし、オークションでは3000万Gからのスタートで少なくても5000万以上だ。
だから冒険者ギルドで依頼を出そうにも
『高額アイテムを独り占めさせろ、はした金ぐらいは払ってやるから命がけで戦えよ?』
っていう依頼とかわらないから誰も受けてくれる人はいない。
6000万以上の金額を積めば依頼も成立するかもしれないが、そんな大金は二人の全財産でも足りない。
それでそこそこ腕が立ちアイテムボックスが使えて、依頼金が分割できる信用のできる人間を捜してるのだ。
「・・・まぁ、そう言ってもらえるのはありがたいが、俺って信用出来る人間か?」
「悪人はそんなこと言わない」
なんて聞いたらって3人にツッこまれた。
久しぶりにツッコミを入れられて少しだけうれしくなった。
「それで確認がしたい。君のアイテムボックススキルのランクは?」
「俺のアイテムボックスは祝福のほうで、ランクは中です」
アイリに聞かれたので答える。ステータスカードの祝福の部分を見せて本物と証明する。
アイテムボックスは空間魔法スキル。魔力の素養があれば誰でも簡単に手に入れられる魔法スキルだ。
10万Gほど払えば教会で手に入れられる。
アイテムボックス極小の魔法を封入した魔石を聖水の中で砕き飲むだけ。
俺みたいに極まれに祝福で持ってる人もいる。
アイテムボックスはランクがあって・・・サイズが決まってる。
極小 1メートルの立方体サイズ。10個が10種類
小 5mの立方体サイズ 100個が100種
中 10mの立方体サイズ 500個が500種類
大 20mの立方体サイズ 999個が999種類
と言う具合に最大サイズと最大個数の最大種類が決まってる。
例えば・・・アイテムボックス極小のスキルの人はジュースを10種類10個ずつアイテムボックスに入れられる。
全部の合計したサイズが1mの立方体。
だからジュース入りマグカップ100個なら入るが、ジュース入りの樽は入らない。
1mの立方体サイズの箱は入れられるが、その後入れられるのは9種類を10個ずつだ。箱で1種類使用しているからだ。しかも箱が最大サイズを使ってるので、残りは箱の内側に入れられるサイズのモノしか入らない。
が、変形はできる。
たとえばミネルバの場合・・・アイテムボックススキルは極小。
彼女は槍使いだ。彼女の槍は長さが5mほどある。普通なら入らないが彼女は入れてある。
教会に10万Gほど払い変形の魔法を封入した魔石を聖水で溶かして飲むだけ。
飲むときにイメージが必要になる。
失敗すると何度か魔石入り聖水を飲まないといけなくなる。
ミネルバはメイン武器の5mの槍がアイテムボックスに入ってる。
それとアイテムボックスに入ってるのはいま手に持ってる短槍が3本入ってる。これは投擲や防御などに使ってる。
彼女のアイテムボックスはかなり変則的になっていてメインの長さの槍は1本。予備も同じ長さの槍にするともう一本だけになる。二本しか入れられなくなる。
だが短槍にすると同じ槍が4本入るようになるのだ。
教会の司祭に聞いたらアイテムボックスの変形ってそういう魔法だと言われた。
サイズなどを変形させると個数や種類にかなりの変動があり、個人差がありすぎて統計できないそうだ。
彼女の場合は6mサイズの槍置き場があるのだろうと。それが2個2種類。片方を短槍にすると2mだから3本入るんじゃないかと。かといって2個2種類で最大数が4だから短槍だけだと4本しか入らない。
サラマンダーのかけらは最低でも100個いるのだ。
アイリもアイテムボックス極小を持ってる。
が、100個入れるためには全部使わないといけない。
色違いのビンに入れたりすれば最大100は入れられる。
アイテムボックス全部を使わないと持って帰ってこれない。新鮮さが必要な商品だからだ。
アイテムボックスを使わないで2人でダンジョンに行くには危険が多すぎる。全ての荷物を自分達で持ち歩かないといけなくなるからだ。
ミネルバのアイテムボックスは変形させたのでもう戻せない。
アイテムボックス以外でかけらは運べない。
サラマンダーはボス部屋に3~8匹ランダムな場所に現れる。
彼女達にすべてまかないきれない可能性もあるから、一緒に行くような人は最低限身を守れないと。
サラマンダーに対抗できる戦闘力を持ち調合スキルを使えるような人間は教会の司祭以上じゃないと無理だ。
こういう理由で追い詰められていた彼女達は精神的にギリギリの状態だ。
「アイリの母親は私にとってもかけがえのない人なんだ。君の助けが欲しい」
ミネルバが深く頭を下げる。
そしてアイリは土下座して頭を擦り付けて懇願する。
「君が望むなら私は君の奴隷になってもいい。母を助けるのを手伝って欲しい」
「アイリ、奴隷なるとか・・・あの診察した医者じゃないんだから・・・早乙女君の迷惑になるよ」
ミネルバがたしなめるが、何か怪しいセリフ言ってるなぁ・・・診察した医者が、奴隷なれ?
・・・おいおいおい何か凄く怪しくないですか?
「医者が奴隷ってどういうことですか?」
と、俺が問いかける。
「どういうことも何も、母さんが倒れたときにたまたま偶然、近くにお医者様がいてそのお医者様が診察したら『森林黄熱病』って診断されて、治療にはサラマンダーの雫が必要って言われてパニックになって、それで全ての知り合いに聞いて回ったけど、やっぱり誰もサラマンダーの雫なんて持ってるわけ無くて、そうしたら診察してくれたお医者様が『私の知り合いに持ってる人がいるから聞いてくる』って言って、一昨日に『騎士の栄光って冒険者のチームのリーダーから借金奴隷になるなら先払いでサラマンダーの雫を渡してもいい』って言われて、それを今日までに返事しなくちゃいけなくてだから急いでてパニックになって土下座して『ハイ! ピシ!』ふぎゃ『パニックになってないで落ち着きなさい』あっ、ごめん」
大きな体をして何か、アタフタするアイリさんが可愛かった。
20代後半なのに童顔だからよけいに可愛く見えるのかな?
それでちょっとタレ目で愛くるしい風貌のミネルバさんがツッコミ役だっていうのは予想外だった。
「アイリさん落ち着いてください。俺は仕事を引き受けますから。でもその前に、ちょっとだけウルスさんと話をさせてください」
そういってウルスの親父の手を引いて二人から離れる。
二人は手を取り合って喜んでる。
「「良かったぁ」」
「ウルスさん、たぶん俺だけ先入観なしで冷静に全部の話を聞いてたから思うんですが・・・あまりにもおかしくないですか? その医者、胡散臭すぎる」
「俺も前から何か引っかかってる気がしてたが・・・確かにお前が言うように冷静になって話しを聞いてると、凄く胡散臭い医者だな。『たまたま』母親の近くにいて『たまたま』森林黄熱病の症状を知ってる医者で、『たまたま』サラマンダーの雫を持ってる冒険者が知り合いにいて、知り合いの冒険者も『たまたま』アイリが奴隷になるという条件と引き換えに雫を譲ってくれるとか・・・うん、あの二人は無いな。そんなことまずないな」
「ですよね。・・・しかも今日中に返事をしないといけないとか。・・・ウルスさん、教会に伝手はありませんか?」
「あるよ。これでも200年以上この都市にすんでるんだ。・・・早乙女、もしかして真偽官か?」
「ハイ。真偽官を間に挟ませたほうがウソを全部消せますし・・・できれば教会の司祭クラスと聖騎士団も手配できるようにお願いしたいんですけど」
「それだったら、俺も一緒に教会に行った方がいい。どうせここからアイリの家まで行く途中に教会はあるから、医者の応援を頼みたいから、一緒に教会に行こうと言えばアイリたちも断らんだろ」
「え? アイリさんたちには言わないんですか?」
「あの二人にはアイリの母親は大切な人すぎるからな。冷静にはなれんよ。下手すると診察した医者を殺しかねんよ」
「みたいですね。できれば冒険者チーム『騎士の栄光』ってのも確保したいですね。もしかしたら黒幕なのかも」
「おう、任せろ。手配できるようにたのんでおく」
それで俺達4人はまずは教会へ。
アイリとミネルバに母親の無事を教会でお祈りしようと礼拝堂に誘う。その間にウルスが教会で全て手配しておく。
・教会の司祭(母親の病状を見るため)
・真偽官(ウルスいわく『かなりの凄腕先天真偽官』らしい。普通の真偽官は『真偽官の才能があるのか』を魔法で検査して、膨大な魔力を使って能力を『後天的に真偽魔眼を植えつける』と言うのが真偽官の9割以上だ。ただ真偽魔眼をもって生まれてくる人も500万人に1人ぐらいいる。そういう人が『先天真偽官』っていわれる。彼も先天真偽官だ。)
・教会に居た聖騎士団5人。
の、合計11人でアイリの実家に行く。
はじめに診察の為に教会の司祭にアイリの母親を合わせる。
「彼女は病気ではありません。毒に犯されています」
やっぱりな。真偽官に確認をしてもらい毒の治療。
聖騎士団の団員の1人はヨークル警備隊の詰め所へ行き応援を呼びに。さらにもう一人の団員は冒険者ギルド・ヨークル支部へ行きチーム『騎士の栄光』の捜索準備に。
アイリの母親の治療はアイリが持ってた毒消しポーションで毒を消し、司祭のハイヒールで持ち直す。
あと2・3日安静にしていれば回復するだろうという司祭の診断だ。
まずは安心して皆で昼食を食べながら事の究明のための作戦会議へ。
ヨークル警備隊の遊撃チームの10人も応援に来て、総勢20人(冒険者ギルドに行った団員はそのままギルドにいるので戻ってない)の食事は俺が提供する。
アイリもミネルバも料理はできるらしいが、流石に20人もの食事の用意をいきなりすぐにはできない。
アイリの母親はまだ寝ているので食事はできないし、体力が弱りきってるので2日ぐらいはお粥にしたほうがいいと司祭が診察の時に言ってた。
医者がアイリの母親の診察に来てアイリとミネルバ以外は他の部屋や裏庭に隠れる。
医者が話しているのを隠れている真偽官が見て腹立たしそうに話す。
「彼はウソをついています。医者ではありません」
・・・医者ですらねぇーのかよ。
まぁ、そりゃそうだわな。もう治療済みのアイリの母を診察して
「このままだと今日がヤマでしょう」
なんて言ってるもんな。ヤブ医者でも酷すぎる。
それなら遠慮なくと敵を殲滅するプランで行く。
「サラマンダーの雫のために奴隷になる」
と、作戦通りにアイリに言ってもらい『騎士の栄光』のメンバーを呼んでもらう。
偽医者が呼びに行き、15分ほどでぞろぞろ連れてきた。『騎士の栄光』のチーム6人と奴隷契約のため奴隷商の男までいる。用意周到すぎるだろ。敵の関係者全員だな。
暴れられても面倒なので敵全員に俺が『スリープ』の魔法をかける。
司祭が真偽官とヨークル警備隊の立会いのもとに光魔法『罪人の告白』を使って尋問開始。事の真相が明らかになった。