夜の大森林での狩りする俺たちに忍び寄る黒い影っす。
待っててもしょうがないし、今夜の晩ご飯は料理を自分で作ることにした。
今夜は釜飯風の炊き込みご飯と豚しゃぶサラダとサーモンのフライ。
ちょっとバランスが悪そうだけど・・・まっ、いっか。
俺が晩ご飯を作っている最中にアイリが大剣の練習を終わってシャワーを浴びてから地下訓練場から上がってきていた。
「あれ? 晩ご飯はしん君が作ってくれたの?」
「セバスチャンはるびのの世話でマリア達はまだ戻ってなかったからな。腹が減って我慢できなかった俺が作っておいたよ」
「そうなんだ。ありがとう。そういえば、マヅゲーラの街に行ったんだよね? どうだった?」
「今のところは『騒々しい街』って印象だなぁ。任侠ギルドのトーナメントで少し浮かれてる感じがしたな」
「あの街は元から夜だけは騒々しい街だよ。何度か行ったことがあるけど・・・仕事以外で女性が住む街じゃないわね」
「あー、なるほど。それはわかるような気がするな。夕方の日が沈む前に到着したんだけど、夜としては早過ぎる時間ながら街娼の数が尋常じゃなかった」
「あそこは『ギャンブルと女遊びの街』って言われてる。それだけしかない街だからね。街の外は田んぼばかりで田園風景しかないけど、農家のみんなは街に住んでないし、女性専用の宿は街の外にあるからね」
俺がアイリとおしゃべりしながら料理をダイニングテーブルに並べているとミーとクラリーナが帰ってきた。
「しんちゃん、アイリただいま。・・・いい匂いね」
「しん様、アイリさんただいまです。今夜のご飯はしん様が作ってくれたのですか?」
「ミー、クラリーナ、おかえり。今日は腹が減って我慢できなくて自分で作っちゃったよ。さぁ、みんなで食べよう」
「ミーもクラリーナもおかえりなさい。2人とも座って座って。みんなで食べよう」
まずは晩ご飯を食べることになった。
無言で食べる嫁3人に少し恐怖を覚えるが今夜の分も大量に作ってあるので、『早くおかわり作れ』の恐怖の無言プレッシャーを掛けられることはなさそうだ。
食後にリビングへ移動してから、みんなでお酒を飲みながら話を続ける。
「アイリ、大剣の練習はどうだった?」
「しん君、攻撃ってホントに難しいわね。足運びから姿勢制御まで含めて全然出来なくて凄くもどかしい。でもそのもどかしさすら面白いわ。午前中は全然出来なかったけど、午後からは少しは出来るようになって、出来るようになると更に楽しさが増してきて・・・やみつきになりそうだわ」
「アイリが大剣にやみつきになっても、俺がアイリの代わりにシールダーでクラリーナの壁役をやってもいいよ。だからこの際、徹底的に練習しちゃえばいいよ。でも俺と一緒にダンジョンとかに行くのは今回のアマテラス様の依頼が終わらないとちょっと無理かな」
「わかったわ。明日も一日中練習する。でもしん君は明日は任侠ギルドのトーナメントに出るんだよね?」
「そうだけど別に・・・作業って感じだな。何も特別に思うことはないよ。だからみんなを見に来てって誘うつもりもないよ。むしろあの街ではみんなの存在を隠しておきたい。あそこは女の子を連れて歩くには不適切な街だ」
「それもそうね。ミーも私も今まであの街で得られたことなんて『不愉快な気分』ぐらいしかないわね」
「そういえばしんちゃんの明日の予定ってどうなってるの?」
「俺の明日の予定は・・・夕方の6時に組み合わせ抽選会があって、トーナメントの試合は夜の20時から開始だな。1回戦と2回戦はアマテラス様の意向で既に決まってるし、俺には何の思い入れもないしな」
「しん様、るびのはどこかに行くって言ってましたか?」
「大森林の南側に明日も送っていく予定だな。クラリーナは明日は行きたいところはある?」
「私は今日と同じで午前中に杖術のトレーニングで午後からは、もふもふ天国でお友達とおしゃべりしたいです。よろしいですか?」
「ほいよ。アイリとクラリーナは今日と一緒ね。了解。それで、ミーはどうする?」
「私は午前中にもふもふ天国で午後からは地下訓練場でアイリと一緒に練習するよ」
「了解。それじゃあ、ミーはクラリーナと2人で交互にマリアとキャンピングバスで移動してくれ」
「そういえば、今日の食料品市場でしんちゃんのこと聞かれまくったよ。出て行けって言われるかと思ってたけど・・・市場を平和にしてくれてありがとうって何度もお礼を言われて・・・それにモテモテだった」
「モテモテ? みんなの前で7人も虐殺したのに・・・意味がわからんな」
「私も意味がわからなくて何人かに聞いたけど『このヨークルの都市にいるとわからない人もいるのかもしれないけど、外には”死”がありふれた世界で”強いオス”に惹かれるのは女として生物として当然』って、私と仲のいい10歳の酒屋の娘に説明されて納得しちゃったよ」
「それは理由として納得できるわね。あの場面で叫んで逃げちゃうような人はしん君には相応しくないよ」
「私もアイリさんの意見に賛成ですね。いくらシーパラ連合国が戦争のない平和な国と言っても決闘による殺し合いは何度か私でも見たことがありますし」
「・・・なんじゃそりゃ。俺はただムカついたから合法的に殺しただけなんだけどな」
「それはお年寄りの方々がしんちゃんを褒めてたよ。馬鹿を相手にワザとイラつかせて合法的な殺し合いに持って行ったって。シーズの当主を相手に上手だねって褒めてた」
「上手にハメたって感じはないんだけどなぁ・・・簡単すぎて」
「何度も似たような騒ぎを起こして相当の『顰蹙』をかってる親子なんだけど、上手く立ち回ってた・・・らしいよ秘書と執事が。私にも自分から罠に落ち込んでいくマヌケな親子にしか見えなかったけど」
「まぁ、バカ親子の惨めな末路って意味では最高の見せしめになっただろ」
「それ! 今のしんちゃんと同じことを10歳の酒屋の女の子にも言われた」
「物凄く達観した考え方の女の子だな。10歳でそこまで考えられるって凄いよ」
「しん様、もしかして10歳の女の子はありですか?」
「クラリーナ、それは絶対ないな。俺の生活の中にモフモフ成分は必要不可欠だけど、ロリ成分は必要ないよ。今までにそこまで年の離れた子と接したことはないけど・・・さすがにどう頑張っても10歳の女の子は恋愛対象にはできないよ。俺から言える言葉は『18歳になったらね』ぐらいだなぁ」
「しん君の恋愛は年齢で決まっちゃうの?」
「決まる。上なら40歳を過ぎても平気なんだけど、下は18歳以下だと恋愛対象から外れるよ。頭の中で『そっちに行っちゃダメ』って、年齢を聞いた瞬間から強引にでも脳内が冷えきる・・・まぁ、俺にはロリ成分はいらないってこと。それはいいとして・・・みんなの明日の予定が決まったな。それじゃあ俺は今から出かけることにするよ」
俺は今まで座っていたソファーから立ち上がる。
ここでセバスチャンがるびのの世話から戻ってきた・・・るびのも付いてきてる。
「ご主人様、お待たせいたしました。るびのも一緒に行きたいと言ってましたがいかがなされますか?」
「とうちゃん、オレも大森林の深夜の狩りについて行きたい」
「じゃあ、るびのは大森林で夜をあかすつもりか?」
「うう~~ん。ちょっと悩む。とうちゃん、向こうで決めてもいい?」
「ああ、いいよ」
「しん様、今からどこかに出かけるのですか?」
「ああ、セバスチャンが今日の大森林での狩りで森林モンキーの巣ごと群れを潰したらしくて、今から森林モンキーの巣の中身を回収に行ってくるよ。森林モンキーの巣は貴重な魔石や魔結晶がたくさんあるから見逃せない。ついでにちょっと採取もしたいから、みんなは先に寝てていいよ。マリア、後は頼む」
「了解しました。ご主人様」
「じゃあ、私たちはお風呂に行ってくるわ」
「おう、アイリわかった、ミーとクラリーナも、それじゃあいってくるな」
俺は今まで自分が飲んでいた酒とつまみをアイテムボックスに片付けて、リビングの隣の客間でサイラスの甲殻鎧に着替える。
腰に帯剣して手に弓を持つ。玄関に行ってワイバーンのブーツを履いて装備完了。
大森林三角池に転移で俺・セバスチャン・るびのの3人で移動する。
「セバスチャン、森林モンキーの巣はどこだ?」
「こちらです、ご主人様」
俺のMAPで点滅する場所が出てきた。
「ここならそれほど離れてないな。ついでに狩りをしながら移動しよう。セバスチャン、先導頼む」
「は」
セバスチャンの先導で移動しながら探査魔法で魔力と気配を探る。なかなかこの辺は魔獣が多そうだな。
「るびのは自分で気配を探って自由に狩りしていいぞ。俺は弓でフォローする。セバスチャンは回収係な」
「とうちゃん、わかった」
「了解です。ご主人様」
森林モンキーの巣まで移動する間に、サソリオオクモを10匹と森林モンキーを追加で100ほど狩った。ちょっと大きめの気配がいくつか点々とあるが近づいてこないな。
森林モンキーの巣の中を俺とセバスチャンで回収している間はるびのが巣の周りで狩りをしていた。
巣の中に転がっている魔石・魔結晶などの回収が終わった頃ぐらいに、るびのから緊急の念輪が入った。