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お待たせしました。
後半です。
薄暗い部屋の中。
私は一つ、大きく息を吐き手にしていた物を机に置いた。
これで一つは片付いた。
後は学校の連中と羽崎さんとその愉快な仲間たちだけである。
タイミング良く携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
『全て終わったわよ』
電話の言葉に微笑みを浮かべる。
「ええ、そのようですね。
お疲れ様でした。
どうでした?」
『どうもこうも………最っっっっ高よ!!
本っ当にスッキリしたわ。
ありがとう!』
「いえいえ。
私は何もしていないので。
他の皆さんはどうですか?」
『うん、皆晴れ晴れした顔をしているわ。
私としてはもう少し痛め付けてやりたい気がしないでもないけど』
彼女の言葉に苦笑をもらす。
「それは……。
今度は貴女方が残虐な犯罪者になってしまうので私としては止めて欲しいですね。
あんな奴らのせいで犯罪者にだけはなって欲しくないです」
『……それもそうね。
ありがとう』
「礼には及びません。
寧ろ貴女方にそんな事をさせてしまって申し訳ない位です」
『それは気にしないで頂戴。
今回の件は全て私たちが勝手にやったこと。
ここにいる5人は例え捕まったとしても貴女の事は絶対に洩らさないわ』
「それは……ありがとうございます。
お礼と言っては何ですが、先ほど彼らの名前と住所や電話番号諸々をちょっと特殊な性癖のゲイサイトに登録しておきましたので何が、とは言いませんが近々面白い事になると思いますよ?
ちなみに数日前から複数の男性とメールで連絡を取り合って彼らはドMでいきなり路地裏とかでレイプされる様なのが好きだ、と言う設定になっています」
『あっはははは!
それ最高ね!』
『何々?どうしたの?』
『聞いてよ!それがさぁ……』
電話口から聞こえる賑やかな笑い声に頬を緩ませる。
皆さんすっかり元気になったようで何よりだ。
会話が一段落付いたところで声をかける。
「後は一緒にいる人たちでその5人を家に送り届ければ終了です。
指示は出してありますのでお疲れでしょう。
後始末はしておくのでお帰り頂いても大丈夫ですよ」
『えぇ、分かったわ。
そうそう、何か困った事があったら言ってね。
微力ながら力を貸すわ」
「それは心強いですね。
その時はお願いします」
『えぇ、任せて頂戴。
それじゃあ』
「はい、失礼します」
通話を切った後、メールを一通送ってから携帯を机に置き、大きく伸びをしてから目頭をマッサージする。
ずっと画面を見ていたため目が痛い。
そのまま両手を横へ移動させ、こめかみを揉みほぐす。
体育倉庫の連中。
あいつらは女性に対する暴行の常習犯だった。
襲われて撃退した時に入手したカメラからその事は分かった。
良くもまぁ、今まで捕まらなかった物だ。
余程悪運が強いのか。
と言ってもそれも今日で終わりだが。
ちょっと調べてみたが、どうも彼女たちは警察には行っていなかったようだ。
二人を除いて怯えて部屋に閉じ籠もったきり出てこなくなっていたようだ。
親は娘が部屋に閉じ籠もった理由を必死に本人から聞こうとしたが彼女たちは一言も話さなかったらしい。
何故か。
それは体育倉庫の連中が『誰かに言ったらこの写真をばら蒔く』っと脅したからだ。
警察に相談しに行ったことがバレたら直ぐに写真をばら蒔かれるかもしれないと言う恐怖。
かといって親や誰かに相談することも出来ない不安。
彼女たちはノイローゼになりかかっていた。
そんな時、私の仲間の女たちが接触。
彼女たちに体育倉庫の奴らに仕返しはしたく無いかと囁いた。
彼女たちの答えはもちろん是。
そして今回彼女たちの手を借りる事ができた。
ちなみに除かれた内一人はさっきの電話の彼女。
彼女は彼らに復讐するつもりでアグレッシブに彼らの情報を集め、復讐するチャンスを虎視眈々と伺っていた。
彼らは制服を着ていたため比較的情報は集めやすかったらしい。
転んでもタダでは起きない彼女とは話があった。
彼女と今回の作戦会議で随分と白熱した議論を繰り広げたのは記憶に新しい。
作戦はこうだ。
まず、前の日の晩。
有段者の女子の仲間を彼らに接触させ、一緒に食事。
その時、彼らの飲食物に睡眠薬を混ぜる。
それぞれカップルとなって別れたところでそれぞれの家に向かう。
睡眠薬の効果が現れる時間になるまでコンビニに寄る等して家に入るのを伸ばし、相手の目がトロンとしてきたところで部屋に入る。
そして『シャワーを浴びてくるから先にベッドで待ってて』とか言って横にさせればこっちのもの。
後は睡魔に任せるだけである。
そして彼女たちの手引きで腕力に自信のある男子数名が部屋に入り、街へ一緒に繰り出すように見せかけて彼らを車に乗せて用意した建物に連れ込んだ。
囮となる女子には
『身の危険を感じたら作戦はどうでも良いから直ぐに逃げろ』
とは指示してあった。
何事も無かったようで何よりだ。
後は知っての通り一人ずつ始末するだけである。
最低でも去勢、と言うのが今回のミッションだった。
突然だが、ラバーハンド錯覚と言う物をご存じだろうか。
簡単に言うと物を自分の身体と錯覚する現象の事だ。
一般的に知られているラバーハンドの実験はまず、被験者の手と偽物の手を机の上に並べて置き、偽物の手と自分の手の間には自分の手が直接見えないように仕切りを立てておく。
被験者が偽物の手を観察しているとき、その偽物の手と実際の手をできるだけ同期させて撫でたり触ったりすると、偽物の手が自分の手のように感じられるようになると言う物だ。
これは様々な触覚実験で応用される。
今回のキーワードは安心感からの恐怖心、限定される視覚、痛み、音である。
まず身動きが取れず下半身を晒した状態で見知らぬ場所で目を醒まし、一人、また一人と連れ去られて行くと言う恐怖。
別室に連れて来た者にはこれは先輩からの指示のちょっとした遊びだ、等と安心させる事を言って安心感を与えてからで特大のハサミでドライソーセージを切り落とすのを見せつけ、その様子と音を聞かせる。
その後、実は先輩からの指示でも何でも無いとばらして与えた安心感を排除してから視覚を奪い、自分は殺されるのでは?と思わせる事を囁く。
ポイントは恐怖心を煽るために丁寧な口調を心掛けること。
そして、ボールペンならカチ、定規ならピシッ!カッターならカチカチッとわざとらしく音を立ててから痛め付けて音=痛みと言う情報を植え付ける。
次は段々痛みを強くしていく。
この時、たまにハエ叩きなど弱い痛みで強弱をつけるのが望ましい。
何故なら、人は耐性と言う物を持っているからだ。
これは厄介な物で、痛みを与え続けていたら段々とその痛みに慣れてしまうのだ。
痛みに慣れさせないためにある程度の痛みを感じさせたら弱い痛みを与える、言わば小休止みたいな物だ。
例えるならフルマラソンに参加して少し休憩してからすぐに再びフルマラソンに参加したくなるか?と言う様な物だ。
きっとほとんど人が『走りたくない』と答えるだろう。
ある程度音、痛みの工程を繰り返して意識に刷り込んでから最後に一旦目隠しを外す。
自分を痛め付けている人物の正体、自分たちが人生を狂わせた人物、と何故こうなったのかを理解させ、心の底から後悔させてから再び目隠し。
最初のハサミの音を聞かせてからその人の股間近くでドライソーセージを切り落とす。
今までで散々音=痛みを認識させた。
つまりは何が言いたいかと言うと、彼女たちは別に本当にはマサたちのブツを切り落とした訳ではない。
ただ、切り落とされた(・・・・・・・)と錯覚させただけだ。
彼らはその音で自分のブツが切り落とされたと錯覚して気絶したのだ。
本来なら素人である彼女達がそうそう簡単にこの錯覚をさせるのは難しい。
なのでその分野に詳しい人と一緒に私が彼女たちについてみっちり練習させた。
ちなみに私と協力者が満足できるまで合格とはせず、この日までに合格しなかったら彼女たちにはやらせないつもりだったのだが彼女たちの気迫は凄まじく直ぐに物にしてくれた。
いやはや、復讐心とは本当に素晴らしい原動力だ。
例え身体的傷跡が残らずとも、精神的傷跡は残る。
そして、一般的にEDの原因の一つとして精神的な物が挙げられる。
だめ押しにそう言う性癖を持つゲイの方たちに襲って貰えば完璧だ。
自分たちが襲った女子の気持ちが理解出来る上に今回の件で彼らは完璧にEDになるだろう。
後は気絶している彼らに少量の睡眠薬を混ぜた酒を飲ませ、酒と煙草の匂いを染み込ませた衣服を着せる。
そして酔い潰れた彼らを送り届ける体で何事も無かったかのように部屋に戻す。
後日拷も……げふんっ、の傷が治った頃に警察に彼らの罪をリークすれば完璧だ。
彼女たちの了承はとってあるし、メールは一回一回人や場所を変えてネットカフェでやり取りしていたので特定され難いだろう。
今回の件の改善点としては彼女たちに法に触れる行為をさせしてしまったことと私の手を汚していない事だ。
私にもっと知識があれば法に触れる事なく彼らに復讐出来ただろうし、黒幕的存在の私が一切手を汚していないのは私の道理が通らない。
もっと精進しなければ。
ともあれ、これでもう彼らの魔の手により悔しい思いをする人はいなくなるだろう。
ただ、惜しむらくは彼らに襲われた被害者の一人が既に自殺してしまっていた事だ。
私の仲間が接触する二日前にマンションの屋上から飛び降りたらしい。
遺書は、無かったそうだ。
もう少し早く行動をしていれば助けられた命だったかも知れない。
それだけが悔やまれる。
沈みそうな思考回路をこめかみを強く揉みほぐす痛みで振り払う。
まだやることがある。
今は後ろを振り返っている暇は無いのだ。
「お疲れ様」
後ろから伸びた手が机に珈琲の入ったマグカップを置いてくれた。
「……あぁ、ありがとうございます。
いただきます」
こめかみから手を放し、マグカップへと手を伸ばす。
一口飲む。
彼の入れた珈琲は本当に美味しい。
その味と温かさにいつの間にか強張っていた体から力が抜けるのを感じた。
半分程中身が無くなったマグカップを机に置き一番伸びをしてから椅子を回して後ろにいる彼に向き直る。
彼は私のベッドに足を組んで腰掛けていた。
「後は学校の連中だけか」
「はい。
舞台も証拠も用意は完璧です。
今からが楽しみですね」
その時に思いを馳せていると、彼がいそいそと携帯を取り出して構えた。
「……何をしようとしているんですか?」
「いや、今の表情を是非とも写真にと」
「止めて下さい」
彼に近付きカメラ部分を掴み、撮影を阻止する。
「いやいや。
今凄い良い顔してたぞ?
正に死神が命を刈り取る瞬間、みたいな。
それか蜘蛛が獲物を捕まえた時、みたいな?」
「貶してます?」
「馬鹿、誉めてるんだよ。
とても俺好みの顔だった」
「………貴方の感性はどうかしていると思います」
「まぁ、お前に惚れている位だしな」
携帯を掴んでいた手を掴まれ引っ張られ、勢いで向かい合わせで彼の膝に乗る格好になる。
「っ!す、すみません。
直ぐに退きます」
「退かなくて良い。
こうなるように引っ張ったんだから気にするな」
「気にするとかの問題では無くって……」
そのまま抱き締められて続きは口に出せなかった。
私の精神年齢は軽く四十は越えている。
それなりに男も知ってはいる。
だが内外共に彼ほど私の好みにドンピシャな人はいなかった。
ここが乙女ゲームの世界だからかモブでも顔面偏差値は高い。
彼はその中でも特に整っている方なので隣にいる程度なら良いがこうまで間近で見ると心臓に悪い。
つまりは何が言いたいかと言うと………照れるのだ。
悔しいが私の顔は今、赤く染まっているろう。
「なぁ、何もお前がこんな面倒臭い事しなくても他の人間に任せれば良いだろう。
危険もあるんだし」
「……これは私の問題なので私の手で片を付けたいんです」
「と言って何度襲われかけた?
今まで上手く撃退できたから良いがもし相手が予想以上に手強かったら?
もし、お前の仲間が裏切ったら?
そうなったらお前は複数の男相手に立ち回れるのか?」
「良くて三人が限界でしょうね。
そうなったら自業自得なのでその時はその時で腹をくくって苦汁を舐めます。
もちろん、後で産まれてきた事を後悔させてやりますが」
「……はぁー。
俺はお前に俺以外の男が触れる何て我慢ならない。
お前はもし、俺が寝込みを襲われて他の女とヤったらどう思う?」
想像してみる。
私を裏切り、あまつさえ私の物に手を出すとは良い度胸をしている。
怒りでカッと腹の奥が熱くなる。
「そうですねぇ。
両者共に私の持てる力を全て駆使して社会的に殺します」
「俺もかよ」
「喧嘩両成敗」
「それは何か違う。
まぁ、両者以外に関しては俺も同じだよ。
だから自分の身を囮にするような事は止めてくれ。
良いな?」
「……善処しま」
「良いな?」
「努力しま」
「い・い・な?」
まるでRPGの村人の会話のようだ。
望む返答をするまで延々とループし続ける会話。
やだ何コレ怖い。
黙っていると無言の圧力がかかってくるので渋々口を開いた。
「……守れる可能性のない約束はしたくありません」
「……なるほど。
じゃあ、守れる可能性があれば良いのか」
「わっ!」
脇に手を差し入れ、持ち上げられる。
そしてそのままくるりと反転して私はベッドへと腰掛けた。
彼は私の手を握り、床に片足を付いている。
「じゃあ、本当はこんな時に言うのもアレなんだが言わせて欲しい。
君を、俺の持てる力を持って出来る限りのあらゆる危害から守ると誓おう。
今後、君を守る資格を俺にくれないか?」
強い視線から目が反らせない。
その視線から彼は本気なのだと伝わってくる。
「締まらない言葉ですね。
出来る限り、ですか?」
「本当は全てと言いたいが生憎と俺にはそこまでの力は無い。
出来ない事は言わない主義なんだ。
ただ、君を守りたいと言う気持ちだけは誰よりも強いと思っている」
「……コレってプロポーズですか?」
「そのつもりだが?
まぁ、指輪もまだ用意できていないから正式なのはまた今度だけどな。
とりあえずは婚約、と言ったところか」
「私まだ17なんですが、ロリコンですか?」
「ロリコンじゃない。
法的には結婚できる年齢だし婚約なら問題ないだろう。
第一、愛に歳の差なんて関係ない。
それに今のうちに鎖を付けて置かないと他の誰にかっさらわれるかとおちおち安心していられないからな」
「鎖って……私は犬か何かですか?」
「愛玩犬だったら大人しくて良かったんだがな。
生憎と君はそんなに可愛らしいものじゃない」
「……………」
「……………」
しばらく無言で見つめ合ってからどちらともなく笑い出す。
しばらく笑いあってから彼の手を握り返す。
「ふふ、良いですね。
そのプロポーズ、お受けしましょう。
でも、私はただ守られるのは柄じゃないのでどうせなら対等な立場で貴方の隣に立ちたいです」
そう言い放ち、ニヤリッと笑みを浮かべと彼は苦笑した。
「君ならそう言うと思ったよ。
俺も、隣にいるのは君が良い。
まぁ、ともあれ。
俺を受け入れてくれてありがとう」
「……っ〜!!」
満面の笑みを浮かべ、指先に唇が落とされる。
何だこのピンクな雰囲気は。
何だろう、尻が落ち着かないと言うか何だか居心地が悪い。
彼の醸し出すなんかむずむずする雰囲気から逃げ出したくなるが手をしっかりと握られているため逃げるに逃げられない。
そうこうしているうちに徐々に近付いてくるその整端な顔に観念して目をギュッと瞑った。
額を柔らかな感触が襲った。
驚き、閉じていた瞼を開くと彼がイタズラっぽい笑みを浮かべいた。
「今は、これだけな。
続きは全て無事に片付いてからだ」
「…………俄然やる気が沸いてきますね、それ」
ご褒美があると人は頑張れる物だ。
今なら何でも出来そうな気がする。
彼が帰った後。
やる気は十分。
よし、と両頬を強く叩き来る日への最終チェックを始めたのだった。
今回の採用リクエストは
・とりあえず襲われる恐怖を味わわせて欲しい。
・不能希望
でした♪
あ、一部不適切な表現があった場合気分を害されたらすみません。
ちなみに私は同性愛とかに偏見は無いつもりです。
ゴールデンウィークにでもちょっと全話見返して手直しを入れる予定です。