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 昼休み、茶封筒を片手に図書室に向かった。

 カウンターには昨日と同じ男子生徒が座っていたので会釈を一つし司書室に向かう。

 深呼吸をして覚悟を決め、ドアを叩いた。


 「どうぞ」

 「失礼します」

 「!!?、ちょ、ちょっと待った!開けるな!!!それ以上開けるなよ!?」


 制止をする前に若干開いたドアから音が聞こえてきた。


 バッターンッ!ドタッ!ガンッ、痛ッ!!


 あ、これ多分ぶつけたな。

 慌ただしい騒音が聞こえる。


 取りあえずそれ以上開けるなと言われたのでそれ以上は開けないようにしてポケットから手鏡を取り出した。

 開いた隙間から中に入れる。

 角度を調節してっと、良し。

 図書委員長はテーブルの上にあった大きな本を直ぐ近くの金庫へとしまっていた。


 あれは………アルバム?


 何故アルバム何かを金庫へしまうのか。

 好奇心が沸き上がってくる。


 そのうち暗証番号を何とか把握して開けてみよう。


 図書委員長がこちらを向く前に手鏡をポケットの中へしまい、素知らぬ顔で待つ。


 「入って良いぞ」

 「失礼します」


 中に入りドアを閉める。

 振り返ると図書委員長がソファーにその長い足を組んで座り、優雅に新聞を捲っていた。


 先ほどの慌てぶりを知るこちらとしてはその光景は笑いしか誘わない。

 笑いだしそうな顔を頬の内側を噛む事で必死に無表情に保つ。


 「いきなり訪ねて申し訳ありません」


 図書委員長は新聞を畳んでテーブルに置くと、入り口で立っている私に近付いてきた。

 若干左足を引きずって歩いているのが笑える。


 「いや、どうした?」

 「取りあえず近いです。

 離れて下さい」


 私と約十センチ位の距離に図書委員長はいる。

 私はワリと高身長だが、図書委員長も高身長なので頭一つ分の差がある。

 つまり、何が言いたいかと言うと。


 「額にハアハア息が掛かって気持ち悪いので離れて下さい」

 「ああ、それは悪かったな。

 スゥー……」

 「嗅ぐなっ!!」


 匂いを嗅がれたので思わず手にしていた茶封筒で顔面を叩いてしまった。

 ワリと厚みのあるそれは良い感じに図書委員長の顔面の真ん中、つまりは鼻にクリティカルヒットする。


 ハグハグと両手で鼻を抑えているが知らんな。


 押し退けようと手を伸ばすと捕まれた。


 「何ですか?」


 離せやこらと見上げると片手で鼻を抑え、恍惚とした表情の図書委員長がいた。


 「もっと………」

 「キモいっ!!」


 思わず叫んでしまった。


 図書委員長の手から素早く自分の手を引き抜き、脇をすり抜けて距離を取る。

 距離を取るためにドアから離れてしまったがここは仕方がない。

 だってあの変態の近くにいたくない。

 図書委員長は鼻を抑えていた手を下ろし、ワキワキとさせながらにじり寄ってくる。


 「良いぞ。

 もっと俺を殴り蔑め罵れ、罵倒しろ……!

 それが、俺の生きる活力になる!!」

 「もっと健全で、かつ他人に迷惑をかけない物に活力を見いだして下さい!

 変態行為はお断りします」

 「誰にも迷惑はかけていない。

 そしてこれは変態行為何かじゃない!!

 これは」

 「仲良くなるためのスキンシップ何て馬鹿げたこと言いませんよね?」


 じとりと睨むと、図書委員長は胸を張って言った。


 「違うっ!

 これは打たれ強くなる為の訓練だ!!」


 短所も言い方を変えれば長所になる。

 これぞまさに言葉のマジックと言うやつである。


 「物は言い様って凄いですね。

 取りあえず現在進行形で他人の私に迷惑がかかっているので止めて下さい」

 「まあまあ、俺と君の仲じゃないか」

 「そんな仲、今すぐその辺の女子に押し付けてやるわ」


 図書委員長のファンとかなら泣いて喜んでくれるに違いない。

 むしろ貰って下さいと頭を下げても良い。


 「残念ながらこの装備は呪われているため他人への譲渡はできません」

 「付属効果:ストーキング、とかですか?

 自分が呪いの装備系統であり面倒臭がられていることは理解されているんですね。

 じゃあとっとと大人しく譲渡されて下さい」

 「君以上に俺を興奮させてくれる女性がいたらな」

 「羽崎さんを推薦します」

 「チェンジで」


 物凄く嫌な顔をして吐き捨てる様に言った図書委員長。

 どうやら図書委員長は羽崎さんがあまり好きではないようだ。


 これは良いことを知った。

 何かあったら羽崎さんをダシに牽制できるやも知れない。


 それは良いのだが、今は早急にするべき事がある。

 私はソファーの辺りを茶封筒で指しながら図書委員長に言った。


 「図書委員長、取りあえず気持ち悪いからにじり寄るのを止めてそこの床で正座していなさい」

 「分かった」


 目を一瞬キラリと輝かせて今までにない速さで素早く床で正座した図書委員長に内心では引きまくりだ。

 迂闊に動かないように正座した図書委員長の足の上に適当にその辺にあった百科事典を五冊程乗っける。


 「さて、私が良いと言うまで一言も喋らないで下さい。

 何か話したい時は挙手して申告制とします。

 良いですね?」

 「ああ、分かった……!」

 「誰が喋って良いと言いましたか?

 イエスかノーかは頷きで現して下さい」


 昨日唐突に思い付いた。

 図書委員長の言動に疲れを覚えるのなら、こう言う風に図書委員長を喋れなくすれば私の精神的疲労は少なくなるのではないか?、と。

 現時点、図書委員長が喋れなくなったと言うだけでちょっと気持ちが楽になった気がするのでこれは効果があるとして今後も活用していこうと思う。


 図書委員長が頷いたのを確認してから私は話を切り出した。


 「さて、それでは本題に移ります。

 一先ずこれをどうぞ」


 手にしていた茶封筒を図書委員長に渡す。

 訝しげな顔を浮かべた図書委員長だったが茶封筒の中身をみた途端、その表情は驚愕へと変わった。


 「全校生徒の約四分の三の署名です。

 事前に図書委員長達が集めていた署名と重複している者は引いておきましたのでご安心を」

 「………一体、どうやって」

 「私は先程喋るなと言いましたよね?」


 私の冷めた声に図書委員長は恍惚とした表情を浮かべる。


 うわ、気持ちわ……ゲフンッその表情に背筋に不快感を覚えた。

 取りあえず早く用件を済まして帰ろう。


 「力づくで書かせたと思われたら心外なので一言だけ言っておきます。

 他人が代筆、とか字を真似て書いたのではなくちゃんと本人たちの直筆ですのでご安心を」


 図書委員長が挙手をした。


 「どうぞ」

 「具体的にどうやって集めたか教えてくれ」


 別段、隠すことでもないので私はネタばらしをする。


 「普通にこれに署名して下さいと頼んだだけですが?」


 正確には生徒会役員が所属していないクラスに名前を書いてくれとプリントを回しただけだ。

 ただ一つ、プリントの意味を説明しないでだが。


 みんな何の疑問を持たずにあっさり書いてくれたようで助かった。

 将来悪徳詐欺に引っ掛からないように気をつけて欲しい。


 リコール時に署名を出されたとしても大概の人は他の人が書いたのかと勝手に理解してくれる。

 例え誰が書いたか発表されても書いてから二ヶ月と言う期間もあるし自分の字ならば『あれ、こんなの書いたっけ?』と記憶もあやふやになるだろう。

 わざわざ一人一人に書いたのか確認するような酔狂な人もいないだろうし万が一を考え、一応その酔狂な人が現れた場合の対策も既にしてある。

 まぁ、大丈夫だろう。



 「この量を一人でか?」

 「そこは友人たちの力を借りました」


 正確に言えば過去、私と楽しくお話し(・・・)した人たちだが。


 図書委員長から話を受けた昨日の昼休みにプリントを回すのと回収を頼んだのだが、今朝がたに全てのプリントが集まったのには驚いた。


 みんな必死に集めてくれたみたいで助かった。

 やっぱり人間追い詰められると能力を発揮するのだな。

 お陰で休み時間に重複者を弾くだけで昼休みには全て完成した。



 図書委員長は私の言葉に首を傾げた。


 「友人、たち……?」

 「何ですか、その反応は。

 私には一人も友人がいないとでも思っていたんですか?

 失礼ですね」


 心外だと図書委員長を見つめると、図書委員長は首を勢いよく左右に振った。


 「べ、別にそんな訳じゃ……」

 「先程から勝手に喋るなと何度言わせる気ですか?」

 「うっ、す、すまない」

 「ほら、また。

 ただ喋らない、それだけなのにその程度のことも出来ないんですか?」


 瞳を潤ませ頬を上気し、今度こそ沈黙した図書委員長。

 よし、作戦成功。



 言うべきことは言った。

 確認したいならすれば良い。

 後は退散するだけだ。


 「ところで図書委員長。

 後十五分程今の状況でいて下さい。

 分かりましたね?」


 図書委員長が頷いたのを確認してから私はさっと一礼した。


 「それでは、失礼します」


 図書委員長が何か言う前にと素早くその場を後にした。



 図書室から離れた廊下まで行ってから額の汗を拭った。


 ふー。

 ミッションコンプリート。












 午後の体育を体調不良を理由にサボり、保健室のベッドカーテンの中で放課後へ向けて念入りに準備をした。

 保険医に見つかったら怒られること必須なのでバレないように慎重にやった。


 




 放課後、約束通り生徒会室を訪ねた。

 ノックをして名乗ると羽崎さん以外の顧問と眼鏡金髪碧眼、保健委員長、銀髪無表情が出てきて何か囲まれた。


 「何ですか?」

 「お前が明を傷付ける危険物を持っていないかボディーチェックをする」


 顧問の口から出た言葉に一瞬耳を疑った。


 「……誰が、誰に?」

 「僕たちが君に、だよ」

 「セクハラで訴えますよ?」

 「そう言うってことはやはり何か後ろめたい物でも持っているんですね」

 「……怪しい」


 ちょっと待て眼鏡金髪碧眼。

 何でそうなるんだ。


 「警察でさえ容疑者が女性の場合尊重してボディーチェックは婦警がやると言うのにあなたがたはその程度の配慮も出来ないんですか?」

 「そうやって屁理屈を捏ねると余計に何か後ろめたい物があると思われるよ?

 それでも良いのかい?」


 保健委員長の言葉に呆れる。


 何なんだ、こいつらは日本語を理解出来ないのか?

 と言うか顧問。

 お前は唯一の社会人なんだから見てないで止めろよ。


 「じゃあ、制服……脱いで」

 「ここでストリップショーでも開けと?」


 私の軽蔑の眼差しに銀髪無表情はゆっくりと首を左右に振った。


 「制服……女子のは、上着と、スカートにしか……ポケットないから……スカートは、ポケットを……裏返して………上着を、見るだけで………事足りる」

 「分かりました」

 周りが悪過ぎると少しまともな奴は凄くまともに見えると言うのは本当なのだろうか。

 ちょっとだけ見直したぞ銀髪無表情。

 ティッシュペーパー一枚分位だけどな。


 スカートのポケットからハンカチとティッシュを取り出し、ポケットの中を裏返して見せる。

 スカートを元通りにしてから上着を脱いで銀髪無表情に渡した。

 それを横から顧問が取り上げ、制服を逆さまにして振った。

 すると、重力の法則に従ってポケットの中の物が全て廊下に落ちる。


 飴、ラムネ、チョコレート、ボールペン、キャラメル、メモ帳、酢昆布、クッキー、携帯、ガム、生徒手帳、グミ、煎餅、チューイングキャンディー、手鏡。

 大量のお菓子と少しの小物が廊下にぶちまけられた。

 お菓子がちょっとした山になっているのをみて顧問が言った。


 「………お前は学校に何をしに来ているんだ?

 菓子を食いにか?」

 「もちろん勉強しにに決まっています」

 「これを見る限り信じられないがな……」

 「我ながらこの量には驚いています」


 しれっとうそぶく。


 「………怪しい物は無いようだしもう良いぞ。

 さっさと菓子を拾え」


 呆れた表情で手渡された上着を元通り着てからお菓子をポケットに詰め直した。

 そして期待はしていなかったがやっぱり誰も廊下に落ちたお菓子を拾うのを手伝ってはくれなかった。



 「失礼します」


 今度こそ生徒会室に入る。

 そこには羽崎さんと残りの生徒会役員がいた。

 部屋の外にいた生徒会役員たちも中に入り羽崎さんの近くに行く。


 相変わらず目が痛くなりそうなカラーリング集団だ。


 あれだな。

 いつぞやの『こんな綺麗な涙(笑)』事件を思い出すな。




 「よく来たな。

 何で呼び出されたか分かっているか?」


 会長席でふんぞり返っている生徒会長。

 その席に座れるのももうしばらくだ。

 それまでは思う存分堪能するが良い。


 「例によって皆目見当もつきませんね」

 「例によってお前がまた明を傷付けたからだ」


 惚けたがスッパリと言い返された。


 またか。

 まぁ、予想はしていたが。


 「先週の金曜日に明がお前に切りつけられたと言う。

 見ろ、この明の腕を。

 全治三ヶ月で後少し深ければ障害が残った可能性があったそうだ」


 全治三ヶ月、ねぇ。

 じっと吊られている羽崎さんの左腕を見つめる。


 「何故、そんなことをしたのか。

 理由を説明するんだな」


 顧問の言葉に私は首を傾げた。


 「さぁ?

 何分私は切りつけていないので理由を語れと言われても語る理由は持ち合わせていません」

 「あくまで惚けるか」

 「惚けるも何も私は無実ですからね」


 顧問の言葉に肩を竦めた。


 「なら、惚けられないようにしましょうか?」


 眼鏡金髪碧眼がそんなことを言い出した。


 「どう言うことです?」

 「貴女が明を切りつけた時の目撃者がいるんですよ。

 これは動かぬ証拠です」


 目撃者?

 はは、起こってもいない殺傷事件の目撃者か。

 それは良いや、笑えるね。


 そんなのがいないと解りきっている目撃者とか。

 こいつは馬鹿なんじゃないか?


 「じゃあ、その目撃者に合わせて下さい」

 「お断りします」

 「何故です?もしかしてそんな人はいないんですか?

 それに、その目撃者はあなた方が用意した偽物の可能性もありますよね?」

 「僕たちを侮辱する気ですか?」

 「いえいえ、そう言う訳ではありませんよ。

 ただ、信用出来ないだけです」


 にっこり笑ってそう言い切る。

 眼鏡金髪碧眼がそんな私を見て忌々しげに舌打ちをした。


 「まぁ、信用するかどうかは置いておこうよ。

 取り敢えず今は彼女の罪を認めさせてあげなくちゃ」


 保健委員長はそう言って眼鏡金髪碧眼を宥める。

 こんな短絡的な副会長で良いのだろうか。

 ゲームでは副会長と言うのは普通会長の暴走を止めるストッパーの役割とか紹介されていたはずだが実際にはストッパーどころか一緒に連なって暴走している。

 まぁ、リコールされるんだし関係ないか。


 「それで金曜日に明を傷付けたこと、認めてくれるよね?」


 認めるよな、と目で重圧を掛けてくる保健委員長。

 認めるわけないだろうが。


 「つかぬことをお聞きしますが金曜日のいつ頃切りつけられたのですか?」

 「朝だそうだよ?」

 「朝の何時頃ですか?」

 「朝の………明、何時頃だい?」

 「ごめんね、時計見ていないからわからないの」

 「そっかぁ、じゃあ仕方がないね」


 ちょっと待て何が仕方がないんだ。

 大体の予想位は付けれるだろうが。

 意味が分からない。


 「ともかく朝だそうだよ」

 「羽崎さん、学校に来る前ですか?」

 「何であんたなんかに答えなきゃいけないの?」


 羽崎さんがこちらを睨み付けてくる。

 おお、怖い怖い。


 「答えて頂かないと私が犯したと言う罪が分かりませんからね」

 「明………教えて、あげたら?」


 思わぬところで援護が入った。

 銀髪無表情が羽崎さんを促す。

 羽崎さんは渋々口を開いた。


 「………学校に来る前」

 「制服を着ている時ですか?」

 「着る前」

 「朝って制服を着る前となるとパジャマの人が大半だと思うのですが、羽崎さんはパジャマで外に出掛けたんですか?」

 「そんな訳ないじゃない!

 ちょっと目が早く覚めて………コンビニに行ったのよ。

 そしたら、そこであなたが………」


 言葉を切り、無事な右腕で自分の体を抱き締めた羽崎さん。

 そしてポロポロと涙を流した。


 「「「「「「「「「明((ちゃん))!?」」」」」」」」」


 「ひっ………うう………………恐かった……!……………き、傷が残ったらどうしよう……」


 そんな羽崎さんにみんなが口々に傷が残ったら自分が貰うと主張する。

 こんな傷物だとみんなのご両親が認めてくれるわけ………と俯いた羽崎さんにそんなの関係ないと力強く力説する生徒会役員ども。

 羽崎さんはみんなのその言葉に感動し、涙を止めて笑みを浮かべる。

 そしてみんな大好き!と一人一人と抱き合っていた。



 な・ん・だ、この茶番劇!!


 幼稚園の発表会の方が遥かに上だ。


 あちらは見ていて癒されると言うのにこっちは見ていてヘドがでる。


 何時までも茶番劇に付き合っている暇は無いので大きく咳払いをしてこちらに注目を集めた。

 邪魔するなと睨まれたが知らんな。


 「私は羽崎さんを切りつけていません。

 証拠ならここに」


 ポケットの生徒手帳から一枚の紙を取り出した。


 「実は木曜の晩、親戚が倒れましてね。

 金曜日は早朝からそちらに向かっていました。

 これはその時の新幹線の切符です。

 あぁ、もちろん始発ですよ」


 ピラピラと紙を見せびらかす。

 すると、イケメン(笑)どもに囲まれていた羽崎さんがこっちに素早く寄ってきた。

 そして切符に手を伸ばすので私は羽崎さんが取れる様にわざと腕を下げた。


 私の手から切符を奪った羽崎さんは顔色が悪い。

 切符を見、下唇を噛んでいた羽崎さんはハッと何かに気が付いた表情を浮かべてから声高に叫んだ。


 「………嘘つき!

 これ、日付が土曜日じゃない!」


 そう言うと切符をたまたまその近くにあったシュレッダーに掛けた。

 生徒会役員どもに見えないのを良いことにふふん、と勝ち誇った表情を私に見せる。


 まあ可愛らしい。


 「明、こっちに来い。 そんな奴の近くにいるな」

 「はーい」


 赤髪ヤンキーの言葉に羽崎さんはとことこ元の場所に戻った。


 「明、駄目じゃないか俺たちに見せてくれないと」

 「あ、ごめんなさい。

 つい……」


 生徒会長の言葉にしょんぼりした羽崎さん。

 それを見ていて他の男どもがだらしなく目尻を下げた。


 わぁ、気分が悪くなる光景だ。


 私は羽崎さんに更なる追撃を食らわせる事にした。



 「あ、大丈夫ですよ。

 先程羽崎さんがシュレッダーに掛けたのは切符のコピーなんで」


 今度こそ本物を取り出して生徒会長に渡した。

 羽崎さんはそれを見て蒼白になった。


 駄目だよ羽崎さん。

 ちゃんとあらゆる事態を想定して備えていないからこうなるんだよ?

 と言うかコピー位わからないのか。

 まぁ、さっきのは裏の黒い部分まで再現した私の力作だしわからないのも無理はない。


 「確かに………日付は金曜日だ」

 「会長、笑えない冗談はよして下さい」

 「見ろ」


 会長が眼鏡金髪碧眼に切符を手渡す。

 それを見た眼鏡金髪碧眼、もう面倒臭いし役職名で良いや、副会長は嘘でしょう、と呟いた。

 切符は他の生徒会役員どもに回されていく。


 そして、みんなの視線が羽崎さんに向きかけた時、誰かが私に向かって突っ込んできた。


 それは、鋭い突きを私の鳩尾に放つ。

 回避出来ないと判断した私は鳩尾と迫り来る拳の間に自分の左手の平を入れ、ダメージを緩和させる為に後ろに跳んだ。


 鳩尾へのダメージは緩和したが相手の力が強く、結果的に私は背後のドアに叩きつけられた。

 以外とこのドア頑丈なんだな、と一瞬どうでも良い事が頭をよぎる。


 背中からの衝撃により肺の中の空気が外に出された。

 それにより出来た一瞬の硬直、そこで私は喉元を掴まれ持ち上げられた。

 首が圧迫され、呼吸が出来ない苦しみに思わず顔を歪める。


 そんな私を喉元を掴んでいる張本人である赤髪ヤンキーは射殺さんとした目で睨み付けていた。


 「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ!

 切符何て変な小細工使いやがって!!!

 お前がやったんだろ?

 とっとと吐けや、このクソ女!!

 殺すぞ」

 「止めるんだ火鳥。

 その手を離せ」


 赤髪ヤンキーの手を掴み、制止する者がいた。


 「それで彼女が死んだらどうする。

 お前が言うクソ女のせいで明の傍に居られなくなるんだぞ」

 「……………チッ」


 喉元を掴んでいた手が離され、私は床に落ちた。

 咳をし、必死で呼吸を整える。


 危ない危ない。

 後少しで落ちるところだった。

 と言うかか弱い女の子に手を出すとか信じられない。

 それでも男か。

 乙女ゲーの攻略対象か。



 赤髪ヤンキーを制止したのは図書委員長だった。 彼は咳き込む私の背をなぜてくれている。


 その心使いは助かる。

 だが、背中をなぜるにあたってブラのホック辺りを執拗に撫で回しているのは感心しない。

 後で鉄槌を加える事にしよう。


 呼吸が整ってから背をなぜてくれていた図書委員長を見た。


 「ありがとうございます」

 「………いや、いい」


 私が立ち上がるのを手伝ってから図書委員長は元の場所に戻った。


 私は睨み付けてくる赤髪ヤンキーを見つめる。


 「先程小細工と言われましたがそれは違います。

 小細工などではなくれっきとしたアリバイ証拠です。

 小細工だと言うのであれば何故私が切符を持っているのか説明して下さい」  「そんなの金で何とかしたに決まっています」

 「「そうだそうだ」」

 「手前の事だ、そうに決まってる」

 「汚い手段」

 「ま、金で解決は普通だよね」

 「そうだな」

 「生徒がこんなことをするなんて………嘆かわしい」


 自信満々に言いはなった眼鏡とその馬尻に乗る生徒会役員たちに私は失笑をした。


 「何ですかその顔は」

 「失礼、ただ……ふふ」

 「ただ、何ですか?」

 「ただ、金で解決しようと言う発想が浮かぶ辺り貴方たちと言う人間の底の浅さが目に見えたもので」


 私の発言に生徒会長は眉を潜めた。


 「……何だって?」

 「なんでもお金で解決って貴方たちのお家は余程お金持ちなんですね。

 普通の未成年はそんな思考回路持ち合わせていませんよ?」

 「ふん、俺はふ「会長、黙って」

 「僕たちを巻き込まないで」


 生徒会長の口を双子が押さえた。

 他の生徒会役員たちも生徒会長を睨んでいる。



 この反応を見るにあの情報は嘘では無いようだ。

 情報の確信を得ることができたのは大きな収穫と言えよう。


 「では、もう一度聞きますがみなさんは羽崎さんが真実を語っており、私が嘘を言っていると思っているのですか?

 こんな明確な証拠があるのに?」

 「ふん、明確も何も手前がでっち上げた証拠だろうが」

 「「そんなのに引っ掛かる訳ないじゃん」」

 「まぁ、そうだよね」

 「大人を見くびるな」

 「俺は明を信じる」

 「僕もです」

 「みんな、ありがとう……!」


 感極まったと言う風に羽崎さんが目を潤ませる。

 ちなみに図書委員長は一言も喋っていない。


 やれやれ。

 恋は盲目と言うが良くもあそこまで全盲になれるものである。

 私もいつかあそこまで人を好きになれる恋をしてみたいものだ。

 ………あ、やっぱ嘘。

 あそこまで愚かにはなりたくない。







 ここで少しでも羽崎さんを疑う事をすればギリギリで間に合ったのに。

 内心そう嘆息しながら私は自分たちの世界で夢中になっている彼らに気付かれ無いよう、そっとその場を後にした。




 「賢い恋は更なる成長を促し、愚かな恋はその身を滅ぼす………か」


胸元に入れていた盗聴機を取り出しながらそう呟いた。


 彼らを見るに明らかに後者であり、そんな彼らを待ち受けるのは破滅のみ。


 後は落ちるところまで落とす為に彼らの退路を断つのみだ。


多分後1話で制裁編へ突入します。

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