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ふむ、どうやら私は嫌われトリップをしたようだ(連載版)  作者: 東稔 雨紗霧


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22/24

彼は彼女に永遠の愛を捧げる~前編~

副会長のお話しです。

 とうとう判決の日が来た。


 『この日の為に殊勝しゅしょうな態度を心掛けてきたんです。

 大丈夫、きっと大丈夫なハズです』


 そう自分に言い聞かせていると時間が来たようだ。

 警備の二人に連れられて入廷する。

 しばらく待っていると裁判官が入廷した。


 「ご起立ください」


 法廷内にいる全員が起立し、礼をした後に着席する。


 「被告人、前へ」

 「………」

 「金那鳥楓かなとりかえでさんですね」

 「……はい」


 返事をすると裁判官は一つ頷いた。

 口元をじっと見つめ、次に出る言葉を固唾を飲んで待つ。



 「主文。被告人を、懲役二十年に処する。

 次に判決の理由を述べます……」



 二十年。

 その言葉に思わず膝から崩れ落ちそうになるのをグッと堪えるが、その後の裁判官の言葉はもはや耳に入って来なかった。


 恐らく、未成年である事などを考慮されたのか障害や窃盗の間接正犯の罪を犯したにしては軽い方だろう。

 だが、それでも二十年。

 若い彼にはそれが途方もない期間に思われた。


 項垂れる金那鳥に裁判官は口調を和らげ、訓戒を口にする。


 「貴方はとても反省している様ですが今回の事件で障害が残り、後の人生に大きな影響が及ぼされた人達がいる。

 そのことを肝に銘じて、しっかりと自分の罪を償って下さい。

君はまだ若い、刑期を終えてもまだ人生をやり直す時間はたくさんあるのだから」

 「……はい」

 「なお、この判決は有罪判決ですから、判決に不服がある場合には控訴を申し立てることができます。

 控訴を申し立てる場合には、明日から14日以内に、高等裁判所に提出してください。

 それでは閉廷します」



 二十年か……。

 明は僕を待っていてくれるだろうか。


 連行されながらぼんやりとそんな事を考える。


 あの女から明が今逃亡中だと言う事は聞いていた。

 彼女に拘置所や刑務所なんて場所を経験してもらいたくはない僕はその事実にホッと胸を撫で下ろした。

 最後に明に会ったのはあの体育館でのステージで、悲しい擦れ違いがあったがあんなに僕に大好きや愛していると言ってくれた彼女だ。

 今頃、勘違いに気が付いて僕に会いたがっているに違いない。

 残念ながら刑期はそこまで短くならなかったが模範囚として過ごして居れば後数年は短くなるだろう。

 しばらく待たせてしまうが彼女ならきっと待っていてくれるハズだ。

 そして刑期を終えた暁にはきっとあの天使の様な笑顔で僕を迎えに来てくれるハズ。

 家族に見捨てられた僕にはもう明しか残っていない、けれど明さえいれば他には何もいらない。

 明もきっとそう思っているに違いない。


 明に再開することを心の支えに、僕はそれから長い期間を刑務所で過ごすこととなる。





 十五年後





 「もう来るなよ」

 「はい、ありがとうございました」



 門番に頭を下げ、刑務所からの門を潜る。


 あれから、できるだけ贖罪の気持ちを表し、刑務作業の成績を上げる様にして模範囚であるように努力した結果、減刑が認められて十五年で釈放された。

 最初の予定より五年も早く明に会える。

 その事に歓喜した。


 明、明、早く会いたい、早く僕をその微笑みで救ってくれ。



 何の根拠も無かったが十数年間、羽崎明だけを心の頼りに生きてきた金那鳥にとって今や羽崎明は神と同じく縋りついて救いを求める存在であり、彼にとって盲目的に信仰する唯一で絶対的な存在へと昇華されていた。


 外に出るが期待とは裏腹に人っ子一人見当たらない周囲に金那鳥は愕然とする。


 まさか明は今日、僕が釈放された事を知らないのだろうか。

 もしそうだとすれば本来の刑期だった五年後まで明に会えない。


 その事実に目の前が暗くなりかけた時、目の前にスモークガラスが嵌められた黒塗りのリムジンが止まった。



 「金那鳥楓様ですね?羽崎明様がお待ちです。どうぞお乗りください」



 車から降りてきた黒スーツの男に車のドアを開けられ、乗車を進められる。

 羽崎明の名前を聞いた金那鳥は何の疑いも無く車に乗り込んだ。



 「羽崎明様が現在いらっしゃる場所まではしばらく時間がかかります。

 それまで軽食などを楽しみながらごゆっくりお寛ぎ下さい」

 「はい。ありがとうございます」



 刑務所には無かったふかふかのソファーにシャンパンやコーヒー、サンドイッチ、チョコレートにキャンディーなどの甘い物。

 それらを口にして漸く釈放されたのだと認識した金那鳥の目から涙が零れ落ちた。


 漸く、あの辛い生活から釈放されたのだ。

 後は明と幸せに暮らしていける、その事に胸がいっぱいになった金那鳥の目から更に涙が溢れる。

 一度流れたら堰を切ったように涙は止まらず、泣き続けた金那鳥はその内にソファーの座り心地の良さもあってかそのまま泣き疲れて寝てしまった。





 体がゆらゆらと揺れ、微かな波の音が聞こえる。

 泣いた事による目の腫れと倦怠感、心地いい揺れとそよ風、それらにより一度浮上しかけた意識はまたゆっくりと沈んでいった。





 「金那鳥様、着きましたよ」



 誰かに揺り起こされ、ハッと金那鳥は寝ていたベッドから飛び起きた。

 そばには車で迎えに来ていた黒服がおり、彼に起こされたのだと理解する。



 「お着替えを用意しました。

 そちらに洗面所がありますのでご支度をして下さい。

 その後、食事を取った後に主の元へ案内します」

 「はい、わかりました」



 手早く支度と食事を取る。

 刑務所では全ての時間が決められ、迅速な行動を求められていたのでなんでも早く済ませる癖がついてしまった。


 歯磨きを終え、案内された場所は外だった。

 直ぐ傍に海があり、今までいた場所が大きな船の中だった事に驚きを隠せない。

 ベッドに寝ていたのもそうだが一体いつの間に移動させられていたのだろうか。

 海を見つめ、唖然としていると背後から声を掛けられた。

 久しく聞いていなかった異性の声に緊張しながら振り返る。



 そこには黒髪の美しい、妙齢の女がいた。

 ビジネススーツを着こなし、長い髪を編んで横に垂らした女は美しかった。

 だが、その女は金那鳥の愛してやまない羽崎明では無かった。



 「お久しぶりです。私の事を覚えていますか?」

 「……いえ、すみませんがどちら様でしょうか?」



 そう問うと女は笑った、その笑顔を見た金那鳥の脳裏にあの日、自分と愛する明を引き離した事件とそれを引き起こした憎い少女の姿が甦った。



 「お前、お前ぇぇぇぇぇぇ!!!」



 思わず掴み掛りそうになったがそれをぐっと堪えて睨み付けるだけに留まらせると目の前の女は意外そうな顔をした。

 その表情に更に苛立ちを覚える。



 「思い出して頂けたようで何よりです。

 考えなしに直情的な行動を取らなくなった辺り、少しは成長したみたいですね」



 上からな物言いに苛立ちが強くなるがここで手を出せばこの女の思う壺だと必死に自分に言い聞かせる。



 「……明は、明はどこですか?」

 「羽崎さんですか?残念ながら彼女はこの場にはいませんよ」



 その言葉に金那鳥は女に詰め寄った。



 「明に、明に一体何をしたんですか?!」

 「特に何もしていませんよ」

 「嘘です!お前が明に何もしていない訳がない!!じゃないと明が僕に会いに来ない理由が無いじゃないですか!」

 「羽崎さんが副会長に会いに来ない理由は単純ですよ。

 彼女はもう貴方の事はどうでも良くなっただけのこと。

 今は副会長の事など全て忘れて幸せにやっていますよ」

 「嘘だ!!」

 「これを見てもですか?」



 女に手渡された封筒を震える手で空けると中には数枚の写真が入っていた。

 過去の記憶が蘇り、手が嫌な汗をかく。

 それを取り出すと、そこには嬉しそうに知らない男と抱き合っている明が写っていた。

 震える手で他の写真も見ていくがどれも明が知らない男と嬉しそうにキスをしている姿やあられもない格好で絡み合っている姿が写っていた。



 込み上げてきた吐き気に思わずその場で座り込み涙を流しながら嘔吐する。


 自分の中にあった心の支えであり、崇高な存在と化していた羽崎明、それが穢された。

 大好きだと、愛していると自分に抱き着き、囁いていた少女がその口で他の男に愛を囁き、穢されている事実に足元がガラガラと崩れるような衝撃を受ける。



 「可哀想ですね、愛する者に裏切られるその気持ちは痛いほど良く分かります」

 「貴女に…貴女に何が分かるんですか……!!」



 女の言葉に怒りが込み上げてくるが女は自分の怒りなどどこ吹く風で飄々としている。



 「いいえ、分かりますよ。

 私も過去に愛する婚約者を奪われた事がありますから」

 「貴女の様な性悪女からならどんな男だって裸足で逃げ出すでしょうね」

 「ちなみに婚約者を奪ったのはそこに写っている羽崎さんですからね」



 吐き捨てる様に言った女の言葉に今までで一番の衝撃を覚えた。

 僕達をあれだけの目を合わせるだけの力を持つこの女に明はまだ無謀な戦いを挑んでいるのか、と。

 いや、もしかしたら偶然婚約者と知り合ってこの女の婚約者と知らずに奪ってしまったのかも知れない。



 「ちなみに彼女は私の婚約者だと知りながらやりました」


 

 そう考えていたが、それはあっさりと否定された。


 明……貴女はそこまでお馬鹿だったんですか。


 突き付けられたその事実に呆れる他なかった。



 「さて、婚約者を取られたのですから私は当然彼女に復讐をしようと思っています」



 女の言葉にハッと視線を上げる。



 「貴方も裏切られて悔しいでしょう?

 どうですか?一緒に復讐しませんか?」



 誘うように片手を差し出された。


続きは明日です

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