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ふむ、どうやら私は嫌われトリップをしたようだ(連載版)  作者: 東稔 雨紗霧


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書く書くと言いながら更新が大変遅くなり申し訳ありません。

 赤髪ヤンキーが右手の拳を握り、私を目掛けて振りかぶる。



 チャンスは一度だけだ。

 恐らく二度目は無い。



 赤髪ヤンキーが放ったのは顔面を狙う正拳突き。

 正面からくる打撃を少し右へずれ、敢えて彼の懐へ入る事により回避。


 赤髪ヤンキーは打力を上げるためか助走をつけながら攻撃してきたので攻撃を避けるために私からも近付いた事により二人の距離は一気に縮まり、その距離約3センチ。

 その3センチを私は赤髪ヤンキーに抱き付くことで0にする。


 私の行動に目を見開く赤髪ヤンキーににっこりと笑いかけると私は腰に巻き付けた腕に力を込めて(かかと)を浮かし、掛け声を出しながら勢い良く自分の背を反らした。

 もちろん赤髪ヤンキーは抱えたままだ。



 「そーれ☆」



 一人でやったらただのブリッジだが、二人でやるとそれは全くの別物へと変わる。

 知っている人は知っている。

 ジャーマン・スープレックスと言う所謂プロレス技である。


 頭部を狙う危険な技なので本来、マットも何も敷いていないフローリングでやるものでは無いが赤髪ヤンキーに限ってはその限りではない。

 本当はスタイナースクリュードライバーにするか迷ったのだが流石に殺すかもしれないという点と嫌いな私に抱き付かれた時のインパクトを狙ってこの技にしてみた。


 ちなみにジャーマン・スープレックスのポイントは少しでもダメージを与える為に角度による首への圧迫を狙って踵を上げることだ。



 自慢じゃないが、私は人よりも背筋が強い。




 「がふっ!!!」



 彼自身の勢いも加算され、勢いよく約180度回転した赤髪ヤンキーも頭と足でブリッジをしている様になっている。

 私と赤髪ヤンキーの今の状態としてはアルファベットのmを思い浮かべると分かりやすいと思う。



 技が決まったと感じると直ぐに赤髪ヤンキーを掴んでいた手を離し、ブリッジの状態から足を振り上げて勢いのままに逆立ちをし、スカートがめくれ上がる前に素早く両足を振り下ろした。


 私が手を離した事により支えを失った赤髪ヤンキーの体はズルズルと床に伸び、良い感じな高さになる。


 両足の着地地点はもちろん赤髪ヤンキーの腹部だ。



 「ぐえっぶ!!!!」



 自分の体重プラス重力の勢いで首を圧迫されたことによる一時的な呼吸困難及び軽い混乱状態。

 更には私のバク転もどきによる全体重が乗った腹部への衝撃。


 堪らず寝そべったまま腹部を押さえながら(うずくま)り、咳き込む。

 これで気絶していないのだから大した物だ。

 ちなみに腹部に着地してから払いのけられる前に素早く降りる際、着地した場所を踵で腹部を更に踏みにじりながら降りてみた。

 効果は抜群だったようで何よりだ。



 首と腹部へのダメージにより一時的にだが行動不能となった赤髪ヤンキーに再び近付き、その隙だらけの首筋にポケットから取り出したスタンガンを押し当てる。


 ボタンを押した瞬間、赤髪ヤンキーの体が跳ね上がり、手足がガクガクと痙攣を起こす。

 暫くすると白目を剥いて気絶した。

 普通は子供やお年寄りなどの抵抗力の弱い人でないと気絶などには至らないのだが、このスタンガンちょっと改造されて威力が市販の物より高くなっている。

私を襲ってきた奴から取り上げた物だったのだが思っていたより中々威力あるな。

これが自分に使われていたかもしれないと思うととても恐ろしい。


 赤髪ヤンキーへのこの一連の行動、やり過ぎだと人は思うだろう。

 私もそう思う。


 だが、赤髪ヤンキーこと火鳥勝正(かとりかつまさ)は世界的に有名な道場の跡取りで千年に一度の逸材だと言われていた。

 例え女に現を抜かして鍛錬をサボっていたとしてもその才能は健在。

 今世前世と通年して約50年武道をたしなんでいた私程度などとてもじゃないが相手にもならないだろう。


 『やり過ぎる位が丁度良い。

 むしろあいつには一般人にやったら骨折じゃ済まない位ので無いと通用しない』


 と、彼のお父上にアドバイスを貰ったのでそれを実行した。

 一応、これは大丈夫かと確認して貰ったので大丈夫だろう。

 このプロレス作戦を話した時は甘いと言われたが流石に花も恥じらう現役女子校生に他人の骨を折らせようとするのは違うと思う。






 「図書委員長、彼にこれを付けて縛り上げて下さい」



 スーツの一人が椅子と縄を持ってきてくれたので、ポケットから手錠と指錠を取り出し図書委員長へと投げる。

 手錠を渡した途端、いそいそと自分の手に付けようとしたのでスーツに合図してハリセンで頭を叩かせる。



 「貴方ではなくそこにいる赤髪ヤンキーに、です」

 「………………はい」



 不承不承と言った風に赤髪ヤンキーに手錠と指錠を付けた図書委員長。


 彼が俯いた際、床に落ちた水滴は汗だと信じておこう。




 「何で貴女ではなく野郎に叩かれるんだ……」



 私は何も聞こえなかった。



 「さて、邪魔なガーディアンはいなくなった様ですしさっさと本題に入りますか。

 はい、どーん」



 封筒から3センチ程の厚さに纏めてある紙の束を取り出し、羽崎さんの足元に放り捨てた。


 「貴女の今までやって来た、恐喝、横領、器物破損、窃盗、婦女暴行、等日本国刑法に触れる事案の証拠、証言です。

 まぁ、婦女暴行や横領の件に関しては貴女が直接暴行や横領した訳ではなく教唆と言ったところでしょうか。

 ばれない様に色々とやっていたみたいですが所詮素人の浅知恵と言ったところですか。

 どうやら前いた学校でも色々と問題を起こしていたそうですね」

 「っ……!わ、私は何もやっていないもん!」

 「えぇ、そう言うと思って証拠はその通り揃えましたよ。

 『私を誰だと思ってるの?パパや周りのみんなに言ったらあなたの会社なんか簡単に潰せるのよ?』

  でしたっけ?まさに虎の威を借りる女狐、随分と傲慢なことを言いますね」

「そんな酷い事言ってないわ!あんたみたいに私を妬んだ人が悪者にしようとしているだけじゃない!!」

「はっ、妬むって……私は羽崎さんに対して一切羨ましいという感情を持った事はありませんが?」 「嘘つき!!私みたいにお家がお金持ちで可愛くて周りにお金持ちなイケメンがいっぱいいるのが羨ましいんでしょ?

 ブスの僻みって見苦しいわよ。

 あーあ、可愛そう。ブスの上に性格まで悪いなんて救いようがないじゃない。

 嫉妬からこんな酷い茶番を仕掛ける位なら大人しく私に媚びへつらった方が良いんじゃないの?

 そうしたら、おこぼれを恵んであげなくもないし、そっちの方がまだ可愛げがあるわよ」



 腰に両手をあて、勝ち誇った表情で言い放った羽崎さん。

 ブスの僻みに云々で羽崎さんの元へ踏み出そうとした図書委員長を手で制し、私は口を開いた。


 「私は自分の顔を悪いとは思っていませんし気に入っています。

 それに、性格の悪さに関しては羽崎さんの足元にはとてもじゃないですが及ばないですよ。

 よくもまぁ、同じ女性に対してあそこまで非情なことができますね。

 自分の信者をそそのかして邪魔になる女性を襲わせ、その暴行を写真や動画で記録し、騒ぎ立てればこれをネットに流すと脅す。

 そのデータを元に彼女達を脅し続けて売春を強要、その売上金のほとんどを自分のポケットマネーにし彼女達への分け前は微々たるもの。

  ポケットマネーにした分で保健委員長が売っていた薬物を買占め、それを更に独自のルートで売りさばく、又は脅していた女の子達に無理矢理使い、中毒にさせて更に売春やその他の犯罪行為を強要する」

「果てには学校の金にまで手を出すのだから本当に強欲な女だなお前は」


 私の言葉を引き継ぐように図書委員長が続けた。


 「それもただ単純に自分の懐に入れるのではなく自分に好意を持つ各部活や委員会の長やそれに準ずる地位の部員にそれとなく自分が欲しい物をアピール。

 お前に好かれたい一心で彼らは自分の貯金、果ては親の財布や部費から資金を捻出して貢ぐ。

 欲しい物はある程度金を自由にできる立場の者のみ、それ以外の者にはやって欲しい事を要求する。

 刑法253条では部費を管理する者が部費を使い込むなどすれば業務上横領罪に当たるがその後、他人に譲り渡す行為は不可罰的事後行為であり処罰されない。

 刑法259条ではまた、横領したお金を譲り受けた者は盗品等関与罪に当たると考えるが、そのお金で購入した物を譲り受ける行為は同罪にあたらないと解す。

 なお、横領するようにそそのす行為は業務上横領罪の教唆に当たり、正犯と同じく処罰される。

 他人に貢がせる為の事に関しては偉く知恵が回るな。

 他の手法は杜撰ずさんなんて物ではなかったがこの件だけは素直に賞賛する。

 一体誰に入れ知恵されたんだ?」

 「入れ知恵だなんて……酷い、優夜君……確かに、みんな私に色んな物をくれたけど、それが部費を使って買っていた物だったなんて知らなかったもん!

 それに女の子を脅すなんて酷い事、私できないよ。

 あきら君が違法な薬物を売っていたなんて知らなかったし、知っていたら全力で止めてたもん!

 なんで?なんで私を信じてくれないの?」


 流れる涙もそのままに悲しげに俯く羽崎さん。

 その雰囲気は儚げで今にも消えてしまいそうだ。

 そんな羽崎さんを見ながら図書委員長は鼻で笑った。


 「我が家の家訓は『直ぐに泣く女は信用するべからず』だ。

 今回のことで家訓の通りお前は信用するに値しない存在だということがよく分かった。

 そんな女が信じてと言っても誰も信じる訳が無いだろう。

 それに家訓とか関係なく俺はお前が嫌いだし見ているだけで虫唾が走る」

 


 横領の件は羽崎さんはあくまでも現金ではなく横領した者がそのお金で購入した物をプレゼントすると言う形だったので立証は無理かと思ったが何人かが羽崎さんにそうしろと言われたと証言したのでなんとかなった。

 人の尊厳を踏み躙るような輩でも流石にみんなわが身は惜しいようだ。


 「最初は陰の支配者よろしく信者たちにそれとなく不満を言うスタイルだったようですが、途中から我慢できなくなったのか表立って堂々と脅迫するようになっていたみたいですね」


 協力者が折角助言したのにこれでは、つくづく黒幕とか陰の支配者の役が不可能な残念な性格をしている。


 「それらに関する証拠は十分。警察も動いています。

 あぁ、ついでに貴女のお父様についても調べさせて頂きました。

 いやぁ、不正の数々が出るわ出るわ。

 正に叩けばいくらでも埃がでるって奴ですね。

 貴女のお父様が捕まるのも最早時間の問題でしょうね」


 前世の記憶を持って転生したからこれだけ好き勝手する性格になったのかと思ったが一応調べたらこれだったので正に英才教育の賜物だろう。

 足元にある紙束を拾うことなく、羽崎さんは唇を噛み、俯いている。

 


 「………………で……」

 「はい?」

 「何で……何で邪魔すんのよ!この世界はあたしの物なのよ?みんなはあたしの物であたしが愛されるのは当たり前なの!!前の世界で恵まれなかったあたしのために女神さまが用意してくれたステージなんだからみんながあたしを好きになってあたしの言う事を聞くのは当たり前でしょう?!だってあたしのためのゲームの世界なんだから!なのになんで、なんであんたみたいなのがいるのよ!!なんであんたみたいなバグがいるのよ!!バグならバグらしくとっとと大人しく排除されなさいよ!!!この、ブスが!」


 可愛らしいその顔をまるで般若面のように憎悪で歪ませながら私への恨みつらみをまくしたてる羽崎さん。

 そこにはさっきまでの守ってあげたいか弱い女の子の姿は無い。


 「ゲーム?一体何の事ですか?」

 「とぼけないで!ここが『君と永久に』の世界だって知っているんでしょ?だからあの日も呼び出しに応じたんじゃない!」

 「呼び出しとはこれのことですか?」


 ポケットから取り出したのはいつかの手紙だ。


 【乙女ゲーム『君と永久に』。

  これについて意見を交わしませんか?

  放課後の五時頃、体育館倉庫にてお待ちしております】


 スクリーンに私の手元の手紙が写し出される。


 「はて?私は自分の靴箱に乙女ゲームについて語り合おうと書かれた手紙があったので人違いではないかと言いに行っただけですが?

 それにしても……『ここが『君と永久に』の世界だって知っているんでしょ?』でしたっけ?

 何を馬鹿なことを、ここはゲームの世界ではなく現実ですよ?ゲームと現実を混同してはいけません」

 「ふん、あんたこそ何言ってんのよ、ここは完壁に『君と永久に』の世界じゃない。

 だってそうだって女神さまが言ったんだもん!

 それに攻略キャラだっているじゃない!!

 俺様生徒会長の白鳥凰貴しらとりおうき、金髪碧眼で眼鏡キャラな金那鳥楓かなとりかえで、腹黒双子キャラの緑家鳥紫音、璃音(りょくやとりしおん、りおん)、銀髪無表情キャラの水無鳥静みなとりせい、ヤンキーキャラの火鳥勝正かとりかつまさ、爽やかキャラの茶枝鳥颯太ちゃしとりそうた、根暗キャラの黒魅鳥優夜くろみとりゆうや生徒会顧問の紫鳥理人ゆかりどりりひと全員揃っているじゃない!!

 みーんなお金持ちだし、攻略条件もイベントも全部ゲームのままでイベントを回収してみんなのトラウマを癒せば簡単に攻略できたしね。

 ……まあ、優夜君はあんたに先に攻略されちゃったみたいだけど」

 「女神さまだとか人を攻略キャラだとか何をわけのわからない事を。

 つまり貴様はゲーム感覚で元生徒会役員どもと顧問だけではなく複数の人間を誑かし、犯罪を助長させ、学園と世間を混乱に陥れたわけか。

 やはりろくでもない女だったな」


 まるでゴミを見るかのような眼差しで羽崎さんを見つめる図書委員長。

 そこには根暗キャラの陰は全くない。


 「ふん、もうこの世界に用は無いし猫を被るのはやめるわ。

 邪魔も入って面倒くさくなってきたし丁度飽きてきたところだったのよね。

 そろそろ別の世界に移動しようかと思ってたの」

 「は?一体何を言っているんだ?この世界がゲームとか言っていたしやはり頭がおかしいんだな」

 「あっはははは!!もう捨てる世界の人間に何言われようと痛くも痒くもないわよ。

 それじゃあね、糞女!

 あんたはこれから消える世界で出しゃばった事を後悔すると良いわ!!」


 私に向かってそう叫んだ羽崎さんは制服のポケットから取り出した折り畳みナイフを自身の胸へと突き立てた。


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