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前回の話でテストの点と科目について多くの方に指摘を頂きました。
ちなみに、私のクラスメートに伝説のオール0点を叩き出した猛者がいたので羽崎さんの点数にありかと思ったのですが無しだったようですね(笑)
【『あたし、あんたが嫌いなんだ。だから消えてくんない?』
『………んーと、何で嫌いか聞いても良いですか?』
『あんたがあたしの逆ハーを邪魔してくるからよ』
『邪魔?邪魔なんかしていないはずですが?』
『へぇ、惚けるんだ?
大人しく消えてくれるんだったらこんなマネしたくなかっんだけど、あんたがそう言うならこうするしか無いよね?』
そう言うと何処からか果物ナイフを取り出した羽崎さんは自分の左手首をナイフで切った。
うっすらと血が出る。
『何してんの!?』
『止めて!離して!!』
その光景を目の当たりにした女子生徒が手当をしようと羽崎さんの手首を取り、ハンカチをポケットから取り出すが羽崎さんが暴れて手当てができない。
ナイフを投げつけたりしてとても危険だ。
このままでは埒が開かないと思われたその時。
『キャー!誰かぁ!』
『大丈夫か明!』
『明、無事ですか!?』
『明、もう、大丈夫だから』
生徒会役員の副会長、風紀委員長、書記の三人が空き教室に飛び込んできた。
渡りに船とばかりに手助けを求める女子生徒。
『丁度良かった、手伝って下さい』
『ふっざけるな!』
『明から手を離しなさい!』
『………邪魔』
手当ての手伝いを頼んだが、三人は女子生徒を押し退けて羽柴さんを取り囲んだ。
風紀委員長に関しては女子生徒に体当たりをする勢いだ。
三人は女子生徒に目もくれず羽崎さんに話しかける。
『明、一体何があったんですか?』
『もう、大丈夫……だから』
『落ち着けって、な?』
甲斐甲斐しく羽柴さんに話しかける三人だったがそのうち書記が羽崎さんの手首の怪我に気が付いた。
『!?明………怪我、してる』
『『え!?』』
心配してくる三人に対し、彼女は衝撃の言葉を発した。
『彼女が………、彼女が『死ね』って言っていきなり斬りかかってきて……うっ、ふぇぇん。
こ、怖かったよぅ』
事実とは180度異なった言葉。
三人はいとも簡単にその言葉を信じる。
『もう絶対そんな目にはあわせねぇから』
『よしよし、もう大丈夫ですからね』
『傷が、残ったら、僕がお嫁さんに…してあげる』
『誰がお前何かの嫁にするか!明は俺の』
『傷が残ろうが残るまいが僕と結婚しましょうね、明』
『俺の台詞とるなよ眼鏡!』
『こう言うのは言ったもん勝ちです』
怪我をほったらかしにして騒ぎ始める三人を呆れた表情で女子生徒が見つめていると羽崎さんが怯え始める。
『ひっ、睨んでる』
途端に三人が凄い形相で女子生徒を憎々しげな表情で睨み付けた。
『てんめぇ……よくも明に…!』
『今すぐそこで死になさい、明の綺麗な肌に傷をつけるなど万死に値します』
『許さ、ない』
ため息を吐いた女子生徒に三人は食って掛かる。
『なんですかその態度は?貴女は自分がやったことが分かっていないんですか?』
『殺す!マジで殺すあいつ!』
『同じ、目……合わせる』
ジリジリと女子生徒に近付く三人。
それに対して女子生徒はあくまでも冷静に対処する。
『良く傷口を見ろ、血管までは届いていない浅い傷だ。
清潔に保てば後も残らず綺麗に治る。
そんなに彼女に傷が残るのが心配ならさっさと保健室に連れて行くのが普通だろうが』
『!、そ、そうだ、早く明を保健室に!』
『ええ!急ぎますよ!』
『手当て、しなきゃ』
『良かったら傷口を押さえるのにこのハンカチを使って下さい』
『いりません、誰が貴女何かのを使いますか』
『お前何かのを使ったら明が汚れる』
『……汚い』
そうして羽崎さんをお姫様抱っこして慌ただしく四人は空き教室を出て行った。
女子生徒はナイフを拾い上げ、四人が蹴散らかして行った椅子や机を直した。
場面は切り替わり、生徒会室。
羽崎さんと九人の見目麗しい男が勢ぞろいしている映像。
生徒会長、副会長、会計監査、書記、風紀委員長、保健委員長、図書委員長、生徒会顧問。
中身が腐りきっていて最早公害レベルと言っても流石乙女ゲーの攻略対象と言うべきか。
この部分だけこうして見ると何かの広告映像みたいだ。
『君をここに呼び出した理由は分かっているんだろうな?』
生徒会長が口を開く。
『さぁ?
私はこの学校に転校してきてまだ少ししか経っていないので思い当たる節がありませんが』
『なるほど、顔と同じで頭も冴えないようだな』
は、と鼻で笑いながら言い放たれた言葉。
表情を変えない相手に会長は舌打ちを一つして、副会長から何か書類を受け取る。
『先日、お前が羽崎明に刃物を向けて怪我をさせたと言う事件が起こったそうだが何か申し開きはあるか?』
『申し開き?それだとまるで私が羽崎さんを切りつけたみたいじゃないですか』
『実際そうだろう』
『事実無根ですね。私は無罪です』
『ふざけるなっ!』
バンッと勢い良く机を叩いた会長。
『明の手を見てみろ!それでもまだ同じことが言えるのか?』
羽崎さんが画面に写る
羽崎さんの左腕は袖口が肘までまくり上げられていた。
手の平から肘まで包帯で巻かれているのが見える。
『全治五週間、後少し深かったら命に関わる怪我だったそうだ』
『……ちなみにその怪我の報告は一体誰に聞いたんですか?』
『明本人からだ』
『……医者の診断書とか見ました?』
『明が病院に行って聞いて来たんだ、確かな情報に決まっているだろう』
映像は続く。
ちなみにこの映像が流れている間の羽崎さんの反応は面白かった。
まず、最初の自作自演のシーンで顔色を変え、あわあわ。
周囲を見回してそこにいるほぼ全ての人間が映像夢中になっている事に安堵するとそろりそろりと少しずつ後退りして舞台袖へと下がっていく。
そして、舞台袖へと消えるかと思われたが直ぐに戻ってきた。
それもそのはず。
舞台袖には馬鹿どもを逃がさない為に手配した怖ーい顔面の持ち主の男性を数名待機させて貰っている。
下がっていた羽崎さんがその内の一人にぶつかり、何だ?と後ろを振り返って見上げると8の付く職業顔負けの強面の集団が一例に並んで逃げ道を塞いでいた。
その強面にビビりつつもにっこりと笑いかけるが彼らの誰一人として反応せず無言の圧力を羽崎さんにかける。
その圧力に屈したのか羽崎さんはコソコソと再び元の位置へと戻った訳だが………。
正直、見ていて面白かった。
なんと言うか間抜けな感じが。
映像は更に進み、私が赤髪ヤンキーに腹パンを食らうシーン。
画面にアップで赤髪ヤンキーの今にも人を殺しそうな表情が表示される。
しばらく動画の目線が下がり、足元からのアングルで彼らの様子を映し出す。
彼らの金で解決云々と羽崎さんとの茶番劇が流れた後、画面は暗転し、ステージ上だけライトが点いた。
未だ唖然とした表情でスクリーンを見つめている元生徒会役員たち。
「さて、何か言うことは?」
「……………な、何で、何でこんなのがあるのよ?!
可笑しいじゃない、何で?
何で、何でアンタがこんな物持ってるのよ!」
私に羽崎さんが詰め寄ろうとするのを見てハッと我に返った元生徒会役員どもは口々に今の映像の説明を求めてくる。
「何なんだ一体!?
何故こんな映像が!?」
「一体どうやってこんな物を手に入れたんですか!?」
「チッ、ふざけた真似をしやがる」
「「最初の映像は一体何?」」
「それに、最後の映像はどういうですか!?
あの時、持ち物を確かに確かめました。
カメラなんて物は無かったはずです」
「そうだね。
スカートのポケットに至るまで確かに調べた」
「俺もいたしな。
だとしたら隠しカメラが生徒会室に……?
だが、それだと最後のアングルが変わるのに対する説明が付かないか………となると……」
「……どう言う………こと、?」
ちなみ最後の質問は上から順に生徒会長、副会長、赤髪ヤンキー、双子、副会長、保健委員長、顧問、銀髪無表情からの問い掛けだ。
とりあえず私は聖徳太子じゃないんだ。
一気に質問されても困る。
「お前ら、落ち着けよ。
どうせそこのクソ女が作ったデマの映像だろうが」
「……そうだね、火鳥の言う通りだよ。
このままだと彼女の思うツボだよ?」
「「「「「「!!」」」」」」
赤髪ヤンキーと保健委員長の言葉に我に返る六人。
羽崎さんに至っては活路を見出だせたとばかりに余裕な表情を浮かべ始める。
まぁ、当然の事だが人生は彼らの考えみたいにそんなに甘くない。
その事を骨身に染みらせる為にまずは映像に関するの質問から答える事にしようか。
「今の映像は私が作った偽物ではなく、れっきとした本物です。
あの映像には皆さん身に覚えがありますよね?」
「「「「「「「「「ある訳けないだろう(じゃない)」」」」」」」」
………なるほど。
シラを切る事にしたのか。
そんな事は想定内なので私はカードの一枚を切る。
「こちら、映像解析を専門的に扱っている会社からの鑑定書です。
良かったらどうぞ穴が空くほど良く見て下さい」
封筒から取り出した一枚を図書委員長に渡し、図書委員長経由で生徒会役員たちへと手渡される。
その間にもう一枚を封筒から取り出す。
「スクリーンにも映すので他の皆さんも是非見て下さい」
スタンバっていた放送局部のカメラマンによりスクリーンに私の手元の映像が映し出される。
まぁ、書かれている内容は専門用語が多くて分かり辛いだろうから重要な部分だけマーカーを引いておいた。
カメラマンがその部分をズームして映し出す。
ちなみにこのカメラ、テレビ局でも使われるような高性能カメラなのでこんなA4サイズの小さな文字でも問題なく表示される。
こんな高性能カメラが何と部活の備品だと言うのだから驚きだ。
本当はこんな見え辛いやり方ではなく映像に組み入れようかと思ったのだが、それだと加工がどうこうと言いそうなので重要な書類は全てこうやって映す事にした。
『………以上、様々な観点から解析した結果、今回調査した映像には加工した部分等不審な点は見受けられませんでした』
ズームされた画面にはそんな文字が表示されていた。
「それでもまださっきの映像が偽物だと思いますか?」
「君が《・・》用意した証拠だろう?
それならまずその証拠の正統性を俺は疑うね」
「まぁ、明を刃物で斬り付けるような危険な思考回路を持つ様な女性だからね。
明を貶める為にこの映像を用意したと考えるのは妥当かな」
私の質問に顧問と保健委員長が反論する。
さっきの映像を見てまだそれを言うか。
真性の馬鹿とはこう言うのか。
「お前が用意した証拠なんて信用できるか!」
「先生の言う通りこれも貴女が作ったデタラメな証拠に決まっています!」
「本っ当、ふざけた真似しやがるクソ女だな!
死ねよお前」
「「僕たちは明ちゃんを信じるよ」」
「……………」
そしてそれを聞いた他のメンバーが我が意を得たりとばかりに私を罵倒し始めた上に一般生徒からも罵声が飛んでき始めた。
罵声の他に空き缶なども飛んでくるが当たりそうなのだけ叩き落として後は気にしない事にする。
三十秒程黙って聞いてから封筒からあるものを取り出した。
三角形に折られたそれの端っこをしっかりと掴んでから頭の上へと振り上げ、勢い良く降り下ろす。
パアァァァァァンッ!!!!
大きな破裂音が響き、それにより罵声がピタリッと止まった。
流石古き良き昔懐かしい紙鉄砲。
大した効果だ。
紙鉄砲の有用性を実証し、その効果に満足した私は降り下ろした事により広がった紙を元通り三角形に折り畳んで封筒に戻してから口を開く。
「別に私は信じろとは言いません。
ただ、私はそこにいる偽りだらけの彼女とは違い一から十まで全て真実を告げるだけ。
私の話やその証拠を信じるか信じないかは貴殿方次第です。
信じるか信じないかなんてそ水掛け論はどうでも良い。
では、丁度静かになった所ですし他の質問にも答えましょうか。
最後の映像をどうやって撮ったか、でしたっけ?」
私は胸ポケットに刺していたボールペンを取り出した。
「これ、私の愛用しているペンでして、無骨なデザインな上に少々値は張りますが中々面白い作りになっているんですよ」
一回、ノックを長押しした。
すると、スクリーンに私側から目線で彼らの姿が映し出される。
「どうもこうもこう言う訳です。
いやぁ、最近の技術力って凄いですね。
お陰様で重宝させて頂いてます。
生徒会室での一件に関しては全てこれで撮影しました。
さて、後の質問は何故こんな映像が、でしたっけ?
答えは簡単。
隠しカメラです」
「「「「「「「「隠しカメラぁ!?」」」」」」」」
元生徒会役員一同が声を揃えて叫んだ。
「やはり犯罪者か」
「今すぐ業者に連絡してカメラを回収する手筈を取ります」
「「映像も回収しないとね。
特に明が映っている所♪」」
「いや、それよりもまず警察を呼ぶべきだと思うよ?」
「茶枝鳥の言う通りだ。
許可なく他人の姿を撮るのは犯罪だ」
「許可はありますよ?」
タイミング良く顧問が許可云々を言い出してくれたのでここぞとばかりに封筒から一枚の紙を取り出した。
カメラマンがすかさず私の手元をズームでスクリーンに映し出す。
「新部設立申請書?」
生徒会長が訝しげな表情で呟いた。
「はい、下の活動内容を良くご覧下さい」
「……………何だこれは!?
俺はこんなの許可した覚えは無いぞ!?」
驚愕。
正にこの言葉がぴったりな表情を生徒会長は浮かべた。
『新部設立申請書
新部名:校内警備部
活動内容:
学校内において起こるであろう事件を未然に防ぐ、又は起きてしまった事件を迅速に解決させる。
また、事件が起こってしまった場合の映像証拠を得るために校内のあらゆる場所に専用機器を設置、管理する。
ただし、更衣室やトイレなどの特定の場所には設置しない事とする。
又、それらの機器により得た映像は部長が厳重に管理し、必要になった場合は直ぐに映像を提出すると共に入手した映像を悪事などに対し不正に使用しない。
もし使用した場合は厳重に処罰を下す』
この下に顧問と部員、そして生徒会長のサインと判子がしっかりと押されている。
「覚えがない?
でもこれは貴方の筆跡ですよね?
判子もしっかりと押してありますよね?
生徒会長の判子は生徒会長がしっかりと管理して金庫に保存、生徒会長以外誰も出せないし押せない様になっていますよね?
じゃあ、これは一体どう言う事何ですかね?」
私の追求に生徒会長はグッと言葉を詰まらせた後、顔を歪ませて反論してくる。
「さ、サインはお前が真似て書いたんだろう?
判子は裏切り者の黒魅鳥が金庫から取り出した、そうに決まっている」
「なるほど。
でも、金庫って確か素晴らしい事に指紋認証式ですよね?
スパイ映画じゃあるまいしそんな金庫からどうやって取り出すんですか?」
「そ、それは………」
「後、サインを真似て書いた、でしたっけ?
これを見ても同じ事が言えますか?」
スクリーンに先程の生徒会長の答案用紙が表示される。
「さて、名前をズームしてみましょうか。
そしてその下にこの新部設立申請書のサインを表示すると………」
私の指示通り画面が変わっていく。
そして、スクリーンの上半分に答案用紙のサイン。
下半分に申請書のサインが表示され、それぞれが上下へと動いて重なった。
「おや、そっくりですね。
いえ、そっくりと言うには流石に似すぎていると思えませんか?
それこそ本人が書いているとしか思えない位。
ちなみに筆跡鑑定にも出してありますので一応表示しておきますね」
言い逃れの出来ない証拠の数々に生徒会長は顔を青ざめていく。
元医者としては思わず体調を心配したくなる様な顔色だが、追求の手を緩める気は更々ない。
「ここでリコールの一つ目の理由に戻りますが生徒会長、最近は自身の職務を放棄し、仕事をするにも図書委員長に尻を叩かれて渋々、しかも適当にしかしていませんでしたよね?
そんなんだから自分がサインした書類も把握できないんですよ。
正に判子とサインをするしか能がないお飾りの生徒会長さんですね。
居ても居なくても同じじゃないですか。
寧ろ居ない方が仕事が捗ります」
まぁ、私としてはサインと判子するしか能がないお陰でこの申請が通ったのでありがたかったんだがな。
生徒会長は一番嫌いで、絶対になりたくないものにならないために幼少期からずっと努力してきた。
彼のその惜しみなく努力する姿は好ましい。
だが彼は今まで自分が積み重ねてきたものを愚かにも自らの手で手放したのだ。
その結果、自分自身が一番嫌いでなりたくなかったものへと成り下がった。
彼自身それを認め、受け入れてはいないが、本当はそれを理解してはいるはずだ。
何時までも知らないフリをし続けると言うのならば、その現実を突き付けてやろうではないか。
では最後に、一旦生徒会長の心を折っておくために彼のコンプレックスを利用した一言を言わせて貰うとしようか。
「所詮、何をしたってどうやったって結局貴方は無能。
変わることなど無いのですよ」
私の一言に生徒会長は血の気を無くし、ヨロヨロとその場に崩れ落ちた。
思ったよりメンタル弱かったんだな。
実に呆気ない。
さて、次だ。




