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ふむ、どうやら私は嫌われトリップをしたようだ(連載版)  作者: 東稔 雨紗霧


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 「生き恥?

 一体どう言う意味?」


 羽崎さんが質問してきたので親切に答えてさし上げる。


 「ああ、すみません。

 生き恥と言うのは生きていて受ける恥と言う意味で、まぁ簡単に言うとつまりは死んだ方がマシって意味ですね。

 あ、ちなみに対義語は死に恥です」

 「誰も言葉の意味なんか聞いていないわよ!!

 私が聞きたいのはこんな事をしてどう言うつもりなのかって事!」

 「あぁ、すみません。

 てっきり言葉の意味が通じていないのかと思いまして」

 「明を馬鹿にしているのか貴様……!」


 生徒会長が羽崎さんを庇う様にして私に一歩近付く。

 他の面子もいきり立った雰囲気を醸し出している。


 やれやれ、軽いジョークなのに冗談が通じない人たちだ。

 仕方ない、要望通りここからは少し真面目にやろうか。


 元生徒会役員どもに見えないように後ろ手で舞台袖に合図を送り、羽崎さんの質問に答える。


 「本当に分からないんですか?

 羽崎さんだけではなく生徒会長や副会長、貴殿方も?

 だとしたら貴殿方は本当の、本当に無能なんですね。

 特に生徒のトップであるはずの生徒会長の無能っぷりは群を抜いていますね。

 リコールされるのも頷けます」


 わざと生徒会長を名指しで無能と評価を下す。

 特売よりも安い挑発だが生徒会長は乗ってくれた。



 「俺が………無能、だと?

 ふざけるなっ!

 テストでは常に学年一位を維持、全国学力テストでは常に上位。

 運動もそこらの人間より秀でているし、家柄も………!……まぁ、悪くは無い。

 おまけに顔も整っている。

 そんな俺が無能?

 何処をどう見たら無能なんだ?

 お前の目が腐っているんじゃないのか!

 無能だなんて二度と言うな!」


 顔が整っているとか自分で言っちゃう辺りナルシスト臭が半端ない。

 自信満々にそう言い放った自信家な生徒会長を思わず鼻で笑ってしまう。


 さて、ここからは乙女ゲー内で得た情報を活用しようではないか。

 まずは手始めに彼のコンプレックスをくすぐるとしようか。



 「はっ、無能に無能と言って何が悪いんですか?

 確かに勉強、運動、家柄と三拍子揃っているのかも知れませんが高々それだけでしょう?

 無能は無能。

 そんなのは只のオプションであり貴方が有能であると言う証明にはなりません。

 勉強ができる=有能な訳ないじゃないですか。

 計算式が解けるのと仕事ができるのとは別問題です。

 少なくとも世の中には勉強ができなくても貴方よりも遥かに有能な人材はいますよ。

 今の発言は貴方の無能具合を良く表していますね」


 わざと無能無能と連呼する。



 実は生徒会長は幼少期は今と違い何をおいても同年代の子供より劣っていた。

 実力主義な父親は無能である彼を許さず、厳しい躾を行なっていた。

 そして生徒会長は血の滲む様な努力をして今の実力を身に付けたのだ。

 そんな彼は無能と言う言葉を嫌う。

 何故なら昔の惨めな自分を思い出すから。

 と言う設定だ。


 本編ではヒロインにより躾の厳しさは全て親心による物だったと分かりコンプレックスは解消とまでは行かずとも緩和されるのだが、今までの様子を見るに羽崎さんは生徒会長を自分に依存させるためにその誤解は解いていないようだ。

 お陰で扱いやすくて助かる。



 私はわざと生徒会長を見下す様な表情で次の言葉を続ける。



 「あぁ、それと、常に学年一位を維持、でしたっけ?

 それも過去の栄冠じゃないですか」

 「………何だと?」


 手にしていた茶封筒から数枚のプリントを抜き出し、生徒会長へと投げる。

 プリントは床を滑り、狙い通り生徒会長の足元へと届く。

 生徒会長はそのプリントを拾い上げ、その内容に目を見開くと慌ててプリントをポケットへと突っ込んだ。


 「な、何でこんな物をお前が持っているんだ!?」

 「ちょっとしたツテで。

 それ、勿論見覚えありますよね?

 生徒会長が受けたこの間の中間テストの回答用紙です。

 今一足先に返却しますね。

 あぁ、見覚えが無いとは言わせないですよ。

 今慌ててしまい込んだのが証拠です。

 で、話は戻りますが何でしたっけ?

 『テストでは常に学年一位を維持、全国学力テストでは常に上位』

 でしたっけ?

 良くもまあそんな点数でそんな大口が叩けた物ですね。

 呆れて笑っちゃいますよ本当に。

 ねぇ、皆さん」


 ステージから一般生徒の方へ振り返る。

 生徒たちは口をポカーンと開けた状態で私と生徒会長、と言うかステージにいる人物たち全員の背後を見ていた。


 「?

 お前ら何を見て………!」


 私以外のステージに立っているみんなが自分たちの背後を振り返る。

 そこにはいつの間にか下りていたスクリーンに大きく一つの画像が映し出されていた。


 「え、嘘でしょ」

 「会長………これは酷い」

 「ぷっ、……くくっ」

 「「お馬鹿さ〜ん」」

 「………あり得、ない」

 「んー、流石の俺でもこれは無いと思うよ?」


 映し出されていた物、それは生徒会長のテストの答案用紙だった。

 私が手で合図すると次々と場面が変わり、各教科の答案用紙が表示される。


 「わ、わあああああぁぁぁぁぁ!!!」


 生徒会長は慌ててスクリーンの前に立って必死に見られない様に手を振ったりジャンプをする。

 が、当たり前だがスクリーンの方が会長より大きいので何の意味もなさないし、映写機は映画館式に体育館の後ろから映し出すタイプなので光を遮る事も出来ない。


 その行動は、ただただ生徒会長の滑稽さを露にするだけだった。


 「何々?現国7点、数学2点、英語60点、現社3点、化学1点?

 英語だけは普通みたいですがそれ以外はボロボロですね。

 これで学年一位?

 うちの学校は随分と学力が低かったんですね、びっくりです」


 私の言葉に一般生徒の方からくすくすと笑い声が上がった。

 笑い声を聞き、生徒会長は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 そしてその後ろで一般生徒と一緒になって笑っている他の生徒会メンバーは生徒会長に対する非難を口にしていた。



 「何だよ、会長の道連れで俺らもリコールされんのかよ」

 「全く、良い迷惑ですね」

 「「会長〜、堕ちるなら一人で堕ちてよ〜」」

 「……巻き込む、な」

 「じゃあさしずめ俺は生徒会長の監督不行き届きって事か?」

 「先生も俺らも完璧なとばっちりだよね」




 自らには何の責は無いと思い込んでいる愚かな彼らを見つめて再び口を開く。


 「では、そこで笑っている方々の点数も見ていきましょう」


 私の言葉に全員が全員顔色を変えた。


 「まずは、副会長。

 現国8点、数学0点、英語60点、現社2点、化学3点。

 双子の会計監査。

 二人とも現国5点、数学2点、英語2点、現社2点、化学2点。

 銀髪、じゃなくて書記。

 現国10点、数学9点、英語0点、現社1点、化学3点。

 赤髪……げふんっ失礼、風紀委員長。

 現国2点、数学0点、英語0点、現社0点、化学0点。

 保健委員長。

 現国5点、数学4点、英語20点、現社9点、化学1点。

 ………とてもじゃないですが目も当てられない結果ですね。

 こんな点数で良くもまあ生徒会長を笑えましたね。

 まさか、私が生徒会長の答案しか入手していないとでも思ったんですか?

 だとしたらとてもおめでたい思考回路ですね。


 あ、生徒会長おめでとうございます。

 一応生徒会役員の中では点数は一位ですよ」


 にっこりと生徒会長に笑いかけ、続いて思い出したかのように羽崎さんの方へ視線をやる。


 「あぁ、そうそう。

 羽崎さんは全教科0点だそうです。

 流石ですね」



 流石に羽崎さんの答案用紙を見た時は目を疑った。

 少なくとも、思わず『マジかっ!』と叫んでしまう位は。

 何をどうやったら五教科全部で0点を取れるんだ。

 数学とか英語ならまだ分かるが現国で0点は無いだろ。

 それでも日本人か。


 だから最初は生き恥の意味を知らないのかと思って説明したのだ。


 羽崎さんは顔を真っ赤にさせて口を開いた。



 「た、偶々調子が悪かったのよ!」

 「そ、そうですよ!

 これ位なら直ぐに挽回できます!」

 「ああ楽勝だろ、多分」

 「「て言うか僕らは別に勉強何てどうでも良いしね〜」」

 「……ちょっと、反省」

 「まぁ、こう言う時もあるって」

 「お、俺だって生徒会長何だ、直ぐに一位に返り咲いてやるさ」


 見苦しく調子が悪かっただ何だと言い訳をしても今現在馬鹿なのには代わりない。



 「見苦しい言い訳は止めて素直に現実を受け止めた方が身のためですよ?」



 彼らの言い訳を聞いていても何の生産性も無いのでため息混じりに話を続けようとすると、丁度同じタイミングで羽崎さんが叫びだした。



 「酷いっ!!酷いわっ!!

 何で?!何で私にこんなことをするの?!

 何で私にこんな恥をかかせようとするの!?

 良い人かと思ったのに貴女はやっぱり悪女なのね!!」


 涙目で私を指差し、声高に批判する羽崎さん。


 はぁ?

 一体羽崎さんはいつ私を良い人認定したのだろうか。

 敵意を向けられた覚えしかないのだが。

 と言うか私たちではなく私にと連呼する辺り彼女は本当に自分の事しか考えていないのだと窺える。


 私を指差していた羽崎さんは腕を下ろすと私の隣にいた図書委員長に走り寄り、その胸に飛び込んだ。


 「優夜君!

 優夜君もあの女に何か弱味を握られているんでしょう?

 大丈夫!

 私が何とかしてあげる!!

 私が優夜君を守ってあげる!

 あの女が優夜君にリコールだなんてワケの分からない酷い事をさせているんでしょう?

 許してあげる。

 私、怒っていないから。

 この世界で私だけが優夜君を理解出来るんだから。

 私がいれば大丈夫だから。

 優夜君が望めば今すぐあの女から自由になれるのよ?」


 うるうるとした瞳で上目遣いで図書委員長の胸元にすがり付く羽崎さんは何も知らない人だったら強烈な庇護欲を掻き立てられる位可愛らしい。


 図書委員長は羽崎さんの肩をそっと掴み、微笑みかけた。


 中身が腐りきっててもさすが美形。

 その笑顔の破壊力は抜群らしく一般生徒の方から何人かが倒れたような音が聞こえた。


 その笑顔を向けられた羽崎さんはパアッと輝かんばかりの笑顔を浮かべる。

 微笑みを浮かべながら図書委員長は静かに口を開いた。


 「触るな性悪女。

 何が『私だけが優夜君を理解出来る』だ。

 お前なんかに理解されたいと思わないし理解されて堪るか。

 おぞましい。

 お前が触れるだけで俺の品位が下がる。

 同じ空間の空気すら吸いたくない。

 こっちを見るな傍に寄るな触るな媚びるな話しかけるな息を吸うなむしろ死んでくれ」

 「……………え?」



 ポカーンとした表情の羽崎さんを生徒会長の方へと突き飛ばし、言葉を続ける図書委員長。



 「断って元生徒会役員どもに絡まれたら面倒だし、今までの会長たちへの義理立てのつもりで嫌々引き受けたお前の頼み事も果たしてやった。

 これでもうお前と関わる事も無いな。

 この生徒集会が終わったが最後、二度と俺の半径10km以内に近付くな。

 後、お前に俺の下の名を呼ぶ許可を与えた覚えは無い。

 二度と呼ぶな。

 虫酸が走る。

 あぁ、俺と彼女の名誉の為に言っておくがお前に頼まれた彼女の仲間を調べるって奴はちゃんと真面目にやったからな。

 ただ、彼女の能力が俺より遥かに高かったから俺の力が及ばずに調べられなかっただけだ。

 お前と違って彼女には何も脅されたりなんかしていたい、っじゃなくてしていない」



 おい、最後のは何だ。

 願望が混ざっていないかったか。

 それともただの言い間違い?

 ………願わくば後者で、切に。


 思わず鳥肌が立った。


 図書委員長の言葉で生徒会長の胸元でフリーズした羽崎さんは思わずと言った様にポツリと呟いた。




 「…………優夜君が、たくさん喋った……」



 そう言えば図書委員長って無口キャラって設定だっけ。

 すっかり変態キャラとして定着しているもんだから忘れていた。




 図書委員長の羽崎さんに対する罵倒でシーンとする体育館。


 うん、丁度静かになったし話を続けようか。




 「話は戻りますが、確かに自分たちでおっしゃる通り生徒会役員の皆さん、過去ではそれはそれは素晴らしい成績の持ち主でした。

 が、今ではこの通り成績不振に陥っています。

 生徒会長と副会長は語学が堪能らしいですが、今回60点しか点を取れませんでした。

 何故か分かりますか?」


 私の問い掛けに二人は顔を見合わせ、首を傾げる。



 「今回のテストの残りの40点は授業(・・)参加(・・)しないと絶対(・・)に解けない問題だったらしいです。

 この40点丸々解けていないと言う事はつまり……………何が言いたいか分かりますよね?

 まぁ、単刀直入に言うと

 『生徒会活動と名打って授業サボって女といちゃつく前に勉強しろ』

 て事ですね。

 今の貴殿方にとっては生徒会活動する時間よりも勉強時間の方が重要みたいですしこれがリコールされる理由のまず一つ目です」

 「一つ目!?まだあるのか!?」


 思わずと言った感じで生徒会長が驚きの声を出した。

 私としては何故リコールの理由が一つしかないと思ったのかが驚きだ。



 「寧ろ二つ目の方がリコールされる理由としては大きいんですがね。

 貴殿方がリコールされるべきであると言う理由その二。

 それは、貴殿方の行き過ぎた行いです。

 一先ず此方をご覧頂きましょう」


 体育館の照明が落ち、スクリーンに3、2、1とカウントダウンが表示されてとある一本の動画が始まった。





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