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第7話 異世界に泊まろう

 大急ぎで誘波のもとへ帰った健たちは、早速誘波に任務が成功したことを報告した。が、彼女はすでにそのことを知っていた。


「何はともあれお疲れ様でしたぁ♪」

「いえいえ!」


 ねぎらいの言葉をかけると誘波は三人に茶を出した。健はニコニコと嬉しそうに、リーゼロッテはふてくされた顔で、セレスティナはリーゼロッテに対して眉をしかめながら着席。茶を飲んで一息つく。


「いつもと違うからちょっと手間取ったかなー。保護、あるいは元いた世界に無事帰すのってけっこぅ大変だなぁ」

「そのうち慣れると思いますけどねぇ。うふふ……」


 ただ、相手を倒せばいい。元いた世界ではそうだった。しかし今はそうではない。相手を守らなくてはならない。シェイドは残忍なものばかりで倒すのに理屈は必要なかったし、力におぼれて悪事を働くエスパーがいれば全力で打ち倒して止めるまでだった。けれども、異獣はみなシェイドのように残忍ではない。ただ迷い込んだだけの哀れな異世界の住民なのだから。そう、今の健のように。


(アルヴィーもまり子ちゃんもみゆきも、みんな今頃どうしてんだろうなあ)


 ――などと、健は難しい表情でそんなことを考えていた。そして、あることに気が付く。


 宿はどこだ? どこで一晩を過ごせばいいのか? そもそも泊まれそうな場所などあったか? このままでは最悪、野宿をするはめになってしまう――。


「やべ……」

「タケル、何がヤバイの?」


 怪訝な顔をしてリーゼロッテが訊ねる。さらに、「〝魔帝〟リーゼロッテに便乗したつもりではないが、私たちで良ければ相談に乗ろうか?」とセレスティナもやさしく声をかけてきた。


「えーと、そんなに大したことではないんだけど……泊まる場所この辺にないかな、って」


 泊まる場所はないのか? という健の言葉を聞いた首をかしげる一同。刹那、誘波の頭上で豆電球が光った。なにかひらめいたのだろうか?


「泊まる場所ならありますよぉ」

「ほっホントですかっ!? ど、どこにあるんですッ!?」


 机上で手を叩いてから、心底嬉しそうな顔をして健は誘波に近寄る。


「まあまあ、落ち着いてください。泊まれそうな場所といえば、学生寮を借りるか、ここに泊まるか……どちらかひとつですねぇ」

「そうか、寮あるんだ……でもどうしようかな」


 学生寮を貸してもらうかここに泊まるか? どちらにすべきか健は迷う。寮ならおそらく自分が住んでいたアパートと同じくらいの部屋が待っているだろう。だが、この和風屋敷で寝泊まりするのも悪くはない。日本人なら一度くらい、『和』を味わっておくべきだ。


「……決めた。じゃっ、ここに泊まらせていただきます! いいですよね?」

「はい♪ なにぶん広いですから、空いている部屋はたくさんありますよぉ」


 これで泊まる場所は確保できた! 「いよっしゃああああああああああああああああああ!!」と、健はガッツポーズを決めて声高々に叫んだ。


「案内してくださいッ! 早速ッ!!」

「はぁい、では早速……」


 そして健が誘波に案内されてやってきたのは、1Fの縁側にある部屋だった。アパートよりだいぶ広い。たとえるなら、修学旅行の旅館で自分たちが泊まる部屋と同じくらいの広さだ。これだけ広大なら思う存分寝転べるし、走ってもつまづいたりはしない。


「うはぁーっ、すっげー! この部屋全部、僕が使わせていただいてもいいんですか!?」

「構いませんよぉ。その分働いていただきますけどねぇ」

「えーっ」

「悪く思わないでください♪」


 そうは言われても――と、言い返そうとした健だったがうまく丸め込まれてできなかった。ひとまず、貸してもらった部屋に荷物を置いて畳の上に寝転ぶ。――気持ちいい。とても居心地がいい。更に縁側からはあの屋上一帯に広がる日本庭園も見える。鹿威しの音がまた、風流な雰囲気を醸し出している。――元の世界に帰らなくてはならない関係上、長居は出来そうにないのが少し残念だ。


「よっしゃ~、頑張るぞ~。明日からぁ……」


 部屋の中でくつろぎながら、健はそんなことを口にして昼寝を始めた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その頃――健たちの戦いを陰で見ていた風来坊のような格好の男が、どこかにある部屋の中で正座をしていた。奇怪な文字が書かれた掛け軸やツボに妖しく燃える燭台など、東洋風のそれに近いものの数々が部屋に飾られている。なにか特殊な方法を使い、彼は――陽炎を通してここではない別の世界を見ていた。


「――あの小童がこちらへ来たということは、奴は『欠片』をうまく使いこなせたようだな。もう片方の小童もあちらへ移動したと見える」


 風来坊のような出で立ちの男は、獅子を思わせる立派な黄金色の鬣を生やした筋骨隆々とした男と民族風の衣装を着た金髪の女を見てそう呟く。彼の傍らには、妖しい輝きを放つ鉱石らしき何かと――刀の鞘が置かれている。


「確かレオと言ったな。そなたはあの小僧を始末したがっていたが……こちらへ来てしまった以上そなたは手を出せん。ならば別に私が討ち取ってしまっても構わんだろう?」


 独り言を呟いて、正座をしていた男は立ち上がって腰に帯びていた刀を抜く。藁の前に移動して、刀を右手で構えて深呼吸をする。


「なにが異界監査局だ。なにがこの世界を守るだ? そんなものは戯言よ!」


 怨嗟の声を上げて、男は険しい顔をして藁を真上から叩き斬る。藁は真っ二つとなり床に落ちた。


「どこの世にもそのような輩が必ずいる。だが、なにひとつ守りきれていないではないか……。このテンガイ、お前たちを許しはせぬぞ!」


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