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第6話 エスパー&監査官

「はっ! てやっ! とっとと、おうちに帰れ!」


 サブマシンガンと化した片腕を向けた白い異獣にショルダータックルをかまして、ひるんだところを斬りつける。押し切られた白い異獣は転倒した。


「ガガ!」

「アハッ! どこ狙ってんの?」


 片腕をチェーンソーに変形させた青い異獣がリーゼロッテに斬りかかる。だがリーゼロッテは斬られるその寸前に瞬間的に転移して攻撃をかわす。背後から緑色の異獣が電撃を帯びたハサミで殴り掛かってきたがすぐ反応して足払いをかけ、転ばせて更にサッカーボール大の黒い焔を飛ばして吹き飛ばす。


「ギィィガァー!!」

「フッ! ハッ!」


 セレスティナはその背に抱いた両刃で長い刀身の聖剣を抜き、先ほどリーゼロッテに攻撃をかわされた青い異獣と火花を散らす。


「光よ……! ハアアアアアアッ!!」

「ギギギィィィ!?」


 聖剣に光を纏わせてセレスティナは青い異獣を斬りつけて吹き飛ばす。距離は【門】の近くだ。


「貴様が元いた世界へと帰れ!!」

「ギラァァァ!!」


 空高く飛び上がって斬りかかるセレスティナ。そのまま送り返そうとしたが、赤い異獣のバーナーからの火炎放射という横槍が入って妨害されてしまう。執拗に炎を出して焼き殺そうとする赤い異獣の攻撃を横っ飛びや宙返りで回避し、ときには剣の腹で防いでしのいだ。


「くっ、このままではらちが明かない」


 先程から守りに入っているが、そろそろ限界だ。手が緩んだ隙を突いて、チャンスとばかりに赤い異獣が接近するが……。「セレスティナ危ないッ!」と、盾を構えた健がとっさに彼女をかばった。


「ギラッ!?」

「でええええええいッ!」


 驚いている赤い異獣を前に健は青いオーブを長剣にセットする。剣が青を基調としたカラーリングになり、周囲に輝くほど冷たい冷気が発生した。左手から冷気を放って赤い異獣を凍らせて動きを封じると、氷の剣を叩き付けて【門】へと吹き飛ばす。赤い異獣は金切り声を上げながら【門】の中に吸い込まれるように消えていった。


「ッ! 健殿、今の技は一体……? その剣の能力なのか?」

「ちょっと違うよ。オーブってやつの力を引き出したのさっ! 魔法みたいだよねッ」


 即答して健は残りの異獣を戻すべく、戦場を駆け抜ける。オーブを青いものから緑色のものに交換し、風の力をまとったエメラルドグリーンの剣へ変えると――目にも留まらぬスピードで矢継ぎ早に異獣たちに攻撃をしかけていく。


「はぁっ!!」

「ギチィィィィ!!」

「せりゃっ!!」

「ギィィ!?」

「そぉい!!」

「ガガガァァァーーーーッ!!」

「おりゃあっ!!」

「ギギャアアアアアアア!!」


 斬って、また斬って、またまた斬って――その間、ちょうど十秒だ。それ以上は疲弊して大きな隙を生んでしまうため走ることはできない。さらに防御力も著しく低下してしまうためリスクも大きいが、この超高速移動能力はそれだけ強力かつ有用なのである。健がカッコよさそうなポーズを決めて立ち止った瞬間、斬られた異獣たちはみな火花を散らしながら【門】へと叩き込まれた。「ふん、なかなかやるじゃない。いい見世物だわ」「初めは頼りなさげで不安だったが、どうやらいらぬ心配だったようだな」と、リーゼロッテとセレスティナもこれには驚いていた。



「なんだ、あんまり強い相手じゃなかったね。よかったよかった……」


 異獣たちを送り返すとともに空間の歪みである【門】も溶けるように消えた。ひとまず片付いたので、健は安堵の息を吐くとリーゼロッテとセレスティナに微笑みを見せる。


「あっ! ちょっとタケル、勝手なことしないでよ! 〝魔帝〟で最強のあたしの獲物だったのに!」

「獲物って、あいつらを殺して食べちゃうつもりだったのかい!?」

「違うわよ、楽しめそうな相手だったかもしれないってことよ! そんなこともわかんないなんてこのバカ! レージならちゃんと獲物残してくれるのに!」

「っ」


 ――リーゼロッテは、(見た目が)幼いという点ではまり子と似ている。だが中身は完全に子供だ。まり子は彼女のように子供っぽいところもあるが、同時に達観した大人でもあり冷酷な面も持つ。対するリーゼロッテはかなり喧嘩っ早く暴走気味。どうしてこうも違うのだろうか。不思議なものである。


「気にするな、健殿。〝魔帝〟のいつもの我がままだ」

「でもレージって人は残してあげてるんだよね?」

「あー、いや、それは単に零児が健殿と違って多勢相手には不向きだからで……だ、だが、零児には零児の長所があってだな」

「レージの長所って、たとえば?」

「それは……」


 照れ臭かったのか少し間を置いてから、セレスティナは「口は悪いが冷静沈着で頭も切れるし、何より強くて優しいことだ」と、答える。


「……なるほど……」


 健の脳内に浮かんだ『零児』――それは身長2mをゆうに超えていて頭脳はコンピューターのように精巧かつ正確、素手で岩をも砕く屈強な肉体を持っていてしかも甘いマスク。という非の打ちどころもない完璧超人だった。まだ会ったこともないゆえ、ここまで大袈裟な想像をしてしまうのは仕方がないことではあるが――思い込みが激しすぎる。


「かーっこいい~!! ぜひそのレージさんに会いたいものだ!」


 くるりと回ってポーズをとった健は、ウィンクをしながら人差し指を出してひとり感激する。


「……とにかく、【門】も閉じたことだしいったん戻ろう」

「あ……うん、そうしよう」

「なんでお前が仕切ってんのよ、騎士崩れ」

「〝魔帝〟リーゼロッテ……その口を縫い合わせてやろうか」


 セレスティナが親の仇でも見るような視線をリーゼロッテに浴びせる。健は「まあまあ」と間に入ってにらみ合いをやめさせ、ともに誘波のもとへ帰って行った。



「……」


 そのとき、誰も気付いてはいなかった。物陰から笠を被り口にドングリの葉を咥えた風来坊らしきものが一部始終を見ていたことに。


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