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第4話 言意の調べ


「なんだかよくわかんねーうちにサインしちゃったよぉ、トホホ……」

「人生いろいろですよぅ。何が起こるか分からないくらいがちょうどいいんです」


 色仕掛けにやられてそのまま書類にサインをしてしまい、健は栄えある異界監査局の監査官となった。だが健はどういうわけか苦い表情を浮かべている。だいたいのことは説明してもらったとはいえ、監査局の実情がイマイチよく掴めていないからだ。誘波はそんな彼に一応フォローを入れた。


「あ、そうだ! 学園の外行っても大丈夫ですか?」

「お出かけですか? 構いませんよ」


 やった、と、健がガッツポーズを取る。なにせ未知の世界、それも自分のいた日本とあまり変化がない場所だと言うのなら興味津々にもなる。学園の外を見てみたいという気持ちが強かった。


「……ですが、その前にこれを」

「? なんですか、これ?」


 誘波は健にペンダントのような形状をした何かを手渡す。「あ、それわたしと一緒のやつ!」とペンダントを見たリーゼが言う。なにかを知っているようだ。


「それは【言意の調べ】というものです。これは言葉の通じない人との意思疎通を可能にする魔導具です。簡単に言うと、異世界人の言葉がわかるようになります。タケちゃんがリーゼちゃんやセレスちゃんの言葉がわかるのも、彼女たちがこれと同じアイテムを持っているからです」

「……あ、あー! そうか! どっかの言葉を翻訳してくれるコンニャクみたいな感じの道具ってことですか!」

「そういうことになりますねぇ♪ 異世界を相手にする監査官にとっては必要不可欠な品ですね」


 誘波がニコッと笑う。やはりそういうものだったのか、と、健はひとり納得する。ただのネックレスを渡すだけなら何の意味もないしもらってもこちらが困るだけだ。こういう状況でモノをもらうときは大抵何かしらの意味があるもの。異世界人が集うこの世界において、【言意の調べ】なる道具があれば大いに役立つし安心できる。

 言葉が通じるだけでもだいぶ違ってくるのだ。そんな便利な代物をありがたく頂戴した健は早速首にかける。これで話が出来るようになる――。


「今渡したものの他に、ブレスレット型や指輪型など様々な種類があるんですよぅ」

「ブレスレット? それならつけてますけど……」


 健は急に思い出したように左腕につけたブレスレットを見せる。ライトブルーと黄色を基調としたメタリックな質感のブレスレットだ。


「あらあら、正義のスーパーヒーローがつけていそうな物ですねぇ。タケちゃんはこういうのが好きなんですかぁ?」

「はい、大好きですっ! これ、元々腕時計だったんですけど故障しちゃって、知り合いのお姉さんが直してくれた結果こうなっちゃったんですよ」

「まあ、それは大変でしたねぇ。腕時計って意外と壊れてやすいですから」

「かっこよくなったのはいいけど、時刻は確認できなくなっちゃいました。ハハッ、ついてねー……」


 左腕のブレスレットに関する逸話を誘波に語った健。効果までは説明しなかったが、これは必殺技の使用時に蓄積される負担や敵からの攻撃で受けるダメージを軽減してくれる、その名も『セーフティブレス』だ。しかも受けたダメージが蓄積すると、それをエネルギーに変えて放出することで攻撃や回復も可能だというのだ。――もっとも、それらの機能が使われた事はほとんどなかったが。


「――む」


 ――しかし、そこで急に何かを感じ取ったのか誘波の眉が動き、目つきもにこやかなものから割と真剣なものに変わる。


「あれ、……誘波さん?」

「お楽しみ中のところすみませんがタケちゃん、ちょっと観光は出来そうにないかもしれません」

「……どうしてですか?」


 意気揚々と学園の外へ出ようとしたら止められた。いったい何故なのだろうか、健には理由がわからない。もしや閉じ込めて怪しい実験でも行うつもりなのか? さすがにそれは無さそうであるが――。


「どうやら、街の外側で門が出現するようです、風が知らせてくれました」

「さっき言ってた次元の門(プレナーゲート)ってやつですか!?」

「はい、そうです。飲み込みが早いんですねぇ」


 真剣な顔になったかと思いきや、また先程までと同じようなニッコリとした笑顔に戻って誘波は健にそう告げた。つくづく何を考えているかわからぬ女である。だが健はとくに気には留めなかった。風のように自由な人だと思ったからだろう。あるいは、こいつはそういうやつだから怒るだけ無駄――とでも判断したのか。

 誘波はそれから携帯電話でどこかに連絡し、健にはよくわからないことを事務的に話してから携帯を閉じる。


「門が出現する場所は市街地の北側のようです、今から転送しますねぇ」

「え!? て、転送!? そんな設備ないんじゃ!?」

「心配いりませんよぅ。私の力で現地まで送ってあげますからぁ。ひとっとびですよぉ、えいっ」


 慌てふためく健を諭すように、天女然とした優雅な微笑みをたたえながら誘波は告げる。そして――彼女が両手をかざすと健の姿は消えてしまった。そう、風の力を使って健を一瞬で現場へ送り込んだのだ。


「……誘波殿、私たちはどうすれば」

「リーゼちゃん、セレスちゃん。タケちゃんのお手伝いをお願いします」

「は? なんでわたしたちがあいつを手伝わなきゃいけないの?」

「それが先輩監査官のお役目だからですよ、リーゼちゃん。タケちゃんはこっちでの戦い『は』初めてですからねぇ」

「確かに、不慣れな環境では不都合も多いはずだ。初回は状況を飲み込めないだろう。私もそうだったが、零児たちがいてくれたことで随分と助かったものだ」

「では、そういうことなので……お願いしますねぇ」


 健を送った直後、誘波はリーゼとセレスに健の補佐を命じた。そして二人を健と同じ場所へと転送した。


「さて、何も起きなければいいんですけどねぇ」

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