第5話(5)
コウが病室のカーテンを開くと、やわらかい月明かりが部屋に入り込んだ。
・・・暗闇が少しだけはけた。
月をみるのはとても久しぶりだ。
本物の月は意外に小さく、何だか物足りなさを感じた。
コウは月明かりで半分照らされたベッドに腰掛けると、あのことを思い出した。
・・・自分に会いに来たスイマ。
・・・鋭い目でこちらを見るリノ。
それらは全て、コウがここに在ることを証明してくれたものだった。
そう、自分はここでは消えていくだけの存在。
誰の心にもとまらない。思い出にも残らない。
・・そんな存在なのだ。
だから、コウは少し嬉しさがあった。
会いにきたのが誰だか分らないスイマだとしても、こちらを見るリノの瞳が鋭いものだとしても・・・
それらは全て、コウがここにいるという証。
けれど、ツボミもリノも自分のことを思い出の片隅へ置いていこうとしている。
だから、もういい。
ここの場所は自ら捨てよう。それに、自分の居場所は自分でつくる。自分のことを絶対に必要としてくれる場所を。
そのためにはツボミのパートナー・・朝菜が必要だ。
血のつながりのためか、なぜだか自分はツボミが気をとった人の夢の中でしか、自由なことができない。
(いいだろ?ツボミ)
君の大切なものを、僕の大切なものにしても。
・・・何の文句は言えないはずさ。
だって君は、僕の大切になるはずだったものを全て奪ったのだから。
その時、やわらかな眠気がコウの体を包みこむ。
・・・夢がコウの体をここから引き離す。
微笑みを浮かべるコウ。
そして、体をベッドに倒すとゆっくりと目を閉じた。
朝菜がツボミに連れてこられた場所は病院だった。
(ツボミの夢にでてきた病院と同じだ・・)
どうやらコウは、今でもこの場所に入院しているらしい。
(っていうか、瑠のこと置いてきちゃったけど大丈夫だよね・・?)
ツボミが無理やり引っ張るもんだから、瑠とは言葉を交わすことなく部屋をでてしまった。
そのせいで彼の機嫌が悪くなってないといいのだが・・・。
朝菜は人の出入りが多い出入口から、柱の影に移動する。そして、隣に来たツボミに声をかけた。
「ねぇツボミ。姿、誰にでも見えるようにしてくれないかな?そっちの方が気を使わないで済むし」
朝菜は一緒にコンビニに行ったときの、黒髪のツボミの姿を想像する。
「行くのは朝菜だけだよ?・・・コウの病室は3階の308号室」
「・・・─は?ツボミも一緒に行くんじゃないの?」
「・・わたしは行かない。行きたいのは朝菜でしょ?」
「え、どうしてツボミは行かないの?」
「嫌いだから」
「・・・──」
そう言えば、初めてコウと会ったときも、ツボミはそう言っていた。
“コウが”ツボミのことを嫌いだから。
そう言うツボミは、やっぱり無機質な表情しか浮かべていない。
「でも、ツボミはコウのことが嫌いじゃないんだよね・・?」
朝菜はツボミの記憶でみた、彼女の姿を思い出す。
・・・コウに会いに行こうとするツボミの嬉しそうな表情。
「・・・」
ツボミは朝菜の問いに、黙りこくったままだ。
(あっ・・でも・・)
ツボミは・・・─コウに、あんなこと、をされた。だから、人間界を捨てたのだ。
もしかしたら、ツボミにとってコウと会うことは、そうそうできることではないのかもしれない。
そう考えた朝菜は・・・
「じゃ・・・──私だけ行ってくるね」
「うん」
朝菜は後ろ髪を引かれながらも、ツボミに背を向けた。
その時、
「って言うか、どうしてこんなことになってんの?」
セーラー服のリノが、朝菜の前に姿を現した。
「あ・・リノ。この前はありがと」
翼の件についてちゃんとお礼を言ってなかったので、朝菜はとっさにそう言った。
リノはそれに微笑みを浮かべ、
「あーいいのいいの。気にしないで・・・じゃなくて、ツボミ?あたし、朝菜に訊かれたとしてもコウの居場所とか教えないでって言ったわよね?」
リノの視線は、ツボミの方へ向けられた。
「そうだっけ」
リノはツボミの反応に、浅く溜息をつく。
「はぁ・・・コウはツバサのことを切ったのよ?朝菜だってコウに近づくのは危険よ。ツボミはそれを分かってる?」
「・・・うん」
「分かってるなら・・・」
その時、リノの背後で人が動く気配がした。
振り向くと、朝菜が小走りで病院内に入って行く姿が見える。
「ちょっと、朝菜!」
リノはそれを止めようと追いかけようとするが、ツボミにギュッと腕を掴まれた。
「!・・─」
リノが驚いてツボミを見ると、彼女は目を伏せて静かに言った。
「朝菜はやさしーよ?だから、コウにも優しくしてくれるかも。そしたらコウ、少しは元気になってくれるかも」
ツボミはリノからゆっくりと手を離す。
ツボミはその目をじっと地面の方へ向けていた。
「・・・確かにあたしもそうなってくれたら嬉しい。昔みたいに、コウと楽しくおしゃべりできたらって思うわよ・・・」
そう・・・ツボミがまだ、契約してない頃。
ツボミがまだ、爽と出会ってない頃。
3人は本当に仲がよかった。
コウは今よりは起きていられる時間が長くて、その間に一緒に買い物に行ったり何気ない話で盛り上がったりしたものだ。
けれど、今は変わってしまった。
─・・リノはクスリと笑う。
「ツボミは、朝菜を利用するのね」
「・・・」
ツボミはリノの言葉に、金の瞳をこちらに向けた。
「そんなこと、やめた方がいいわよ?─・・・もっとパートナーを大事にしてよ。ツボミ」
リノは静かな声でそう言った。
・・・──もう、ツボミにはあんな辛い思い、味わってほしくないのに。
「わたし、大切だよ?朝菜のこと。あと・・・──コウも」
「・・・・・そう」
ツボミはまっすぐな視線をリノに向ける。
その瞳からは、ツボミの気持ちがひしひしと伝わってきた。
・・・今のリノにはコウのことを“大切”だと言える自信がなかった。
だって、変わってしまったものは戻すことができない。
でも・・・ツボミの気持ちはあの頃と、何も変わってなかった。
「なるほどね・・」
瑠は二人がいる場所とは反対側の柱の壁に寄りかかりながら、話を聞いていた。
どうやらコウは自分が思うよりも危険な人物のようだ。
瑠は口元に微笑みを浮かべる。
そして、今度は朝菜の後を追うべく柱を離れ、病院内に足を踏み入れた。
朝菜はある病室の前で緊張気味に立っていた。
扉の横の名札には『緑川 光』とかかれてある。
(ここがコウの部屋なんだよね・・)
ツボミが308号室と言っていたし、間違いない。
時々横を通る看護師や患者が、立ったまま動かない朝菜に不思議そうな視線をおくっているのが分かった。
(よし、入ろう・・!)
翼を切った理由をきくため・・・本当のコウを知るため・・彼に会うと決めたんだから。
・・そして朝菜は、ゆっくりとドアを開き「失礼します」と言いながら、中に足を踏み入れた。
ここから見えるのは、足元の方のベッド。
そして、朝菜はコウの姿を見た。
(寝てる・・・!?)
コウは真っ白のシーツがかかった布団を綺麗にかぶり、眠っていた。
白い肌に黒い髪。
その白すぎる肌は、あまり体調がよくないように見えた。
それに、彼の腕からは点滴のくだが伸びている。
朝菜の速めに波打っていた鼓動が、少しずつ穏やかになっていくのを感じた。
・・・少し前に会ったときは、起きてたのに。
(きっと、しばらくの間は起きないんだよね・・・)
朝菜は一気に気が抜けた。
ガッカリしたような、ほっとしたような気持ちになる。
「・・・」
朝菜は改めて辺りを見渡した。
棚に入った衣類やタオル。テーブルの上の本や飲みかけのペットボトルの水。
「!・・」
そして、気になるものが朝菜の目にとまった。
小さめのテレビの裏に隠すように置いてある・・・。
朝菜はその場所までそっと移動すると、それ・・・写真立てを手に取った。
そこには今より幼い容姿を持ったリノ・・・中学生ぐらいだろうか。
それにツボミとコウ。その二人も小学生ぐらいに幼い。
撮影場所は病室内らしいが・・・3人とも笑顔を浮かべ、とても仲良さそうに写っている。
(そうだよね・・・この3人は友だち、なんだよね)
次に朝菜はコウの寝顔へ視線を移した。
彼は・・・決して穏やかではない表情を浮かべ、静かな寝息を立てている。
朝菜はまた、写真を見た。
(何か・・・悲しい・・・)
この写真の中と、今とではたくさんのことが変わってしまっている。
この3人の笑顔は確かにあったはずなのに、今はバラバラになってしまった。
・・・少しだけでいい。この3人がこの頃と同じように笑い合うことができればいいのに。
その時、病室の扉が開く音がした。
「!─・・」
朝菜はとっさに写真をもとの位置に戻す。
「瑠・・・!どうしたの?」
部屋に入ってきたのは、何と瑠だった。
瑠は朝菜を少しだけ見ると、すぐにコウの方へ視線を移す。
「・・・なんだ。寝てるんだ」
瑠は少し残念そうだ。だが、すぐに朝菜を見ると
「起こさないの?」
「・・・・多分、しばらくは起きないと思う。コウは・・・長い時間、起きてられないんだって・・」
朝菜は呟くような声でそう言った。
コウは・・・夢の世界へ出かけてしまった。
彼にとってその世界は、居心地がよいものなのだろうか。
・・・─だから、ここにはなかなか帰ってこないのだろうか。
「会いに行こうかな・・・コウに」
・・・そう、ツボミと協力すれば自分は夢の世界へ行ける。
そうすれば本当のことを知ることができる。それに、ツボミのために何かができるかもしれない。
「危険じゃないの?」
瑠は眉をひそめる。
「・・・きっと大丈夫」
朝菜はそう言うことができていた。
・・・大丈夫。
きっと、そんなにたいしたことにはならない。
きっと、大丈夫・・・だ。
「・・・ここでこいつのことを殺しちゃえば、安心できるんじゃない?こいつの細い首なら朝菜でも・・・」
「・・は?本気で言ってるの?」
瑠は一瞬、真顔になる。がすぐに笑みを浮かべて言った。
「・・言ってみただけだよ」
「だよねっ・・」
朝菜は発言に正直、ドキリとした。
ムマの仕事が安全にできるとしても、自分にそんな恐ろしいこと、できるはずがない。
確かにコウはお兄ちゃんのことを消そうとしたけど・・・
確かにコウがいなくなれば、問題は解決するかもしれないけど・・・。
コウを殺す、なんてそんなこと絶対に考えられなかった。
「じゃぁ・・ここにいても仕方ないね。帰ろうか」
瑠は静かにそう言って、病室から出て行った。
「・・・」
朝菜もそれに続いた。
朝菜と瑠が病院内からでると、中に入ると同じ柱の影にツボミとリノがいた。
近づくと二人はこちらに気付いて、リノは安心したように表情を緩める。
「よかった!無事だった・・・─って言うか・・どうしてあんたも一緒なのよ?」
リノは朝菜から瑠に視線を移して眉を寄せる。
瑠はそれに微笑み「ちょっとね」とだけ言った。
「朝菜・・」
突然、ツボミはそう呟く。そして、こちらをまっすぐに見て
「コウは、どうだった?」
「コウは・・寝てたよ。だから、会えなかった・・」
朝菜の言葉にツボミはわずかに瞳を歪める。
「・・・」
「あっちゃー・・そうだったの。なら、もうしばらくは会えないわね」
黙りこくったツボミのことを、リノは横目で見ながらそう言った。
「ね・・・二人はコウに会いに行かないの?」
朝菜は意を決して、ツボミとリノにそう訊いた。
コウは、あんな狭くてさびしい病室に一人でいる。ずっと・・・ひとりで。
少しでもいいから、ツボミとリノもコウに会いに行ってくれればいいのに。
リノは少しの沈黙のあと、言いにくそうにゆっくりと口を開いた。
「行きたいんだけど・・─コウ、寝てるでしょ?それに・・コウがあたしたちに会いたくないって言ったのよ・・?」
リノはその言葉を言い残すと、踵を返し姿をかき消してしまった。
「!・・・リノっ」
そして、この場に残されたのは朝菜とツボミと瑠の3人だけになってしまった。
「朝菜、ちょっとまずいこと訊いちゃったんじゃない?」
瑠はにやりとすると朝菜を見る。
「・・・そうかも」
リノがコウと仲がいいのは、ツボミの夢の中での光景やあの写真を見て知っていたのに。
どうしようもない理由があるのは知っていたはずなのに。
リノもツボミも行かないんじゃなくて、行けないんだ。
「全然まずくないよ?」
「・・え」
見るとツボミはいつもの淡々とした表情で、こちらを見ていた。
「だって、わたしもリノも・・コウに会いに行かないのは何か変だよね・・?」
ツボミは少しだけ悲しそうに目を伏せる。
朝菜はそんなツボミの様子をただ黙って見ているしかできなった。
(ツボミ・・・──)
すると、ツボミは突然こちらに目を向ける。
「朝菜。今日、暑いね?」
「は?・・うん、そうだねー」
「わたし、アイス食べたい」
「・・・・・・」
そして朝菜は、ツボミ(+瑠)と一緒にコンビニに向かうことになったのだった。
朝菜は近くのコンビニで自分用のアイスとツボミ用のアイスを購入し、近くの公園に来ていた(ちなみに瑠は、おなじコンビニでジュースを買ったがすぐに家に帰ってしまった)。
・・・ツボミと初めて会ったのもこの公園だったっけ。
朝菜は日陰になっているベンチを探し、そこに座る。そして、隣に座ったツボミに袋の中のカップのバニラアイスとプラスチックのスプーンを手渡した。
「適当に選んじゃったけど・・これでいいよね?」
ツボミは朝菜の問いにコクリと頷く。
そして、カップのフタをはがすとスプーンの袋を破き、ツボミと同じ真っ白なバニラアイスを口に運ぶ。
ツボミは少しばかり表情を緩めて、
「おいしい」
「ならよかった~」
朝菜は自分用のアイスのパッケージを破きながら、そう返した(ちなみに自分は、棒つきのチョコミントアイスを買った)。
そして、アイスを口に運ぶ。
・・・ひんやりとした冷たさと、チョコの甘さが口全体に広がった。
「・・・」
「・・・」
朝菜はアイスを口に運びながら、ぼんやりと目の前に広がる風景を眺める。
公園に人の姿はなく、セミの大合唱だけがそこを満たしていた。
(お兄ちゃん大丈夫かな・・・)
リノに支えられて、ぐったりしている時の翼のことを思い出すと、今でもとても怖くなる。
朝菜がそんなことを考えていると・・・
朝菜のケータイがピロピロピンと鳴った。
朝菜は隣に置いてあるバッグのポケットからケータイを取り出すと、メッセージを読む。
(お母さんからだ)
・・・・・・・・・・・・・・・
翼が目を覚ましたよ(*^_^*)
でも、まだ体がうまく動かないみたい。
それと、翼、朝菜をとめるって言ってるんだけど何のこと?
・・・・・・・・・・・・・・
「よかった・・!」
メールの文を読んで朝菜の心は、一気に軽くなった。
目を覚ましたのなら・・・もう安心だ。
「ツバサ、目覚ましたの?」
朝菜がケータイの画面に釘付けになっていると、ツボミにそう訊かれた。
朝菜はそれに「うん!」と返す。
「よかったね・・?」
「うん、よかった」
(でも、体はあまり動かないんだ・・・)
「・・・」
(そう言えば、お兄ちゃんは私がツボミと仕事すること、かなり止めたがってたよね・・)
でも、私は・・・
(ツボミと仕事がしたいんだ・・)
それに自分がどうにかしないと何も進まない。
コウとツボミ・・・リノのことも気になるし。
コウは翼のこと切ったけど・・・本当に悪い人、ではない気がする。だから・・・。
「朝菜。アイス溶けるよ?」
「あっうん」
朝菜は慌ててアイスを口へ運ぶ。
「・・・ね、ツボミ。私、ツボミと仕事するね」
朝菜の言葉にツボミはこちらを見る。
「・・・」
「確かにツボミと前に契約した子は、コウのせいでいなくなっちゃったかもしれないけど・・・──私はそうなるとは決まってないでしょ?」
「・・・」
「私、せっかくツボミと契約したんだし。こんなことで逃げてるの嫌なんだ・・。それに、コウとツボミがずっとこんな関係なんて・・・悲しいよ・・・。もしかしたら、夢の中で何かコウのことわかるかもしれないし」
朝菜はそう言った後、微笑んで見せた。
ツボミはそんな朝菜のことをいつもの無表情で見据える。そして、何事もなかったように、アイスをゆっくりと口へと運ぶ。
「ありがとう・・・」
ツボミは消えてしまいそうな声で、そう呟いただけだった。
朝菜は夕方になるのを待つと、いつもの帰宅時刻に合わせて家に帰った(今日は夏枝が家にいるので、学校をさぼったとは思われなくないからだ)。
「ただいまー・・・」
朝菜は台所で夕飯の準備をしている夏枝に声をかける。
「あっお帰り。朝菜」
「お母さん、お兄ちゃんは大丈夫なんだよね?」
夏枝はこちらを見て微笑むと、
「うん。今朝よりはだいぶ体調はいいみたいだよ」
「そうなんだ・・・よかった」
朝菜はほっと胸をなでおろす。
そして、台所から離れて二階へと続く階段を上り、翼の部屋の前で立ち止まった。
「・・・」
朝菜は翼の部屋のドアをそっと開け、中の様子をうかがう。
・・・翼は、ベッドに仰向けになっていた。腕で目を隠すように顔の上に置き、ただ静かにしている。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
朝菜は部屋の出入り口に立ったまま、そっと声をかけた。
「朝菜。今すぐツボミと契約を解消してもらえ」
翼は目を隠したまま、ただ静かにそう言った。
「え・・・?」
「・・・コウは朝菜が思っている以上に、危険なやつなんだよ。
なんで朝菜があんな奴に狙われなくちゃいけないんだ・・?ツボミ・・・金の瞳のスイマと契約させられたせいだろっ?」
翼の言葉に、息がつまる思いがした。
「ツボミは何も悪くないよ!それに・・お兄ちゃんが何て言っても、私、ツボミと仕事するって決めたからっ!!」
朝菜は叫ぶようにそう言うと、翼の部屋から離れ自室に駆け込んだ。
バッグを乱暴にベッドの上に放り投げる。
「っ──・・・」
ツボミは何も悪くない。ただ、苦しんでいるだけ。
自分はそんなツボミのために何かしてあげたい・・・そう思っているのに。
どうして翼は、そんなことが言えるんだろう。
朝菜はその場にしゃがみ込み、力強く唇を噛みしめた。
確かにツボミと契約を解いてもらえば、すべてのこととおさらばできる。
(でも、そんなことっ・・・)
できるはずがないんだ。
わたしはツボミのことが大切だから。
・・・大切になってしまったから。
だから、ツボミのことは見捨てたくない。
見捨てたくないんだよ。
いつの間にか朝菜の頬には、涙が伝っていた。
(ツボミのせいじゃないよ・・・)
これはわたしが決めたことだから。
朝菜は目の淵に溜まった涙を、掌で拭い取った。
・・・ただ、なんとなく悔しかった。
ツボミと契約したことを否定されてしまったことが。
翼は腕の目隠しを外すと、寝返りを打つ。そして、ため息を漏らした。
(なんであんなこと言っちまったんだっ・・・)
朝菜のことを傷つけることは分かっていたのに。
あんな、今の朝菜を否定してしまうような言葉。
・・・でも、それが翼の望むことには違いなかった。
コウがこんなことまでするような奴とは、正直思っていなかった。
だから、焦っていたのだ。そして、失望していた。
自分の無力さに。
この自由に動けない体の状態では、もう一度コウのところへ行くことも、ましてや朝菜のことを止めることもできないだろう。
「よかった。無事、目覚ましたのね」
聞き覚えのある声の方へ目を向けると、足元の方のベッドの柵にリノが腰かけていた。
翼はなんとか体を起こすと、
「お前が俺のことを心配っ?なんか怪しいな」
「あのね、コウの病室に倒れてるあんたを、ここまで運んだのはあたしなのよ?ただ、少し気になっただけよ」
「おぉ!そうだったのか・・・!ありがとな」
翼は静かに微笑む。
「・・・」
リノは翼に背中を向けたまま、彼の微笑みから目をそらした。
「─・・・ツバサ。あたしが朝菜のこと、止めてくるわよ。まだ、体、動かないんでしょ?」
翼はリノの思わぬ言葉に眉を寄せる。
「は?どうしたんだ急に。リノがそこまでする必要なんてねーだろ?」
「あたしが朝菜のこと、心配しちゃ悪いわけ?」
「そんなんじゃねーけどっ・・・珍しく協力的だなーって思ってな」
翼はリノの横顔を見据える。
リノは少しの間を置いた後、
「・・・あたしにはいろいろ事情があるのよ」
と静かに呟いた。
「・・まっどんな事情であれ、協力してくれることはありがたいな・・・─けど、大丈夫だ!」
翼はニッコリと笑う。
リノは翼の発言に、難しい顔をした。
「大丈夫って・・・─そういうふうには見えないケド」
「・・・なぁ、リノ。あいつをここに呼んできてくれるか?」
・・・無力な自分だが、できることは少しだけだが、ある。
だから、全てを諦めてリノに託すのはまだ早い。
翼はそう思った。
その日の真夜中・・・。
朝菜は自室にいた。
ツボミもこの場にいるが、彼女は本棚の前に座り込み、漫画を読むことに集中している。
朝菜はそんなツボミのことを半ば呆れ気味に見下ろし、
「ねぇツボミ。これから契約して初めての仕事なんだけど・・・そのこと、知ってるよね?」
ツボミは漫画本をパタリと閉じ、それを本棚に戻すと立ち上がった。
「うん、知ってる」
「・・・ならよかったけど」
(ほんとツボミって、いつでもマイペースだな・・)
「朝菜、誰の意思の中に行くか決めてる?」
「やっぱり身近な人で・・・千絵か遥香がいいとおもってたんだけど・・・─あっ二人は私の友達で・・・」
「・・・」
ツボミは朝菜の答えに、無表情のまま黙りこくっている。
朝菜はその反応に焦りを覚えて、
「もしかして、私の友達じゃいやだ?」
ツボミはそれに、首を左右に振る。そして、口を開いた。
「出かけなくても、ここで仕事はできるよ?」
「え・・・そうなの?」
「朝菜の意思の中で」
「・・・私?」
ツボミはコクリと頷く。
「朝菜が夢の中で、ムマだということを忘れなければ、大丈夫」
「そうなんだ・・・」
友達の夢の中に行くより、自分の夢の中へ行った方が気軽でいいかもしれない。
それに、コウのこともある。
ここは自分の夢の方が、迷惑はかからないはずだ。
「じゃぁ、今回は私の意思の中でいいかな?コウのこともあるし」
「・・・──大丈夫?ムマだってこと、忘れないでね?」
「んー大丈夫だよ」
以前も夢の中で、自分がムマだと自覚したことはある。
それに、今ここでそのことを強く思っていれば問題ないはずだ。
「朝菜、単純だからすぐ忘れそうだね?」
「は?大丈夫だって」
すると、ツボミは手の中に白い鎌を現した。
朝菜はツボミに切られる前に、急いでベッドの方へ移動する。
「気を付けてね・・・朝菜」
見るとツボミは、白い鎌を両手で握りしめこちらを見ていた。
その金の瞳は、いつもと違い不安の影が落ちているように見える。
「うん・・」
朝菜はそれだけ言って、小さく微笑んだ。
・・・不安がないと言えば、もちろん嘘になる。
でも、その不安を通り抜けないと何も変えることができないんだ。
朝菜はゆっくりとベッドに腰を下ろした。
ツボミはゆっくりと鎌を振り上げ・・・朝菜の体を切り裂いた。
そこからはパラパラと光の粒があふれ出し、朝菜は心地よい眠気に襲われる。
「─・・・」
朝菜はそのままベッドに体を倒し、眠気にされるがまま目を閉じた。
─・・・目を閉じる瞬間に朝菜の目に映ったのは、ツボミの不安げな顔だった。
朝菜は心地よい気分のまま、フワリとどこかに舞い降りた。
・・・そのままその場に倒れこむ。
手と足に力が入らない。
とても心地よい気分で、この場から動く気分にはなれなかった。
「・・・」
(あれ・・・私、どうしてここにいるんだっけ)
というか・・・ここはどこだろう。
朝菜の目の前に映るのは、ただの真っ白の空間と・・・鎖。
(なぜに鎖・・?どうしてこんなところに?)
朝菜はすっと目を細める。
そうだ・・・あれはただの鎖じゃない。
あれは記憶の鎖。
私があれを切り裂かないと、夢、自体が始まらないのに。
そう思った瞬間、体全体にあった心地よさが一気に消え失せた。
朝菜はゆっくりと立ち上がる。そして、手の中に闇色の鎌を現した。
「・・・よしっ」
朝菜は鎌を握りしめると、走り出し錆びた鎖を切り裂いた。
鎖は粉々になると、消えていく。
次に朝菜は、目に留まった錆びた鎖のところまで浮き上がると、それを思いっきり切り裂いた。
その瞬間、真っ白だった空間が暗闇に包まれる。そして、足元がふらついたかと思うと・・・
「きゃぁぁぁ!!」
朝菜の体は、暗闇の中をものすごいスピードで落下し始めた。
ここは夢の中だとわかっていても、朝菜の頭の中は恐怖でいっぱいになる。
こんな形で夢が始まるなんて、今までなかった。
もし、このままどこかに叩き付けられたら・・・─と、その時。
「!!!」
朝菜は、派手な水しぶきと共にどこかに落ちた。
その瞬間、体全体が水の感覚に包まれる。
(やばいっ・・・溺れる!!)
朝菜は必至の思いで足を動かすと、水面に顔をだし、空気を思いっきり吸い込む。
(もうダメかと思ったっ・・・)
深いと思っていたここは、どうやら思っていたより浅いらしい。
水は、朝菜の太ももの半分ぐらいまでしかない。
・・・慎重に辺りを見渡す。
頭上には満天の星空が広がり、地上にあるのは・・・ブランコ、滑り台、うんてい・・・?
(ここは公園・・・?)
なぜだか朝菜は、夜の公園の中央にある噴水の中にいるらしい。
自分の夢の中のはずなのに、全く自分の知らない場所。
ここは一体どこだろう。
朝菜は、水面に映りこむ星空をかき分けて進むと、何とかして噴水の中からはい出した。そして、近くにあった白いベンチに水浸しのまま腰かける。
(びちゃびちゃだし・・・最初から最悪なんだけど)
朝菜は、濡れて額にへばりついている不快な前髪を適当にかき分けると、小さく息をつく。
(私の夢の中ってことは間違いないんだし・・・ひとまずコウを探さないと)
朝菜が立ち上がったその時、
「どうしたの!?そんなに濡れちゃって」
後方から誰かがそう叫んだ。
彼女は、腰まで届く真っ白な髪。そして、それとは不釣り合いな地味な色のワンピース。そこには、散りばめられた星々にツタが絡まっているような、変わった模様が施されている。
「ちょっとそこの噴水で・・・」
朝菜がとっさにそう言うと、隣に駆け寄ってきた彼女は、驚いたように目を大きく見開いた。
「やっときてくれた・・!あなた、ムマでしょ?」
「え!?」
「金の瞳に金の髪・・・絶対間違いないっ。ね、ムマなんでしょ?」
彼女の問い詰めに、朝菜は混乱していた。
(どうして夢の世界の人が、そんなことしってるのっ・・・?)
鼓動が早めに波打つ中、朝菜は「・・・そうだよ」と呟くだけで精一杯だった。
朝菜のこたえに、彼女はほっとしたように表情を緩めると、はにかんだ。
「よかった・・・あっ・・取り乱しちゃってごめんね。あまりにも嬉しかったから・・・」
「─・・・どうして夢世界の人が、ムマっていう存在を知ってるの?あなた・・・誰?もしかして・・・コウなのっ?」
そう、ここの世界なら、自分の姿を自由に変化させることは可能なはずだ。
もしかしたら、コウは自分のことを騙しているかもしれない。
─・・彼女は悲しげに微笑む。
「疑われても仕方ない・・・か。でも、信じてほしい・・・私はコウ、じゃない」
「!・・・──じゃぁ、誰?」
「私は・・・爽、だよ」
「!」
(さわ・・・どこかで聞いたことある・・・確か、ツボミの夢のなかで・・・)
「って名前だけ言ってもわからないよね。私はね、前、ツボミのパートナーだったムマ。ここに来れたってことは、あなたは今のツボミのパートナー・・・でしょ?」
彼女─爽は、困ったような表情をすると、噴水の方へ歩いていく。そして、その水を掌ですくい、自分の口へ注いだ。
「水面に星が浮かぶとき、この噴水の水を飲めば、私たちはマホウが使えるようになるの。・・・但し、一回だけ。そして、そのマホウを手に入れるため“誰か”は、旅を続けている・・・そんな設定だよ」
爽はそう言い終えると、こちらに振り替える。そして、掌を朝菜に向けた。
するとそこから、丸いシャボン玉のような光が放たれ、それはフワフワとこちらに近づくと朝菜の体に当たった。
「!」
一瞬、温かい風が吹いたかと思うと、びしょ濡れだった朝菜の体は、いつの間にか乾いていた。
朝菜はただただ呆気にとられる。
「これがマホウだよ。・・・ずっとそんな格好でいると、ムマさん風邪ひいちゃうから」
「私・・・朝菜っていうの。─・・それに私、爽のこと知ってる・・・でっでも、会ったことがあるとかそういうことじゃなくて・・・コウのせいで夢に取り込まれたってきいた・・・その人が、爽なの?」
「そうっ・・・その爽だよ!」
爽はとても嬉しそうに笑うと、朝菜に勢いよく抱きついた。
「!・・」
「ほんとによかった・・・私、この世界で一人ですごく怖かった・・・朝菜、ありがとう・・・来てくれて」
・・・爽は、泣いているようだった。
夢に取り込まれた彼女は、夢世界で、たった一人で怖くて不安な思いをしてきたんだろう。
そのことを思うと、朝菜まで胸が締め付けられる思いがした。
「・・・私、コウに会いにこの世界に来たの。ムマの仕事ができないなんて嫌だし・・・ツボミがコウに会えないの・・・嫌だから・・」
朝菜の声はいつの間にか震えていた。
今までの恐怖と不安が、爽に会えたことにより抑えきれなくなったかもしれない・・・。
「朝菜・・・大丈夫・・・私も一緒だから」
「・・・・うん」
朝菜はそう呟くことしかできなかった。
朝菜は爽と一緒に、夜の森の中を歩いていた。
夜の森と言っても、所々に立っている外灯や、こじんまりとした家から漏れる明かりのお蔭でほどほどの明るさになっている。
「木の根っこが多いから、足元気を付けて。朝菜」
「うん」
話すには家の中がいいだろうと、取りあえず爽の家に行くことになったのだ。
爽は、噴水の水が入った瓶を腕に抱えながら言った。
「ほんとはね、この水を汲みに公園に行ったの。無断で持ち出すことは禁止されてるんだけど・・」
「え、大丈夫なの?」
「大丈夫!朝菜は何も心配しないで・・・ってこんなの変だよね。まるで私、この世界に住んでる人みたい」
爽は少し悲しげに目を伏せた。
朝菜はそんな爽を見て、
「爽は現実世界に帰らなくちゃ・・・ね?」
「うんっ帰るよ。絶対に・・・─でも、ずっとこの世界にいると、なんか変になっちゃうの・・・」
「変って?」
「この世界の“設定”に逆らえないって言うか・・・そんな感じがするの。
この服とか髪色だってそう。私、初めはこんな格好してなかったのに・・」
朝菜は眉を寄せる。
「・・・知らない間にそうなっちゃったの?」
「そうそう、まさにそんな感じなんだよね」
すると、爽は、ひときは大きな木の隣に建つ、家の前で足を止めた。
「ここ私の家なんだ。どうぞ入って」
爽はそう言って、家の戸を開けた。
「お邪魔しますっ」
朝菜は爽に続き、家の中に足を踏み入れる。
広いとは言えない家の中は、淡いオレンジ色のランプで照らされていた。
テーブルやイス、食器棚・・・使い込まれた感じが生活感を漂わせている。
それとは対照的に、床に敷かれたカーペットやテーブルクロスなど星の模様で統一されており、可愛らしい印象だ。
「ちょっとそこに座って待ってて?ごめんね」
爽はそう言って、窓際に並べてあるイスとテーブルを示した。
「?うん」
爽は朝菜のことは気にする様子なく、噴水の水が入った瓶を抱えたまま部屋の隅にある二段ベッドに近づいた。
・・・今気付いたが、そこの1階には誰かが眠っているようだ。
爽はその子の口に、丁寧に瓶の水を注いだ。
すると、その子の体は淡い光を帯びる。
「・・・よかった!もう大丈夫みたい」
爽は、安心しきった声でそう言うと、朝菜の座っている窓際の席まで歩いてくる。そして、残りの水が入った瓶を机の上において、朝菜の向かい側に腰を下ろした。
「・・・あの子は?」
朝菜が訊くと、
「私の妹なの・・・ちょっと最近、調子が悪いみたいで。でも、この水を飲んだからもう大丈夫だと思うんだ」
「そうだったんだ・・・」
爽のほっとした表情を見て、朝菜も安心した気持ちになる。
「あっ、ちなみに妹って言うのは“この世界”の妹であって、本当は私に妹なんていないよ?」
「・・・うん。何となくそうかなーとは思った」
朝菜は少しだけ微笑みを浮かべる。
「よかったっ。やっぱりムマの朝菜は違うね。ちゃんと分かってくれてる・・・─嬉しいな」
爽は本当に嬉しそうにそう言った。
「あはは・・・よかった・・・それで、爽。コウのことなんだけど・・・」
「うん。何?」
「・・・どうやったや会えるか分かる?」
爽はそれに静かに目を伏せた。
「・・・分からないの。私もコウに会えれば、すぐにこの世界から出すように言いたいんだけど・・・」
「そっか。そうだよね・・」
(やっぱりそんなに上手くはいかないか・・・)
朝菜が肩を落としていると・・・
「でも、ちょっと気になることがあって」
「え、なに?」
すると、爽は隣にある窓の外に目を向けた。
・・・外は暗闇に包まれており、木々の間に建つ家々の明かりが夜空の星のように輝いている。
「この世界には、朝がこないんだ。だから、ずっと真っ暗なままなの」
爽は、ポツリとそう言った。
「!・・・え」
爽は窓から目線を外すと、言葉を続けた。
「夢世界だから、そんなことあったって当たり前なんだけどね。でも、・・・朝が来るっていうことを知ってる私は・・・──そのことが、すごく不安で怖いの」
爽はテーブルの上の手を合わせ、それをギュッと握る。
「・・・でもね、見つけたの。青空を」
「!」
すると、爽は控えめに微笑み、
「・・・って言っても、空色の羽を持ったチョウなんだけどね。でも、すごく嬉しかったんだ。とても綺麗な空色で・・・この暗闇の中では、何よりも明るく見えたの」
「空色のチョウ・・・?」
「うんっ・・私、空色のチョウ・・・空アゲハに、現実世界に戻れる手がかりがあるってその時、思ったの。私にとっての青空は空アゲハだけだから」
「・・・」
分からないけど・・・。
ずっとこの世界に閉じ込められている爽がそう感じたのだから、きっと何か手がかりはある・・・朝菜はそう思った。
すると、爽はまた口を開いた。
「朝菜・・・一緒に空アゲハ、探してくれる・・?」
爽の瞳は不安な色で揺れていた。
・・・爽がここに閉じ込められていると分かった以上、彼女のことを無視してコウのことばかり追うわけにはいかない。
それに、爽がここから抜け出したとしたら・・・コウが黙っていないはずだ。
やっぱり思うのは・・・
(私、爽の力になりたい・・)
今まで一人で耐えてきた彼女のために、少しでもできることがあれば。
「うん!私も一緒に探すよ」
朝菜は迷わずそう言った。
「・・・ありがとう、朝菜・・・ほんとに・・ありがと」
爽はテーブルの上の朝菜の手の上に、掌をそっと被せる。そして、呟いた。
「私、帰れるよね・・?」
「大丈夫だよ・・・私が現実世界に帰るとき、爽も一緒に帰ろう?」
朝菜は一つ一つ言葉を並べるようにして、そう言った。
爽は朝菜の目を見て微笑むと、「うんっ」と嬉しそうに頷く。
すると、爽は突然立ち上がって、朝菜の視界から消えたかと思うと部屋の奥から何かを持ってきた。
「よかった!ちょうど二本あって」
「?」
爽は手に持つ二本のうち、一本を朝菜に手渡す。
それは・・・よく子供が昆虫採集をするときに使うアミ、だ。
朝菜も立ち上がると、曖昧な笑みを浮かべて、
「これで捕まえるんだね・・・空アゲハを」
「うん。まさか、素手で捕まえるわけにはいかないでしょ?あ、それと、カゴもあるから安心して」
爽は木製のカゴらしきもとを朝菜に見せると、微笑んだ。
「よ・・・よかった。じゃ、早速行くんだね?」
朝菜は、アミを持ったの何年ぶりだろう・・・と思いながらそう訊いてみる。
爽はもちろんです、という風に頷いた。