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第5話(2)

 そして、次の日の朝・・・。

 朝菜は夏枝と翼に「行ってきます」を言うと家をでた。

 本当は翼とはあまり話したくなかったが、同じ家にいる以上、これ以上気まずくなるのは嫌だったので言っておいた。

 いつもそうしているように自転車にまたがると、学校へ向かう。

 鮮やかな青空と、モクモクとした真っ白な雲が今日も汗ばむ気温になることを朝菜に告げていた。

 自転車をこいでいるときだけ味わえる心地よい風を全身に受けながら、朝菜はそう考えていた。

(確かリノが、昔ツボミと契約してたムマは夢に取り込まれたって言ってたよね・・・)

 ツボミの持つ支障は、間違いなくそれだろう。

 “ムマが夢にとりまれる”。

 しかし、その支障はいつもあるというわけではない・・・と思う。

 舜の意思の中に仕事に行こうかと考えていたとき、支障のことをツボミに訊いたら「調子がいいから大丈夫」と言っていた。

 だから、そのときを狙って仕事に行けば大丈夫なんじゃ・・・。

(でも・・・)

 ムマとしての経験がゼロな自分が、たって一人で支障がでるかもしれない意思の中に行くのは、とても危険な行為のような気がする。

「うー・・・ん」

 目の前の信号が赤に変わってしまい、朝菜は自転車をとめた。

 その途端、心地よい風も止まってしまう。

「!・・・」

(そうだ・・・もしかしたら・・・)

 その時、ある考えがひらめいた。

 この方法だったら、自分にもいけるかもしれない。


 2限目が終わったあとの休み時間。

 朝菜は、千絵がトイレに行ったときを見計らって、瑠の席に向かった。

「ねぇ瑠。ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

 朝菜がそう声をかけると、瑠は興味ありげな瞳でこちらを見た。

 朝菜が確かめたかったこと・・・それは・・・

「二人のムマが、一緒に仕事行くってことできるの・・・?」

 そう、確か自分は幼い時、夏枝と一緒に仕事に行ったはずだ。

 もし、この方法が簡単にできるのならば、この方法でムマの仕事の経験がつみたいと思った。

 そして、少しでもムマの仕事に慣れてからツボミと一緒に仕事がしたかった。

「やっとやる気になったんだ」

 瑠はニヤッとして立ちあがる。

「・・・」

(何か待ってましたって言わんばかりの顔だな・・・)

「ここじゃ話しづらいから、別の場所いこうか。知りたんでしょ?」

「まぁ・・・そう」

 ムマとして一人前の瑠は、やはりそのことについても知っていたらしい。

 瑠は後ろから朝菜の肩に手を置くと、背中を軽く押す。

「ほら。速く行こうよ」

「・・うん」

 朝菜は瑠に促され、生徒たちや机の間をすり抜けて教室の出入り口に向かった。


 朝菜と瑠は、学校の屋上にきていた。

 ジリジリと太陽の光が照り付ける日なたを避けて、瑠は日陰になっている壁際に腰を下ろす。

「・・・」

 朝菜も瑠とは十分な距離をとった場所にひとまず腰をおろした。

「そんなに離れた場所に座るんだ?」

 腰をおろした瞬間、瑠にそんなことを言われる。

「・・・」

(別にどこに座ってもいいじゃん・・・)

 と思ったが、そのことを口に出して言えない朝菜は腰一つ分ぐらい瑠の方へ移動した。

「・・・それで、さっきの話の続きなんだけど」

 朝菜が早速、そう言ってみると、

「・・・もちろん、できるよ」

「!・・・じゃぁよかった」

 朝菜はほっと胸をなでおろす。

 これで不安の種は少しは小さくなった。

「セーフだったね」

「は?何が・・?」

 朝菜は瑠の突然の言葉に眉を寄せる。

 瑠は微笑みを浮かべながら、言葉を続けた。

「契約したムマが長い間、仕事をしないようなことがあったら、どうなると思う?」

 その言葉に、体中から嫌な汗が一気にふきだした。

「一体どうなるのっ?もしかして・・・消滅しちゃうとか・・」

 すると瑠はニヤリとした。

「そんなことあるわけないじゃないか。・・・仕事をしない奴には、無理やりでも仕事をさせる、それだけだよ」

「・・・は」

「面白いこと想像するんだね、朝菜。あ・・だから、みる夢も面白いのばかりなのか」

「・・・って言うか、そんな言い方されちゃ、もっとやばいことだと思っちゃうじゃん!」

 朝菜はその言葉と同時に、この場から立ち上げる。

「・・・そろそろ、教室もどらないと」

 腕時計で、今の時刻を確認すると、チャイムが鳴る一分前ぐらいだ。

 階段に続く扉を開けようとしたその時・・・

「で、朝菜は誰と一緒に仕事に行く気でいるの?」

 振り返ると、立ち上がった瑠がこちらを見ていた。

「え・・お母さんに頼もうかなーって思ってたんだけど」

「俺と一緒に行かない?」

「え``!・・・きょ・・協力してくれることはありがたいけど、大丈夫だよ。お母さんに頼むし」

 瑠と二人で仕事に行くなんてゴメンだ、と思った朝菜は、必死にそう言った。

 瑠はそんな朝菜の言葉に、表情を曇らせる。

「・・・そんなに俺のこと、嫌い?あの時、心配してくれたことは、全部、嘘だったわけだ」

 瑠の表情に、より一層暗い影がおちる。

「いやっ・・そういう意味じゃなくて・・」

「じゃ、決まりだね」

 瑠は表情をくるりと変え、そう言うとスタスタと歩きだした。

 そして、立ち尽くしている朝菜の横を通り過ぎると、階段へ続く扉を開ける。

 ・・・と同時に、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

(なんでこうなっちゃうかなぁ・・・)

 表情をくるりと変えた瞬間の、瑠の微笑みが頭から離れない朝菜だった。


 その日の夜・・

 朝菜は早めにベッドに寝転がった。

 と言っても、寝るわけではなく、本棚から持ち出したマンガを開き眠くなるまでゆっくりしようという考えだった。

 今日はツボミが来なかったから、自分のベッドを思う存分使える。

(あー・・今日は、嫌な約束しちゃったなぁ)

 朝菜の頭に、瑠の面白がっているような笑みが浮かぶ。

 ムマの仕事について気になって、すぐに訊ける瑠にきいてしまったのが原因だったかもしれない。

(でも・・・お母さんにはあまり心配かけたくないし・・・)

 これでよかったのかも。

 夏枝も明も、朝菜が“金の瞳のスイマ”と契約してしまったことは知っている。

 翼みたく心配していることは、ほとんど口にださないが、二人が心配してくれていることは十分分かっていた。

 朝菜は自分の腕に刻まれてる、契約の証を眺めてみた。

 ・・・当たり前だが、この印はツボミと契約する前にはなかった。

 これはツボミとパートナーになった証、そして、本当のムマになった証なのだ。

 ムマの仕事をしないとあまり実感できないが、きっともうすぐ実感できるはず・・・。

「・・・」

(漫画でも読もうかなー・・)

 枕もとに投げるようにしておいた漫画のうちの一冊に手を伸ばす。その時、

 ♪ピロピロピンピロロ~

 近くに置いてあった朝菜のケータイが音を鳴らした。

(誰からのメールだろ?)

 朝菜は漫画をとるはずだった手で、ケータイを掴む。そして、ディスプレイを見た。

〈受信メール一件 ─ 瑠 ─〉

(瑠から・・・!)

 数週間前、千絵が瑠のメアドを訊きに行くのにつきあったら、なぜだか自分も瑠とアドレス交換をする展開になったのだ。

 使わないと思いながらも、念のためアドレス帳に登録しておいたのだが・・・。

 朝菜は嫌な予感を持ちながらも、メールを開き本文に目を通した。


・・・・・・・・・・・・・

まだ、起きてるよね?

今から朝菜とムマの仕事に行くことに決めたから。

だから、すぐに桜ヶ丘公園に来てくれない?

楽しみに待ってるよ(*^_^*)

・・・・・・・・・・・・・


「・・・」

(瑠が顔文字使うとか意外なんだけどっ・・・じゃなくて・・・)

 思っていたよりも早くやってきたこの展開に、朝菜は焦った。

 ムマの仕事をするのに、もうちょっと心の準備が欲しかったがそうも言ってられない。

 あくまで付き合ってもらうのは、こっちなのだから・・・。

 朝菜はすぐにベッドから起き上がると、出かける準備を開始した。

(にしても、ほんと突然だなっ)


 静かな住宅街を自転車で走りぬけ、朝菜は桜ヶ丘公園までやってきた。

 公園は夜の闇に包まれており、昼間とはまるで雰囲気が違う。

(瑠・・・もうきてるかな・・)

 そうあることを願って、朝菜は辺りを見渡した。

 と言っても、夜の闇のせいでほとんど何も見えない。

 ただ、ところどころに建っている外灯の周りだけはぼんやりと明るくなっていた。

「朝菜」

「!」

 突然かけられた声に驚いて振り向くと、そこには瑠がいた。

「びっびっくりした・・・瑠、いつのまに来たんだ?」

「たった今だよ」

「そうだったんだ・・」

 こんな真っ暗なところに一人でいるのは、ごめんだと思っていた朝菜は、瑠にすぐに会えたことに内心、ほっとした。

「もしかして朝菜、闇が怖かった?」

「え・・」

「駄目だなぁ・・俺たちは闇を怖がるべきじゃないんじゃない?」

 瑠がニヤリとすると、彼の髪色はみるみるうちに銀色に染められていった。

 そして、水晶玉のような銀色の瞳と目が合う。

 ・・・久しぶりに見る、ムマの瑠の姿だ。

「何か久しぶりかも。瑠のその姿見るの」

 朝菜が独り言のように呟くと、瑠は、

「朝菜も俺に見せてよ」

「・・・瞳の色を変えろって意味?」

「そうだよ」

「・・・」

(私の場合、瑠みたく見応えないとおもうけど・・)

 朝菜はそう思いつつも、瞳の色をムマのものに変化させてみる。

 瑠は朝菜の顔をじっと観察するように見た後、

「・・・そっちの方が似合ってるよ」

「そ・・そう?」

 瑠からの意外なコメントに、朝菜は内心焦った。

 まさか瑠が、自分のことをほめる・・・?なんて。

「そういえば・・お兄ちゃんはいないの?家でるときいなかったから、てっきり瑠と一緒にくるのかなーって思ってたんだけど」

 話題を変えるため、とっさにそう訊いた。

「センパイは今日の仕事のターゲットのところに行ってるはずだよ」

「あっそうか。・・・っていうか、ターゲットって誰なの?」

「そんなの誰だって関係ないだろ?」

「まぁ・・確かにそうだけど。何となく気になるなーって・・」

 もしかしたら、自分の知り合いかもしれないし。

 その場合、知ってるのと知らないのでは気持ち的に大きな差がある。

「・・俺が許可するから、ムマが同時に夢の中にいけるんだよ。そのこと、しっかりと覚えておいてね」

 瑠は静かな声で、そう言った。

「─・・分かった」

 すると、瑠は朝菜の手首を掴んでくる。

「そろそろ行けそうだから行こうか」

「うん・・・!」

「今からターゲットの意思のなかに移動するけど、朝菜は何もしなくて大丈夫だから」

「分かった」

 その瞬間、目の前の風景がぐにゃりと歪む。

 そして、浮遊感におそわれたかと思うと、朝菜の目の前は真っ白になった。

 ・・・いや、正確に言えばここはターゲットの意思の中。

 その証拠に、真っ白の空間のいたるところには多くの鎖がからみついている。

(もう・・ついたんだ・・・)

 隣を見るといつの間にか、そこには瑠の姿はなかった。

 ・・・一体、どこに行ってしまったのだろう。

 朝菜は今一度、周りをぐるりと見渡す。

 ここの空間は、記憶の鎖以外、何もないような空間だ。

 音もなければ、暑さも寒さもないように思われた。

「さぁ朝菜。ムマの仕事、やって見せてよ」

「!」

 その声に振り返ると、上の方にある鎖に瑠が腰掛けていた。その手には、闇色の大きな鎌が握られている。

 ・・・今の瑠の姿は、学校にいるときとは印象が大分違っているように感じた。

 銀の瞳に銀の髪、ということもその理由だが・・・何よりも朝菜の目についたのは大きな闇色の鎌。

(・・・何か人じゃないみたい)

「ちゃんと聞いてる?仕事をやってみせてって言ったんだけど」

 瑠はわずかに眉をひそめた。

「え!?・・・えーっと・・・私、ムマの仕事なんてやったことないから、まず瑠にやって見せてほしいなー・・・なんて」

 瑠の姿に見いっていた朝菜は、慌ててそう返すと「ははは」と笑って見せた。

「・・・」

「・・・」

「確かにそうだね・・・じゃぁまず、ここに来ることはできる?」

 瑠はそう言いながら、自分が座っている隣の鎖に手をおいた。

 そして、瑠はにやりとする。

(私にもそれぐらいは・・・できる!!よね?)

 朝菜はそう思って「できるよ!」と返事をした。

 ・・・瑠の座る鎖は、自分の身長一つぶんぐらいは上の方にある。

 朝菜は数歩後ろに下がって、その場所を見上げる。

(確か、ここの世界は、重力があまりなかったはず・・・)

 朝菜は自分のその記憶を信じて、力強く床を蹴ってみた。すると・・・

「!!・・・」

 朝菜の体は見事に空中に投げ出された。

 あっと言う間に瑠の横を通り過ぎ、自分の体はくるくると回りながら上昇することをやめない。

「りゅ・・瑠!助けてっ!!」

 朝菜は焦って思わずそう叫ぶ。

「・・・とまれって思えば、とまるんだけどな」

 瑠の声は、自分とは違い落ち着きはらっている。

「!・・・」

(とまれっ・・)

 朝菜が心の中でそう叫ぶと、自分の体は空中でピタリと動かなくなった。

(よかったー・・・)

 このままずっと止まらなかったらどうしようと思ったが、何とか止まってくれた。

 どうやらここでは、心の中で念じれば自分の体を自由に動かすことができるようだ。

 朝菜はそのことに気付いたので、(瑠のところまで行きたい・・)と念じてみる。

 すると、自分の体はフワリと体勢を立てなおした。

 そして、そのままゆっくりと下降して、自分は瑠の隣の鎖へスタリと足をつくことができた。

「面白いね。朝菜」

 瑠は楽しそうに、銀の瞳を歪めている。

「私は怖かったケド・・」

 朝菜はそんな瑠の表情をみて、苦笑するしかなかった。

 すると、瑠は立ち上げる。

「じゃぁ、しっかり見ててね」

「・・・うん」

 瑠は前方を見すれた後、朝菜を一瞥する。そして、この場から飛び出したかと思うと、瑠は前にあったさびた鎖の前で、闇色の鎌を大きく振り上げていた。

 ・・・鎖は瑠の鎌で切り裂かれたかと思うと、瞬く間に粉々になってしまった。

「・・・わかった?」

 瑠はこちらに振り返る。

「分かった。その錆びた色の鎖だけを壊せばいいんだよね?」

「そうだよ」

(それなら私もできそう・・)

 朝菜は一息つくと、右手を胸の前まで持ってくる。

 すると、不思議なことに手の中に闇色の鎌が音もなく現れた。

 朝菜はそれをとっさに握る。

(私が仕事をやろうって思ったから、でてきたのかな)

 鎖の上まで移動するのは大失敗したが、鎌を現すのは、上手くいったので朝菜はほっとしていた。

 この鎌は自分の背丈よりも背が高い。しかし、その割にはあまり重さを感じなかった。

 それによく見ると、瑠の持つ鎌とは少しデザインが違うことが分かった。

「朝菜、そこに錆びた鎖があるよ」

 瑠はそう言いながら、朝菜の向こう側を指さす。

 振り返ると、少し離れたところに錆びた鎖を見つけた。

「じゃぁ、やってみるから」

 朝菜は瑠に控えめにそう言って、その鎖のところまでフワリと移動する。

 朝菜が移動した後、瑠も朝菜の隣までやってきて朝菜の行動を観察しようとしているようだ。

(何か見られてると、緊張するんだけど・・・)

 朝菜のその思いとは逆に、瑠は、朝菜が鎌を振り上げる瞬間を見逃すまいと言った感じに、こちらを見ている。

 朝菜の心臓はいつもよりテンポよく波打っていた。

「・・・よしっ」

 朝菜は両手で鎌をしっかりと握りしめ、おおきくそれを振り上げた。・・・そして、力一杯振り下ろす。

「っ・・・!!」

 が、鎌の刃は鎖にあたる寸前で止まってしまった。

 いや・・・正確に言えば、鎖と鎖の間に反発するような力が働いて、刃は鎖を切り裂くことができない。

「何これっ・・・!?」

 瑠はとても楽そう切っていたから、そんなことになるなんて思いもしなかった。

 そう思った瞬間、朝菜は反発する力に負けて後ろへ吹っ飛ばされる。

 その衝撃で鎌は手から離れて、それは姿を消してしまった。

 朝菜は体勢を立て直して、もといた場所に戻る。

 その時、瑠に声を掛けられた。

「朝菜。これはただの鎖じゃないんだよ。もっと集中して落ち着いた心でやらなきゃ。そうしないと、この鎌は人の記憶を切り裂けない」

「・・・分かった。それじゃぁさ・・・あまりこっち見ないでくれるかな?緊張して集中できないし」

 朝菜は瑠を見て、曖昧な笑みを浮かべながら言ってみた。

「・・・ふーん。緊張なんかしてるんだ」

「うん。まぁ少しだけ」

「・・・」

「・・・」

 瑠はそれっきり何も言ってこない。

 ただその表情は、「はやくやってよ」と促しているようにこちらをじっと見ている。

(仕方無い・・・何か見られてて嫌だけど、もう一回やってみるか・・)

 朝菜はもう一度、手の中に鎌を現した。そして、目の前にある錆びた鎖を見据える。

「─・・・」

 朝菜は軽く目を閉じた。

 隣にいる瑠の存在をできるだけ考えないようにして、記憶の鎖を切り裂くことだけに神経を集中させた。

(・・・よし)

 朝菜はそっと目を開く。

(私だってムマなんだ・・・できないはずがないっ・・)

 朝菜はもう一度、切り裂こうとする鎖を見据えた。

 次に、鎌を大きく振り上げる。

「!!─・・」

 鎌を振り下げた瞬間、その錆びた鎖に鎌の刃が通り抜けた。

 そして、鎖にパキッと亀裂が走る。

 ・・・次の瞬間、鎖は粉々に砕け散った。

「やった!!」

 朝菜は思わずそう叫ぶ。

 自分がムマとして初めて仕事ができることが分かって、安心したし嬉しかった。

「よかったね。朝菜」

 瑠の方を見ると、彼は微笑んでいた。

 面白がっているような笑みではない、瑠の微笑みを見て朝菜はよりほっとする。

「切り裂く鎖はまだあるよ。二人で協力して、さっさと終わらせちゃおうか」

「うん・・!」

 周りを見渡すと、ところどころに錆びた鎖があることが分かった。

 瑠はすでに鎌をふるい、鎖を切り裂いている。

 ・・・朝菜は瑠に続いて“仕事”を開始した。


 朝菜と瑠は、錆びた鎖の前に立っていた。

 おそらくこれが・・最後の錆びた鎖だ。

「これが最後だね。これを切り裂くと、今まで切り裂いた記憶はすべて夢に変わるから」

 瑠は淡々と朝菜にそう説明する。

 すぐに切り裂こうとする瑠に、朝菜は慌てて質問した。

「ちょっと待って!これを切り裂いたら私たちの仕事は一応、終わりってことでいいんだよね?」

 瑠は朝菜の言葉に、鎌を振り下ろすことをやめると、こちらを見た。

「そうだね」

「じゃ・・・帰っていいんだよね?」

「何言ってるの?お楽しみはこれからだよ。朝菜」

 瑠はクスリと笑った。

「・・・ははは」

(やっぱりか・・)

 自分だけ帰してくれることは100%ないと思った朝菜は、これ以上は瑠に何も言わないことにした。

 ・・・瑠は夢の世界を満喫するつもりだ。・・・そして、それに朝菜も付き合わせるつもりなのだ。

「それじゃぁ・・始めようか」

 瑠は笑みを浮かべながらそう呟くと・・・大きく鎖を切り裂いた。


 朝菜は気がつくと、全く知らない場所に立っていた。

(ここ・・どこ?)

 夢の中だということは分かっているが、突然まったく知らない場所にいるとやっぱり不安になる。

 ・・・瑠みたく、長い間、ムマの仕事をやっていればこんなことはなくなるのだろうか・・。

 朝菜が今いる場所は、一言で表現すると、とても綺麗な場所だった。

 石畳の広場の真ん中には、お洒落な噴水があり、向こう側に広がる街並みは、よくテレビで見かけるヨーロッパのイメージだ。

 噴水の周りのプランターには、見たこともないようなカラフルな花々が咲きほこっている。

(夢の中だから・・・何が起きてもおかしくないよね・・・)

 一見、平和そうにみえる風景だが、そう考えると嵐の前の静けさに思えてくる。

 朝菜は辺りをぐるりと見渡してみた。

「!・・」

 するとすぐ後ろに、おおきな洋館が建っていることに気付いた。

 よく漫画で見る、そのままのイメージの洋館だ。

 この前読んだ漫画では、あんな感じの建物に人形職人の女の子が暮らしていた。

 この広場から、道が一本、あの洋館の方へ続いている。

(・・どうするべきか)

 あたりはとても静かだ。

 瑠はどこに行ってしまったのだろう。

「朝菜」

「!!」

 かけられた声に弾かれたように振り向くと、そこには瑠がいた。

 瑠は朝菜よりも早くに口を開く。

「俺は、この街に住む主人公が探し続けている少年魔法使いで、朝菜は、主人公に時々助言をしては消える不思議な少女・・・っていう設定にしたから」

「・・・は?」

「まえに言っただろ。この世界は、俺の思い通りになる」

 よくよく見ると、瑠の服装はいつもと明かに違っている。

 星が散りばめられた夜の色のローブをはおり、足には変わったデザインのロングブーツ。それに、やたらファンタジックな背の高い杖まで持っている。

「瑠・・・そんな服の趣味あったんだ」

 なんだかとても意外だ。

 でも、銀の髪と瞳を持つ瑠が、そんな服を着ると本物の魔法使いみたいだ。

「朝菜こそ」

 瑠はニヤリとする。

「?」

 いつの間にか自分の服装は別のものに変化していた。

 やたら真っ白の、ふわふわとしたワンピース。

「な・・何、この服・・・!」

 白のワンピースと言ったらツボミだが、彼女の服よりも明らかに派手なので、朝菜は一気に恥ずかしくなった。

 瑠は手に持っている杖を、まるでムマの鎌を扱うように、手の中でもてあそびながら口を開いた。

「言っておくけど、この世界を設定したのが俺であって、この服装を決めたのは俺じゃないよ」

「・・そうなんだ。・・・って言うか、瑠って夢の中でかなり遊んでるね?」

「今日は朝菜がいるから、だよ。・・さぁ、俺のことを楽しませてよ、朝菜」

 瑠は杖の動きを止めると、その口元に不気味な笑みを浮かべた。

「・・・─」

(何かかなり最悪の展開になっちゃったな・・)

でも、漫画の世界に入れたと思えばまだましだと思った。

 そう・・・ここは漫画の世界。自分はその登場人物になれたんだ、そう思うことにしよう。

「あっ・・主人公っていうのは、この夢の持ち主のことだよ。

不思議な少女、アサナはこの夢物語の主人公を探さないといけない。じゃないと物語が展開しないからね」

 瑠はすらすらと読み上げるように言った。

「んー・・分かった。探してみるから」

 ここは瑠のゲームに思いっきりつきあおう。

 そうすれば、少しはこの夢世界を楽しめるかもしれない。

「それで、少年魔法使いはどうするの?」

 朝菜が訊くと、

「そうだね・・俺は気ままにこの世界は旅することにするよ。そうしないと、主人公にすぐに見つかっちゃうからね」

 瑠はクルクルと杖を回す。すると、先の方についている星がピカリと光った。

「あっ・・・!!」

 と同時に、瑠は白い光に包まれる。そして彼はこの場から、姿を消してしまった。

「・・・」

(探してみるって言っちゃったけど、どこをどうやって探せば・・)

 それに、夢の持ち主が誰なのか分からない。

 この状況では、探しようがないのではないだろうか。

 その時、辺りが急に騒がしくなった。

 見ると、朝菜が立ちつくしていた広場には人が溢れかえっていた。

 人々は休日にこの広場に遊びにきたという雰囲気で、親子や恋人同士らしき姿が目立つ。

「!!─・・」

 朝菜は人々の視線が、自分に向けられていることに気付いた。

 しかもその視線はみな、不審者を見るようなとても居心地が悪いものだ。

 朝菜はその視線に焦りを感じる・・・が、冷静になって考えた。

(そうだ・・・この世界では、私、不思議な少女・・?なんだから、こんな公衆の場にいたら目立つのは当たり前だよねっ・・)

 そう判断した朝菜は・・

(ここはひとまず、瑠みたいにす姿をかき消して・・・)

 不思議な少女という設定ならば、姿をふわりとかき消すぐらいはできるはずだ。

 朝菜はあまり人気ななさそうな、洋館へ続く一本道の方へ瞬間移動したいと考えた。

「よしっ・・」

(あっちの方へ・・・行きたい!)

 朝菜はそう心の中で唱える。

 ・・が、何も起こらない。こうして心の中で唱えれば、自分はこの場から姿をかき消して、あっちの道へと行けると思ったのに。

 そうしている間には、公衆の目がより痛くなってきた。

「・・・不思議な少女なんだから、瞬間移動ぐらいできてもいいじゃん」

 そう思いながらも、朝菜はその場所までひたすら走って移動するしかなかった。


 朝菜は一本道を小走りして、洋館の前まできていた。

 幸い、ここまでくるのには人には会わなかった。

 朝菜の目の前には、洋館の中へと入る大きな扉が立ちふさがっている。

(ここに何かありそう・・・)

 むしろ、物語的にはこんな大きな洋館で何も起きない、という方が不自然な気がする。

(よし・・入ってみよう)

「・・・!」

 朝菜が扉を開こうとしたそのとき、上の方から誰かの話し声が聞こえてきた。

 見上げると2階の窓が開いていて、話声はそこから聞こえてくるようだ。

(やっぱり誰かいる!)

 朝菜の胸は高鳴った。

 もしかしたら、そこにいる人が夢の持ち主かもしれない。

(どうにかして、部屋の様子みれないかな・・・)

 この扉から中に入ってもいいのだが、人がいると分かった以上、勝手いに入るのはなんだか気が引ける(夢の中であっても)。

「・・・」

(空とかとべたりしないよね・・?)

 朝菜は駄目もとで、地面を軽く蹴ってみる。すると・・・自分の体は、ふわりと空中に浮き上がった。

「やった!」

 これなら、瞬間移動できなかったことを許すことができそうだ。

 朝菜はそのままゆっくりと浮きあがると、中にいる人に気付かれないようにそっと部屋の様子をうかがい見た。

「!・・」

 そこには、二人の女の子がいた。

 一人の髪の短い女の子はベッドに横たわり、もう一人の髪の長い女の子は傍らに寄り添うようにして立っている。

「本当?なんの病気でも治せる銀髪の少年がいるって」

 長い髪の方の女の子が、ベッドに横たわる女の子に問い詰めるようにしてそう言った。

 ベッドの上の女の子は、その言葉に困ったような笑みを浮かべた。

「何の病気でも治せるんじゃない。彼は“魔法使い”だから、何でもできちゃうの。

もちろんいるわよ?・・・この本の中にいつでもね」

 彼女はそう言うと、枕もとにある本を手に持ち、それをもう一人の女の子へ渡す。

 本を受け取った女の子は、わずかに俯いた。

「・・違う。本当にいるんだよ?この物語は全部本当にあったことだって母さんが言ってた」

「この世界に、魔法が存在するわけないでしょ?・・・母さんはね・・私たちの夢を壊したくなかったのよ」

 そう言う彼女は微笑んでいたが、何だかとても悲しそうだ。

「・・わたし、魔法使い、を探してくる。そして、絶対にサワの病気を治してみせるから」

 長い髪の女の子はそう強く言うと、部屋の出入り口に向かって走り出した。

「行かないで!魔法使いなんているわけないでしょ!?」

 ベッドの上の女の子は、体を起こし必死に長髪の女の子を止めようとする。

「わたし、サワの病気を治したいの。だから、待っててね」

 長髪の女の子は、彼女の方に振り向きもしないでそう呟くと、部屋から出て行ってしまった。

「・・・」

(あのこがもしかして・・・)

 朝菜は近くにある大きな木まで、フワリと移動するとそこの枝に腰かけた。

 たしか、瑠(少年魔法使い)は自分のことを探し続けている主人公、だと言っていた。

 ・・・間違いなく、さっきの長髪の女の子がこの夢の持ち主だ。

(私は主人公に助言をするキャラクター・・・なんだよね。だから、しっかりやらなきゃ・・!!)

 朝菜がそう思っていると、下の扉からさっきの長髪の女の子がでてきた。

 部屋の中ではよく彼女の顔を確認することができなかったが、彼女は思ったよりも幼い女の子のようだ。

 女の子は扉をでて、少し行ったところで立ち止まると、キョロキョロと辺りを見渡している。

 朝菜はそんな女の子のことを、木の上からじっと観察していた。

(・・・って言うか、助言って言ってもどんなことを助言すれば・・・)

 自分にも瑠の居場所は分からないし・・。

 女の子は不安そうに表情を歪めると、胸に抱えたままの本にぎゅっと力を込め、呟いた。

「絶対いるよね・・・?魔法使いさん・・・?」

「─・・!」

 朝菜はその呟きにはっとする。

 そう、自分は少年魔法使いがいる、という事実だけは知っていた。

 そのことを彼女に伝えるだけでも、彼女にとっては大きな助けになるのではないだろうか。

「─・・・」

(ここはきっと、私の出番だ・・・)

 どんな顔をして、彼女の前に姿を現わせばよいのだろうか・・。

 夢の中であると分かっていても・・・緊張する。

(って言うか・・・もっと気軽にいっていいよね?)

 そうだ。もっと気軽に考えよう。

 朝菜はそう思って、思いきって木の上から飛び降りた。

 そして、真っ白のワンピースをフワリとさせ、女の子の目の前に着地する。

 女の子はとても驚いた様子で「誰・・?」と呟いた。

(こっ・・ここは不思議な少女になりきらないとっ)

 朝菜は内心で上手くできるかどうか焦りまくっていたが、表面上では不思議な笑みを浮かべて見せた。

「私は・・アサナ。あたなが持っている本・・・その本に宿る精霊なの」

(・・ってことにしてもいいよね・・!?)

「アサナ・・・?それはほんとなの・・?」

 女の子は信じられないといった表情でこちらを見据える。

「─・・・」

(やばい・・・どうにかして信じてもらわないとっ!)

 朝菜は少しの間の後、言った。

「えぇ、本当よ。・・あなたは魔法使い、を探しているんでしょう?」

 朝菜の言葉に女の子の表情が動く。

 朝菜はすぐに言葉を続けた。

「彼はこの世界に今でも存在しているわ・・。

 けどね、りゅ・・魔法使いはとても気ままな人なの。だから、見つけられるかどうかはあなた次第よ・・」

 朝菜はその言葉を言い終えると、地面を軽く蹴り空中に浮きあがった。

 そして最後に、女の子へ謎めいた笑みを残してみる。

 次に、空へ高く浮き上がると、彼女の視界には入らない屋根の上へ移動した。

「・・・ふぅ」

(上手くいった・・かな?)

 朝菜は安堵の溜息とともに、屋根の上にへなへなと座りこんだ。

 言い間違えそうになったが、何とか持ちこたえられたし・・きっと大丈夫だろう。

「上手くいったね。アサナ」

「!」

 横に振り向くと、そこには魔法使い、がいた。

「瑠・・!!もしかして、さっきの見てた?」

「もちろん」

 瑠は満足げな笑みを浮かべている。

「・・・」

(最悪なんだけど・・)

「さぁ、物語はまだ始まったばかりだよ。アサナ」

 瑠はそれだけ言うと、すぐに姿をかき消してしまった。

「瑠は相変わらず楽しそうだなー・・」

 自分は瑠みたく、夢世界を楽しんでいる余裕なんてこれっぽっちもないのに。

(本当は私も瑠みたく楽しみたいんだけど・・)

「・・・」

(そうだ・・・あのこは・・・)

 朝菜は、女の子のその後の行動を観察しようと思い、屋根の上から隣の木の上に移動した。

 すると、広場へ向かって黙々と歩く女の子の後姿が朝菜の目に映った。

(どこ行くつもりなんだろ・・後、つけてみよ・・)


 朝菜はあとをつけているうち、女の子の持つ、ある違和感に気付いた。

(誰かに似てるような・・

 女の子は街を通り抜け、木々の生い茂った道を少し行ったところで歩みをとめた。そして、疲れたのか地面に座り気に寄り掛かる。

「・・・」

 朝菜は女の子に気付かれないように、木の上から地面に降りるとじっと彼女の顔を観察した。

「ツボミ・・?」

 女の子はツボミととても似ていた。

 もちろん、年齢的にも違うし、彼女は黒髪に黒の瞳。

 だから、ツボミのはずはないのだけれど・・・。

 そう思った瞬間、この女の子の存在がとても違和感あるものになった。

(ツボミととても似た子が、夢の中にいるって・・変だよね・・)

「─・・・!!」

(もしかしたらっ・・・)

 そう思った瞬間、朝菜は気づいたら女の子の前に飛び出していた。

「・・・ツボミなんでしょ?」

 朝菜の言葉に、女の子はゆっくりと顔を上げ言った。

「うん」

「!・・」

 すると、女の子の瞳はみるみるうちに金色になり、そして顔立ちもそれと同時に大人っぽく変化していく。

 そして・・・女の子は、ツボミ、に姿を変えた。

 ただ、違うことは真っ白の髪が真っ黒であるということ。

 ツボミはいつもと同じ淡々とした表情で、朝菜を見た。

「ここ、わたしの夢のなかだよ?」

「そ・・・そうだったんだ。私、今日、瑠と一緒に仕事にきてて・・・」

 まさかここが、ツボミのみる夢世界だなんて思わなかった。

「朝菜がわたしの名前、呼んだから、わたしこの夢の世界の人でいられなくなった。だから、もうすぐ終わるよ?」

 ツボミは静かな声で呟く。

「え?」

 その瞬間、周りの景色に大きな亀裂が走った。

 バリバリと瞬く間に亀裂は広がっていき、それは朝菜とツボミを飲み込んだ・・。


 時は少しさかのぼり・・・

 翼は舜の家にいた。

 というのも瑠に「今日はツボミの気をとって」と言われたからだ。

 気を取り終えた翼の前には、ツボミがすやすやと眠っている。

(それにしても何でこいつの気なんだ?)

 知り合いの意識の中では、ムマが仕事がしやすいというのは翼も知っているが、特にツボミの意識の中に理由はない・・はず。

「・・・」

 翼は気持ちよさそうにベッドの上で眠っているツボミに、視線を落とした。

(こいつが普通のスイマだったらなっ・・─)

 ツボミが悪くないことは翼も知っている。

 ツボミの好きで支障を持ったわけじゃないし、金色の瞳のスイマになったわけでもない。

 そうは分かっていても・・・

(朝菜はこいつと仕事をさせるわけにはいかねーんだっ・・・)

 ムマがスイマと契約して、仕事をしないという話はきいたことがない。

 そうだとしても、翼は朝菜がムマの仕事に行くのをどうしてもとめたかった。

 ・・・スイマたちも間では噂になっている、“金色の瞳のスイマ”その名前はネガティブな印象でしかなかった。

 噂というのは、もちろん支障のこと。

 金色の瞳のスイマと仕事をしたムマは、現実世界に帰れない・・・それがツボミの持つ支障なのだ。

「─・・・」

(それとも・・・無理やりにでも契約を解かせるか・・・?)

 とそのとき、部屋の扉が開いた。

「!!」

「あっスイマのお兄さん!」

 そこにはパジャマ姿の舜がいた。

 舜は小走りで翼に駆け寄ってくる。

「うちに仕事にきたの・・・あっ・・ツボミさんの気をとってたんだね~」

 舜はツボミの姿を一瞥した後、

「でも、これじゃ僕の寝る場所がなくなっちゃうよー」

 と翼に口をへの字にして言った。

「あはは~悪かったな!」

「起こしてもいい?」

「それは駄目だ!今、瑠が仕事してるし、もし少したったらなっ」

 翼は、すぐにでも起こそうとした舜の前に割って入りそれを阻止する。

 舜はその言葉に、わずかに表情を変えた。

「そうだ。スイマのお兄さんのパートナーって僕の兄さんなんだよね」

 すると舜はニコッと笑った。

「兄さんもよかったね!だって、スイマのお兄さん、いい人だしね?」

「・・・おう!俺はいい人だっ」

 やはり、朝菜からきいた通りこの兄弟の問題は無事解決したようだ。

 翼は心の中で安堵の溜息をつく。

「それじゃーさ。スイマさんのお兄さん。時間になるまで僕と遊んで待っててくれない?ねっいいでしょ?」

 舜は期待の眼差しで翼を見上げる。

「おう!いい・・・」

「舜、こんな奴とは遊ばない方がいいんじゃない?」

 その言葉と同時に、リノが舜の隣に姿を現した。

「バカがうつるから」

 リノはクスリと笑うと翼を見る。

「なっ・・・──!?」

「あっリノー!・・・えっスイマのお兄さんってバカだったんだね!」

 舜はリノを見たあと、翼を見るとニッコリと笑った。

「あのなーっ!!言っとくけど、俺はバカバカ言われるほどバカじゃないからな!こう見えても、ちゃんと大学通ってるしなっ」

「ふーん・・・そうだったの」

 リノは疑いの瞳で、翼を見る。

舜はそんなリノに、

「意外だねっリノ」

「そうね」

「・・・それじゃ俺は帰るからな」

 翼が、姿をかき消そうとしたその時・・・

「ちょっと待って。あんたに話しておきたいことがあるから、ちょっと時間もらえない?」

「!・・・─何なんだ?その話ってのは」

「だからそれを今から話すって言ってんのよ・・・舜はリビングで待っててくれる?」

 舜はリノの言葉に、「うん!」と頷くと部屋から出て行った。

「・・・ツボミが寝てるとこで話してるのも何だし、ベランダにでない?」

「・・・おう」

 リノの言葉と真剣味のある表情に、嫌な予感を持ちながらも翼はリノに続いてベランダにでた。

 リノはベランダの柵にひじをつき、隣にきた翼を見る。

「今さら、ツボミと朝菜の契約を取り消そうなんて思ってないわよね?」

「!─・・」

「・・まっ、そうだとしても、そんなことあたしがさせないけど」

リノは口元に薄い笑みを浮かべる。

翼はそんなリノのことを静かな表情で見据え、

「お前がそー思ってることは知ってるよ。

・・・でも、俺は朝菜とツボミに仕事をさせるわけにはいかないんだよ」

「ムマがスイマと仕事をしないって話きいたことないし、それにあの朝菜だから、ずっとムマの仕事をさぼってるってことはしないと思うんだけど」

リノは次々と言葉を並べる。

・・・リノの言っていることは間違っていなかった。むしろ自分の考えていることと大体同じだ。

「・・・そうだとしても、俺は朝菜をとめる」

リノは翼の言葉に小さく笑った。

「そんなことしたら、朝菜に嫌われるじゃない?」

「──・・・じゃあ、お前は知ってんのかよっ?ツボミの支障、を避ける方法!

お前、ツボミの友だちなら、昔、ツボミと契約してたムマのことも知ってんだよな?そいつは支障のせいで、現実世界から消えたんだろ。また同じようになれって朝菜に言ってんのかよ!?」

 翼はリノの言葉に苛立ちを隠せなかった。

 ・・・こいつは、朝菜がどうなろうと構わない、そう思っているように感じてならない。

 リノは小さく息をつくと言った。

「そんなにムキにならないでよ。

・・あたしがそんなこと言うわけないでしょ。それに、どっちかって言うと、あたし朝菜に感謝してるのよ?ツボミと契約してくれたわけだしね」

「それはお前らが朝菜を騙してっ・・・」

「まぁ、落ち着いて聞きなさいよ・・・あんた、ツボミの支障、について詳しいこと何も知らないのよね」

「!─・・」

「正確に言うと、ツボミは支障なんてものはもってない」

「なっ・・・!?でも、ツボミと昔、契約したムマは支障のせいで・・」

「そうよ・・・爽、は現実を失った」

 リノはまっすぐな瞳で翼を見た。

「・・・」

「・・ツボミはスイマとムマのハーフってだけで、何の問題もないはずだった─・・双子で生まれなければね」

 翼は思わぬリノの言葉に大きく目を見開いた。

「はー!?ツボミって双子だったのか?・・・つーか・・・なんで双子で生まれたことが問題なんだよ?」

 リノは口元に手をあて、少し考えるような仕草をした後、

「そうね・・・確かあんたの両親はスイマとムマなのよね・・・で、あんたがスイマで朝菜がムマでうまれてきた」

「・・・?それがどうしたんだよ?」

「もちろん、ツボミの親もスイマとムマ。だから、双子の姉であるツボミは、スイマとムマの能力を持ってうまれてきた」

「まぁ、俺と朝菜の場合はスイマとムマで丁度別れたって感じだなっ。ツボミみたく半端な奴にならなくてよかったよ~ははは~」

 翼がふざけるようにそう言うと、リノはみけんにしわを寄せた。

「それで!!ツボミの弟のコウは、何として生まれてきたと思う?」

「・・・そのコウっていう弟も、ツボミと同じハーフじゃないのか?」

 翼はリノの真剣みのある声に、すぐに笑うことを止めることにした。

「やっぱりあんなの脳みそじゃ、そう考えるわよね」

「なっ何なんだよ!違うのか?」

「・・・コウはスイマとしても、ムマとしてもうまれてこなかった」

「!」

「・・・きっと、ツボミがスイマとムマ、どっちの能力も持っちゃったせいね・・・」

 リノは少しだけ寂しげに瞳を伏せた。

 翼はそんなリノから視線を外すと、彼女と同じようにベランダの柵にひじをつく。

「スイマでもムマでもないなら、コウは普通の人間なのか?」

 翼が訊くと、

「確かに人間だけど・・・あんたが想像している普通の人、じゃきっとない」

「?・・・」

「コウは普通の人みたく、長い時間、起きていられない。だから、生きている大半の時間を夢の世界ですごしているのよ」

「!!」

「だからこそ、ツボミにとっての支障、になったのかも」

 リノは夜の闇で染まった町並の遠くの方へ視線を投げて、独り言のように言った。

「!・・・つーことは、ツボミの持つ支障っていうのはコウのことなのか?このコウのせいで、昔、ツボミと契約したムマを現実から消えたんだな?」

「・・・そういうこと」

 リノは視線を翼に戻してわずかに微笑んだ。

「・・・ツボミの支障を避けるには、朝菜をことを見張るより、コウのところに直接行った方がいいってことだよなっ!?」

「まぁ確かにそうかもね。あんたにしてはいいこと思いつくんじゃない?」

 リノはクスリと笑ってそう言った。

「・・・」

 そう分かった以上、翼のやるべきことは決まっていた。

「リノ。コウの居場所教えてくれ!!」

「なんであたしが、コウの居場所、知ってんのよ?」

「なっ・・・──」

「・・・っていうのは嘘。コウはあの場所からあまり遠くにいは行かないはずだし・・・」

 そして翼は、リノからコウの大体の居場所をきいた。

 ツボミにとっての支障がコウなら、ツボミの支障となるコウの行為をやめさせればいいことの話だ。

 そう、朝菜がツボミとムマの仕事をする前に・・・。

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