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第5話(1)




そして、季節は移り変わり・・・夏。

 朝菜は夕方になっても、一向にひかない暑さと汗に嫌気を感じながら玄関の扉を開いた。

(あー今日も暑かったな)

 もう7月に入ったのに、露の湿気はつづき、しかもこの気温だ。

 学校にクーラーがあればいいのに、と何度思ったことか。

「朝菜~お帰りー!」

 玄関の戸が開く音を聞きつけたらしい翼が、朝菜のとこまでやってきた。

「・・・ただいまー」

 朝菜はそっけない返事をすると、家にあがりスタスタと翼の横を通り過ぎる。

 ・・・正直、朝菜は“翼の出迎え”にうんざりしていた。

 だって、もうこんなことが2カ月以上は続いている。

 そして、その後決まって言われることは・・・

「朝菜!・・・」

「ツボミとムマの仕事に行くな!・・・でしょ?」

 朝菜は翼の言葉をさえぎって、溜息混じりにそう言った。

「おう!朝菜、よく分かってるなっ」

「だってお兄ちゃん、いつも同じこと言ってるじゃん!」

「分かってればいいんだ!分かってれば!!」

 翼はわざとらしく「はははー」と笑うと、いつものように居間の方へ去っていく。

「・・・はぁ」

 朝菜はそんな翼の背中を見ながら、深い溜息をついた。

(お兄ちゃんが心配なのは分かるけど・・・)

 こうも毎日、同じことを言われるとさすがに嫌になる。

 朝菜はそんなこと思いながら、ゆっくりと二階へ続く階段を上っていった。

 ・・・そう、翼は金の瞳のスイマ・・・ツボミと、朝菜がムマの仕事にいくのを何とか阻止しようとしている。

 よほどツボミの“支障”がでてしまうことを心配しているらしい。

 朝菜が眠るまで翼は、監視しているため(本人は朝菜に気付かれていないと思っているらしい)、今までツボミとムマの仕事に行ったためしがない。

(せっかく契約したのに、これじゃ意味ないじゃん・・・)

「はぁ・・・」

 知らず知らずのうちに、また溜息をつくと朝菜は自室へ足を踏み入れた。

「・・・また寝てるし」

 朝菜のベッドの上で、気持ちよさそうに昼寝をしているツボミの姿が目にとまった。

 毎日ではないが、家に帰ったらツボミが朝菜の部屋にいることが多かった。

 ここはもちろん朝菜の部屋だが、半分はツボミの部屋と化している・・・朝菜はそう思う。

(もう慣れたし・・・別にいいんだけど)

 朝菜は勉強机の上に、カバンを置くと机の椅子に腰かけた。

 ツボミは・・・朝菜が仕事、をしないことに関して何も言ってくることはなかった。

(って言うか・・・契約したのに、仕事をしないなんてやばいんじゃ・・・)

 朝菜が気がかりなことはそれだった。

 そのことについて、ツボミに訊いたことがあったが、ツボミは「たぶん大丈夫」と言っただけで何も言ってこない。

 ・・・本当に大丈夫なのか怪しいところだ。

「朝菜ー夕食にするよー」

 一階から夏枝の声が聞こえた。

 朝菜はそれに分かったーと返事をすると、制服のリボンを外す。そして、制服から楽な服に着替えると一階へ降りて行った。


「朝菜、ツボミちゃんが部屋にいたよね?」

 朝菜が焼き魚の骨を取り除くことに苦戦していると、夏枝が話しかけてきた。

「あっ・・・うん」

「ツボミちゃんも呼んできてあげたら?たまには一緒に夕飯っていいのもいいんじゃない?」

 夏枝は微笑む。

「でも、ツボミ寝てたし・・・」

 朝菜は言葉を選んでそう言った。そして、焼き魚とほかほかのごはんを口に運んだ。

 夏枝の気遣いはありがたいが、ツボミが家族の前で何をしでかすか予想がつかない。

 ツボミは思ったことをすぐに口に出すことが多い気がして怖いので、そのまま部屋にいてくれた方が安全だ。

(それにツボミは一応スイマだし、食べなくても大丈夫そう・・・)

「そう?それじゃ、今度誘ってあげてね」

「・・・うん」

 朝菜は夏枝の言葉に一応、頷いて見せた。

「・・・そういえばお兄ちゃんとお父さんはスイマなのに、普通に食べてるよね?」

 ツボミのことを考えていたら、急にそのことが気になった。

 翼と明は、同時にこちらを見た。すると、翼が元気一杯にそれに応える。

「俺たちだって“おいしいもの”は食べたいしな!それにスイマがヒトの食べ物を食べるなんて、どこでもやってることだぞっ?だよな、父さん」

「・・・まぁそうかもな」

 明はさして興味がないらしく、食事を口に運びながら呟いた。

「そうなんだー・・」

(そういえばリノもハンバーガー食べてたっけ・・・)

「もちろん俺は、気、も好きだぞ。特に朝菜の気は、あったかくてふわふわして、まるで焼き立てのコッペパンだなっ」

「あはは。翼、おもしろいこと言うんだね」

「・・・はは」

 夏枝は笑ったが、朝菜は乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。


「朝菜。お腹すいた」

 自室に戻った途端、寝起きがおのツボミにそう言われた。

「・・・は?じゃ、外に行って誰かの気、もらってくれば?」

 朝菜は内心で、そんなこと言わなくていいのに・・・と思いながら、そう言葉を返した。

 ツボミはそれに、一瞬黙り込む。

「わたしが食べたいのは、人の食べ物だよ?」

「え・・・」

「朝菜、もう忘れたの?わたしは、スイマでもあるしムマでもある。だから、人の食べ物も食べないとお腹いっぱいにならないの」

「そ、そうだったんだ」

 朝菜は淡々と言葉を並べるツボミに、何とかそう言う。

 ・・・ツボミは何だか機嫌が悪いらしい。

 お腹がすいているからだろうか・・・?

「・・・わたし、リノの家でいつもゆーはん食べてるの。朝菜んちはゆーはんまだ?」

「・・・ごめん・・・もう食べちゃった」

「・・・」

 黙り込むツボミ。

(あー・・・こんなことになるなら、お母さんに言われたとき、誘えばよかった)

 しかし、後悔してももう遅い。

「うーん・・・じゃ、どうする?ごはん、残ってないと思うし・・・コンビニで何か買ってくるとか」

 ここから一番近いコンビニは、自転車で5分もかからない場所にある。

 朝菜の言葉に、ツボミはこくりと頷いた。

「・・・何が食べたいの?」

「ハンバーガーが食べたい」

「・・えぇ?」

(ハンバーガーってコンビニに売ってたっけ・・・)

「リノが時々分けてくれる。ハンバーガーっておいしいから」

「そうなんだ・・・」

 朝菜はコンビニの棚に並んでいる商品にどんなのがあったか、思いだす作業を開始した。

 そこには・・・おそらく、ハンバーガーはあったはずだ(冷たくて、チンするやつだか)。

 ツボミが、想像するハンバーガーとは、違うと思うが・・・多分、大丈夫だろう。あれも一応、ハンバーガーだし。

「じゃぁ、ちょこっと行って買ってくるから、待っててくれる?」

 朝菜は引き出しの中にしまってある財布を引っ張り出すと、それをズボンのポケットにしまいこんだ。

(まさかツボミまでハンバーガー好きとは・・・)

「朝菜。わたしも一緒に行くよ?」

 ケータイで今の時刻を確認していると(約20時だ)、ツボミがそう言った。

「ん?大丈夫だよ。すぐそこだし」

「わたし、朝菜と一緒に行きたい」

「うーん・・・」

(でも、ツボミって他の人に見えないんだよね・・・だから、一緒にいても話せないし・・)

 すると、ツボミが口を開いた。

「ちょっと待って」

「?」

 何事かと朝菜がツボミを見ると、彼女はその金色の瞳をわずかに細めた。

 その途端、ツボミの髪が風に吹かれたようにフワリと浮きあがる。そして、それと同時にその髪の先端が黒色に染められた。

その色は、みるみるうちに髪全体に広がり、ツボミの髪色は真っ白から真っ黒へ変化を遂げる。

「すごいね!ツボミ、そんなこともできるんだ!」

 朝菜は黒髪になったツボミの姿に思わず見入る。

 ・・・まるで、今のツボミの姿は“ヒト”みたいだ(瞳は金のままだが)。

 ツボミは朝菜の言葉に、コクリと頷いた。

「リノと外、歩くときは人の姿になる。こーすれば、話せるから。だから、朝菜と外、歩くときもこーするよ?」

「そうなんだっありがと。じゃ、行こうか?」

 金の瞳と真っ白すぎるワンピースも目立ちそうだと思ったが・・・それは何とか大丈夫だろう。

「・・・・」

 朝菜はいつの間にか微笑んでいた。

 ・・・自分と一緒に外にでるために、そうしてくれるツボミの行為が少し嬉しかった。


 朝菜は夏枝に出かけることを報告してから、庭にでた。

 ツボミと一緒にいるところを見て、翼が何か言いたげにこちらを見ていたが、夏枝にツボミのご飯を買いに出かけることを伝えると、何も言ってくることはなかった。

 そして、朝菜は自転車にまたがる。・・・と、それと同時にツボミは自転車の荷台に当たり前のように腰かけた。

(・・・やっぱりそこに乗るんだ・・)

「・・・はやく行こう。朝菜」

「んー・・・はいはい」

 何も言っても何も変わらないと判断した朝菜は、溜息混じりにそう呟く。そして、いつもよりかなり重くなったペダルを踏み込んだ。


 朝菜は荷台にツボミをのせたまま、自転車をはしらせる。

 街中にはいると、すれ違う人々に見られている気がしてならなかったが無視するしかなかった。

 ・・・朝菜とツボミの間に、一言も会話がないまま・・・自転車は目的地に到着した。

「ついたよー」

 朝菜は荷台に乗ったままのツボミにそう言うと、自転車からおりる。

「うん」

 ツボミはそれだけ言うと、荷台からストンと地面におりた。

「朝菜は、何か、買う?」

「んー・・私は、食べたしいいや」

 そして、朝菜とツボミはコンビニ内に足を踏み入れた。

・・・パンコーナーに足をすすめる。

「あ・・・あった。これでいいかな?」

 朝菜は端の方に並べてあるハンバーガーを手に取ると、隣に立つツボミにそう訊いた。

「これ、ハンバーガー?」

 ツボミは眉をよせる。

 朝菜は即座に頷き、「うん、そうそう」とにこにこしながら言った。

「・・・じゃ、わたしこれ食べる」

「うん、あ、他になにか食べたいものある?」

 ・・・朝菜はツボミが他に注文した、おにぎりやらお菓子、そして、自分用の炭酸のジュースで会計を済ませる。そして、い後ろで待っていたツボミに声をかけた。

「それじゃ、買ったし帰ろうか?」

「・・うん。ありがと。朝菜」

「いえいえー」

(ツボミから、ありがとうなんて初めて聞いたかも・・・)

 もしかして、これは二人の仲が少しはよくなったということなのかもしれない。

 朝菜がそんなことを考えていると、ツボミは突然立ち止まる。そして、彼女は隣のレジで会計をしている黒髪の青年のことを驚いたような表情で見つめていた。

「え・・どうしたの?」

「・・・はやく帰ろう。朝菜」

 ツボミは小さな声でそう言うと、彼の後ろを早足で通り過ぎ、店内からでようとするが、

「ツボミ」

 その人に声を掛けられた。

 ツボミは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 ・・・その表情は、少しだけ怯えているように見えた。

 彼は、小さな財布をズボンのポケットにしまって、穏やかに微笑み言う。

「ツボミ、久しぶりだね?」

「・・・」

 ツボミはそれでも、黙りこくっている。

 朝菜はそんなツボミの様子を見て、とっさに口を開いた。

「えっと・・・ツボミ?知りあいの人なんだよね・・?」

 ツボミは朝菜の問いに、一回だけ頷いた。

(じゃ、何で黙ってるの・・?)

 朝菜は彼の顔を一瞥する。・・・と、彼と目が合った。

「はははっ。大丈夫。いつものツボミだね。・・・ところで、彼女は新しい友だち?」

「あっそうなんですっ・・最近、友だちになって」

 ツボミが応える様子を見せないので、朝菜が代わりにそう言った。

「そうなんだ。ちなみに俺は、コウ。ツボミの双子の弟なんだ。よろしくね」

「!」

 彼─コウは、にっこりと笑って手をさしだしてくる。

「あ・・私、平野朝菜って言います・・・こちらこそよろしくよろしくお願いします・・・」

 朝菜は彼の礼儀正しい挨拶に戸惑いながらも、何とか握手をかわすことができた。

(っていうかツボミに双子の弟なんていたんだ・・)

 ・・・そう言えば、ツボミは自分のことをほとんど話さない。

 朝菜は改めてそのことに気付いた。

「いいよ。敬語なんて使わなくてさ・・・ツボミ、また優しそうな子と契約できてよかったね?」

 コウの言葉にツボミの目がわずかに見開かれた。そして、朝菜もドキリとする。

(“こっちのこと”も知ってるんだ・・・しかも、ツボミと私がパートナーってことも知っているなんて・・・)

「朝菜、わたし早く家帰りたい」

 ツボミはコウの言葉を、当然のように無視して朝菜にそう言ってきた。

「・・・えーっと・・・」

「そうだね。速くしないと遅くなっちゃうしね。・・・気をつて帰ってね。ツボミ、朝菜ちゃん」

 ツボミはコウの言葉が終わらないうちに、そそくさと店内からでてしまう。

 それでもコウは、気にしていないのか穏やかな表情をくずさない。

 朝菜は曖昧に微笑んで「ありがとう」と言うと、踵を返す。そして、ツボミの背中を追いかけて、店内からでた。

 それと同時に、出入り口の近くにとめた自転車の隣に立つ、ツボミの姿が目に留まる。

「─・・・」

 その姿はいつの間にか、スイマのツボミに戻っていた。

 真っ白の髪が微かな夜風に揺れている。

「ツボミ・・・それ、戻しちゃったの?」

 ツボミは朝菜の問いに、コクンと頷いた。

「わたし、先に朝菜の部屋、戻ってる。朝菜も速く、それ、持って帰ってきてね?」

 ツボミは朝菜が手に持つ、コンビニの袋を見ながらそう言うと、真っ白のワンピースをひるがえし近くの街灯に飛びのった。

 そして、隣の屋根に移動したかと思うと、あっと言う間に彼女の姿は視界から消えてしまった。

(・・・どうしたんだろ。急に)

 さっきまでは、自分の隣から離れなかったのに。

 今度はそそくさと一人で帰ってしまった。

(いろいろ訊きたいことあったんだけど・・・)

 朝菜は自転車の籠に、コンビニの袋を入れる。そして、自転車にまたがり、ペダルをこぎ出した。

 ・・・まさか、ツボミに双子の弟がいたなんて。

 しかも、彼はツボミと違い、優しそうな人だった。

 朝菜は彼の顔を思い出す。

(性格は正反対だけど・・・顔の雰囲気は似てたかも)

 朝菜はそんなことを考えながら、ひたすらペダルをこいで家へと急いだ。


 自室に戻ると、ツボミはベッドに腰掛け朝菜の帰りを待っていた。

「・・・お帰り。朝菜」

「・・・ただいまー」

 朝菜はツボミに、コンビニの袋を手渡すと、彼女の隣に腰を下ろす。

 ツボミは、袋からハンバーガーを取り出すと、パッケージをはがしてそれにパクリとかじりついた。

「・・・ツボミって双子だったんだね!私、全然知らなかったよ~」

 朝菜はそのままベッドに仰向けに倒れて、そうツボミに言った。

「朝菜が訊かなかっただけ」

「・・・まぁたしかにそうだけどっ」

 ツボミが無口な上に、自分のことなんて話そうとしないから、ツボミの家族のことなんて訊くきっかけがなかったのだ。

「その弟さんとはよく会ったりするの?」

「・・・会わない。嫌いだから」

「!・・・」

 朝菜はその言葉に起き上がってツボミを見た。

「嫌いって・・・だからあの時、黙ってたの?」

 ツボミはハンバーガーを頬張りながら、頷く。

「・・・」

(・・・だからって一言も話さないのは・・・)

 すると、ツボミは食べることを止め、朝菜を見た。

「朝菜。言っておくけど、嫌いなのはわたしじゃなくて、コウの方だからね?」

「・・・は?」

 朝菜は思わず、眉を寄せる。

 ツボミはそんな朝菜のことを無視して、またハンバーガーを食べ始めた。

「・・・ってことは、コウがツボミのことを嫌いだってこと?」

 ツボミは口をモグモグさせながら、また頷く。

「でも、さっき会ったときはそんな感じしなかったんだけどな・・」

(って言うか、逆にいい人だったっぽいけど・・)

「朝菜は単純だから、分からないだけ」

 ツボミは淡々とそう言うと、食べ終えたハンバーガーのパッケージをクシャクシャと丸める。

「って言うか私、ツボミが思うほど単純じゃないからねっ?」

「おやすみ、朝菜」

 ツボミは小さく丸めたパッケージを朝菜に押しけると、残りの食べ物が入ったコンビニの袋を持って、姿をかき消した。

「・・・はぁ」

 朝菜は最近、くせになりつつある溜息を、また、ついてしまう。

(もっといろいろ訊きたかったのに・・・)

 まぁ、これからも訊く機会はいくらでもあるけれど。

 今の朝菜にとって、ツボミのことを知る最大のチャンスを逃してしまったことは間違いなかった。


 ツボミは舜とリノの家にいた。

 ・・・家と言っても屋根の上。

 ツボミはこの場所に、夏の夜風に吹かれていることが最近、好きだった。

(・・眠い)

 ツボミは、仰向けに倒れて目をつぶる。

 ・・・コウが“こっちの世界”にくることなんて、ほとんどないと思ってたのに。

 もう絶対会いたくないと思っていたのに。会ってしまった。

「ツボミ。またここにいるのねー」

 聞き覚えのある声に目を開くと、リノがツボミの顔を覗き込んでいる。

「うん。ここ好きだから」

 ツボミは眠ることを諦めて、体を起こすとリノを見た。

 彼女の手には、夜の闇に映える大きな白い鎌が握られている。

「あたし、今、仕事から帰ってきたんだけど・・これから、街の方に遊びに行かない?ツボミも暇でしょ?」

 リノは期待のまなざしで、ツボミを見る。

「・・・舜もいるんだよね?」

「今日は宿題やるからいかないって。あたし、一人で遊ぶの嫌なのよ~いいでしょ?」

「・・・」

 舜がいないなら行ってもいいと思ったが、ツボミはうん、と言えなかった。

 だって、また街の方へ行ったらコウと会ってしまうかもしれない。

「わたし、行かない・・・。もうコウと会いたくないから」

 ツボミの言葉に、リノの瞳が見開く。

「え!?ツボミ、コウと会ったの?」

 ツボミはその言葉に、頷いた。

「今日、朝菜とゆーはん買いに行ったら会った」

「あっちゃー・・・どんだけ運が悪いんだか・・・でも、大丈夫だったのよね?今度は何もしてこなかった?」

「うん」

「じゃーよかった!コウがあんなことしたなんて、信じたくないケド・・何か、あたしコウのこと怖くなっちゃった」

 リノは溜息混じりにそう呟くと、ツボミの隣に腰をおろす。

「じゃー今夜はあたしも、おとなしくしてようかなー・・」

 リノはそう言って、夜空を仰いだ。

「・・・」

 ツボミはそんなリノのことを、何となく見る。

 リノと双子の弟であるコウ、そして、ツボミは毎日遊ぶほど仲が良かった。でも、もうそれは昔の話。

「ね・・・リノ」

 ツボミは小さな声で呟く。

 その声を聞き取ったリノは、こちらに振り向いた。

「なに?」

「わたし、朝菜と契約できてうれしかったよ?」

 ・・・あんな契約の仕方をしたのに、朝菜はツボミのことを怒らなかった。

 それに、今でも優しくしてくれている。

 リノはツボミの言葉に、小さく微笑んだ。

「・・・うん。あたしもツボミが契約できたときは、ほんとほっとした。それに、ツボミと朝菜、仲良くやってるみたいだし」

 ・・・夜風がツボミとリノの間を吹き抜けた。

 その風は、サラサラと二人の髪をなびかせる。

「でもわたし、さわのこと忘れたわけじゃないよ?」

 ツボミが独り言のようにそう言うと、リノは少しだけ驚きの表情を浮かべて「分かってる」と言った。

 ・・・爽は、ツボミが初めて契約したムマ。

 彼女はまるで太陽のように明るくて、笑顔を絶やさない人だった。

 ・・・でも、もう爽の笑顔には会えないのだ。

 彼女はツボミの持ってしまった“支障”のせいで、夢に取り込まれてしまった。

 その瞬間、ツボミと爽はパートナーではなくなった。

 ツボミはスッと立ち上がる。

「どうしたのー?」

 リノはそんなツボミを見上げた。

「わたし、眠い」

「そーなの?じゃ、寝たら?」

「舜のベッドかりたい」

「別にいいんじゃない?」

 ・・・今日も夢の世界へ出かけよう。この気持ちにもこの記憶にも誰にも、誰にも邪魔されない。

 もちろん、コウにも。


「お兄ちゃん!何してるの・・!?」

 朝菜はツボミが去った後、部屋の扉に向かってそう叫んだ。

 ・・・翼がのぞきみしているのを我慢するのはもう限界だ。

 朝菜が扉の方を睨んでいると、ほんの少し開いていた扉が一気に開いた。

 そこには苦笑いを浮かべた翼が立っている。

「あはは~何してるって・・・そりゃ・・・何だろうな!!」

「・・・覗き見してたんでしょ!?」

「・・・ごめん!朝菜!」

 朝菜の怒りを感じ取ったらしい翼は、両手を顔の前で合せてすぐにそう謝った。

「・・・」

「俺は朝菜のことが心配なんだよ!」

 翼はそう言いながら、朝菜の隣まで歩みよる。

「・・そんなに心配する必要なんてないから」

 翼が心配してくれることはありがたいが、ここまでされるとさすがに嫌になる。

(・・・って言うか心配しすぎだよ)

「じゃ!もう朝菜はあのスイマと仕事に行かないってことだなっ?」

「─・・・」

 朝菜は翼の言葉にかなりの違和感を持った。

 ツボミとこれから仕事に行かない・・・そんなことは・・・

「それは絶対ありえないと思う」

 朝菜がポツリとそう言うと、翼の表情が一変する。

「なっ!?じゃぁ俺はまだまだ心配せずにはいられないな!」

「・・・はー。私、せっかくツボミと契約したのに、これじゃ意味ないじゃん!」

「あのスイマは普通のスイマと違うんだぞ!?」

「それは・・・分かってるよ!でも、ツボミとの仕事が失敗するって決まったわけじゃないし」

 翼は朝菜の言葉に、より眉間にしわを寄せた。

「いーや!!そんなにあまくないぞ!!まだムマの仕事をやってない朝菜が、あのスイマの支障に手こずらないはずが・・・」

「もう!大丈夫だから!」

 朝菜はそう叫ぶように言うと、ベッドから立ち上がる。そして、翼の背中をぐいぐいと押した。

「私、漢字テストの勉強していといけないから、邪魔しないでね!」

 そして、翼のことを部屋の外に追い出すと即座に扉を閉める。

「・・・」

 翼は何かを叫んだ後、すぐに部屋の前から去ったようだ。

(そうだよ・・・私もムマなんだ。このまま仕事をしないってことは絶対にありえない・・・)

 ツボミはいつものんびりしていて、特にそのことについては言ってこないが、これはあってはならないことだと朝菜は思う。

 ・・・どうにかして“上手くいく方法”を考えなければ。

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