ダブルK.O
街中に一件くらいは、寂れたゲーセンってあると思う。
新しいゲームを入れてはいるものの、大抵台数が少ない。おまけに台自体が古いからレバーが錆び付いてたり、ボタンの押し加減が難しかったりする。
でも、ちょっとケチがついてもここは人気が少なくて居心地の良い空間だったりもする。
授業を残り数時間を残したままで、友達の進也と来ても注意されたことないし。怠惰な時間が流れている感じがたまらない。
そして俺はその自由を謳歌しようと、ゲーセンに備えられたアーケードゲーム攻略雑誌を一心に読んでいた。
なんせ、今日は何が何でも勝たなければいけない日だ。
俺は復習をするように、一ページ一ページをめくる。
時折、傍らに置いた灰皿にタバコの灰を落としてみる。学生服のままだけれど、店番をしているじいさんは何も言わず新聞を読んでいる。
「おい、もういいかよ。こっちは待ちくたびれぜ」
対岸にいる進也からお声がかかる。
退屈加減を物語るかのように、自分の目の前で映っている画面は、進也が30連コンボを決めてK.O勝ちしているところだった。
今日の一戦。宿題二週間分の賭けをしている。ちなみにどちらも頭が悪いから、お互い尽力を出し切るのは当然だ。
「了解〜」
俺は100円硬貨を投入して、キャラを選ぶ。進也が使っているキャラとは相性が悪い。だが、日頃使っている持ちキャラを信用しなくてどうする。いつものお気に入りのカラーで気分は向上している。
勝負は二本勝負。もちろん二本取った方が勝ちだ。
一本目−−開始直後に進也のキャラが急接近。しかし対戦し慣れている俺には予測が出来ている。バックステップで間合いを取り、相手が空振りしたところを即座に小攻撃から大攻撃に、必殺技へと中継して通常技で落とす。進也は焦ったのか、見え見えの防御からのカウンター戦法。俺をそれを逆手に取って怒涛の攻め。圧勝だった。
「ちくしゅう」
「フォッフォッフォッ」
もはや悔しい言葉さえ言い切れない友に、わざとらしい嘲笑を送る。
ただし、俺は一つ忘れていることがあった。
二戦目、攻める俺に対して、相手は攻撃後の隙にすかさず反撃をしてくる。
こいつ追い込まれると凄まじい力を発揮するんだった。
進也の性格を思い知った頃には、俺のキャラが地面に伏していた。
俺は恐怖を感じた。
しかし、それは敗北したからではない。
進也は歓声を上げず沈黙していた。
それがやけに不気味だったのだ。
野郎、本気だ。本気で次を取るつもりだ。
俺は生唾を飲み込んで、次の勝負に賭ける。負けてやれるか。
ファイト!! の合図で飛び掛かる俺。最初からフルスピードでの超接近戦。
だが、巧みに上下の多彩な攻撃をしてるのにも関わらず、進也のガードが崩れない。
どころか俺の超絶レバー捌きが焦燥を原因に、操作ミスを繰り出した。
げっ、と言い漏らした数秒後には体力が半分に。
だが、ここでマイナスに囚われないのが俺。
相手の連携終わりに、硬直したキャラを捕まえて、等価以上のダメージを与える。
お互いに重圧と攻め手を失った錯覚に陥ったようで、距離が詰められなくなった。
飛び技で互いを牽制しつつ、リーチのある攻撃で少量のダメージを与え合う。
だが、このままではラチがあかない。
格闘ゲームに、時間制限があるのが、ゲーセンクオリティー。
目算ではどちらが勝ってるかはわからない。問題はどっちが仕掛けるか……。
迷っていると、進也が来た。指が震えて心臓が爆発しそうだが、ここは乗り切る。
相手の必殺技を二回ガードして距離が離れる。こっから反撃だ。俺はガードを止める。
だが、相手の様子がおかしい。
−−超必殺技。
しまった。選択肢になかった。発動する一瞬だけ無敵時間が存在する。
俺の攻撃は無効化されて、進也の大技が命中してしまう。ダメだ!!
発動した大きな炎の塊が迫ってくる。今の体力では当たれば即死は免れないだろう。
しかし、炎が鼻先で霧散した。
射程距離圏外。
あはははははははは、ざまああああ、隙だらけ。てめえ覚悟しとけよ。ジャジメント、ジャジメント、ジャジメント、ジャジメント、ジャジメント。貴様に引導と二週間分の宿題を渡してやろう。
一発喰らわせて、もう一発
なのに、誰かが俺の肩を叩いた。
邪魔するんじゃない、どうせじいさんだろ。俺は今から、勝者となるんだ。
脇目も振らず肩でどかすようにした。ただ、その反動で違うとこにもエネルギーが生じた。
灰皿から火のついたタバコが股間に。
「わちゃあああああああ!!」
台座から両腕をぶん回すように離して、タバコを払い落とす。
「よっしゃあ!!」
俺の声じゃない。
沈黙していた進也が、勝利の雄叫びを上げていた。画面上で俺のキャラが倒れてK.Oの文字が。
俺は意気消沈して隣を見る。知らないおばさんがノビていた。どうやら、タバコで暴れた時に裏拳がヒットしたらしい。
救いを求めるように、じいさんを見ると両腕で大きなバッテン文字を作ったあと、二の腕を指差す。
俺は嫌な直感を信じて、おばさんの二の腕を見ると、補導員の腕章が。
「はあ……」
俺は苦々しい顔でK.Oの英字を見ながら、もう一服タバコを吹かした。
思ったより、長くなりました(^-^;
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