『ドッキリ』というジャンルが背負う虚構と罪深き業
――哀愁の中堅ピン芸人が踏みにじられた「日常」の記録――
芸能界という光と影が交錯する伏魔殿において、「ドッキリ」ほど人間の生々しい本性を暴き出し、視聴者の嗜虐的な笑いを誘う娯楽は存在しない。
過激な仕掛けが時代の倫理観やコンプライアンスの波に洗われ、徐々に牙を抜かれつつある現代にあっても、ときにそれは一線を超え、人間の尊厳そのものを深く苛む刃へと変貌する。
ここに、ひとりの「中堅ピン芸人」が辿った、悪夢のごとき体験がある。
彼は決して時代のスターではない。しかし、芸という泥臭い荒野を地道に耕し続け、ささやかな幸せと生活の基盤を手に入れた男であった。
男の年齢は四十路。守るべき家族がいた。
慎ましくも愛くるしい、まだ幼稚園に通う幼い娘と、歩き始めたばかりの一歳の息子。そして、日々の暮らしを共に支える妻。
彼らが身を寄せ合うのは、中央線沿線の落ち着いた街並みに佇む、中古の一戸建て住宅であった。
華やかに見える芸能界に身を置きながらも、彼の足元は現実という冷たい大地にしっかりと着地していた。
自宅の住宅ローン審査を通した名義人は、共働きで安定した給与収入を得ている妻である。もちろん彼自身も毎月惜しみなく家計へと資金を組み入れていたが、収入の振れ幅が大きい個人事業主、それも芸能人という不安定な属性ゆえ、銀行の厳格な審査の壁を自身の名義だけで越えることは叶わなかったのだ。
だからこそ、彼は貪欲だった。
どんな地味な仕事であろうと、泥をすするような過酷なロケであろうと、決して選り好みはしない。
「家族の笑顔と、この家を守るためなら何でもやる」
それが、彼の無言の誓いであり、芸人としてのプライドでもあった。
彼の芸風は、巧みな観察眼と繊細な心理描写を武器とした一人コントを主軸とし、ときに軽妙洒脱なトークで客席を沸かせる漫談もこなす。
現在、キー局でレギュラー番組を二本、地方のローカル局で一本、さらに準レギュラーを三本。深夜帯ではあるが、長年愛されている自身の冠ラジオ番組を週に一本抱え、大手企業のCM契約も二本保持していた。
浮き沈みの激しいお笑い界において、四十代にしてこのポジションを維持していることは、中堅ピン芸人として「極めて恵まれた、手堅い成功を収めた環境」と言って差し支えなかった。
だが、その平穏な均衡は、あまりにも唐突に破られることとなる。
その日、彼は所属事務所からの指示を受け、慣れ親しんだ都内キー局へと足を運んでいた。
幾度となく通り抜けたエントランス。顔馴染みのディレクターや多忙そうに走り回るAD、廊下ですれ違う芸能人たちと笑顔で挨拶を交わしながら、指定された小さな打ち合わせ室へと入る。
約束の時間まではまだ十数分の猶予があった。彼は鞄から使い古したネタ帳を取り出し、思考の海へと潜り込んだ。
たとえ自分自身の単独ライブで使わなくとも、後輩の芸人にアドバイスとして提供したり、番組のちょっとした合間で披露できるかもしれない。業界で生き残るための手抜きなき準備――それこそが彼の生命線だった。
やがて、カチャリとドアが開き、顔馴染みのベテランディレクターが入室してきた。
彼は即座にネタ帳を閉じ、弾かれたように立ち上がって深々と頭を下げた。
どれほどキャリアを重ねようとも、横柄な態度を取れば一瞬で噂が広まり、表舞台から干されるのがこの世界の鉄則である。身に染みついた礼儀正しさでディレクターを迎えた。
「待たせて悪いね、○○君!」
「いえ、滅相もありません! ネタのアイデアを整理していただけですから」
ディレクターは親しげに笑いながら椅子に腰掛け、本題を切り出した。
「いやね、今日呼んだのは他でもないんだ。少し先の話になるんだが……秋の改編期、うちの局でゴールデン帯に放送する連続ドラマがある。その主演を、君に張ってもらおうと思ってね」
「……えっ?」
ディレクターが放ったその言葉は、彼の脳内を一瞬で真っ白に染め上げた。
バラエティのひな壇でガヤを入れることや、ドラマの単発ゲストとして一シーンだけ顔を出すような仕事なら理解できる。だが「連ドラの主演」となると、話のスケールが根本から異なってくる。
近年ではお笑い芸人がその表現力を買われ、NHKの大河ドラマや映画で主要な役柄に抜擢されるケースも珍しくはない。しかし、いざそれが自分自身の身に降りかかってきたとなると、胸の奥から湧ききあがる激しいざわめきを抑えることができなかった。
「自分、ですか……? 正直、決してイケメンとは言い難い顔立ちですが……本当に自分で良いんでしょうか?」
恐る恐る尋ねる彼に対し、ディレクターは煙に巻くようなニヤリとした笑みを浮かべた。
「ハハハ、イケメンだけを揃えて視聴率が取れるなら、テレビ局は苦労しないよ。宝塚の舞台じゃあるまいし、リアルな人間ドラマが求められているんだ。美形を揃える耽美な世界、アレは幻想だから美しい」
そう言われれば、確かに一理あるのかもしれない。世間を驚かせる話題性のあるキャスティングとして、自分が選ばれたのだろうか――ほんのわずかな自負と期待が、彼の胸をかすめた。
「でね、気になるドラマの内容なんだが……昨今、BLというジャンルが世界的に大ヒットしているのは知っているよね?」
「BL、ですか……。韓国のドラマやネット配信サービス、漫画などで若者を中心に流行しているというのは、耳にしたことがありますが……」
「それだよ、それ! 今はLGBTQ+の多様性が尊重される時代だからね。我が局としても腹を括って、地上波の王道枠で本格的なBL作品に挑戦しようって決定したんだ」
このあたりから、彼の背筋に冷や汗が伝わり始めた。胸を騒がせるのは期待ではなく、明らかな「嫌な予感」だった。しかし、長年培ったプロとしての習性が、打ち合わせの途中で席を立つことを拒ませる。
「君の役どころはこうだ。ごく普通の、ノンケのサラリーマン。それがひょんなことから、強烈な魅力を持つハードゲイの男に目をつけられ、翻弄されながらも、徐々に『アッチの世界』へと深く染まっていくという愛憎劇だ」
「……あの、ディレクター。アッチって……具体的にドッチですか!?」
彼の額からは、すでに油汗が噴き出していた。問いかける声がわずかに震える。
「君、後ろの経験は?」
唐突すぎる突飛な問いかけに、彼は反射的に後ろを振り返った。しかし当然ながら、そこにあるのは殺風景な打ち合わせ室の白い壁だけである。
「後ろって……壁のことですか?」
「何を言ってるんだ。既婚者なんだから、童貞じゃないだろ? 奥さんに後ろを責められた経験はあるか、って聞いてるんだよ」
あるわけがない。彼の妻は、慎ましくも極めて常識的な女性である。夜の営みにおいても、ごく一般的な体位以外は恥ずかしがるような純朴な人柄なのだ。
「いやいやいや! あるわけないじゃないですか!? 後ろって……自分の、ここ(お尻)のことですか!?」
自身のお尻を指差しながら、必死の様相で確認する。ディレクターは当然のように頷いて見せた。
「だからこそだよ。撮影に入るまでに、しっかりと『拡張』してもらわなきゃ困るんだ」
ディレクターは足元に置いていた大きな紙袋を取り出し、テーブルの上に置いた。そして、その中から高級感漂う重厚なアルミケースを取り出し、カチリとロックを外して中身を彼に見せつけた。
そこには、黒々と光沢を放つ、不気味な棒状の物体が整然と並んでいた。
「な、何ですか……コレは……!?」
「拡張用のエボナイト製スティックだよ。直径3ミリの極細サイズから始まって、最大は30ミリまである。この十段階のステップを順番に自身に挿入して、撮影開始の二ヶ月後までにしっかりと拡張を終えておいてほしい」
彼は絶句した。
長い芸人人生において、無人島でのサバイバルや、猛獣との対面、危険なリアクション芸など、数々の過酷な橋を渡ってきた自負があった。しかし、これほどまでの恐怖と底知れぬ冷や汗を全身から噴出させた経験は、過去に一度としてなかった。
「さらにだ! この30ミリの棒を日常的にクリアできるようになったら、次はこいつの出番だ!」
ディレクターは紙袋からさらに大ぶりなパッケージを取り出した。
「最新型の電動極太バイブレーション! USB Type-Cでの急速充電に対応している優れものだ! こいつの刺激に耐えられる身体になれば、本番の撮影でも痛い思いをせずに済むからね」
「………………痛い思いって……。ひょっとして、自分が『掘られる側』なんですか……?」
青ざめた顔で絞り出すように尋ねる彼に、ディレクターはあたたかい笑みを浮かべ、ポンと肩を叩いた。
「安心してくれ」
その言葉に、ほんの一筋の光明を見たような気がした。「なんだ、やはり演技の指導か何かの冗談か」と安堵しかけた彼に、ディレクターは容赦のない現実を突きつける。
「君が『掘る側』になるハードな濡れ場も、当然タップリ用意してある。そこは安心してほしい。ちなみに、共演者全員に専門の病院で事前検査を義務付けるから、性病なんかの心配は一切不要だ!」
別の意味で、まったく安心などできない。
「こいつ一式は預けておくから。二ヶ月間で完璧な体に仕上げてきてくれよ。頼んだぞ!」
ディレクターは紙袋を彼の手に押し付けると、嵐のように打ち合わせ室を去っていった。
残された彼は、手元にある重く禍々しい紙袋を見つめたまま、茫然自失の態で立ち尽くすしかなかった。
手に持っているだけで自身の倫理観と尊厳が崩壊していきそうな危険物を抱え、彼はトボトボと局を後にした。
(オレは……一体どこに向かっているんだろう? 役者としての大化けか? それとも芸人としての死か……? そもそも、妻になんと説明すればいいんだ……?)
夕暮れ時の街を歩きながら、頭の中でグルグルと深遠かつ不条理な哲学的思考に耽っていた、その時である。
「すみませーん、ちょっとよろしいですか?」
不意に声をかけられた。
振り向くと、そこにはピンと背筋を伸ばした二人組の制服警察官が立っていた。
本来、彼は警察官という職業に対して強い親近感とリスペクトを抱いていた。親族に警察関係者がいたこともあり、日頃から街で見かければ感謝の念を抱くほどであった。
しかし――「今」この瞬間だけは、世界で最も出会ってはならない存在だった。
警官A:「お忙しいところ恐れ入ります。ちょっとお話よろしいでしょうか?」
警官B:「この付近で最近、不審者の目撃情報がありましてね。念のため確認させていただいています」
警官A:「よろしければ、いくつか簡単な質問にお答えいただけますか?」
(マズい……マズすぎる……!)
彼の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、脈拍は跳ね上がった。
警官B:「お手数ですが、手に持たれているその大きめの紙袋の中身、確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
芸人:「い、いや……その、これは……ですね……」
額からどころか、顔全体の毛穴という毛穴から滝のような冷や汗が吹き出していた。動揺を隠しきれず、視線を泳がせる彼の姿は、警察官の目には「絵に描いたような不審者」そのものとして映っていた。
警官A:「……何か見せられない問題でもおありですか?」
(問題しかありません……!)
左右を警察官に挟まれ、逃走など不可能な状況。追い詰められた彼は、観念したように震える手で例の紙袋を警察官へと差し出した。
警官Bが袋の中を覗き込み、アルミケースと不気味なパッケージを取り出す。
警官B:「これは一体なんです? このケースに入ったモノは……?」
芸人:「……拡張する道具です……」
警官A:「拡張……? パソコンの端子か何かですか?」
芸人:「いえ……後ろの……その、自分のお尻の拡張です……」
要領を得ない、あまりにも奇妙な説明に、警察官二人の表情が一気に硬化した。周囲の空気が一凍りする。
警官B:「中身を詳しく確認しますよ!」
パチンとアルミケースが開けられた。夕闇迫る街頭の下で、滑らかに研磨された10本のエボナイト棒が、鈍い光を放ちながらズラリと並んでいた。
警官A:「これは……! あんた、こんな怪しげな棒を、一体何に使用するつもりだ! 正直に言いなさい!」
芸人:「だから! 後ろの拡張なんですって! ドラマのディレクターに『二ヶ月で30ミリまで仕上げてこい』って命じられて……!」
パニックに陥った彼の弁明は、客観的に聞いて支離滅裂そのものだった。
警官B:「主任……! これを見てください! 箱の底から、こんな凶悪なモノまで出てきました!」
警官Bが紙袋の奥から取り出したのは、先ほどの電動バイブレーションであった。充電式ゆえのずっしりとした重厚感、そして極太で卑猥なフォルムは、日常の穏やかな街並みの中において、あまりにも不穏で禍々しい存在感を放っていた。
警官A:「君……! この恐ろしい道具を使って、一体誰を襲うつもりだ!? 街の女性か!? この近くには、女子大と女子高まであるが、まさか?」
芸人:「自分っす!! 自分に挿すための道具なんです!! 頼みますからホント勘弁してください!!」
まさに生き地獄のような羞恥プレイであった。
夕暮れ時の駅前、行き交う一般市民や会社員、学生たちが、「警察に職務質問され、怪しげな大人のおもちゃを次々と路上で公開されている男」を好奇と軽蔑の目で見つめている。
警官A:「……これ以上ここで話すわけにはいかないな。署まで同行してもらおう」
警官B:「主任、念のため応援のパトカーを要請しました!」
芸人:「嘘でしょ!? 勘弁してください! ホントに仕事なんです!!」
警官A:「どこの世界に、尻を拡張する仕事があるんだ?」
彼の必死の懇願も虚しく、赤色灯を回転させたパトカーが滑り込んできた。彼は後部座席へと押し込まれ、最寄りの警察署へと連行されてしまったのである。
警察署の取調室。殺風景な部屋で彼を待っていたのは、醸し出す雰囲気が本物の極道と見紛うばかりの、強面のベテラン刑事であった。
そこから始まったのは、実に三時間にも及ぶ執拗な取り調べであった。
「なあ……正直に言えよ。本当は誰かを待ち伏せて、これを使おうとしてたんだろ?」
「違います! ディレクターなんです! テレビ局の打ち合わせなんです!」
「ディレクターが自分のお尻を拡張しろなんて言うわけないだろ! バカにしてるのか!」
どれほど真実を訴えても、警察官たちの疑念が晴れることはなかった。話が一切噛みみ合わないまま深夜に及び、彼はついに署内の拘留施設(留置場)へと収容されることとなった。
冷たい畳の上に横たわりながら、彼の脳裏には暗黒の未来予想図がめまぐるしく駆け巡った。
(終わった……俺の芸人人生は、これで完全に終わったんだ……)
【番組全降板】 警察に拘束されたという事実だけで、レギュラーも準レギュラーもすべて打ち切りになるだろう。
【CM違約金】 契約中の大手企業二社から、イメージ失墜による莫大な損害賠償を請求される。数千万円、いや数億円か……?
【謝罪会見】 報道陣のフラッシュを浴びながら、「お尻の拡張道具を持ち歩いていた件について」頭を下げて謝罪する自分の姿。
【住宅ローンの破綻】 収入がゼロになり、妻の名義で組んだ自宅のローンが払えなくなる。せっかく手に入れた一戸建ては競売にかけられ、家族は路頭に迷う……。
自責と恐怖、そして申し訳なさで胸が押し潰されそうになり、彼は一睡もできぬまま、絶望の夜を明かした。
翌朝。重い鉄格子が開き、昨日の強面刑事が険しい表情で現れた。
刑事:「……所轄での取り調べは以上だ。これから本庁(警視庁)へ身柄を護送する。準備しろ」
芸人:「刑事さん! お願いです、信じてください! オレ、本当に何も悪いことなんてヤッてないんです!!」
涙目で縋り付く彼に対し、刑事はふっと哀愁を帯びた目を向け、ポンと肩に手を置いた。
刑事:「……分かってるよ。お前がまだ、誰も傷つけていない(ヤッてない)ことぐらいな。……だがな、これからヤルつもりだったんだろ? 未遂の段階で捕まったのは、ある意味救いだ。まだ人生やり直せる。諦めるなよ」
芸人:「全然分かってないよ!! あんた何も理解してない!!」
絶望の絶頂の中、手錠をかけられた彼は、警察署の裏口へと連れ出された。そこに待機していたのは、黒塗りの護送車。
一歩踏み出し、車内に押し込まれそうになったその瞬間――
「どうもぉ~~~ッ!!!」
けたたましい大声とともに、物陰から勢いよく飛び出してきた者たちがいた。
それは、彼もよく知る若手のお笑いコンビ芸人だった。
彼らの手には、派手なピンク色で彩られた『ドッキリ成功!』と書かれた巨大なフリップ掲出ボードが握られていた。
「大成功~~~!! ○○さん、お疲れ様でした――っ!!」
ネタバラシの瞬間だった。
警察官も、強面の刑事も、警察署の建物も警視庁から借り受け、すべてはテレビ局が巨額の予算を投じてセッティングした「完璧な大仕掛けのロケセットとエキストラ俳優たち」だったのだ。
状況を理解した瞬間、彼の膝からサーッと力が抜け、そのままコンクリートの地面へと膝から崩れ落ちた。
安堵なのか、虚脱感なのか、それとも込み上げる怒りなのかすら分からない感情が彼を支配し、ただ呆然と空を見上げるしかなかった。
後日、この一連のドッキリの一部始終は、改編期の特番として全国ネットで盛大に放送された。
VTRの中の彼は、あまりにも真面目で、真剣に家族と仕事のことを考え、苦悩し、惨めに警察官へ哀願していた。
スタジオは爆笑の渦に包まれたものの、放送終了直後から、番組公式HPや放送局のコールセンターには視聴者からの抗議電話が殺到することとなった。
『いくらバラエティでも一線を超えている』
『真面目に生きている芸人を精神的に追い詰めすぎていてかわいそうだ』
『人の尊厳や家族のローンをネタにするなんて不快極まりない』
視聴者の倫理観が急速に変化している現代において、ターゲットの人生そのものを揺るがすような過激なドッキリは、笑いを超えた「悪質さ」として受け取られたのである。
『ドッキリ』というジャンルは、人間の偽らざる素顔を暴き出し、予測不能のドラマを生み出す最高のエンターテインメント(功)であると同時に、ターゲットとなった人間の心に深いトラウマを刻み込み、日常の平穏を容赦なく破壊する刃(罪)となり得る。
それから月日が流れた今も、彼の手元には、あの打ち合わせ室で渡された「エボナイト棒のセット」と「充電式電動バイブ」が残されている。
返却する機会を失ったまま、自宅の押し入れの奥深くにひっそりと保管されているその禍々しい道具たちは、彼が芸人として生きるために差し出した「尊厳の代償」であり、今日も静かに、現代メディアが抱える業の深さを物語っている。




