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Ascension  作者: John B.Rabitan
第2部 並行世界
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9 真の救世主

 婆様は依然と、にっこり笑ったままである。

 そして言った。


「皆さんはそれぞれ、忙しい毎日を送っていると思います。でもその中の五分でもいいから、静かなところでゆっくりと自分と向き合う時間を作ってください」


「坐禅でもいいですか?」


 悟が急に顔を挙げた。


「ええ。坐禅でも瞑想でも、形はどうでも構いません。とにかく静寂の中で静かに自分と向き合う時間を作るといいのですよ。自分は何者なのか、自分は何がしたいのか、つまり本当にしたいことは何なのかと自分の魂に問いかけてください。そして内なる自分の声に耳を傾けます。最初は何も聞こえないかもしれませんけれどそのうち微かに、心の中で声がするようになります。耳に聞こえる音ではありません。心に響く声です」


 皆、無言でうなずいた。


「そしてこれはできればですけれど、なるべく自然を感じられるところで行ってください」


 今度は皆、顔を見合わせていた。婆様はそんな様子を見て笑った。


「何も山の中へ出かける必要はありません。自分の部屋でも、庭の木々の様子や空の様子が目に入ればいいのです。そしてなるべく、日常的にそんな自然と接するようにしてください」


「たしかに、僕らが住む町は都会に比べたら自然が豊かだと思います」


「ここほどじゃないですけど」


 島村先輩の言葉も、それに余計なひと言を付け加えた悟の言葉にも、婆様はにこりと笑った。


「ただ、これからは意識して自然と接してください。おうちの庭の草や木にそっと手を触れてみるとか、空を見上げて雲の形を見るとか、そんな些細なことでいいので、毎日意識して自然と接してください」


「そうすれば、内なる声を聴く力も増していくということですね」


 杉本の言葉に、婆様はにっこりうなずいた。


「そうです。心の声というのは何かを瞬間に察する閃き、いわば直感力です。それを信じてください。何か行動するにしても頭の中で理屈で考えないで、最初に思った直感通りにしましょう。感覚が研ぎ澄まされた人の直感とは、それが高次元からのメッセージであることが多いのです。その次に“でも”、“しかし”、“そんなこと言ったって”、“現実的には”などという考えが頭の中をめぐって、最初の閃きを無視してしまう、それは本当にもったいないことです。“でもやっぱりなあ”ってあとから考え直すのは、妖魔のささやきだったりしますよ」


 妖魔というひと言に、何人かは少し怯えた表情を見せた。


「いずれにせよ、閃き通りに行動することです。そうしたら運が開けてきます。物事がスムーズに動くようになります。つまりは、肉体としての脳を通さないで行動することです。これ、秘訣ですね。そして自然と意識して接すると、自然とのシンクロニシティーを感じるようになります。ふと目にした数字に共感を覚えたり、やたら同じ数字ばかり見るとか、ゾロ目ばかりに出くわすようになるとか。それらも高次元からのメッセージなのですよ」


 にこにこ顔で話す婆様の言葉は、それだけで説得力がありそうだ。それでも、話の内容には少し首をかしげているメンバーもいる。婆様はそれをも見過ごさない。


「なぜ自然と接することによってシンクロニシティ―が増えるのかといいますと、実は今地球の自然はすでに波動の周波数の上昇が始まっています。つまり、次元が上昇し始めているんですね」


 そして婆様は、ちらりと自分の孫である青木先生を見た。先生はうなずいた。そして婆様に代わって口を開いた。


「地球が発する波動には一定の振動数があるんだ。いわば地球の呼吸のようなものでそれをシューマン共振とかいうんだけど、だいたい7.83Hzで一定していた。でもそれが」


 先生は婆様を見た。婆様がその先の言葉を受け継いだ。


「ここ最近、その波動周波数がどんどん上昇している」


 その時、谷口大翔(はると)のポケットから、ペンが転がり落ちた。隣に座っていた佐藤新司がそれに気づいて、ペンを拾って大翔に渡した。


「あ、サンキュー」


 大翔はほんの小声で、新司に言った。だが、婆様はすぐに反応した。


「些細なことにもすぐに感謝の言葉を述べる、谷口さんは素晴らしい感謝の人ですね」


「え? ま。い、いやあ」


 最初はいきなり初対面の婆様から名前を呼ばれた大翔はそれに驚いていたが、すぐに褒められたことへの照れの笑いに変わった。婆様もニコニコしている。


「でも、できればサンキューではなく、日本語ではっきりとありがとうと言った方がいいですね」


「日本語でですか」


 大翔が少し首をかしげた。


言霊ことだまのエネルギーが違います。日本語は言霊のパワーが一番強く出る言語なんです。それで感謝の意が一番強く伝わるのです」


「何となくそれ、わかります」


 意外にも最初にうなずいたのは、エーデル先生だった。


「日本語は難しい、でも素晴らしい言葉です」


 それを聞いて、婆様も満足げにうなずいた。


「やはり、感謝が大事ですよね」


 島村先輩も付け足す。


「その通りです」


 穏やかに婆様も言った。


「感謝は人間関係のもといです。人間だけでなく高次元との関わりも、軸になるのは感謝です。次元上昇するためには、感謝の人になりきることが必要不可欠の要素です。でも…」


 婆様は一度言葉を切った。


「でも、ここでいう感謝は人間関係のマナーやモラル、ひいては宗教の人たちが強調する感謝だけではないのです。どの宗教もたいてい感謝の大切さは説いています。ただそういう宗教的な話ばかりではなく、『ありがとう』『ありがとうございます』という言霊には特に強いエネルギーが込められているんですよ。『ありがとう』という日本語の言霊を発したときに、その周囲の波動エネルギーの周波数が上昇するんです。だから、みんなが幸せになります。周囲の波動を高め、自らの周波数をも高めるんです。これは比喩ではないですよ」


「周波数って、さっき言ってたなんとかヘルツっていうあれですか?」


 チャコが質問した。婆様はうなずいた。


「そうですよ。波動の起こす振動を数値化したものです。そのあたりのことはうちの拓也に、あとでよく聞いてください」


「たしかに。それに青木先生はふつうの理科の先生では教えてくれないようなこともたくさん教えてくれました。去年ここに来た時も、宇宙の驚くような真の姿を教えてくれましたし」


「そうですか」


 悟の言葉に、婆様は笑っていた。青木先生も少し照れたようにしている。杉本が顔を挙げた。


「え? そうなんですか? 僕は授業でした青木先生のお話を聞いたことがなかったので」


 たしかに杉本は、去年の夏に男子だけでここに来た時は、まだ超古代文明研究会のメンバーではなかった。


「先生。僕にも聞かせてくださいよ」


「私たちにも」


 女子を代表してチャコも言った。


「まあ、追々と」


 青木先生はこの場ではそれだけ言った。


「とにかく、」


 婆様の話に戻る。


「感謝の人になりきることです。いいことばかりではなく、一見悪いことに見えることでもすべてがよくなるための変化あるのみですから、ただひたすら感謝です。人知ではものごとの良し悪しは判断できません。いえ、ものごとに良し悪しなどないのです。すべてが善なのです」


 婆様の話は、本当に違和感なくすーッと入ってくるから不思議だ。


「何ごとにも一切徹底感謝を続けていけば、そのうち感謝せざるを得ないような嬉しいことしか起きなくなってきます。では、感謝していない状態ってどういう状態ですかね。感謝の反対語はなんだと思いますか?」


「不平不満ですか」


 悟が恐る恐る言う。婆様は二回ほど軽くうなずいた。


「そう思うのが普通ですね。でも昔、ある人が『愛の反対は憎しみではない。愛の反対は無関心だ』って言いました」


「あ、その言葉知っています」


 美貴が顔を輝かせた。婆様はうなずいた。


「そうですね。この言葉は有名です。でもそれが、感謝についても言えるのです。感謝の反対語は不平不満ではありません。感謝の反対はそれが当たり前だと思うことです」


「ああ」


 皆が驚きの声を挙げた。


「皆さんは中学生くらいでしたかね、あのコロナ禍の時を思い出してください。あの時はそれまで当たり前にできていたことができなくなった。当たり前のありがたみをしみじみと感じられたのではないでしょうか」


 皆が大きくうなずいていた。


「もともと『ありがとう』という言葉は『有りがたし』、つまり”有ることが難しい”、“滅多にない”、“珍しい”ということを現していたのですね、昔の日本語では。つまりは当たり前ではない滅多にないことを“有ることが難しい”、つまり『有り難し』と言っていたわけですよ。それが“当たり前ではない”、“滅多にない”ことに対する感謝を表す言葉へと変化して『有り難し』から『ありがとう』になっていったのですね」


「なるほど、そうなんですね」


 特にチャコが大きくうなずいた。


「これも、学校の国語の先生でもそんなところまでは教えてくれません。ただ『ありがたし』という古文単語は『滅多にない』という意味だから覚えろと、ただそれだけです」


「でも皆さんは、もっと深い意味まで知ることができましたね。例えば電車に乗るときは運賃を払いますよね。それを、お金を払ったのだから電車に乗る権利を得たと、今の多くの人は考えているのではないでしょうか。でも本質は、電車に乗せていただく、その当たり前ではないことに対する感謝、その感謝を形に表すのがお金を払うという行為なのです。物を買う時でも同じです」


「いや、そういうふうに考えたことはなかったですね」


 杉本が驚きの声を挙げたが、他のみんなもそれにうなずいていた。


「あともう一つ。先ほど、日本人の場合は日本語で『ありがとう』と言った方がいいと言いましたけれど、よく“すみません”って言う人いますね。あれはなるべく避けた方がいいですね」


 誰もが「ん?」という顔をした。


「高次元界のうちの四次元ハセリミ界、と言いましても皆さんには難しいかもしれませんので仮に神霊界と言っておきましょう。その神霊界を統べるいわば天帝のようなお方、国祖の神といってもいいでしょう、そのお方を『ス』という言霊で表現します。“すみません”だと“『ス』を見ません”、“すいません”も“『ス』いません”となり、『ス』への反逆か否定に通じる言霊なんですね。ですから、これを使うと運勢が悪くなるんですよ」


「では、何と言えばいいのですか?」


 悟が聞く。


「感謝を表すときは、先ほどから申しております『ありがとう』『ありがとうござます』と言えばいいのです。謝るときは『ごめんなさい』『申し訳ありません』、お店で店員を呼ぶときも“すみません”ではなく、『お願いします』と言えばいいのですね」


「皆さん、冷たいものでもいかがですか?」


 そこへ青木先生のお母さんが冷たい麦茶を人数分グラスで運んできてくれた。


「あ、すみませ」


 そこまで言いかけて、島村先輩は慌てて口を押さえた。


「ありがとうございます」


 すぐにそう言い直したので、皆も口々に「ありがとうございます」を連発した。冷房が入っているとはいえ、夏の夜の冷たい麦茶は本当にありがたかった。


「さあ、水分補給もできたところで、皆さんにお願いがあります」


 少しいろいろと互いに婆様のお話しの感想などを言い合っていた俺たちは、また静まり返って婆様を見た。婆様はまだにこやかに笑んでいる。


「これから宇宙が大転換期を迎えるにあたって、いろいろな現象が起きてきます。それがいつ、どこで、どんな形でというのは重要ではありません。それよりも、何が起こっても決して恐怖に感じないこと、さっきも申しました通り一切がよくなるための変化あるのみです。変化を恐れないでください。恐ろしいのは何が起こるかではなく、起こったことで人類が恐怖と不安にい陥ることです。何が起こっても『自分は護られている』『自分は導かれている』と宣言してください、一切の恐怖と不安を手放す準備をしてください」

 

 みんな、うなずいていた。


「そしてそれだけでなく自分の過去の、一切のトラウマや罪の意識、こだわり、思い込み、これらをみんな断捨離するのです」


 何人かはどうも浮かない顔をしていた。


「今、理解できなくても大丈夫ですよ。頭で理解しようとか、覚えようとかしないでください。頭で覚えるより、魂に刻むのです。魂に刻み込んでおけば、脳は忘れていても必要な時に直感で思い出すことができます。魂が教えてくれるのです」


 やっと安心したかのように、これで全員がうなずいた。


「捨てるべきことは、自分で自分を縛っていた戒律のようなものですね。こうあるべきとか、こう生きなさいって誰かから言われたとか本で読んだとか、あるいは自分がこれまでこうだと持ってきたことが実は自分の勝手な思い込みだったのではないかとか、そんな小さな模索が人生を大きく変えていきますよ。それと、今まで刷り込まれてきた古いモラルや価値観。そういったものが時代遅れになっているものもあります」


「たしかに。昭和の常識は令和の非常識なんて言葉もありますね」


 島村先輩が言った。婆様はうなずいた。


「そうです。でも、世間で言われている以上に今ではもう古くて、きたるべき大変革にそぐわないのに人々が固執していることはたくさんあるんですよ。例えば汗水たらして長時間働くのが尊いと思う勤労の美徳とか、努力の価値とか、経済的に潤っている者が豊かさを手に入れているという考え方とか、会社で高い役職に就くのを出世と思ってそれがか勝ち組だと思うとか。でもそういった古い価値観は崩壊しつつあります。特に皆さんのような若い世代の方々を中心に」


 やはり思い当たる節があるようで、みんなさらにうなずいていた。


「これだけは言っておきましょう。そういった古い基準で人間の価値は決まるものではないのです」


 そのあと、すぐに婆様はでは何かといってくれると期待して待っていたが、しばらく間があった。

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