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Ascension  作者: John B.Rabitan
第2部 並行世界
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2 柏木南高校の日々

 気がつくと、俺は教室にいた。

 通常の形態の教室ではなく、文化祭の展示場となっている教室だ。

 俺の記憶は瞬時に、この世界でのそれまでと繋がった。

 俺たち超古代文明研究会の展示のパネル展に、文化祭実行委委員長初め、委員たちが集団で乗り込んできたのだ。

 「ピラミッドパワーや古代ピラミッドについての研究発表」という展示申請内容とは違うことをしていると、いちゃもんをつけてきたのだった。「この部の展示の中で交霊術みたいなことをやって見せてる」というのだ。

 そして最初に目についたのが、乗り込んできた委員たちも、この展示場にいた俺の仲間も全員がマスクをしていたことだ。

 俺は椅子に座っていたが、ゆっくりと立ち上がった。俺もマスクをしていた。

 委員たちと向かい合って立っているのは、この超古代文明研究会のメンバー。それは俺にとって魂のレベルでわかり合っている仲間、光の戦士(ライトワーカー)たちだ。

 だが、みんな若い。俺の知っている彼らよりも少なくとも五、六歳は若かった。みんな高校の制服を着ているのが違和感だ。

 そして、ついさっき天応山の上で別れてきたばかりのチャコもいる。いや、あの、高校教師のチャコではない。同じチャコなんだけれど、女子高生のチャコだ。


 俺は立ち上がって、文化祭実行委員たちの方へ歩いて行った。先頭で相手をしていたのは松原悟君。いや、この世界では悟と呼び捨てにしていたな。たしか島村陽太(ひなた)先輩が引退した後、彼が部長だった。だが、藤村結衣として存在していたはずのケルブはいない。

 そして実行委委員長の背後にいた現代文化研究会の城田さんが俺を見る。俺はこの人の正体をすべて知っている。その魂がどこから来たのかも。

 その城田さんは、俺を見るとハッとした顔をして、元気なさそうに委員長の腕を引いた。


「もういいです。帰りましょう」


 委員長も怪訝な顔をしていたが、城田に引っ張られるように委員たちを促して俺たちの展示場を後にしていった。

 俺の隣にチャコが来た。


「ねえ、なんかさ、あのどす黒いオーラも、妖魔たちも瞬間に消えたのよね」


 不思議そうに去っていく委員たちの後姿を見ながら、チャコは言った。俺は聞いてみた。


「ケルブは?」


「は?」


「藤村だよ、藤村結衣」


「誰、それ?」


 俺は心の中でうなずいていた。そういうことかと思う。実際この前に異世界空間で行われていたケルブと城田、つまりマステマとの壮絶バトルを俺は見ている。

 ケルブがこのように痕跡を残さずに消えるのには、俺はもう慣れていた。

 前部長の島村先輩が、そんな俺の近くで大きく息をついていた。



 俺にとって、二度目の高校生活が始まった。

 なにしろ大学生、そして教員の記憶を持ったまま高校生に戻ったのだから、勉強に関しては何の問題もない。

 自分の専門教科の歴史総合や地理などは、俺が代わって授業をしたいほどだ。俺が進んだのがもし市立文系なら理数系で苦労したかもしれないが、国立大なので共通テストを受けた記憶はまだそのまま残っている。

 だから、理数系も問題ない。

 ついこの間までは高校生たちを前に教壇に立っていた俺が、高校生として教師の授業を受けている。ただ、思っていたよりも違和感がなく、すんなりと入ってしまっていた。ただ高校生になったというわけではなく、昔の自分に戻ったのだから違和感も少なかったのかもしれない。


 そんな感じで適当に授業は受け、放課後は超古代文明研究会の部室へという毎日となった。

 俺にとっては新しい環境とはいえ一度は通ってきた馴染みの環境だが、ただあの文化祭以降はまだ経験していない過去なのだ。

 部室には前部長の島村陽太(ひなた)先輩も、もう引退したにもかかわらずに毎日顔を出している。ほかのメンバーは来たり来なかったりだ。

 それもそのはずこの部活は、部を存続させるための書類上の正規メンバーは三人だけ、あとは部員非部員の区別はない。入部、退部の仕組みは存在しないし、いつも顔を出すメンバーが部員のような感じとなる。

 あの文化祭以来、同じクラスの杉本大樹君、彼のことも杉本と呼び捨てにしていたが、顔を出すようになった。

 いなくなったのは藤村結衣、つまり高次元存在が肉体を物質化させて存在していたケルブだけだ。

 ときどき、顧問の青木拓也先生も顔を出す。この時の青木先生って、まだ新米だったんだなと気付く。


 とにかくクラス全員が、いや町行く人々もすべてがマスクをしている世界だ。マスクなど誰もしていない世界から、俺はいきなり来たのである。かつては俺もこの全員がマスクをしている世界にいたわけだが、ずっと誰もマスクなどしていない世界にいたものだから余計に全員マスクが異様に感じる。

 この世界からマスクなどしていないあちらの世界に行った当初は、この世界の記憶は持って行っていなかったから誰もマスクをしていないことを異様には感じなかった。だが今は、向こうの世界の記憶を持ってこちらの世界に来ている。

 今にして思えば、あちらの世界ではマスクをしなければならない原因の感染症のパンデミックもなかったということになる。これも、ケルブが言っていた一種のずれ、ゆがみなのだろうか?


 そんな日々の中で、俺はどうにも悩むことが一つあった。

 青木先生を含め、この部室に集うメンバーはまだ、自分の魂の本質を知らずにいるのである。ただ、それぞれが何かしらの異能を持っているが、一般の生徒たちからは認知されていない。だからこそ、クラスのみんなやほかの生徒からは、この部活は中二病者の集まり、つまり「中二研」と陰口をたたかれてたりする。

 ただ、俺だけがこのメンバーたちの魂の本質を知っているし、過去世も知っている。そしてその使命をも知っている。

 果たしてそれを彼らにちてきかせ言って聞かせ伝えるべきなのだろうかと、ふと疑問に思う。

 だがケルブは言った。こちらの世界では俺は別に何もしなくてもよいと。ただ存在しているだけでいいと言ったのだ。

 そのうち何かしなければならないことが起こったときは直感の閃きが俺の内部から、俺の魂が教えてくれるだろうとのんびりと日々を過ごしていた。


 だが、明らかにここに集うメンバーの雰囲気が変わってきた。


「文化祭から、なんだか空気が変わったよね」


 ある日、部室での雑談の時に朝倉由紀乃、つまりチャコが言い出した。


「そうそう、たしかに」


 同調したのはチャコと仲のいい幸野美貴だ。


「この部活?」


 島村先輩が聞く。チャコは首を横に振る。


「この部活だけじゃなくて学校全体、いや、世の中全体が変わった気がする。なんだか明るくなってエネルギーに満ちているし、妖魔は影を潜めてるし」


「だな」


 松原悟が口をはさんだ。


「まったくいなくなったわけじゃないけど、たしかに空中を飛来したり人びとに憑依している妖魔の数は激減だよな」


 俺は黙って聞いていた。もどかしかった。俺はその真実を知っているけれど、果たしてここと口を開いていいものかどうか……直感は何も閃かない。だから黙っているしかない。

 もどかしいと言えばもう一つ。あちらの世界では恋人であるチャコも、こちらの世界のはるかに若いチャコはまだ俺の彼女でも何でもない。そこが調子狂ってしまうのだ。

 そんな感じで二学期も終わりに近づいた。クリスマスと正月を控えているが、その前に期末試験がある。

 理系科目も記憶は薄れておらずそこそこ点はとれたが、問題は文系科目だ。大学は文系学科に進んだ俺がなぜ文系科目が問題なのかというと、特に地歴関係と国語は目をつぶっていても満点を取ってしまうからだ。

 そうなるとそれ以前の自分と整合性が取れなくなるし、クラスの連中もざわつくだろう。担任は青木先生だけど、青木先生もこの世界では真実のいきさつをまだ何も知らないのだからいぶかるかもしれない。

 だからわざと間違えるのは気が引けたけれど、それ以前の俺の水準に合わせた点数になるようにしておいた。


 冬休みになった。

 こちらの世界では、俺は安いアパートで親父と二人暮らしだ。失業していた親父は母と離婚して、母と俺の妹の美羽みつばを実家に残して俺とともにこの町に引っ越してきたのだ。

 今では親父も何とか職を見つけたが、そもそもこの俺にとっての並行世界パラレル・ワールドが生じた原因は両親の離婚にあった。

 世界はもっと複雑で、並行世界というのは俺にとってだけではなく例えば親父にとっては親父の並行世界が無数にあるだろうし、チャコにとっても、青木先生にとっても、果ては日本というこの国にとっての並行世界も無数にあって、それが集積回路のように複雑に張り巡らされているようだ。

 俺にとっての並行世界もこの二つの世界だけではないと思われる。

 だが、年末も押し迫ったある日、ふと考えた。俺がこの世界で存在している以上、そしてその存在に価値がある以上、俺が存在しなければならないもう一つの世界がある。それが母と妹のいる実家だ。

 俺はそう直観で閃いた。この正月に、いわゆる「帰省」をしようと考えたのだ。父の同伴は難しいかもしれない。それならば俺一人でも行こうと思ったのだ。


 それを、今日父が仕事から帰ってきたら打ち明けようと思っていた。 

 帰宅した父は、ちょうど上機嫌だった。いい頃合いかもしれなと思った。

 だが、次の父のひと言が俺を驚かせるには十分だった。


「康生、正月にはさくら川に帰るぞ」


「え?」


 俺が言えたのはそれだけだった。


 

 終業式も終えてから、俺と親父は俺の故郷に向かった。新幹線など贅沢だということで、私鉄で都心まで出てその終着駅から湘南新宿ラインの北方向行きの快速で行くことにした。時間は新幹線の倍かかるが、急ぐ旅でもない。

 まずは乗り換え駅で、昼食をとった。ターミナル駅だけあってとにかく巨大で迷路のようでもあり、さらにそこを人が埋め尽くしているからちょっとした探検気分だ。

 だが俺はただの田舎の高校生ではない。その魂には社会人として都内も歩き回った記憶が刻まれたままだ。だから親父を誘導してなんとか人混みをかき分けた。

 私鉄からの乗り換えなので一度改札を出る。その私鉄の改札を出る前にカフェやそば屋、お茶漬けの店などがあったので、俺と親父はカウンター席があるだけの小さなそば屋に入って昼食をとった。

 昼下がりに、JRの改札に入った。実はスマホで、乗る列車の時刻などは事前にすべて調べてある。

 注意しなければならなかったのは、向こうの最寄り駅についてからバスに乗るのだが、そのバスが二時間に一本くらいしかないことだ。だから行き当たりばったりでいくと延々とバスを待つは目にもなりかねない。そこで、バスに合わせてあらかじめ乗る電車を決めて行かないといけない。

 バスの時刻表もすべてスマホで調べればわかる。

 電車に揺られること一時間四十五分で新幹線との接続駅となっている終着駅に着く。新幹線だと五十分ちょっとで、一時間ももかからない。

 私鉄の終着駅からしかも新幹線の駅まで十五分ほど地下鉄に乗る必要もあり、新幹線に乗るまでの乗り換えにも相当時間がかかるだろう。それに、まだ帰省ラッシュには早いかもしれないけれど、もう年末だ。新幹線はかなり混んでいることが予想される。

 俺たちの乗った在来線の快速も混んでいて最初は座れなかったが、そんなに長距離移動の人はいないようで、途中三十分もしないうちにだいぶいて楽々と座れた。

 何しろ一時間四十五分もある。ちょうどボックスシートのある車両に乗ったので、そこで親父と向かい合って座った。

 当然、話は急な規制のことになる。問い詰めるつもりはなかったけれども、俺としてはやはり気になる。

 そのことを話題にすると、親父はやはり歯切れの悪い返答で、何か言いにくそうだ。どうもあまり晴れやかな気分ではないらしい。


「実はな」


 ようやく重い口調で、親父は話し始めた。

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