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Ascension  作者: John B.Rabitan
第1部 霊峰
12/13

12 天日(あひ)慕い

 ケルブはにこやかに、皆を見渡した。


「話は変わりますけれど、あなたたちは先程、とても興味深い話をしていましたね」


 陽太ひなたが顔を少し和らげた。拓也とエーデル夫妻も顔を見合わせている。そしてエーデルが言った。


「ABCのアルファベットと日本の文字についてですか?」


「そうです。あなたがたは自力でかなりのところまで行きましたね。あと一歩です。そのあと一歩をお話ししましょう。これはあなた方が全く知らないゼロの状態の時にいきなり一から教えることはできない秘密事項だったのですけれど、あなたがたは自力でかなりのところまで解きましたのであと一歩をお話しします」


 皆が息をのんで、ケルブの言葉を待った。


「皆さんが解読したところまで、もう一度聞かせてください」


 先ほどたしかにこのメンバーであれこれと智慧を出し合って、ABCのアルファベットを一文字ずつ同じ発音の日本の文字に当てはめていた。だが、その場所にはケルブはいなかった。しかしそのすべてをケルブも高次元から見ていたことは誰もが納得していた。


「ABCDEで“あひしたひ” FGHIJKLで“ふじえいじける”。ここまで短歌の初句と第二句になってます」


 代表して、大翔はるとが先ほどの皆の解釈をケルブに再度伝えた。


「で、その次が分からなくて。たぶん"MのO"? そのあとのPQRSTVで“ひくるすてふ”、そのあとがまたわからないです。


「“M”は“ま・み・む・め・も”のどれかだと思うんだど」


「じゃあ、一つずつ当てはめてみてください」


「まのO、みのO、むのO、めのO、ものO?」


「でも短歌の第三句なのだからまのラララでOが三音になっちゃう」


 由紀乃が口をはさんだ。


「次のPQも入れて“まのOひく”なら音も合うけど」


 美貴の発言に由紀乃は首を横に振った。


「そうしたらそのあとは“るすてふララララ”でなんだかごちゃごちゃして分からなくなる。そのあとはXしかないんだし。やっぱ短歌じゃないのかな」


 ケルブは少し笑みを強めた。


「皆さんと関係のある言葉ですよ、Mは」


「え?」


 そう言われて大輝がまたマ行を唱え始めた。


「ま、み、む…む……むー、ムー?」


 ケルブはにっこりとうなずいた。


「たしかに。“エム”なんだから“ム”だろうけど、でもムーとMじゃ発音はあっていても文字の形が全然違う。さっき、漢字の“六”じゃないかって話も出たけど」


 悟が首をかしげる。陽太も同調する。


「たしかに例えば“C”と"し"、“K"と“ケ”のような、音と文字の両方の類似性がないですね」


「いいのです」


 ゆっくりとケルブは言う。


「あなた方の過去世と因縁深いレムリアのムー、それを象徴する文字が太古より“M“だったのです。あなたがたがレムリアで生活していたあの頃の記憶をたぐれば、それがわかるでしょう」


「たしかに」


 陽太がうなずいた。ケルビムは続ける。


「“ムーの”といったら次のOは何でしょう? 音にとらわれなくてもかまいません」


「音だと“お”しかあり得ないけど、”ム”ーのといえば……ムーの国? ムーの島?」


「民?」


 少し伏せ目だった由紀乃が顔を挙げた。


「ムーの民」


 ケルブはゆっくりとうなずいた。


「よくたどり着きました。“O”はオーではなくマル、つまり人々を丸で囲んですなわち“民”です」


「民という漢字は」


 拓也が口を開いた。


「象形文字では上の四角の部分は(マル)で、目を現していた」


天日あひ慕ひ 富士詠じける ムーの民……じゃあ、次は?」


 皆の視線が、一斉にケルブに向いた。最初に由紀乃が口を開いた。


「先ほどからこれは短歌だってことになってるけど、第四句まで行って最後の七句の音が足りないのよね。古ラテン語だとあと“X”しかないけど。それで、初めの方も古ラテン語だと“J”がないので“ふじいえいける”になって変なので、現代の英語の“J”を入れて落ち着いたんです。だから最後のところも“Y”とか“Z”もいれたらどうでしょう」


「そうなると“QRSTU”で、あと“V、W、X、Y”もある。それでも音が足りないね」


 陽太がそう言ってまたケルブを見ると、また視線がケルブに集中した。ケルブはなにかをもったいぶっているような笑みで笑っていた。


「さっきは“PQRSTV”で“ひくるすてふ”だったけど、現代の英語通りということにするなら“V”は“U”になりますね」


「それでも“U”はひっくり返して点打ったら“ウ”になるから“ひくるすてう”で同じことになるんじゃない?」


 由紀乃が言う。


「読み方は“てふ”でも“てう”でも“ちょう”と読むね。ただ難点は、“ちょう”は“という”って意味だから、“来るてう”ならわかるけどその間の“す”はなんなのってことになるけど。サ変の動詞だとしてもここに入るのは不自然よね」


「現代語では“来るするという”ってなって確かに変ですね」


「そこは言霊の世界だから、とりあえずいいんじゃないか?」


 拓也がひと言投げた。ケルブもにこにこして大きくうなずいている。


「じゃあ、最後の結句は」


 大輝が言った。


「“フWXYZ”、“Y”はちょっと変形すればカタカナの“イ”ですよね。“Z”はやはりカタカナで“ズ”」


「ツに点々の“ヅ”でもありよね。もし最後が“づ”ってことならツに点々の方でないとね」


 由紀乃が言ってから、また続ける。


「でもそうなると“フ”ンンンン“イヅ”で四音の“ンンンン”が“W、X”の二文字じゃ足りない」


「俺、思うんだけど」


 これまで口数少なかった新司が口を開いた。


「“W”って“U”が二つ合体していますよね。だから“U”が二個で“ユニ”では?」


「それはちょっとこじつけがすぎないか?」


 大翔が笑う。だけれど拓也は真顔で言った。


「でもそうすると“冬に”となるからぴったり合うね」


「じゃあ、“X”は?」


 美貴が聞く。しばらく皆で唸った。ケルブだけがほほ笑んでいる。


「英語では“エックス”だけど、それに匹敵する日本語の一音の一文字が見つからない」


 陽太の言葉に続いて、拓也がハッとした表情で顔を挙げた。


「“X”を四十五度斜めに傾けたら“十”」


「十字架の形だ。つまり”救世主”、もしくは”神”を現す?」


 陽太の顔も輝いた。拓也は少し涼しい顔だ。


「たしかに。でもここではキリスト教の十字架というよりも、火を縦に、水を横に十字に組んだ形、すなわち“火”と“水”で、“火”は“カ”、“水”は“ミ”で“”、すなわち“神”になる」


「おお」


 一同は感嘆の声を挙げた。


「ローマ数字では“X”は“十”ですね」


 ぼそっとエーデルも付け加えた。


「するとどうなるのかな。えっと」


 大輝が少し小首を傾けて言った。


「“冬に神()づ”。音の数も合う」


「そうなると最後はやはり“ス”に点々の“ズ”じゃなくて、“ツ”に点々の“ヅ”ね」


「でも、“神様が出る”ってなんかぴんとこないな」 


 悟の疑問に、拓也はうなずいた。


「そうだね。神は神でもここではあくまで火を縦にした神、つまり火の系統の神様のお出まし……」


「じゃあ、いっそのこと“冬にづ”…? でもそうなると字足らずになる」


「待って」


 美貴が言う。


「数学とかで“Z ”って書くとき、よく2と間違えないように斜めの止め線を入れるね」


「ストロークですね」


 エーデルが補足する。美貴は続ける。


「そう、そのストロークですけど、止め線ということで、最後に“ト”をつけたらどうでしょう?」


「ああ、引用の“と”になるね」


 由紀乃が大きくうなずいた。


「“冬に日()づと”、音も合う」


 みんなうなずいた。


「たしかにな。僕らみんな高次元世界で目撃した。この宇宙規模の大変化、大転換は長く水の系統の御神霊の統治の世だったのが、あの天岩戸が開いて日の系統の御神霊がお出ましになったからだって体験してるよね」


「その通りです!」


 ぴしゃっとそしてものすごくうれしそうにケルブは言った。透き通った染みわたるような声だった。


「じゃあ」


 陽太が言う。


「むしろ前の“日来るすてう(ちょう)”の方を“神来るすてう”としたらどうだろうか。そうするとこちらの字足らずも解消する」


 ゆっくりと、拓也が何かを宣言するかのように、その歌を詠みあげた。


天日あひ() 富士詠じけるムーの民 神来るすてう(ちょう) 冬に日()づと」


「おお!」


 ケルブが拍手を始めた。皆その拍手に同調してちょっとした喝采になった。何人かは感動の涙を流していた。


「つまりはこの今の時代の天意転換、天岩戸開きと日の神の御出現を待ち望み、そして予言する歌だったんだ。それがそれぞれの字が転じてヨーロッパに伝わりラテン語のアルファベットとなって、今では英語をはじめとするヨーロッパ各言語のアルファベットとなったんだ」


 拓也が感が深そうに言った。そしてそれを紙に書きとった。


()()()()() ()()()()()()()(ムー)()(タミ) (カミ)()()()()()()(ユニ)()()(ヅト)


「ただ、やはり気になるんですけど」


 由紀乃がケルブを見た。


「こうなるとエーデルさんが最初に考えた古ラテン語ではなく完全に現代の英語ですよね。“C”も“シ”だということですけど、古ラテン語では“C”は“シー”ではなくカ行の表記に使われていたと思うんです」


 ケルブはにこやかに、ゆっくりうなずいた。皆静まりかえってケルブの言葉を待った。


「この日本語の歌がヨモツ国、ヨーロッパにもたらされたのは三次元的空間ではなくて高次元を通してでした。皆さんが実際に体験されたように、高次元では時間が存在しません、三次元では過去があってその上に現在がありそして未来へ続きますね。そういう時系列通りに時間は進んでいきますけれど、高次元はどこまでも“今”しかありません。過去も、そして未来もその“今”の上に螺旋状に重なっているのです。このことは一般の三次元で肉体を持っている方々に話しても今一つ理解できないでしょうけれど、魂は高次元の存在であって実際に高次元界を体験してきたあなたがたならわかりますね」


 皆、大きくうなずいた。


「ですから三次元で言う過去のヨモツ国に、その過去から見たら未来に当たるいわゆる現代のものがもたらされてもなんら不思議ではありません」


 誰もがさらにうなずき続けていた。

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