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Ascension  作者: John B.Rabitan
第1部 霊峰
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11 宇宙規模の大転換

 まぎれもなく十二人目としていつの間にか存在していたのは、彼らを常に守護し、またメッセージを伝えてくれている高次元の生命体、俗にいう天使のケルブであった。

 今は三次元界の藤村結衣という少女としてここにいる。

 以前にも婆様が亡くなった直後にこのメンバーで集まったときも、いつの間にかしれっと混ざっていた。だがあの時は大部分がすでに大学生であったのに、初めて出会った頃の女子高校生の姿のままの結衣で登場した。だが今は、拓也夫妻以外の九人と同様の二十代中頃の女性の姿になっている。


「結衣ちゃん!」


 先ほどはは「ケルブ!」と呼んだ由紀乃も、もう一度その人間としての仮の名前で呼び直したくらいだ。

 ケルブはにこりと笑った。だが、誰も驚かない。

 ケルブが彼らの仲間として自然とここに加わっていることに、誰も違和感を感じていなかった。


「さあ、食事を始めましょう」


 突然あとから加わったケルブがまるでその場を仕切っているようでもあったが、誰もがそれに違和感を覚えてはいなかった。

 全員で手を合わせた。


「いただきます!」


 それは食事を調理してくれた民宿のスタッフに対してだけではなく、さらにはそれぞれの食材の生産者や流通者に対してだけでもなく、食材そのものに対しての感謝の表れだった。さらには、それを今頂けることへの感謝……そういった認識はこの十一人のうちたとえ誰が持ったとしてもそれが瞬間に全員に共有されている。

 彼らはそのようなつながりでもあった。

 皆は笑顔で話し合いながら、時には食材そのものや調理法、味覚などを褒め合いながら食事は進んだ。

 ケルブも同じように周りと談笑しながら食事をしている、まるで最初からこの場にいたかのように。


「みなさん、こちらの世界ではお久しぶりですね」


 食事がほぼ終わったころに、ケルブは全員に呼びかけた。


「今日は皆さんにお話ししなければならないことがあります。まだ食べ終わっていない方はそのまま食事されながら聞いてください」


 そう言われても、皆がほぼ食事を終えたころだったので、自然とケルブの話に箸を置くかたちとなった。


「皆さんはここ最近、急激に世の中が変わったということを昨晩もお話しされていましたね」


 皆、うなずく。確かにそんな話をしていた。だがその場にはケルブはいなかった。いや、いたのである。ただ、藤村結衣という肉体がいなかっただけのことだ。


「もう一度、どんなふうに世の中が変わったと皆さんが感じておらっるのか、言葉という形でお聞かせください」


 たしかにケルブはその内容をすでに知っている。知っているが、言葉という形にすることが大切だと言おうとしていることも、ここにいる全員が感知していた。


「自分は」


 最初に口を開いたのは、杉本大樹だった。


「ここにいるみんなには言いましたけれど、ビジネスの世界でも大きな変化が表れていますね」


「あなたが感じた変化をお話しください」


 ケルブはにこやかに、大輝の話を促した。大輝も微笑んだまま話を続ける。


「はい。これまでの経済の目的は利潤追求、そしてその根底にあるのが金儲けでした。つまり、競争の原理が経済を動かしてきたといっても過言ではなかったと思います。でも、今は違ってきています」


 最後の部分に、大輝は力を込めた。その口調のまま、大輝はさらに言う。


「そのような理論で動いている企業は、どんどん淘汰されていると思います。今は共生の時代、調和の時代ですね。競争ではなく、お互いに活かし合う、そんな共通意識がエネルギーとなって社会を動かしているようにも感じます」


「それはいい視点ですね。杉本さんの会社は何をされているのですか」


「AIの開発です。ただ、現代文明の盲点は日常生活から、AIの開発、運用、そのほかの情報のやり取り、ネット社会もすべて電気というものに頼っていますよね。もし電気がなくなったら、人類は地上でいちばん弱い生物となってしまうでしょう。これからは電気に頼らない新し動力源、それは人間の意識のエネルギー、それをAIに活用していくという段階に入っています」


 そこにいた誰もが、うなずいて聞いていた。島村陽太(ひなた)が口を開いた。


「ひと昔前だったら滑稽な笑い話だっただろうけど、ここ四、五年で世界は急激に変化しているから、今では誰もが真剣に考えているよね」


「いや、まだまだ古い考えの人は多いですよ」


 大輝が苦笑した。


「電気ではないエネルギーというとガスか石油資源か太陽エネルギーか原子力かと、どうしても目に見える物質的エネルギーにしか目を向けない人々も相当数います。私の会社が開発しているのはそういうことではないんですけどね」


「働き方にしてもそうよね」


 美貴が不意に言った。


「昔はお金を稼ぐために、それで食べていくため、そして生活していくために仕方なくいやいややりたくもない仕事をしてるって人が多かったって聞いてるけど」


「そうだね」


 拓也が話を受けた。


「かつては勤勉が美徳といわれてきた時代が長かったからね。そういうものだと教え込まれてきた。まずは食っていくため、そして家族を養うため、自分の時間を犠牲にして働く。その働いている内容も、自分が本当にやりたいことではないのに、仕方なくやっているという人が多かった。労働は美徳だと考えられてきた。そのへんも、世の中は変わってきたね。少なくともこの中で、今の仕事を食っていくためにいやいややっているって人、いるかい?」


 誰もが首を横に振った。


「私たちはみんな、自分が本当にやりたいことやってる。お金のためとか、食べていくためとかじゃなくて好きなことやって、それで豊かさや必要なものは自然と与えられてる。みんなそうよね?」


 今度は誰もがうなずいた。ひろみが美穂と顔を見合わせながら言う。


「私たちのシンガーソングライターのユニットなんて、趣味がそのまま仕事だし」


「僕らの農業とてそうです。なあ」


 大翔はるとがそう言って新司に同意を求めた。新司もうなずいた。さらに大輝も大きくうなずいていた。


「そうですね。そうやって世の中が循環するようになった。経済も競争の経済ではなくて循環型経済になっています。従来の経済基盤は確実に変化しています。でも、まだまだ古い価値観に縛られている人も多いのが現状です。そういう意味でも世の中の二極化が進んでいると感じるんですよ」


「そういう人たちも、決して悪ではありません。どちらに善も悪もないのです。ただ、そういった人たちは怖いのです」


「怖い?」


 ケルブの言葉に、悟が尋ねた。


「そういう人たちは怖い人たちなのですか?」


「そういう意味ではありません。その人たちは怖がっているのです。世の中が変わっていくのが怖いのです。自分が教え込まれて刷り込まれてきた価値観が崩壊するのが怖いのでしょう。だから変化に対する恐怖を覚えるのです」


「そうです。恐怖と支配に生きる人々と愛と調和に生きる人々の二極化ですね」


 大輝がうなずく。


「AIといえば」


 由紀乃もにこやかに話に入った。


「やはり四、五年前ころに初めてAIが普及し始めたころは、AIを怖がっている人たちもいましたね。人間の頭脳を越えるようなAIの開発は禁止すべきだとかいう運動もあったくらいだし」


「たしかに」


 陽太が言う。


「AIは現代のバベルの塔だとか言っている人もいた。神に近づこうとして築き始めたバベルの塔が、神の怒りに触れて破壊されたという旧約聖書の話だけど」


「神の怒りどころか」


 ケルブは、口調は厳しくても表情はにこやかだ。


「地球人類が高次元に達するために、必然として現れたものですよ。でもどうしても、そういった変化に恐怖や不安を感じてしまう人たちもいるんですね。でも、今の時点で覚醒した人びとは恐怖よりも愛と感謝に生きているはずです」


「そうです。だから、四、五年前から二極化が始まったのですね。確かに、それ以来人間関係を大きく変化してきていると思います」


 大輝の言葉に、誰もがうなずいた。


「やっぱり!」


 ひろみが思わず声を挙げていた。


「私たちって、ちょうど六年前くらいからだんだんと巡り会って、そして今ここにこのメンバーがいる。今思えば、それ以前の人間関係ってほとんど清算されている」


「清算というよりも自然の淘汰です」


 ケルブはゆっくりつ続けた。


「皆さんはお互いがはるか悠久の昔、レムリアの頃から魂が結びついていたということをすでに思い出していますね。そして愛と調和の世界へと人々を導く使命も思い出している。でもね、どうしても古い価値観、競争と奪い合い、そしてそのための争いと苦痛を伴う労働、そういったものがしみ込んでいてそこから抜け出せない人々とは波動が合わなくなって自然と離れていきます。そして魂の共鳴を感じる人々と新たに出会う。そういうふうに人間関係が再配置されるんですね」


「それが六年前ごろから始まって、ずっと続いているんですね」


 美穂の問いに、ケルブはうなずいた。


「そうです。そしてそれはあなたがただけのことではありません。地球全体の人類にその配置換えは進行しています。なぜなら、今地球全体が大いなる変動の時を迎えているからです」


「やはり大きななにかがこれから地球に起こるのですか?」


 悟が聞く。ケルブはにっこりと微笑む。


「物理的な外面世界の変動があるわけではありません。大いなる変革は人々の意識の中です。それは恐怖ではなく、地球の進化にとって喜ばしいのことなのです。古い価値観に縛られる人々は、そのこと自体が恐怖でなりません。でも、あなた方や多くの目覚めた光の戦士(ライトワーカー)たちはそうではありません。それはどちらが善とか悪とかいう性質のものではないのです。それぞれが自由意思でどう選び取るか、そのそれぞれが選び取った方がその人にとっての正解なのです。選んだ人々が選ばれた人々ということになるのです」


 悟が少し首をかしげた。


「目覚めたって言いましたけど、それは覚醒ということですか?」


「覚醒というよりも思い出したと言った方が正解でしょう。今や全世界で多くの光の戦士(ライトワーカー)が自らの使命や過去世、そして魂の故郷を思い出しつつあります。いよいよ時が来たのです。あの四年前の高次元界での出来事、あなた方もその一端を経験しましたね。あの時以来いよいよ地球は変化を本格的に始めました」


「あの時……あの時ですね……」


 陽太がぽつんとつぶやいた。その想念は波動となって、ここにいる全員に共有された。


「ただ」


 少し口ごもったように、ケルブの口調が変わった。


「あなた方が見たものは、まだ三次元的知覚によって感じた現象なのです。実際の高次元界の出来事があなた方の三次元的な脳内に変換されて記憶されています」


「では、私たちが見たあの巨大な扉が開き、そしてかつての天帝の国祖神様がお出ましになったのは……」


 陽太がケルブの方へ少し身を乗り出して、目を見開いた。ケルブは穏やかに言った。


「出来事は間違いなく起こりました。ただ、物質的な風景で天まで届く大扉が開き、天の岩戸が開かれた、そのあなたがたが見た現象は表象です。三次元の物質的な現象に変換されてあなた方の脳には刻まれました。実際はあなたがたが見たのとは違う、いえ、あなたがたには見ることができない高次元の現象だったのです」


 沈黙が室内を支配した。ケルブは続ける。


「ただ、あなたがたが体験した出来事は真実です。実際あの時に宇宙のゲートが開かれました。宇宙規模の大転換が行われました。それがタイムラグはありましたが、三次元世界に移行しました。あの翌年、何が起こったか覚えていますよね」


「あの大変動の年を忘れるわけがありません」


 大輝が力強く言った。


「あの直後の円安と物価の高騰から、ついに世界経済の中心だったダブリートゥの通貨が下落し始めて経済界は大混乱でしたよね」


 悟も言葉を受けた。


「そう、あの頃からくすぶっていた戦争も、ついに翌年には一気に本格化して、あの夏の一か月間の世界大戦」


「そうだ。ダブリートゥとシーニの戦端がついに日本の国土にも影響を及ぼした。そんな中での大地震」


 大翔もそんなことを言いながら、隣の新司を見た。新司も言う。


「それらすべてが夏の一ヶ月の間に、この日本で起こった」


 ケルブは依然と穏やかだ。


「でもね、あの時一部の人びとは恐怖と不安の波動でますます災害を呼び寄せてしまいましたけれど、愛と感謝で生きていた波動の高い人々は不思議と護られていたはずです。あの時からあなたがたの言う二極化は始まった。あの夏の大試練は、一部の人びとが火の洗礼の大峠という名称で予言していたことでもあります。世の終わりだと騒いでいた人々もいましたけれど、実際は終わりではなく始まりでした。古い秩序や基盤、経済体制や価値観は崩壊して、世界は日本を中心に新しくなっていったのは皆さんもご存じのとおりです」


「そうですね。競争から共存へ、奪い合いから分かち合いへと、人々の意識が変わっていった。でも変われない人もいます」


 大輝の言葉にケルブはまず大輝を見て、それからまた全員に視線を移した。


「先ほども言いました通り、変われないのは変化への恐怖があったからですね。でもあの大試練が起こるべくして起こって、新しい世界が始まったのです。今はまだその過渡期でもありますけれどね。ところで…」


 ケルブの口調は笑顔とともにさらに穏やかになった。

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