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あじゅ13

大黒との決戦。


大黒の鎌鼬(かまいたち)によって浩といっしょに吹き飛ばされ、


小田の砂浜に叩きつけらようとしているまでの刹那。


あずの頭の中では記憶が溢れていた。



・・・



最初に見たのは水面から見た青空。


そして、しゃらしゃらと流れる水の音。


それがあずの最初の記憶。




それからちょっとしたら


たくさんの子供達が手に手にバケツを持って水を汲みに来た。


坂を登りながら元気よく歌う童歌が遠くから近づいてくる。


子供達は五右衛門風呂が一杯になるまで、「(しぶ)(した)」に通わないといけない。


兄弟姉妹が多い家は、回数が少なくて済む。


だけど、ひとりっ子は何度も何度も坂を上がり下りして


泉がある「渋が下」まで往復しないといけない。



男の子が、水を汲みにきた。


小さなゴミをできるだけ拾わないようにと、一度、水面を薄く払い


バケツで汲み取る前にゴミがないかよく見ようと水面に乗り出した時


男の子の顔が見えた。


「この子!」あずは確信した。


・・・まだあずは形を成してない。


その男の子、浩は毎日何度も水を汲みにきた。


あずはそれが嬉しくてたまらなかった。



月が満ちるたびに、あずはだんだん形を成してきた。


そうしながら、役目を自覚しだした。


これから災害が来る。


それを食い止めるのが役目だと。


あずだけでは力が足りない。


あの男の子、(ひろ)が必要。なぜかはわからないけど、あの子と一緒に役目をしたい。



何年か経って、浩は小六になった時、あずも形を成していた。


「もうすぐでちゅね・・・。」あずは災害が近いことを感じていた。


あずは神社に行って雨避けの儀式をした。


子供たちと遊びながら、ごっこ遊びをする。


「だーるまさんがこーろんだ!」


拝殿に向かって子供達が少しずつ近づく。


実はこれが雨避けの儀式。


子供達が多ければ多いほど、効果は抜群である。


日が暮れる頃、サイレンが鳴り、皆それぞれ家路に向かう。


あずも「渋が下」に帰る。


だけど、今日は十三夜。


浩と一緒に居られれば、十分に力が蓄えられる、はず。今日は「渋が下」へ帰りたくない。


浩が気づいた。こっちを見ている。


あずは固まる。


浩が踵を返してまた歩き始めた。


あずは数歩前に。


浩は振り返り、怪訝そうな表情でこっちを見ている。


浩がこっちに歩いてきて、しゃがんで声を掛ける。


「おうちは?」


「ここ。」あずは答えたあと、「しまった。」と後悔した。ここには家屋など無い。


「渋が下」の泉があるだけ、である。


両脇に鬱蒼と杉林が迫る、コンクリート敷きの道の上。


だんだん暗くなってきはじめた夕暮れ、ここはそれよりも更に暗い。


「お家にちゅいて行ってもいい?」あずは思い切って声を出した。


浩が微笑みながら答える。「いいよ。」


「ね、名前は?」


「あじゅ・・・。」私はそう答えた。



浩が私と出会った最初はそうだった。


それから、あたしは浩と一緒に、できるだけ力を溜めて災害に立ち向かったけど


災害が終わったときには、形を成せなくなるまで力を使い果たしていた。


そしてもう一度形を成すまで、10年くらいの年月が経ってしまっていた。


浩は背が伸びて180cmもある青年になってた。


渋が下の水を利用した簡易水道が敷かれたので、もう誰も水を汲みに来ることもない。


あたしは浩に会いたい。また役目を一緒に果たしたい。


想いだけが募る日が続いた。


ある日、やっと浩が「渋が下」を通ってくれた。


会いたいのに。今しかもうチャンスがないかもしれないのに。動けない。


動け!あたし!


「あっ、小豆、炊きすぎちゃってぇ。一緒に食べない?」


何言ってんだろう?あたしは。


でも、なんだか浩が泣きながら笑ってる。






浩だけは守りたい。


大黒に吹き飛ばされながら横を向く。


顔色が青くなった、目を瞑った浩が見える。


どうにか形勢を挽回できないだろうか?


あたしは、浩が居ないと十分に力が発揮できない。


浩が居てくれたからあたしは役目を果たせる。


だけど、


それだけじゃない。


今はっきりわかる。


浩と別れたくない。


せめて今は。


浩が地面に叩きつけられないようにしよう。これ以上傷つかないようにしよう。


あずは浩を片手で抱きかかえながら、落下速度を落とすよう操作する。


あたしは出来るのは、これっぽっちだけ。


地面に着地できたら、浩の傷が癒せるかしら。


せめて。これ以上浩が苦しまないように。























最後までお読みくださって ありがとうございます。

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