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絶望の森のもふもふ製造工房  作者: 凪瀬夜霧
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6話 絶望の森と屋敷妖精

 無事に相棒となるぬいぐるみ『クリーム』をゲットした虎之助は、とうとう異世界に転生する時を迎えようとしていた。

 だが神ネオはどうにもグダグダな説明を始めた。


「まず、虎之助が最初に転送される場所なんだけど、とある森の中だから」

「おいコラ、いきなりハードモードじゃねぇか!」


 魔物蔓延る世界でいきなり森に落とすとはどういう了見だ。いくら基礎が強かろうと経験値もなく魔物とエンカウントしたら死ぬ未来しか見えないぞ。

 目をギンッ! とした虎之助に、ネオはへらっと笑う。


「真面目な話してんじゃゴラ!」

「安心して。森の中にある家の中だし、この家は超強力な結界魔法の中だから絶対安全だよ」

「なんたってそんな森の中に家があるんだよ」

「前の持ち主が人嫌いでさ。あっ、もう死んじゃってるから安心して」

「事故物件じゃねぇか!」


 何をもって安心しろなのか、小一時間程問いただしたい虎之助だった。

 とはいえ、拠点が安全なのは一つ安心要素ではある。ひとまずはその家に引きこもって周囲の様子を観察するのもいい。あっちの世界の危険性など、所詮日本生まれの虎之助では想像できないのだから。


「前の持ち主は有名な魔女だったんだけどね。色んな権力者とかに利用されて、愛想が尽きて引きこもったの。屋敷の設備はしっかりしてるし、家庭菜園もある。物作りしてた魔女だから工房も調剤室もあるよ」

「至れり尽くせりだな。使っていいのか?」

「本人の幽霊呼び出して許可取ったから大丈夫」


 親指グーで太鼓判。背景に「やりきりました!」と見えそうな雰囲気。

 いや、この世界把握できてはいないけどな。


 だがそういう事なら有り難く使わせてもらおう。

 この段階で虎之助の足元が金色に輝きだし、クリームが肩に乗っかってきた。いよいよ、異世界に転生だ!


「あっ、屋敷には執事的な何かがいるから仲良くね~」

「その情報もっと早く詳しくしろアホ!」


 気になりすぎるセリフに喧嘩腰に返すが時既に遅し。虎之助は金色の光に吸い込まれるようにして落ちていく。下からの風圧を一瞬感じ腕で顔を庇い視界が遮られた。

 その次の瞬間には、虎之助はまったく知らない室内にいた。


 木製のフローリングのリビングダイニングキッチンだろうか。目の前に何の変哲もない木製の四人掛けテーブルがある。後ろを振り向くと使い勝手のよさそうな木製のキッチンがあった。

 二口のコンロみたいなものに、時代がかった大きなオーブン。水道のような場所には青い宝石がついていて、それに触れると水が出た。魔石ってやつだ。

 それらの端に木製の大きな箱があり、水色の宝石が嵌まっている。


「クリーム、こいつが何か知ってるか?」

「さぁ、分からん。俺は元々フェンリルだからな。人間の生活については疎いぞ」


 虎之助の肩に腕を乗せ、だらんと垂れているクリーム。そいつと一緒に謎の箱を覗き込んだ虎之助は取っ手に手を掛け引いた。

 途端、溢れる程の冷気が足元を冷やして思わず変な声が出た。だがこれだけでこの箱が何か理解できた。


「冷蔵庫か!」


 なんたる家電! まさか異世界に冷蔵庫があるとは!


 中にはシャリッとした何かの肉が入っている。肉屋で見るような大きな塊肉が特大の笹の葉みたいなのに包まれて入っているのだ。


『キングオークのもも肉(鮮度:良)

 絶望の森産。オークの中でも群を従えるキングのもも肉。煮込み料理に最適』


「……絶望の森?」


 鑑定眼は有り難い情報を出してくれたが、産地が気になる。絶望の森ってなんだ。

 だがこれについてはクリームが訝しい声を上げた。


「絶望の森だと?」

「知ってるのかクリーム!」

「うむ、主。絶望の森は人間の国、獣人の国、魔人の国の中間にある巨大な森だ。生息する魔物は多岐に渡り、ランクは最低でもBランク。上はSSSランクもいるらしい」

「…………」


 あっっの……クソ神がぁ!


「超危険地帯じぇねぇか!」

「うむ。常人ならば十分と経たず死ぬだろう」

「出られないだろうが!」


 思わず怒りに任せた怒声が出て、壁をドンと拳で殴ってしまった。


 瞬間、壁や床、天井に至るまでがビリッと帯電し、次には雷撃が虎之助を打ち付けた。


「いっ!」

『どのような理由であろうとも、この家を攻撃する者は許しません』


 礼儀正しく、だが明らかな殺意をこめた一撃に体は痺れた……が、動けるな。


『おや、頑丈な』

「なんだ?」


 声は聞こえるが姿は見えない。そんな奇妙な相手を目で探すがどうにもならない。肩のクリームもハッと目を覚まし、次には威嚇を始めた。


「どいつだ! 出てこい!」

『獣風情が。可愛く見えても所詮は野蛮なものです』

「こいつ……妖精族か!」


 ふわっと体を宙に浮かせたクリームがスッと息を吸い込む。そして次には鼓膜が破れんばかりの声で咆哮した。

 空気を激しく震わせる音に虎之助は耳を塞ぐ。窓ガラスが、壁が、ガタガタビリビリ音を立てて振動する。

 この激しい音の攻撃に戦意を喪失したのか、さっきまであった殺気も、その発生源の気配も消えていった。


「なんだったんだ、さっきのは?」


 音が止んだのを確認して虎之助はクリームに問う。これに、彼は腰に手を当て睨みながら言った。


「妖精族だ。奴等は普通には姿が見えないが意志がある。そして、高い魔法適性を持っているんだ。ここにいる奴は相当強い力を持っているぞ」

「妖精なんてのもいるのか」


 それは是非とも見てみたい。妖精というと手の平サイズでとても可愛らしく悪戯っ子。でも仲良くなれば助けてくれるイメージだ。

 まぁ、ここにいるのはきっと男だろう。声からして。


 そして同時に、ネオが言っていた事を思い出した。


『執事的な何かがいるから仲良くしてね』


「……これが、ネオの言っていた執事的な何かか?」


 だとしたら、いきなり険悪になったんだが……。

 前途多難な異世界初日は、いきなり躓きから始まったのだった。


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