41話 予期せぬ客人(2)
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なんとか家まで連れ帰ると、カフィは予想通り仮眠室をきっちり整え治療の準備もしてくれていた。
ただ、相手の装備などを見ると僅かに眉根を寄せた気がする。そしてアロイスと同じような確認をして、虎之助が頷くと彼も頷いてくれた。
「信玄が回復できないような状態異常となると、考えられるのは呪いですね」
「そういえば、彼の妹も呪いが疑われるんだったか」
「あぁ。宮中の事だから詳細は分からんが、噂じゃな」
装備を脱がせ簡素な格好に着替えさせ、その際に体も綺麗に拭ったがやはり外傷は腕の傷のみ。しかも浅いものだった。にも関わらずポーションを飲ませても回復はしなかった。
今は意識がなく、熱が高い。苦しそうに時折呻く様子は見ていて可哀想になってくる。
「呪いは普通のポーションじゃどうにもならんからな」
「普通はどうするんだ?」
「解呪の霊薬を使います。リーベ様はお得意でしたし、材料もありますが……一時凌ぎになりかねないかもしれません」
「と、言うのは?」
難しい顔で腕を組むカフィに問うと、彼は気持ち目尻を下げて伝えた。
「呪いは特殊なんです。弱い呪いなら身につけたり、相手を想像して掛けるだけでも。もう少し強いものであれば髪の毛や爪など、その人の一部を用います。でも、命まで危ぶまれるような呪いとなれば血液が使われる事が多いのです」
腕にあるのは刃物傷だ。つまり呪いをかけた相手は青年を切りつけるなどして得た血を使って呪いをかけた事になる。
「でもよ。一度呪いを解けばその時に使われた呪具は破壊されて呪いは消えるんじゃないのか?」
「はい。ですが、血液が残っていれば再度呪えます。呪いを返してしまうと、相手方にもそれが知られてしまうのです。更に厄介なのが、血を通して魔力紋を読み取り、それを基準として呪っている場合です。この場合は呪具の破壊以外に解呪の方法はないと言われています」
そんな事まであるのか……。
なんにしても卑劣な事だし、彼をどうにかしなければこのまま死んでしまう。そうなればこの国はマズい事になるとアロイスは言っていたし、今の状態でもあまり良いものではない。
何か、早急に手を打たなければ。
考えたのは前世の陰陽師系の漫画や小説だ。あの世界観ではしばしば「形代」なるものが出てくる。厄災を引き受けてくれるものだ。
素材は色々。それこそひな人形も最初は厄災を移して川に流す風習だったはず。人形……確か紙人形でもいいはずだ。
見回し、紙をみつけそれを正方形に切って、虎之助はやっこ人形を折る。丁寧に気持ちを込めて。これを持つ人が厄災から護られるように。呪いをこれに移す事ができるように。
『マジックツールボックス』
呼び出すとこちらの意図を汲み取って、筆と墨、更にはしめ縄のような物も出てきた。
「アロイス、その人の名前は?」
「あ? エルレーンだ」
「年齢は?」
「25だったはずだな。毎年9月19日に誕生の舞踏会が王都で行われてた」
「了解」
筆に意識を集中させて、出来たやっこ人形に名前を生年月日、そして年齢を書き込む。すると魔力が抜ける感覚があった。よく分からないが、成功している気がする。
出来た物を持ってベッドへと近付いた虎之助はその人形で彼の体を撫でた。真っ先に傷ついた腕を、頭、胸、腹の辺りを拭っていくと黒いモヤのような物が纏わり付いてくる。分からなくても、これが悪いものであるのは明確だ。
「カフィ、なにか封じるのに使えそうな箱とかないか?」
「お持ちいたします」
一礼するとシュンと一瞬で消えるカフィ。そして次には戻ってきて、手には小さいが文様と魔石を彫り込んだ箱を持ってきた。
「魔神すら封じると言われている箱です」
「物騒だな……だが、今は有り難い」
やっこ人形は今や真っ黒なモヤに覆われている。これを箱の中に放り込み、上からしめ縄をかけてしっかりと結ぶと、抵抗するように箱の内部からドンッという大きな音が数度して……静かになった。
「あれ、なんだったんだ?」
「呪いをあの人形に移した……と思う」
「…………はぁぁ!」
アロイスが目をまん丸にして青年を見つめ、カフィですら驚いた様子で近寄り、鑑定を青年にかけている。そしてぼそりと「本当だ」と呟いた。
「解けたわけではありませんが、命の危険のある状態からは脱しています! ちょっと運が悪くなる程度まで」
「ちょっと運が悪くなる?」
「一日に五回程度、小指を家具にぶつける程度?」
「地味に痛いな……」
あれ、案外痛いんだよな。
試しに傷にポーションを掛けると、今度は綺麗に治っていく。これを見て三人はほっと胸を撫で下ろし、更に青年にポーションを飲ませ、まずは様子を見る事になた。




