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絶望の森のもふもふ製造工房  作者: 凪瀬夜霧
二章 黒き陰謀と魔神の影
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37話 討伐報酬と魔物の素材(1)

 まずは冒険者ギルドへ。こっちは気楽なものだ。

 まだ午後の早い時間ということで場は落ち着いている。受付も空いている。そこに、昨日お世話になった兎獣人の受付嬢がいるのを見て二人は声をかけた。


「ファイーナちゃん」

「あら、アロイスさんにトラノスケさん。お早いですね」

「収穫十分だったからな。討伐確認と素材買い取り頼むわ」

「はい、了解いたしました。それでは、そちらにギルドカードを置いてください」


 提示された台の上にアロイスがギルドカードを置くとそこが少しの間光る。そうして次にはレシートみたいな小さな紙が出てきた。


「トレントとウィッチマロウ、一体ずつの討伐ですね」

「おう」

「トレント一体が10,000G、ウィッチマロウは14,000G。これにボーナスがついて、合計27,000Gとなります」

「それでいい。報酬はギルドに預ける」

「了解いたしました」


 サクサクとファイーナは手元の魔道具を操作していき、用紙を出す。今回の討伐に関するものらしく、アロイスは中身を読んで下にサインした。


「アロイス」

「ん?」

「ギルドに預ける……とは?」

「あぁ! そう言えばトラノスケさんにはまだ説明していませんでしたね」


 パンと手を打ったファイーナがニッコリと微笑む。そして用紙を出しながら説明してくれた。


「冒険者登録をしますと、自動でお金を預けられる機能がつきます。これはカードに登録されますので、紛失にはお気をつけください」

「あぁ」

「高ランク冒険者ともなれば討伐報酬だけでも膨大な額になることがあります。それを持ち歩くのは不用心ですし、なによりかさばりますから。そこでギルドに口座を作り、そこに記録して持ち歩き不要にしているんです。下ろすのはギルドの窓口で必要な分だけ。登録時に魔力紋も登録してありますので、本人でなければ下ろせません」

「しっかりしているんだな」


 ようは生体認証付きの銀行口座か。異世界も案外便利にできている。

 感心した虎之助に、ファイーナはニコニコ笑って頷いている。


「ちなみに、昨日の買い取り報酬もトラノスケさんの口座にもう入れてありますよ」

「え!」

「こちらも素材によってはとんでもない金額ですから。あっ、トラノスケさんも討伐していれば報酬をお渡ししますよ」

「……頼む」


 伝え、カードを置くとシャドーパンサーの討伐履歴がある。金額は32,000Gとなった。


「はい、これで討伐報酬の方は完了です。素材買い取りは別窓口となりますので、そちらに」

「了解。ありがとな」

「お仕事ですもの」


 そう言って、彼女はニコニコと手を振ってくれた。


 素材買い取り窓口はギルドの少し奥まった場所に、木製の仕切りで小部屋が作られていた。受付に行くと直ぐに個室内部に案内される。

 中はやはり狭く、机を中心に左右二人ずつ、四人掛ければギューギューだ。

 そこにアロイスと二人で座っていると背の高い男の職員が来て、アロイスの前に座った。色が白く、目の色も薄青い。何よりその耳は先が尖っている。


「本日鑑定を行います、エルウッドと申します」

「悪い、頼むな」

「貴方の持ってくる物は大変稀少な物が多いので。ところで……ハーフエルフに会った事がないのですか?」

「エルフ!」


 思わず目を丸くする虎之助に、神経質そうな彼が「ハーフエルフです」と訂正してきた。ここは混ぜてはいけないらしい。


「こいつ、人に会わない自給自足生活だったみたいでな。悪い。さっきガルマの旦那にも驚いてた」

「随分と偏った生活をなさっていたのですね。まぁ、見た目の通りです。ハーフなのでエルフ程長命ではありませんが、魔法は得意ですよ」

「あぁ、すまない。虎之助だ。今日は俺も買い取ってもらいたい物がある」

「畏まりました」


 淡々と事務的ともいえる声音だが、仕事に真摯なのは何となく空気で分かる。

 白い手袋をしたエルウッドは改めてアロイスに視線を向けた。


「大きな物はありますか?」

「いや、ここで十分だ」

「では、出してください」


 促されて、アロイスは机の上にウィッチマロウのドロップ品を出していく。眠り粉、誘惑の香水、魔石。これらを見て、エルウッドは僅かに眉を上げて丁寧に鑑定をしていった。


「確かに、ウィッチマロウの品です。絶望の森原産で品質も良いですね」

「だろ?」


 得意満面のアロイスに対し、エルウッドは顎を撫でて難しい顔で考えている。持ってきていたファイルを開き、考えた結果――


「眠り粉が7,000G、誘惑の香水は5,000Gでいかがでしょう?」

「誘惑の香水、低くね?」


 不意にアロイスの空気が下がる。口調はいつも通りだが、視線は射貫くような強さがある。だがエルウッドも引かない。これを跳ね返すほどのポーカーフェイスだ。


「現状、この香水は危険で表に出せませんが、だからといって妙な所に流されても困ります。世俗に詳しいアロイス殿ならば、言いたい事がおわかりでしょ?」

「王弟派か。ほんと、マジであいつらどうにかしたい」

「それは皆が思っておりますが、一介の冒険者に過ぎぬ身ではどうにも」


 どうやら納得はできたらしい。溜息をついたアロイスはこれに同意してギルドカードを提示、直ぐに終わった。


「では、次はトラノスケ殿の査定をいたします」

「あぁ」


 言われるがまま、虎之助もシャドーパンサーの素材を出す。目と牙だ。

 これらを慎重に鑑定し、傷などがないかや硬度、軽さも見て提示されたのは、目が一個7,000G、牙が十個で7,000Gだった。


 これらの査定が終わってもまだ日は高い。アロイスはやや不満そうにしながらも次へと向かっていく。その先には白い石壁の豪奢な建物があった。

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