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絶望の森のもふもふ製造工房  作者: 凪瀬夜霧
二章 黒き陰謀と魔神の影
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32話 ギルドマスター(2)

 クリームが動いて喋った事で場の空気は凍り付き、何故か責められる目で見られた。いや、悪い事はしていないはずなんだが……。


 という事で、かいつまんで話す事にした。

 それでも異世界からの転生者とか、神の存在は伏せる事にした。この辺りを正直に今話すと厄介な事になりそうな気がしたのだ。

 ということで、魔物に襲われて怪我をした所を絶望の森に住む魔女に助けられ、それから彼女の助手として森に住んで素材採集と魔道具などの製造を学び続けていた。という事で誤魔化した。

 これで顔や体の傷についても古傷だと言えるし、そんな偉大な師匠がついていたのでこの数値だとも説明できる。何より森に住んでいるから素材もあるし、森に今も住んでいる理由付けも出来る。

 リーベに感謝しかない。


 これらを聞いてゼゼルヨは腕を組んで唸った。


「まさか、黄昏の魔女に弟子がいたとはな」

「黄昏の魔女?」

「お前の育て親で師匠の通り名だ。知らんのか?」


 疑問そうに問われ、虎之助は頭をかいた。


「家ではリーベと名で呼ぶよう言われていたんだ」

「そうか。まぁ、本人もあまり気に入ってはいなかったようだしな」

「それにしても、そんな伝説の魔女の弟子とはな。トラが強いのもその影響か?」

「甘やかされてはいなかったからな。ホーンラビットは苦戦しなかったが、続けてレッドキラーグリズリーに遭遇した時はヤバかった。身体強化を教えられていなかったんだ、刃が通らなくて焦った」

「お前、よく死ななかったな……」


 なんだかアロイスはもう可哀想な奴を見る目をしている。苦労も多かったし、何度もクソッタレ! と思ったが、振り返るといい思い出……たぶん、だと思う。


「まぁ、そういう事なら色々納得も出来る。あの魔女が森に住んでいるのは知っているし、長生きの魔女だからな。人間の一人や二人拾っても可笑しくはない。それに、あの魔女なら特殊な魔道具の作り方を弟子に教えていても普通だからな」


 そう言いながら視線はクリームに。その視線を受けて、クリームは何故か胸を張った。


「主は素晴らしい職人だ。俺の他にも動いて喋り、自我を持って行動するぬいぐるみがいる。魔法も使えるぞ」

「マジか! 俺も欲しい!」

「うむ。ではSクラスの魔物を狩って魔石を持ち帰るのだな」

「あっ、やっぱいいわ」


 ノリノリだったアロイスも「Sクラス」と聞くと引き下がる。まぁ、分からないではないな。奴等の強さは次元が違った。


「このぬいぐるみが動く理由はそれなのか?」

「そればかりではないかもしれないが、肝はそこだ。強い魔物の魔石の中に、自我を持つ物があるんだ。それを核として器をつくり、中に入れ込んで契約をすると生前の人格を持った動くぬいぐるみが出来る。クリームの核は師匠から譲り受けたものだ」


 神の名が出せない以上こうなるし、技術に関しては神器が関わる。ツッコまれると困る部分も多いが、ある程度の納得はされたようでほっとした。


「それで、この素材なんだが……」

「あぁ、買える分は買わせてもらう」


 そういうよ、ゼゼルヨは更にしっかりと鑑定を始めた。


「まず肉と果物、木の実。毛皮の一部はギルドで買わせてもらう。毛皮はオーガとキラーグリズリー種だな」

「他は買わないのか?」


 ホーンラビットの肉が100個、木の実は1キロ、林檎に似た果物は10キロ程持ち込んだ。他にもホーンラビットの毛皮が同じく100、狼系は20、キラーグリズリーは30、オーガも20は持ち込んでいる。


 問うと、ゼゼルヨは悪い顔をしてこちらを見た。


「他は商業ギルドに売りつけるほうがいい。薬の材料もだ。狼系は貴族や金を持ってる商人に需要が高いし、素材は今時期が一番売れる。冬に向けての素材確保が忙しいんだ」

「なるほど」


 売り抜く時期というのも大事らしい。そういえば生前も、冬の物を冬に用意したんじゃ遅いと言っていたな。


「ホーンラビットの肉が全部で20キログラム、150G。木の実が1キログラムで10G。リゴの実が10キログラムで80G。グリズリーの毛皮が30枚で6,000G。オーガの革は半分の10枚で3,000Gで……手間賃入れて、全部で12,100Gでどうだ?」


 どうだと言われてもいまいちこの世界の価格設定が分からない。だが先程下で飲んだ時、ジョッキ一杯が銀貨一枚と銅貨5枚で、1.5Gと表示してあった。これを日本の缶ビール程度で換算すると、おそらく1Gが100円くらいか?

 そう考えると……約120万円だと!


「いや、貰いすぎじゃないのか!」

「ちゃんと基準に則ってるから安心しろ。何せ物価が高いんだ。それに、これらがここらの奴等の生活や冒険者の助けになる。多けりゃ上乗せして近い町に持って行けばまだ高値で売れるしな。食料品は何時でも歓迎だぞ」


 そんな詐欺みたいな……。嬉しいが、微妙な気分になる虎之助だった。


「商業ギルドへの売りつけは自分で行くか?」


 問われ、考える。商人相手となれば交渉は難航しそうだし、こちらが物の価値を理解していないと知れれば足元を見られる可能性もある。毛皮に薬草、それにクズだが魔石もある。買い叩かれるのは癪だ。

 そんな虎之助の考えが分かったんだろう。ゼゼルヨがニヤリと商売人の顔で笑う。


「なんなら、こっちのギルドで預かって代理交渉しようか?」

「そんな事もできるのか?」

「あぁ。冒険者ってのは口の下手な奴も多くてな。商人相手じゃ言い負かされて二束三文で買い叩かれる事もある。そうならないよう、こっちで交渉する事もできる。サービス料は売値の5%だ」

「頼む」


 ギルドも商売だ、手数料が必要だろう。ということで、これらの素材の詳細を描き起こしたうえで素材を手渡し、割り符を貰った。


「で、こっちのBクラスの魔石とグリズリーの睾丸は王都のオークションに掛ける方がいいな。これも代行できるが、手数料と手続きなんかが手間で10%もらう」

「それでいい。俺には今の所不要だからな」


 特に睾丸はいらない。マジで用事ない。


 商業ギルドとの交渉結果や、購入金の準備に数日かかるということで、二日程欲しいと言われ、了承する事にした。宿はこのギルドの三階が宿泊施設になっているので、そこに取るそうだ。


「あと、一つ。そのぬいぐるみは可能な限り動かすな。厄介なのに目をつけられる」

「厄介なの?」


 クリームを指差したゼゼルヨに問うと、彼は深刻そうに頷いた。


「今は王弟派が強く出始めている。奴等は貴族という特権を悪用して無理難題を言うし、従わなければ力尽くだ。お前さんのステータスでは貴族の私兵など一人でボコボコだろうが、そういうのに目をつけられると動きづらくなるしな」

「綺麗だって噂の奴を無理矢理引っ張っていくとか、貴重な素材を横取りとか、とにかく好き放題にしているんだぜ。俺もそれが嫌で王都からこっちに拠点移したんだ」


 嫌そうな顔のアロイスがそう吐き捨てる。これは相当に面倒な相手らしい。


「……冒険者登録は、登録地でしか活動できないのか?」

「いや? ギルドは国を跨ぐ組織だからな。獣人国だろうと魔人国だろうと活動できるぜ?」

「……最悪、そっちに移っても」

「おいおい! そいつはちょっと考え直してくれ。お前さんのような強い冒険者が欲しいんだ。あの森から素材をぶん取ってこられるような奴を失えば国の損失だ」


 慌てたゼゼルヨを見ると少し可哀想にもなる。それほど流通事情は切迫しているようだ。

 虎之助としてもそんなに急いで逃げる必要はない。何よりあの森の外周を越えて拠点に来られる奴は何人いるかだ。貴族の私兵くらいはどうにかなるか、辿り着いても大人数は無理じゃないかと思う。


 まぁ、それでも危険はなるべく犯さないのがいいだろ。有り難くこれを受け入れる事にした。


「ってなことで!」


 話はついたというタイミングで、アロイスがニッと笑い虎之助の肩を抱く。これにギョッとしたが、次に彼が発した言葉は更に予想外だった。


「今日は飲むぞ!」

「はぁ!」

「歓迎会だ!」


 大いに盛り上がるアロイスは実に楽しそうで、それ以上の意図もなさそうである。それに、何だかこの雰囲気は嫌いじゃない。生前も、祝いがあると舎弟達とこんな風に馬鹿騒ぎしていたんだ。

 懐かしいなと、人恋しかったのかもしれないという感覚が走って、虎之助もこれに同意する。たまにはこんな賑やかなのも、悪くないよな。


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