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絶望の森のもふもふ製造工房  作者: 凪瀬夜霧
一章 虎之助、転生する
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16話 vsオーガ

 クリームの言っていた事が翌日分かった。酷い筋肉痛でベッドから起き上がるのもぎこちない状態になった虎之助を、カフィやクリームが世話してくれた。

 どうやら身体強化はやり過ぎると肉体に負担をかけてしまうそうだ。今回は筋肉痛程度で済んだが、更に進めば筋肉や筋の損傷、骨折、最悪死ぬ事もある。

 普通の亜人族はそこまで自身の魔力を回す事が出来ないとも聞いた。その前に体が悲鳴を上げると。虎之助の体が異様に頑健なのだと分かった。

 おそらくスキルだろう。鉄壁のスキルが4あると言えば、二人の目が『無』になった。


 そんな事でこの世界で初めて何もしない一日を過ごし、クリームによる全身マッサージも受けた。中身はフェンリルだが体はぬいぐるみ。もふもふの心地いい毛に覆われた手が揉んでくれるという天国を味わう事ができた。


 更に翌日から、虎之助の鍛錬が始まった。瞑想から始まり己の魔力の認識率を更に上げ、筋トレをしながら体に負担のない程度の身体強化を反復練習する。

 片腕立てを左右、腹筋は50×2で行い、スクワットもする。そして最後には庭から高く跳躍し、周囲の森の様子を俯瞰で確かめる。特に大事なのは水場だ。あそこまで行けば目的の物が見つかるかもしれない。


 こんな事を七日程度続け、少しの呼吸法で身体強化が継続出来るまで体に擦り込んだ。そして今日、ついに二度目の柵越えを敢行する事となった。


『剣はこちらを』


 胸当てとグローブを付けた所でカフィが出してきたのは、以前とは違う剣だった。

 立派な鞘は白銀に所々金を使った装飾も綺麗な物。柄の部分はT字で、大きさは少し長めの両刃の剣だ。

 だが、引き抜いてその異様さを感じる。

 刀身は薄青く光を帯び、その中心部分は青みが深くなっている。そして刀身に金色の文字が刻み込まれているのだ。


『リーベ様が残した剣の中でも良い物です。貴方様の強い魔力を受けても、これならばびくともしないでしょう』

「いいのか? 大事な物だろう?」


 カフィの前の主、リーベに関わる物はカフィにとっては遺品のような物。その中でもいい物といえば大事だろうに。

 だが、問われたカフィは苦笑してそれを虎之助に押しつけた。


『もう、主を失うなどこりごりです。物はいつか壊れる。でも、人が壊れる時は死ぬ時です。そのようなもの、見たくはありませんので』


 そう言った彼はどこか、泣き笑いのように見えた。


「ありがとうな。あんま、心配するな」


 受け取った虎之助は剣を腰に。そしてクリームと二人連れだって柵の外に出た。


 相変わらず肌に纏わり付くような陰気な空気を全身に感じる。だが、以前ほどの恐れはない。先を行くクリームに続き歩いていると、ガサッと音がすると同時に何かが突進してくる。それを、虎之助は冷静に見て剣を引き抜いた。


「グガ……」


 剣は見事魔物の首を一刀で飛ばし、勢いが消えなかった胴体は虎之助の脇をすり抜けてドサリと落ちた。


「フォレストウルフの上位種だな。角が三本ある」


 襲ってきたのは二メートルくらいの、緑色の毛をした狼だった。額には三本の角がある。


「それにしても、よく切れるな」


 虎之助は抜いた剣を見つめて繁々と口にする。つい先程巨大狼の頭を飛ばした剣は一切の引っかかりもなく、まるでバターを切るかのように魔物を両断した。そして今、刀身には血痕一つない。


 ポンッという音がして、毛皮、魔石、角、牙、爪がドロップされた。今回は肉はなかったが、それよりもいい素材が手に入ったようだ。


 他にもお馴染みホーンラビットも出てくる。これらを倒してマジックバッグへと収納するが、これが格別使いやすい。重さも変わらないしがさばらない。収納した物は種類別に整頓されているようだ。


「カフィの話では魔石が上物だったから、部屋二つ分は入ると言ってたな」

「うむ。奴は本当に素晴らしい妖精だ。おそらくもう少しすれば精霊に進化するのではないだろうか」

「進化もあるのか」


 クリームもどこか誇らしげに腕を組んでいる。フェンリルは群で動く魔物だからか、彼は虎之助を含むあの家の住人全員を一つの群として認識しているようだ。


「魔石や核に経験と魔力を蓄積すると、魔物は進化をする。この三つ角のウルフももっと経験を積み魔石が大きくなれば進化しただろう」

「そういうものなのか」


 この世界の魔物の仕組みは、ほぼ心臓部である魔石によるようだ。そこに魔力を蓄積していくことで強くなっていく。


「この森は魔素に溢れている。だからこそ下位の魔物も生き残りさえすれば上位種へと進化を繰り返し、時に異常進化も発生するのだろう。多種多様な強い魔物がいるのは、環境の影響が大きい」

「壮大な話だな」


 だが、確かに言われる事も分かる。魔力を感知できるようになってから、空気中に微量の魔力がある事に気づいた。聞けばこれは魔素と呼ばれ、魔力の元になるもの。空気、水、土、食べ物、全てに含まれているという。

 カフィやクリームはこれを取り込む事で人間で言う食事をしていると教えてくれた。どうりで食べなくても可動できるわけだ。


 素材を回収しつつ屋敷の裏手へ。そこで、これまでとは違う大きな気配を五つ感じた。


「主、大きいのがいる」

「あぁ」


 気配を消し、息を殺してそちらへと向かうと遠目からも分かる巨体が五つあった。

 赤黒い、明らかに硬そうな皮膚にボサボサの赤いたてがみのような髪。大きく発達した牙と二本の角は正に鬼を思わせる容姿だ。


「オーガ。一体でBクラスの魔物だ。五体同時となれば冒険者ギルドでは、確かAランクの仕事だな」


 小さな声でクリームが教えてくれる。

 オーガはそれ一体でも破壊力があり、脅威となる。だが彼らの強さは個体の膂力や頑丈さだけではない。五~十体の群を作る事だ。

 三メートルクラスの巨体が十体も迫ってくれば、壁が武器を持って襲いかかってくるのと視覚的には変わらないだろう。恐怖で足が竦んでも責められない。

 目の前の五体は棍棒のような無骨な武器を持っている。その武器だって一メートルくらいはありそうだ。


「どうする? 俺が三体程」

「いや、五体全部俺が相手をする。クリームは魔法で動きを鈍らせてくれ」


 そう言って、虎之助は正面からオーガの群へと向かっていった。

 身体強化のお陰か、相手と自分の力量を量れるようになってきた。そして今目の前にいる五体、纏めても勝てる確信がある。


 無謀にも正面切って挑んでいく虎之助にオーガも気づき威嚇と同時に戦闘態勢を整える。そして、一番近くにいた一体が棍棒を構え、その巨体からは想像できない速さで虎之助へと向かった。


「……遅いな」


 速度にして60キロの自動車くらいの速さだろうか。だが、今の虎之助にはこれすら脅威ではない。

 フッフッと短く数回息を弾ませると、それだけで全身が熱くなる。身体強化が軽く掛かっている状態だ。

 そしてそのまま、虎之助はオーガよりも速く脇を通り抜け剣を一閃させた。

 瞬きの間だろうか。棍棒を上段で構えたまま動かなくなったオーガの上半身がズレて崩れる。それを、余裕で控えていた四体が見て一気に緊張を高めた。


 その後は、乱戦だった。


「ガァァァ!」


 威嚇の咆哮を上げるオーガがバットのように棍棒を構えて突進し、それを虎之助へと振りかぶる。だがその前に虎之助は跳躍し、首を狙って剣を振るう。

 この僅かな間を狙ったのか、二体のオーガが左右から棍棒を振り下ろしたが虎之助は既に事切れたオーガの棍棒を強く蹴って更に上へ。オーガの身長など越える高さまで上がった所で、再びフッフッと数回息をしてもう少しだけ魔力を回す。そして、高い所から一気に剣を振り下ろした。

 丸太どころか大木を思わせる棍棒が二本、呆気なく切れる。その事実に驚愕するオーガ二体の腕を切り、更に足も切り落としておく。即死はできないオーガはズドドッと地を抉りながら倒れた。

 明らかに旗色が悪い。そう思ったのか、最後の一体が逃げようと背を向けた。だが虎之助は足に魔力を集中させ、弾丸のように飛び出し項から剣を突き入れた。


「ゴガ……」


 呆気なく巨体が地に倒れ、土埃が盛大に上がる。それを見下ろしたまま、虎之助は想像を超える戦闘力に驚きと共に恐ろしさも感じた。

 生前も、別に他人を傷つけてはならないとは思っていなかった。何せ相手が武器を持って襲ってくるのだ、応じなければ一方的に殴り殺される。そんな世界にいたんだ。

 でも、それでも好んでやりたい事ではない。暴力は恐ろしい事でもあると知っている。大事なものを守ると同時に、何かを破壊する力なのだから。

 それが、こんなレベルで……魔物相手だからまだやれるが、これが人なら……振るいたくはないな。

 そんな事を思って、苦笑した。


「主!」


 剣を収めて後ろを見れば、戦闘の痕跡など地面の抉れや倒れた木々くらいしか無くなっていた。全てがドロップ品になったようだ。

 そこをクリームが駆けてきて、ポンと飛び込むように飛びついた。


「凄いぞ! 凄く強かった! 流石は神が使わした者だ!」

「大げさだって」


 抱き止めた腕の中、クリームは柔らかくて温かくてもふもふで、もの凄く癒しになる。


 やっぱり、こっちがいいな。


 そう、改めて思う虎之助だった。


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