第9話 カミオ工房のフィン
エルメンヒルトは、エアハルトたちを見張っていると2人の跡をつける男たちに気づく。エルメンヒルトは男たちの後ろをとり、声をかける。
「アロイス、何をやっているの。」「黒水晶か。驚かすなよ。」
アロイスたちバッシュパーティーがエアハルトの跡をつけていた。アロイスはエルメンヒルトに説明する。
「エアハルトがアメリー嬢にデートに誘われたから心配で見守っているんだよ。」「エアハルト、私がいるでしょ。なんで受付嬢なんかとデートするのよ。」
エルメンヒルトの言葉にイオンはショックを受ける。アロイスたちはエアハルトが女性にもてることに感心する。
エアハルトとアメリーは中古の防具や武器を扱う店に入って行く。エアハルトは革でできた防具を店主に見せる。店主は言う。
「使い込んでいるね。銅貨5枚が精一杯だなー」「そうですか。」
エアハルトは愛着のある防具が予想より安いので落ち込む。アメリーが店主に言う。
「使い込まれているけど、使い手の腕がいいから傷は少ないし、大きな傷もないわよ。程度はいいのではないの。」「そ、そうだね。銅貨8枚でどうかな。」
「銀貨1枚と銅貨5枚。」「それでは儲けが無くなってしまう。銅貨9枚だ。」
「銀貨1枚と銅貨2枚。」「銀貨1枚。だめだったら、よそへ行ってくれ。」「分かったわ。」
エアハルトは革の防具を銀貨1枚で売る。店の外ではバッシュパーティーの魔法使いエゴンがエアハルトや店主の会話を口の動きを読んで会話の内容をみんなに伝えていた。
「アメリー嬢、やるな。」「銅貨5枚はないよな。足元を見たな。」
アロイスたちが感想を言い合う。エルメンヒルトがアロイスたちに文句を言う。
「私が知りたいことはそんなことじゃないわよ。2人の会話が知りたいのよ。」「黒水晶、妬いているのか。幼馴染だからといって油断していたな。」
エルメンヒルトをからかったデニスが殴られてこぶをつくる。イオンはどうでもよかったがエルメンヒルトがかんばっているので帰らずにいる。
エアハルトとアメリーは並んで街を歩いていく。アメリーは3階建ての大きな武器屋にエアハルトを案内する。外から見えるように立派な武器や防具が飾ってある。
エアハルトは引き付けられるように近づいて行って、値段を見て腰を抜かす。
「アメリーさん、こんな高価な物は買えませんよ。」「これは高級品だから高いのよ。いつか、買えるようになるといいわね。」
「買えるようになれるように頑張るよ。」「その意気よ。入りましょ。」
「高いのではないですか。」「いろんな値段のものがあるわよ。ここはいろんな職人が商品を置いているから掘り出し物があるかもしれないわよ。」
「掘り出し物ですか。」「ええ、まだ有名になっていない職人もいるから物が良くても安いのよ。」
「それなら買えそうです。」「じゃあ、探しましょ。」
1階の防具を見るが高くて手が出ない。2階に上がると商品の値段が安くなる。エアハルトは軽くて金属製の防具を見つける。エアハルトはスピードを生かして戦うタイプなので軽量の防具が必要としている。
この防具、いいけど値段が予算いっぱいだな。どうしよう、う~ん。
「この防具いいと思うわよ。作った職人も最近有名になってきた人よ。」「誰が作ったかわかるの。」
「ここに刻印とイニシャルが入っているでしょ。これで所属している工房と作成者が判るのよ。」「そうなんだ。修理してもらう時に便利だね。」
「そんな、防具の修理が必要になるような戦いをしないでよ。」「はい。」
「3階も見てみる。2階より安いわよ。」「見ていいですか、これ予算ぎりぎりなのでほかの物も見たいです。」
エアハルトとアメリーは3階に上がって行く。エルメンヒルトが独り言を言う。
「私に頼めば防具位買ってあげるのに・・・」「黒水晶、それは違うぞ。装備は自分の稼いだ金で買わないといけない。そうでないと身の丈に合った装備を揃えなくなる。」
「いいでしょ、私がエアハルトにプレゼントするのよ。アロイスは口を出さないで。」「怒るなよ。お前が暴れたら冗談で済まないんだから。」
エルメンヒルトの勢いにアロイスは冷や汗をかく。
エアハルトは3階で防具を見るが2階にある物より明らかに出来が悪い。
「安いのにはそれなりの理由があるか。」
少し落胆して防具を見ていく。防具を見ていくうちに店の隅に置いてある防具に目が行く。軽くて金属製の防具だが2階で見た物より丁寧に作られているように思える。
この刻印は水牛かな?イニシャルはFと刻まれている。エアハルトはこの防具を気に入る。
「これどうかな。サイズは合っているし、丁寧に作られているよ。」「よくできているわね。どこの工房かしら。」
「水牛みたいな刻印があるよ。」「それカミオ工房の職人が作ったんだわ。なぜ、この店に置いてあるのかしら。」
「何か問題あるの。」「カミオ工房は殺人クランと取引をしていたことが判って、冒険者が使わなくなったのよ。」
「なぜ、その工房の防具が置いてあるのかな。」「カウンターに聞いてみましょう。」
エアハルトとアメリーは防具をもってカウンターに行く。
「いらっしゃい。」「この防具なんですけど。」
「お客さん、いい目しているね。」「刻印がカミオ工房なんですけど、どうしてここにあるのですか。」
「カミオ工房は解散して消えてしまったんだよ。これはカミオ工房にいたフィンという職人が作った物ですよ。」「消えた工房の刻印を使っているのですか。」
「ああ、フィンには工房に恩があるらしく今でも刻印を使っています。冒険者は刻印を見たら買わないのにねえ。」「この防具ください。」
「買ってくれるのかい。フィンも喜ぶよ。」「僕、フィンさんに会いたいです。」「住所を教えるよ。」
エアハルトが店員と話し込んでいると20歳代前半のドワーフの青年が来る。店員は青年を見ると声をかける。
「フィン、今、防具が売れたぞ。」「本当か、刻印のことは知っているのか。」
「この少年だよ。カミオ工房のことを知っていて買ってくれたんだ。」
ドワーフの青年はエアハルトを見て言う。
「俺はフィン・ヘルトだ。俺の防具を気に入ってくれたのか。」「エアハルト・アンカーです。丁寧な仕事をしているので気に入りました。」
「エアハルトと言えば噂のポンコツか。」「ポンコツ冒険者ですけど最高の冒険者になります。」
「そうか、防具の調製をやらせてくれ。」「サイズは合っていますよ。」
「エアハルト専用の防具にするよ。」「ありがとう。」
フィンはその場で防具の調製を始める。
「エアハルト、今後も俺の武具を使ってくれないか。」「いいけど。どうしてだい。」
「最高の冒険者になるんだろ。だったら俺の名前も売れるからな。」
アメリーがフィンに言う。
「エアハルト君は初心者だから高い代金は払えないわよ。」「分かっているよ。でも、俺の出来のいい武具を使ってもらうよ。」
「エアハルト君に宣伝してもらうつもりね。」「それもあるけど、俺の防具を選んでくれたエアハルトにかけたくなったのさ。」
フィンは腕を磨いてきたが、カミオ工房の刻印のため作った武具は冒険者に見向きもされていなかった。だが、エアハルトは防具の出来を見て選んでくれた。
うれしかったし、エアハルトを信じたくなった。フィンに映るエアハルトはポンコツなどではなかった。