第2話 ベアトリスの家出
エアハルトはなかなか寝付けない。エルが彼女になってくれたのはうれしい。でもベアトリスとアルマをふったことになる。
僕はベアトリスとアルマのことも好きだ。できればこのまま仲良くしていたい。そんなことは許されないだろう。
アルマはもう僕のポーターをしてくれないだろう。ベアトリスと楽しく会話することもないだろう。
それでも望んでいる。これは僕のエゴだろうか・・・
早朝、エアハルトは日課の稽古をするために裏庭に出る。結局一睡もできなかった。エルメンヒルトも稽古に出てくる。
「おはよう、エアハルト。昨夜はうれしくて寝られなかったわ。」「僕も一睡もできなかったよ。」
「エアハルトは、ベアトリスとアルマを泣かせたからでしょ。」「そうだよ。僕はひどい奴だ。」
「でも、いつかは誰かを泣かせていたのよ。」「エルももしかしたら泣くのかな。」
「もちろんよ。1人しか選べないのよ。」「僕の心は最初から決まっていたから。」
「だったら、どうして優しくして仲良くしたの。」「僕は優しくないよ。」「自覚がないのね。」
僕が悪かったのかな。僕がアルマを助けたからか。ベアトリスに街を案内してもらったから。理解できないよー
エアハルトは木剣を振るが身が入らない。最後にはエルメンヒルトが怒り出す。
「今日はもう、稽古はやめましょ。全く集中できていないわよ。」「ごめん。」
2人は着替えて食堂へ行く。給仕はアンがしていた。エアハルトは恐る恐る聞く。
「ベアトリスさんはどうしたのですか。」「あの子は出て行ったよ。」
「えっ、探さないと。」「どこを探すんだい。」
「でも娘さんが・・・」「あの子は本当は娘ではないのさ。」
「どういうことですか。」「私たちがゴルドベルクに出て来て店を開いた時に娘代わりに住まわせてくれと言ってきたんだ。」
「引き受けたのですか。」「なぜか知らないけど、あの子の言うとおりにしていたのさ。」
「操られていたのですか。」「分からない。けど、あの子は美人だから看板娘としてよく働いてくれたよ。店も繁盛したからね。」
「探さないのですか。」「素性の知れない子だよ。探しても、あの子が出てくる気にならないと見つからないと感じるんだ。」
エアハルトはどうしたらいいのかわからない。エルメンヒルトも黙ったままだ。2人は黙って食事をする。本当なら彼女との楽しいひと時だが、明るい気分にはなれない。
朝食が終わって、しばらくするとアルマが食堂に入った来る。
「エアハルトおはよ。俺は諦めていないからな。」「アルマ、君とは友人でいたいと思っているよ。」
「お前、男と女で友達でいると思っているのか。俺は嫌だからな。」「僕の気持ちは変わらないよ。」
「ベアトリスだって、まだあきらめていないはずだ。」「ベアトリスさんは出て行ったよ。」
「なに、家出か。ヨルとアンは探しに行っているのか。」「いいや、探していないよ。」
「心配じゃないのか。自分の娘だぞ。」「それが親子ではなかったんだ。」
アルマが驚きの顔をする。そして、食堂の奥にいるヨルとアンに探しに行くように言うがアンに事情を聞かされて戻って来る。アルマはエアハルトとエルメンヒルトに言う。
「ベアトリスを探しに行こう。」「探してどうするんだ。僕はかける言葉が見つからないよ。」「ベアトリスはしっかりしているから大丈夫よ。」
「冷たくないか。一緒に住んでいたんだろ。声なんかかけなくていいよ。戻ってくれるように頼むんだ。」「そうね。探しましょ。」「僕はいいよ。」
「エアハルトの薄情者。エルメンヒルト、探しに行くぞ。」「ええ、エアハルトは待っていて。」
エアハルトはベアトリスに会った時、なんてい言えばいいのかわからない。アルマに言ったように友人でいてくれと頼むのか。都合よすぎないか。どんな顔をすればいい。
エルメンヒルトとアルマは街中を探すが見つからない。よく考えると2人はベアトリスのことを何も知らなかった。金髪で金色の瞳を持つ人形のような美人、いるのなら目立つはずだ。
もう、ゴルドベルクから出てしまったのか。
夕方になりエルメンヒルトとアルマは食堂に戻って来る。食堂にはエアハルト以外にバッシュパーティーが来ていた。アロイスが2人に言う。
「ベアトリスは見つかったか。」「いいえ、見つからないわ。」
「さらわれていないだろうな。」「怖いこと言わないで。」「済まない。」
アロイスたちは、静かにしている。他の客には異様に見える。ある冒険者がアロイスに言う。
「どうした、昨日はあれだけ大騒ぎしていただろ。」「ベアトリスがいなくなったんだ。」
「それは大変だ。俺たちの天使がいなくなるなんてどうするんだ。」「なにーベアトリスちゃんいないのかー」
ベアトリスがアングラートの食卓からいなくなったことは街中のうわさになる。しかし、ベアトリスを見たと言うものは出てこない。




